August 07, 2010

スーパーヒーローとは何かを語った学園映画『Kick-Ass』

_SL500_AA300_長谷川  五月にアメリカで見てきた『Kick-Ass』が、日本でも十二月に公開が決定! まずはめでたい。
山崎  いまだにこの映画は今年のベストワンだって思うなー。その地位は揺るがない。
長谷川 ニューヨークに住むアメコミ好きの高校生、デイヴが退屈な生活から抜け出すためにネット通販でラバースーツを買って、スーパーヒーロー”Kick-Ass”になるところから物語は始まるんだよな。近所をパトロールして悪人から街を守ろうとする。
山崎 でもKick-Assは超能力も持っていなければ、特訓も積んでない只のギークだからとにかく弱い。一応、とある出来事のせいで体のあちこちに金属が埋め込まれているから痛みに多少強いっていう程度で・・・。
長谷川  私生活も報われない。憧れの女子ケイティにゲイと誤解されて、自分のゲイ友になってくれって言われるんだけど、「近づけないよりいいか」と思っちゃってそれを否定出来ないのが情けない。
山崎 そんな彼が、チンピラと街頭で必死に戦っているのを携帯の動画で撮られて、それがYouTubeに不げられたことで一躍人気者になっちゃうのよね。FaceBook・・・原作ではMyspaceなんだけど、フレンド申請も凄い数に。遂にはKick-Assのワナビーがニューヨークに溢れ出しちゃう。YouTubeやFaceBookがこんなにきちんと機能している映画って初めてかも。
長谷川 マフィアのボスのフランコが、そんな情けない自分の部下が次々と倒されているのはKick- Assの仕業と勘違いするんだよな。フランコのダメ息子で、Kick- Assに密かに憧れているギークのクリスが「僕がKick-Assに近づくよ」と父親に言うんだ。それで何をするのかと思いきや、ヒーローになる道具をあれこれ買ってもらって自らが覆面ヒーロー、Red-Mistを名乗るようになるっていう展開。そのまた一方で、Big DaddyとHit-Girlを名乗る謎のオッサンと幼い娘の怪しげな行動が描かれる。前半はこの三つのエピソードがバラバラに描かれるんだけど、あるところから一つにまとまって物語がドライブしだす。この脚本の構成がいい。
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山崎 この映画、脇の脇まで俳優が力を発揮していているよね。これって珍しいことかも。
長谷川 Red-Mistを演じるのは、『スーパーバッド 童貞ウォーズ』のマクラヴィンことクリストファー・ミンツ・プラッセ。マクラヴィンとはまた違うボンボンなギークをいい感じで演じてイイ味出していた。山崎 彼は最初、Kick-Ass役のオーディションを受けに来たんだけど、「普通の子という設定のKick-Assを演じるには、君にはカリスマがありすぎる」って言われてRed-Mistになったのよね。ラストシーンのミンツ・プラッセはいい! もう私は彼を「マクラヴィン」とは呼ばないね。
長谷川  ギークといえば、もともとマイケル・セラの親友で、今ではプラッセとも友人同士のメガネギーク、クラーク・デュークも好演していた。彼の出演シーンがほぼすべてコミックショップ内っていうのが素晴らしい。彼は『Kick-Ass』には読み合わせテストの時から関わっていて、続編があるなら自分もヒーローになりたいって言っていた。実現すると面白いかも。
山崎  デュークとKick-Assが憧れるケイティを演じるリンゼイ・フォンセカは、クラーク・デュークも出演していた『Hot Tub Time Machine』にも出ていて、業界的にも推しが入っている感じね。個人的には、ケイティのせいでイヤイヤボンクラ三人組と行動を共にすることになる彼女の親友を演じたソフィー・ウーが可愛くて気になった。最後にツイストもあったしね。
長谷川  彼女は珍しく日本人でも可愛いと感じるアジア系女優だよね。若手ばっかり名前を挙げたけど、ニコラス・ケイジがちょっと頭がおかしいオッサンを演じていて久々に輝いている。Big Daddyのコスチュームがほとんどバットマンなのも最高。
山崎  フランコを演じるマーク・ストロングも素晴らしかった。こういう映画に出る悪役としては『T2』のロバート・パトリック以来の真に迫った恐ろしさなんじゃないかな。本当に少年も幼女も躊躇なく殺しそうな迫力で、最後の最後まで「こんなに強くて残酷な男に主人公が勝てる訳がない」と思わせる。モリアーティ教授の前座で、予定調和なやられ役でしかなかった『シャーロック・ホームズ』の時とはえらい違いだわ。
