太陽と水と笑顔

CSR(企業の社会的責任)・サステナブルな社会のための企業活動や情報開示の在り方について、「グローカル」な視点で考えていきたいです。日々の雑感も。

非財務情報の先を見つめる投資家

日本でも企業の戦略や業績などの「財務報告」と、ESGやCSRなどの「非財務報告」が一体となって企業の価値を表現する「統合報告」の発行が年々増えています。ですが、昨今の国内の統合報告の趨勢を見てみると、少し投資家向けに重心が置かれ過ぎ、ESG情報は財務的成果に結びつかなくては意味がない、と断じられている傾向にやや疑問を感じている今日この頃です。
私自身、まだ答えのない旅の途中ですが、ここにひとつ別の見方を提示してみたいと思います。今回は、投資家・アナリストの観点からこの問いに迫りたいと思います。

多様な投資家の視点や手法と、対応を迫られるアナリスト

機関投資家のESGへの期待としては、「それが本業とどう結びつき、どのようにキャッシュ・フロー創出能力に結びつくのか、そのための重要な情報をわかりやすくコンパクトに開示してほしい」というものが命題となっています。これは極めてもっともな意見であり、投資家への基本的な開示方針はこれを主軸に考えるべきかと思われます。しかしながら、一方でこの考え方自体が従来の財務資本中心型の考え方であり、価値=財務資本という枠組みの延長であるようにも感じます。本当にそれだけでいいのか、考えてみたいと思います。

まずは世界の現状のESG投資手法の趨勢を概観してみましょう。 ESG投資の手法は、スクリーニングからインテグレーション、株主行動まで様々なアプローチあります。現状、欧米を中心に社会的に有害なテーマに、関連する銘柄を除外するネガティブスクリーニングが最大のアプローチであり、投資手法にESGを組み込むインテグレーションにおいても、直接的なキャッシュ・フローへの影響を計算しているケースはかなり少ないものと思われます。
参考)Global Sustainable Investing Review 2016

そうした中、経済産業省が進めている「持続的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産投資)研究会」で三菱UFJモルガン・スタンレー証券の松島氏は「非財務情報の何に注目するかがアナリストの眼力」「企業価値はIIRCの6つの資本などから実現し、企業のDNAを理解することが必要」と述べて、非財務情報を読み解き企業の実力を把握できるアナリストへの啓発の必要性を説いています。 http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/jizokuteki_ESG/pdf/001_10_00.pdf

直接的、短期的に成果につながりにくい非財務情報を読み解いていくのは、さぞかし困難なことかと思いますが、企業を様々な角度から分析できる報告があれば、多様な角度からの企業分析に役立つことでしょう。 キャッシュ・フローに結びつけやすいのは、主力事業や短期的な取り組みであり、長期的な価値創造を行う人材育成や研究開発、そして企業理念や地域社会活動などと結びつけるのは、極めて難易度が高いものです。だからこそ直接的にキャッシュ・フローを追いかけた開示を追い求めることは、逆に企業本来の多面的な価値創造能力を見つけることを、弱めてしまう恐れもあると感じます。

日経ベリタスが発表している、アナリストランキング総合1位のみずほ証券の渡辺英克氏は、アナリストとして大切にするのは、「バランスと仮説の検証」で、経営者がステークホルダーの支持を得られるかどうか、そういったバランスをもっているかを重視していると述べています。

このように、アナリストサイドも、企業価値の多様性、価値の多様性の時代に適応すべく、果敢に財務と非財務との落としどころを探っています。アナリストは当然ながら、企業がどのように将来的なキャッシュ・フローを創造していくのかの視点を持ちつつ、非財務情報も含めた分析力を高めています。そこにおいてさえ、「財務的価値」を超えた社会や投資家のニーズに敏感になっていることが感じられます。


ユニバーサルオーナーの視野は目先のキャッシュ・フローを超越する


それでは、機関投資家の観点ではどうでしょうか。 日本の年金を束ねる世界最大の年金基金であるGPIFのようなユニバーサルオーナーは、たとえば喫煙などの社会的な課題自体の解決により、社会や市場自体が健全になることでこそ、長期的なリターンが得られるというスタンスがあります。そして、長期的な社会の健全性が最終的な財務リターンにつながるという視点に立脚しています。これは、どの社会課題解決が一企業のどれだけのキャッシュ創出に寄与するか、といった視点を超越した、まさに、「ユニバーサル」な観点です。(『ESG読本』日経BP社)

世界最大規模の機関投資家であるブラックロックのラリー・フィンクCEOは、毎年世界の大企業向けに書簡を送っています。一昨年には、配当を安易に増やすことを戒め、昨年からESGについての開示を求めるなどしていますが、これも長期投資家ならではの、ユニバーサル的な視点が介在していると言えるのではないでしょうか。

オックスフォード大学のAmir Amel-Zadeh氏とハーバード・ビジネス・スクールのGeorge Serafeim氏が3月に発表した機関投資家を調査した論文では、ESG投資がメインストリームになるなか、クライアントやステークホルダーの要求や、倫理的な責任によってESG投資を行う割合が、最大のESG投資市場の欧州では、それぞれ4割(全体でも約3割)程度もあることが判明しており、単に投資パフォーマンスにつながるという要因だけを価値観の主軸に置くのは危険でしょう。

このように非財務情報を見る投資家層が多岐にわたるなか、多様な分析ニーズに応えるためには、統合報告の役割を、長期的であれ何であれ、財務的成果のみに収れんさせてしまう考え方に、疑問の余地があると感じないでしょうか。

それはすなわち、環境・社会基盤(社会)と経済基盤(お金)の切っても切り離せない結びつきが明らかになる中で、資本主義システム自体がもはや財務的成果中心(お金のみ)の考え方では持続不可能になっていることに、多くの人が気づき始めているからではないでしょうか。

企業報告はどこへ行くのか〜財務資本に結びつかない価値編

日本でも企業の戦略や業績などの「財務報告」と、ESGやCSRなどの「非財務報告」が一体となって企業の価値を表現する「統合報告」の発行が年々増えています。この動きを黎明期から現場で見守ってきた私からすると、やっと事業活動も社会や環境に配慮して資本主義も修正されていくのかと期待に胸を膨らませたものです。ですが、昨今の国内の統合報告の趨勢を見ている中で、なんだか微妙に違和感を覚える部分もあります。私自身、まだ答えのない旅の途中ですが、ひとつの見方として参考になれば幸いです。

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財務資本に結びつかない情報は不要か

最近特に感じているのは、統合報告が投資家向けの、資本市場のための開示という側面が強くなっている(なり過ぎている)ことです。IIRCのフレームワークに「財務資本提供者」を主軸に据えた報告が第一義とされていることや、日本の投資家向け企業情報開示に関する各種アワードにおける統合報告(非財務情報開示)評価が進んでいること、これにESG投資の拡大が相まって「投資家向けの開示」の側面が強くなっているからかもしれません。

市場がESG要因を包摂しつつあるという点では喜ばしいことですが、気になるのは、非財務情報であれ、何であれ、キャッシュ・フロー(現金)につながる情報こそマテリアル(重要)であり、それ以外は無用の長物(よくわからない得体のしれない情報→意味がない情報)だから短くまとめよ、という意見が散見されることです。CSRの世界でも、CSR戦略や、CSVといった概念が広がる中で、事業に寄与しない、あるいは関連性の低い社会貢献活動は良くない、マテリアル(重要)でないという考え方があります。

確かに投資家からすれば、株価上昇や配当につながる活動こそが重要であり、非財務情報と財務情報のつながりが知りたい、それ以外は不要な情報という考えも理解できます。しかし、それでは測定できない活動、お金につながらない活動は企業が取り組むべきではないのでしょうか。そして、報告する意味がないものでしょうか。

あらゆる活動や価値を現金化することは可能か

重要な視点の一つは、「長期的であれ短期的であれ、非財務情報を数値化したり、それをキャッシュ・フローに明確に結びつけることは、不可能なことも多い」ということです。

フランスのケリング社などが自然資本プロトコルを見据え環境財務報告に果敢に挑戦しているように、ESG情報をキャッシュに換算していく試みが進んでおり、今後ICTやAI技術の発展によって飛躍的に可能になっていくことも考えられます。また、NGOを中心にインパクト評価も進んでおり、創出した社会的な価値を把握する試みも広がりを見せていくでしょう。こうした動きが重要であることは前提ですし、可能な部分は財務資本であれ、自然資本であれ、社会関係資本であれ相互の関係性を具体的にすべきであると考えます。
ケリング社 環境損益計算書 http://www.kering.com/en/sustainability/epl
社会的インパクトイニシアチブ http://www.impactmeasurement.jp/

それでも、すべての非財務情報が数値化でき、しかもそれが財務資本に換算できるというのは難しいのではないでしょうか。しかも統合報告が目指す長期の影響となるとさらに困難です。女性の役員が多いと10年後に営業利益がどれくらい高いとか、障がい者雇用比率がどれだけ高いと、どれくらいのキャッシュ・フローにつながるのかとか、そんなことを示さないと開示できないのでは、何も開示できませんし、開示までのコストや時間も計り知れません。統合報告の重要な役割は、「数値にし得ない定性情報からインスピレーションを与える機会を提供する」ことにもあるのではないでしょうか。まずは企業の方針やステークホルダーの関心などを勘案して、企業がそれに対してどう考え取り組んでいるのかを、できるだけわかりやすく伝えるということが重要です。なぜなら、儲かるからその活動をしているわけではなく、企業が目指す価値創造だからその活動をしている、という観点が統合思考なはずだからです。

今回は統合報告(企業報告)における問題提起と、報告の目的と手段の再確認を提起させていただきました。次回は少し投資家やアナリストの視点にも焦点を当ててみたいと思います。

アニュアルレポート不要論からIRの本質を考える 3

当たり前になりつつある「いい企業」への投資

企業情報をアニュアルレポートで多角的に表現していく機運の高まりは、社会的責任投資として成長してきたESG(環境、社会、ガバナンス)関連情報の投資への取り込みが、年金基金やアクティブ運用投資家といった主流の機関投資家に広がるいわゆる「ESGのメインストリーム化」によって促進されています。

国連が主導してESG投資を進めるPRI(責任投資原則)の署名機関数は45兆ドルの資産を代表する1300機関以上(http://www.unpri.org/about-pri/about-pri/)にのぼっています。PRIはファンドマネージャーがESG投資をするための手引(http://goo.gl/f8JyOY)を発行するなどして投資家サイドの啓発を行い、その中でも「アニュアルレビューなどによる情報収集」を促しています。

日本においても、JSIFの年金基金に関する調査(http://www.jsif.jp.net/#!pension-esg/cqjm)によると、8割の年金基金が「今後ESG情報は企業にとって重要」と答え、65%が既にそれらは企業の株価に影響を与えているとあり、出遅れていた日本における長期資金もESGを重視する方向にあります。

さらにはそういった投資家に情報を提供する情報ベンダーや情報提供機関も充実してきています。Bloomberg(https://www.env.go.jp/council/02policy/y0211-04/ref05.pdf)、Thomson Reuter(http://goo.gl/jFC8Qi)、MSCI(http://www.msci.com/products/esg/about_msci_esg_research.html)など大手情報ベンダーによるESG情報データ提供や、CDP(https://www.cdp.net/en-US/Pages/HomePage.aspx)による温室効果ガス、水資源、森林資源についての環境負荷情報収集と提供、FTSE 4 GOODやDJSIなどのサステナビリティインデックスの定着など、世界の投資市場はESG情報を取り込むのが当たり前になっていくものと思われます。


もはや読み手は投資家だけではない

ステークホルダー経営はもはやCSR分野の話ではなく、企業経営自体にも深く関係します。三谷宏治氏の『ビジネスモデル全史』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)における戦略的フレームワークの特徴においても、これからのビジネスモデルはステークホルダー全体を巻き込んで考えていかなくてはならないことが示されています。

企業と社会の価値創造を両立させることを説いたマイケル・ポーターのCSV(共有価値の創造)も耳にすることが多くなってきましたが、社会的価値創造とビジネスの対象がお客様からステークホルダーに広がるように、ARの対象も投資家からステークホルダーに拡張され、そのコミュニケーションから価値創造が生まれていく。ARはその最重要ツールに位置づけられるべきではないでしょうか。

そうしたツールであれば、例えば従業員が自社のビジョンや戦略、リスクと機会、財務の状況を総合的に把握する材料となり、顧客や社会に対して貴社の価値創造を伝えるブランディングツールとなり、公共機関やNGOとのオープンな対話のためのツールとして機能するものと成り得ると考えられます。(勿論、具体的なターゲットと用途はそれぞれ異なり、編集していく必要があります)

このようにARは市場の変革、社会の要請、ビジネスモデルの変容といった環境の激変のなかで、ステークホルダーと共にある企業として、ますます重要な情報開示・コミュニケーションツールへの進化していくものと考えられます。機関投資家向けの情報開示が必要とされる企業は、今こそARの在り方を見直す機会ではないでしょうか。

(※2015年3月の記事を元に作成)

地方創生映画“クハナ!”が照らす「価値」の意味

「価値」とは何か。人間は判断を理性的に行う生き物で、特に企業活動では「価値」はお金に換算できなくてはいけないと言う性があります。しかし、私が住む三重県桑名市のある映画づくりプロジェクトを通して、本当の価値とは何かというひとつのヒントを得られた気がします。その奇跡ともいえる挑戦をご紹介したいと思います。

