ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

V4グループ首脳の「私の主張」

 メルケル独首相は26日、ポーランドの首都ワルシャワを訪問し、ポーランド、チェコ、スロバキア、そしてハンガリーのヴィシェグラード・グループ(V4)首脳と難民政策などについて意見を交換した。
 V4は、シリア、イラクなどから難民が欧州に殺到して以来、メルケル首相の“難民ウエルカム政策”を激しく批判し、ブリュッセル(欧州連合=EU)の難民分担案に強く反対してきた。結果は、予想されたことだが、「V4との妥協点を模索する」というメルケル首相の思惑は空振りに終わり、難民政策では、V4とメルケル首相の間に大きな溝が改めて浮き彫りにされた。

 そこで、難民政策に対するV4グループの首脳の声をまとめておく。V4グループは今年、創設25年目を迎えた地域協力機構だ。

 .魯鵐リーのヴィクトル・オルバン首相はEU主導の政策に常に異議を唱えてきた“EUの異端児”と呼ばれる政治家だ。メルケル首相との会談では、「EUの難民政策の修正を求める」と早々と戦う姿勢を示してきたほどだ。
 オルバン首相はワルシャワ首脳会談前、対セルビアの国境線の壁建設拡大を宣言し、「われわれの国境を花や動物の人形で守ることはできない。国防は軍隊、警察、そして武器だ」と述べ、難民ウエルカム政策を実施するメルケル首相を間接的に批判している。

 ▲船Д海離椒侫好薀奸Ε愁椒肇首相は25日、ワルシャワの首脳会談に先駆けメルケル首相とプラハで会談したが、「加盟国に難民の強制的な受け入れを要求するやり方は容認できない」と述べ、「わが国はイスラム系難民を受け入れない」と強調し、メルケル首相にストレートパンチをくらわしている。
 プラハ政府建物前では市民から「メルケル、出ていけ」といったシュプレヒコールが響き、同首相の難民政策への批判が強いことを物語った。

 ソボトカ首相は、「歴史も文化も異なる難民を迎えることを好ましくない。そのうえ、イスラム過激派テロ組織『イスラム国』(IS)に属するテロリストが難民の中に混ざって入ってくる」と強調し、フランスやドイツでのISのテロ事件を指摘し、「イスラム系難民の社会統合は容易ではないという現実がある」と主張している。

 ホスト国のポーランドのベアタ・シドゥウォ首相は、「難民政策でわれわれは一致を見出さなければならない」と述べ、「難民の分配ではなく、紛争地での開発・人道支援の拡大」を提案し、ブリュッセルの難民政策との妥協を模索する姿勢を示している

 ちなみに、同国のヴィトルド・ヴァシチコフスキ外相はドイツ通信(DPA)とのインタビューの中で、「ドイツの難民政策は非常に利己的な計算に基づいている」と批判し、ドイツの難民政策を“自国中心”だと断言している。

 ず埜紊蓮∈G7月1日からEU議長国となったスロバキアだ。同国のロバルト・フィツォ首相は、「わが国はイスラム系難民を受け入れる考えはない」と宣言してきた中欧の政治家である。その一方、「EUの共同防衛政策の重要性」を訴えている。
 
 メルケル首相とV4諸国首脳は、「EUの域内外の安全問題は、来月16日にスロバキアの首都ブラチスラヴァで開催予定のEU非公式首脳会談の重要テーマ」という点で一致したという。特に、トルコが10月、EUとの間で合意した難民政策を解消した場合、再び大量の難民がバルカン・ルートで欧州に殺到するケ―スが十分考えられるからだ。
 
 ワルシャワからの情報によれば、難民政策、安保問題以外では、英国のEU離脱後の加盟国間の結束問題が話し合われた。ホスト役のシドゥウォ首相は、「英国の離脱後、EUは安保と経済政策の両分野で連帯が願われる。EUは問題の解決でなければならない。EUが問題となってはならない。そのためにもEUの改革は急務だ」と述べている。


 メルケル首相は、「非公式首脳会談がブリュッセルではなく、ブラチスラヴァで開催されることは大切だ。国民がEUを肌で感じることができる機会となるからだ」と述べ、V4首脳に連帯と結束を訴えている。

極右派政党から初の大統領誕生か

 オーストリア大統領選の第3ラウンドが10月2日、実施される。第1ラウンドは4月24日、第2ラウンドの上位2候補者による決選投票は5月22日、そして決選投票のやり直し投票が10月2日というわけだ。通常の大統領選より1ラウンド多いのは、同国憲法裁判所が7月1日、5月22日の大統領選決選投票を無効と表明し、やり直しを命じたからだ。その理由は、「選挙関連法には不備はないが、その実施段階で形式的ミスがあった」というもの。

csm_DSC_9958_f0320aaf86
▲「大統領選の新しい選挙ポスターを紹介する自由党関係者」(オーストリア自由党の公式サイトから)