長谷川  Hit-Girlが、彼にガチで殴られて半泣きになるシーンはすごかった。日本で喩えると竹内力に全力で殴られる大橋のぞみって感じ。すごいインパクト。しかし、ベスト・アクトはそのHit-Girlを演じたクロエ・モレッツ嬢だよな。何と1997年生まれ!
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山崎   『インタヴュー・ウィズ・ヴァンパイア』の頃のキルスティン・ダンスト以来のオーラを感じたわ。そんな彼女がジョーン・ジェットの「バッド・リプテイション」をBGMにマフィアの手下を殺しまくるシーンは格好いいとしか言いようがない。本当に名シーンなのに、アメリカではこのシーンが問題になってR指定になっちゃったからそんなヒットしなかったのよねー。おかげでMTV映画賞にもノミネートされず…。本来見て欲しい観客層に届かなかったのは残念ね。
長谷川   ガチで人を殺しているのが少女というより幼女だからね。監督のマシュー・ヴォーンがイギリス人だからか、普通のアメリカ映画と違って暴力描写に手加減がないのも輪をかけている。殴られたら痛いし、ナイフに刺されたら皮膚が切れて血が流れるという当たり前のことを容赦なく描いている。Kick-Assなんて最初からボロボロで後半は息も絶え絶えって感じだからね。
山崎  その主人公、Kick-Assに大抜擢された英国生まれのアーロン・ジョンソンは、ナード&キュート系の新星登場って感じだった。でもジョン・レノン役を務めた『ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ』の女性監督で、彼より二十三歳年上のサム・テイラー・ウッドと出来ちゃった婚約。亀梨とキョンキョンどころの話ではない出来事で、少女たちの心に消えない傷を残したわ…いや、私は相変わらず好きですけど。彼はジェイミー・ベル、アントン・イェルチン、ジョシュ・ハッチャーソンなんかと共に新スパイダーマンの最終候補にも残って、アンドリュー・ガーフィールドに破れたのよね。
長谷川  でもさあ、今さらスパイダーマンに選ばれても意味ないよ。非モテのティーンがヒーローになって舞いあがるけど、やがてヒーローであることの責任の重さを引き受けざるをえなくなる・・・っていうこの映画のテーマは、『スパイダーマン』と同じだから。
山崎  舞台もニューヨークで、主人公がクイーンズあたりに住んでいるって設定も『スパイダーマン』と同じだもんね。
長谷川  新『スパイダーマン』は主人公の設定をティーンに戻すそうだけど、そこで描くべきテーマは全て『Kick-Ass』で語られてしまった。これを超える作品を作るのは相当キツいと思う。僕はこの映画、事前情報でてっきり超能力も無いのにスーパーヒーローに憧れるワナビーを描いたコメディなんだと思っていた。でも実は超能力という設定をとっぱらってもなおスーパーヒーローは成立するのかっていう、スーパーヒーロー論を語った映画になってるんだよ。
山崎   確かに構成が複雑で、非常に脱構築的な構造になっているよね。「ヒーロー」と言いながら、Kick-Assは物語の中心となるドラマとはまったくもって無関係な部外者でしかない。Kick-Assには何のパワーもない。彼はどんなにヒーローになりたくても、どこまでいっても巻き込まれた普通の男の子に過ぎないの。
長谷川   本当の主人公は、強くてしかも戦う理由を持っているHit-Girlかもしれない。でもそこに紛れ込んでしまったKick-Assがただ正義のために戦うってところが泣ける。だからこの映画の真のヒーローは彼なんだと思う。『ウォッチメン』の真のヒーローが登場人物の中で一番弱いロールシャッハだったのと同じように。
山崎  MIKAとRedOneによる主題歌がそのテーマを端的に物語っているわね。
長谷川 「僕らは若い/僕らは強い/自分の居場所など探さない」に続いて、「僕らは格好よくない/でも自由だ/膝から血を流して走り続けている」だもんなー。『Kick-Ass』は格好わるい普通人として生き、それでも戦う我々へのアンゼムなんだと思う。






westerberg at 22:14|Permalink必修科目 

December 02, 2007

学園映画のニュー・クラシック『Superbad』

superbad1山崎:今年の九月、ニューヨークで観てきた『Superbad』。日本では残念ながらDVDスルーが決まっちゃったね。

長谷川:07年の一番の重要作なのになあ!

