【登場人物】
谷沢栄吉:ロックシンガー
冬芝大助:ホリデー興業社長

【物語】
谷沢のコンサートは今日も大盛況のうちに終了。
興業主の冬芝は、満面の笑みで谷沢を迎えた。

冬芝:谷沢様。今日は最高に痺れましたわー。
   この調子で来月もお願いしますね。

谷沢:へっ!?
   冬芝さん、来月は、俺、ツアーの予定だけど。

冬芝:何をおっしゃっているんですか。
   すでにマネージャーの方と正式にご契約させて
   いただいておりますが。

谷沢:マネージャーって、ウチの芹沢?

冬芝:いえ、銭星様という方です。
   代理人ということで谷沢様のタオルを
   100枚ほど配られて。
   それに委任状もお持ちでしたから。
   ほら。これですよ。

――――――――――――――――――――――
      委任状
谷沢栄吉は、銭星鷺男を代理人と定め、次の事項を
委任する。
1.
2.

             平成23年7月19日
             谷沢栄吉(印)
――――――――――――――――――――――

谷沢:銭星鷺男なんて、知らねえ男だな。
   第一、この委任状よくみろよ。委任事項が白紙
   じゃねぇか。
   俺もこれまで散々な目にあったからさ。
   この谷沢、他人が勝手に書き込める白紙委任状
   なんて、作らないんだよね。
   早い話、偽造だよ。

冬芝:私は、てっきり谷沢様の代理人だと信頼して、
   銭星という人に前金もお渡ししてあるんですよ
   それなのに谷沢様にコンサートをやっていただけ
   ないのでしょうか。。。


【問題】
 代理権限の与えられていないAが、本人の代理人である旨を記載した白紙委任状を偽造して提示し、代理人と称したので、Bがそれを信頼して契約をした場合、大審院ないし最高裁判所の見解に立つと、本人に契約上の効果が帰属することになる。(H15−27)
【正解】×

谷沢:ほらね。
   勝手に俺の代理人だと名乗ったヤツの契約は、
   谷沢の契約にはならないんだよね。

さくら:他人のした契約が本人に帰属するには、
    代理権があること、本人のために示すこと
    (顕名)が必要ですからね。
    銭星さんは、代理権がない無権代理人ですから
    代理人として契約しても、基本的には本人である
    谷沢さんにその効果は帰属しません。

冬芝:じゃあ、無権代理人を代理人だと信じた私は、
   救われないのですか?

さくら:無権代理人による契約であっても、
    表見代理が成立する場合は、その契約の効果が
    本人に帰属するのですが。。。

冬芝:表見代理とは?

さくら:無権代理なのですが、代理人であるかのような
    外観について、本人が一定の原因を作っていた
    場合には、代理人だと過失なく信じた者
    保護するために、本人に対して効果を帰属
    させるという制度です。

冬芝:委任状に印鑑も押してあったので、代理人だと
   信じてしまったのです。

さくら:本人が他人に代理権を与えた旨を表示して、
   相手方が代理権ないことを過失なく知らなかった
   という場合であれば、表見代理が成立します(109条)。
   そして、一般に、本人が白紙委任状を交付していた
   場合は、代理権を与えた旨の表示といえます。
   でも、銭星氏が勝手に白紙委任状を偽造して提示
   しても、本人である谷沢さんが代理権授与を表示
   したことにはなりません。
   したがって、今回は、表見代理は成立せず、
   谷沢さんには契約上の効果は帰属しません。

冬芝:あぁぁぁ…

谷沢:冬芝さんよ。ツアーの中継はどうだい。
   ただころんでるだけじゃ、成りあがれねぇぜ

(代理行為の要件及び効果)
第99条 代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。
2 前項の規定は、第三者が代理人に対してした意思表示について準用する。

(代理権授与の表示による表見代理)
第109条 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったとき