進哉が逸樹の家を出て、1年が経った。
バイトを辞めるまでの暫らくの間は、たまに、逸樹の家に来て、泊まっていった。
そして、進哉は、年始ギリギリまでバイトに入って、予告通り、バイトを止め、就職した。
いざ、就職してしまうと、やはり、中々会う機会も少なくなってくる。
逸樹は、進哉に会う前の独り暮らしに戻っただけなのだが、やはり、進哉と共に生活した日々は深く根付いていて、ただ、以前と同じ状態に戻っただけ、と言う風に考えることは出来なかった。
進哉が言ったこと。
このままだと、進哉がずるずると、逸樹に甘えてしまう、と。
それは、逸樹にも当てはまることだった。
逸樹も、進哉の存在に甘え、寄り掛かっていた部分があると。
その生活に、ぽっかりと空白が出来てしまった。
もちろんだからと言って、仕事に個人的な事情を持ち込むことは出来ない。
『カフェ・リンドバーグ』は存在し続けて、逸樹も、その仕事を放り出すことは出来ない。
そして、進哉と出会えた、この店を潰すような真似も。
進哉は、逸樹に恋人として、1人の大人の男として、認めてもらえるようになりたいと言った。
傷つくことを恐れ、誰かと、対等に向き合うことをせず、距離を置いてきた逸樹。
逸樹こそ、進哉のことをきちんと見直し、失うようなことはしたくなかった。
それでも、たまに、不安はある。
今は、進哉の若くて一途な想いが逸樹に向けられているかもしれないけれど、その対象が、他の誰かに移ってしまうのではないかと言う不安が。
進哉の想いを疑っているわけではない。
ただ、逸樹は進哉を失ったら、もう二度と、誰も、愛せないような気がしていた。
それでなくても、半分、愛し愛されることを諦めかけていたのに。
だから、逸樹は武装して、仮面をつけて生きてきた。
誰にも気付かれないように、深く踏み込まれないように。
けれど、進哉に会って、その純真さに強さに惹かれた。
氷の鎧で多い被せてきた逸樹のココロを、決して、情熱的、というわけではないけれど、次第にその氷が融かされていくのがわかった。
進哉を認めていないわけではない。
けれども、長年覆ってきた逸樹のココロはどうしても、不安に怯えていた。
だから、進哉に壁の存在を気付かせてしまった。
そのココロを隔てる距離を感じ取って、物理的に、離れるカタチをとった。
進哉は、週末にきちんと時間をとって、逸樹の家へ来てくれる。
そのまま、夜を一緒に過ごして、朝を迎える。
「やっぱり、逸樹の入れるコーヒーが一番美味しい。」
進哉はそう言ってくれる。
週末を待ちわびながら、逸樹は、自分自身のことを考える。
たまに、仕事が忙しくて、土日に休みがとれず、どうしても会えない、と申し訳なさそうに連絡してくる進哉に会えない寂しさを感じながらも、声が聞けただけでも嬉しかった。
進哉は、今の会社に、不器用ながらも、少しずつ慣れていっているようだった。
『カフェ・リンドバーグ』でもそうだったけれど、その学び取ろうとする熱心さは、わかる人間が見ればわかる。
それを、理解してくれる人間が、その会社にいてくれることに少し安堵した。
それと同時に、そんな進哉に、逸樹のように、惹かれる人間がいるのではないかという不安もあったが。
進哉も年齢を重ねていく。
当然のことながら、逸樹も。
そう、そして、今日は、逸樹の誕生日だった。
普通の会社員が、しかも、入ったばかりの進哉が、平日に休みを取れるはずもなかった。
逸樹も逸樹で、誕生日だからなんて理由で店を休むはずもなく、お互い仕事をこなしていた。
それでも、と、仕事を終え、帰宅した逸樹の元へ、バイクでやって来た。
進哉にメットを渡されて、促されて、後部に座る。
そのまま、暫らくバイクを走らせて、森林に囲まれた小高い丘に辿り着いた。
「ここは……?」
「この間、夜、バイクを走らせていて、偶然見つけたんだ。都会なのに、ほら、ここからは、結構、星が見えるでしょ。一度、逸樹と来たくって。俺、大して何も、プレゼント出来ないから……」
「そんな……とても、嬉しいです。」
「逸樹、俺、頑張ってるつもりだから。逸樹とちゃんと並んで歩けるように。」