 そして夏休みは終わり、第3ラウンドの選挙戦の幕が今月24日、切って落とされた。候補者は野党「緑の党」元党首、アレキサンダー・バン・デ・ベレン氏(72)と極右派政党「自由党」副党首で国民議会第3議長のノルベルト・ホーファー氏(45)の2人だ。前者のバン・デ・ベレン氏は第2ラウンドの決選投票で得票率50・3%、3万0863票の僅差でホーファー氏を破り、当選が決まっていた。それだけに、憲法裁判者の投票のやり直し命令は無念であっただろう。一方、ホーファー氏は大統領府のホーフブルク宮殿入りへのチャンスをもう一度得たわけだ。

 バン・デ・ベレン氏の新しい選挙ポスターのタイトルはハイマート(Heimat)だ。“故郷”という意味。難民出身の同氏にとって、ハイマート(本国)は少々複雑な問題だ。それを逆に取って「オーストリア・ファースト」を叫ぶホーファー氏を攻撃しようというわけだ。一方、ホーファー氏の新しいポスターは「Macht braucht Kontrolle」(権力には監視が必要だ」)だ。トーマス・クリスティル元大統領(任期1992〜2004年)が選挙戦で使用した選挙ポスターのキャッチフレーズを利用した。

 同国の複数の世論調査では、ホーファー氏が一歩リードしている。このままいけば、欧州初の極右派政党出身の大統領が誕生する雲行きだ。同国日刊紙「エーステライヒ」(8月25日付)によると、8月23、24日の両日、600人の有権者に質問した結果、ホーファー氏が約53%でバン・デ・ベレン氏は47%で、両者の差は6%とかなり大きい。

 ホーファー氏が先行している理由として、移民問題とトルコ問題が同氏に有利に働いていることが考えられる。極右政党「自由党」は移民、難民の規制を主張してきた。一方、「緑の党」は移民・難民の受け入れを訴えてきた。ここにきて浮かび上がってきたトルコ問題では、ホーファー氏は、「トルコの最大少数民族クルド系住民を攻撃するなど、トルコ国内問題を海外に持ってきて展開し、民族紛争を煽ることは許されない。トルコの欧州連合(EU)加盟は目下、考えられない」とトルコ批判を強め、国民の支持を得ている。

 ホーファー氏にとって問題なのは、英国のEU離脱だ。ブリュッセル主導のEUに対して、自由党は過去、英国と同様、EU離脱も辞さない立場を取ってきたからだ。
 ホーファー氏は英国のEU離脱決定直後の日刊紙とのインタビューの中で、「EUが加盟国の主権を尊重せず、ブリュッセル主導の政治を継続するなら1年以内に国民投票を要求する」と述べていたが、ここにきて「EUに対する考えは何も変わっていない。EU離脱のシナリオはあくまでも緊急状況下で考えられるだけだ。わが国のEU離脱は目下、考えられない」と説明し、EU離脱支持の路線を修正している。

 いずれにしても、高齢な候補者バン・デ・ベレン氏はホーファー氏に対して守勢を強いられている。同氏にとって、「極右派政治家を大統領にしてはならない」といった内外の声が高まることだけが希望だろう。

 参考までに付け加えると、今回は3回目の大統領選だが、「今回の投票で問題が生じ、再びやり直しでも要求されたら、それこそ世界の笑いものになってしまう」ということで、同国内務省の選挙担当者は緊張しているという。
 ソボトカ内相は関係者に対し、〜挙関連法を遵守すること、投票終了の午後5時まで暫定結果などを外部に流さないこと、TVなどのカメラマンに投票場の風景を撮影させないこと、などを通達したという。大統領の栄光を獲得するために3回も選挙戦をしなければならなくなった2人の候補者も必死だが、内務省関係者も投票が無事終わるまで心を休めることができない。

「ルシファー」が地上にやって来た!

 当方は最近、米TVのドラマ「ルシファー」(Lucifer)を視ている。シリーズ2がまもなく公開されると聞く。少々、コメデイー風に描かれたストーリだが、結構面白い。ルシファーは聖書の世界では重要な存在だ。人間始祖アダムとエバを誘惑し、「取って食べてはならない」という神の戒めを破らせて堕落させた張本人だ。欧米のキリスト教社会ではルシファーといえば「悪魔の天使」を意味する。

MV5BOGQxNWY5NDUtN2VkOS00N2RiLThhMWQtNmExYmJhMzE3ND
▲TVシリーズ「ルシファー」のポスター

 そのルシファーを主人公にした映画だ。神から叱咤され地獄から追われ地上のロサンゼルス市に現れたルシファーは、地上ではロサンゼルス市警の女警察官(クロエ・ダンサー)を助けて様々な犯罪を解決していくという話だ。

 ルシファーが、「あなたは何を願っていますか」と問いかけると、尋ねられた人は心で願っている本当のことを白状してしまう。ところが、1人だけルシファーの魔術にはまらない人間がいた。それがロス市警のクロエ・ダンサーだ。ルシファーは嘘のない純粋な女警察官に新鮮な驚きを感じる。

 ルシファー役を演じる俳優はトム・エリスだ。興味深い点は、悪魔を演じるエリスの父親と叔父はバプテスト派教会の牧師であり、家族関係者には聖職者が多いことだ。ジャーナリストから「悪魔役を演じることに家族から反対はなかったか」と聞かれた時、エリスは、「私がルシファー役を演じることに何も反対はないよ。映画の世界の話だからね」と笑いながら答えている。ちなみに、ルシファーが放映されると、米国カトリック教会では「聖書の深刻な内容を茶化している」といった批判の声が出ているという。敬虔な信者にとっては、ルシファーは決してコメディアンではないわけだ。

