ソフトウェアまたは機能の名称として使用されていることを理由に商標的使用該当性が否定された事案

本件は、原告(X)が、被告(Y)に対し、Yの商品に関する広告にY標章を付し、電磁的方法により提供するなどした行為が、Xの商標権を侵害すると主張して(商標法25条、37条1号、2条3項8号)、民法709条及び商標法38条3項に基づき、損害賠償を求めた事案です。

【原告(X)商標】
商標1(登録第4853147号)
  QuickLook(デザイン化されたもの)
   指定商品
    第9類「電子応用機械器具及びその部品」等

商標2(登録第5351987号)
 QuickLook(標準文字)
   指定商品・役務
    第9類「電子応用機械器具及びその部品」等
    第42類「電子計算機用プログラムの提供」等

商標3(登録第5351988号)
  クイックルック(標準文字)
   指定商品・役務
    第9類「電子応用機械器具及びその部品」等
    第42類「電子計算機用プログラムの提供」等

【被告(Y)標章】
標章1
  クイックルック
標章2
  QuickLook
標章3
  QuickLook(デザイン化したもの)

Y商品: コンピュータ

【判決】
 本件においては、『Y各標章は、Y商品につき商標として使用されているか』が主要な争点となりました。

1.Xの主張
(1) 商標法上の「商品」の意義については、取引市場に提供され、それぞれが選択と代替性を有する多数の競合する対象物の中から、特定の対象物を目印(商標)によって選択し入手し得る限りにおいては、その対象物こそが商標法上の対象商品であるというのが相当であるところ、Y商品(コンピュータ)は、多数の競合する対象物の中から、「クイックルック等」を目印として選択され、入手されるのであるから、Y各標章の付された商品ということができる。
(2) 仮に、 Y各標章がY商品(コンピュータ)を「商品」として使用されているものでないとしても、Yの行為は、 Yソフトウェアを「商品」として、Y各標章をその商標として使用するものであり、かつY商品の商品識別機能をも有するから、Y商品について、X各商標権を侵害する。
  (a) Yウェブサイトには、Yの販売するコンピュータ製品に使用されるソフトウェアとして「Quick Look」ソフトウェア(Yソフトウェア)が表示されている。
  (b) Yソフトウェアは、コンピュータに組み込まれた後もソフトウェアの存在が明示され、認識されるのであるから、独立商品性を有し、商品識別機能を喪失しておらず、その商標として使用されているものというべきである(最高裁平成8年(あ)第342号同12年2月24日第一小法廷決定参照)。
  (c) 一般消費者は、Yソフトウェアが搭載されたコンピュータを購入したいとの認識をもってY商品を購入するものであるから、コンピュータ購入の際の選択において、ソフトウェアの識別標章が、コンピュータの商品識別機能を有する。

2.Yの主張
(1) 商標法における「商品」とは、市場において独立した商取引の対象として流通に供される物であると解されているところ(東京高判平成16年11月30日等)、Y標章は、Y商品の機能を記述したものにすぎず、市場において独立した取引の対象として流通している何らかの物について使用されているものではない。
  (a) Xの主張(2)(a)については、上記ウェブサイトは、Yコンピュータを購入したカスタマーがドライバやソフトウェア等をダウンロードしたりすることにより、無償で提供するものである。Yソフトウェアの機能は、この機能を出荷時において備えるモデル以外のコンピュータにダウンロードしたとしても実現されない。したがって、Yソフトウェアは、市場において独立した商取引の対象として流通に供されるものとはいえず、商標法上の「商品」に当たらない。
(2) Y各標章は、一般消費者において、Y商品が有する機能の単なる記述又は当該機能の一つの名称であると認識するにとどまり、商品の特定の出所を識別するための標識であるとは認識されないものであるから、自他商品識別機能を有しないため、Y各標章は商標として使用されていない。

3.裁判所の判断
 裁判所は、以下の通り、YによるY標章の使用は、商標としての使用(商標的使用)に当たらないから、Xの商標権を侵害しないとして、Xの請求を棄却しました。
(1) 需要者は、Y使用標章につき、Y製のノート型コンピュータの電源が切られているなど、直ちにメールやスケジュールを開くことができない状態であっても、専用ボタンを押すことにより、すばやくメール等の内容をコンピュータの画面に表示させることができるという、Y製のノート型コンピュータが一般的に有する一つの機能又は上記機能を実現させるために当該コンピュータに搭載されたソフトウェアの名称を表示又は意味すると認識するにとどまるものと認められ、Y各標章から、特定のコンピュータ商品としてのY商品の出所を識別するものとしてその出所を想起するものではないと認められる。
 したがって、Y各標章がY商品の自他商品識別機能・出所表示機能を果たす態様で用いられているものと認めることはできないから、Y各標章の使用は、Y商品に関して、商標としての使用(商標的使用)に当たらない。
(2) また、Xの主張(2)については、Y各標章が、Y商品の機能又はYソフトウェアの名称を意味又は表示するものとして使用されているにすぎないことは前記のとおりであり、YソフトウェアがY商品に組み込まれた後において、Y各標章がYソフトウェアを表示するものとして認識されることがあるとしても、そのことから直ちに、Y商品の取引者、需要者が、Y各標章をY商品の識別標識として認識していることが認められるものではない。

判決全文は、こちら

コメント
 本件は、商品の一機能又は当該機能を実現させるためのソフトウェアの名称にすぎないから、商標的使用に該当しないと判断された事例です。ここで、「商品」とは、Yが販売しているコンピュータを指し、「ソフトウェア」とは、そのコンピュータ上で稼働する所定の機能(専用ボタンを押すことにより、すばやくメール等の内容をコンピュータの画面に表示させることができる)を実現するためのソフトウェアを指します。すなわち、Y標章(Quick Look)は、上記の機能またはソフトウェアを特定するための名称にすぎず、コンピュータを識別するための商標としては機能していないと判断されたものです。
 このような判断がなされた理由は、Xが、Y標章(Quick Look)が当該ソフトウェアを超えて、それがインストールされたコンピュータの商標として使用されていると主張したからです。これは、Xが、単に、Y標章の使用を止めさせたいというよりは、損害賠償を求め、その損害額の算定をも考慮して、このような主張を試みたものと推察されます。
 ソフトウェア自体も商標法上の商品として認められ、その名称は商標となりえます。したがって、Xが、YによるY標章のYソフトウェアへの使用を侵害行為として、使用の差し止めを請求していれば、権利行使の対象がより明確になり、主張しやすかったかもしれません。Xは、少なくとも現在は、自己のウェブサイト上で「Quick Look」を使用しているので、なぜ差し止めを請求しなかったのか疑問の残るところではあります。
 なお、Yソフトウェアについての使用の差し止めを請求した場合であっても、Yソフトウェアが、(1)ウェブサイトからダウンロードして入手可能であり、(2)無償で提供され、(3)特定モデルでのみ機能を発揮するといった特徴を有していることから、その商品性が争点となり、興味深い判断が期待できたでかもしれません。
 なお、Xは、同じ商標権に基づいて別の企業も訴えており、同じ理由により棄却されています(東京地裁 平成22年(ワ)第18759号 平成23年 5月16日判決)。