ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

オランダ国王の訪韓と「慰安婦」問題

 取り越し苦労と言われればそうかもしれないが、やはり懸念する。韓国聯合ニュースが先月30日、「オランダのアレクサンダー国王が11月、訪韓する」と報じた記事を読んだ時だ。アレクサンダー国王が韓国の朴槿恵大統領と会談する時、やはり旧日本軍の慰安婦問題がテーマとなるだろうと感じたからだ。

 聯合ニュース日本語版を先ず紹介する
 
 オランダのアレクサンダー国王とマキシマ王妃が韓国の朴槿恵大統領の招請により、11月3〜4日に国賓として来韓する。青瓦台(大統領府)が29日発表した。
 朴大統領は3月にオランダ・ハーグで開催された核安全保障サミットに出席するため、韓国の大統領として初めてオランダを公式訪問した。オランダ国王の今回の来韓はその答礼訪問と青瓦台は説明した。
 朴大統領がオランダを訪問した際、アレクサンダー国王は朴大統領を昼食会に招き、両国の協力について意見交換した。昨年4月に王位を継承したアレクサンダー国王は、皇太子時代にも4回来韓している。

 韓国が「正しい歴史認識」を標榜して日本側に謝罪を要求、特に、慰安婦問題を激しく追及してきたことは周知の事実だ。朝日新聞が慰安婦報道で大きな間違いがあったことを認めたことから、韓国側の慰安婦問題への取り組み方に修正がもたらされることを期待するが、韓国メディアを見る限りはまだその兆しは見られない。

 当方が懸念するのはオランダ側の出方だ。ジュネーブの国連人権理事会の「普遍的・定期的審査」(UPR)で2012年10月末、日本人権セッションが開催されたが、中国、北朝鮮、韓国からいつものように厳しく批判が飛び出した。それにもまして、厳しく日本を批判した国はオランダ代表団だったのを思い出す。オランダは旧日本軍の慰安婦問題を追及する急先鋒となっている。


 例えば、オランダがジュネーブの日本人権セッションで提示した質問内容を紹介してみよう。

 「軍の性的奴隷システムのテーマは関係国間だけの問題ではなく、日本国内の内政でもある。同システムに関しては1990年終わりに学校の教科書で紹介されたことがあるが、2012年の学校教科書には掲載されていない。第2次大戦時に行われた非道な行為について、若い世代に正しい認識を喚起する重要な契機のはずだ。日本政府は、基本的人権の尊重を若者たちに教育するという観点から、旧日本軍の性的奴隷制度をどのように将来の世代に伝えていく考えか」

 オランダは2008年5月の日本の第1回UPRでも韓国、北朝鮮と共に日本に慰安婦問題を挙げて質問した国だ。欧州諸国で唯一、オランダが日本の慰安婦問題に対して厳しい姿勢を貫いている。オランダ側の主張によれば、第2次大戦時、旧オランダ領東インド(現インドネシア領)で多数のオランダ女性が日本軍の捕虜となり、その一部が強制慰安婦とされた、ということから、旧日本軍の慰安婦問題に対して厳しいスタンスを取ってきた経緯がある。

 ローマ法王フランシスコの訪韓時にも韓国側は最後の記念ミサに慰安婦を招待し、ローマ法王と会合できるように手配している。オランダの場合、慰安婦問題が共通のテーマだけに、首脳会談で議題に上がる可能性が高いのではないか。――これがオランダ国王の訪韓ニュースを聞いたとき、当方の脳裏に浮かんできた懸念だ。

「癒し」を求める現代の男たち

 ビジネスホテルのサービス担当員の話によると、お客のチェック・アウト後、ベットや室内を片づけていると、動物のぬいぐるみが見つかることが多いという。客の忘れ物だが、小さな子連れの家族ではなく、大人の男性客のケースが増えてきたというのだ。40、50歳の成人男性が宿泊し、カバンからぬいぐるみを取り出し、ホテルの部屋に置く。そしてチェックアウトの時忘れる―といった状況だろう。

 その話について、1人の社会学者が「年齢に関係なく、現代人は癒しを求めている。成人の男性が旅行に出かける時、子供のぬいぐるみを旅行鞄に詰め込む。そして宿泊するホテルの部屋に飾るのは、家にいる雰囲気を作り出そうとするからだろう」と分析する。

