ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

「憎悪」煽るCNNの反トランプ報道

 ニュージランド(NZ)中部のクライスチャーチで15日起きた銃乱射テロ事件をCNNと独ニュース放送NTVで追っていた。CNNはいつものように豊富な人材を駆使し、関係者やイスラム信者たちにインタビューし、ホットな情報を流していた。一方、独民間放送は外電で事件をフォローする一方、ロンドンに住むテロ専門家にインタビューし、欧州で起きたイスラム過激テロ事件と比較しながら事件を追っていた。

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▲CNNのジム・アコスタ記者(ウィキぺディアから)

 両放送を観ていて大きな違いに気が付いた。CNNはイスラム教徒への憎悪の恐ろしさ、イスラム・フォビアについて話す一方、最後にはトランプ米大統領批判が飛び出すのだ。トランプ大統領がメキシコとの国境に壁を建設しようと腐心し、外国人、移民・難民への憎悪を駆り立てているという論理から、極端に言えば、NZの白人主義者、反イスラム教のブレントン・タラント容疑者の犯行はトランプ大統領の憎悪政策が大きな影響を及ぼしているというのだ。

 ワシントン発ロイター電によれば、トランプ大統領はNZのテロ事件について「恐ろしい殺戮」と非難し、「モスクでの恐ろしい殺戮に対するニュージランドの人々の心痛を心よりお察しする」とツイッターに投稿している。ホワイトハウスのサンダース報道官はその直前、「憎悪による卑劣な行為」と非難したが、CNNはそんなことはどうでもいいのだ。

 トランプ大統領の「壁」建設は本来治安対策から出てきたものだ。それをCNNは移民・難民への憎悪からと恣意的に報じてきた。また、米南部バージニア州シャーロッツビルで2017年8月、白人主義を標榜する極右団体とそれに反対するグループが衝突し、反対派グループに自動車が突入し、1人の女性が死亡、多数が負傷した事件が起きた。その時、トランプ大統領は白人主義団体の人種差別政策に対し批判を抑える発言をしたと受け取られ、CNNなどリベラルなメディアはトランプ氏を白人主義の擁護者と酷評してきた経緯がある。

 ちなみに、タラント容疑者自身はマニフェストの中で「自分はトランプ大統領の政治を支持しないが、大統領は覚醒してきた白人のアイデンティティのシンボルだ」と書いている。

 独放送ではトランプ大統領の名前は1度も出てこない。なぜならば、NZの銃乱射テロ事件のタラント容疑者とトランプ大統領をリンクするという発想がないうえ、NZの銃乱射テロ事件の詳細な情報がない段階で早急な判断はできないという報道姿勢があったからだ。欧州で過去発生したノルウェーのオスロ大量殺人事件の犯人ブレイビクとNZのタラント容疑者の犯行を比較していた。

 CNNはトランプ氏が2017年1月、米大統領に就任して以来、局を挙げて反トランプ報道を展開させてきた。トランプ大統領が昨年11月7日、中間選挙後の記者会見を開いた時、CNNのジム・アコスタ記者がゴリ押し質問で大統領に制止される、といった場面があった。

 CNNの場合、徹底して反トランプ報道だ。ファクト・チェックといいながら、CNNの報道には一方的な価値観に基づく報道が余りにも多い。トランプ大統領のCNN嫌いはよく知られている(「CNN記者よ、奢るなかれ!」2018年11月18日参考)。

 ハノイで今年2月27、28日の両日開催された第2回米朝首脳会談の動向をCNNを通じてフォローしていたが、CNNの関心はハノイの米朝首脳会談にはなく、ワシントンで同時間に開催されたトランプ氏の元弁護士の連邦議会での証言にあった。トランプ大統領の元顧問弁護士、マイケル・コーエン氏が下院監視・政府改革委員会の公開公聴会で大統領による犯罪行為について証言した。CNNはハノイの首脳会談の行方を簡単に報道した後、連邦議会でのコーエン氏の証言にカメラを向け、トランプ氏攻撃をここで長々と続けていた。ハノイの動向が気になった当方は少々辟易した。