山崎:どういうところが特に重要なのかしら?

長谷川:ここ数年、アメリカのコメディは年ごとにキングが変わっていると思うんだ。ベン・スティラー→ウィル・フェレル→スティーブ・カレルって感じで。その全員に絡んでいるのが、本作のプロデューサー、ジャド・アパトウなんだよ。

山崎:彼はもともと『ベン・スティラー・ショー』のクリエイターで、ウィル・ フェレルの主演作のプロデューサーを経て、『40歳の童貞男』で監督デビュー。いきなり大ヒットを飛ばした人よね。

長谷川:彼がやっていたのが伝説の学園TVドラマ『フリークス学園』。そのオーディションで見いだして以来、愛弟子として育て上げてきたのが俳優/脚本家のセス・ローゲンなんだ。今年のコメディ・キングといえば、何と言っても彼だよ!

山崎:アパトウが監督した主演作『Knocked Up』が100億円を超えるメガヒットを記録して、アパトウ製作のもとで自分で脚本を書いたこの『Superbad』が続けざまに大ヒット、ダブル・ミリオン選手だものね。しかもこの作品、学園物出身者が手がけた学園映画のニュー・クラシックになっているのが嬉しい。

長谷川:ローゲンと共同で脚本を手がけたのは、彼の幼なじみのエヴァン・ ゴールドバーグなんだけど、これまた学園映画デビュー作にふさわしく、彼ら自身の半自伝的作品なんだよな。

山崎:ジョナ・ヒルとマイケル・セラ演じる主人公の名前もそのまんま、セスとエヴァン(笑)。彼らは典型的な高校の負け組で、非モテ童貞キャラなんだけど、ひょんなことから憧れの女の子たちに高校生活最後のビッグな「親の居ぬ間のパーティ」に招かれることになるのよね。

長谷川:オマケに強がって「酒を調達できる」と言ってしまったものだから、大変なことに! 酒を持っていけばパーティで人気者になれて、女の子とヤラせてもらえるかもしれないと妄想を膨らました彼らが繰り広げる一夜のドタバタ劇になっている。

superbad2山崎:彼らと同じく非モテキャラの友だちのフォーゲルが調達してきた怪しげなIDカードの名前が「マクラヴィン」。その「マクラヴィン」が酒屋で強盗に巻き込まれて、変わり者の警官二人に引き回されるパートと、別の男から酒を調達しようとしたセスとエヴァンのパート、マルチプロットになるところから俄然面白くなる。奇跡の一夜物&マルチプロットの群集劇&クライマックスは「親の居ぬ間のパーティ」! とことん学園物のセオリーに忠実でありながら、ものすごくフレッシュな作品を作ったねえ。

長谷川:脚本家コンビは、82年生まれだから高校を卒業したのは00年。20世紀いっぱいは高校生だったわけで細かい描写が生々しい。ティーンに熱狂的に支持されたのも良く分かるよ。日本でことさら童貞、童貞ってウルサい人たちは実はモテていた人が多くて言っていることが嘘くさいんだけど、この映画には真心がこもっている。基本はチンコやゲロといった下ネタばかりのドタバタなんだけど。

山崎:でもティーンだけではなく、批評家筋にも大いに受けたんだよ。それも分かる。誰もがちょっとホロリとするんだよね……。途中でセスがエヴァンに急に、「なんでお前だけダートマスのカレッジになんか行くんだよ! ずっと一緒だって言ったのに、俺馬鹿だから同じ学校行けないじゃん!」って言うシーンがあって、そこからこの映画の本当の主題が明らかになってくるのよね。

長谷川:そう、セスはとにかく「セックス、セックス」とばかり言ってるんだけど、本当に大事なのは男子同士の友情なんだ。この映画のテーマ実は童貞脱却がじゃなくて、「少年時代の終わり」。高校卒業や女の子との付き合いをきっかけに、それまでの男の子だけの友情の世界から離れていくせつなさと悲しみを実感をもって描いたのが『Super Bad』なんだよ。

