ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

私的な、余りにも私的な「話」

 ブログを書くようになって今年6月で9年目を迎えるが、ブログのコラムの最後に「拍手」という欄がある。コラムを読んだ読者が面白い、楽しいと感じた場合、その「拍手」をクリックする、ということになっている。

 そこで過去のコラムの「拍手」を振り返ってみた。当方の場合、最も拍手が多かったコラムは「『アヴェ・マリア』の癒し」で84回、そして「日韓外交官の『現代接待事情』」80回、「アインュタイン博士と『宗教』」74回と続く。上位3位のコラムは読者が約3000本のコラムの中で最も面白く感じ、「拍手」をクリックされたというわけだ。

 ところで、当方が昨年7月23日、網膜剥離で緊急入院した日、コラムを更新できなかった。コラムをスタートして毎日更新し続けてきたが、その日は予定外の入院のため更新出来なかった。そこで管理人が「筆者、入院のため、しばらくコラムの掲載は休みます」というお知らせを載せてくれた。そして、なんとその日の「お知らせ」に7回の拍手があったのだ。当方のコラムの平均拍手回数を上回っていたのだ。
 「コラム休載」のお知らせを読んで7人の読者がクリックした「拍手」にはどんな意味があるのだろうか。ひょっとしたら、当方のコラムを不快に感じ、毎日更新されるコラムを見る度に、吐き気が湧いてきた読者ではないだろうか。当方が入院してコラムが更新できなくなったことを知って、思わず「拍手」をしたのだろうか、などさまざまなネガティブな思いが脳裏を駆け巡った。

 当方は先日、スウエ―デンのシンクタンクが公表した「人類滅亡の12のシナリオ」をコラム欄で報告した、送信する前から、「人類破滅のシナリオについて『拍手』する読者などいないだろう」と考えていた。しかし、なんと9人の読者が拍手したのだ。彼らは人類の滅亡を待望する人々だろうか。

 あるブロガーが、「拍手など意味がないよ。記事に関係なく、常連の読者は拍手をクリックするし、批判的な読者は面白いコラムにも拍手などしないよ」という。それではなぜ、「拍手」といった欄があるのだろうか。

 当方は告白するが、コラムを開始した直後、「拍手」がほとんどないので淋しく感じ、「拍手」を連続クリックしたことがあるが、やはり心は嬉しくなかった。「拍手」がもはや本当の「拍手」でないことが余りにも明らかだからだ。同時に、「拍手」がある場合、読者がコラムを読んで同感したり、体験を共有できたのではないか、と感じ、嬉しくなることも事実だ。
 なぜ、ブロク欄の「拍手」が必要なのだろうか。それは「本当の拍手」がそれを受けた書き手を鼓舞し、勇気を与えるからではないか。

 なお、先述した「コラム休載」で拍手をクリックして下さった読者は当方が網膜剥離になったことを喜ぶため、と少々冗談で書いたが、当方の回復を願ってクリックして下さった読者のことを忘れてはいない。遅くなったが、「拍手」して下さった読者の皆さんには心より感謝申し上げたい。

 最後に、昨年亡くなった俳優の高倉健さんの名セリフを紹介する。
 「拍手されるより、拍手するほうがずっと心が豊かになる」

元首相たちの懲りない「反日発言」

 菅直人元首相は先月24日、欧州の非政府組織(NGO)の招きを受けてパリで講演し、そこで福島原発の汚染水について言及し、「福島第1原発がコントロール下にあるという安倍晋三首相は明らかに間違っている」と批判した。また、宇宙人と呼ばれた鳩山由紀夫元首相は昨年11月19日、韓国・釜山での講演で、安倍政権の対中、対韓政策を批判し、慰安婦問題では日本政府に謝罪と補償を要求。同元首相は中国でも日本の歴史認識を批判し、中国共産党指導者を喜ばせたことは周知の事実だ。同じように、村山富市元首相は昨年8月、韓国の招きを受けソウルで講演し、慰安婦問題で日本政府の歴史認識を批判し、韓国国民に歓迎されている。

