ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

北、南の「原則外交の勝利」に激怒

 十分予想されたことだ。北朝鮮が板門店で開催された南北高官会合で表明したのは、「遺憾」であり、「謝罪」ではなかった。これは韓国側も認めている。問題は、北側が「非武装地帯(DMZ)で地雷爆発事件が起きたことを遺憾に思う」と述べた個所を、韓国側は、「北側は地雷爆発事件の責任を認め、謝罪した」と受け取り、「これで南北合意はできる」といつものように早とちりしたことだ。

 南北合意後、北側は暫くは静観していたが、韓国側が戦勝したかのように振る舞い続け、「わが国の原則外交が勝利した」と叫び出したから我慢が出来なくなったのだろう。北の国防委員会政策局報道官は2日、「遺憾という文句を謝罪として我田引水の解釈をするのは朝鮮語の意味を知らない無知の産物」と主張。遺憾は謝罪ではないと強調した。すると韓国統一部報道官が同日、「今は合意についてあれこれ言うべきではなく、南北が合意事項を誠実に履行するときだ」(韓国聯合ニュース日本語版)と言い返している。

 「遺憾」は「謝罪」ではないという北側の解釈は正しい。2日間徹夜協議が続いた南北高官会合で北側代表が「遺憾だ」という言葉を初めて発した時、韓国側代表は「謝罪」と受け取ったのはその状況から判断すれば理解できることだ。なぜならば、南北合意は北側の謝罪が前提条件だったからだ。朴槿恵大統領は、「北側が謝罪しない限り、対北政治宣伝放送の停止はしない」と繰り返し主張してきた。韓国側代表は北側が謝罪表明するのを待っていた。韓国側は強硬姿勢を貫いたら北側が折れてくる、といった感触を持っていた。そして北側の「遺憾」表明が飛び出したのだ。

 南北合意内容が発表された当初から、「謝罪」ではなく、「遺憾」表明だったことは明らかだった。韓国側はそれを謝罪表明と独自解釈しただけだ。北側は暫くは笑みを見せ、韓国側の反応を伺っていたが、韓国側が南北合意が成功した理由として、「韓国側の原則外交」を挙げ出したのを見て、その忍耐が切れてしまったというのが事の真相だろう。

 朴大統領は就任以来、対北政策では敵対政策の放棄、人権問題の改善などを要求、北がそれらを履行すれば支援するが、実施しない場合、北側と対話しない、という強硬姿勢を取ってきた。そして南北高官会議で合意が実現すると、その強硬政策を「原則外交」と呼び、自画自賛した。「原則外交」の勝利という政府側の発表を受け、朴大統領の支持率もアップした。
 久しぶりの外交勝利に酔う朴大統領の紅潮した顔面に北側が冷水をかけたわけだ。それも同大統領が訪中する2日、公式に「あれは遺憾表明で、謝罪ではない」とはっきりと説明したわけだ。

 問題は、北側が南北合意内容を真摯に履行するかが不確かになってきたことだ。金正恩第1書記は中韓首脳会談の行方を注視しているだろう。その首脳会談で6カ国協議の参加を要請するなど、北側に圧力を行使するようなことがあれば、北は南北合意内容の破棄も辞さないかもしれない。

 南北高官会合の合意で多くを得たのは北側だ。韓国側は遺憾表明を受け取ったが、北側は韓国との対話ルートを開き、民間レベルでの交流の道も再開することになった。外貨が入る道が開かれるのだ。金正恩第1書記がその戦果品を失う危険を冒すかは分からないが、韓国側の「原則外交」の勝利宣言に激怒していることは明らかだ。

 朴大統領は対日関係でも、「日本が過去の歴史を謝罪しない限り、首脳会談に応じない」と主張、それを「原則外交」だと誇示してきた。その外交が対日関係の改善の道をこれまで閉ざしてきた。原則は重要だが、状況に呼応して柔軟に対応することは外交の世界では大切だろう。

反安保法案デモの「参加者数」の行方

 韓国大手日刊紙「朝鮮日報」日本語電子版(9月1日)で、「安保法制反対12万人デモ、ひるまない安倍首相」というタイトルのコラムを読んで、どのようにして数字が事実として定着していくかを目のあたりに目撃した思いとなった。

 「南京30万人虐殺」事件、「従軍慰安婦20万人」、そして今度は国会議事堂前の集団的自衛権のための安保関連法案反対(反安保法案)デモ12万人となる。南京30万人虐殺説は歴史学者によってその真偽が久しく問われてきた。慰安婦20万人説は根拠のない反日プロパガンダに過ぎないことが分かっている。

 それでは、反安保法案デモはどうだろうか。12万人説は主催者側の発表だ。朝鮮日報記者はその主催者側の発表を単に信じただけだろうか。むしろ無意識にというより恣意的な判断が働いたとみてほぼ間違いないのではないか。警察側は3万3000人と発表していた。同紙記者は警察側発表には何も言及していないのだ。

 なぜならば、韓国はメディアを含め日本の安保関連法案には反対、ないしは警戒してきたからだ。日本の野党勢力と同じ立場だ。安倍政権が早期発効を目指す安保関連法案を廃案したいという思いが強いため、反安保法案デモ参加者は多いほど読者に説得力が出てくると考えても不思議ではない。