前代未聞の映画づくり

それは桑名市を舞台に制作された、廃校寸前の小学校でジャズバンドを始めた生徒や、それを見守る大人たちの、笑いあり、涙ありのハートウォーミングな映画です。ストーリーの面白さや映画の完成度が高いことはYahoo!映画の新作評価ランキングで、総数は少ないながら1位をキープし続けたことからも折り紙つきですが、この映画の一番の特長は、その映画を作った桑名の町と監督、そしてその映画づくりが起こした奇跡の数々です。



そもそも、映画ができたきっかけは、夫の転勤で東京から桑名に移り住んできた一人の女性が、この町の魅力を伝えようと始めたブログでした。東京で知り合った『アンフェア』の脚本、『ドラゴン桜』の原作など数々のヒット作を手掛けた秦建日子氏が、そのブログを読んで「桑名で映画づくりも面白そうだな」と反応したところ、桑名の町を盛り上げたいと考えて集まっていた地元の有志の心に火をつけ、それに監督が応える形で現実化したのです。従って当初の資金はゼロ。成功の見込みがないどころか、大きなリスクを背負った出発でした。そんな状況でもこの挑戦に掻き立てたのは、「自分の作品が、視聴率とか出版部数とか興行成績というような数字だけでなく、一つの町に、社会に、様々な角度から貢献できるかもしれないという可能性」に、どうしようもない「やりがい」を感じたからとのことです。(引用『予想を超える化学反応。自分の街がもっともっと好きになる地方創生ムービー2.0というもの。』映画づくりの経緯はこちらに詳しく、かつ生き生きと描かれていますhttp://otonamie.jp/?p=22205

このように、この映画が実現した背景には、秦監督や、同じく立ち上げ時から音楽担当の立石氏などの新しい可能性への挑戦意欲と、桑名を愛する地元の有志(のちに「クハナ!)映画部に発展)による地元愛の相乗効果があったのです。その「クハナ!」映画部の代表、林恵美子さんに、この映画創りとそこから生み出した価値について伺いました。

奇跡の数々の原動力は、子どもたちのピュアさ


上記のように昨年電光石火のごとく立ち上がった映画プロジェクトですが、当然ながら「想い」だけでうまくいくほど甘くはなく、その困難たるや想像を絶するものでした。資金難や妨害者の出現、チーム内での衝突など、時間だけが刻々と過ぎる時期が続き、「本当に映画なんて作れるのか」と不安が募り、何度諦めかけたかわからないとのこと。

そんな時、乗り越える原動力となったのは、この地域を中心に選ばれた映画の主役である子役たちが、毎日楽器の練習を必死にしている姿でした。子どもたちが映画の完成を夢見てひたすら頑張って練習しているのに、大人の都合で諦めてしまうことは、絶対にできない。奇しくも、映画の内容と連動するかのように、子どもたちのピュアな気持ちが、大人たちの心を動かしていくのでした。

そして今年1/31のキッズ演奏お披露目会時に桑名市民会館大ホール1,000人動員を成し遂げると、風向きも変わり徐々に協力者が増えるようになり、3/31のクライマックスシーン撮影時には、年度末の平日という日程にもかかわらずエキストラ1,000人を動員、そして9/3のイオンシネマ桑名での初日公開挨拶満席(同映画館初)の快挙を成し遂げたのです。

映画はツール 始まりに過ぎない

この映画は、「地方創生ムービー2.0」と銘打たれていますが、低予算でも地域が力を合わせることで、誰が見ても楽しめる高品質な映画を創れる次世代型の映画の在り方を提示しています。しかし、林恵美子さんによると、「映画は始まりに過ぎない」とのことです。映画をつくって終わりではなく、そこでできた絆や活力を次につなげていきたいとの想いで、10年は映画をテーマにしたイベントを続けていき、桑名に芽生えた関係性を育てていきたいとのこと。

すでに『映画「クハナ!」メモリアル〜くわな子ども音楽祭 くわな えむ じゃんぶる』というイベントを10月に行うことが決定しており、地元の竹を用いたドームで子供たちが楽器を作り、ぶっつけ本番で演奏をして楽しんだり、地元の食を楽しむなど、「クハナ!」らしいイベントになりそうだとのこと。それ以外にも自主的に楽器演奏をするゲリラ的な動きも起こり、いずれは主体的に町の人々がテーマを持ち寄ってイベントをしていくなどのアイデアも出ているとのこと。

こうした次につながる、あるいは町に広がる連鎖反応と、地域や住民自身の再発見こそが、地方創生ムービー2.0と言われる所以であり、地域活性化なのではないかと思います。まさに映画が人々の最高の「コミュニケーションツール」に進化しているところです。


成功とは何か 価値とは何か  

さて、話を最初に戻して、それではこの映画が示す「価値」、あるいは「成功」とは何でしょうか。興行収入か評価ランキングか、アンケート結果か…しかし林恵美子さんの次のような言葉から、私は自分が価値の呪縛に囚われていることに気づきました。

「価値とか手段とかよく言われるけれども、最初から何もないところからスタートして大変だったからこそ、よかったんじゃないかと思います。自分たちで苦労したからこそ奇跡が起きたんだと思います」

この言葉から私は、目的のないところ、わくわくするところ、自発的なところから「活性化」が生まれ、それ自体もまた何物にも代えがたい価値であるということに気づきました。最初から数値や目的化でがんじがらめにすると逆に活力が死んでしまいます。

例えば最初から地域にお金があって、一流プロデューサーや制作会社がついてヒット映画を創ったとしても、それだけが成功と言えるでしょうか。自分たちで主体的に、苦労しながらも楽しんでゼロから創り上げたからこその価値があるということです。この取り組みが地域の他の団体からも注目されており、最初から予算ありき、開催が決まっていてやるよりも、本当に何かを自発的にやりたい人が考えて動いて参画していく方が良いのではないかと、地域イベントの在り方が見直されるきっかけになるかもしれません。

印象的なエピソードとして、この映画にはスポンサーの場所や商品などが随所に登場しますが、これはスポンサーとの契約や要求といったいわゆるプロダクト・プレイスメントではなく、監督が自ら映画に組み入れたものがほとんどとのこと。一番苦しい時に、志を買ってポンと大金を出してスポンサーになってくれた企業ほど見返りを求めず、ただじっと支えてくれた、そんなスポンサーへの「恩返し」なのです。この善意と善意のつながりもまた、この映画の隠れた見どころです。


ややもすると現在の資本主義経済は、短期にしろ長期にしろ、感動さえも、「いつかお金につながらなければ価値がない」という理論さえ成立してしまう世界です。そうしたなかで、資本主義経済さえも、この桑名の映画と同じく、人間のそれぞれの暮らしと、幸せのためにあるひとつのツールなのではないかということを、思い出させてくれました。どのような町にも、企業にも、そこに生きる・働く人々の、情熱やこだわり、感動、そして日々の生活があり、それ自体もまた貴重な価値であることを忘れないようにしたいものです。

クハナ! 9/3から東海地区先行上映中 10/6から全国ロードショー http://kuhana.jp/

統合報告に挑むために、どの本を読むべきか

財務報告のみならず、リーダーシップや知財、ESG(環境、社会、ガバナンス)などの非財務情報を含めて、価値創造ストーリーとして開示する新しい時代の企業報告である統合報告。海外主導で始まった統合報告ですが、日本でも右肩上がりで急速に広がりを見せ、昨年大手企業中心に200社以上が発行、今年新たに発行を考えている企業も多い事でしょう。そこで今回は企業のリーダー層始め、実務担当者が参考にできる本の数々をご紹介します。


■最初に読むべきガイドライン

多くの関連書籍が出ているが、扱う内容はさまざま。目的に合わせて指針となるものを選びたい
まず前提として、書籍ではありませんが、統合報告を進めるうえで把握すべきガイドラインをご紹介します。国際統合報告フレームワーク、GRIガイドライン(第4版)、OECD多国籍企業行動指針、ISO26000、そして日本ではコーポレートガバナンス・コード、といったものが挙げられるでしょう。

それらは概して非常につまらないもので、また難解でもあり、読んでいて眠たくなることもあるかもしれません。しかし極めて重要なものなので、覚えてしまう必要はありませんが(全部覚えている人はいないと思います)、必ず一読する必要はあるものと思います。そのうえで、統合報告の参考になる市販本をご紹介します。目的によってどの本を選択すべきかの参考になればと思います。


■統合報告の本質をつかむ

まず、必読と言ってもいいのは今年6月に出版された『統合報告の実際』(2015)でしょう。国際統合報告評議会カウンシルメンバーのロバート・Gエクレス氏らによる本書では、国際統合報告フレームワーク(以下FW)の策定の経緯やその狙いと課題、さらには優良事例の分析から統合報告の重要概念であるマテリアリティについての深堀、そして統合報告の将来の可能性まで包括的にまとめられています。

それらは詳細で、本質的かつ公正であり、多くのデータや研究と深い分析をベースに書かれており、情熱と信念を感じるものとなっています。統合報告について何か読もうと考える方はぜひともこの書をお読みください。まさにあなた自身が、この壮大なプロジェクトの一員なのだと感じて力を得ることでしょう。

両氏が以前発行した『ワンレポート』(2012)では、透明性の高い報告を行い、社会課題に取り組む企業の経営成績が良いことを数々のデータと共に示しながら、新しい時代の報告の在り方を炙り出し、ノボ・ノルディスクやUTC、リコーと言った統合報告の先駆的企業の事例を挙げつつまとめ上げており、こちらも統合報告の経緯を知るうえで大変参考になるかと思います。


■統合報告を実務の観点から理解する

上記2冊は統合報告の本質に最も近い著作であると思われますが、ではどのように統合報告を進めていけばいいのかについては、新日本有限責任監査法人 市村清氏監修の『投資家と企業との対話』(2014)が参考になるでしょう。特に第二部においてFWに照らし合わせつつ、ビジョンや長期計画の設定やガバナンスの重要性など、どのようにそれを考え、実行していけばいいのかの勘所について掲載されています。

同じく市村清氏監修の『統合報告 導入ハンドブック』(2013)は(FWができる前のものですが)、ドラフトをベースに統合報告の考え方をわかりやすく解説してあり、初めて統合報告に取り組む方には参考になるものと思われます。(最後の「アニュアルレポートとCSR報告書等を1冊にまとめてみましょう」については媒体を1つにするという意味では捉えない方がいいでしょう)

尚この2冊は、日本において統合報告に取り組むにあたって実際的な観点で、平易な文章でまとめられていますが、具体的な「作り方」は書かれていませんのでご注意を。(理由は最後をご覧ください)


■様々な観点から統合報告を捉える

日本における現状の情報開示形態からどのように非財務情報を統合的にすり合わせて作り上げていくのか、有価証券報告書などの法定開示を意識しながら、多くの有識者の観点を集めて記載している宝印刷総合ディスクロージャー研究所『統合報告書による情報開示の新潮流』(2014)も、日本の現状からその開示の問題を扱ったものとして興味深いものです。国内事例として、武田薬品、オムロン、フロイント産業のキーパーソンへのインタビューもあり、統合報告への挑戦の現場の声として興味深いものになっています。

個人的なお気に入りとしては京都大学経済学博士の越智教授による『持続可能性とイノベーションの統合報告』(2015)です。財務・非財務、ハードロー・ソフトローの統合の本質的な問題点と解決法、戦略やリーダーシップ不在の日本企業の課題などからどのようにイノベーションに結び付けて「統合」していけるのか、広範な知識による深い分析が織り成されています。

論文的な緻密さのため、読み解くのは大変ですが、非常に示唆に富んでいます。第三部で展開されている監査・保証業務についての分析も、統合報告の信頼性をどのように担保し得るのか、監査の在り方にもイノベーションが必要であることが浮き彫りにされています。

このほか他者事例やベストプラクティス紹介と言う意味では、同類の分析資料として無料で手に入る日本公認会計士協会の『国際統合報告の事例研究』が大いに参考になるでしょう。神戸大学の名誉教授である古賀氏が中心に統合報告の発行形態から海外のベストプラクティスをまとめた『統合報告革命』も最近発行されています。


■統合思考経営を理解するための海外書籍

直接統合報告に言及する本ではないものの、社会と事業のサステナビリティを両立させるための海外著者の良書として、2冊ご紹介します(単純に読んで面白いのはこの2冊でしょう)。

アンドリュー・サビッツ氏の『サステナビリティ』(2008)では、なぜ企業がステークホルダーの意見を踏まえて事業活動すべきなのか、その最たる実例を挙げつつ、企業と社会のニーズがマッチする「スイートスポット」を見つけ出す手法と、実務担当者がサステナビリティ報告をするための具体的なてほどきが描かれており、グローバルな視点から事業と社会価値創造の統合という意味でのサステナビリティを把握できます。

また、ロンドンビジネススクールのリンダ・グラットン女氏の『未来企業―レジリエンスの経営とリーダーシップ』(2014)では、グローバル企業の実例に即しつつ、激変する市場環境下で生き残るために、企業が成すべきことについて述べられています。

サイロ(縦割り)的な組織運営を打破し、社外のネットワークを駆使しつつ、社内の活力を取り戻し、一見お金にならない活動に長期的な視点で投資し、レジリエンス(元に戻る力)を醸成すべきとあり、それを成し遂げる新しいタイプのリーダーと経営への期待が述べられています。まさに統合報告の目的と合致する内容と言えるのではないでしょうか。(マイケル・ポーター氏の「共有価値の創造(CSV)」についても無論参考になると思いますが、話が広がり過ぎるのでここではあえて触れません。)