 この一連の元首相たちの海外での反日発言を聞く度に、「日本の首相ともなった人物が国内ではなく、海外で日本を堂々と批判するその精神はどうしたものか」と感じてきた。

 政治家ばかりか、全ての国民は「言論の自由」があり、自身の考えを表現できる。元首相でも同じだが、「首相」とは国の代表だ。国内には様々な意見があり、コンセンサスがない問題も少なくないが、首相に就任した後は自身の意見や政策に一致する国民だけの代表ではなく、全国民の代表という意識が重要となる。
 米大統領選を思い出してほしい。民主党候補者が大統領に当選したとしても、その民主党大統領候補は「私は全ての米国民の大統領としてその職務を履行する」と表明する。同じように、自由民主党の首相だったとしても野党支持者の国民の代表でもある。党派に関係がない。元首相はその首相職を体験してきた政治家だ。

 その元首相が国内ではなく、国外で自国政府を批判することに、当方は首を傾げざるを得ないのだ。繰り返すが、国内でさまざまな意見を発言することは自由社会では当然だ。元首相ならば他の政治家より経験が豊富だから、現政権に知恵を貸すという意味で積極的に自身の考えを表明したとしても不思議ではない。

 問題は海外で反日発言を繰り返すことだ。もちろん、元首相を招待する海外のホスト側も元首相が現政権と意見が一致していないことを知った上で招く。例えば、中国共産党政権が鳩山元首相を歓迎し、国家主席が会談に応じるなど大サービスでもてなす。その意図は元首相も分かっているはずだ。元首相の口で日本政府を批判できれば、一層効果的だという計算があるからだ。元首相が相手側の狙いを知りながら、それに呼応する発言をするということは、国の代表を経験した政治家のすべきことではない。

 例えば、小泉純一郎元首相は2月17日、都内で講演し、安倍政権の原発エネルギー政策について、「原発はいつ爆発するかわからず、時限爆弾を抱えたような産業だ」と述べ、原発の再稼働を目指す政府の姿勢を批判した。しかし、小泉元首相は国内で現政権の政策を批判しただけだ。全く問題はない。

 米国でも国務長官や国防長官が退陣すると伝記を書き、その中で政権を批判したり、大統領を批判することはある。しかし、繰り返すが、それは国内の国民を意識した発言だ。もちろん、それらの伝記は国外でも紹介されるから、海外でも反響はあるが、本来の狙いはあくまでも国内向けだ。元米大統領が海外の招きを受け、そこで現米政権を激しく批判した、という話は聞いたことがない。
 元国家元首、元首相は国外で発言していい内容とそうではないものの識別が求められているが、残念ながら、日本の元首相たちにはその識別能力がない人が少なくないのだ。

 鳩山元首相の反日発言を薄笑いを浮かべながら聞いているのは、元首相を招いた中国政治家たちだ。彼らは内心、「この人物は品格のない政治家だ」と軽蔑しているのではないか。国や民族を超え、品格のない人物は軽蔑される。逆に、明確な信念を有する政治家や指導者に対しては、たとえ思想や信条が異なっていたとしても一定の尊敬が払われるものだ。

岡田さん、御自愛ください

 「日本のメディアが岡田(克也)さんがまた手術したと報じてるわよ」
 家人が驚いたように言う。当方は早速、岡田さん{野党・民主党代表)が26日、網膜剥離を再発して、緊急手術をしたというニュースを読んだ。左目を眼帯した岡田さんの写真が出ていた。昨年末、網膜剥離で手術を受け、2か月後の再手術だ。岡田さんも少しショックだったろう。

 網膜剥離の手術では、剥離した網膜を網膜色素上皮に再度、付着するために無臭、無色、無毒の化学物質SF6ガス(六フッ化硫黄ガス)が目の中に注入される。ガスの力で網膜を再び元の位置に押し戻すためだ。SF6ガスは平均1週間から長い場合、12日間ほどで自然に消滅していく。SF6ガスが剥離した網膜を網膜色素上皮に付着させたかは、再検査しなければならない。網膜が定着しない場合、次は油を注ぎ、網膜を視神経の位置に押す。油の場合、網膜が定着後、油を抜き取る手術を受けると聞いた。

 当方は昨年7月末、Ablatio retiae rechts(右目網膜剥離)と診断され、緊急入院していた時、病室の患者の1人が「数日前、油を導入する手術を受けたばかりだ」と言っていたことを思い出した。岡田さんも網膜が定着するまで静養すべきだ。

 どのメディアか忘れたが、岡田さんが「網膜剥離となってから好きな本が読めなくなったが、相手の話をこれまで以上に聞くようになった」と述べた、と報じていた。読書好きな岡田さんにとって本が読めないことは辛いだろう。それでも「相手の話をこれまで以上に聞くようになった」ということは素晴らしい。
 政治家は自身の心情、考えを国民に訴える機会が多い。どうしても相手の話を聞くというより、自身の考えを話すことが多くなる。その政治家の岡田さんが「相手の話をよく聞くようになった」という。画期的な変化だ。国民や有権者の考えや悩みにこれまで以上に耳を傾けるようになることは、政治家として大きな飛躍だ。