 現代の資本主義社会はワイルドな世界だ。ほんの少数が勝利者となり、大多数が敗北者となる競争社会だ。ストレスも多く、心も疲れる。だから疲れた心を溶かしてくれる癒しが必要となる。その癒しを与えてくれるものは人それぞれ違う。ぬいぐるみもその一つだろう。おいしい食事、映画の観賞もそうかもしれない。当方の知り合いの娘さんは英国のシンガーソングライターのジェイク・バグ(Jake Bugg)の歌が好きだ。「彼の音楽を聴くと心が落ち着く」という。“カントリーソング”や“ブロークン”を聞くと、職場の嫌なことも忘れ、癒されるというのだ。
  ジェイク・バグは自作した最初の曲の感想を聞きたくて、お母さんの前で歌ってみた。お母さんは息子の曲を聞きながら涙を流した……というエピソ−ドが伝わっている。20歳の若者が作った曲とは思えない、聞く者の心を癒す温かみを持っている。“現代のビートルズ”と呼ばれている英ロックバンドのオアシス(Oasis)のリーダーだったノエル・ギャラガ―がバグの音楽に触れて「未来の音楽を聴いた」と述べたという。換言すれば、バグの音楽は 癒しの音楽といえるだろう。

  当方はこの欄で「アヴェ・マリアの癒し」というコラムを書いたことがある。

  イタリアの世界的テノール歌手、故ルチアーノ・パヴァロッティさんが歌うフランツ・シューベルトの「アヴェ・マリア」を繰り返し聴いた。聖母マリアを慕う切ないまでの心情が当方にも伝わってきた。
 当方はキリスト教の「聖母マリア信仰」に対し、「俗信仰」と一蹴し、カトリック教会の祝日「聖母マリアの被昇天」に対しても軽視してきた面があった。しかし、パヴァロッティさんの「アヴェ・マリア」を聞いて、「聖母マリアが素晴らしい女性であったかどうかは本来どうでもいいことだ」と思うようになった。明確な点は、欧州キリスト教会では「聖母マリア」を必要としたのだ。それが実存か、そうでないかはもはや大きな問題ではない。重要なことは、多くのキリスト者たちは日々の苦しい生活を乗り越えていくために「聖母マリアのような存在」を必要とした、という事実だろう。狩の社会、弱肉強食の社会で生きる人間にとって、その痛み、悲しみを慰労してくれる存在が不可欠だ。「こうあるべきだ」「こうすべきだ」といった命令する神ではない。人間の弱さを許し、抱擁してくれる存在だ。それがキリスト教社会では「聖母マリア」だった。「聖母マリアの存在」がなければ、キリスト教は世界宗教へ発展できなかったのではないか。

  男たちばかりではない。歴史は癒しを求めてきた。そこに登場してきたのが聖母マリアであり、救い主イエスだったのだろう。そして21世紀の今日、2000年前と同様、人は癒しを求めているのだ。

同姓同名の産経特派員が急死した

 前日と同様、当方の過去の体験談を書く。お付き合いを願う。

 冷戦時代、当方はウィーンの外国人記者クラブに登録するためクラブ事務所に出かけた。クラブ関係者が会員申請書を持ってきたので、名前と住所、国籍、会社名などを記入して渡した。その時だ。名前の欄を見て「えーっ?」と驚くではないか。数週間前、日本人ジャーナリストがクラブに登録したが、彼はその直後、急死したという。「自分はその名前をよく覚えているが、君の名前とまったく同じだ。君と同姓同名のジャーナリストは 亡くなったんだよ」と説明してくれたのだ。

 後で聞いたところによると、急死した日本人ジャーナリストはウィーンに来る前は 産経新聞ワシントン特派員だった。旧ソ連・東欧共産政権が勢いを持っていた時だ。産経新聞社は、やり手ジャーナリストを米国からウィーンに派遣した。そのジャーナリストが急死したというのだ。産経新聞社も驚いたことだろう。それ以降、同社はウィーンに特派員を送らず、ベルリンを拠点に共産圏をフォローしていた。産経新聞社のウィーン特派員が急死した直後、当方がウィーン外国人記者クラブを訪ね、会員登録をしたわけだ。事務所関係者が当方の名前をみて驚いたのも無理はない。

 前日、「めぐみさんの話」を書いたが、昔体験した奇妙な偶然について思い出したわけだ。めぐみさんの場合、名字は全く別だ。産経新聞記者と当方の場合、同姓同名で漢字も同じだ。職業も同じで、派遣された駐在地も同じだったわけだ。偶然にしてはかなり複雑な絡みを感じる。いずれにしても、外国人記者クラブに登録してから、当方の本格的な東欧取材が始まった。