 ところで、米ハリウッドではここにきて米俳優ではなく、英国人俳優を抜擢するケ−スが増えている。「Dr House」の主人公を演じたのは英国人俳優ヒュー・ローリーだった。英BBCが放映する「シャーロックホームズ」のシャーロックホームズ役は英俳優のベネディクト・カンバーバッチが演じたが、カンバーバッチは現在、米ハリウッドで売れっ子だ。米CBSで2012年から放映され大ヒット中の「エレメンタリー」(Elementary)でシャーロック・ホームズ役を演じるジョニー・リ・ミラーも英国人だ。「ウォーキング・デッド」(Walking dead)の主人公リック・グライムズは英国俳優のアンドリュー・リンカーンが演じた。今回のルシファー役のトム・エリスは英国人ではないが、ウェールズ出身者、といった具合だ。

 ハリウッドはここにきて米国俳優ではなく、英国俳優を好んで主人公に抜擢してきた。それには理由はある。(胴颪稜侏イ歪名錙巨額のギャラを要求するが、英国人俳優はそれほどではない、制作側としては経済的メリットがある。∧胴駝韻榔儿饋庸侏イ話す英語に惹かれる。すなわち、本場のブリティッシュ・アクセントに米視聴者が心をひかれるという、1儿饋庸侏イ榔薹爐侶亳海豊富であり、演劇力は確かだ、といった理由だ。

 なお、番組「ルシファー」を観て改めて気がついた点は、悪魔は自分から人間を懲らしめない。人間が悪いことをした時、その罰として人間を懲らしめるだけだ。悪魔が理由なく人を苦しめることはない、ということだ。不幸なことに、人間はさまざまな悪いことをするので、ルシファーは罰を与えるために忙しくなる、というわけだ。

前法王が語った「生前退位」の事情

 世界に12億人以上の信者を有するローマ・カトリック教会の最高指導者ローマ法王の地位を生前退位したベネディクト16世(在位2005年4月〜2013年2月)がこのほどイタリア日刊紙「ラ・レプッブリカ」(La Repubblicap)とのインタビューに応じ、生前退位を表明した背景について詳細に説明する一方、退位後の日々について語っている。

 そこでバチカン放送独語電子版が報じたイタリア日刊紙とのインタビュー記事(8月24日付)を参考に、ベネディクト16世の生前退位の背景、その後の日々について報告する。

 第265代ローマ法王ベネディクト16世は2013年2月28日、ローマ・カトリック教会史上、719年ぶりに生前退位した。在位期間は約8年間だった。その生前退位を決断した理由について、「2012年3月23日から28日までのメキシコとキューバ訪問が決定的な契機となった。生前退位はもはや避けられないという思いが湧いてきた」という。南米訪問が生前退位を決断する上で大きな契機となったという内容は初めてだ。

 バチカン法王庁の欧州と訪問先の南米では気候も環境も大きく異なる。公式行事が重なった南米訪問は強靭な体力を誇ってきたベネディクト16世をして「もはやこれ以上、公務をこなすことはできない」という思いが湧くほどだった。換言すれば、体力、健康の限界を強く感じたわけだ。ベネディクト16世は当時、85歳の誕生日を迎える直前だった(「法王と『カリブに浮かぶ赤い島』」2012年3月30日参考)。

 同16世は、「法王の職務を継続したいという思いはあった。例えば、『信仰に関する回勅』を完成したかった。しかし、2013年は多くの課題が控えていた。多分、自分はそれらを最後まで全うできないだろうと思った」という。

 同16世曰く、「メキシコ、キューバの南米訪問をもう一度する体力は自分にはなかった。なぜならば、翌年(13年)にはリオデジャネイロで世界青年集会の開催が予定されていた。ローマ法王の参加が必要な重要イベントだ」と説明。同時に、「自分が生前退位しても、後継者が神の御心を継続し、自分が残した使命を全うしてくれるという確信はあった」という。
 ベネディクト16世はその直後、医者に相談し、リオ開催の世界青年大会に参加しないことを決意し、生前退位を決断している。

 生前退位後については、バチカン庭園内にあるマーテル・エクレジエ修道院で住み、神のため、後継者のために祈る生活を始めようと考えた。同修道院は以前、バチカン放送所長が居住していたが、その後、祈祷院に変わり、修道女が去ると、同修道院が空いた。そこで退位後、ベネディクト16世は同修道院で祈りの生活を始めることにしたわけだ。

 その結果、バチカンにはフランシスコ法王と前法王のベネディクト16世という2人の法王がいる異常な状況になった。ベネディクト16世は、「後継法王フランシスコに対する忠誠の思いは全く変わらない。フランシスコ法王に対して連帯感と友情関係が生まれてきた」と明らかにしている。フランシスコ法王は法王選出直後、自分に電話をかけ、重要な司牧訪問前には必ず連絡してくれる。親子、兄弟のような関係だという。