 実際、朝鮮日報記者は「最も驚いたのは『12万』という数字そのものだ。日本は政治に無関心な人が多い社会だ。どんなに大きな問題が起こっても、数千人が集まるのは考えられない国だ」とわざわざ解説し、今回の反安保法案デモが如何に大規模だったかを強調している。

 ちなみに、安保法案を支持する産経新聞は主催者側発表の「12万人説」に疑問を呈している。同紙が実施した独自の計算によると、先月30日のデモ参加者数は約3万2400人に過ぎない。「12万人」と「3万2400人」のデモでは単なる数字の違いではなく、記事の読者へのアピール力に雲泥の差が出てくるだろう。

 当方は東欧記者時代、デモ参加者数について、いい経験をした。このコラム欄でも紹介済みだが、あえてもう一度説明する。
 ハンガリーの首都ブタペストの英雄広場でルーマニア政府の少数派政策反対デモが開かれた。デモ隊は英雄広場からルーマニア大使館まで抗議行進をした。当方も一緒に歩いた。当方は「デモ参加者数をいくらにするかだな」と考えていた。主催者側の発表などない。
 当方の前にAP通信とロイター通信の記者が歩いていた。1人が「君は参加数をどうする」と聞いていた。3万人か5万人が出てきたが、「5万人デモにするか」ということで両通信社記者は一致した。当方は1万人ぐらいだろうと見ていたから、驚いた。
 「1万人デモ」と「5万人デモ」では数字の違いだけではない。記事の迫力が違ってくる。国際社会は世界の通信社から流れてきたブタペスト5万人デモを読み、ハンガリー国民はルーマニアの少数政策に怒っているといった印象を受けただろう。そして、5万人デモは時間の経過と共に歴史の中で定着していった。

 同じように、日韓メディアの間で、「8月30日、国会議事堂前の反安保デモ集会の参加者数は12万人」が定着していくだろう。時間が経過すれば、その数字を検証する人はいなくなり、誰もその数字に異議を唱える人は出てこなくなるからだ。そして「2015年8月30日、国会議事堂前で12万人の国民が集団的自衛権のための安保関連法案に反対するデモに参加した」と歴史書の中で記述されているのを後日発見するかもしれない。

 読者の皆さんにはもう一度、考えてみてほしい。「12万人デモ」と「3万2000人デモ」の違いは何かを。「重要なことは安保法案が採択されるかどうかだ。デモ参加者数など問題ではない」と主張し、デモ参加者数の真偽は枝葉末節な問題だという人もいる。そのような人には「歴史書に登場する数字がどのようなプロセスを経て定着していくかを冷静に考えてほしい」と言わざるを得ないのだ。

欧州統合の「偉大な遺産」が危ない!

 冷戦時代は終わったはずだ。1989年6月にはオーストリアとハンガリー間の“鉄のカーテン”は切断された。東欧担当記者だった当方も両国の国境線で行われたホルン外相(当時)とモック外相(当時)のカーテン切断式典に立ち会った一人だ。そのハンガリーで今度は対セルビア国境線沿いに有刺鉄線が敷かれたばかりだ。ハンガリー政府によると、年末までに高さ4メートルのフェンスも設置される予定だ。

 ロシアがウクライナ東部のクリミア半島を武力で併合した直後、欧米の政治学者から「冷戦時代の再現か」といった懸念の声が上がったが、旧ソ連・東欧諸国の民主化運動のパイオニアだったハンガリーで切断した“鉄のカーテン”が再び設置されたわけだ。
 冷戦時代の“鉄のカーテン”は共産主義と民主主義間の思想(イデオロギー)の分断を意味したが、新たなカーテンは不法移民の殺到を防止するために構築されたものだ。ハンガリーのオルバン政権によれば、175kmに及ぶ有刺鉄線の設置は犯罪対策というわけだ。新たな“鉄のカーテン”はハンガリーだけではなく、トルコ経由で殺到するシリアやイラクからの移民対策の為、ブルガリアでも設置が始まっている。

 その一方、欧州諸国では国境間の検閲を廃止し、人と物の自由な移動を明記した「シェンゲン協定」(加盟国26カ国)の見直し、ないしはその一時発効停止の動きが出てきている。
 直接の契機は2つある。オランダ・アムステルダムとフランス・パリの間を走る国際列車内で先月21日、モロッコ系テロリストが無差別テロを計画していたが、休暇中の米兵ら乗客によって取り押さえられるという事件が発生した。このテロ未遂事件が契機となって列車内のテロ防止のため乗客や荷物の検閲を再開しようとする動きが出てきた。

 もう一つは、不法移民斡旋業者が欧州に移民を運ぶのを監視するために欧州連合(EU)加盟国は国境検閲を強化してきた。例えば、オーストリアとドイツ両国国境で先月31日、26人の移民を乗せたワゴン車が摘発されたばかりだ。

 そこでシェンゲン協定に見直し論が出てくるわけだ。カズヌーブ仏内相は協定の見直しに積極的な発言をしているが、シェンゲン協定の撤廃を公に要求する欧州政治家はいまのところいない。ただし、協定の見直しはやむを得ないという見方が急速に広がっていることは間違いない。