 米国の大統領が異国の地で北朝鮮指導者と会談し、非核化交渉している時、CNNは大統領の外交ポイントとなるかもしれないハノイの首脳会談を最低限度の報道に抑え、カメラは米連邦議会でのコーエン氏の証言に向けられていたわけだ。

 米国では過去、政治信条が異なるとしても選挙で選出された大統領には一定の尊敬を払うのが米国民であり、報道関係者の姿勢だった。今はそれが見られなくなってきた。CNNは、ハノイの米朝首脳会談開催時には、トランプ元弁護士の証言を優先し、NZの銃乱射テロ事件では、極右テロリストの犯行の主因はトランプ氏の憎悪政策の影響、と示唆していたのだ。

 CNNは反トランプ病に罹っている。次期大統領選で別の大統領が出現するまで、その病の回復は期待できない状況だ。なぜならば、CNNはイスラム教徒への「憎悪」、移民・難民への「憎悪」を批判する一方、自分たちがトランプ大統領への「憎悪」を駆り立てている、という自覚がないからだ。病の自覚がない患者は危険だ。

欧州カトリック教会の牙城が崩れた

 ローマ法王ヨハネ・パウロ2世の27年間の在位中、東欧のポーランド教会は欧州教会で最も影響力を有する教会とみられてきた。そのポーランド教会でも過去、聖職者による未成年者への性的虐待事件が発生していたが、ヨハネ・パウロ2世在位中は公に報じられることはなかった。

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▲ポーランドで大ヒットした映画「Kler」のポスター

 冷戦時代、ポーランド統一労働者党(共産党)の最高指導者ウォイチェフ・ヤルゼルスキ大統領でさえ、「我が国はカトリック教国だ」と認めざるを得なかった。そのポーランドでクラクフ出身のカロル・ボイチワ大司教(故ヨハネ・パウロ2世)が1978年、455年ぶりに非イタリア人法王として第264代法王に選出された。ポーランドの多くの国民は当時、「神のみ手」を感じたといわれている。


 ポーランドは久しく“欧州のカトリック主義の牙城”とみなされ、同国出身のヨハネ・パウロ2世(在位1978年10月〜2005年4月)の名誉を傷つけたり、批判や中傷は最大のタブーとなった。だから、同教会で聖職者の性犯罪があったという報告はこれまで一度も正式に公表されなかった。聖職者の性犯罪が生じなかったのではなく、教会側がその事実を隠蔽してきたからだ。 

 その沈黙の壁を破ったのは、このコラムでも報じたが、聖職者の性犯罪を描いた映画「聖職者」(Kler)だ。同国の著名な映画監督ヴォイチェフ・スマジョフスキ氏の最新映画だ。小児性愛(ペドフィリア)の神父が侵す性犯罪を描いた映画は昨年9月に上演されて以来、500万人以上を動員した大ヒットとなった。それに呼応して、教会の聖職者の性犯罪隠ぺいに対して批判の声が高まっていったわけだ。

 カトリック教会は同映画の制作を阻止するために、撮影を妨害するなどさまざまな圧力を行使したが、映画に対する国民の関心はそれを吹っ飛ばした(「欧州の牙城『ポーランド教会』の告白」2018年11月23日参考)。

 ボストンのローマ・カトリック教会聖職者による未成年者性的虐待の実態を暴露した米紙ボストン・グローブの取材実話を描いた映画「スポットライト」は第88回アカデミー作品賞、脚本賞を受賞したが、スマジョフスキ監督の「聖職者」はポーランド版「スポットライト」と呼ばれた。

 同国教会の春季司教会議が12日から3日間の日程でワルシャワで開催された。スタニスラフ・ガデツキ司教会議議長は最終日の14日、1990年から2018年の過去28年間の聖職者による未成年者への性的虐待件数を公表した。

 バチカン放送が15日報じたところによると、382人の未成年者が性的虐待を受けた。そのうち、15歳以下は198人。そのほか、243人の犠牲者が報告されているが、未確認として処理されている。