 在位27年間を務めたヨハネ・パウロ2世後、ローマ法王に選出されたベネディクト16世の8年間の在位期間はまさに波乱万丈の時代だった。聖職者の未成年者への性的虐待事件が発覚し、その対応に追われる一方、法王の執事(当時)がべネディクト16世の執務室や法王の私設秘書、ゲオルグ・ゲンスヴァイン氏の部屋から法王宛の個人書簡や内部文書などを盗み出し、ジャーナリストに流した通称「バチリークス」事件が発生。同時に、バチカン銀行の不正問題やマネーロンダリングが暴露されるなど、不祥事が次から次と多発した。また、ベネディクト16世の生前退位の背景にはバチカン内の改革派と反改革派の抗争があったと一部で推測されていた。

 ベネディクト16世は「生前退位の直接の理由は南米訪問で体力の限界を知ったことだ」と初めて明らかにしたわけだ。換言すれば、ベネディクト16世は、南米訪問後の2012年4月から翌年2月まで約10カ月間、教会にとって719年ぶりとなる「法王の生前退位」の準備を慎重に進めていったわけだ。

人間に「自由意志」はあるか

  脳神経学者には、「人間には自由意志はない。それは幻想に過ぎない」と考える学者グループと、「自由意志があり、責任もある」と受け取る学者たちがいる。すなわち、脳神経学者の間で自由意志の有無についてコンセンサスがまだ見つかっていないわけだ。
 独週刊誌「シュピーゲル」最新号(8月20日号)は科学欄で著名な脳神経学者、リューダー・デーケ教授(Lueder Deecke)をインタビューしていた。その内容を紹介しながら、自由意志について少し考えてみた。

 1960年代、独フライブルク大学で2人の脳神経学者ハンス・ヘルムート・コルンフーバー教授と当時ドクトル試験受験者だったデーケ教授が実験を通じて人間が随意運動をする直前、脳神経に反応が見られることを発見した。これは Bereitschaftspotential(BP,英Readiness potential)と呼ばれる。この発見はその後の脳神経学の研究に大きな影響を与えた。

 具体的には、脳神経学者には、デーケ氏らが発見したBPの存在について、人間に自由意志があることを証明するのか、それとも神経細胞(ニューロン)の自律的反応に過ぎないのかで解釈が分かれていった。

 「人間は無意識によって操られている存在」と解釈する脳神経学者が出てきた。米国の心理学者ベンジャミン・リーベト(Benjamin Libet)やドイツのゲルハルト・ロート(Gerhard Roth)やヴォルフ・シンガー(Wolf Singer)らは、「人間はマリオネットのような存在だ」「遺伝素質、環境、教育、化学、神経網などで動かされている」という決定論者的な解釈を取った。

 デーケ教授はシュピーゲル誌のインタビューの中で、「われわれの実験結果が間違って受け取られた。われわれは人間の脳は単なる受信機的な受身機能だけではなく、自発的な決定を促す部分があることを実証したかった」と説明している。
 ちなみに、2人の脳神経学者は著書『意志と脳』の中で、歴史的な観点から意志を検証し、心理学、神経学の意志、人間の進歩と意志の関係などを詳細に記述している。この分野の古典だ。

 自由意志の有無は脳神経学者や心理学者にとって重要なテーマだが、それだけではない。哲学、神学、法学など多くの分野でも大きな課題だ。例えば、フランス人の神学者ジャン・カルヴァンは「全ては神によって事前に決定されている」という「完全予定説」を主張している。

 興味深い点は、人間をマリオネットに過ぎず、自由意志が存在しないとすれば、その人間が犯罪を犯した時、刑罰に処することができるかという問題が出てくる。脳神経学者の「人間には自由意志がない」という主張が一時期、米国の司法界にも一定の影響を与えたことがある。その結果、脳神経の欠陥という理由で多くの犯罪者が刑罰を逃れるケースが出てきた。最近は、脳神経学者の主張は依然実証されていない見解に過ぎない、という受け取り方が支配的となっているという。

 ところで、ベルリンの脳神経学者 John-Dylan Haynes 氏は信号の実験を通じ、無意識の決定に対し意識が拒否するメカニズムを証明し、人間が単なる無意識の世界に操られた存在ではないと主張している(「シュピーゲル誌」2016年4月9日号)。
 人が信号の前にいる。次は「青」になると考えた人はアクセルを踏む。その瞬間、信号が「赤」に変わる。人は自身の無意識の人質となり、身動きができなくなる。そこでこの状況を打破するために、人は無意識がもたらした行為をストップするというのだ。‘Free Unwille’という内容だ。政治学的に表現すれば、人は自身の無意識の決定に対し、‘拒否権’を有しているというわけだ。

 なお、デーケ氏はシュピーゲル誌とのインタビューやさまざまな講演の中で、「人間は本来、自由意志を持った存在だが、その意志は完全には発展していない。自由意識を成長させるために努力を繰り返し、正しく訓練していけば、自由意志は次第に完全なものとなっていく。逆に、自由意識を悪用すれば、その自由意志はその力を失い、最後には人間は無意識の世界の虜となっていく」という趣旨の内容を語っている。デーケ氏の指摘は非常に啓蒙的だ。