 当方も網膜剥離になって以来、新聞をじっくり読めなくなったし、好きなTV番組も1時間以上は観ることができない。その一方、ラジオを聞く機会が増えた。手術直後はラジオが唯一の情報源だった。正午ニュースと夕方6時のニュース番組が全てだった。時間が来ると、ベッドに横になって耳を傾けて聞く。ラジオが素晴らしいニュース機関であることを理解した。画面を使って説明するTVニュースとは違い、ラジオのニュースは分かりやすく、詳細だ。夜は目が疲れるから早めにベッドに入り、ラジオの音楽番組を楽しむ。日々の生活が新聞、TV、コンピューター中心からラジオ中心に変わってきた。そして岡田さんほどではないが、相手の話を少しは以前より聞くようになった。

 岡田さんは野党代表であり、その職務は秒刻みだろう。自愛してほしい。そして国民の話、悩みに耳をかす立派な政治家となって頂きたい。

プラハで“ラビ”の為の護身術コース

 ドイツのユダヤ中央評議会ジョセフ・シュスター(Josef Schuster) 会長は「イスラム教徒が多数を占める地域に住むユダヤ人は自身がユダヤ人であるということを明らかにするのを控えるべきだ」と述べ、男性ユダヤ人は通常、頭の上にキッパ―と呼ばれる帽子をかぶるが、反ユダヤ主義者の襲撃を受けないためにそのキッパ―を外すべきだと発言し、注目されている。欧州では反ユダヤ主義が席巻してきた時でもキッパ―着用を避けるといった意見がユダヤ人指導者から出てきたことはこれまでなかったことだ。

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▲民族衣装キッパ―を被るユダヤ人(ユダヤ教の公式サイトから)

 欧州全土で反ユダヤ主義が拡大し、今年に入っても1月7日、イスラム過激派テロリストの3人が仏週刊紙「シャルリーエブド」本社とユダヤ系商店を襲撃。2月14にはデンマークの首都コペンハーゲン市内で開催中の「芸術と冒涜,表現の自由」に関する討論会会場で銃撃事件が発生したが、その翌日15日には同市内中心部のシナゴーグの近くで銃撃事件が起き,市民1人が死亡,警察官2名が負傷する事件が発生している、といった具合だ。また、ユダヤ人墓が破壊されるといった蛮行は欧州では頻繁に起きている。

 フランスでは昨年一年間で約7000人のユダヤ人が反ユダヤ主義の風潮に嫌気を差し、長く住み慣れたフランスからイスラエルに移住した。欧州連合(EU)の盟主ドイツでも反ユダヤ主義関連の犯罪件数が増加してきた。独週刊誌シュピーゲル電子版が報じるところによると、2013年は788件だったが、昨年は864件で約10%増加した。「実際の反ユダヤ主義関連犯罪はもっと多い」といわれている。

 パリの反テロ大行進直後、オーストリア・ウィーンの「イスラエル文化協会」のオスカー・ドイチェ会長は「パリのジャーナリストたちはイスラム教の預言者ムハンマドを風刺したことで射殺されたが、ユダヤ商店での4人はユダヤ人だという理由だけで殺された」と述べ、憤りを表している。

 コペンハーゲンのテロ事件直後、イスラエルネタニヤフ首相は欧州居住のユダヤ人に対し、「イスラエルへの移住を歓迎する」とアピール。それに対し、メルケル独首相は「どうか欧州に留まってほしい。わが国はユダヤ人の安全確保のためにあらゆる手段を行使する」と約束するなど、異例のアピールを出している。オランド仏大統領も「ユダヤ人は欧州にその居住を保有している。特にフランスはそうだ」と述べ、留まるように説得したばかりだ。ちなみに、ドイツには2013年現在、10万1338人、フランスでは約48万人のユダヤ人が居住している。

 チェコの首都プラハで24日、欧州のラビたち(欧州に約700人のラビ)が集まり、反ユダヤ主義者の襲撃を受けた場合、どのようにして自己防御(護身)するか、また負傷した場合の救急処置のトレーニングを受けたという。ラビが護身術のワークショップに参加するといったことは数年前までは考えられなかったことだ。それだけ、欧州居住のユダヤ人の危機感が高まっているのだろう。ラビの中には「全てのユダヤ人は銃を携帯すべきだ」といった過激な意見も聞かれるという。