 冷戦時代の鉄のカーテンの切断と加盟国間の国境検閲の撤廃は欧州の統合を叫ぶEUの“偉大な遺産”と見なされてきたが、不法移民の殺到防止とテロ対策のため、新たに有刺鉄線が敷かれ、国境間の検閲が再導入されてきているのだ。その意味で、欧州の遺産が危機を迎えているといえるわけだ。
 なお、EUは今月14日、ブリュッセルで内相・司法相の臨時閣僚会議を開催し、殺到する移民問題の対応について話し合う予定だ。

 参考までに書くが、ヨルダンやトルコには数百万人のシリア人、イラク人難民が殺到し、両国もその対応で苦慮している。現地で難民をケアする国際食糧農業機関(FAO)関係者は、「難民に提供できる食糧や医療品は欠乏してきた。国際社会の支援がなければ、難民をもはや救済できなくなる」と警告を発している。ハンガリーや他の欧州諸国が有刺鉄線やフェンス建設に投入している工費だけでも多くの難民に食糧を提供できるという声が聞かれる。

自殺大国・韓国が提示した課題

 自殺者を出した家族を知っているが、残された家族も悩み続けるものだ。「もし、あの時、こうだったら……」といった思考から抜け出すことができず、その後の人生で同じ呟きを繰り返す。

 予想されたことだが、経済協力開発機構(OECD)のデーターによると、韓国は加盟国の中で自殺率が最も高った。韓国聯合ニュースによると、「2013年を基準としたOECD加盟国(34カ国)の自殺による死亡率は人口10万人当たり12・0人だった。韓国(2012年基準)は平均を大きく上回る29・1人で、OECD加盟国のうち、最も高かった。2番目はハンガリー(19・4人)で、3番目が日本(18・7人)だった。1985年からの自殺率推移をみると、OECD加盟国のほとんどは減少しているが、韓国は2000年から増えている。日本も自殺率が高いが、2010年以降は減少傾向にある」という。

 当方が冷戦時代、旧ソ連・東欧諸国を担当していた時、ハンガリーは世界一自殺率が高かった。同じアジア系民族(マジャール人)ということもあって、当方はハンガリー国民の悩みを考えざるを得なかった。社会学者や宗教家などに取材して、「なぜ、ハンガリー国民は自殺するか」を問い続けていったことを覚えている。

 民族性、政情、経済、教育水準など様々な要因が絡んでくるので、民族、国家の自殺率を考える場合、慎重でなければならない。はっきりしている点は、自殺率の高い国はやはり不幸だということだ。
 人は誰でも不幸を退け、幸福を追い求めている。幸福の道を見出せず、あるいは自らの命を絶つことでしか道を見出せない人々の姿は哀しい。

 韓国はここ数年、世界的に自殺大国だ。幼少時代から、学生時代、そして就職まで激しい競争の洗礼を受ける。日本でもそうだが、韓国のそれは異常だと聞く。誰もがトップを目指して激しい競争世界で生きている。
 もちろん、韓国社会だけではない。米国でも競争は激しい。夢をかなえてくれる道が開かれているだけに、人々は懸命にその夢を実現するために戦う。米国の資本主義を“ワイルド・キャピタリズム”と呼ぶ経済学者がいた。一握りの勝利者だけが栄光を得、大多数の人は取り残される。まさに弱肉強食の野生社会というのだ。

 終戦70年が過ぎた。戦争の災禍から立ち直るために日本、韓国の国民は必死に働いてきた。そして今日、両国ともアジアの主要国家としての地位を確立し、国際社会に影響を与えるほどになった。先輩たちの苦労に感謝しなければならない。
 いま新たな70年が始まろうとしている。私たちは「幸せな社会」の建設を経済的観点だけではなく、哲学的、宗教的観点からも考え直してもいい時を迎えている。

 戦後の教育では宗教教育が等閑にされてきた。若い世代は宗教の世界に疎くなってきた。しかし、どんなに経済的に豊かになったとしても、やはり私たちは心の満足をも求めているものだ。

 当方は学生時代、哲学者たちが書いた「幸福論」を貪るように読んだことがある。アランの「幸福論」からヒルティの「幸福論」、ラッセルの「幸福論」からショーペンハウアーの「幸福について」などを読んだ。当方の姿を見た姉が、「幸福論を読み耽っているあなたは最も不幸な人間よ」と茶化したことを思い出す。当方は人はどうしたら幸福になれるかを知りたかったのだ。

 21世紀は「宗教の世紀」と主張する学者もいた。しかし、宗教が問われる時代は人々がまだ幸福ではないことを物語っている。皆、幸福になれば、宗教は必要ではなくなるだろう。その意味で、宗教の教えは一種の人生の危機管理だ。
 新たな70年を「宗教が必要ではない社会」を築くために今、宗教・倫理・道徳の助けを受けながら、「持続的な幸せを獲得するためにはどのような生き方が大切か」を考えていきたいものだ。韓国の自殺率トップのニュースは韓国だけの問題ではない。日本も含め国際社会の今後の課題が何かを示唆しているように思えるのだ。

潘基文氏「中立性原則」違反の常習者

 国連の潘基文事務総長は、9月3日北京で開催される「抗日戦争勝利70周年式典」に参加する。「事務総長は参加するだろう」と考えていた当方は、「やっぱり」といった思いが湧いてきた。

