「彼女がヴァラナにそのことを話したとき、ガリオンとわたしはここにいたのよ。父の葬儀のときだったわ。ベスラがひそかに宮殿にやってきて、ホネス家のふたりの貴族――エルゴン伯爵とケルボー男爵――がヴァラナの息子の殺害をくわだてていると言ったの」
 シルクの顔は石のようだった。「よく思い出してくれた、セ?ネドラ」
「ほかにもあなたに知らせたいことがあるのよ、ケルダー」ヴェルヴェットが静かに言った。彼女はみんなを見た。「このことは内密にお願いします」
「むろんだとも」ベルガラスがうけあった。
 ヴェルヴェットはシルクに向きなおった。「ベスラは〈狩人〉だったの」シルクに言った。
「〈狩人〉? ベスラが?」
「もう数年前になるわ。ここトルネドラで王位継承問題が過熱しはじめたとき、ローダー王がジャヴェリンに指示して、アローン人が共存できる人物にラン?ボルーンのあとをつがせるよう取り計らったのよ。ジャヴェリンはトル?ホネスにきて、ベスラにそれを任せたの」
「ちょっと」ベルガラスが好奇心に目を輝かせて口をはさんだ。「その〈狩人〉とはいったいなんのことだね?」
「わたしたちのなかで、最高秘密にたずさわる密偵のことです」ヴェルヴェットが答えた。「〈狩人〉が扱うのはきわめて微妙な状況にかぎられているんです――ドラスニアの君主がおおっぴらに関与できない問題のような。とにかく、ホネス一族のノラゴン大公が次代皇帝にほぼ確定しそうになったとき、ローダー王がジャヴェリンにある提案をしました。すると、数ヵ月後、ノラゴンは偶然毒のある貝を食べたのです――強烈な毒のある貝を」
「ベスラがそれをやったのか?」シルクはおどろいていた。
「彼女はおそろしく機略にたけていたのよ」
「リセル辺境伯令嬢?」セ?ネドラが考えこむように目を細めて言った。
「はい、陛下?」
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「〈狩人〉の素性がドラスニアで一番の国家機密なら、どうしてあなたはそれを知ったの?」
「わたしはある指示をベスラに与えるためにボクトールから派遣されたのです。おじはわたしが信用できると知っているんですわ」
「でもいまあなたはそのことをしゃべっているじゃない?」
「事後だからです、陛下。ベスラは死にました。いまは他のだれかが〈狩人〉になっているでしょう。とにかく、ベスラは死ぬ前に、だれかがノラゴン大公の死に彼女がかかわっていたことをつきとめ、その情報を回したのだとわたしたちに言いました。その情報が彼女を襲撃するきっかけとなったのだとベスラは信じていたのです」
「すると、的はホネス家にしぼられるんじゃないか?」シルクが言った。
「彼女の言い残した言葉だけでは、明確な証拠にはならないわ、ケルダー」ヴェルヴェットは言った。
「おれを満足させるにはじゅうぶんだ」
「なにか軽率なことをなさるつもりじゃないでしょうね?」彼女はたずねた。「ジャヴェリンはきっとおこるわよ」
「これはジャヴェリンの問題じゃない」
「トルネドラの政治に首をつっこんどる暇はないぞ、シルク」ベルガラスがきっぱりとつけくわえた。「われわれはいつまでもここにいるわけじゃないんだ」
「それほど手間はとりませんよ」
「あなたがなにをたくらんでいるのかジャヴェリンに報告しなけりゃならないわ」ヴェルヴェットが警告した。
「いいとも。だが、きみの報告がボクトールに届く前に、おれはそれを終わらせてるよ」
「大事なのは、わたしたちを困らせないでもらいたいってことなのよ、ケルダー」
「おれを信用しろよ」シルクはそう言うと、だまって部屋を出ていった。
「かれがあのせりふを吐くと、いつもわたしは神経質になるんだ」ダーニクがつぶやいた。
 翌朝早く、ベルガラスとガリオンは宮殿を出て大学の図書室を訪れた。トル?ホネスの広い通りは凍えそうに寒く、身を切るような風がネドレ。まだ早いのに、毛皮のマントで大理石の街路をきびきびと歩いている商人の姿がちらほら見え、都市のなかでも貧乏人の多い地区では、粗末な服の労働者たちが首をうなだれ、かじかんだ両手を服の奥につっこんでうろうろしていた。
