「招福巻」は、巻き寿司の一態様を示す商品名として普通名称となっていたか

本件は、「招福巻」(本件商標)について商標権を有する株式会社小鯛雀鮨鮨萬(Y)が、全国でスーパーマーケット「ジャスコ」を展開するイオン(X)に対し、ジャスコ各店舗で節分用に販売した巻き寿司の包装に「十二単の招福巻」の標章(控訴人標章)を付す等したXの行為が本件商標に係るYの商標権を侵害するとして、商標法36条に基づき上記行為の差止め等を求めるとともに、民法709条に基づき損害賠償を請求した事案です。

認定事実によれば、Xは、広告ビラに「穴子、海老など色とりどりの12種の具材を贅沢に使った恵方巻です。」として、価格とともに控訴人標章をゴシック体文字で「十二単の」の部分を小さく「招福巻」なる部分を大きく横書きしていました。

原審(大阪地方裁判所平成19年(ワ)第7660号)では、Xは、控訴人標章中「招福巻」の部分は法26条1項2号、4号の商標に該当し本件商標権の効力が及ばないなどとして争ったが、Yの請求のうち差止め等の請求については全部、金銭請求については一部認容されていました。

しかし、高裁では、本件商標と控訴人標章とは類似するが、控訴人標章中「招福巻」の部分は、法26条1項2号の普通名称に該当していたため、本件商標の商標権の効力が及ばないと判断しました。

(1)控訴人標章は本件商標に類似するかについて
控訴人標章にいう「十二単の」の部分は、消費者等には、巻き寿司に12種類の具材が入っていることを示す記述的説明が付加されたものと受け取るのが自然であって、控訴人主張のように、「十二単の招福巻」の表示をもって全体として一連一体のものとみることは困難である。
そして「十二単」の部分に独立した自他識別力がない以上、後記のとおり「招福巻」が普通名称化しているとしても、控訴人標章に接した消費者等が「招福巻」の部分に着目することは明らかというべきであり、その意味で、「招福巻」の部分が共通する本件商標と控訴人標章とは類似するものといわざるを得ない。
したがって本件行為は法37条1号に該当する。

(2)本件商標権の効力は控訴人標章に及ばないかについて
「招福巻」は、巻き寿司の一態様を示す商品名として、遅くとも平成17年には普通名称となっていたというべきである。もっとも、「招福巻」が、本件商標の指定商品に含まれる巻き寿司についての登録商標であることが一般に周知されてきていれば格別であるが、被控訴人が警告をし始めたのはようやく平成19年になってからであり、本件全証拠によってもその時点までに本件商標が登録商標として周知されていたと認めるに足りず、かえって上記警告の時点までに「招福巻」の語は既に普通名称化していたものというべきである。


コメント
(1)この判決は、原審の判断を覆しました。原審では、節分用巻きずしに「招福巻」を含む商品の名称を使用した例の大半が平成17年以降のものであること、節分の巻きずしを指す名称として「招福巻」以外の名称を用いている例も少なくないこと、平成19年に節分用巻きずしに「招福巻」を使用する業者に対して警告を行うなど、本件商標権を守るために一定の対応をしていることなどを考慮して、「招福巻」を含む商品の名称が用いられている例が多数あるからといって、このことから直ちに、「招福巻」が、節分用の巻きずしの普通名称になったものとは認めることができないと判断しました。
 しかし、高裁では、Y標章が使用された当時(平成18年と平成19年)に、「招福巻」が巻き寿司の一態様を示すものとして普通名称となっていたことを理由にXの請求を棄却しました。
(2)この事件を通じて、商標の監視の重要性が再認識させられます。競業者が節分用巻きずしに「招福巻」を含む商品の名称を使用し始めた平成17年以前から警告など普通名称化を防止する措置を適切にとっていれば、このような事態にはならなかったと思われます。特に、識別力があまり強くない商標の場合は注意が必要です。
 本件の「招福巻」については、「招福」はもともと「福を招く」を名詞化したもので馴染みやすい語であり、これと巻き寿司を意味する「巻」を結合させた「招福巻」なる語を一般人がみれば、節分の日に恵方を向いて巻き寿司を丸かぶりする風習の普及とも相まって、極めて容易に節分をはじめとする目出度い行事等に供される巻き寿司を意味すると理解し、Xの本件商標が登録されていることを知らないで「招福巻」の文字を目にする需要者は、その商品は特定の業者が提供するものではなく、一般にそのような意味づけを持つ寿司が出回っているものと理解してしまう商品名ということができると判示されています。
(3)実務上、ある名称が普通名称(または慣用商標)になっていると判断することは容易ではありません。普通名称化した商標については、商標法26条で権利行使は制限されるものの、取り消す方法がないため、それを使用しようとする者は、その商標権がいつか復活して権利行使されるかもしれないという不安定な状況におかれ、使用者がリスクをとらなければなりません。法的拘束力はないが、判定制度(商標法28条)を利用してリスクを低減することも検討すべきでしょう。
 なお、米国や欧州では、商標が登録された後に普通名称化した場合には、その権利の効力が制限されると共に、請求によりその登録も取り消することができる制度になっています。日本でも過去に検討されていましたが、裁判所の判断に委ねるべきとして見送られたようです。


判決全文は、こちら(PDF)。