在位「33日間」で博物館が建った法王

 世界の大国・米国を指導した大統領は退任すると自身の名前がついた図書館、博物館が建てられ、現役時代の外交文書や書簡が陳列される。それを真似たわけではないだろうが、世界に12億人以上の信者を有するローマ・カトリック教会最高指導者、ローマ法王も亡くなると博物館や記念館が建立されるようになった。

7cd77718
▲イタリアのベルガモのヨハネ23世博物館(2013年9月26日、ヨハネ23世博物館で撮影)

 当方は3年前、イタリアのミラノ市から北東59キロにある小都市ベルガモ市(Bergamo)郊外のソット・イル・モンテにあるローマ法王ヨハネ23世(在位1958年10月〜63年6月)の生家を訪問したことがある。教会の近代化を決定した第2バチカン公会議を主導したヨハネ23世の生家は立派な博物館となっている。在位期間27年間を務めたヨハネ・パウロ2世(在位1978年10月〜2005年4月)も母国ポーランドに、生前退位したベネディクト16世(在位2005年4月〜13年2月)の場合、出身地の独バイエルン州に、それぞれ博物館や記念館があるといった具合だ。

 退位後や亡くなった後、自身の博物館と図書館をつくられる大統領やローマ法王は短くても4年以上の任期を全うしているが、在位33日間の最短在位期間の法王ヨハネ・パウロ1世の博物館が今月26日にオープンする。在位期間は最短だったが、博物館の建設では歴代の法王に負けていない。米大統領が任期1カ月で亡くなった場合、果たして独自の図書館、博物館が建つだろうか、とついつい考えてしまった。

 ヨハネ・パウロ1世(在位1978年8月26日〜78年9月28日)は法王に就任後、33日後に亡くなった。その法王の博物館が今月26日、同法王の生誕地イタリア北部のカナーレ・ダーゴルドでバチカンのナンバー2、ピエトロ・パロリン国務長官を迎えて、開館式が行われる。バチカン放送独語電子版が19日報じた。

 同法王は“笑う法王”と呼ばれ、信者たちの人気が高かった。バチカンでは現在、列福手続きが進められている。イタリアの貧しい家庭で生まれたアルビノ・ルチアーニ(本名)は幼い時から聖職者の道を目指した。70年にはヴェネツィアの大司教になり、生涯貧困問題に強い関心をもち続けた。筆の達つ聖職者で、「神父にならなかったら、ジャーナリストになっていた」といわれるほどで、さまざまなメデイアに意見や見解を明らかにしている。

 ところで、近代の教会史で在位期間最短の法王となったヨハネ・パウロ1世の急死についてはさまざまな憶測が今なお流れている。以下、まとめておく。

  岼纏Αζ濃Α彑
 新法王がバチカン銀行の刷新を計画していたことから、イタリアのマフィアや銀行の改革を望まない一部の高位聖職者から暗殺されたという説だ。十分な死体検証も行われなかったことから、証拠隠滅という批判の声もあった。ヨハネ・パウロ1世の死が伝わると、「ローマ法王はバチカン法王庁の書記官によって毒殺された」という噂が真っ先に流れた。米国のデビット・ヤロプ氏はその著書「神の名のもとで」の中で「ヨハネ・パウロ1世は毒殺された」と主張している。また、ベットで死んでいるパウロ1世を最初に見つけたのは修道女だったが、公式発表では個人秘書が発見したことになっている。


 ◆峙淦心筋梗塞」説
 バチカンは同法王の死因を急性心筋梗塞と発表している。フランスのヤクエス・マーチン枢機卿がその著書「私が仕えた6人のローマ法王」の中で、毒殺説を否定する一方、「問題は死因ではなく、長年心臓病に悩まされていたことが明らかにもかかわらず、コンクラーベ(法王選出会)はなぜヨハネ・パウロ1世をローマ法王に選出したかだ」と指摘している。ヨハネ・パウロ1世は法王就任前に、「私は心臓病に悩まされているから、長時間の激務には耐えられない」と語っていたという。


 「予定説」 
 法王の実弟エドアルド・ルチア二氏は「私の兄は77年7月11日に、ファティマのマリア再臨の目撃者ルチア修道女と会い、長時間話したことがある。その会談後、兄は顔面蒼白となり、非常に取り乱していた」と証言し、「ルチアは何か非常にショッキングなことを兄に伝えたのではないか」と指摘。その「何か」の1つとして、同氏は「ルチアはローマ・カトリック教会の将来ばかりか、兄に対してもローマ法王に就任したとしても短命に終わることを予言したのではないか」と推測し、ヨハネ・パウロ1世の急死が神の予定であったと受け取っている。ちなみに、同法王が書いたといわれる「遺書」が今日まで発見されていない。

 「33日法王」の急死をテーマとした映画や書籍が出版されている。パウロ1世はローマ法王としての業績はほぼ皆無だが、そのミステリアスな「急死」で有名になった法王だ。その法王の博物館が建立された。信者たちにとって新しい巡礼地が生まれたわけだ。

4年後の東京五輪の成功を祈る

 当方は猫ひろしさん(39)という日本人男性を知らなかった。ネット情報から有名なコメディアンだとを知った。知らない男性の言動について、ああだ、こうだ、というのは失礼なことかもしれないが、猫ひろしさんがリオデジャネイロ夏季五輪最終日の21日、男子マラソンを完走後、語ったコメントを読んで「この人には夢があったのだな」と強く感じた。その夢を実現するために日本人からカンボジアに国籍を変え、五輪に参加したということが分かった。