 「抗日戦争勝利70周年式典」は中国共産党政権の歴史観に立脚して祝賀されるイベントだ。193カ国の加盟国を抱える国連の事務局トップが参加すべきではないことは通常の外交官ならば分かる。韓国外相などを歴任した職業外交官出身の潘基文氏が知らないはずはない。国連は世界の平和と紛争解決を明記した国連憲章を掲げているが、その原則は「中立性」だ。

 米国や日本は国連事務総長の「抗日戦争勝利70周年式典」参加に懸念を表明している。日本政府は事務総長にその件を通達したと聞く。当然だろう。中国共産党政権が歴史的記念日を国威高揚の場に利用し、特定の国(この場合、日本)を糾弾する狙いがある。潘基文氏は中国側の意図を知ったうえで、参加を決めたのだ。同氏は確信犯だ。
 
 当方は過去、このコラム欄で数回、潘基文氏の言動が国連の「中立性の原則」を違反していると報告してきた。特に、日本の過去問題に対しては一方的な歴史観に基づいて日本を批判してきた経緯がある。

 潘基文氏の反日発言は国連事務総長に選出される前から見られた。同氏が2005年、韓国の外交通商相時代、ブリュッセルの欧州議会を訪問し、その直後の記者会見で「欧州議会も小泉純一郎首相(当時)の靖国神社参拝を批判した。第2次世界大戦参戦国として日本軍の犠牲となった経験をもつ欧州の国民の視点から見ると、靖国神社参拝は受け入れられないという意見が多かった」と報告した。その直後、「日本首相の靖国神社参拝は議題ではなく、1人の記者が質問したので、欧州議員の誰かが答えただけに過ぎない。欧州議会が小泉首相の靖国神社訪問を正式に批判したという発言は事実とは異なっている」ということが関係者の証言で明らかになった。韓国外相の発言は政治的意図を含んだ一方的な解釈であり、事実ではなかったのだ(「国連の潘基文事務総長の『悪い癖』」(2013年8月27日参考)。

 その一方、韓国の朴槿恵大統領に対する名誉毀損で産経新聞前ソウル特派員が在宅起訴された問題について、世界のメディア関係者が一斉に「言論の自由」を蹂躙する蛮行と韓国を批判する論調を発表し、韓国に「言論の自由」を守るように要求したが、肝心の国連事務総長はスポークスマンの代行で終始し、母国の言論弾圧に対して沈黙した(「潘基文氏の『名文』とその胸の内」2014年10月31日参考)。

 当方は最近もこのコラム欄で「『中立性の原則』を破った潘基文氏」(2015年6月29日参考)という記事を書いた。その中で「国連事務総長が率先して同性愛者支持の姿勢を示すことは職務上、好ましくない。米連邦最高裁判所は合憲と判断したが、あくまでも米国内の判決だ。世界には同性婚を公認しない国も多数存在する。国連憲章第100条1を指摘するまでもなく、国連事務総長はその職務履行では中立性が求められている」と述べた。


 上記の例からみても分かるように、潘基文氏には「中立性の原則」を無視した言動が少なくないのだ。「抗日戦争勝利70周年式典」への参加決定は、同氏が中立性が求められる国際機関トップには相応しくないことを改めて明確に物語っているわけだ。

 ちなみに、潘基文氏はここにきて次期韓国大統領選に意欲を示している。「潘基文氏が反日言動を繰り返すのは韓国国民を意識しているからだろう」という見方もある。

「高速道路が墓場となった」

 オーストリア東部のブルゲンラント州で27日、高速道路(A4)の路肩に駐車していた小型冷凍トラック車の中から71人の遺体(子供4人、女性8人、男性59人)が発見された。多くの遺体は窒息死と受け取られ、死亡時期は26日前。不法移民あっせん業者がハンガリー経由で移民たちを運んでいた途上、車のタイヤがパンクしたため、車を残して行方をくらましていた。

Schlepper Route
▲北アフリカ・中東から欧州に入る移民・難民ルート(オーストリア連邦犯罪局「移民あっせん業者報告書」から)

 ブルゲンランド州警察当局は28日、4人の不法移民あっせん業者(Schlepper)がハンガリーで逮捕されたことを明らかにした。1人はレバノン出身のブルガリア人、他の2人はブルガリア人とハンガリーの国籍を有するアフガニスタン人だという。警察側は遺体の身元確認に乗りだしているが、シリア旅券が見つかったこともあって、「多くはシリア難民」と見られるが、完全に身元が分かるまでには時間がかかるものとみられている。

 多数の移民の遺体が高速道路の路肩に駐車していた冷凍トラック車内から見つかったというニュースはオーストリア国民に大きな衝撃を与えている。国営放送や民間放送は移民対策や移民あっせん業者問題に関する特集番組を流している。

 イタリア最南端の島ランペドゥーザ島沖で2013年10月3日、難民545人がボートに乗り、波の荒い秋の海をリビアのミスラタ海岸からスタートし、約140キロ先のランぺドゥーザ島を目指したが、途中乗った船が火災を起こし沈没し、360人が犠牲となった時、「地中海が墓場となった」と表現したマルタのジョセフ・ムスカット首相の発言(「地中海が墓場になる!」2013年10月17日)に倣い、同国高級紙プレッセは28日付社説で「わが国の高速道路上で多くの移民の遺体が発見された。高速道路が墓場となった」と指摘し、嘆いていたほどだ。