 確認済と未確認済み合わせて625人の未成年者の犠牲者の58・4%は男性、41・6%は女性だ。そのうち、4分の3の件数は教会内の処罰が下されている。性犯罪を犯した聖職者の4人に1人は聖職をはく奪され、全体の40%は聖職を停止されるか、警告を受け、未成年者と接触する仕事から追放された。犠牲者の42%は教会側に性的虐待を受けたことを自ら通達し、21%は家族が教会側に通達している。そのほか、6%は警察当局から、5%はメディアから事件を知らされている。

 ポーランド司教会議は教区、修道院に聖職者の性犯罪に対して調査し、教会の統計事務所と司教会議が設置した教会保護センターが連携して集めたデータの真偽を分析、今回の聖職者の性犯罪報告を作成した経緯がある。

 ちなみに、ワルシャワで開催された春季司教会議にはバチカンからナンバー2の国務長官パロリン枢機卿が参加した。ポーランド司教会議は今年で創設100年を迎え、同時にポーランドとバチカンの外交関係樹立30周年を迎えた。同国司教会議のメンバーは155人で欧州最大規模を誇る。同国人口約3842万人(2017年現在)のうち、約3300万人がカトリック信者として登録している。

 同国教会の聖職者による未成年者への性的虐待報告は、欧州カトリック教会の牙城と言われてきたポーランドのカトリック主義の崩壊を意味するだけではなく、「空を飛ぶ法王」と言われ、世界中の信者ばかりか、政治家からも愛され、尊敬されてきたヨハネ・パウロ2世の27年間の長期任期について、これまでとは違った視点で再考しなければならないことを教えている。

 故ヨハネ・パウロ2世が冷戦時代の終焉に大きな功績があったことは事実だが、今回公表された聖職者の性犯罪のほとんどがヨハネ・パウロ2世時代に起きているという事実があるからだ。

NZの「銃乱射テロ事件」を考える

 ニュージランド(NZ)中部のクライストチャーチにある2つのイスラム寺院(モスク)で15日、銃乱射事件が発生し、49人が死亡、子供を含む少なくとも20人が重傷した。NZ当局によれば、主犯は白人主義者でイスラム系移民を憎む極右思想を信奉する28歳のブレントン・タラント容疑者(Brenton Tarrant)。他の2人も共犯の疑いで逮捕された。

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▲事件が起こったクライストチャーチ(NearFinderより)

 タラント容疑者はオーストラリア出身で、NZに居住した後もトルコ、ブルガリアなどバルカン諸国を旅していることが明らかになっている。容疑者が使用した半自動小銃など5丁は2017年11月に銃保有の免許を得た後、合法的に取得している。

 当方は15日、CNNとドイツ語ニュース放送NTVで事件をフォローした。以下、NZの犯罪史上最大のテロ襲撃事件について、欧州で起きた過去のテロ事件を振り返りながら考えた。

  〕撞深圓枠塙堊阿烹沓簡任猟絞犬痢肇泪縫侫Д好函匹鬟優奪半紊卜した。同容疑者の言動を見ると、2011年、ノルウエーのオスロで77人が殺害されたテロ事件、アンネシュ・ブレイビクを思い出す。彼は2011年7月22日、ノルウェーの首都オスロの政府庁舎前の爆弾テロと郊外のウトヤ島の銃乱射事件で計77人を殺害した。当時32歳の容疑者の大量殺人事件はノルウエーの政情ばかりか、欧州の政界にも様々な波紋を投じた。ブレイビクも犯行前、マニフェストを公表し、そこでオランダの極右政党「自由党」やオーストリアの自由党の反イスラム教、反移民政策を評価している。一方、タラント容疑者はマニフェストの中でドイツのメルケル首相、トルコのエルドアン大統領を名指しで批判し、イスラム教徒の移民を擁護しているとして処刑を呼び掛けている(「オスロ大量殺人事件の政治的影響」2011年8月1日参考)。