 一人のラビは「欧州の政府はユダヤ人の安全対策で十分ではない」と指摘、ユダヤ人自身が率先して安全対策を取るべきだと強調している。

共産党から「赤」を取り戻そう

 当方は中国反体制派メディア「大紀元」の愛読者の一人だ。中国関連情報では多くの新しい情報が報じられているので、助けられている。
 いつものように24日朝、その「大紀元」のサイトを読んでいると、「赤を多用する現代中国、伝統ではなく、血を好む共産党の宣伝」という記事が目に入った。以下、その記事の一部を紹介する。

 「赤い花火、赤いランタン、赤い衣装…現代中国は赤を多用する。旧正月の行事でも赤い龍や獅子舞が世界中で舞った。しかし、中国人は昔から赤を多く使っていたわけではない。1949年以後に中国共産党が『流血の象徴』として、社会を血で染めるように使い始めたのがきっかけであることを知る人は少ない。
 古代中国では、色としての赤の使用は控えめで、細部を強調する場合に使われる程度だった。五行説で『火徳』にあたる漢王朝でさえ、赤は多く使われなかったと、作家の章天亮氏は述べる。
 『中国本土において赤はただの色ではない。共産党の象徴だ。赤を使うことは、党の支持を意味する』と章氏は加えた。たとえば中国の児童は、襟に赤いスカー
フを付けて 党に忠誠を誓うようを強要される」


 共産党が「赤」の色を多用することは事実だ。同党を「赤の政党」と呼ぶし、その支持者を「赤」と呼んで誹謗した時代があった。連合軍占領時代の日本でも“レッドパージ”(red purge)と呼ばれた時代があった。そして、唯物主義世界観を標榜する共産党の歴史が粛清の歴史であり、多数の流血が流されたことも事実だ。実際、中国で1000万人以上の国民が“紅”衛兵によって殺害されている。

 しかし、だからといって「赤」を共産党の象徴とみるのは正しいだろうか。当方は「赤」は色彩の中でも最も美しく、神秘的な色ではないかと考えている。その「赤」が共産党に独占されることに不満を感じてきた。「赤」を共産党から奪い返し、その色の本来の輝きを分かち合いたいのだ。当方の「赤の色彩論」に少し耳を傾けて頂きたい。

 私たち人間には血が流れている。血は栄養素を全身に運び、浪費物を処理するために運搬する役割を果たしている。その生命維持で最も重要な働きをする血液の色が「赤」だ。もし、「赤」がいかがわしい色だったならば、どうして人間の血液の色が「赤」なのか。生命を運ぶ血液の色が「赤」だとすれば、「赤」が少なくとも素晴らしい色彩だからではないか。
 ちなみに、「色彩論」の著者、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテは青、赤、黄を色の3原色とし、3色の色彩環を構成し、頂点に「赤」を置き、その対極に緑を位置させている。そして「赤」を「最も力強い色」と評している。

 賢明な読者の方なら、当方が「神が人間を創造した」という神の創造説に立脚して話をしていると気が付かれるだろう。神が自身の似姿として人間アダムとエバを創造し、その生命の血液の色を「赤」としたのならば、「赤」は本来、色彩の中で最も美しく、神秘的な色彩と考えて間違いない、という結論が出てくるのだ。人類史の中でもほんのわずかな期間、生まれ、消えていく共産党とその思想がその存在のシンボルとして「赤」を独占する権利はまったくないのだ。

 共産主義は唯物主義であり、無神論を標榜する世界観だ。レーガン元米大統領が共産圏の盟主・旧ソ連を「悪魔の帝国」と呼んだことはまだ記憶に新しい。その悪魔の思想である共産主義とその国家が神の愛する色、「赤」を奪っていったわけだ。悪魔は神の愛する色が何色かを誰よりもよく知っていたからだ。

 20世紀は共産主義が誤った思想であったことを実証してきた。その残滓はあるが、完全に消滅するのは時間の問題だろう。それに呼応して、共産党が奪った「赤」の名誉回復が進んでくると予想している。共産党から「赤」を取り戻そう。

