三菱化学、有機薄膜太陽電池の実用化めど−量産体制整備
(日刊工業新聞,2011/08/31,ページ:27)
 軽くて、曲げられ、安く作れる次世代太陽電池として、有機薄膜太陽電池の実用化に期待が高まっている。世界中の研究チームが技術開発でしのぎを削る中、変換効率競争で存在感を増す三菱化学が実用化にめどをつけ、量産体制の整備を急ぐ。一方、新タイプの太陽電池は科学的に未解明な部分が多く、大学による基礎研究も欠かせない。最近、東京大学の橋本和仁教授の研究チームが変換効率の向上につながる発見をした。(池田勝敏)
 高分子の有機材料を使った有機薄膜太陽電池はインクのように塗って作ることができる。安く簡単に量産できる太陽電池として期待されているが、変換効率が現在主流のシリコン型と比べて劣るのが実用化の壁。しかし、世界中で開発競争が激化し、10年前は数%に過ぎなかった試作セルの変換効率が次々と更新されている。最高値の更新は、欧米の企業や大学が中心だったが、最近三菱化学が気を吐いている。昨年は7・4%、今春には9・2%を達成。6月には10・1%と大台の10%越えを実現。現在公開値で最高だ。
 三菱化学が実験設備を導入し、本格的な開発に着手したのは2年半前で最近のこと。後発のハンディをものともしない勢いは海外でも注目され、9・2%達成の成果は米科学誌サイエンスで取り上げられた。開発をけん引する星島時太郎執行役員・OPV事業推進室室長は「半導体、分析、加工技術などグループのあらゆる分野の人材を揃えている」と総合力を生かした開発体制が奏功していると語る。
 有機薄膜太陽電池は、製造過程で有機材料を何度Cでどれくらいの時間熱するかが性能を左右する。熱処理は絶妙な調整が必要で、採用する有機材料によっても条件が異なる。10%越えした試作セルの有機材料は明らかにしていないが、星島室長は「(量産に向けた)材料、温度、雰囲気は決まった。あとはスケールアップするだけ」と語る。さらに「量産には数百ナノメートルの均一な膜を塗って作る技術の確立が課題になる」としているが、今年度中にも年産1メガワットの試験工場を着工する。軽くて曲げられるという特長も生かして、建材メーカーなどに2013年初頭に出荷する予定だ。


 実は有機薄膜太陽電池は分子レベルで何が起きているかはほとんど分かっていない。大学が強みとする基礎に立ち返った研究も重要になる。橋本東大教授のチームが注目するのが有機材料の“境界面”だ。要となる光電変換材料は、異なる種類の有機材料からできており、その境界面の状態が電池性能を左右する。しかし、境界面は物質の内部にあるため直接観察するのが難しい。境界面の構造を分子レベルで人為的にいじれば、性能を上げられるかもしれないとの期待もあるが、それも難しかった。
 研究チームの但馬敬介講師は境界面に、フライパンなどの撥水加工で使われるフッ素化合物を並べることに成功。さらに並べ方に応じて、電池の電圧が上下することを発見した。変換効率の向上には至らなかったが、境界面の構造と性能を関連づけることに成功した初めての成果として、関係者の間で注目されている。但馬講師は「有機薄膜太陽電池の変換効率をどこまで上げられるかを突き詰めて考える際に、こういった基礎的な知見が重要になる」としている。量産化と基礎研究を巡る次世代太陽電池の動向に、しばらくは目が離せない。