以上、現状まだ多いとは言えない統合報告関連の書籍についてまとめてみました。制作実務ノウハウについてはそれほど多くありませんが、これは統合報告が画一的な制作技術で制作する質のものではないこともあるかと思います。

それぞれの企業で、統合報告の目的や意義を理解し、自社の目指す未来と、社会に創出していくべき価値とは何で、そのためにどのように体制を整備し、実施し、表現していくのか、これを議論・共有しながら自社ならではの開示を試行錯誤していく必要があるのでしょう。その旅路(journey)のお伴に、これらの本が役立てば幸いです。

2030年までに人類が解決すべき「持続可能な開発目標」

2000年に国連が主導して人類が2015年までに解決すべき目標を打ち出し、非政府組織、国、企業などが連携しながら取り組んできたミレニアム開発目標(MDGs)。おそらくほとんどの日本国民はご存じないかと思いますが、例えば世界の貧困や幼くして亡くなる子供をなくすとか、エイズやマラリアを根絶するとか、女性の地位を向上するとか、環境問題解決に取り組むなどなど、特に途上国を中心とした大きな課題を集約したものとして、最も大きいコンセンサスが得られたものでした。

私自身、この目標を知った時には、どこか地に足がついていないような、本当にそんな事が可能なのか大いに疑問を持っていましたが、例えば、最終報告書によると、2000年からの15年で極度の貧困から10億人以上の人々が脱却したり、開発途上地域における栄養不良の人々がほぼ半分になるなど、非常に目覚ましい成果を上げています。これらの成果はサステナビリティを考えるうえで極めて重大なものであると考えられます。
MDGs最終報告 
それらの成果に疑問を抱く声もありその計測方法や取り組みの内容に一層の改善は必要ですが、少なくとも世界の課題解決に向けた最大の拠り所として共有すべき目標であることは確かでしょう。(http://urx2.nu/ondT

さて、道半ばのMDGsの後を継ぎ、2016年から新たに「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)が定められ、先月25日に国連で採択されました。これは、途上国中心の課題から、人類全体の課題へと大きく対象を拡大し、経済・社会・環境(トリプルボトムライン)を踏まえてさらに意欲的に世界のサステナビリティを確保しようとする17の大目標を中心としたものです。

持続可能な開発目標

目標 1. あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる

目標 2. 飢餓を終わらせ、食糧安全保障および栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する

目標 3. あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する

目標 4 . すべての人々への包括的かつ公平な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する

目標 5. ジェンダー平等を達成し、すべての女性および女子のエンパワーメントを行う

目標 6. すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する

目標 7. すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な現代的エネルギーへのアクセスを確保する

目標 8 . 包括的かつ持続可能な経済成長、およびすべての人々の完全かつ生産的な雇用とディーセント・ワーク(適切な雇用)を促進する

目標 9. レジリエントなインフラ構築、包括的かつ持続可能な産業化の促進、およびイノベーションの拡大を図る

目標 10. 各国内および各国間の不平等を是正する

目標 11. 包括的で安全かつレジリエントで持続可能な都市および人間居住を実現する

目標 12. 持続可能な生産消費形態を確保する

目標 13. 気候変動およびその影響を軽減するための緊急対策を講じる*
*国連気候変動枠組条約(UNFCCC)が、気候変動への世界的対応について交渉を行う一義的な国際的、政府間対話の場であると認識している。

目標 14. 持続可能な開発のために海洋資源を保全し、持続的に利用する

目標 15. 陸域生態系の保護・回復・持続可能な利用の推進、森林の持続可能な管理、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・防止および生物多様性の損失の阻止を促進する

目標 16. 持続可能な開発のための平和で包括的な社会の促進、すべての人々への司法へのアクセス提供、およびあらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包括的な制度の構築を図る

目標 17. 持続可能な開発のための実施手段の強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する


我々の世界を変革する: 持続可能な開発のための 2030 アジェンダ(仮訳)

策定プロセスや今後の政策展開については以下が参考になります。
http://sus-cso.com/sutainability/wp-content/uploads/2015/09/MOE-mizushima.pdf

日本においてこの問題に取り組む主な団体としてサステナビリティCSOフォーラムがあり、様々な情報提供を行っていますのでご参照ください。


ミレニアム開発目標についても多くの企業がCSRやサステナビリティ課題としてこれらを大いに参考にして活動に組み込んでおり、今後、世界の課題を把握して取り組まねばならないグローバル企業を中心としたステークホルダー経営を標榜する企業にとって大いに参考になる目標となります。

+MDGsへの企業の取り組みの参考(HP、ネスレ、三菱商事など)
 http://www.21ppi.org/pdf/thesis/060309.pdf
+オリンパスのMDGsへの取り組み
 http://www.olympus.co.jp/jp/event/picturethis2010/
+Philipsは既にSDGsへのコミットメントを大きく掲げています
 http://www.philips.com/philips/shared/assets/global/sustainability/downloads/Philips-SDG-Infographic.pdf
+Novo Nordiskも早くもこの合意を歓迎し、健康面の目標に取り組むことを表明
 http://www.novonordisk.com/about-novo-nordisk/default/positions/post-2015-development-agenda.html

また国連グローバルコンパクトにおいてもミレニアム開発目標を推進しており、持続可能な開発目標に受け継がれていくことは間違いありません。

ここにおいても、特にその企業にとって関係の深い課題に積極的にコミットしていくマテリアリティ経営が中心となると思いますが、グローバルなステークホルダーの関心や社会課題を踏まえて長期的な価値創造を達成していきたいビジョナリーな企業(やそれを促進する制度や投資、市民社会)が課題解決の主役になっていくことは想像に難くありません。

サッカーで民族紛争を乗り越えるボスニアと日本の架け橋

最悪の民族紛争の地で、日本人がサッカーを通して民族融和に挑戦したプロジェクトがあることをご存知でしょうか。今回はそのプロジェクトの紹介と、戦後70年を迎えた日本のこれからを考え、サッカーの力を考えるのにふさわしい機会についてお知らせしたいと思います。

サラエボ・フットボール・プロジェクト

その男森田太郎氏は、静岡県立大学国際関係学部の同期生であり、当時からバイタリティに溢れた学生でした。ちょうど大学時代の1999年、タジキスタンで凶弾に倒れた国際政治学者秋野豊氏の基金を生かした第一回秋野豊賞に、森田氏のボスニアにおける民族融和サッカープロジェクト案が選定され、「サラエボ・フットボール・プロジェクト」が立ち上がりました。

それは、1992年から1995年まで続いた民族紛争の傷が、人々の心に深く残るそのボスニアの地で、サッカーを通して子供たちの心から民族の壁を取り除こうとする壮大なプロジェクトでした。小さい頃、バスケットボールの国際試合をテレビで見ていて、ユーゴスラビア代表が民族の違いで分裂した様を目の当たりにした際の率直な疑問から、彼のユーゴスラビア(その後ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア・モンテネグロなどに分裂)への関心は始まりました。その後ボスニアでの民族融和のためのNGO活動に参加すべく現地へ渡った森田氏は、戦争を経験しない子どもたちからさえ、他の民族を憎む声を聞き、「このままではいけない」と強く思ったことが今回のプロジェクトのきっかけとなったそうです。

森田氏の学生時代の著書である『サッカーが越えた民族の壁』によると、FCクリロと言うそのサッカーチームが、いかに子供たちの心の壁、そしてその親の心の壁を、その人たち自身が乗り越えて「チーム」になっていったかが、克明に描かれています。当時その本を読んだ私は、かつて殺しあったクロアチア人、セルビア人、ボスニアック人(アイウエオ順)の3民族がひとつのチームでボールを蹴る夢のような事が、日本人がきっかけをつくって実現したことに、日本のこれからの役割を見た思いがしたものです。ちなみに元日本代表監督のオシム氏はこの挑戦に共鳴し、その後群馬で新しく立ち上がったサッカークラブの命名を依頼され、「FCクリロ(翼)」と同じ名前を薦め、日本でも同じ「クリロ」が今でも活動を続けています。

日本初の貴重なツアーが今年8月に

一方、「サラエボ・フットボール・プロジェクト」を進める団体ZONE BiHは、ボスニアと日本の架け橋となるべくその後もボスニアと日本双方で活動を続けており、この度遂にHISとコラボレーションしたスタディツアーが決定しました。これは、森田氏が育ててきたボスニアでの民族融和活動の粋を、現地スタッフやサッカー、そして美しい世界遺産や現地文化が詰まった食事などと共に実体験し、学べる、間違いなく他にはない唯一のツアーです。日本で戦後70年、ボスニアで戦後20年を迎え、日本の安全保障も変節を迎えている今、周辺諸国とどのようにつきあっていくべきか、日本が世界の平和にどういった役割を果たすべきかを、まさに戦争を経験した人々の「実体験」から学びつつ、サッカーや文化と言った観光まで楽しんでしまえるツアーです。今回は8月17日のみの催行であり、森田氏自らが案内する限定ツアーです。定員が少ないため、お申し込みはお早めにどうぞ。

詳細はこちら http://eco.his-j.com/volunteer/tour/TF-BHI-SSJ-SOCCER

森田氏の目指す未来

現在東京都内で教員をしながらこの活動を続けている森田氏によると、彼が目指すのはボスニアの戦後復興と日本との懸け橋になること。平和のためにはやはり経済的な安定が重要であり、そのためには現地に雇用を増やさなくてはなりません。ボスニアには多様な民族があるからこそ織りなす多彩な食文化や観光資源があります。森田氏は、今後はそうした価値を生かして企業教育や、商品開発のコーディネートなどにも関わっていきたいとのこと。また、戦後70年で戦争を知る人が少なくなってきた日本において、周辺諸国との緊張が高まる中、ほんの20年前まで民族の違いによって戦争をしていたボスニアの経験と悲しみ、そして希望から得られるものは非常に大きいと森田氏は語っています。

オシム氏やハリルホジッチ氏と、2名もボスニア・ヘルツェゴビナから日本代表監督になり、これは奇跡的なことです。森田氏のような情熱と信念を持った若者が地道に活動を進める事で、ボスニアと日本との関係性も深まっていくことでしょう。

東欧と言えば西欧諸国へ製品を供給するための工場として日本企業の進出も進んでいますが、グローバル経営を進めていくなかで、バルカン地域における地域コミュニケーション、コラボレーション、社会貢献企画を考えたい企業は、現地文化への理解が深く、ネットワークが広い森田氏に相談してみてはいかがでしょうか。

戦後70年、戦争の記憶が薄れていくなか(記憶すらない人が増えるなか)、情報だけが爆発的に増える一方、自由になる時間は少なくなり、自ら考えて意見を持つこと自体難しくなってきている時代です。歴史に翻弄され、絶望と希望を実体験として味わってきた「ボスニア・ヘルツェゴビナ」と、自らが生まれ育った日本を愛する森田太郎氏は、二つの国をつなげることで、そうした今の「風潮」に一石を投じているのだと思います。日本人に課せられた平和への責任は、一人ひとりの今にあるのだと。

アニュアルレポート不要論からIRの本質を考える 2

もう「アニュアルレポート不要論からIRの本質を考える 1」を書いてから、2年半がたってしまいました。全部で3部作の長編大作に仕上げるつもりでしたが、原稿を書いた後でパソコンがパンクしデータが吹っ飛んで挫折してしまい、今日まで日本中のアニュアルレポート不要だと思うけどどうしようと答えを求めて検索していただいた方の期待を無下にしてしまったことをお詫び申し上げます。あれから2年半、世の趨勢は大きく変わり、アニュアルレポートは不要どころか、その役割がますます増大しているため、そもそもこのタイトルもどうかと思いますが、ケジメとして第二編をお送りいたします。


投資家の意思決定に資するAR

バリュー投資家として世界で最も有名と言ってもいいウォーレン・バフェット氏やコモンズ投信の伊井哲朗社長などアニュアルレポートを読む投資家層は、特に長期投資に多いようです。

前回も述べましたが、アニュアルレポート評価法を確立したローラ・J・リッテンハウス氏の著書を訳した『信頼できる経営者を見分ける法』では、主にバークシャー・ハサウェイとエンロンが比較されアニュアルレポートの質の差を大いに論じて、その必要性が説かれています。

また、投資家の企業情報への関心を調査した米のレポートでは、約半分の投資家は投資先のアニュアルレポートをフォローしている事が述べられています。

割安銘柄に投資するにしても、成長銘柄に投資するにしても、企業が自主的に自社のビジョン、成長性や競争優位、リスク認識や財務分析を投資家向けにまとめているアニュアルレポートをまったく読まずに投資決定するということは、有り得ないのではないかと考えられます。

確かに読まない投資家層も存在しますが、自社を理解してくれる投資家による長期投資を呼び込みたいのであれば、それにふさわしいアニュアルレポートを作成する必要があるのではないでしょうか。そのためには、すでに開示されている情報を翻訳して表紙と色・写真をつけただけではあまり作る意味がないでしょう。

