日経ビジネス2017年3月27日号
p50-51
 実際、先進企業の間では、自ら進んで変わった人材の採用を強化する動きが広がり始めている。企業に求人広告や研修サービスなどを提案するエン・ジャパンもその一つだ。
 東京・新宿副都心の高層ビルにある同社の営業部隊に、とんでもなく変わった女性社員がいる。
 クライアントになってくれそうな見込み顧客に電話営業を展開し、訪問のアポを取るのが主力業務の職場。だが、その女性だけは一日中、受話器を握ることはない。出社し帰宅するまでパソコンに向かい、同僚と食事に行くことも、無駄話をすることもない。
 この風変わりな社員こそ、同社の2年目エース、佐藤若布氏(仮名)だ。「普通は1日に1件、訪問予約を取れれば上出来。それに対し彼女は平気で、1日に何件も取ってくる」。彼女の直属の上司に当たる人材活躍支援事業部の伏屋航部長はこう話す。

入社2年目で6人の部下
 電話をせずに訪問予約が取れるのは、自分の代わりに電話営業をする6人のアルバイトを抱えているからだ。佐藤氏はこの6人に自ら作成した「電話営業マニュアル」を渡している。マニュアルはフローチャート式で、「電話がつながった」からスタートし、「興味がない」「忙しい」「関心はあるが費用がない」など相手のリアクションごとに応じて「取るべき対応」が細かく枝分かれして記入されている。
 1つの営業電話が不発に終わった場合、佐藤氏は、例えばフローチャート上のどの場所でつまずいたかを確認するとともに、セールストークをメール上で再現させ、添削して送り返す。この繰り返しにより、佐藤氏の“チーム”は1日に、平均的な営業マン1人の6〜7倍に相当する200件の電話を掛け、圧倒的な成果を上げているのだという。6人のバイト料は会社が特別に支給。「多少コストはかかるが費用対効果は抜群に高い」と伏屋部長は話す。
 それにしても、なぜ佐藤氏はこんな不思議な働き方をしているのか。それは、相手が誰であれ、人と接するのが異常なレベルで苦手だからだ。
 2015年、彼女が入社を希望してきた時、同社の人事部は混乱に陥った。同社では入社希望者に独自の能力検査を実施しており、佐藤氏の結果がかつてない異常値だったからだ。診断項目は「主体性」「意思伝達力」「変革性」など複数項目あるが、普通の社員はどの項目も100点満点中60点台に集まる。それに対して、佐藤氏は「対人ストレス耐性」が1点しかなく、他の様々な項目で圧倒的な高得点を記録した。
 普通の会社ならば、他の能力がどうであれ「コミュニケーション能力ゼロ」という時点で門前払いされるであろう人材。だがエン・ジャパンはあえて彼女を受け入れた。「急激に進む市場成熟と技術革新の中で事業を成長させるには、“多少変わっていても突出した能力を持つ人材”の育成が欠かせない」と判断したからだ。
 「覚悟はしていたが第一印象は最悪だった(笑)」。佐藤氏を迎え入れた伏屋部長はこう振り返る。試行錯誤した上、「ある程度、コストをかけてもいいから好きなようにやらせる」という方針が固まったのは配属3カ月後で、独自のアポ取り部隊の結成は佐藤氏が自ら提案してきたアイデアだった。
 「人付き合いへのストレス耐性が極端に弱く、人と長時間付き合うことや周囲の人の考えや気持ちを考えると異常にストレスがたまる」という会社の評価を、佐藤氏は素直に受け止めている。「すごく当たっている。週末は引きこもるし、女子会も飲み会も嫌い。人と関係性が生まれること自体が苦手なんです。その代わり、どんなものでも1つの目標に向けて仮説と検証を繰り返し、成果を上げていくのはものすごく楽しい」(佐藤氏)
 「常人にはない集中力や発想力を持っている人材の中には、人付き合いや団体行動が苦手という特徴を持つ人が少なくない。佐藤さんはその典型例ではないか」と心療内科医の山田氏は指摘する。
 こうした天才型人材を営業現場以上に必要としているのが、日進月歩の技術革新に見舞われ仕事の中身がかつてなく高度化しつつあるプログラムの現場だ。



日経ビジネス2017年3月27日号
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いい意味で面白がって受け入れる
 「好き勝手な仕事の仕方」を認める結果、生まれる副作用が、本人が社内で嫉妬されたり、浮いてしまったりすることだ。いかに天才であっても全くの援護がなければ成果は上げにくくなる。ここで参考になるのが「天才FILE2」のエン・ジャパンのケースだ。
 同社では、入社選考の時に実施した各社員の「性格価値観診断テスト」の結果を、部内で公開している。その結果、社内で人と接しない2年目社員、佐藤氏が「対人ストレス耐性1点」であることを周囲の社員は知っている。そうするとどうなるか。

笑って認め合える空気が大事
 「結局、佐藤がある意味で特別扱いされていても、『1点だからしょうがない』と笑って認めてしまう空気が生まれる。最初から『この社員は特殊な人材だよ』と公にし、尊敬しつつ、いい意味で面白がる。そうすれば社内で大きな摩擦が生まれるとは思えない」(エン・ジャパン人材活躍支援事業部の伏屋部長)