 ミクルライトナー内相は今回の出来事を深刻に受け取り、不法移民あっせん業者の取り締まりを強化する5点計画の早急な実施を表明している。具体的には、.魯鵐リーからの国際列車の徹底的な監視(ハンガリー領土内で)、国境線のコントロール強化、O∨犯罪局内の不法移民あっせん業者担当官の増強、ど塰^槎韻△辰擦鷆伴圓悗侶哉涯化、グ槎韻△辰擦鷆犯蛤瓩鮴賁腓箸垢觚〇ヾ韻寮瀉屐等の5点だ。

 内相は、「移民あっせんをするプロ業者は犯罪者だ。彼らは移民の運命などに関心をもっていない。如何に多くの利益を獲得するかだけが最大関心事だ。わが国は同犯罪に対してこれまでも厳しく対応してきたが、今後はもっと強化しなければならない。セルビアとハンガリー国境線に対するオーストリアとハンガリーの連携は重要なステップだが、わが国は自国の国境警備も強化しなけれならない。また、司法省との連携が大切だ」と述べている。

 オーストリア連邦犯罪局(BK)の犯罪統計によると、同国では今年に入ってこれまで起訴された不法移民あっせん業者数は457人だ。今年はまだ4カ月余りを残した段階で昨年1年間の511人に迫っている。同業者の国別によると、昨年はハンガリー人64人でトップ、それを追ってセルビア人56人、シリア人34人、コソボ人34人、ルーマニア32人、ドイツ人32人だ。

 今年7月末までに欧州に入った移民・難民は約34万人で前年同期比の3倍増だ。移民ルートとして海路(地中海)と陸路(バルカン・ルート)の2通りがあるが、北アフリカ・中東地域からボートや小型船でイタリア最南端の島ランペドゥーザ島沖に殺到している一方、ギリシャのレスボス島など離島にも難民が押し寄せている。その一方、トルコ経由などでバルカン・ルート経由で欧州入りをする移民が増えてきている。

 「今回のシリア人難民は故郷を追われ、長い道のりを子供を抱えながら歩き、砂漠を超え、空腹を我慢しながら山や川を渡り、欧州の地にやっと到着、欧州でも最も豊かな国(オーストリア)に通じる高速道路上で車の中で窒息死した。このような悲劇を繰り返してはならない。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は紛争地で事務所を開設し、そこで難民審査を実施し、ジュネーブの難民条項に合致した難民を空路で安全に欧州に運ぶようにすべきだ。これこそ不法移民あっせん業者への最強の対策だ」という声が難民救済に従事する人々の間から出ている。

忘れるな!中国共産党政権の「犯罪」

 韓国の朴槿恵大統領が中国・北京で3日開催される抗日戦争勝利70周年式典に参加し、軍事パレードにも付き合うという。韓国のメディアは、「中国側は式典に参加する首脳国を発表する際、朴大統領をロシアのプーチン大統領よりも先に紹介した」と伝え、同式典にハーグの国際刑事裁判所(ICC)から戦争犯罪容疑で追及されているスーダンのバシル大統領も参加することには何も言及せず、朴大統領の式典参加決定を好意的に報じていた。

 一国の首脳が他国主催の歴史的式典に参加するか否かはその国の国益から判断される。欧米主要諸国が北京の式典参加を見合わせているなか、朴大統領の参加は目立つ。そして「なぜ」といった疑問がどうしても飛び出す。

 明確な点は、朴大統領が欧米諸国の首脳が参加しない式典に顔をみせることが韓国の国益にかなうと判断したことだ。実際、大統領府は、「隣国の中国との友好協力関係を考慮する一方、朝鮮半島の平和と統一に寄与する中国を期待する」として、「中国で韓国の独立抗争の歴史をたたえる側面を勘案し、行事に出席することにした」(聯合ニュース)と説明している。

 朴大統領の式典と軍事パレードの参加決定は予想されたことだが、当方は韓国外交に汚点を残すと受け取っている。朴大統領は中国共産党の歴史を熟知しているはずだ。文化大革命の名で数千万人が粛清され、迫害された。それだけではない。中国伝統気功・法輪功の信者たちは今も弾圧され、収容所に拘束された信者たちから臓器が摘出され、国際闇市場で売買されているのだ。カナダ人権活動家たちが中国の不法臓器売買については既に警告済みだが、スイスの国会議員ら10人が先日、中国の習近平・国家主席宛てに連署の書簡を送り、法輪功の集団弾圧を命令、執行した江沢民元国家主席の刑事責任を追及するよう求めているほどだ。

 共産政権の悪魔性については旧ソ連・東欧の共産政権時代を想起すれば理解できるはずだ。共産党政権は一党独裁で「言論の自由」、「結社の自由」は認められず、「宗教の自由」も剥奪されている政治体制だ。中国は西側資本主義経済を導入して経済発展を遂げたが、その政治体制は依然一党独裁だ。

 中国経済の発展の恵みを共有したいと中国共産党政権に接近する国は少なくはない。ドイツやフランスも中国市場への進出では積極的だが、その欧州主要国も今回の北京の式典には距離を置いている。中国共産党政権が式典を覇権誇示の機会として利用することを知っているからだ。欧米諸国は中国とは同じ価値観を共有していないことを首脳の式典不参加でアピールしているわけだ。