では、どのようなものをつくっていけばいいのでしょうか。


ARに課せられた新しい役割

これについては、企業価値あるいは企業情報開示の新しい在り方についての議論が活発になってきており、ヒントになります。まず、日本においては日本再興戦略によって日本版スチュワードシップ・コードコーポレート・ガバナンスコードが策定され、昨年8月伊藤レポート(伊藤邦雄 一橋大学大学院教授)においても企業と投資家のコミュニケーションの在り方を中長期投資へ変革していくべきとの主張が具体化されています。 

そのためには、企業はステークホルダーとのコミュニケーションを重視し、ビジョンや長期目標を明確にし、その達成のためのガバナンスを確立し、投資家から預かった資本のコストを理解し、継続的に利益を創出、還元していく姿勢が求められています。

投資家とのコミュニケーションとともに、そうした市場と社会のニーズにも応えていく経営と開示が求められていると考えることができるでしょう。そうしたこれからの健全な企業と市場のコミュニケーションに資するエンゲージメント(目的をもった対話)を深めるための中心となるツールがARであると考えられます。


ARは統合報告へ進化するか

その伊藤レポートでも期待されている企業報告の新しい形である「統合報告」については、2013年末に長期的な企業価値創造プロセスを簡潔に表現した「統合報告書」の国際的なフレームワークが発表され、そのさらなる進化を促しています。

これは短期・財務情報中心の報告、分断された報告から、長期の包括的な企業の価値創造を報告するスタイルへのシフトであり、今まさに報告システムの変容のただなかにあります。

ここで述べられている「価値」や「資本」の概念は、従来の財務的なものだけではなく、従業員や知的財産、ブランド、地域との関係、環境資源などのいわゆる「非財務情報」にまで拡張されています。

ここで注視すべき観点は、アニュアルレポートの活用は企業サイドだけの問題ではなく、投資家サイドもどのように非財務情報を長期投資に活かせるか悩んでいるという事です。これは、投資家の「今」のニーズだけに応えてアニュアルレポートを作成していると、逆にダイナミクスに欠ける短期志向に陥る可能性があるということです。投資家とのコミュニケーションを前提としながらも、広くステークホルダーの声に耳を傾けながら、その企業ならではの価値創造を伝えていくことが求められてきています。


次回は、遂に感動の最終回です。長期投資が進む過程でいやがおうにも関係してくる社会課題、ESGなどとの関係性について述べて結びたいと思います。次回はパソコンが爆発しても他に公表した原稿ですので挫折することはありません。しかし、もったいぶって少し間をあけさせていただくことをお許しください。

もう一つの民主主義を、「企業レポート」で育てる3つのアイデア

突然ですが、あなたは何のために選挙に行きますか? 政治が変わると生活が変わるからでしょうか。民主主義の要だからでしょうか。そうだとするなら、生活に絶大な影響を及ぼす「もう一つのシステム」にも主体的に関わる選択肢もあるかもしれません。そうです、「企業」です。特に大企業の売上高は今や国のGDPランキングの上位に来るほどの経済的インパクトを持っています。グローバル資本主義下における市民は、国だけでなく企業活動にも目を光らせ、参画すべき時代と言えませんか? ここでは「企業レポート」の役割を民主的に、と言ってもあまり力まず無理のない範囲で加速させるための案をまとめてみました。

■ 企業レポートとステークホルダー

ここで言う企業レポートとは、主に上場企業が年次で発行している、アニュアルレポートやCSR(サステナビリティ)レポートといった発行物のことで、企業のWEBサイトで閲覧が可能です。

アニュアルレポートには主に投資家向けに経営戦略や財務情報等が掲載されています。CSRレポートには、企業が社会的責任を果たすための環境・社会・ガバナンスなどのESG情報等が掲載されています。誰しも聞いたことがあるほどの大企業であれば、およそ発行していると思います。

これらのレポートは日本再興戦略における投資家と企業のコミュニケーション促進への動きや、昨今の世界的なサステナビリティへの関心の高まりにより注目度が高まっているものの、さらなる影響力の強化が必要と考えられます。(実際に冊子を取り寄せたい方は「エコほっとライン」を検索してみてください。)

あなたの生活に深くかかわっている企業、例えばあなたが働いていたり家族や友人が働いている企業、よく購入している商品を売っていたり、作っている企業、工場が近くにある企業などがあると思います。

その場合、企業からすればあなたが「ステークホルダー(企業の影響を受けている人)」と言う事になります。企業は今、ステークホルダーの意見を包摂しながら経営をしていくことが求められており、このアイデアが効果を発揮しやすい環境が整ってきていると思われます。それでは具体的な企業との関わり方を3つお伝えします。

1 企業レポートを読んで意見する

関わりの深い企業のレポートを取り寄せるか、WEBで開くかしたら、注意深く、かつワクワクしながら読み進めましょう。しかめっ面をしないと読めないものも多いですが、最近は表現力に富んだわかりやすいレポートも増えてきました。

モスバーガーのコミュニケーションレポートは店舗でお客が読むことを想定していますし、富士ゼロックスのサステナビリティレポートは重要課題をストーリー調にまとめてあり読み応えがあります。政党の選挙公約よりは楽しく読めるのではないでしょうか。さて、根気強く読み終えたら感じたことや考えたこと、企業と社会がより良くなるためのアイデアや懸念事項を企業に伝えましょう。

アンケート用紙が挟まれているなど、連絡先が記されているはずですが、わからない場合は、企業の代表メールでもいいでしょう。この記事を読まれている殊勝な方は、何かしらサステナビリティやビジネスに造詣の深い方と思われますので、それぞれの知見をフィードバックされるだけでも見事なプロボノではないでしょうか!? 

なお、発行していない場合は、発行するよう意見する必要があります。特に非上場企業は法的な定めのある情報開示が限られるため、大企業であっても開示に消極的な企業が多いですが、非上場とは言え株主・投資家以外のステークホルダーへの影響は上場企業と変わらないはずであり、CSRレポートの発行が期待されます。

2 企業評価を伝える

企業についてある程度自分なりに知り、意見を持つことができたなら、それを家族や友人に話してみましょう。ブログやフェイスブックにアウトプットするのもいいかもしれません。「○○自動車は従業員の健康や喫煙率にも気を配っていてすごい」「いや、やり過ぎじゃないか」「○○建設は、環境経営に力を入れているけれど、木材の調達先についてあまり書いてないね」みたいな議論が出てくるかもしれません。

だいたいは「いいね!」で終わりかもしれませんが、ともあれ発信することが大切です。ネットを利用してオープンに意見交換できるプラットフォームが整備されれば、そうした流れは加速するかもしれません。その場合は実名でお互いを尊重した議論が必要になると思われますが。

3 株主として意見する

例えば、自分の応援したい企業が見つかったら、商品を買うのもいいですが、長期保有を前提として株主になってみてはいかがでしょうか。株を買うと企業のことをさらに応援したくなると共に、複眼的な企業評価が可能になることでしょう。

そうした立場から意見することで、自らの見識も深まるとともに、企業サイドもより耳を傾けてくれるでしょう。株式を保有するという事は、企業のオーナーになるということでもありますから、取締役の選任などの議決権も得ることができ、より深く企業に関わることができます。

その際に参考になるのは、アニュアルレポートや、まだ数は少ないですが急速に増えている「統合レポート」です。その企業の戦略、ビジネスモデル、財務情報に加えてリスク情報、ガバナンス、環境・社会経営なども含めたいわゆる非財務情報も加わり総合的に把握できて非常に便利です。まだ発展途上ではあるものの、今後はより財務と非財務の関わりも見えやすくなっていくことでしょう。

なお、株式投資は元本割れをするリスクもありますので、売買は自己責任でお願いします。

■ 重要なのは逆の立場を考えること

最後に、コーポレートコミュニケーションを促進するための前提条件について。意見する際には、一方的で感情的なものでは聞き入れられないので、企業及びその他のステークホルダーの立場を考えつつ、課題解決への提案・アイデアとして行う必要があります。企業としても開示するのはコストも手間もかかり、何より勇気がいることです。

建設的な意見や課題の指摘を行う人が増えることで、多様なステークホルダーのアイデアが企業活動や開示情報の改善を触発する良い循環が生まれるのではないでしょうか。

ということで、2000年代に入って加速度的に発展を遂げてきた企業レポートの役割拡大を民主的に促すという少し目線を変えた提案をしてみました。「民主的に」と言うのは、民主主義は政治のみが対象とは限らないし、必ずしも多数決である必要もないのではないか、ということを含意しています。

企業活動について、意見したい人が主体的に意見し、企業と社会の関係性についての目利き力をも養う機会が「企業レポート」を通して可能となることを願っています。私もさっそくCSRレポートを取り寄せて熟読し、自分なりに良い点、悪い点をフィードバックしてみました。皆さんもこれを機に、企業レポートを通したもうひとつの民主主義を育てていきませんか? 

※この記事はオルタナコラムニスト CSR monthlyの記事と同じものを掲載しています。

『ビジョナリーカンパニー』と『トヨタウェイ』の甘い関係

1.誤解を覆す『ビジョナリーカンパニー』

長期的に成功を収めている優れた企業に私たちが抱いている誤解とはなんでしょうか?

長期的企業分析の名著『ビジョナリーカンパニー』によると、企業の成功要因は、完璧なビジネスモデルをもっていることでも、カリスマ的な指導者がいることでも、利益や成功のためにひた走っている企業でもありません。

優れた指導者とは、「時を告げるのではなく、時計を作った」指導者です。それは、自分がいなくなった後も永続的にその企業が何のために存在するか、その理念(ビジョン)を伝え、文化を植え付けた指導者のことです。

理念を実行し続ける文化さえ作り上げることができれば、時代と共に経営者やビジネス、そして事業領域さえ変わっても、その企業は成長し続ける、そんな分析が『ビジョナリーカンパニー』では成されています。

驚くべきことに『ビジョナリーカンパニー』の1926年から1990年までの主なそのライバルと比較された株式の累積総合利回りは、その5倍以上に膨れ上がっています。

しかし、この本に賛同すればするほど、賛同できないことがひとつあります。
それは、『ビジョナリーカンパニー』に「トヨタ自動車」が入っていないことです。

『ビジョナリーカンパニー』にはフォードが選ばれ、その対比としてGMが示されていますが、読めば読むほど(と言うほど読み込んではいませんが)、トヨタの企業経営がまさにビジョナリーではないかと思えて仕方ありません。そのトヨタの経営姿勢について非常に良く分析された『トヨタウェイ』の内容をご紹介しながら、トヨタがビジョナリーである理由を訴えていきたいと思います。いつか「ビジョナリーカンパニーインデックス」ができた際に採用されるように。


2.凄みを感じるトヨタの経営

現在、東海地方に身を置く私としては、常日頃トヨタの経営には注目しており、トヨタがいかに凄い企業かは、『トヨタウェイ』を読むまでもなく、そこかしこで話題となっています。

特に、数年前円高や東日本大震災でメーカーがこぞって海外に生産拠点を移す中、国内生産300万台死守の旗印のもと、あえて東北地方を製造拠点にすべく本気の投資を行ったことは、自己都合で工場を閉鎖したことがない(2017年オーストラリア撤退の苦渋の決断をしたようですが)と言う大山田会長の昨年のCSRレポート2013の言葉も相まって、「サプライヤーを背負っている」、そして「日本を背負っている」、と言う信念を見せつけられた思いでした。(政策面でいろいろ配慮してもらっているということもあるかもしれませんが) 

10月3日の日経新聞トップの「革新力」では、トヨタが数十年単位で技術開発を行っていることが、述べられています。次世代の夢の電池とされる「全個体電池」に至っては、創業者の豊田佐吉氏の発案だとか…。彼らは今、交通事故と言う、自動車社会の大きな副作用を乗り越えるべく真剣に研究を進めています。(勉強時間を奪う、肥満を増やす、金銭的にも身体的にも子供を危険にさらすなどの副作用を伴うネットゲームの制作・運営会社及びスマートフォン販売・メーカー企業にもぜひ見習ってほしいものです。)

『トヨタウェイ』によると、トヨタが絶好調だった1980年代に、「絶好調すぎて危ない」というもの凄い理由から危機感を持ち、「21世紀のための車を開発せよ」の指令の元、プリウスへの超先行投資が行われました。これは企業の存続のために、長期的な観点から取り組んだものであります。


3.TPS導入はビジョナリーな所業、そして・・・

さて、トヨタウェイの原動力でJust In Time、自働化などに代表されるTPS(トヨタ生産方式)の他企業への導入は意外と難しいようです。劇的に効率化しコスト削減されることにより「儲かる」とわかっているのに難しいのは、TPSを海外の工場に根付かせるのに10年も必要だったとのこと。また、トヨタが成功した後、海外の企業がそれを真似しようと思ってもなかなかできなかったことからも想像がつきます。

TPSを導入するのに難しいのは技術でもツールでもコストでもなく企業文化を変える必要があると言う事でした。これは長期的な観点のもとトップがコミットメントを行い、役員や中間管理職が理解し、積極的にカイゼンを行っていく仕組みを活かしていかなくてはならないという事からも言えます。従って、他の組織にこれを根づかせるには、その組織の文化を掘り起こし、それを活かしたうえで導入していく必要があると書かれています。企業理念を浸透させ、文化を創造し、長期的な価値を築いていく・・・これこそまさにビジョナリーカンパニーの条件だと思います(勿論あらゆる概念は、論理的な妄想であると言う前提を忘れているわけではありません)

しかし、この時私は気づいてしまいました。このTPSの企業への導入の本質が、何かに似ていることに・・・そうです、サステナビリティや統合思考の組織への導入についてもまさに同じことが言えるのではないでしょうか? 