最高裁判決から学ぶ「言葉の怖さ」

 読売新聞電子版は26日、「職場で女性に性的な発言をしたとして出勤停止の懲戒処分を受けた男性2人が、会社を相手取って処分の無効を求めた訴訟の上告審で、最高裁第1小法廷は26日、無効を認めた2審・大阪高裁判決を破棄する判決を言い渡した」と報じた。

 最高裁の判決は「言葉のセクハラ」も暴力と同様、相手を傷つけるという判断を下したわけだ。暴力はその時、相手に痛みを与えるが、時間の経過で治癒できるが、言葉の傷は一生、それを受けた人の心にしこりとして残ることが多い。イエスは「口に入るものは人を汚さず、口から出てくるものが人を汚すのである」(「マタイによる福音書」第15章)と指摘し、「口から出て来るものは、心から出て来るので、これこそ人を汚す。悪意、殺意、姦淫、みだらな行い、盗み、偽証、悪口などは、心から出て来るからである」と説明し、口から出る言葉の怖さを警告している。最高裁の判決はその意味で妥当だ。

 身近な例を見ても、言葉による争いが多い。夫婦喧嘩も暴力によるというより、一方の不注意な言葉が相手を傷つけた結果というケースが多いのではないか。「あの時、あなたはこういったわね」と妻が数年前の夫の言葉を正確に覚えていた、という体験をした夫も多いだろう。言葉の暴力が如何に相手の人格まで傷つけるかが分かる。一方、物理的暴力が相手の人格まで傷つけたという話はあまり聞かない。

 ただし、今回の最高裁の判決で問題がないわけではないだろう。言葉による暴力が相手にどれだけの傷を与えたかを数字で測量できないからだ。どうしても傷ついた被害者側の主観的な感受性が大きな影響を与える。時には、被害の実証が難しいこともあるだろう。感受性や性格の違いで同じ言葉も軽いジャブだったり、ボディーブロー(BodyBlow)となる場合だってあるからだ。“この言葉を発すれば、これだけ相手を傷つけます”といったスタンダート化はできない。

 言葉は時代、その状況、発する人などさまざまな要因が絡む。特に、女性への性的発言の場合、男性が女性の心を理解できないといった状況も出てくるだろう。言葉は性差によってその影響も異なる。ジェンダーフリー運動が進んだとしても、同じ言葉でも男性と女性では全く違う捉え方があるという事実は変わらないからだ。

 新約聖書の「ヨハネによる福音書」第1章には「初めに言(ことば)があった。言は神と共にあった。言は神であっ た。 この言は初めに神と共にあった。 すべてのものは、これによってできた。できた もののうち、一つとしてこれによらないものはなかった。 この言に命があった全ては言葉から始まったという」という有名な聖句がある。この言葉はロゴスを意味する。その意味で、われわれはロゴスによって創造されたというわけだ。だから、言葉を制する人は世界を制することができる一方、逆に、正しい、適切な言葉を発することができない場合、相手を傷つけ、自身も傷つくことになる。

 最高裁の判決は「性的発言」に対してだが、私たちが日々発する言葉に対しても同じことがいえるわけだ。相手を思い、相手のための言葉を見つけ出す訓練が必要だろう。
 われわれは関係存在だ。他者との関係がなくしては存在できない。だからコミュニケーションが不可欠だ。巷には言葉が氾濫しているが、正しい言葉を適切に表現できる訓練をしたいものだ。

アメリカン・スナイパーは英雄か

 クリント・イーストウッド監督の映画「アメリカン・スナイパー」が世界で上演中で、多くの観客を惹きつけている。同映画はアメリカ海軍特殊部隊ネイビーシールズの伝説のスナイパー、クリス・カイルを描いた映画で、第87回アカデミー賞で6部門にノミネートされ、音響編集賞を受賞した映画だ。イラク戦争を舞台に1人の若きスナイパーの姿が描かれている。

 独週刊誌シュピーゲル(2月14日号)は、「スナイパーが果たして戦争の英雄かで米国の世論が2分している」と報じている。自身は安全な場所にいて、敵を射撃するスナイパーは従来の伝統的な戦争の英雄像とは成り得ないという声と、味方を敵の攻撃から守るため敵兵を冷静に射殺していく射撃兵は英雄だ、という反論がある。映画のスナイパーのカイルは安全な場所から敵兵を射撃することに一種の後ろめたさを感じ、前線にも出ていく。