 外国人記者クラブでは一期、理事を担当し、ウィーンの国連記者クラブでも1期理事をしたが、駐ウィーン日本人記者クラブに加わっていないこともあって、日本人大使が開いた記者会見などには日本人記者クラブから招待されなかった。その時、ベルリンから派遣された産経新聞の黒沢潤特派員が助けてくれた。日本大使が何を発言したかなどを記者会見後、当方に教えてくれたのだ。同記者はベルリン特派員として活躍した後、米ニューヨーク特派員として頑張っていると聞いた。当方より若手の記者だったが、シャープなジャーナリストだった。黒沢記者は当方と同姓同名でウィーンで急死された同僚記者のことをご存じだったのかもしれない。

 当方は、同姓同名の産経新聞特派員について、残念ながら顔も人となりも知ることがなかったが、上述した体験話を忘れることはできない。時間があったら、産経新聞関係者に聞いてみたいと思っているほどだ。冷戦時代の取材では、共産政権下で拘束されたり、治安部隊に追われ、私服警察官にマークされたことがあったが、不思議といつも守られてきた。ひょっとしたら、同姓同名の記者に当方は感謝しなければならないのかもしれない。

「めぐみさんウィーン滞在説」の真偽

 産経新聞電子版(8月29日)をフォローしていたら、「石井一民主党元国家公安委員長(80)が29日、神戸市であった自身の旭日大綬章受章記念パーティーで、北朝鮮による拉致問題に触れ『日本政府はいまだに横田めぐみさんらを返せと騒いでいるが、もうとっくに亡くなっている』と発言した」という記事が目に入った。元公安委員長を務めた政治家であり、自身も「北朝鮮事情に精通している」と豪語しているから、その情報にはかなり自信があるのだろう。

 めぐみさんの生死については、北朝鮮側が2002年、日朝首脳会談で拉致を認め、「遺骨」を提出したが、日本側が鑑定した結果、別人のDNA型が検出された。そのため、北側の発表にもかかわらず、「めぐみさんは生きている」といった期待が膨らんだ経緯がある。ご家族がめぐみさんとの再会を願って、帰国を待っておられるときだけに、やたらな情報を流すことは慎むべきだろう。めぐみさんは北朝鮮の日本人拉致事件のシンボル的な存在だ。そのめぐみさんが石井元国家公安委員長がいうように、すでに亡くなっているとしたら、拉致問題の全面的解決を目指す安倍晋三政権にとってはかなりショックとなることは間違いない。

 ところで、数年前、韓国の知人から緊急のメールが届いたことがある。「めぐみさんがウイーンにいて、生きているという情報がある。至急、その情報の真偽を確認してほしい」というのだ。「あのめぐみさんはウイーンに住んでいるというのか」と当方もびっくりしたが、すぐに「確かに、おなじ名前の人物はいるし、当方も彼女をよく知っている。しかし、拉致されためぐみさんではない」という結論に達した。その旨をソウルに送信したことがある。

 音楽の都ウィーンにはめぐみさんがいる。ここでそのめぐみさんの詳細なことは本人の許可がない限り書けないが、当方は冷戦時代からそのめぐみさんを知っている。駐オーストリアのハンガリー大使館領事部で偶然会ったこともある。彼女は知り合いのためにブタペスト行きのビザを申請しようとしていた。それも複数の旅券を持っていた。当方はめぐみさんと世間話をしながら旅券発行窓口で並んで番が来るのを待っていた。ところが、めぐみさんの番が来た時だ。「ちょっと思い出したことがある」と言って急に出ていったのだ。旅券をもらうために待っていながら、自分の番が来たら、出ていったのだ。めぐみさんの次の番が当方だったので、「あれ」と思ってびっくりしてしまったことを今でも鮮明に覚えている。なぜ、ウイーンのめぐみさんは突然、出ていったのだろうか。

 その答えは、めぐみさんが手にしていた知り合いの複数の旅券にあるはずだ。めぐみさんはその知り合いの名前が当方の目に入ることを避けるために急に出ていったのだ。彼女が恐れていたことは旅券所有者の名前が当方に知られることだ。もちろん、この部分は当方の推測の域を出ないが、当方はその推測が正しいことにかなり自信をもっている。