 韓国は北朝鮮という独裁政権と対峙している。軍事衝突がいつ起きても不思議ではない。それゆえに、中国に接近し、北朝鮮を包囲したいといった戦略的な狙いは理解できるが、韓国にとって生命線である対米関係をこじらせる危険性が出てくる。そのような冒険を犯してまで中国の式典に参加する意味があるのか。

 朝鮮半島で軍事衝突が生じた時、韓国を守ってくれる国は中国共産党政権ではなく、米国だろう。朝鮮動乱(1950年6月25日〜53年7月27日)を想起するまでもないことだ。韓国軍は侵攻する中国人民軍と死闘した体験を忘れることはできないはずだ。 

 朴大統領が習近平国家元首との会談で、朝鮮動乱時の中国人民軍の蛮行への謝罪を要求し、法輪功の信者たちへの臓器摘出・不法売買といった非人道的な犯罪を即中止するように直言出来れば、日本や欧米諸国は「さすがに朴正煕元大統領の娘だ」と同大統領を見直すだろうし、米韓日の結束を高める絶好の機会ともなる。これは習近平国家主席の「中国の夢」ではないが、少なくとも「当方の夢」だ。

前教理省長官の「飲酒運転」の顛末

 ウィリアム・レヴァダ枢機卿が一時、警察に拘束された。アルコール飲酒が理由……このニュースをバチカン放送独語電子版が26日、報じていた。聖職者、それも著名な枢機卿の飲酒運転事件をバチカン法王庁の拡声器と一時揶揄されてきたバチカン放送が早々と報道していたわけだ。バチカンにも「報道の自由」の時代が到来しているのだろう。

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▲飲酒運転で拘束されたレヴァダ前バチカン教理庁長官(ハワイ警察当局)

 さて、レヴァダ枢機卿といっても一般の読者は「誰?」と首を傾げられるだろう。バチカンで最高位を務めた聖職者だ。同枢機卿のプロフィールを簡単に紹介する。1936年6月15日にカリフォルニアのロングビーチで生まれ、現在79歳。ロサンジェルスの神学校で学んだ後、58年に勉学のためローマに派遣され、グレゴリアーナ大学で神学博士号を取得。61年に司祭叙階。博士号取得後、ロサンジェルス教区のセント・ジョン神学校で教えた。76年から82年まで教理省に勤務。同年5月12日司教叙階。95年12月27日から10年間、サンフランシスコ大司教を務めた。バチカン法王庁教理省長官だったヨゼフ・ラッツィンガー枢機卿が第265代ローマ法王(べネディクト16世)に選出された後、空席となった教理省長官に任命され、2012年に定年引退するまで務めた。

 教理省とは、昔の異端裁判所だ。その長官はカトリック教理の番人といわれ、多くの改革派や反法王派の信者たちから恐れられてきたポストだ。プロトコールからいえば、教理省長官はローマ法王、国務省長官に次ぐバチカン・ナンバー3のポストだ。

 次に、バチカン前教理省長官のレヴァダ枢機卿の不祥事(飲酒運転事件)の経過を紹介する。枢機卿が神父たちとハワイで休暇を過ごしていた。食事後1人で車を運転していた。警備中の交通警察官が「運転の仕方がおかしい」と見て、枢機卿の車をストップ。アルコール検査をしたところ、ハワイの交通規則となっているアルコール許容量を大きくオーバーしていた。そこで枢機卿は警察まで連行され、数時間拘束された。枢機卿は結局、500ドルの保釈金を払い、釈放されたというわけだ。

 枢機卿の飲酒運転を報道したワシントン・ポストによると、枢機卿は、「自分は運転に対して過信していた。まったく申し訳ないことをした。警察当局の調べには協力する」と述べたという。問題が飲酒運転だけなら大きくならないだろうと予想されているが、事件の詳細について、警察当局も枢機卿担当報道官もこれまでのところ何も明らかにしていないという。なお、同枢機卿に対しては、大司教時代、未成年者へ性的虐待した聖職者の性犯罪を熟知しながら隠蔽していた疑いがもたれてきた。

 興味深いことは、ワシントン・ポストによると、レヴァダ枢機卿のサンフランシスコ大司教の後継者、Salvatore Joseph Cordileone 現大司教も2012年8月、同じように飲酒運転で執行猶3年の有罪判決を受けていることだ。サンフランシスコ大司教のポストはアルコールを飲酒しないと務まらないほど激務なのか。それとも、前任の大司教も現職の大司教もアルコールを飲酒して車を運転し、たまたま不幸にも警察官に見つかっただけのことだろうか。真相は神のみぞ知ることだ。




【短信】 金正恩氏、ITF総裁に若い世代起用

 米テコンドー専門誌「テコンドー・タイムズ」電子版が26日、報じたところによると、ブルガリアの第2都市プロヴディフ市(Plovdiv)で開催中の国際テコンドー連盟(ITF)の19回世界選手権と同時に開かれたITF総会で総裁人事が行われ、新総裁にリ・ヨンソン(Ri Yong Son)師範が選出された。張雄総裁は終身名誉総裁に任命された。

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▲ITFの新総裁に選出されたリ・ヨンソン氏(同氏の左は張雄前総裁)=専門誌「テコンドー・タイムズ」のHPから