 1974年、テキサス生まれのカイルは2003年から09年、過去4回、イラク戦争に参戦し、160人を射殺し、アメリカ軍史上最高の狙撃兵という名誉を受けてきた。彼の伝記「アメリカン・スナイパー」は米国で100万部以上のベストセラーとなった。カイルは海軍を退役後、民間軍事会社を創設し、戦争で負傷した兵士の支援にも乗り出していた。そのカイルは2013年2月2日、カウンセリングの一環として実施した射撃訓練の場で、元海兵隊員エディ・レイ・ラウス(27)によって射殺された。

 そのラウス被告に対する裁判が24日、テキサス州の裁判所で開かれ、終身刑の有罪判決が言い渡されたばかりだ。検察側は、「ラウス被告は麻薬の乱用で精神的不安定だったが、殺人当時、善悪の識別能力はあった」と主張。弁護側は、「ラウス被告はPTSD(心的外傷後ストレス障害)下にあった」と反論した。同裁判を報じたシュピーゲル誌によると、陪審員の1人は、「ラウスは米国の英雄を奪っていった」と批判したという。

 イラク戦争、アフガン戦争の米帰還兵の多くはPTSDに悩まされて、日常生活に復帰できずに葛藤する。カイルも同様だった。妻や子供たちと談笑していても、彼の心は戦地にあった。彼は伝記の中で、「自宅、路上、周囲に置かれたゴミ袋を見る度に、その中に爆弾が仕掛けられているのではないかと考える」という。

 21世紀に入って、無人機が導入され、コンピューター主導の最新兵器が戦争の成果を左右するようになった。同時に、従来の「戦争の英雄」はいなくなってきた。スナイパーに戦争の英雄像を求めるのは分かるが、戦争には勝利者も英雄もいないのだ。内外共に深く傷ついた生身の人間だけが存在する。どのような理由からとしても、他の人間を殺せば、殺した側に消すことができない痕跡が心の中に残る。クリーンな戦争など存在しない。

 2011末現在、イラク、アフガン戦争の帰還兵約135万人の約16%にあたる21万人がPTSDに悩まされているというデーターが発表されたことがある。カイル自身もスナイパーとして名を挙げ、伝記まで出したが、やはり内的葛藤の日々を送り、戦地ではなく、故郷テキサスで悲運にもPTSDに悩む元海兵隊員によって射殺されたのだ。

天才詐欺師はニールだけではない

 当方が最近、米TV番組「ホワイトカラー」シリーズに凝っていることはこのコラム欄でも書いた。FBI警察ピーター・バークと天才詐欺師ニール・キャフリーのコンビによる犯罪捜査物語だが、そのストーリーはTVの世界だけだと思っていたが、そうではないことを最近、知った。世界的美術館で展示されているピカソなどの著名画家の絵が実は偽作だった、という話が最近多いのだ。オーストリア日刊紙プレッセの文化記事21日付から紹介する。

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▲米TV番組「ホワイトカラー」のDVD、カバーはニール役の俳優マッㇳ・ボマーさん

 事の起こりは、有罪判決を受けた絵画偽作者ヴォルフガング・ベルトラッチ氏が19日、ドイツ公共放送局ZDFのトークショーに参加し、「アルベルティーナ(Albertina)美術館で展示されている Max Pechstein(1881〜1955年、ドイツの印象派画家)の裸婦の絵は自分が偽作した作品だ」と暴露したことだ。ウィーン市1区にある同美術館は素描約6万5000点、版画100万点と世界有数のコレクションを誇っている。そこで展示されている絵画の一つが偽作だったということで、美術関係者やファンは大きなショックを受けたのだ。

 アルベルティーナ美術館のクラウス・アルブレヒト・シュレーダー館長は、「印象派専門家が2007年の展示会のために問題となった絵画を高額で購入したが、後日、その絵が偽作と分かった」と認める一方、同絵画は既に撤去済みだと明らかにした。
 ちなみに、ベルトラッチ氏はヘレナ夫人と連携で偽作してきたが、同夫妻の偽作が展示されていることが判明し、日本では1983年開館されたマリー・ローランサン美術館が2011年9月、ニューヨークではクノエドラー美術館が、ほぼ同時期に急遽閉館に追い込まれた、というのだ。偽作問題の影響は美術館の評判にとって致命的なダメージとなるわけだ。

 ヘレナ・ヴォルフガング・ベルトラッチ夫妻は2011年、詐欺容疑で有罪判決を受け、昨年初めに刑を終えて出てきてから、多くのメディアとのインタビューに応じている。先述のZDFのトークショー番組はその一つだ。