成果が示されていても、それを理解し、積極的に推進し、組織文化を変えていく継続的な仕組みと力がなくては、本当にそれを導入することはできないという意味で、サステナビリティを経営に取り込むことも、TPSを経営に取り込むことも同じ問題を抱えています。

トヨタウェイは企業理念と密接に結び付いた革新的でビジョナリーな「時計」であり、サステナビリティ戦略とも重なる部分が多く、トヨタウェイ自体最も優れたサステナビリティ経営とも言えるでしょう。サステナビリティをいかに現場の活動に浸透させるのか、トヨタウェイが大きな参考になるに違いありません。

ということで、今回は「ビジョナリーカンパニー」に始まって、「トヨタウェイ」に関連付けしつつ、「サステナビリティ経営」の参考とするという強引かつスペクタクルな展開にしてみました。

『日本人とアイデンティティ』〜河合隼雄の生き様

マニアックな趣向を持っている私にとって中古品売り場は宝の山であります。ブックオフで105円で手に入れたユング心理学の第一人者である故河合隼雄氏の『日本人とアイデンティティ』では、現代の日本人に根づく心理と問題の諸相が巧みに喝破されています。それは心理学者としての知識や技術ではなく、深い問題を抱えた一人の人間に向き合う全人格的な覚悟を表現したものでした。

想えば、難題と辛抱強く向き合うことに、私たちはそう慣れていないように思います。特に、効率的な社会システムをベースに分業や役割が明確に決まっている現代社会において(中にはそれすら決まっていない組織も多々ありますが)、その枠を超えた全人格的な難題への挑戦をする機会も経験もどんどん不足していきます。企業の海外進出でも、ベンチャービジネスではそうした経験が何より重要になるのだと思いますが、その問題が最も大きく表出するのは、何よりも「子育て」という非常に身近で、それでいて社会の根幹に関わる人の営みにおいてではないでしょうか。

つい最近も子どもによる陰惨で理解不能な事件がありましたが、そのような特殊な事件を持ち出すまでもなく、あらゆる子どもが持つ、いえ、あらゆる人間がもつ危うさについて、私たちは再認識すべきではないかと考えさせれられます。それは、子どもと大人の間にある誰にも見えない不確かな境界線のことかもしれません。

子どもが大人になるまでに経なければならない現実の過酷さと残酷さを覆い隠す過保護な優しさ、あるいは子どもが自由に抱いていい夢を現実の名のもとに押しつぶす身勝手な教育、そうしたものが子どもの社会への順応を阻んでいるのではないかと、本書では書かれています。

そして、最も大切なのは、何より一人ひとりの、ひとつひとつの想いや課題に、真摯に向き合う、ただそれだけであると、そしてそれが何より難しいと、河合氏は述べています。

本書の中では現在取り入れられつつある、傾聴の重要性、児童と老人の共通の場や居場所づくり、創造性を育む教育など、ホリスティックな課題解決法への洞察が多く読み取れます。そして、それらは、単純化やシステム化によって覆い隠されている人間の危機を緩和するためのヒントではないかと思えます。人は物事を一般化して考えたがる癖があり、日本人には特にそれが顕著なように思えますが、実際はあらゆる分類も、普遍性もなく、ただ個々の事象が在り、個々の人が居るに過ぎないのかもしれません。それを受け入れたとき、あらゆる物事や人に、一対一で向き合うことができ、人間らしさを取り戻せるのかもしれません。(できた人間でないもので、「かもね」の連発ですみません)

正直、前半の日本人と西洋人の比較文化論的な部分は興味深く共感する部分も多いものの、自分の中ではかなり一般化された視点だったので、『日本人とアイデンティティー』という題名ながら、その中で河合氏がどうクライアントと向き合って来たのか、何を解決していきたいのか、といった生き様の部分に惹かれました。

最後に、本書の一番印象に残った言葉を紹介して言葉を結びます。
「誰かが本当にそばにいることを実感した時、その人は犯罪を犯す必要がなくなる」

105円というコーラより安い値段で、心を動かされる。ブックオフはすごい価値交換システムをつくってくれたものです。

『日本人とアイデンティティ』〜河合隼雄
http://urx.nu/aPB4

『ワンレポート』に見る統合報告に取り組む理由

先般、統合報告フレームワークの日本語版が登場し、つい最近ケーススタディを盛り込んだ「イヤーブック」の日本語版も発表となり、いよいよ日本の企業も統合報告に取り組む環境が整いつつあります。 しかし! 統合報告フレームワークは個人的にどうも翻訳された日本語がすんなり入ってきません。統合報告に挑むイノベーター企業は、その不自然さの中に本質を見極めつつ格闘する一方で、イヤーブックによってその具体化を探っていくことになるでしょう。

その前に必ず起こる議論として「統合報告が一体何をもたらしてくれるのか」と言う問いがあります。この点で2012年に発行された『ワンレポート』と言う書が与えるヒントは大きなものがあると思われます。今回は、その一部をこっそりと紹介したいと思います。


企業事例

まず、ナチュラ、ノボ・ノルディスク、ユナイテッド・テクノロジーズなど統合型報告の先駆的企業は、その作成理由として「持続可能性やCSRが株主価値創造の鍵となると異口同音に説明している」とあります。

ブラジルの化粧品会社であるナチュラは、証券アナリストからの環境や社会活動への質問はほとんどないにも関わらず、「彼らはわれわれの重点が持続可能性の情報の内にあることを知って」おり、それが株価に影響していることを確信していると述べています。ナチュラはソーシャルネットワーキングやWEB2.0を利用して、いずれはステークホルダー皆で創りあげる報告を目指していると言っており、Wikipediaのようなものになるという、先進的なアイデアを持っているとのことです。企業報告がWikipedia的なものとなるというのは極めてオープンでラディカルな試みです。是非とも実現してほしいものです。

BMWは水資源保護に取り組むことが競争力になると信じており、それが30億ユーロの価値を創造したと算出、リコーは就職希望者の95%が同社の持続可能性への取り組みを評価しておりそれを就職希望の主な理由に挙げているなど、先駆的企業はそうした取り組みが財務パフォーマンスにも影響することを確信しているようです。


完全性

『ワンレポート』では、信用をもたらすには、それがいいことにしても悪いことにしても、報告すること自体が重要と述べられています。いずれにしても今の時代はネットですぐにバレてしまうため、隠してもマイナスになるだけであるということです。ブラック企業であっても、独裁国家であっても、もはや何かを隠すには都合の悪い時代ということでしょう。国際統合報告フレームワークでもその報告原則に「完全性」と言う概念がありますが、まさに「いいことも悪いことも包み隠さず漏らさず報告しましょう」ということのようです。しかしながら、悪い情報をあえて掲載できる企業は本当に一握りしかいないのが現実です。読者からすると当たり前のニーズにも関わらず、自ら公表するのは極めて難しいのです。だからこそ、実践している企業が尊敬され信頼されると言う事でしょう。


リスクマネジメント

一般的に社会的責任に企業が着目する理由について、よく「リスクの軽減と機会の創造」が言われますが、ここでは株主以外のステークホルダーにも注意を払わないとビジネスリスクが高まるということが言われています。具体的には、探している潜在的な従業員が入社してくれない、今いる従業員がやめてしまう、顧客が不買運動を起こす、規制にひっかかる、ブランドイメージが傷つくなどといったことです。実際に、ESGに積極的な企業は不祥事の際や市場イベントの際の下落の幅が小さいと言うデータもあります。


KPI

バランス・スコア・カードやネットプロモータースコアと言った、戦略と業績の間にある重要な要因を抽出し把握することは戦略上も投資上も重要であることが示されています。その試みは決して簡単ではないものの、ユナイテッドテクノロジーズやアリアンツ・グループの先進事例をとりあげつつ、それが優れたものである場合には、財務情報と遜色ないほどの重要な意味を持つと取り上げています。ただし、反対にほとんど意味をなさない指標にも成り得ると釘を刺しています。


取り組むか取り組まないか、ではない 問題はいかに取り組むか

バランススコアカードを考案したキャプランは、優れたESGの取り組みは直接財務成果に貢献していると断言しています。ESGに関する良い評判は、優れた従業員を集め定着させるために役だっており、その結果人的資源のプロセスをより効率的・効果的なものにする。生産性が向上し、営業コストを低下させる。確かに、企業がリクルーティングに払うお金は今後少子高齢化が進む日本ではさらに重い負担になります。昨今言われている女性の働きやすい職場づくりも、フェミニズムや男女平等とかいう理念よりも、もはや企業に死活問題になりつつあるということを考えれば、人的マネジメントについての情報はなくてはならないものとなるでしょう。ブランドイメージの向上が顧客や投資家に与える良い影響もあるとも述べています。

「社会的責任」を定義したボーウェンとハーバード・ビジネススクールのアッカマンは、すでに1980年代にCSRと収益の関係性について研究を進めており、「企業の社会的パフォーマンス」と「企業の財務パフォーマンス」には「緩やかな相関関係がある」と結論付けています。また2008年12月のマッキンゼー社の「最高財務責任者の2/3および投資プロフェッショナルの3/4が、通常の経済環境下において、環境、社会、ならびにガバナンスに関する活動を適切に行うことで、株主に関する付加価値がもたらされうると考えている」という分析結果も紹介しています。

投資情報提供企業や投資家サイドは分析手法の構築を急いでいる今やBloombergやThomson Reuterなど主要な金融情報提供ベンダーやCDPと言った国際NGOなどが企業のESG情報を収集し機関投資家に提供することが一般化してきていますが、この時点でもAsset4やTrueCost社ら報告手法の確立をめざし、ヨーロッパのアナリスト協会が概念フレームワークを提示しているという動きが述べられています。(BloombergでのESG検索は2011年に1億8000万回が成されたということです。http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MIIIQZ6TTDTK01.html


以上、CSRや統合レポートに取り組むかどうか、その予算どりに苦労していたり、意思決定者の琴線に触れる企画書を作りたいと考えておられるご担当者の方々に少しでも材料を提供せねばならない、さらには企業のそうした取り組みが広がることで必ず世界はサステナブルになるに違いないという気持ちが焦り、次々と引用しまくって紹介してしまいました。統合報告をつくるかどうかは別として、サステナビリティを財務成果に結び付けて経営していく統合思考は必須の時代となりつつあります。命題は「取り組むかどうか」から「いかに取り組むか」へと変わりました。経営陣のご彗眼に耐えうる『ワンレポート』をぜひとも1冊、社長の机の上に置いてみてください。

これ以上紹介すると『ワンレポート』を紹介するつもりが、『ワンレポート』のパクリだと訴えられると困るので、ぜひとも気になった方はご購入ください。尚、私にマージンが入るとかいうことは一切ございませんのでご安心ください。


「ワンレポート」 (なんと、アマゾンでは2冊しか在庫がありません。早い者勝ちです)
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%AF%E3%83%B3%E3%83%AC%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%88%E2%80%95%E7%B5%B1%E5%90%88%E5%A0%B1%E5%91%8A%E3%81%8C%E9%96%8B%E3%81%8F%E6%8C%81%E7%B6%9A%E5%8F%AF%E8%83%BD%E3%81%AA%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E3%81%A8%E4%BC%81%E6%A5%AD%E3%83%AD%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BBG-%E3%82%A8%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%82%B9/dp/4492532803

統合報告フレームワーク(日本語版)
http://www.theiirc.org/%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E7%B5%B1%E5%90%88%E5%A0%B1%E5%91%8A-%E3%83%95%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%AF-%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E%E8%A8%B3/

統合報告パイロットプログラムイヤーブック(日本語版)
http://www.theiirc.org/wp-content/uploads/2014/05/IIRC-PP-Yearbook-2013_Japanese-version.pdf

統合報告の大いなる参考書としての『ワンレポート』

ヨーロッパを中心に世界の企業報告のイノベーションを志向する「統合報告」。

企業の「価値創造」を財務資本すなわち「お金を稼ぐ」ことのみに限定せず、非財務資本(従業員、地域社会、知的財産、環境など)まで含めて「資本」と位置づけ、長期的な観点も踏まえて具体的に報告せよ、という考え方は、お金の価値を企業価値の前提に置いてきたこれまでの企業観からすると、革命的ですらあるのではないでしょうか。革命はだいたいは血が流れるものであり、多くの争いを産むものですが、とりあえずは多くのステークホルダー、プレーヤーと徐々にコンセンサスをとり、フレームワークが出たからと言って戦争が起こることは、今のところなさそうです。ひょっとしたらディスクロージャーとは静かなる社会改革なのかもしれません。(議論は星の数ほどありそうですが) 

お金や生産設備以外に、人材のスキルや満足感、地域社会の発展や技術・ノウハウ、環境付加削減などが価値だと考えたとき、確かに社会的にはそうしたものが紛れもなく価値であろうし、企業にとっても長期的かつ多角的に考えるといいことも多いに違いありません。

しかし、実際企業にとって、そして主たる利用者とされている金融資本の提供者にとって、本当にそれはプラスになることなのか、誰もが疑う事でしょう。ましてや、統合報告が求めているのは、単なる報告ではなく、マネジメント層がしっかりとコミットして、何が重要なのか判断し、主要な指標を見出し、マネジメントしていくことを求めているのだから、経営の考え方そのものを変えなくてはならないのか、と驚愕しているかもしれません。

しかし、企業は統合報告の作成プロセスを通して、自社がいかに「オンリーワン」であるか整理してストーリーを構築し、最も伝わりやすい形で開示することで、経営の説得力を増大させることができます。価値と言うものをもう少し幅広く再定義し、多様な企業の魅力や経営資源に光を当てて力にできるチャンスでもあるのではないでしょうか。

そして何より重要なのは、人口爆発、資源・エネルギー枯渇、環境問題、グローバル化といったメガトレンドを前にして、それらに対応する経営をしていくことで、リスクの軽減と機会の創造につながり財務資本に良い影響を与え得る、いえ、それ以上にこうした考え方をグローバルスタンダードにしなくては、人類も企業もいずれ取り返しのつかない損失を抱えることになるのではないか、ということです。サステナビリティとは、社会と企業それぞれが生き残るための方法の模索に違いありません。

それを考える際に、ぜひともお読みいただきたいのが、統合報告の効用や議論が多角的かつ総合的に分析・記述されている『ワンレポート』という書です。

社内の研究部署からこの書をいただきむさぼるように読み進めたのはもう何年か前ですが、この内容を簡潔にまとめることを試みた際に、あふれ来る情熱、先走る筆致、ほとばしる歴史の躍動に圧倒され、何度かの挑戦を経てついにまとめることができませんでした(よくあることですが)。

しかし、気づけば、世の中は統合報告のうねりの中にあるではありませんか!!