 ガリオンと祖父は人気《ひとけ》のない中央市場を通り抜けて、まもなく大理石の塀に囲まれた大きな建物群につくと、皇帝の印のついた門をくぐりぬけた。中の地面は宮殿を取り囲む地面と同じようにきちんと草を刈り込まれ、広い大理石の歩道が建物から建物へと芝生を横切って伸びていた。そうした歩道のひとつを歩いていくと、背中で両手を組み、物思いにふけっているかっぷくのよい黒い長衣の学者に出会った。
「失礼だが」ベルガラスは声をかけた。「図書室はどっちでしょうか?」
「なんだって?」男は顔をあげて、目をしばたたいた。
「図書室ですよ」ベルガラスはくりかえした。「どっちですか?」
「ああ」学者は言った。「どこかあちらのほうだな」あいまいな手振りをした。
「もうちょっと正確に教えてもらえませんかな?」
 学者はみすぼらしい身なりの老人をいらだたしげに眺めてつっけんどんに言った。「守衛にきいたらどうだね。わたしは忙しいんだ。二十年間取り組んできた問題がもうちょっとで解決できそうなんだ」
「ほう? どんな問題です?」

「さあはやく」ベルガラスはガリオンとダーニクに声をかけた。その目は鋼のように光っていた。「カイルを見つけて、事件の真相を究明できるかどうかやってみよう」
 カイルは父親の仕事部屋のテーブルにぐったりとすわりこんでいた。テーブルに広げられているのは島の大きな地図で、かれはそれを一心不乱に見つめていた。
 最小限の挨拶をかわしたあと、カイルは沈ん避孕方法だ声で言った。「事件が起きたのは、きのうの明け方近くでした、ベルガリオン。日がのぼる前です。セ?ネドラ王妃は真夜中を二、三時間まわった時刻に王子を見ておられます。そのときは何も不審な点はありませんでした。それから二時間後、王子は消えてしまったのです」
「これまでにどんな手を打った?」ベルガラスがたずねた。
「島を封鎖するよう命じました」カイルは答えた。「つぎに城塞をすみからすみまで調べました。王子をうばった犯人は城塞のどこをさがしてもいませんでしたが、わたしが封鎖を命じてから発着した船はひとつもありません。港湾長の報告では、きのうの真夜中以後船を出した者はいません。わたしの知るかぎり、誘拐犯は〈風の島〉を出ていないのです」
「よくやった」ガリオンはきゅうに希望がわきあがってくるのを感じた。
「現在は都市の家をかたっぱしから兵隊に調査させていますし、海岸線は船がくまなく巡回しています。島の封鎖は完全です」
「森や山はさがしたか?」老人がきいた。
「とりあえず都市の捜索を完了させたかったんです」カイルは言った。「それがすんだら都市を封鎖して、捜索隊を周辺の田園地帯へ移動させるつもりです」
 ベルガラスはうなずいて地図をにらんだ。「慎重に行動せんとな。この誘拐犯を追いつめ居屋再按揭るようなまねはよそう――すくなくとも、わしのひ孫を本来の居場所へ無事に戻すまでは」
 カイルはうなずいて同意をあらわした。「王子の安全がわれわれの第一の関心事です」
 ポルガラが静かに部屋にはいってきた。「セ?ネドラに薬を飲ませてきたわ、眠れるように。アリアナがセ?ネドラを診《み》ているの。彼女にあれこれたずねても無意味だと思うわ。いまのセ?ネドラに必要なのは睡眠よ」
「そうだね、ポルおばさん」ガリオンは言った。「でもぼくは眠らないよ――息子がどうなったかつきとめるまでは」
 翌朝早く、かれらはふたたびカイルのきちんと整頓された書斎に集まって、もう一度地図を子細にながめた。都市の捜索についてカイルにたずねようとしたガリオンは、背中の剣にいきなりひっぱられるのを感じて、開きかけた口をとじた。カイルの机の上の黄ばんだ羊皮紙の地図を見つめたまま、ガリオンはうわの空で剣をしょっている革ひもをなおした。と、剣がまたかれをひっぱった。今度はもっと執拗に。
「ガリオン」ダーニクが興味ありげに言った。「剣を手に持っていなくても、〈珠〉があんなふうに光ることがあるのかい?」
 首をねじってうしろを見ると、たしかに〈珠〉が燃え上がっている。「どうして光ってるんだろう」ガリオンは当惑してつぶやいた。
 次にひっぱられたときは、すんでによろめきそうになった。「おじいさん」ガリオンはすくなからずおどろいて言った。
 ベルガラスの表情が用心深くなった。かれは落ち着いた声で言った。「ガリオン、剣を鞘からだしたほうがいいぞ。〈珠〉はおまえに何か教えようとしているらしい」