「僕も、進哉君に愛想をつかされないように、努力しないといけませんね。」
「愛想をつかすなんて、俺、そんな……。」
「すみません。僕が、僕自身に自信が持てなくて。」
「……」
そう言った逸樹に進哉は黙ってしまった。
「そろそろ、帰りましょうか。カラダが冷えてしまいますから。」
「うん……逸樹の家に行ってもいい?」
「ええ、もちろん。」
再び、バイクを走らせて、逸樹の家へと辿り着く。
シャワーを浴びて、夜風で、冷えかけていたカラダを温め合う。
「逸樹……」
名前を呼ばれ、口付けられて、進哉に抱かれる。
逸樹を抱くことに慣れてきた進哉の指で官能が高められていく。
そして、その熱を受け入れて。
「…ぁ……あぁ……ん……進哉……くん……」
久々に会うわけじゃないけれど、あれから、1年経って、より男らしくなったと感じる。
一途で純真だけど、決して、その芯は弱くない。
「は……ぁ……っ!……ああ…っ…!」
「逸樹……逸樹……」
真摯に求められて、嬉しくないわけがない。
そして、自分の名前を呼ばれて。
「ん……イきそ……っ!」
「俺も、も……」
そうして、熱がはじけた。
焼け付くような熱さではない、心地良い暖かさ。
「俺も、逸樹に抱いて欲しい……」
そんなに、素直に言われたら、手に届く欲しいものを欲せずにはいられない。
逸樹の愛撫に感じてくれている様は更に、逸樹の欲情を煽っていく。
そして、進哉の望むように、逸樹は自分のモノを挿入していく。
進哉の欲してくれている、逸樹の熱を与えて。
「あ……んん……逸樹……ぁ……あ……」
北風と太陽、どちらが、旅人の服を脱がせられる?
あの話で、勝ったのは……。
けれど、逸樹のココロの氷を融かし始めたのは、どちらでもない。
そして、普通、融けた氷は、水になり、もっと熱ければ、気化するけれど、この氷は何になっていくのだろう。
まだ二人、もう少し時間がかかりそうだけど、その歩幅は、少しずつ近付いている。
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バイトを辞めるまでの暫らくの間は、たまに、逸樹の家に来て、泊まっていった。
そして、進哉は、年始ギリギリまでバイトに入って、予告通り、バイトを止め、就職した。
いざ、就職してしまうと、やはり、中々会う機会も少なくなってくる。
逸樹は、進哉に会う前の独り暮らしに戻っただけなのだが、やはり、進哉と共に生活した日々は深く根付いていて、ただ、以前と同じ状態に戻っただけ、と言う風に考えることは出来なかった。
進哉が言ったこと。
このままだと、進哉がずるずると、逸樹に甘えてしまう、と。
それは、逸樹にも当てはまることだった。
逸樹も、進哉の存在に甘え、寄り掛かっていた部分があると。
その生活に、ぽっかりと空白が出来てしまった。
もちろんだからと言って、仕事に個人的な事情を持ち込むことは出来ない。
『カフェ・リンドバーグ』は存在し続けて、逸樹も、その仕事を放り出すことは出来ない。
そして、進哉と出会えた、この店を潰すような真似も。
進哉は、逸樹に恋人として、1人の大人の男として、認めてもらえるようになりたいと言った。
傷つくことを恐れ、誰かと、対等に向き合うことをせず、距離を置いてきた逸樹。
逸樹こそ、進哉のことをきちんと見直し、失うようなことはしたくなかった。
それでも、たまに、不安はある。
今は、進哉の若くて一途な想いが逸樹に向けられているかもしれないけれど、その対象が、他の誰かに移ってしまうのではないかと言う不安が。
進哉の想いを疑っているわけではない。
ただ、逸樹は進哉を失ったら、もう二度と、誰も、愛せないような気がしていた。
それでなくても、半分、愛し愛されることを諦めかけていたのに。
だから、逸樹は武装して、仮面をつけて生きてきた。
誰にも気付かれないように、深く踏み込まれないように。
けれど、進哉に会って、その純真さに強さに惹かれた。
氷の鎧で多い被せてきた逸樹のココロを、決して、情熱的、というわけではないけれど、次第にその氷が融かされていくのがわかった。