 興味深い点は、ブレイビクもタラント容疑者もマニフェストの中でオスマン・トルコのウイーン侵攻(1683年)に言及し、イスラム教の拡大に強い脅威を感じていることだ。両者ともキリスト教の白人社会を守るテンプル騎士団の騎士を自負している。

 ◆.織薀鵐藩撞深圓魯ぅ好薀犇気砲箸辰峠斗廚福峩睛卜蘿辧廚瞭を選び、モスクを襲撃した。同じように、フランス北部のサンテティエンヌ・デュルブレのローマ・カトリック教会で2016年7月26日、2人のイスラム過激テロリストが礼拝中のアメル神父(当時85)の首を切り、殺害するというテロ事件が起きている。テロ襲撃時、教会は慣例の朝拝中だった。2人のテロリストは礼拝中の神父をひざまずかし、アラブ語で何かを喋った後、神父の首を切り、殺害した。同事件はカトリック教国のフランス全土に大きな衝撃を与えた。ちなみに、イスラム教テロリストに殺害されたアメル神父はその後、フランシスコ法王によって殉教者として列聖されている(「仏教会神父殺害テロ事件の衝撃」2016年7月28日参考)。

 テロリストが教会やモスクを襲撃するのは、他の場所を襲撃する以上に大きなインパクトを与えるからだ。イスラム教テロリストはキリスト教会を襲撃し、キリスト教を信じる白人テロリストはモスクを襲うことで相手の信仰を抹殺するという強烈な憎悪のメッセージを配信できるからだ。

  タラント容疑者はNZに居住した後もブルガリア、トルコ、ハンガリーなどバルカン諸国を訪問している。欧州では2015年、100万人を超えるイスラム系難民・移民が中東・北アフリカからバルカン・ルートを経由して殺到した。その結果、欧州社会ではイスラム・フォビア現象が出てきた。NZのイスラム教徒の数は人口の1%にも満たない約5万人に過ぎない。すなわち、タラント容疑者の周辺に多くのイスラム教徒が住んでいたとは考えにくいのだ。同じことが、ノルウェーのブレイビクの場合も言える。ブレイビクはイスラム教の北上を恐れ、キリスト教を守る騎士のような思想を信奉していたが、ノルウェーのイスラム教徒の数は人口の2%に過ぎない。しかし、タラント容疑者やブレイビクの憎悪はイスラム教徒に向けられていったわけだ。

 ポーランドにはユダヤ人がほとんどいない。にもかかわらず、同国では反ユダヤ主義傾向が欧州の中でも強い。まるでユダヤ人の亡霊が住んでいるようにだ。同じことが、ひょっとしたらNZやノルウェーでもいえるのかもしれない。インターネットで世界は文字どおり地球村となってきた。社会のグローバル化が様々な亡霊を運ぶのだろうか。

 ぁ.織薀鵐藩撞深圓枠塙堊亜▲悒襯瓮奪箸縫咼妊・カメラを設置し、17分間の動画を撮影している。通常のテロリストは犯行声明は出すが、自身の犯行を可能な限り隠蔽しようとする。同容疑者の場合、逆だ。その行動には強烈なナルシストの匂いがする。自分の言動を歴史に刻み込みたいという思いすら感じる。ブレイビクもナルシストだった。裁判で手を挙げ、キリスト教社会を守る騎士のような振る舞いをしている。

 心理学者が「現代のポップソングには『私』が頻繁に飛び出す一方、『私たち』という言葉は少なくなった」と指摘していたことを思い出す。最大の関心事は「私」に向けられている。時代は多くのナルシストを生み出す。少々理屈っぽくなるが、タラント容疑者やブレイビクの場合、単なる「私」1人のナルシストではなく、反イスラム教で結束するキリスト者「私たち」を導く「私」という自己陶酔というべきかもしれない。

 参考までに、タラント容疑者はマニフェストの中で「自分の政治的、社会的価値観に最も近い国は中国だ」と書いている。容疑者は中国西部に住むイスラム教徒の少数民族ウイグル人を弾圧する中国共産党政権に共感を覚えているのだ。
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