 猫ひろしさんの国籍変更の詳細な経緯は知らないが スポーツ選手の中では五輪や世界大会に参加したいために国籍を変える人はいる。世界大会や五輪に参加するためには一定の規定をクリアしなければならないし、参加枠も決まっている。全員が参加できるわけではない。
 例えば、米国では水泳競技で五輪に参加するためには厳しい予選を通過しなければならない。その予選は本大会より厳しい、といわれるぐらいだ。猫ひろしさんの場合、日本人のマラソンの五輪枠組みに入れなかったが、カンボジアではまだチャンスがあったから、国籍を変更したのだろう。

 もちろん、スポーツ選手の国籍変更理由はそれだけではない。自国の所属競技協会との関係が悪化し、国際大会への参加の道が途絶えた選手が別の国の選手として参加するケースも少なくない。

 当方が住むオーストリアはウインタースポーツのメッカだ。冬季五輪も2回、開催した。アルペンスキー競技だけではなく、スキージャンプもトップ級だ。アンドレアス・ゴールドベルガ―というジャンプ選手がいた。ワールドカップ総合を3回獲得した名選手だった。葛西選手と同世代の選手だ。彼がコカインなど麻薬問題でオーストリアのスキー・ジャンプ協会から半年間の資格停止の処分を受け、長野冬季五輪に参加できなるという状況が生じた。そこでゴールドベルガ―選手はスロベニアの国籍を取ろうと試みたことがあった。国際的スキー・ジャンプ選手の国籍変更は当時、世界のメディアでも大きく報道されたことがあったので、読者の中にも記憶されている人
も少なくないだろう。

 猫ひろしさんは2011年、国籍を変更し、ロンドン大会ではカンボジア代表に選出されたが、国籍変更後、1年未満しか経過していないなどの理由から大会参加を拒否された。だから、リオ五輪はカンボジア人の猫さんの五輪デビューとなったわけだ。

 猫ひろしさんは完走した。時間は2時間45分55秒で、参加者155人中139位、完走者中140人中、139位だった。読売新聞電子版によると、猫ひろしさんは「カンボジア人も日本人もブラジルも応援してくれた。最高の42・195キロでした。後半、苦しくて足が動かなくなったが、僕を選んでくれたカンボジアでも放送されている。絶対に歩かないぞと踏ん張った」という。走ることが大好きな男の気概を感じた。

 夢を持つことは大切だ。それを実現する為に努力することはもっと素晴らしい。「走る」という競技は多くのスポーツ競技の中でも最も古い競技だろう。走り出した少年が人より早く走りたくて練習を繰り返し、そして五輪大会に参加したいという夢が膨らんでいったのだろう。猫ひろしさんは大きなドラマを書いたわけだ。

 リオ夏季五輪大会は幕を閉じ、いよいよ2020年の東京大会だ。リオ大会では、水泳競技で5個の金メダルを獲得したマイケル・フェルプスの活躍、、そして陸上男子400mリレーで銀メダルを獲得した4人の日本人ランナーの勇姿が忘れられない。多分、もっと、もっと多くのドラマがあったのだろう。

 リオ五輪大会開催中もシリアやウクライナ東部で戦闘が続き、多くの犠牲者が出ている。また、ドーピング問題でロシアの陸上選手が五輪参加できずに終わった。4年後の東京五輪を人類の連帯と和解を誇示できるスポーツ祭典としたいものだ。東京五輪の成功を祈る。

量子物理学者と「神」の存在について

  量子テレポーテーションの実現で世界的に著名なウィーン大学の量子物理学教授、アントン・ツァイリンガー氏(Anton Zeilinger)は、「量子物理学が神と直面する時点に到着することはあり得ない。神は実証するという意味で自然科学的に発見されることはない。もし自然科学的な方法で神が発見されたとすれば、宗教と信仰の終わりを意味する」という。同教授がウィーンの教会新聞日曜日版とのインタビューの中で答えたもので、バチカン放送独語電子版が18日報じた。

anton-zeilinger-den-gott-337248_e
▲世界的な量子物理学者ツァイリンガー教授(オーストリア週刊誌「プロフィール」でのインタビューから)

 人々は分からないことにぶつかればその説明を求める。人々は余りにも多く神について語り、その定義を提示してきた。神は全知であり、全能だ、といった具合にだ。ツァイリンガー氏は、「自分は神秘主義者かもしれない。人は神を感じることができるが、神について多くのことを語ることはできない」という。

 「神」とはいかなる存在か、宇宙の森羅万象を創造した神は存在するのか、等々、昔から人間は考えてきた。新約聖書の「ヨハネの黙示録」1章には神自身が答えている。「私はアルパであり、オメガだ」という。アルパは最初であるから、宇宙の創造者を意味し、オメガは終わりを意味するから、その完成者という意味かもしれない。同時に、「黙示録」の別の個所には「私は初めであり、終わりである」という表現もある。それ以上、何の説明もないのだ。

