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 鳴沢氷穴・富岳風穴とは富士山麓の青木ヶ原樹海に囲まれた地域にある2つの地下洞窟のことだ。観光スポットとして人気がある地底世界への入口だ。そこへ8月某日、妻を伴い訪れた。
 現在から1150年以上遡る865年(貞観6年)に起きた富士山の側火山長尾山の噴火の際に、溶岩流が流れ下ってできたのが、鳴沢氷穴だ。一方の富岳風穴は、富士山が噴火した際に流れ出た溶岩が冷えて固まる過程で、溶岩に含まれるガスが外に噴き出す際にできる空洞が冷えて固まったものだ。共に国の天然記念物に指定されている。

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 こんな建物、看板、POPのある人気の観光スポットだからとゆめゆめ油断することなかれ。

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 鳴沢氷穴は迷ったら二度と出られないとも言われる深い樹海の中にある。さらに、地下世界に潜るには数々の危険が伴うため、氷穴に入るにはヘルメットの着用が義務付けられている。

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 大勢のにわか探検家に交じり、一歩また一歩と地下世界へと向かう。

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 地下から見上げるこのアングルからなら、鳴沢氷穴が深く落ち込んだ縦穴ということがお分かりになるだろうか。

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 洞窟内はかなり天上の低いところもある。これ以上狭くなれば這ってゆかねばならない。
 内部はひんやりとしている。真夏だというのに内部の平均気温は3度、一年中氷に覆われていることから氷穴と呼ばれるようになったというが、その名は伊達では無い。

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 溶岩でできた岩肌。

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 古くから信仰の対象になっていたのだろうか? 小さな祠があった。

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 氷塊だ。

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 そう言えば地表近くには、こんな絵入りの説明書きがあった。夏でも氷が採れる貴重な場所だったんだ。
 
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 実は、今回氷穴に潜るのには秘した目的があった。それがこの地獄穴。本当にこの氷穴がおよそ100キロ離れた江の島の洞穴まで続いているのかこの身で確かめることだ。
 困難は予想されるがチャレンジする価値のある探検だ。 
 もちろん許可は取っていない、無謀な蛮行として許可が下りるわけがないからだ。だが私には江の島の洞穴に繋がっているの単なる伝説では無いという確信があった。地獄穴を通り江の島へ達した先人はが確かにいたのだ。
 奥さんを見張りに立て、周囲に人のいない隙にザイルを使い下に降りる。
 もちろん奥さんにだけは今回の計画を事前に打ち明けてある。私が何をしても驚かない奥さんだが、さすがに今回だけは少し躊躇していたね。
 一応、4日経っても私から連絡が無い時は警察に届けるように言ってある。携帯食料と電池は1週間分は用意している。
 30メートルほど降下した辺りに小さな足場になる岩が突き出ており、そこからまたザイルを下へと伸ばす。ヘッドランプの灯りが無ければ何も見えない闇世界、もう頭上を見上げても何も見えない、そもそもが洞窟の中のそのまた縦穴だから外部から光の入りようがない。

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 地獄穴の底に向かってフラッシュ撮影を試みたが、ほとんど何も写らない。底なしの闇なのだ。
 用意してきたザイルの長さは80メートル、それ以上深いと降りるのは難しくなる。つるつるの玄武岩に近い溶岩は濡れていることもあってザイル無しで上り下りするのはフリークライミングの達人でも無理だろう、ましてや完全な暗闇だ。
 幸いなことにザイルは長さ15メートルほどを残して縦穴の一番奥底に達することができた。
 この地の底ではグーグルマップもケータイも使えない。富士樹海で磁石が効かなくなるのと同じように磁性を持った溶岩があった場合はコンパスも効かなくなる。正しい方位と距離を得るためには電子コンパスが頼りとなる。
 縦穴の底から始まった横穴は確かに江の島の方向を指していた。やはり伝説が真実であった可能性は高い。
 横穴は時に私の背丈よりも高く、時に這って縮こまってぎりぎりの狭さとなりながら延々と続いた。必死に進んでいる間に時間の感覚も薄れていった。腹が減れば喰い、眠くなれば寝て、時々時間と進んだ距離とをチェックする。
 最大の難関は完全に水没したカ所だった。水中に潜らなければ先に進むことができない。しかし、水中部分が長ければ息が続かなくなり溺死してしまう。どうするか、何度かのチャレンジの末無事に水没部分をクリアすることができたがこれは本当に危険な賭けだった。
 そして4日間が過ぎ、ついに外の明りが見えた。

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 洞窟の外のこの海岸は、江の島だよ。伝説通り、本当に鳴沢氷穴は江の島の洞窟へと繋がっていたのだ。大発見だ!!

 「早く先へ行こうよ。」という奥さんの言葉で我に返った。
 どうやら地獄穴を覗いているうちに妄想の世界に浸っていたらしい。

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 川口博探検隊と違い、隊長(奥さん)自ら先頭を切り、カメラマン(私)が後から続く。

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 ルートの周囲には氷のブロックが積まれている。天然の物ではなく、氷室として使っていた当時を再現したものということだ。

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 この氷柱もたしかレプリカ。

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 柵の中のこちらは貴重な本物の天然氷柱。

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 氷の池、永久凍土なのだという。驚いたことに永久凍土はここだけでなく、富士山麓の地下に広く形作されているらしい。

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 洞窟は一転、上へと向かう。

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 地上の樹海へと出た。

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 氷穴内と地上との温度差でメガネが曇った。カメラのレンズも。

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 我々探検隊は、今度は富岳風穴へと向かった。氷穴と風穴は距離にして800メートルしか離れていない。ちょうどよい散歩コースだ。

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 このようなガス孔の大きなものが富岳風穴ってことらしい。

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 富岳風穴は鳴沢氷穴より深い樹海の中にあった。

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 再び地下世界へと降りていく。

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 内部の岩肌は様々。1つの洞穴の中でなぜこんなにバリエーションがあるのか素人なので分からないが、一口にガスが吹き抜けたと言っても単純な作用ではなかったんだろうなと思う。

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 そして万年氷。どうりで涼しいわけだ。

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 地下深く進んでいくと…


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 かつて、風穴内の低温を利用して蚕や種子の保存をしていた様子が再現されていた。
 昔のことだから松明くらいの明りでこんな地下深くを探索し、その上利用していたとは、ご先祖様たちは現代人以上の探求心とバイタリティを持っていたのかもしれない。

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 さらに進むと…

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万年氷の池。

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 外の明りが見えてきた。探検は大げさだったか、地下散歩の終わりが近づいてきた。

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 地上は緑の世界。地底世界を存分に楽しんだ後は樹海探検と行こうか、迷子にならない程度に。
 みなさんも鳴沢氷穴・富岳風穴を訪れてみてはどうかな。真夏でも涼しくすごせるよ。