ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

IAEA第61回年次総会の焦点

 国際原子力機関(IAEA)第61回年次総会は18日、5日間の日程でウィーンの本部で開幕した。同総会(加盟国168カ国)では、今月3日、6回目の核実験をした北朝鮮の核問題、2015年7月に合意したイランとの核交渉後の履行問題に焦点が集まった。

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▲天野事務局長の新任期を祝するコリンソン総会議長(2017年9月18日、IAEA公式サイトから)

 天野之弥事務局長は冒頭演説の中で、北朝鮮の核実験について、「非常に遺憾だ」(extremely regrettable)と厳しく批判し、「北朝鮮は国連安保理決議やIAEA理事会決議を速やかに履行すべきだ」と重ねて要求する一方、「IAEAは政治情勢が許せば北で査察活動が再開できるように常に準備態勢を敷いている」と述べた。 

 IAEAと北朝鮮との間で核保障措置協定が締結されたのは1992年1月30日だ。今年で25年目を迎えたが、北が2009年4月、IAEA査察官を国外追放。それ以降、IAEAは北の核関連施設へのアクセスを完全に失い、現在に至る。すなわち、IAEAは過去8年間、北の核関連施設へのアクセスを完全に失った状況が続いている。IAEA査察局は今年8月、北の核問題検証専属のチームを発足させたばかりだ(「IAEAで『北専属査察チーム』発足」(2017年9月13日参考)。なお、総会では、国連安保理決議の完全遵守を北朝鮮に要求する新たな総会決議案が提出されるものとみられている。

 ちなみに、日本からIAEA総会に参加した松山政司科学技術担当相は18日午前の一般演説で、北朝鮮の核実験を「許されざる暴挙だ。核拡散防止体制(NPT)への重大な挑戦だ」と強く非難し、国際社会は結束して北朝鮮に非核化を要求して最大限の圧力を行使すべきだと訴えた。

 イラン問題では2015年7月14日、国連安保常任理事国(米英仏露中)にドイツを加えた6カ国とイランとの間で続けられてきたイラン核協議が「包括的共同行動計画」(Joint Comprehensive Plan of Action.=JCPOA)で合意し、2002年以来13年間に及ぶ核協議に終止符を打ったばかりだ。IAEAは現在、イラン核計画の全容解明に向けて検証作業を続けている。天野事務局長は、「テヘランはこれまでIAEAとの合意内容を遵守してきた。引き続き、検証を継続していく」と表明した。

 トランプ米大統領はオバマ政権下で締結したイラン核合意について、「イランの核開発を阻止するのに十分ではない」と指摘し、同合意を破棄する意向をこれまで何度も表明している。それに対し、天野事務局長は「イランの核開発は現在、IAEAとのJCPOAに基づき、最も厳密な監視体制下に置かれている」と説明し、核検証の専門機関としてIAEAは今後も核合意内容の完全な履行をテヘランに強く求めていく考えを強調した。  

 天野事務局長はまた、IAEA創設60年の歴史を振り返り、「核エネルギーは最もクリーンなエネルギーで地球の環境保全にも貢献する。また、がん対策など医療分野や害虫対峙などの農業分野でもIAEAは貢献してきた」と強調し、「全ての加盟国が核エネルギーの平和利用の恩恵を受けるべきだ」と述べた。

 IAEAは過去、開発途上国への核医療の啓蒙を訴えてきた。例えば、「ガン治療のためのIAEA行動計画」(PACT)では「胸部健康グローバル・イニシャティヴ」(BHGI)と共同で開発途上国のガン医療を促進。2014年には西アフリカのシエラレオネで猛威を振るっていたエボラ出血熱(EVD)の迅速な診断を下せる逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)関連技術の利用促進を支援してきた。また、ブラジルなど中南米諸国で感染が広がるジカ熱対策では昨年2月2日、ジカウイルスを媒介する蚊の繁殖を抑えるため、放射線で蚊の不妊化を進める技術(Sterile Insect Technique)の移転を明らかにしている。