 人間が時間や空間の概念から神に問いかけたとしても所詮無理があるのだろう。量子情報のパイオニアのツァイリンガー教授は、「量子物理学がさらに発展したとしても神に遭遇することはない」と断言し、神について「多くを語ること」に警告を発している。神は人間の言語体系と認識メカニズムでは掌握できないというわけだ。

 少し古いが、オーストリアの週刊誌「プロフィール」(2012年8月9日号)は神について、教授に聞いている。同誌の会見記事の見出しは「愛する神をわれわれは発見できない」だった。
 プロフィル誌記者はツァイリンガー教授に、「神は自然科学的に理解できないのか」と聞くと、教授は、「神は証明できない。説明できないものは多く存在する。例えば、自然法則だ。重力はなぜ存在するのか。誰も知らない。存在するだけだ」と説明。そして無神論者については、「無神論者は神はいないと主張するが、実証できないでいる」と述べている。

 それでは、宇宙すべては偶然に誕生したものだろうか。ツァイリンガー教授は、「偶然でこのような宇宙が生まれるだろうかと問わざるを得ない。物理定数のプランク定数(Planck Constant)がより小さかったり、より大きかったならば、原子は存在しない。その結果、人間も存在しないことになる」と指摘している。宇宙全てが精密なバランスの上で存在しているというわけだ。

 profil: Das konnte doch genauso gut Zufall sein.
Zeilinger: Aber da frage ich: Warum ist die Welt so, dass der Zufall so etwas produzieren kann. Wenn etwa das Plancksche Wirkungsquantum viel kleiner oder groser ware, dann gabe es nicht annahernd die Moglichkeit, dass es Atome gibt. Und damit uns.

東欧で台頭する“難民ハンター”

 “ヘッドハンター”や“ナチハンター”という表現は聞いたことがあったが、東欧諸国で“難民ハンター”という言葉が飛び交っているという。簡単に説明すれば、不法に国境入りした難民、移民たちを見つけ、警察に報告したり、時には国外に追っ払う人々をさす。彼らは国境警備隊や正式の警察官ではなく、あくまでもボランティアだ。
 東欧諸国の難民ハンターは主にネオナチや極右活動家が多い。彼らは外国から殺到する移民や難民に対して排斥傾向が強い。誰に強いられなくても、報酬がなくても難民ハンターとして従事する人々だ。

 シリア、イラク、アフガニスタンから昨年、多数の難民がトルコ、ギリシャからバルカンルートで欧州に殺到した。ここにきてバルカン諸国では国境線の監視強化、壁を設置して難民の殺到を阻止してきたが、不法密入国斡旋業者の助けを受けて入国する難民、移民は絶えない。そこで不法入国者を見つけ出す難民ハンターの登場というわけだ。

 誤解を避けるために説明するが、紛争中のシリアなど中東から逃げてきた難民に対して、国際社会は難民としての権利を保証しなければならない。ジュネーブの難民条約に合致する彼らに保護を拒否し、追放することは国際法に違反する。その意味で、難民ハンターは本来、非常に誤解を呼ぶ名称だ。

 軍でもなく、警察にも所属しない人間が治安問題に関与し、一種の公権を振るうことは基本的には違法だ。しかし、不法な難民、移民の増加、犯罪の急増もあって黙認する東欧諸国が少なくないのもまた事実だ。

 民間治安部隊のパイオニアは、2007年8月、ハンガリーの極右政党「ヨッビク」が設立した「マジャール人警備隊」だろう。そして現在、ブルガリアの難民ハンター、さらにスロバキアでは極右政党「国民党・われわれのスロバキア」(LSNS)が主導する「市民防衛隊」だろう。

 ここでは「市民防衛隊」についで、独週刊誌「シュピーゲル」電子版(19日)から少し説明しよう。「市民防衛隊」は主にLSNSのメンバーだ。彼らはホロコーストを偽りと主張し、ヒトラーに関する批判を信じない。また、イスラム教徒を中傷誹謗し、少数民族のロマ人(ジプシー)を罵倒する。彼らは列車内で不法な外国人、移民、難民を見つけ出すと追放したり、警察側に連絡を取る。

 「市民防衛隊」が結成され、列車内の治安を監視するようになった契機は今年4月はじめ、1人の若い女性が列車内で襲撃されるという事件が起きてからだ。LSNSが作成した「市民防衛隊」プロパガンダ用ビデオによると、切符をもたない若いロマ人の男性が列車から引きずれ落とされるシーンが見られる。

 LSNSは3月の総選挙で議席獲得に必要な得票率5%をクリアし、最終的には8%を獲得した。国民から「市民防衛隊」の活動で苦情が聞かれたが、政府はこれまで具体的な対策を講じなった。しかし、政府もここにきてようやく対策に乗り出してきた。

 ルチア・ツィトナンスカ法相( Lucia Zitnanska、「キリスト教民主派政党MOST−HID」所属) は17日、「わが国はこれまで久しくネオナチの活動を黙認してきたが、ネオナチ活動を取り締まる法体制の整備が急務となってきた」と述べ、国内の過激派、ネオナチ対策の強化を明記した関連法改正案を議会に提出している。その中には、LSNS主導の「市民防衛隊」の廃止も含まれているという。
 それに対し、LSNSのミラン・ウーリック副党首は、「この秋から『市民防衛隊』の活動を拡大する」と通告している。