山崎:ずっと一緒だった二人の人生が、高校卒業を機に分かれていくっていうのも学園物の永遠のテーマ。『天国の口、終わりの楽園』を美少年コンビじゃなくて、生々しい等身大の男の子でやったのがこの映画なのね。パーティで人気者になって、女の子とセックス出来るのがクライマックスじゃない。大人になったという晴れやかさと、真に愛して、全てを分かち合ってきた相手をある意味では永遠に失ったという寂しさが同居するモールでのラスト・シーンは、正直せつなくてちょっと泣けた。

長谷川:おまけにそこにかかるのがカーティス・メイフィールドの「P.S.アイ・ラブ・ユー」! ちなみにタイトルの「Super Bad」はジェームズ・ブラウンのヒット曲からで、サントラのスコアはブーツィー&キャットフイッシュのコリンズ兄弟にクライヴ・スタッブルフィールド、ジャボス・タークスら当時のJBズのメンバーにバーニー・ウォーレルとジェリー・ヘイが加わったファンクオールスターズが演奏していて無茶苦茶ファンキー。アパトウの趣味なんだろうけれど、70年代ソウルをBGMに使ったことで、いつの時代にも起こえる普遍的な物語として観ることが出来るようになっているのが憎いんだよ。

山崎:アパトウ周辺にいたジョナ・ヒルと『ブルース一家は大暴走!』に出ていたマイケル・セラが好演しているね。脚本家コンビが自分らと似ていることを基準に俳優を選んだから、”記号としての非モテ”でなく本当にモテなさそうな風情なのがいい。
「愛しているよ」「屋根に登ってそう叫んだっていい」「どうしてもっと早く言わなかったんだろう、これからは毎日言い合おうな」って言いながら、セスがエヴァンの頬を愛おしげに叩くシーンは本当に悲しくて、おかしくて、胸がいっぱいになるような場面なんだけど、やおいが入り込む要素ゼロ! 

長谷川:彼らがリアルとするなら、もう一人の主人公マクラヴィンは一種のヒーローだね。二人以上にモテない感じ、っていうか正直キモいんだけど、 一種『ナポレオン・ダイナマイト』のジョン・ヘダー的な神々しさがある。演じているクリストファー・ミンツ・プラッセはこれがデビュー作。高校の演劇部でやっているのをスカウトされたらしい。

山崎:実は、主人公二人が夢見ていた冒険を全部やってのけるのがマクラヴィンなのよね。彼はもう学園映画の重要アイコンでしょう!

superbad3長谷川:マクラヴィンに絡むのがセス・ローゲンと現『サタデーナイト・ライブ』レギュラーのビル・ヘダー扮する警官コンビなんだけど、彼らも冴えない感じで。しかしこれだけイケメンが出てこない映画も珍しい(笑)。

山崎:イケメンは出てこなくても、女子も充分に楽しめると思うよ。女の子キャラの描き方がとってもフェアで私は好きだった。セスとエヴァン、どちらが憧れている女の子も、二人が勝手に妄想していたような娘じゃないっていうことが分かる。いい意味で、彼らは裏切られるの。

長谷川:せっかく苦労して酒を調達してきたのに、パーティじゃ勝ち組がもう要領よくアルコールを入手して、ベロンベロンに酔っぱらっているんだよな。セスはヤリマンだと思っていた娘に真っ当なこと言われて断られて、「やれると思ったのに…」ってマジ泣き。あそこも名シーン。

山崎:マイケル・セラは既に次回の主演作『Juno』が大きな話題になっているでしょう。ジョナ・ヒルも『サタデー・ナイト・ライブ』の現役生や他のアパトウ作品に絡んでいて、セス・ローゲンとアパトウ周辺からは今後も名作が続出する予感ね。

長谷川:セス・ローゲンの脚本家としての次回作、『Drillbit Taylor』はなんとジョン・ヒューズ原案で、オーウェン・ウィルソン主演作なんだよな。これは学園物の伝統と、コメディのニューウェイブが常にリンクしているっていうことの証明だよ。

山崎:コメディのキングだけではなく、学園映画の顔ぶれも毎年のように代替わりしていく。だからこそ、このジャンルは永遠に面白く、若い。相変わらずこのコンビで追いかけ続けるしかないね。

westerberg at 23:09|Permalink必修科目