December 02, 2007

学園映画のニュー・クラシック『Superbad』

superbad1山崎:今年の九月、ニューヨークで観てきた『Superbad』。日本では残念ながらDVDスルーが決まっちゃったね。

長谷川:07年の一番の重要作なのになあ!

山崎:どういうところが特に重要なのかしら?

長谷川:ここ数年、アメリカのコメディは年ごとにキングが変わっていると思うんだ。ベン・スティラー→ウィル・フェレル→スティーブ・カレルって感じで。その全員に絡んでいるのが、本作のプロデューサー、ジャド・アパトウなんだよ。

山崎:彼はもともと『ベン・スティラー・ショー』のクリエイターで、ウィル・ フェレルの主演作のプロデューサーを経て、『40歳の童貞男』で監督デビュー。いきなり大ヒットを飛ばした人よね。

長谷川:彼がやっていたのが伝説の学園TVドラマ『フリークス学園』。そのオーディションで見いだして以来、愛弟子として育て上げてきたのが俳優/脚本家のセス・ローゲンなんだ。今年のコメディ・キングといえば、何と言っても彼だよ!

山崎:アパトウが監督した主演作『Knocked Up』が100億円を超えるメガヒットを記録して、アパトウ製作のもとで自分で脚本を書いたこの『Superbad』が続けざまに大ヒット、ダブル・ミリオン選手だものね。しかもこの作品、学園物出身者が手がけた学園映画のニュー・クラシックになっているのが嬉しい。

長谷川:ローゲンと共同で脚本を手がけたのは、彼の幼なじみのエヴァン・ ゴールドバーグなんだけど、これまた学園映画デビュー作にふさわしく、彼ら自身の半自伝的作品なんだよな。

山崎:ジョナ・ヒルとマイケル・セラ演じる主人公の名前もそのまんま、セスとエヴァン(笑)。彼らは典型的な高校の負け組で、非モテ童貞キャラなんだけど、ひょんなことから憧れの女の子たちに高校生活最後のビッグな「親の居ぬ間のパーティ」に招かれることになるのよね。

長谷川:オマケに強がって「酒を調達できる」と言ってしまったものだから、大変なことに! 酒を持っていけばパーティで人気者になれて、女の子とヤラせてもらえるかもしれないと妄想を膨らました彼らが繰り広げる一夜のドタバタ劇になっている。

superbad2山崎:彼らと同じく非モテキャラの友だちのフォーゲルが調達してきた怪しげなIDカードの名前が「マクラヴィン」。その「マクラヴィン」が酒屋で強盗に巻き込まれて、変わり者の警官二人に引き回されるパートと、別の男から酒を調達しようとしたセスとエヴァンのパート、マルチプロットになるところから俄然面白くなる。奇跡の一夜物&マルチプロットの群集劇&クライマックスは「親の居ぬ間のパーティ」! とことん学園物のセオリーに忠実でありながら、ものすごくフレッシュな作品を作ったねえ。

長谷川:脚本家コンビは、82年生まれだから高校を卒業したのは00年。20世紀いっぱいは高校生だったわけで細かい描写が生々しい。ティーンに熱狂的に支持されたのも良く分かるよ。日本でことさら童貞、童貞ってウルサい人たちは実はモテていた人が多くて言っていることが嘘くさいんだけど、この映画には真心がこもっている。基本はチンコやゲロといった下ネタばかりのドタバタなんだけど。

山崎:でもティーンだけではなく、批評家筋にも大いに受けたんだよ。それも分かる。誰もがちょっとホロリとするんだよね……。途中でセスがエヴァンに急に、「なんでお前だけダートマスのカレッジになんか行くんだよ! ずっと一緒だって言ったのに、俺馬鹿だから同じ学校行けないじゃん!」って言うシーンがあって、そこからこの映画の本当の主題が明らかになってくるのよね。

長谷川:そう、セスはとにかく「セックス、セックス」とばかり言ってるんだけど、本当に大事なのは男子同士の友情なんだ。この映画のテーマ実は童貞脱却がじゃなくて、「少年時代の終わり」。高校卒業や女の子との付き合いをきっかけに、それまでの男の子だけの友情の世界から離れていくせつなさと悲しみを実感をもって描いたのが『Super Bad』なんだよ。