 難民ハンター、「マジャール人警備隊」、「市民防衛隊」など東欧で見られる極右、ネオナチ系グループが主導する民間警備部隊の台頭は、殺到する移民、難民、外国人に対する国民の不安が反映しているからだろう。

 東欧だけではない。オーストリア最東部のブルゲンランド州では増加する犯罪に対応するため市民の間で自主的な夜警団が生まれている。自身の安全は国境警備隊や警察官に任せておけないという理由からだ。同時に、同国では武器購入件数が増えてきている(「オーストリア国民は武装化する」2016年3月5日参考)。

独「トルコはイスラム過激派の拠点」

 2カ国間や多国間の外交関係では本音はあまり歓迎されないし、事実一辺倒の姿勢も喜ばれない。ましてや、相手の痛点に直接タッチする外交は関係をこじらせることが多い。ドイツの対トルコ関係を見ているとそのことを改めて感じる。

 トーマス・デメジエール独内相は、内務省が作成したトルコに関する非公開文書(ここでは「トルコ報告書」と呼ぶ)の中で、「トルコは2011年以来、中東のイスラム過激派にとって中心的な活動拠点(Aktionsplattform)の役割を果たしている」と記述されている点について、「現実に対する簡潔な表現だ」と説明し、記述内容がドイツ政府の考え方と一致していることを認めた。
 「トルコ報告書」は連邦議会の野党「左翼党」のSevim Dagdelen議員の問い合わせに内務省が返答した文書で、連邦情報局(BND)の機密情報に基づく内容も含まれていたので非公開とされたが、同国公営放送ARDが16日に報じた。

 「トルコ報告書」の中でも、「トルコのエルドアン大統領とその与党『公正発展党』(AKP)が中東のイスラム過激組織を支援している。同国が支援するイスラム過激派の中にはシリアの武装野党勢力ばかりか、エジプトの『ムスリム同胞団』やパレスチナのイスラム根本組織『ハマス』も含まれている」という個所が問題視されている。「ハマス」は欧州連合(EU)がテロ組織と指定しているグループだ。この個所は独連邦情報局(BND)のコンフィデンシャル情報に基づくものだ。

 「トルコ報告書」の内容が報じられると、予想されたことだが、トルコ外務省は17日、「ドイツ内務省の報告書内容はエルドアン大統領を中心としたわが国を弱体化しようとする歪められたメンタリティ―が根底にある」と激しく批判している。

 問題は、「トルコ報告書」を作成した内務省と、同報告書に関与しなかった外務省との間で不協和音が流れていることだ。具体的には、トルコのクーデター未遂事件後(7月15日)、緊迫するドイツとトルコ関係の正常化に腐心する外務省側の努力が「トルコ報告書」の内容が報じられたことで水泡に帰してしまう懸念が出てきたからだ。トルコは北大西洋条約機構(NATO)の加盟国であり、独連邦軍もトルコ内に駐留している。内務省は報告書作成のために外務省と全く打ち合わせをしなかったという。

 独外務省だけではない。メルケル首相は「トルコ報告書」の内容には納得していないという。なぜならば、難民・移民問題の解決のためにトルコ側との連携を強化している中で、アンカラとの関係を険悪化させることは決して得策ではないからだ。クーデター未遂後のエルドアン大統領の強権政策、クーデター派粛清に対して独政府はこれまで直接の批判は控えてきたほどだ。

 それでBNDの機密情報が外務省、連邦首相府を素通りしてどうして公表されたのだろうか。メルケル政府内でトルコとの関係を破壊したいと願っている者がいるのではないか、といった憶測すら流れている。
 シュテフェン・ザイバート政府報道官は、「トルコはイスラム過激テロ組織『イスラム国』(IS)との戦いでパートナーだ。また、同国とは難民問題でEUとの連携を進めている。その国(トルコ)を疑問視する理由を見いだせない」と説明している。

  看過できない事実は、トルコのテロ対策は欧米諸国とは明らかに異なるという現実だ。例えば、シリアのクルド人民兵組織とアラブ系反政府勢力部隊の合同部隊「シリア民主軍」(SDF)が8月に入り、ISがこれまで占領してきたシリア北西部のマンビジ市(Manbidsch)を奪い返したが、トルコではこのニュースは歓迎されていない。なぜならば、解放軍がクルド系(クルド人民防衛隊=YPG)に占められているからだ。YPGはトルコのPKK(クルド労働者党)の姉妹組織だ。そしてPKKは米国亡命中のイスラム指導者ギュレン師とともにトルコの宿敵と受け取られているからだ。

 トルコは対IS国際協調に積極的に貢献する姿勢を示す一方、ISと戦うクルド系組織を密かに攻撃していることは周知の事実だ。
 独内務省がまとめた「トルコ報告書」の内容は新しくはない、欧米諸国の共同認識であり、懸念事項だ。トルコ政府がドイツの報告書に激怒したということは、報告書の内容が事実だったからだ。間違った情報に誰も真剣に怒ったりしない。
訪問者数
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

Recent Comments
Archives
記事検索
QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