 ガリオンは肩ごしに手をのばして、しゅっという音とともに〈鉄拳〉の偉大な剣を鞘からひきぬいた。それがどんなにばかげて聞こえるか考えもせずに、ガ生完bb甩頭髮リオンは柄《つか》の上で輝いている石に直接話しかけた。「ぼくはいますごく忙しいんだ。待てないのか?」
〈珠〉はガリオンをドアのほうへひっぱっていこうとした。それが返事だった。
「どうするつもりだ?」ガリオンはいらだたしげに問いつめた。
「だまってついていけ」ベルガラスが言った。
 しかたなくガリオンはせきたてる力にしたがってドアをぬけ、たいまつに照らされた廊下に出た。みんなも不思議そうにぞろぞろついてきた。ガリオンは奇妙に澄んだ〈珠〉の意識と、それの圧倒的な怒りを感じ取ることができた。クトル?ミシュラクでアンガラクの傷ついた神と対決したあのおそるべき夜以来、これほどの憤怒がその生ける石から発するのは感じたことがなかった。しまいには小走りにならないと追いつかないほどの速度で、剣は廊下をひたすらつっぱしった。
「なにをしようとしているのかしら、おとうさん」ポルガラが困惑した口調でたずねた。「〈珠〉がこんなことをするのははじめてだわ」
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「よくわからん」老人は答えた。「このままついていって、つきとめるしかない。だが、重要なことに相違ない」
 カイルは廊下に配置されている歩哨の前でちょっと立ちどまった。「わたしの兄弟のところへ行ってくれないか? 王宮へくるよう伝えてくれ」
「わかりました」歩哨はすばやく敬礼して答えた。
 ガリオンは王宮の黒い磨かれたドアの前でたちどまり、ドアをあけて、剣にひきずられるようにして中へはいった。
 疲れはてて長椅子の上で眠りこんだアダーラに毛布をかけてやろうとしていたライラ王妃が、びっくりして顔をあげた。「いったい――?」
「だまって、ライラ」ポルガラが言った。「わたしたちにもよくわからないことが起きているのよ」
 ガリオンは心を鬼にして寝室にはいっていった。ベッドではセ?ネドラが力ない泣き声をあげながら寝返りを打っていた。ベッドわきにはイスレナ王妃とバラクの妻のメレルがすわっていた。アリアナは窓のそばの深い椅子でうたたねをしている。しかし剣が子供部屋へ追い立てるので、ガリオンは妻に付き添ってくれている婦人たちを一瞥するので精一杯だった。からっぽの揺り籠を見ると、心臓がしめつけられる思いだった。偉大な剣が揺り籠の上に身をかたむけると、〈珠〉が燃え上がった。次に石はしばらく脈拍のように強弱の光をひらめかせた。
「わかりかけてきたぞ」ベルガラスが口を開いた。「絶対に確実というわけじゃないが、どうも〈珠〉はゲランのあとを追いたがっているらしい」
「そんなことができるんですか?」ダーニクがきいた。
「ほとんどどんなことでもできるんだ。一族に心身を捧げているしな。行かせるんだ、ガリオン。それがどこへおまえを導くか見てみよう」
 廊下へでると、カイルの兄弟のヴェルダンとブリンが待っていた。三人のうちで最年長のヴェルダンは雄牛のようにがっしりしており、最年少のブリンも体格の点では長兄にほんの少し劣るだけだった。ふたりはそろって鎖かたびらをきて兜をかぶり、刃渡りのひろい重い剣を腰にさげていた。
「〈珠〉が王子のところへわれわれを導こうとしているらしい」カイルは簡潔に説明した。「王子を見つけるさいに、兄さんたちふたりが必要になるかもしれないんだ」
 ブリンの顔に少年ぽさの残る大きな笑いがつかのま広がった。「それじゃ、日暮れまでに誘拐犯の生首をさらしものにできそうだ」
「あんまり急いで首をはねてはならんぞ」ベルガラスが命じた。「まずいくつか質問に答えさせてからだ」
「あなたたちのひとりはつねにセ?ネドラについていてちょうだいね」ポルおばさんが、好奇心につられて廊下へでてきたライラ王妃に言った。「きょうの午後にはたぶん目をさますはずだわ。アリアナはいまは寝かせておきましょう。目がさめたらセ?ネドラがアリアナを必要とするかもしれないから」
「もちろんわかってますよ、ポルガラ」ぽっちゃりしたセンダリアの王妃は答えた。