 リ新総裁(50歳代の初め)は1990年初めからテコンドー創設者・崔泓熙氏に師事し、張雄総裁時代にはウィーンのITF本部で事務局長として世界各地の支部を訪問し、指導してきた、その後、母国に戻りテコンドー委員会と国家オリンピック委員会の副会長に就任した。リ新総裁は張前総裁がやり残したITFのオリンピック競技参加を最大の課題として取り組んでいく。

 一方、名誉総裁となる張氏(77)は崔泓熙氏の死後、13年間総裁として働いてきた。張氏は今後、名誉総裁としてITFの財政基盤の構築と、韓国主導の世界テコンドー連盟(WTF)との連携に力を注ぐという。

 世界のテコンドーは、韓国主導のWTFと北朝鮮が管理するITFの2つに分かれているが、ITFは更に3分裂している。テコンドー連盟は1966年、崔泓熙氏が創設したが、同氏が2002年に死去すると、同総裁の息子・重華氏を中心としたITF、ITF副総裁だったトラン・トリュ・クァン氏が旗揚げしたITF、そして張雄総裁を中心とした北主導のITFの3グループに分裂した。

 次期総裁選では、WTFとの連携に実績のある張氏の続投が有力だったが、「金正恩第1書記は指導部の若返りに乗り出しているから、若い候補者が擁立されるのではないか」という声があった(「南北テコンドーの再統一成るか」2015年8月23日参考)。

 なお、1996年7月から国際オリンピック委員会(IOC)の委員を務める張氏は、今回ITF総裁から降りたことから、IOC委員のポストも失うのではないか、といった噂が流れている。同氏は今年10月、訪韓予定だったが、訪問がキャンセルされる可能性が出てきた。

AP通信の記事とIAEAの対応

 国連安保常任理事国(米英仏ロ中)にドイツを加えた6カ国とイラン間で続けられてきたイラン核協議は先月14日午前、最終文書の「包括的共同行動計画」で合意し、2002年以来13年間に及ぶ核協議はイランの核計画の全容解明に向けて大きく前進し、国連安全保障理事会は同月20日、最終合意内容を承認する安保理決議(2231号)を採択したばかりだ。これを受けて、対イラン制裁の解除に向けた手続きがスタートしたが、ウィーンのAP通信記者が今月19日、以下のスクープ記事を発信した。

 Iran will be allowed to use its own inspectors to investigate a site it has been accused of using to develop nuclear arms, operating under a secret agreement with the U.N. agency that normally carries out such work, according to a document seen by The Associated Press.

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▲特別理事会に臨む天野之弥事務局長(2015年8月25日、IAEA提供)

 テヘラン郊外のパルチン軍事施設への査察はイランの核問題の解明の鍵と見なされてきた。同施設で核軍事転用の為に起爆実験が行われた疑いが囁かれてきたからだ。通称、「軍事的側面の可能性」(PMD)の問題だ。AP通信によると、そのパルチン軍事施設への査察がIAEAの査察員によって行われず、イラン側が提供する施設内の写真や映像などをIAEAが受け取るという形で実施されるというのだ。この報道が事実ならば、イラン核協議の最終合意の信頼性が揺れ出すことにもなりかねない。

  
 同記事が伝わると、イランとの合意に批判的な米共和党議員の間で、「オバマ大統領はイラン核問題の解決という成果を焦るあまり、最も重要な査察活動に対してイラン側の要求に譲歩していたのか」といった驚きと、「前例のない検証だ。オワイトハウス関係者は最終文書を読んでいないのではないか」といった皮肉混じりの批判まで飛び出したという。

 それに対し、IAEAの天野之弥事務局長は20日、プレスリリースの中で、包括的共同行動計画とは別にイランと締結したアレンジメントについて、「加盟国とIAEA間で締結されたセーフガード協定はコンフィデンシャルに属するから、答えることはできないが、イランとのアレンジメントは技術的に健全であり、これまでの査察実践とも一致している。セーフガードの基準に対して如何なる譲歩もしていない」と反論している。同事務局長の迅速な返答は、IAEAの間で、「同記事内容がイラン核協議の最終合意の信頼性を損なうのではないか」といった危機感があったことを裏付けている。

 ちなみに、イランの核査察問題を担当してきたハイノネン元IAEA査察局長(現・米大学で教鞭)はAP通信の質問に、「そのようなセーフガードが加盟国との間で締結されたことは過去、なかった」と述べ、事実とすれば異例だと示唆している。

 IAEAが要請して開かれた特別理事会で25日、天野之弥事務局長はイラン核協議の合意に基づくイラン査察関連活動に必要な特別費用として年間約920万ユーロの拠出を加盟国に要請したが、その直後に開かれた記者会見では、AP通信の記事に関連した質問が集中的に飛び出し、天野事務局長が返答に窮するといった場面が見られた。

 なお、イラン側はAP記事についてコメントを出していないが、パルチン軍事施設へのIAEAの査察要求に対し、「軍事施設はセーフガード協定外だ」という立場を繰り返し主張、査察を拒否してきた経緯がある。

 IAEAは12月15日までに査察検証に関する最終報告書を提出する予定だ。その内容如何で対イラン制裁解除の行方が決まるだけに、今回のAP通信記者へのリーク情報にみられたように、イラン核合意の支持派と反対派の間でメディアを巻き込んださまざまな情報戦が舞台裏で展開されるものとみられる。