 アルベルティーナ美術館館長は、「詐欺師を天才と評価し、持ち上げることは馬鹿げている。いずれにしても、美術専門家はその鑑定で間違うことだってある」と認めている。例えば、ピカソ専門鑑定士が過去、ベルトラッチ氏の7つの偽作絵画を「本物」という鑑定証を出しているのだ。専門家でもその真偽を鑑定できないとすれば、深刻な問題だ。

 ちなみに、天才詐欺師がその才能を買われ、FBIの捜査を助けるというホワイトカラーのストーリーは米映画「Catch me if you can」(2002年)に酷似している。ただし、後者の話は実話だ。天才的詐欺者フランク・W・アバグネイル氏の「自伝小説」を映画化したもので、レオナルド・ディカプリオが演じる若き詐欺師はパイロットから医者、弁護士まで転身し、人々を次々と騙していく(日本では「世界を騙した男」というタイトルで紹介されている)。ホワイトカラーは米国で昨年、全6シーズンの放映を完了したが、ベルトラッチ氏は年齢の差こそあるが、ホワイトカラーの主人公ニールを想起させる。

 美術愛好家にとって絵画を観賞しながら、「果たして本物だろうか」と呟かざるを得なくなるとすれば、淋しいことだ。3Dプリンター、高品質の印刷機などの発展で偽作は限りなく本物に近づいてきた。専門家すらその真偽を容易に識別できなくなってきたわけだ。本物は無数の偽作の中に交じってその市民権が脅かされているといえるだろう。「本物」の冬の季節が到来しているわけだ。

人類滅亡の12のシナリオ

 存在するものはいつか終わりを迎える。人類も例外ではないかもしれない。美しい地球に住んできた人類がその歴史を閉じる時はくる、という点で最先端をゆく多くの科学者たちは意見を同じくしているのだ。問題は、いつ、どのようにして、かだけだ。スウェーデンに本部を置くシンクタンク「グルーバル・チャレンジ・ファンデーション」が先日公表した「人類滅亡12のシナリオ」を読者に紹介したい。

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▲小惑星、2012DA14、地球に急接近(NASAのHPから)

 報告書は12の人類滅亡のシナリオを4分類に分けている。

Current risks
 1. Extreme Climate Change
 2. Nuclear War
 3. Ecological Catastrophe
 4. Global Pandemic
 5. Global System Collapse

Exogenic risks
 6. Major Asteroid Impact
 7. Supervolcano

Emerging risks
 8. Synthetic Biology
 9. Nanotechnology
 10. Artificial Intelligence
 11. Uncertain Risks  

Global policy risk
 12. Future Bad Global Governance

 報告書は「12のシナリオのうち、9つのシナリオは人間の努力や英知によって回避可能」と予測している。例えば、地球温暖化は世界の国が連帯して対応に乗り出せば、最悪のシナリオは回避できるだろし、核戦争や生物・化学戦争も人間の努力で避けることは十分可能だ。一方、回避不能なシナリオは6と7だろう。予測が難しいうえ、現時点ではそれを回避する手段や方法がないからだ。

 6の場合、最近では小惑星が2013年2月16日早朝(日本時間)、地球に急接近したことがあった。スペインのラサグラ天文台が発見した小惑星で「2012DA14」と呼ばれた。米航空宇宙局(NASA)によると、小惑星は地球から約2万7000キロまで接近、静止人工衛星より地球に近いところを通過した。小惑星は大きさが45〜50メートルで推定13万トン。地球に衝突し、海面に落ちた場合、津波が生じ、都市に落下した場合、かなりの被害が考えられた。ちなみに、小惑星の衝突は過去にもあったが、地球が大きなダメージを受けるほどの衝突は記録されていない。ただし、大昔、生存していた恐竜の突然の消滅の背後には、惑星の地球衝突があった、という学説はある。


 7のシナリオも深刻だ。大火山が噴火すれば、その灰は地球全土を覆い、太陽の光を遮り、動植物に大きな被害を与えることが予想される。身近な例でも、富士山が大爆発すれば、日本全土ばかりか、近隣諸国にも多大の被害をもたらすだろう。

 興味深いシナリオは10のシナリオだ。人工知能、通称ロボットだ。近い将来、ロボットが人間のコントロールを離れ、逆に人間を支配していくというシナリオはもはやサイエンス・フィクション(SF)の世界の話ではなく、現実の恐れが出てきたというのだ。哲学者ニック・ボストロム氏は「人工知能の権力掌握の日は近い」と述べているというのだ。

