nordiktree
 (終演後のサイン会にて、ティッモ、アルト、ハンス)

*10月29月(金)旧古河庭園・洋館 (東京)

*出演
ノルディック・トゥリー:アルト・ヤルヴェラ(フィドル、ブズーキ)、ティッモ・アラコティッラ(ハーモニウム、ピアノ)、ハンス・ケンネマルク(フィドル)

*演目(以下の曲表示は聞き書きで不正確なものです。参考程度にご覧下さい)
1.ワルツ・フォー・マイ・ディア・フレンド
2.クロース・トゥ・ナイト
3.スウェーデンのポルスカ
4.フィンランドのメヌエット/ポルスカ
5.ワルツ・トゥリー・トゥリー・トゥリー
6.コントラダンス
7.オール・グッド・ラヴ(ワルツ)
8.ホット・ショット(ショッティス)
9.フィンランドのポロネーズほか
10.フィンランドのウェディング・マーチ/ガスク
11.マッツカ/ポルスカ
[アンコール]スウェーデンのポルスカ、ほか

 まさにイブシ銀のような魅力を放つフィンランド~スウェーデンの国宝級のトラッド・トリオが奇跡の再来日を果した。まずは、幾多の困難を乗り越えて今回の再来日を実現させたミュージック・プラントと関係各位に心からの敬意を表したい(その多大な困難さの一端はミュージック・プラントのサイトの「ノルディック・トゥリー(の来日公演)をやらない理由」(!)に記されている)。

 今回の一般公開コンサートの初日に当たる当日は、北区・西ヶ原にある、薔薇の庭園でも知られる古雅な洋館のダイニングルーム風の一室で行われた。ちなみに今回もそうだが、この場所で秋の平日昼間に行われるコンサートは、北とぴあ音楽祭の一貫としてのもので、筆者も何度か足を運んだが、これまでは(知る限り)全て古楽系の音楽のコンサートで、トラッドものはこれが始めての筈。ともあれ、過去に出演した日本の古楽アーティストに伺ったところでは、サウンドのバランス取りなどに少なからず苦労したとの事だったが、勝手な筆者の耳では、天井の高さと高い壁板の効果ゆえか、インティメートな雰囲気だけでなく、毎回、音の美しさの点でも素晴らしい空間という印象であった。

 さて会場一杯の80ほどの客席はソールド・アウトの大盛況。熱い期待が立ち込める中、定刻になると、3人の重鎮は全くの飾り気無しに、ひょいと登場して、すぐ演奏に突入した。向かって右手から、超年季の入ったハーモニウム(足踏みオルガン)を演奏するティッモ・アラコティッラ、続いてフィドルと時にオクターブ・マンドリン(フラットバック・ブズーキに見える)を演奏するアルト・ヤルヴェラ。この二人がフィンランド人で、同国のトラッド・シーンで最も偉大な音楽家として尊敬されているという。そしてもう一人、このバンド唯一のスウェーデン人で実力派フィドラーのハンス・ケンネマルク、という熟年男性3人のトリオなのだ。                          
 ハンス作の最初の曲は2本のフィドルとハーモニウムによる演奏だったが(以下、特記以外は全てこの編成)、その2本のフィドルの音の余りに生き生きとした鮮やかな事に冒頭から痺れてしまった。その鮮やかな音で2本のフィドルは自然に音を揺らしてナチュラルなバイブレーションを生み出すと、渋いハーモニウムが待ってましたとばかりに相乗効果的にそれを増加させる。何とも心地よいサウンドであった。(ちなみに今回のコンサートではオクターブ・マンドリンに小型のスピーカーを接続していた以外は生音だった。)そして興が乗ってくると何とハンスのリードで3人が歌声までを一寸披露してくれた!これはこの曲限りの挨拶代わりのサプライズだったが、これで場内の過度の緊張した空気は一気に解れ、気の置けないトラッド・ライヴの開幕が告げられたかのようだった。

 2曲目はアルトの作品で最初は2本のフィドルが爽やかにデュエットを聴かせる一方で面白い事にハーモニウムはほとんど無音というか、ほとんど鍵盤と足漕ぎの演奏雑音のみでリズムを刻み、曲が進むにつれて少しずつ渋く音を発していった。もちろん、行き着いた先は小気味良い限りのトリオ演奏だった。それにしても二人のフィドルの生き生きとした音の素晴らしさは何に例えよう。3曲目のポルスカはアルトのフィドルのピッチカートとティッモのハーモニウムのサウンドをバックにハンスのフィドルが朴訥な味わいたっぷりに歌う。サウンドに重厚な厚みを加えるアルトの力強いボーイングとティモのハーモニウム。3人の重層的なインタープレイによるサウンドが見事な1曲であった。