 また、加盟国の原子力発電所が燃料不足に陥る懸念を解消するため、IAEAがカザフスタンで核燃料の持続的供給を保証する目的で構築中の最大90tの低濃縮ウラン貯蔵施設「低濃縮ウランバンク」( LEU Bank Storage Facility) の竣工式が先月末行われ、来年から操業開始する予定であるという。

 なお、総会は18日、3月8日の理事会で決定した天野事務局長(70)の新たな4年の任期(3選)を承認した。新任期は今年12月1日から始まる。
 マリア・ゼネイダ・アンガラ・コリンソン(Maria Zeneida Angara Collinson)総会議長(駐ウィーンの国連機関担当フィリピン大使)から正式の任命を受けた天野氏は、「感謝と謙虚の心で受け止める。加盟国の信頼と信用に感謝する。今後も核の平和開発の促進のために精力的に公平で透明なやり方で努力していきたい」と、感謝の辞を述べた。

独国民は「変化」より「現状維持」志向

 ドイツ連邦議会選(下院)は24日、投票日を迎える。複数の世論調査によれば、メルケル首相が率いる与党第1党「キリスト教民主同盟」(CDU)の第1党堅持はほぼ確実視されている一方、連立政権パートナー政党「社会民主党」(SPD)はメルケル首相の4選を阻むという当初の目標を早々と断念し、CDUとの差を可能な限り縮め、選挙後の政権工作に期待を寄せている(CDUとSPDの差は最大約15ポイント)。有権者の関心は「自由民主党」(FDP)、「左翼党」、右派新党「ドイツのための選択肢」(AfD)の第3党争いに集まってきた。

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▲「賢く選ぼう」というタイトルの独週刊誌「シュピーゲル」最新号(9月16日号)

 昨年11月の米大統領選や今年5月のフランス大統領選では“チェンジ”という言葉がモードだった。停滞する経済を刷新し、米国ファーストを掲げ新風を巻き起こすためにトランプ氏は「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」と叫び、マクロン大統領は自身の政治運動「アン・マルシェ!」(En Marche!=進め!)を結成し、チェンジをキーワードに選挙戦に臨み、共に勝利したが、ドイツでは大多数の国民はチェンジより現状維持志向(キープ)が強い。

 メルケル首相の口からはチェンジという言葉はほとんど出てこない。「国民経済は順調に伸びてきている。私が就任した直後、失業者は約500万人いたが、現在は250万人に半減した」と過去12年間の政権実績を誇示し、有権者に「私に任せれば、あなた方の現在の生活水準はキープできる」と諭しているわけだ。SPDのシュルツ党首は、「メルケル首相は眠り薬を与え国民に考えさせないようにしている」と嘆いているほどだ。

 興味深い点は、メルケル首相だけではない、他の政党も選挙戦でチェンジを余り叫ばないことだ。国民は政治の大改革や政策の変化より、現状を維持し、生活の充実を最優先する政策を重視してきたからだ。

 もちろん、難民政策ではAfDがメルケル首相の難民歓迎政策を批判し、100万人の難民の殺到で国内の治安が不安定となり、テロの危険性も高まってきたと訴え、一定の支持を集めているが、選挙戦の流れを変えるほどではない。なぜなら、メルケル首相自身が「国境の監視強化は続けていく」と主張し、経済難民などの殺到に対しては厳しい姿勢を鮮明化してきたからだ。

 関心は選挙後の組閣工作だ。CDUはどの政党と連立政権を組むか、SPDと大連合を再び構築するか、FDPと「同盟90/緑の党」との3党でジャマイカ連合(党のカラーからジャマイカの国旗の色となる)を組むか、さまざまなシナリオが囁かれている。ただし、CDUはAfDと左翼党との連立は拒否している。それだけに、選挙後から政権発足まで案外、時間がかかるかもしれない。

 ところで、選挙戦終盤で最も注目されているのは第3党争いだ。FDPの連邦議会カムバックは間違いない。リントナー党首は第3党になって選挙後の政権参加を視野に入れている。一方、AfDは党幹部たちの反ユダヤ主義的発言で一時、支持率を落としたが、ここにきて厳格な難民政策をアピールして有権者の支持獲得に腐心している、といった具合だ。
 ドイツの世論調査では、AfDが11ポイントでやや先行し、左翼党とFDPが10ポイント、9ポイントで追っている。「同盟90/緑の党」は約8ポイントで後れを取っている。