進哉を認めていないわけではない。
けれども、長年覆ってきた逸樹のココロはどうしても、不安に怯えていた。
だから、進哉に壁の存在を気付かせてしまった。
そのココロを隔てる距離を感じ取って、物理的に、離れるカタチをとった。
進哉は、週末にきちんと時間をとって、逸樹の家へ来てくれる。
そのまま、夜を一緒に過ごして、朝を迎える。
「やっぱり、逸樹の入れるコーヒーが一番美味しい。」
進哉はそう言ってくれる。
週末を待ちわびながら、逸樹は、自分自身のことを考える。
たまに、仕事が忙しくて、土日に休みがとれず、どうしても会えない、と申し訳なさそうに連絡してくる進哉に会えない寂しさを感じながらも、声が聞けただけでも嬉しかった。
進哉は、今の会社に、不器用ながらも、少しずつ慣れていっているようだった。
『カフェ・リンドバーグ』でもそうだったけれど、その学び取ろうとする熱心さは、わかる人間が見ればわかる。
それを、理解してくれる人間が、その会社にいてくれることに少し安堵した。
それと同時に、そんな進哉に、逸樹のように、惹かれる人間がいるのではないかという不安もあったが。
進哉も年齢を重ねていく。
当然のことながら、逸樹も。
そう、そして、今日は、逸樹の誕生日だった。
普通の会社員が、しかも、入ったばかりの進哉が、平日に休みを取れるはずもなかった。
逸樹も逸樹で、誕生日だからなんて理由で店を休むはずもなく、お互い仕事をこなしていた。
それでも、と、仕事を終え、帰宅した逸樹の元へ、バイクでやって来た。
進哉にメットを渡されて、促されて、後部に座る。
そのまま、暫らくバイクを走らせて、森林に囲まれた小高い丘に辿り着いた。
「ここは……?」
「この間、夜、バイクを走らせていて、偶然見つけたんだ。都会なのに、ほら、ここからは、結構、星が見えるでしょ。一度、逸樹と来たくって。俺、大して何も、プレゼント出来ないから……」
「そんな……とても、嬉しいです。」
「逸樹、俺、頑張ってるつもりだから。逸樹とちゃんと並んで歩けるように。」
「僕も、進哉君に愛想をつかされないように、努力しないといけませんね。」
「愛想をつかすなんて、俺、そんな……。」
「すみません。僕が、僕自身に自信が持てなくて。」
「……」
そう言った逸樹に進哉は黙ってしまった。
「そろそろ、帰りましょうか。カラダが冷えてしまいますから。」
「うん……逸樹の家に行ってもいい?」
「ええ、もちろん。」
再び、バイクを走らせて、逸樹の家へと辿り着く。
シャワーを浴びて、夜風で、冷えかけていたカラダを温め合う。
「逸樹……」
名前を呼ばれ、口付けられて、進哉に抱かれる。
逸樹を抱くことに慣れてきた進哉の指で官能が高められていく。
そして、その熱を受け入れて。
「…ぁ……あぁ……ん……進哉……くん……」
久々に会うわけじゃないけれど、あれから、1年経って、より男らしくなったと感じる。
一途で純真だけど、決して、その芯は弱くない。
「は……ぁ……っ!……ああ…っ…!」
「逸樹……逸樹……」
真摯に求められて、嬉しくないわけがない。
そして、自分の名前を呼ばれて。
「ん……イきそ……っ!」
「俺も、も……」
そうして、熱がはじけた。
焼け付くような熱さではない、心地良い暖かさ。
「俺も、逸樹に抱いて欲しい……」
そんなに、素直に言われたら、手に届く欲しいものを欲せずにはいられない。
逸樹の愛撫に感じてくれている様は更に、逸樹の欲情を煽っていく。
そして、進哉の望むように、逸樹は自分のモノを挿入していく。
進哉の欲してくれている、逸樹の熱を与えて。
「あ……んん……逸樹……ぁ……あ……」
北風と太陽、どちらが、旅人の服を脱がせられる?
あの話で、勝ったのは……。
けれど、逸樹のココロの氷を融かし始めたのは、どちらでもない。
そして、普通、融けた氷は、水になり、もっと熱ければ、気化するけれど、この氷は何になっていくのだろう。
まだ二人、もう少し時間がかかりそうだけど、その歩幅は、少しずつ近付いている。