 アルトのやや細身ながら滋味溢れるフィドル演奏に引きつけられた4曲目のメヌエットに続いて、5曲目のユニークなワルツでは冒頭からティッモのハーモニウムがファンキーにガンガン唸った。(まるで私だって決して枯れたサウンド専門じゃないよ、とでも宣言しているみたいに!)そして2本のフィドルがシャープに歌うと、ハーモニウムは一層ファンキーに熱く合奏していったのだった。続く6曲目のコントラダンスも非常に印象的な音楽で、例のほとんど無音のような静かなハーモニウムをバックにした2本のフィドルが滋味一杯の合奏で酔わせてくれた。そして7曲目のハンス作のワルツではアルトがブリリアントなサウンドのオクターブ・マンドリンを披露。これを背にハンスのフィドルが味わいたっぷりに歌うと、途中からティッモが本当に暖かいハーモニウムを加える。このハーモニウムこそは実に心地よいサウンドで、聴き手を暖かくゆったりと包み込んでくれたのだった。

 8曲目は一転してアルト作のイキのいいショッティス(派手な跳躍を含むダンスの曲)だった。いきなりアルトがフィドル・ソロで細やかなフレーズを陰影たっぷりに弾き、それにハーモニウムやハンスのフィドルが加算されて絶妙な味を醸しだす。途中の小気味良いノリのティッモのハーモニウムが何ともチャーミング。そして主役のアルトは細身の音でキリキリとかつ滑らかに歌っていった。9曲目のセット冒頭のポロネーズは、アルトのピッチカート奏法のフィドルと明るい音のハーモニウム、そして極めて滑らかなハンスのボーイングで、ノーブルで明るく聴かせてくれた。10曲目のセットの冒頭のウェディング・マーチでは、今度はハンスとアルトのフィドルが「泣き合わせ」で何とも味のあるサウンドを聴かせた。ここでもティッモのハーモニウムも実に味わい深い。

 夢うつつで聴き惚れていき、ふと我に帰ると早くもラストのセットの時間である。この11曲のセットはティッモが父親に捧げたクラシック的な重厚な雰囲気の作品を主体としたもので、彼のハーモニウムの荘厳で一種スピリチュアルに響く中を、アルトの気の置けないフィドルがゆったりと歌い、ハンスのフィドルも優しく唱和していった。この、あくまでもトラッド的な親しみ易さを湛えたスピリチュアルな曲には、またしても酔わされてしまった。これに引き続いて演奏されたハンス作のポルスカは美しい夢の様なチューンで、3人はまさに濃密な演奏を聴かせたが、それでいてあくまでも音自体は朴訥さをキープしていた。

 アンコール・パートでは,まずハンス作のポルスカが、彼のフィドルとアルトのオクターブ・マンドン、そしてティッモのハーモニウムで演奏された。この曲冒頭から(彼らの音楽らしかぬ?)アクの強いリフが飛び出してきたが、決してそちらのコテコテ一方には進まずに、途中には軽やかな合奏を挟みながら進んでいった。見事なバランスの一曲である。ここで、当日最大のサプライズが。何と会場の部屋の外の廊下に置いてあるピアノをティッモが弾いてフェアウェル・チューン(母親に捧げた曲とか)をやるので、観客の皆さんは外へ出て聞いて下さい、というのだ。その言葉通り、外の廊下に常設してある古いグランド・ピアノをティッモが弾き、アルトがオクターブ・マンドリンを、ハンスがフィドルを弾いての暖かい合奏で観客を送り出してくれた。

 本編の終演後に、客席からふーっとため息が漏れた。彼らの演奏はそれほど「濃密」であったのだ。とはいえ、先にも記したように彼らの音楽はどんなに濃密に至っても、その根源的なサウンドはあくまでも朴訥で気の置けないものであった。そう、この「濃密かつ朴訥」という正に類の無いインポシブルな感触こそは3人の演奏する全ての音楽に通底していたのである。

[彼らは明後日の日曜日には鎌倉の建長寺でのコンサートが予定されている。当日昼までの予約や当日券もあるそうなので、興味のある向きは是非。詳しくはミュージック・プラントのサイトhttp://www.mplant.com を。]