山崎:ずっと一緒だった二人の人生が、高校卒業を機に分かれていくっていうのも学園物の永遠のテーマ。『天国の口、終わりの楽園』を美少年コンビじゃなくて、生々しい等身大の男の子でやったのがこの映画なのね。パーティで人気者になって、女の子とセックス出来るのがクライマックスじゃない。大人になったという晴れやかさと、真に愛して、全てを分かち合ってきた相手をある意味では永遠に失ったという寂しさが同居するモールでのラスト・シーンは、正直せつなくてちょっと泣けた。

長谷川:おまけにそこにかかるのがカーティス・メイフィールドの「P.S.アイ・ラブ・ユー」! ちなみにタイトルの「Super Bad」はジェームズ・ブラウンのヒット曲からで、サントラのスコアはブーツィー&キャットフイッシュのコリンズ兄弟にクライヴ・スタッブルフィールド、ジャボス・タークスら当時のJBズのメンバーにバーニー・ウォーレルとジェリー・ヘイが加わったファンクオールスターズが演奏していて無茶苦茶ファンキー。アパトウの趣味なんだろうけれど、70年代ソウルをBGMに使ったことで、いつの時代にも起こえる普遍的な物語として観ることが出来るようになっているのが憎いんだよ。

山崎:アパトウ周辺にいたジョナ・ヒルと『ブルース一家は大暴走!』に出ていたマイケル・セラが好演しているね。脚本家コンビが自分らと似ていることを基準に俳優を選んだから、”記号としての非モテ”でなく本当にモテなさそうな風情なのがいい。
「愛しているよ」「屋根に登ってそう叫んだっていい」「どうしてもっと早く言わなかったんだろう、これからは毎日言い合おうな」って言いながら、セスがエヴァンの頬を愛おしげに叩くシーンは本当に悲しくて、おかしくて、胸がいっぱいになるような場面なんだけど、やおいが入り込む要素ゼロ! 

長谷川:彼らがリアルとするなら、もう一人の主人公マクラヴィンは一種のヒーローだね。二人以上にモテない感じ、っていうか正直キモいんだけど、 一種『ナポレオン・ダイナマイト』のジョン・ヘダー的な神々しさがある。演じているクリストファー・ミンツ・プラッセはこれがデビュー作。高校の演劇部でやっているのをスカウトされたらしい。

山崎:実は、主人公二人が夢見ていた冒険を全部やってのけるのがマクラヴィンなのよね。彼はもう学園映画の重要アイコンでしょう!

superbad3長谷川:マクラヴィンに絡むのがセス・ローゲンと現『サタデーナイト・ライブ』レギュラーのビル・ヘダー扮する警官コンビなんだけど、彼らも冴えない感じで。しかしこれだけイケメンが出てこない映画も珍しい(笑)。

山崎:イケメンは出てこなくても、女子も充分に楽しめると思うよ。女の子キャラの描き方がとってもフェアで私は好きだった。セスとエヴァン、どちらが憧れている女の子も、二人が勝手に妄想していたような娘じゃないっていうことが分かる。いい意味で、彼らは裏切られるの。

長谷川:せっかく苦労して酒を調達してきたのに、パーティじゃ勝ち組がもう要領よくアルコールを入手して、ベロンベロンに酔っぱらっているんだよな。セスはヤリマンだと思っていた娘に真っ当なこと言われて断られて、「やれると思ったのに…」ってマジ泣き。あそこも名シーン。

山崎:マイケル・セラは既に次回の主演作『Juno』が大きな話題になっているでしょう。ジョナ・ヒルも『サタデー・ナイト・ライブ』の現役生や他のアパトウ作品に絡んでいて、セス・ローゲンとアパトウ周辺からは今後も名作が続出する予感ね。

長谷川:セス・ローゲンの脚本家としての次回作、『Drillbit Taylor』はなんとジョン・ヒューズ原案で、オーウェン・ウィルソン主演作なんだよな。これは学園物の伝統と、コメディのニューウェイブが常にリンクしているっていうことの証明だよ。

山崎:コメディのキングだけではなく、学園映画の顔ぶれも毎年のように代替わりしていく。だからこそ、このジャンルは永遠に面白く、若い。相変わらずこのコンビで追いかけ続けるしかないね。

westerberg at 23:09│ 必修科目