従いまして、まずは統合報告についての本書の内容について少しまとめ、次に実際に統合報告がなぜ企業に寄与するのかという具体例をお伝えできればと思います。

米国でサステナビリティ会計を標準化するSASB(サステナビリティ会計基準審議会)を引っ張るハーバード・ビジネススクール名誉教授のロバート・G・エクレス氏と、マイク・クルス コンサルティング代表マイケル・P・クルス氏がこの書をまとめたのは2012年春でした。(マイク・クルス・コンサルティングが何かはよく知りませんが・・・)

金融危機やサステナビリティの問題から、もはや企業は統合的に開示していくべき時代であると洞察し、豊富な研究事例と、具体的なベストプラクティスを用いて、統合報告の何たるかを伝えました。

既に統合報告を導入している先進企業のデンマークの製薬会社ノボ・ノルディスク、ブラジルの化粧品会社ナチュラ、米国の総合メーカーであるUTCをその企業の報告の変遷なども踏まえて分析し、優れている点や足りない点を紹介、その後今日の財務情報・非財務情報の分析を経て、CSRと競争優位性の関係性について切り込み、「なぜ今ワンレポートなのか、その証拠を挙げながら、ワンレポートに対する想定しうる異論に対応しつつ事例を紹介」、XBRLと言ったWEB技術などインターネット上での開示も見据えた、「なぜ統合報告が有効なのか」を考える企業にとってかゆいところに手が届く書となっています。(もっとも統合報告の有効性を訴える立場で書かれた書であることを忘れないでいる必要はあると思います)

国際統合報告フレームワークが昨年12月に発表されましたが、これをどのように個々の企業が表現していくのか、今年はその動きが見える第一歩となり大変興味深い年です。実際問題として、フレームワークをつくったIIRCの主要母体のボスがチャールズ皇太子というのがなんとなく納得いかないとか、サステナビリティのイニシアチブがことごとくヨーロッパ主導で進むことへの反発は置いておくとして、その内容は社会と企業のサステナビリティに寄与する大きな拠り所であることには違いないでしょう。ただし、その理念や方法の理解もさることながら、それを実務レベルに現実的に落とし込んでいくには、非常に多くの議論や情報の整理が必要と思われます。今後の改編の経緯を追いながら、進めていく必要があるでしょう。もっとも、最も重要なのは、こうしたフレームワークやガイドラインの改編に一回一回翻弄されないための、自社の経営とサステナビリティへの哲学をしっかりと持つことではないでしょうか。それを実現し、表現するツールとして、こうしたものが非常に有用なのだと思います。

国際統合報告フレームワーク(日本語)
http://www.theiirc.org/%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E7%B5%B1%E5%90%88%E5%A0%B1%E5%91%8A-%E3%83%95%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%AF-%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E%E8%A8%B3/

『ワンレポート』には、分析企業の実情から報告内容のどこがどうすぐれていて、何が足りないのかや、KPIの設定についての具体的事例、投資家に役立つ情報とは何かなど、実務に応用可能な情報が随所にあるため、国際統合報告フレームワークの参考書としても、ご一読をお勧めいたします。

次回は、本書で紹介されている統合報告の有効性についてその一部をご紹介したいと思います。

『ワンレポート』 
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%AF%E3%83%B3%E3%83%AC%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%88%E2%80%95%E7%B5%B1%E5%90%88%E5%A0%B1%E5%91%8A%E3%81%8C%E9%96%8B%E3%81%8F%E6%8C%81%E7%B6%9A%E5%8F%AF%E8%83%BD%E3%81%AA%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E3%81%A8%E4%BC%81%E6%A5%AD%E3%83%AD%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BBG-%E3%82%A8%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%82%B9/dp/4492532803

「メンヘラ」という概念が導く差別への道

・「メンヘラ」と言う名の物語

最近何かのニュースに「メンヘラ」とあったので、「なんだこりゃ?」と、検索してみたところ、以下の恐るべきサイトを発見しました。

軽率な誘いは禁物!メンヘラ系痛い女子の特徴
http://matome.naver.jp/odai/2137198474943465601

「メンヘラ」と言うのは、まとめると自分のことをアピールしたがり自己中心的である精神的な疾患をもつ人ということであります。

さて、よくわからないことがあります。

この「メンヘラ」と言うのは、精神的な疾患がもたらす症状のことでしょうか、それとも、もともとそういう性格の人が精神疾患になったと言う事でしょうか? いずれにしても解決すべきは、精神疾患を改善することか、精神疾患にあるかどうかに関わらず、自己中心的な性格自体とどうつきあうかであり、「メンヘラ」と言う言葉で「精神疾患=自己中」と言う“物語”を生み出すのは危ないのではないでしょうか? 少なくとも、この両者は切り離して考える必要があると思います。私が知る限りでは、精神疾患の大きな要因は個人の資質と言うよりも、家庭や職場などの環境要因なのですが、これではその環境がさらに悪化し悪循環となってしまう気がします。

以前人からこの言葉を初めて聞いた時にきっと医学的な分類なのだと思い込んでいたのですが、検索してみて分かったのは、特定の精神疾患の思わしくない側面を強調した概念だと言う事でした。しかも、Tweetでの反応を見るに、この言葉は今もどんどんと伝播していき「あの人はメンヘラだからダメ」と言う図式を生み出し続けています。(尚、私に「メンヘラ」を初めて使用した友人は、決して人を卑下するような人間ではないので、マイナスの意味で使用していたわけではないと、その人の名誉のためにここに断らせていただきます)


・「言葉」はラベルに過ぎない

今回の検索およびTwitterでの反応で、「メンヘラ」と言う反社会的な言葉が急速に社会性を増していることを実感しております。しかし、言葉と言うものは、単にラベルを張って分類している便宜的なものに過ぎず、実際にそれ自体が存在するかどうかとは別の問題です。

「青」と言ってもどこからどこまでが青なのか、夜にも青なのか、光がないところでも青なのか、本当の色はわかりません。「ケンシロウはいい奴だ」と言っても、実際はつきあいが悪い堅物であり、大量虐殺者であり、同じ服ばかり何着も持っている変質者であるとも言えます。特定の言葉に問題をひっくるめてしまうのは楽ですが、現実はもっと多様で複雑で、わけがわからないものです。


・「差別」の前提

女性、高齢者、障がい者、在日外国人、LGBT、エイズ、精神疾患、ハンセン病、ホームレス・・・意識しないで済む人にはわからないかもしれませんし、私自身なったことがないので本当の気持ちはわかりません。しかし、それは実際のところ人間誰もが持つコンプレックスや不自由さの一部であり、それは個性のひとつと言っても過言ではないのではないかと思います。

誰もが女性として、韓国人として、障がい者として生まれて来る可能性があり、また誰もが病気になったり年老いたり、ホームレスや障がい者になる可能性があります。と言うか、高齢者にはそれまでに死なない限り必ずなります。あるいは、自分の親友や家族がなることもあるでしょう。

差別と言うものは往々にして「自分は違う」と言う思い込みが前提となっていますが、一緒の部分もたくさんあるのだということを思い出してみると、余計な対立や悲しみが減るのではないかと思います。


私もメンヘラへの不明を恥じ、これを読んで勉強してみたいと思います。

http://www.amazon.co.jp/%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%98%E3%83%A9%E3%81%A1%E3%82%83%E3%82%93-%E4%B8%8A-%E7%90%B4%E8%91%89%E3%81%A8%E3%81%93/dp/4781608248

統合報告時代の幕開け 

ナンバーワンにならなくてもいい、もともと特別なオンリーワン〜♪

という歌がありますが、差異が価値を生む商売の世界において、企業もオンリーワンな存在になるべきでしょう。例えば、ナンバーワンにはたった一つしかなれませんが、オンリーワンには誰もがなれる可能性があります。(ナンバーワンへの競争より、オンリーワンへの知恵の方が平和的でもあります)

さて、ここでのオンリーワンには2つの意味があります。1つは、その企業の独自性を出す、すなわち「ユニーク」であること、もう1つは、多方面にわたる企業の活動、顔を、ひとつにまとめ「統合」することです。

しかしながら企業が外向きに出す情報開示はオンリーワンではなく、八方美人、二枚舌、いきあたりばったりな事が往々にしてあります。

投資家や株主向けの情報は、法的書類である有価証券報告書で総合的かつ客観的な情報提供がなされ、決算説明会資料やアニュアルレポート、その他株主向け資料などで企業独自の戦略や業績結果の分析などを伝えていますが、特に日本の企業の情報開示は内向きで当たり障りのないものが多く、本当に読み手に必要な情報は限られたものとなってしまっています。

一方、CSRについて言えば、その言葉が広まった2000年代は、企業が環境や社会貢献の観点からの報告を急ぎすぎるあまり、もともとの企業活動の文脈と離れてしまう例が多く見られました。しかし、よくよく考えてみると従業員のモチベーションを引き出し力を高めること、展開地域で地域住民と適切にコミュニケーションすること、環境に配慮した製品を生み出し汚染防止や廃棄物削減に努めること、ガバナンスやコンプライアンスに真剣に取り組み不祥事を未然に防ぐ姿勢を持つことは、中長期的にみてリスクマネジメントが行き届き、時代の変化をつかむ力のある企業、すなわち株主に好影響を与え得るのではないか、と言う見方が広がるようになってきました。一方では、WEBが一般化し、世界経済がさらに複雑につながるなか、一貫しない情報開示をしていたり、PR的にいいところだけを訴えるこれまでの手法は、「兄さん、背中がすすけてるぜ」と、情報リテラシーを高めた社会に通用しなくなってきました。

そこで企業がその企業活動とその拠り所となる企業理念や方針、そして環境・社会・ガバナンス(ESG)も含めた非財務情報も合わせて、いかに「価値」を創造して「資本」を増減・変容させているいるのかを「ひとつのレポート」に一貫性を持って簡潔にまとめる機運が世界的に高まって来たのです!(ここが一番の盛り上がりどころです。音楽を聴いてらっしゃる方はサビに合わせてボリュームを上げて下さい)

そうです、そうなんです! それこそが「ワンレポート」(ほぼ)またの名を「統合報告」と呼ぶのです!! 主には投資家や金融機関などの財務提供者を主軸とする企業に関心を寄せるステークホルダーに、「戦略的」に「価値創造するプロセス」すなわち「ビジネスモデル」を「短中長期的」に「マテリアリティ」や「情報の結合性」を重視しつつ伝えていかねばならないのです!! というような国際統合報告フレームワークが昨年12月に登場しました。

国際統合報告フレームワークにある抽象的な専門用語を連発しまくってもはや読者おいてけぼりです。で、「価値」とは何か!? 「マテリアリティ」とは何か!? 簡潔にまとめてしまって、省かれた情報に価値はないのか!? 「オンリーワン」過ぎて比較できないんじゃないのか? さっぱりわけがわからない!! など、議論の余地は多々あろうかと思いますが、少なくともこうした取り組みがこれまでの報告を前に進めるということは確かなようです。

なぜなら、企業の価値は、これまでのような過去の業績や断片的な開示から判断するよりも、ガバナンスや環境・社会(問題)への対応能力や技術開発力などの知的資本なども含めて考える方が遥かに有利であり、投資家もそのように考え始めているからです。

いま、人類の報告史上最大の取り組みが、そして大げさに言えば人類存亡をかけたサステナビリティへの挑戦が幕を開けたのです。


統合報告参考リンク

IIRC(国際統合報告委員会)(英語)
http://www.theiirc.org/

国際統合報告フレームワーク(まだ日本語の翻訳がないようです)
http://www.hp.jicpa.or.jp/ippan/jicpa_pr/news/international_integrated_reporting_framework.html

統合報告の国際事例研究
http://www.hp.jicpa.or.jp/specialized_field/files/2-3-49-2-20130213.pdf