朴大統領は「謝罪」外交から卒業を

 こんなこと言って申し訳ないが、朴槿恵大統領は相手側によく謝罪を要求する指導者だ。日本に対しては、大統領に就任して以来、任期の半分、2年半余り、過去の歴史問題、特に戦時中の従軍慰安婦や強制労働に対して日本に執拗に謝罪を要求してきた。その大統領は24日、大統領府での会議で、韓国軍兵士2人が負傷した地雷問題や今月20日の北側の砲撃事件について、「北側が謝罪しない限り、わが国は対北政治宣伝放送を止める考えはない」と主張し、強硬姿勢を示した。

 幸い、板門店で開催されてきた南北高官会議は25日未明(現地時間)、北側が地雷問題について異例の「遺憾表明」(謝罪表明とは違う)したことを受け、韓国側も北が要求してきた対北宣伝放送の中止を受け入れ、南北間の軍事衝突といった悪夢は一応回避できた。その意味で、今回は朴大統領の不動の謝罪要求が功を奏したようにみえる。韓国メディアでは「大統領の原則外交の勝利」と評価する声が聞かれる。

 しかし、実際のところは、北側は同大統領の頑固な「謝罪要求」を巧みに利用し、謝罪要求を土壇場まで拒否し、韓国側の打つ手がなくなったのを見計らって、謝罪要求への代価を釣り上げ、それが受け入れられるとあっさりと遺憾を表明した、というのが真相ではないか。

 韓国メディアの報道によると、北側が今回勝ち取ったことは、第一に対北宣伝放送の中止だが、南北間の離散家庭再会事業、金剛山観光事業の再開を含む民間交流の活性化で韓国側と合意できたことだろう。一方、韓国側は北側から念願の遺憾表明を受け取ったことが最大の成果だ。もちろん、離散家庭の再会への合意は南側にとっても朗報だ。
 そこで南北高官会合の損得勘定をみると、国際社会から孤立している北側は外貨獲得のために韓国を交渉テーブルに引き戻すことに成功し、対外的には準戦争宣言を表明し、緊迫化させてきた南北間の軍事衝突を回避する譲歩を見せ、中国側の紛争回避要請を受け入れたことにもなり、北京側への関係改善へのシグナルともなる。その意味で、北側は韓国より多くの成果を得たといえるだろう。

 もちろん、北側の異例な遺憾表明について、韓国国防省側が高官会議が開催されている時、記者会見を招集し、「韓米は現在の韓半島危機状況を持続的に注目し米軍の戦略資産(先端戦略兵器)の韓半島投入時点を弾力的に検討している」(中央日報日本語電子版)と表明し、事態の進展如何では米軍が関与する可能性を強調したことが北側の考えを変えたという説も聞かれる。中央日報日本語電子版25日は、「核ミサイル32発搭載のB−52の投入への北側のトラウマ」といったタイトルで、北側の米軍先端武器への恐れが今回の北側の激変をもたらした」と言った解説記事を掲載している。しかし、紛争がエスカレートすれば、米軍が出てくることは北側も事前に計算できることだ。「北のB−52へのトラウム説」は少々深読みではないか。

 先述した朴大統領の謝罪要求外交について、当方の考えをまとめたい。朴大統領の日本への謝罪要求と今回の北側へのそれとは相手もその内容も異なっているから、両者をごちゃごちゃにして論じることはできない。それは分かっているが、何か事が生じれば直ぐに相手に謝罪を求める朴大統領の政治姿勢で問題の解決は可能だろうか、といった思いを持ち続けてきた。

 謝罪を要求する前提は、自分は正しく、相手は間違いだという認識がある。だから、執拗に要求する。日本に対しては、我が国は犠牲国だという認識だ。北朝鮮に対しては、南北間の今回の衝突は北が始めた、という確信があったからだ。
 今回は成功した感じだが、板門店の南北高官会議で韓国側が朴大統領の指示に沿って北側に謝罪を求め続けた場合、まとまる話し合いも壊れてしまう危険性があった。交渉担当の韓国高官が取れる外交手段は非常に狭まれていた。それを“救った”のが北側の異例の遺憾表明だったのだ。

 韓国も北も互いに譲歩をしなければ、会合は徹夜を繰り返したとしても、解決できないことを熟知していたはずだ。同時に、南北両国は戦争を回避し、和解を願っているからこそ、協議を続けたわけだ。その点で南北間は緊迫していたが、その立場は最初から似ていたのだ。

 紛争の原因を明確にし、責任側に謝罪を要求することは大切だが、それ以上に、相手側の狙いを探り、その狙いに振り回されることなく、冷静に話し合うことだろう。今回の南北高官会議が北の提案で始まったという事実は、北が紛争の拡大を願っていないことを示唆していたのだ。

 一国の指導者となれば、相手が悪いと分かっていても謝罪を要求せず、相手の意図を見抜き、妥協を模索する冷静さが大切だ。相手が悪いから批判し、謝罪を求める、といった対応では腕白坊主の喧嘩レベルを超えない。
 今回は北側の遺憾表明で救われたが、謝罪要求一辺倒の外交は逆に相手に利用され、次の一手を読まれてしまう危険性がある。今回の北側の遺憾表明はその好例ではなかったか。任期後半に入る。朴大統領は謝罪要求外交からそろそろ卒業すべきだろう。
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