【登場人物】

大沢画廊 A
加田知子 B
亀居拓哉 加田の友人 C 


【物語】

昔は、家族と暮らしていた亀居も、今では一人ぐらし。
そんな亀居を元気づけるために、加田は、絵をプレゼント
しようと、大沢画廊を訪れた。

加田:友人に送る絵なのですが、どのようなものが
    よろしいかしら。

大沢画廊:では、こちらの『Life』シリーズから
     選ばれてはいかがでしょうか。
     只今、売出中の若手作家で、あと2、3年も
     すれば、値も上がってくるはずですよ。

加田:あら、どれも素敵ねぇ。
   迷っちゃうわ。。。

大沢:では、お決まりになりましたら、こちらの用紙で
   ご注文される絵にマルをつけて、ご署名ください。
   あとはこちらで配達いたしますので。

――――――――――――――――――――
3日後。
亀居が絵を飾ったというので、早速、加田が亀居の家を
訪ねると―。

加田:おかしいわ。
   私は、『LIFE IS No.1』を注文したのに
   この絵には『OREGA No.1』って書いてある。。。

亀居:注文票とか、確かめてみたら。

加田:あらやだ。私ったら、『LIFE IS No.1』にマルをつけた
   つもりで、『OREGA No.1』にマルをつけてたのね!
   この注文票、ものすごく見難いんだもの。
   参っちゃうわ
   
亀居:それって、契約の重要な部分に勘違い(要素の錯誤)
   があるわけだから、この売買は無効(95条)だって
   言えばいいさ。

加田:そうね、画商に連絡してみるわ。

(…ル、ルルルルルルル…)

(…ル、ルルルルルルル…)

(…ル、ルルルルルルル…)

加田:もう、全然、電話に出ないわ。
   亀居さんからも、売買が錯誤で無効だと主張して
   もらえないかしら。
   無効なんだから、誰でも主張できるはずよ。

【問題】
 BがAから絵画を購入するに際して、Bに要素の錯誤が認められる場合、無効は誰からでも主張することができるから、Bから当該絵画を譲り受けたCも当然に、AB間の売買契約につき錯誤無効を主張することができる。(H23−27)
【正解】「×」

【解説】

加田:「無効」というのは、何の効力も生じないことだから
   誰でもいつでも主張できると聞いていたのですが。。。

さくら:そのとおりですが、錯誤無効(95条)については、
    錯誤によって意思表示をした者(表意者)だけが
    主張することができます。
    錯誤無効は、勘違いした表意者を保護するもの
    だからです。
    判例も、同様の理由で、相手方や第三者から
    錯誤無効を主張することは、原則としてできないと
    しています(最判S40.9.10)。

加田:勘違いして契約したのは、私なので、私が
   錯誤無効(95条)を主張するのが原則だという
   わけですね。

さくら:はい。
    ただし、例外があって、
    ‖荵絢圓債権保全の必要があり、
    表意者も錯誤を認めている場合には、
    第三者が錯誤無効を主張することができます
    (最判S45.3.26)。

加田:第三者に債権保全の必要がある場合ってよく
   わからないわ。

さくら:たとえば、売買契約からみて第三者である
    亀居さんが、加田さんに対して貸金債権を
    もっているとして、その弁済を確保する必要が
    ある場合ということです。
    具体的には、加田さんの資力が十分ではない場合
    ということです。
    そして、加田さんが売買契約について錯誤が
    あったと認めていれば、亀居さんが錯誤無効を
    主張することができます。
    そうすることで、加田さんが画廊に支払った
    お金を取り戻せますし、亀居さんからすれば、
    そのお金を、貸金の弁済に当てさせることが
    できます。

加田:場合によっては、第三者も錯誤無効を主張できる
   わけね。

さくら:そのとおりです。
    今回の問題文をみると、『Cも当然に、AB間の
    売買契約につき錯誤無効を主張することができる』
    とあるので、間違いということになります。

加田:私、亀居さんに借りがあるといえばあるのですが…。

亀居:あのさ、俺はもういいわ。
   さっき画廊に行ったら、看板が『moriギャラリー』
   になってたし。わけわからんわ 

【条文】
(錯誤)
第95条 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。