ESGコミュニケーションフォーラム
http://www.esgcf.com/archive/a_hearing.html

※「統合報告書」は現在国内では100社程度が発行しており、さらに増える見込み。
 ただし国際統合フレームワークに準拠するものはそのうちの一部のみ。

日本航空〜『沈まぬ太陽』から『JAL REPORT』まで

私は旅が好きであり、これまで大都市から秘境まで、世界15か国ほどを訪れました。しかし、今になっても飛行機がどうして飛ぶのか毎回不思議であり、揺れる度に恐れおののき、着陸の度にブレーキを早くかけてほしいと願います。

特に、新婚旅行でケニアに行く前には、『沈まぬ太陽』を読まないようにして飛行機の恐怖を増幅させぬよう努めました。


不祥事や事故の時にこそ見える真価

『沈まぬ太陽』は故山崎豊子氏が膨大な取材の元類まれなる構成力と批判力を結集してまとめ上げた壮大な小説で、日本航空の労働組合分裂や経営の腐敗、墜落事故などを扱ったものです。(一応フィクションではあるようですが、実在した人物と事実を元としています)

私は特に日本航空に詳しくないですし、経営の内容も大して知りませんが、このような腐敗が「在り得る」ことに驚愕を禁じえず、「絶対権力は絶対に腐敗する"absolute power corrupts absolutely"」と言う言葉を思い出すのです。権力とも労働組合とも無縁の私ですので、このようなことは思いもつかず、「コーポレートガバナンス」と「労働組合とのコミュニケーション」と言うものがいかに重要かを噛みしめる次第です。

1980年代の一連の「経営判断ミス」により、バブル後に経営不振に陥った日本航空は、その後徐々に回復を見せたものの、リーマンショック後に再度経営危機に陥り会社更生法を申請、上場廃止となり債権者や株主に多大な損失を与え、どん底に落ちてしまいました。この時、それまで発行していたCSRレポートを取りやめたことは、私にとってショックな出来事でありました。こういうときにこそ説明責任を果たすためのツールが必要であるはずだからです。

東京電力もそうですが、CSR優良と考えられていた企業がひとたび経営不振に陥ると何事もなかったかのように報告を辞めてしまうのは残念でなりません。2010年にメキシコ湾で大規模海洋汚染を引き起こしたBPとは対照的であり、CSRの本気度や企業姿勢は危機の際にこそ発揮されると言う事をまざまざと見せつけられました。雪印乳業では2000年と2002年の2つの事件を企業理念と沿革に刻むとともに、10年たった昨年のCSRレポートの特集でもトップが最初に想いを語っています。JR西日本では「企業考動報告書」として、2005年の事故とそこからの反省を今でも真摯に説明しています。事故自体は許されるものではありませんが、その後どのように対応するかが如実に現れるのがCSR報告書だと思います。


復活したJALと統合報告

日本航空は、あの稲盛和夫氏が会長としてリーダーシップを発揮し2年で再生し再上場を果たし「統合報告」という形でCSR報告を再度始めました。稲盛会長は奇しくも『沈まぬ太陽』で強力に改革を果たそうとして成しえなかった国見会長を髣髴とさせる誠実なコミュニケーションと、強力なリーダーシップで日本航空を復活に導きました。そして、この統合報告書こそ、その集大成と言えるだと感じているのです!(やや興奮してまいりました)

経営責任者の真摯な業績内容や課題についてのメッセージ、生産性だけでなく、安全性についても極めて重視されているという姿勢の数値を伴った報告、小規模な事故やトラブル(ヒヤリハット)についても明示して対策を伝える誠実さ、そして職制を超えた従業員の想いをつなげる現場力・・・2009年のCSR報告で報告されていたテーマを統合報告にも取り入れつつ継続性を持たせながらも、JALが生まれ変わったのではないかと言う期待を感じるものあり、私はそのレポートを家に持ち帰って夕飯の時妻に力強く訴えかけたのです。

このレポートの真骨頂は真っ白な背景に真っ赤なJALのロゴだけ中央に配置されているシンプルながら印象的な表紙です。生まれ変わったとは言え、いいことも悪いことも含めて育ってきたブランドを、ただそれを総力で大切にしていくのだという気概がにじみ出ている報告内容を象徴していました。(もっとも、私はよく想像力がありすぎるとか、ロマンチストだとか言われるのですが)

http://www.jal.com/ja/csr/report/pdf/index_2013.pdf

尚、『沈まぬ太陽』の著者である山崎豊子氏は、このレポートを読んで安心したのか、その数か月後に亡くなりました。


今後の課題

労働組合については、イデオロギーの対立が先鋭化したかつてのような過激なものは日本においては見られなくなりましたが、経営陣に対等に意見を言える団体交渉権は憲法でも認められている権利であり、資本主義が健全に機能するためには重要な仕組みではないかと思います。特に労働者の権利が頻繁に脅かされている新興国などでは経営陣もより慎重かつ公正に取り組むべき事項となるはずです。しかしながら、CSRレポートにはあまり詳しくそのコミュニケーションの状況が記されていないことがほとんどです。企業にとってはあまり触れたくない部分で実際ここを詳細まで記述する企業はなかなか見つかりませんが、ステークホルダーにとっては重要度の高い情報に違いはありません。

日本航空の場合は特に大きなステークホルダーとしても経営課題としても労働組合が挙げられるはずですが、CSRレポートではこの部分には触れられていません(リスク情報の最後に一文あるのみ)。どれだけ素晴らしい企業も従業員全員が一致団結するというのはまずあり得ない話ではありますが、企業の方向性を従業員全員で共有しロイヤリティを上げられるれるか、あるいはコミュニケーションが破たんしストライキやサボタージュが起きるかは、収益にも直結する大きな経営課題でもであります。現場主義や従業員を重視する経営姿勢は十分に感じられますが、特に日本航空については労働組合についての説明責任は避けては通れないのではないでしょうか。

ますます競争も激化する中、今後のJALの取り組みから目が離せません。


次の旅行ではJALに乗ってみたい、乗ってみようかな、できれば。いつかは・・・

水危機にどのように対応すべきか。

最近夜な夜な皿洗いをしております。
その時いつも思うことがあります。
水を皿に流すだけで汚れが落ち、しかも皿はベタベタもせず、そして清潔であります。
透明で余計な成分がなく、何者にも染まり、そして染まらない。
この不思議な液体への畏敬の念を禁じ得ず、私はただ台所に立ち尽くすのであります。

話がいきなりややマニアックになったので本題に入りたいと思います。
水の惑星と言われる地球ですが、淡水はたったの3%、飲料にできるのは1%よりはるかに少ない極めて貴重なものです。また、人体の6〜7割は水であり、一日に2.3リットルほどの水を必要とします。(Wikipedia、水webより)

ところが、よく聞く話かと思いますが、世界では深刻な水不足が続いており、実に総人口の3人に1人以上である28億人が水ストレスに直面していると言います。気候変動や森林破壊、水汚染、何より新興国での人口爆発により、水の問題は深刻化する一方です。

今年は国際水協力年であり様々なイベントが開かれていますが、世界の主要企業の二酸化炭素排出量データを投資家向けに収集・開示しているカーボンディスクロージャープロジェクトが、水についての開示にも踏み切り、先日グローバルウォーターフォーラムが開かれネットにてライブ配信配信されており私も参加しました(ネットで見ただけですが)。

そこで配信された資料では、中国、インド、メキシコなど新興国での水リスクが深刻化しており、危機感を募らせる企業の増加が顕著になってきています。また、水についての企業の開示情報を投資活動に生かすという大手機関投資家のコメントも寄せられています。新興国での生産なしには生活できない私たちにも大きな影響と責任があります。

もはや水の問題解決は社会にも企業にも死活問題となりつつあります。にも関わらず、サプライチェーンを含めた水への影響度合いの把握や経営陣のコミットメントに遅れが目立っており、投資家サイドも開示情報から比較がしにくいという意見が出ています。ESG(環境、社会、ガバナンス)の情報が投資活動の参考に当たり前にされる時代になってきていますが、いち早く正確な情報を迅速に開示することがますます重要になってきています。社会課題の解決はビジネスチャンスであり、資本主義の問題解決には透明性が欠かせません・・・と言うのは私の言葉ではなく、ハーバード大学のジョセフ・バウアー氏の言ですが。(http://www.dhbr.net/articles/-/2242?page=2

CDP Global Water Forumの資料 (英語)
https://www.cdproject.net/CDPResults/CDP-Global-Water-Report-2013.pdf 


従って、企業の水リスクがサプライチェーンも含めて認識されるようになり、遠からず財務への影響も算出・評価されるようになるものと考えられます。具体的な財務への影響や懸念について昨年KPMGがよくまとまったレポートを日本語訳したものを出していますので、おススメです。
http://www.kpmg.or.jp/press-release/20120403.html


もっとも、リスクのみならず、日本企業にとっては逆浸透膜を初めとした淡水化や節水ビジネスのチャンスにもなるため、リスクと機会を捉えていち早く対応していくことが重要になるのではないでしょうか。
なお、原発は二酸化炭素は排出しないが、膨大な量の水を使います。核廃棄物汚染は言わずもがなですが、環境への評価は多角的に行う必要があります。


【水について知る】

日本ウォーターフォーラム
すべての人が水に起因する苦しみから解放され、水の恩恵を最大限に享受できる世界の実現を目指すフォーラム
http://www.waterforum.jp/jp/home/pages/index.php

水web
企業がまとめたものですが、わかりやすくまとめてあります
http://www.secom-alpha.co.jp/mizuweb/

水と環境の話
上と同じく企業がまとめたものですが、わかりやすくまとめてあります
http://www.face.ne.jp/m-setubi/sub8.html

ユニセフ 水と衛星
水と衛星の世界的な問題について簡潔にまとめてあります
http://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_act01_03.html

日本水環境学会
水環境に関連する分野の学術的調査や研究、知識の普及、健全な水環境の保全と創造への寄与、学術・文化の発展への貢献を目的とする学会
https://www.jswe.or.jp/

日本水大賞
企業から、学校、NPOまで、全国の様々な水への取り組みが紹介されていて興味深い
http://www.japanriver.or.jp/taisyo/



【企業は水の問題にどのように対応すべきか】

WWFの“water stewardship”では、次の手順で企業が水リスクを管理し、レピュテーションリスクを下げることが提言されています。

一般的な水についての議論を把握し、ステークホルダーや自社にどのような影響があるのかを把握する。サプライヤーがどこにあり、どのように水に依存しているのか、ウォーターフットプリントを測定する。次に、目標と計画を立て実施し、従業員や購入者、サプライヤーなどとエンゲージメントを行いつつ潜在的な機会とリスクを把握し、効率的な水の利用、汚染の減少、測定と報告を行い内部ガバナンスを整備。戦略に基づいて、外部ステークホルダーと共同して解決にあたったり、政治への良い影響を与える。

WWFの"Developing a Water Stewardship strategy”(英語)
http://waterriskfilter.panda.org/KnowledgeBase.aspx?id=1#page=1


日常生活でも、水を節水するだけでなく、買い物のとき地産地消を意識したり、牛肉はここぞというときの楽しみにする、など気を付けることで、水のためになる! ということで、我が家では細々と実践しております。牛肉に手が出ない、というのもありますが・・・。

ウォーターフットプリントの比較
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/4220.html

羽生市の「我が家でできる節水大作戦」
http://www.city.hanyu.lg.jp/kurashi/madoguchi/suidou/01_life/09_mati/sessui/sessui.html

『スモール イズ ビューティフル』についての限りない要点

書評『スモール イズ ビューティフル』 E・F・シューマッハ

1986年に発行されて以降、世界で様々な政策や学問、活動に多大な影響を与えた伝説の書です。
この偉大な書物を読むのに足かけ3年をかけ、何度も読み返し、ついに読了したので、その興奮の現場からレポートします。
(単に読むのが遅く、間をあけて読むと忘れるので読み直すことを繰り返しただけですが)
非常に長いので(この書ではなく、この書評が)、いくつかに分けてお届けします。
と思いましたが、前にアニュアルレポートのテーマでもったいぶってつづきを書き溜めたところでPCが壊れてパアになるという辛酸を嘗めたので、非常に長いですが、一挙に更新します。
その代わりに、章立てとし、ポイントを太字とし、さらには第六章にダイジェスト版を設けました。
「書評の分際でダイジェスト版とは何事か!?」とお叱りを受けるかもしれませんが、昨今のアニュアルレポートやCSR報告書もダイジェスト版が流行っているので、そこにインスパイアされた次第です。


第一章 人類の課題

まず、彼の問題提起は次のことに尽きます。

貪欲と嫉妬に支配された豊かさへの欲求(唯物主義)、科学や技術、巨大さ、パワーへの信仰が、資源の枯渇、人間疎外、生活の破壊といった本末転倒な不幸を助長し、人類は持続不可能な世界へ突き進んでいるということです。耳が痛い話であります。

科学信仰の元ではたとえば経済学など社会科学でさえ数値には還元できない価値を図ろうとします。GDPによる経済力計測という悪癖は今も続いていますが、数値で表せられない部分を感じ取る英知が必要だと説いています。


第二章 人類の英知

人類の英知とは何か。ガンダムのシャア・アズナブルもそのようなことを言っていた気がしますが、これはシューマッハの言葉です。シャアならここで人類の粛清のためコロニー落としを考えますが、シューマッハはここで世界の現実を偏りなく把握する哲学の重要性を説きます。