 続く週の大半を、かれらはナドラクの森に点在する集落を避けながら、北をめざしてひたすら馬を走らせた。ガリオンはしだいに夜が短くなって優悅 避孕いることに気づいた。一行が北の山地のふもとに着くころには、実質的な夜は消えうせていた。夜と朝は、太陽が沈んでから再び輝く姿をあらわすまでの、数時間の明るいたそがれに溶け込んでいた。
 北の山地はナドラクの森の先端にあたる部分にそびえたっていた。山地というよりもむしろ峰々の連なりに近かった。それは大陸の脊柱をなす巨大な山脈から東に向かって伸びる、細長い指に似た隆起地形だった。三人はかすかにそれとわかる程度の踏み跡をたどりながら、雪をかぶった峰と峰の鞍部をめざして登っていった。高度を上げるにつれ樹木はしだいに低くなり、ついにはまったくなくなってしまった。そこから先はまったくの不毛地帯だった。ベルガラスは最後の木立の端で馬を止めると、長い若木を五、六本刈り取った。
 峰から吹きおろす風は猛烈な寒気と、永遠の冬の不毛の匂いをもたらした。ようやく石のガラガラする鞍部に立ったところで、ガリオンは眼下に展開する広大な平野をはじめて見おろすことができた。木がまったく生えていない平野は、気まぐれな風に吹き流されて波打つ、一面の背の高い草に覆わ避孕 藥 副作用れていた。だだっ広い草地を川が目的もなく曲がりくねるようにして流れ、点在する幾千もの浅い湖や池が、北の太陽のもとで青く輝き、地平線に向かってどこまでも続いていた。
「この平野はどこまで続いているんだろう」ガリオンは静かにたずねた。
「ここから北極の氷までだ」ベルガラスが答えた。「数百リーグはあるだろう」
「モリンド人以外、誰も住んでいないのかい」
「というよりは住もうとは思わんのさ。一年のほとんどは、雪と暗黒に包まれておるし、六ヵ月以上も太陽の顔を見ないのだからな」
 一行は岩のごつごつした斜面を下り、山と丘陵地帯の境界とおぼしき花崗岩の崖のふもとに、狭苦しい洞穴を見つけた。「ここにしばらくとどまることにしよう」ベルガラスが言った。
「少し準備もしなくてはならんし、馬にも休息が必要だからな」
 続く何日か、ベルガラスが一行の外見を見分けもつかないほど変える作業に従事する間、他の者たちはそのための準備に忙しかった。シルクは草地の中を迷路のように曲がりくねるウサギの通り道に、手製の罠をいくつも仕掛けた。ガリオンはある植物の塊根と、独特な香りのする白い花を求めて、終日ふもとを歩きまわった。洞穴の前にどっかと腰をおろしたベルガラスは、刈り取口服 避孕 藥た若木で必要な道具をこしらえた。老人はガリオンの集めてきた塊根をすりつぶして濃茶色の汁を抽出したものを、二人の肌に塗りつけた。「モリンド人は濃い色の肌をしているからな」ベルガラスはシルクの腕や背中に汁を塗りながら説明した。「トルネドラ人やニーサ人よりもさらに黒い。この汁の効力は数週間くらいしかもたないが、それだけあれば十分通り抜けることができる」
 全員の肌が浅黒く染まったところで、老人は不思議な香りのする花をすりつぶして、まっ黒な染料をしぼり出した。「シルクの髪はそのままでいいなるが、ガリオンだけはそうもいかん」老人は汁を水で薄め、ガリオンの砂色の髪を黒く染めた。「これでよし」老人はできあがりを見て言った。「まだ刺青の分もたっぷり残っておる」
「刺青だって」ガリオンは仰天した。
「モリンド人は身体じゅうを刺青で飾りたてているのだ」
「でも痛いんじゃないかい」
「むろん本当に身体に彫るわけではないのだ、ガリオン」ベルガラスは苦々しげな顔で答えた。
「治るまでに時間がかかりすぎる。それに一面に刺青を彫ったおまえを連れ帰ったりしたら、おまえのおばさんはヒステリーを起こすだろうからな。この染料を使えばモリンドランドを通過するぐらいは大丈夫だろう。色はそのうちに消えてしまう――ただし徐々にだが」
 シルクもまた洞穴の前にあぐらをかいて座り、仕立屋そのものといった様子で、ウサギの毛皮と衣服を縫いあわせるのに忙しかった。
「後で匂うんじゃないのかい」ガリオンは鼻にしわを寄せながら言った。
「たぶんね」シルクは認めるように言った。「だが生皮をなめしている時間がないもんでね」
 その後皆の顔に刺青を書き入れながら、ベルガラスはそれぞれの扮装の役割を説明した。
「ガリオンは探索者だ」

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