 欧州連合(EU)の盟主ドイツの総選挙だけに、他の欧州加盟国もその行方に関心を注いでいる。メルケル首相は「EUは目下、英国のEU離脱や難民対策など難問に直面している。EUのかじ取りを担うドイツには安定政権が必要だ」と述べている。

「独身制」こそ聖職者の性犯罪の元凶

 ローマ・カトリック教会関連施設で聖職者の未成年者への性的虐待が多発しているが、バチカン法王庁は、「聖職者の独身制と性犯罪の増加とは関係がない」という立場を強調してきた。しかし、オーストラリアの2人の学者が、「聖職者の性犯罪とその独身制とは密接な関係がある」と指摘した研究書をこのほど発表し、注目を集めている。

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▲オーストリアのローマ・カトリック教会の精神的支柱、シュテファン大聖堂内(2012年4月26日、ウィーンで撮影)

 384頁に及ぶ研究書はペーター・ウィルキンソン氏とデスモンド・ケヒル氏の労作だ。2人は元神父だ。教会の組織、内部事情に通じている両氏は、「世界のカトリック教会には、聖職者を性犯罪に走らせる組織的欠陥がある」と考え、個々のケースを調査し、各ケースに共通する背景、状況を検証していったという。

 オーストラリア教会の聖職者の性犯罪調査王立委員会は今年初めに暫定報告を公表したが、それによると、オーストラリア教会で1950年から2010年の間、少なくとも7%の聖職者が未成年者への性的虐待で告訴されている。身元が確認された件数だけで1880人の聖職者の名前が挙げられている。すなわち、100人の神父がいたらそのうち7人が未成年者への性的虐待を犯しているという衝撃的な内容だった(「豪教会聖職者の『性犯罪』の衝撃」2017年2月9日参考)。

 2人の学者は聖職者による過去の性犯罪を検証し、関連の研究書やレポートを参考に研究を進めていった。ちなみに、ロイヤルメルボルン工科大学=RMIT大学は、「聖職者の性犯罪の背景分析として、文化的、歴史的、組織的、社会的、心理学的、神学的要素を包括的に検証している」と、研究書を高く評価している。

 2人の学者は聖職者の性犯罪の主因として2点を挙げている。
 \賛者が結婚できる教会では性犯罪は少ない一方、聖職者の独身制を強いるカトリック教会では性的に未熟な若い神父たちが自分より幼い未成年者に性的犯行に走るケースが多い。すなわち、聖職者の性犯罪とその独身制には密接な関連がある。

 ▲トリック教会が経営する孤児院や養護施設などが性犯罪を誘発する組織的背景となっている。カトリック教会は世界約9800カ所に孤児院、養護施設などを経営しているが、それらの施設に保護される未成年者は聖職者の性犯罪の犠牲となる危険性が高い。経営側の教会はその点について余り自覚していない。

 上記の2点は新しい事実ではない。多くのメディアや教会関係者が指摘してきた内容だが、今回は膨大な資料を分析、検証したうえでの結論だけに説得力がある。
 例えば、オーストリアのローマ・カトリック教会最高指導者シェーンボルン枢機卿は、「性犯罪はカトリック教会の聖職者だけが犯す犯罪ではない。その件数自体、他の社会層のそれよりも少ない」と弁明したことがある。同枢機卿の見解が教会のこれまでの代表的な立場だった。

 なお、前オーストラリア教会最高指導者ジョージ・ペル枢機卿(バチカンの枢機卿会議メンバー)は同国の検察庁から未成年者への性的虐待容疑で起訴され、現在、公判を受ける身だ。

 カトリック教会の独身制については、このコラムでも何度も言及してきた。南米教会出身のフランシスコ法王は前法王べネディクト16世と同様、「独身制は神の祝福だ」と強調する一方、「聖職者の独身制は信仰(教義)問題ではない」と認めている。換言すれば、独身制は聖書に基づくものではなく、あくまでも教会が決めた規約に過ぎないわけだ。
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