個々人が深慮遠謀をめぐらせ現実を考えに考える自らのマインドを確立していなくては、虚無が精神を支配し、大きな風潮や大げさな政治的観念に流されるということです。現代ではますます人はコンピュータに頼りきりになり、自らの思索を深める時間もなく、さらに危険性が高まっているのではないかと感じます。ネット選挙解禁で若者の政治参加が増えることはいいことかもしれませんが、雰囲気で投票する人が増えるのもまた危険です。


第三章 足るを知る

またシューマッハはぜいたく品を必需品にしない「足るを知る」生活を行うことが重要とも言います。この辺りは哲学を通り越して宗教的な性格も含まれています。別に世界宗教へ誘ってお布施を稼ごうとしているわけではありません。「知」や「生き方」についての態度を探求すると必然的に哲学や宗教に結びつくのです。キリスト教や仏教に多大な影響を受けたシューマッハは釈尊の教えも取り上げ、とりわけ樹木に対して敬虔で優しい態度で接することを求めています。森林をおざなりにした文明は衰退するとも述べています。昨今企業がやたらと植樹を始めたのはいい兆候かもしれません。(ただし数十年単位で、植生を考えて活動することが重要かと思います) 


第四章 スモール イズ ビューティフル

さて、ここで書名の『スモール イズ ビューティフル』に戻りたいと思います。この書名は編集者の提案ということで、この編集者には大変大きな功績が与えられるでしょう。もしこの書の名前が『人類の愚劣さを英知で救う哲学と宗教の書』などという類の名前であれば、ここまでのインパクトを残せなかったでしょう。右脳に訴えかける素敵な響きです。しかしながら、題名に引きずられないのであれば、この書が説いているところは、「小さいことがいいこと」というよりは、最終的には「バランス」「中庸」が重要だということだと思われます。何事も過剰はバランスを崩しマイナスになるため、いかに調和と均衡を保てるか、社会は常にそのバランスへの飽くなき挑戦なのではないかと思います。従って巨大信仰が跋扈している時代には小ささが求められ、逆に小さすぎてダイナミクスに欠ける時代には大きさが求められるのです。これは、経済的価値と非経済的価値のバランス、官僚的システムとベンチャー的自由さのバランスなどの主張にも現れています。私の友人の安倍たかのりが結婚パーティに歌ってくれた歌に「小さな日には大きな歌を 大きな日には小さな歌を」という歌詞がありますが、この歌詞が大好きであります。(いきなり宣伝→ http://www.youtube.com/watch?v=cCcIXhB9jrU)

現代は何事も巨大になりすぎています。巨大で込み入った仕組み、わかりにくいシステムは、リーマンショックの引き金になったCDOを想起させます。巨大信仰は貧富の差も助長します。そうしたアンバランスは紛争の火種にもなります。資源枯渇も、貧富の差も、生活の退廃もすべて平和を脅かすという最大の持続不可能性につながります。


第四章 具体的な方法

彼は教育こそが最大の資源と言っています。
それは細分化された技術を習得する学問ではなく、人が人として生きるための教育です。いわゆる一般教養・リベラルアーツのことです。これは常識とか雑学とかそういうものではなく、すべての学問の根本にあるものを学ぶ、あるいは感じるということです。具体的には倫理学や形而上学と言っています。それを学ぶことで博識や天才的な知恵がなくとも、人の生き方への根本的確信を知る「全人」となります。それがあって初めて教育は役に立つと訴えています。人類で一般的となりつつある自然科学的中心の思想では人は「絶望」に陥り、善への絶え間ない挑戦が高次に導くと言います。

この辺りは、高次への止揚を説いたヘーゲル、絶望を信仰で乗り越える実存を説いたキェルケゴール、「超人」による絶望の克服を目指したニーチェといった19世紀の思想的影響が色濃く感じられます。「絶望」を信仰的な力で乗り越えるという「実存主義」的な思想が改めて見直されているということでしょう。これはこの書が発行されて25年がたった今も変わらない人類の課題の克服の方法かもしれません。


第五章 さらに具体的な方法

さて、具体的な方法を述べたつもりが逆にかなり抽象的なものになってしまいました。実存という本質を学んだ人々は具体的にどうすべきなのでしょうか。

→解決方法1
・人間の顔をもった技術を広める

 人の欲望が増長すると「カオナシ」になるという「千と千尋の神隠し」ではありませんが、人の力をどんどん省いていく大量生産のための大きなシステムや機械は人間のためのもののはずがいつの間にか人間疎外をもたらします。人が働く喜びを得られる、人を助けるための機械やシステムを使いましょうとのことです。それは「中間技術」と呼ばれています。開発途上国の所得がきわめて少ない人々に使いこなせる技術を与えて自律的に発展を促すビジネス手法としてのBOPビジネスはまさにそうしたものだと思われます。最良の援助は、モノや金ではなく、知識の援助ということです。また、3Dプリンターもものづくりを個人の手に取り戻す技術革新かもしれません。

→解決方法2
・官僚主義とベンチャースピリッツ

 組織が大きくなりすぎると官僚主義がはびこり、ルールで人をしばり、人の創造性を奪います。小集団に分けて、ベンチャースピリッツを生かすことで、大規模組織も活力を取り戻すと述べています。もっとも自由すぎても組織が機能しないため、バランスが必要です。稲盛氏のアメーバ経営や品質改善活動である小集団活動などの事例もありますが、こう言った経営手法は最近ではよく聞く話です。

→解決方法3
・私的所有から公的所有へ

 これが来ると「共産主義者か」と直感的に感じるかもしれませんが、要するに企業は規模が大きくなるにしたがって社会的責任が大きくなり、その経営資源も自社のみの由来に基づくものではなく、社会から広く得ている(環境資源、人的資源、物的資源など)ので、所有についても、税金を納めるのではなく、株式を展開する地域に持ってもらうという方法です。これは議決権の制限などいろいろ細かい取り決めがありますが、これについてはかなり実現は困難な提案かもしれません。


第六章 ダイジェスト

大変長くなりましたが、非常に端的にまとめると・・・
限りない欲望によって成り立っている社会の限界から人類を救うためには、満足することを知り、世の中の本質について学び、善を求めるという精神的革新が必要です。そして、簡単に扱える人間のための技術を広め、企業は働く人の創造性を生かし、企業の所有も社会が共同で行うことで、危機を克服していく・・・ ということになるでしょうか。

現状、どれもかなり克服困難なものに感じられますが、世界的危機の認識の共有が広がり、企業の社会的責任・持続可能性への取り組みも広がり、人々に政治への関心が戻れば・・・最も重要なのは、一人でも多くの人が課題を認識するということではないかと思います。一部の人が感動的なアクションをするより、大多数の人が少しずつ生活の在り方を見直すことが大事なのではないかと感じています。

なんだかこのダイジェスト、随分誤解を招きそうな感じもするので、やっぱり第一章から読んでいただければと思います。そして、この本まだ読んでない方はぜひ読んでください。

増え続けるサステナビリティ評価を評価する

4月終わりに、GISR(Global Initiative for Sustainability Rating)がひとつのサステナビリティ関連の原則のベータバージョンを発表しました。「またCSRの新しい評価ができるのか!」と、CSRに従事する方々はうんざりに違いありません。ただでさえ、GRIやらISO26000やら、最近ではIIRCが統合報告のフレームワークを発表すると言うし、それ以外にもCDP(カーボンディスクロージャープロジェクト)やEIRIS(イギリスのサステナビリティインデックスFTSE4Goodの調査機関)を初めとした膨大なアンケートへの返答に忙殺され、社内では事業部門のように業績に直結するわかりやすい部門ではないため、人員も割いてもらえず肩身が狭い、もうこれ以上新しいガイドラインはうんざりだ!と、思っていても不思議ではありません。

しかしながら、今回のこのGISRの動きはそんな状況を少し解消に向かわせるものとなるかもしれません。
と言うのも、このガイドラインは、企業を評価するものではなく、「評価を評価する」ものだからです。サステナビリティへの関心が高まり、評価の多様性があるのも重要ですが、今や100以上ある企業のサステナビリティへの評価(評価項目は2,000を超える)の乱立状況をなんとか整理しなくてはならないというのも事実です。

このガイドラインは、投資家や金融機関、企業、NGOなどとのコミュニケーションをもとに、かつてサステナビリティガイドラインのグローバルスタンダードであるGRIガイドラインを作ったNGOであるCERESと、1976年創立以来サステナビリティ関連のシンクタンクとして世界をリードして来たTellus Instituteが進めているもので、投資家の意思決定とESGの統合を促進する意図があります。

発表された12の原則は、透明性、公平性、持続性、改善、包含性、保証可能性、重要性、包括性、持続可能性のコンテクスト、長期的視野、バリューチェーン、比較可能性ということで、これまでの様々なガイドラインにも出て来たテーマが挙がっていますが、さて、これで本当に多様で乱立する評価を整理できるのか、今のところよくわかりませんが、ベータ版の最後に各評価やガイドラインの原則と上記原則のクロスチェックの表が載っています。・・・とりあえず文句を具体的に言えるのは今のうちで、6月1日から7月31日までパブリックコメントを受け付けているそうです。

この動きもまた世の中の投資家を強く意識したものであり、企業のレポーティングの在り方を変えつつあるIIRC(国際統合報告委員会)の統合報告の動きとも重なります。CSR報告書は多様なステークホルダーとのコミュニケーションツールと言う考え方もあるため、「投資家」だけが重視されるのはアンバランスな感じもしますが、少なくとも資金の出し手が環境や社会との関わりを企業評価と連動させて考えられる環境を作っていくことは、人類が生き残るために(!?)、大きなインパクトを残すための優先事項には違いありません。

ちなみに、統合報告の方も年末のフレームワーク発表に向けての草案について意見を募集しているようです。(こちらは日本語版もありますので是非ともご覧ください)

■GISR Takes Major Step Towards Establishing a Standard of Excellence for Corporate Sustainability Ratings
http://bit.ly/10lISpi

■Announcing Release of the Beta Version Component 1: Principles of the GISR Standard
http://ratesustainability.org/pdfs/GISR_Principles_Beta_Public_Consultation_050213_FINAL.pdf

■GISR
http://ratesustainability.org/

■IIRC 国際統合報告フレームワーク草案
http://www.hp.jicpa.or.jp/ippan/jicpa_pr/news/iirc_1.html

サステナビリティと財務の関係解明への飽くなき挑戦

サステナビリティへの投資が利益を生むのかという素朴な疑問については、おそらくここをご覧になっている貴方様であれば、一度は抱いたことがあるのではないでしょうか。私自身、具体的な効果測定についての情報を細々と収集していますが、調度最近ポルトガルのリスボンにおけるグローバルに活躍するコンサルタント、ロメウ・ガスパー氏の説が発表されましたので紹介してみます。表題の「飽くなき挑戦」とは、このガスパー氏のことと言うよりも、人類の飽くなき挑戦という壮大なテーマであります。しかし、壮大なテーマでありながらここではガスパー氏の言説のみを取り上げるというやや誇大タイトルであることをお詫び申し上げます。

さて、ガスパー氏によると、まずサステナビリティのパフォーマンスについては一概に定義づけることが困難なため関係を見出すことは難しいとのことです。と、これでは話が終わってしまうため、その断りの上で一歩前に踏み出しております。
例えば、二酸化炭素排出量情報開示についての優良企業の指標であるCDLI Indexは(Fortune)Global500と比べて特に株価が上昇基調の時に大きくアウトパフォーミングしていることが分かります。
また、総じて優れたリーダーシップがサステナビリティ及び財務パフォーマンスに良い影響をもたらすとも述べられています。
しかし、財務がサステナビリティに寄与するのか、サステナビリティが財務に寄与するのか(鶏が先か卵が先か)の判断は難しいとしつつも、どちらかというとサステナビリティと株価よりもサステナビリティと財務により関係性が深いとのデータを示しています。
日本の電機セクターについても触れられており、この分野では環境コストと売上に強い関連が見られるが、利益との関連は認められないとのことでした。
ベンチャーキャピタルやプライベートエクイティの投資家向けには、サステナビリティリーダーがイノベーションを引っ張る可能性が4〜6倍高いと、サステナビリティ感度の高いリーダーへの注視を促しています。

また当然のことながら、なんでもかんでもサステナブルに投資すればよいというものではなく、間違った投資は財務パフォーマンスを悪化させるとも述べています。また、投資が効果を及ぼす期間は活動によってまちまちであり、活動の変化や交通への投資は早い段階で効果が現れるが、設備投資の伴うものについては長い回収機関が必要であるとのこと。

最後に、政府によって企業へのサステナビリティへの関与を法的に促進されるべきとしながらも、財務的に厳しい企業に必要以上に負担をかけなくても、市場がより高い調和を保つ方向進むであろうと述べ、グローバル企業が関与するWorld Business Counilや、Carbon Disclosure Projectなどの自主的なスキームが法的な要請よりも先んじて企業の取り組みを促していくであろうと語っています。

総じてざっくばらんとしており、特に環境(エネルギー)関連にややバイアスがかかった分析記事な気がしますが、自社にとって何が重要なサステナビリティ課題であるかが問われる今、ますますこうした情報の収集ニーズと、分析の必要性が高まっていると思われます。また法規制や事故、世論の変化などによりリスクが具現化してから取り組むよりも、早い段階でISO26000、GRI、調査機関からのアンケート、その他主要イニシアチブを参考に課題を整理して、さらには事業戦略に取り込んでいくことがこれからのマネジメントにとって重要であると思われます。

http://bit.ly/VBkwXD
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