 いずれにしても、人類の滅亡は長期的にみれば避けられない。地球にとって不可欠の太陽は今後、10億年、次第に明るくなり、中心核の水素が燃え尽くす。そして太陽は膨張し出し、赤色巨星となる。太陽が放出する灼熱を受けて地球上の水は全て蒸発し、遅くとも30億年後に地球上の生き物は消滅していると予想されるからだ。

21世紀と中世の「世紀の衝突」

 サウジアラビアのイスラム法学者 Scheich Bandar Al Khaibari師が信者の質問に答え、「地球は自転していない」と述べ、水の入ったカップを手にして「地球静止説」を説明しだした。曰く、「 Sharjah 国際空港から飛行機で中国に飛ぶとする。地球が自転しているなら、飛行機は空中で静止していれば中国が飛行機に向かってくるだろう。もし地球が逆回転しているとすれば、飛行機は永遠に中国に到着できない」と説明し、地球静止論を説いたのだ。

 同法学者がイスラム寺院で語っている動画はアラブ語系ネット上で放映され、大ヒット中という。あるネット・ユーザはアメリカ航空宇宙局(NASA)に、「このイスラム法学者のために宇宙に関する補習授業をやって下さい」と要請したという。

 当方はイスラム法学者をからかうつもりはない。なぜならば、地球自動説を否定し、静止論を主張しているのはイスラム法学者だけではないからだ、キリスト教神学者の中にも過去、そして今も、少なからずいるからだ。独週刊誌シュピーゲル2010年10月2日電子版によると、「天文学者ガリレオ・ガリレイは間違っていた。教会はやはり正しかった」と主張する国際会議が同年11月、米国で開催されたことがある。「地球静止」説を主張する神学者、ニューヨーク州バッファロー出身のロバートサンゲニス氏は、「地球は太陽の周囲を自転していない」と述べ、ビックバン論を否定し、「地球は宇宙の中心」と見ているのだ。

 もちろん、同氏を中心とした地球中心論者は現在のキリスト教会では少数派に過ぎない。先のイスラム法学者も同様だろう。例えば、世界に12億人の信者を誇るローマ・カトリック教会では、地球の自動説を主張し、天動説を否定したガリレオ・ガリレイは久しく異端者の烙印を押されてきた。彼の名誉回復は1992年、故法王ヨハネ・パウロ2世が宣言するまで待たなければならなかったのだ。

 ちなみに、バチカンは国連が2009年を「天文学の年」にすることを受け、天文学者・ガリレオ・ガリレイの彫像を法王庭園に建立する計画だったが、同計画はなぜか実現されず、バチカンでガリレオ名誉回復記念礼拝が行われただけで幕を閉じてしまったのだ。すなわち、バチカン内でもガリレオの名誉回復を快く思わない聖職者、天文学者がいることを示唆している、というわけだ。

 カトリック教会では1633年のガリレオ異端決議から1992年のガリレオの名誉回復まで359年の年月がかかった。だから、全てのイスラム教法学者が地球自転説を受け入れるまでにはやはり一定の年月がかかるだろうと考えて間違いないだろう。繰り返すが、イスラム教法学者を笑い飛ばすことはできないのだ。

 参考までに付け加えると、米国人にとって名誉な話ではないが、米国科学振興協会(AAAS)が昨年2月、年次総会で公表した調査結果によると、米国人のおよそ4人に1人は地球が太陽の周りを公転していることを知らないというのだ。

 さて、21世紀の宇宙物理学者たちは、宇宙がビックバン後、急膨張し、今も拡大し続けているというインフレーション理論を提唱している。宇宙誕生当時に放出されたさまざまなマイクロ波が現在、地球に届いているかもしれないというのだ。地球自動説を否定する宇宙物理学者はさすがにいない。

 ちなみに、地球静止論を主張するイスラム法学者の動画を見ていると、世界の到る所で現在見られるキリスト教社会とイスラム社会の衝突は決して「文明の衝突」ではなく、ガリレオらが生きていた「中世」と21世紀の「世紀の衝突」ではないか、と考え直した。人質の首をはね、人質を生きたまま火刑に処するイスラム教スンニ派過激テロ組織「イスラム国」の蛮行に、21世紀に生きるわれわれは大きな衝撃を受けてきた。テロリストたちはガリレオが生きていた中世からタイム・トラベルで21世紀のわれわれの時代に闖入してきた人間たちだ、と考えれば、少しは納得できるのだ。
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