 当方はこのコラム欄でも数回、「東西両欧州の架け橋的な役割を果たしていたウィーンは1980年代、90年代、日本赤軍の拠点となっていた」と書いたことがある。多くの赤軍メンバー、シンパ、連絡係がウィーンを拠点に暗躍していた。ウィーンに住むシンパや連絡係はメンバーの旅券の手配などをしていた。

 韓国の知人がウィーンにめぐみという名の女性が住んでいることをどうして知ったのだろうか。知人によると、「めぐみさんがウィーンでテニスをしているところの写真がある」という。かなり情報には自信があったのだろう。その知人の名誉のために説明すれば、ウィーンのめぐみさんも当時、北朝鮮とは無関係ではなかったことを知っている。だから、どこかで、情報が混乱したのだろう。

独国民は超楽天主義者か!

 当然のことだが、悩みも国によってその内容が異なってくる。南欧スペインでは若者の失業者の急増が大きな悩みだし、フランスでは停滞する国民経済の復興をできるだけ痛みのない方法で成し遂げたい――といった難しいテーマに対峙している。悩みはその国の事情を直接反映する。ところで、「国民は豊かな生活を享受し休暇も十分だ。失業対策も成功し、欧州連合(EU)の中でもで失業率は低い。また輸出産業は順調で国民経済をひっぱっている。政権担当者ばかりか、国民も現状に満足している」――そんな国が存在する。EUの盟主ドイツだ。

 メルケル首相は第3次政権発足直後、「ドイツはこれまでになかったほどうまくいっている」と連邦議会で述べているほどだ。ドイツのIFO経済研究所は今月2日、第2四半期の独経済成長率が前期比でほぼゼロとなり、第1四半期のプラス0.8%から減速すると予想したが、メルケル政権関係者もメディア、そして国民もあまりその点に注意を払っていない。シュピーゲル誌はそれを“スーパー・オプティミスト”と呼んでいるわけだ。
 同国財務省はその後、「今年の成長率は政府予測の1.8%を上回る 可能性もある」と強気の予想を発表している。ちなみに、独連邦雇用庁によると、同国の今年8月の失業率は6・7%で過去20年で最低水準を維持し国民経済のさまざまな統計もメルケル政権の自信を裏付けている。

 他のEU諸国と比べ、悩みが少ないドイツだが、別の問題が提示されだした。それは「メルケル政権は現在と近未来についてのビジョンを提示してきたが、中短期の国家像に対するビジョンが欠けている」という指摘だ。独週刊誌シュピーゲル最新号は、「われわれは超楽天主義者」だというタイトルの記事を掲載している。メルケル政権に中長期の国家ビジョンが欠けていることに不満を評しているのだ。

 民主主義社会では有権者の意向を無視できない。そして有権者は今後10年先や20年先のことではなく、数年内に実施される政策を政治家に求める。失業者は現在の雇用市場の改善を最優先に求めるし、年金者は来月の年金が前年のインフレ率に相応してアップされることを願う。だから、政権担当者は現在と近未来のビジョンしか有権者にアピールできない。中長期ビジョンを提示して国民にその是非を問うことは難しいわけだ。

 コール元首相は「欧州の最大の問題は少子化だ」と述べたことがある。少子化問題は将来の労働不足、家庭問題、年金体制など密接に関連する問題だ。どの政党も政治家もそれを知っているが、それを前面に出して選挙を戦っても勝利はできないことも知っている。

 財政赤字問題で苦しむスペインやギリシャの国民から見たら、ドイツの悩みは贅沢な悩みといわれるかもしれない。しかし、国民経済がいい時にこそ国家の命運に大きな影響を及ぼす中長期問題に取り組むべき時だ。国民経済が低迷してきたら、どの政党、政治家もその対策に明け暮れて国家の中長期ビジョンを描く余裕などなくなる。
 ここにきてドイツは国際紛争の解決のために積極的な外交を展開してきている。将来を見越したドイツ外交として評価できる。

財務相が突然辞任する国

 オーストリアのシュビンデルエッガー財務相(副首相兼任)は26日午前9時、「今日をもって副首相、財務相、そして国民党党首の3つの公職から辞任する」と表明した。同相の辞任表明に連立政権の社会民主党と国民党関係者からも驚きをもって受け取られた。ファイマン首相(社民党党首)は「驚いている」と正直に語っている。国民党関係者も慌てて国民党本部に集まり、情報を収集していたほどだ。

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▲オーストリア国民議会(2012年5月撮影)

 財務相は辞任理由を「職務に対して国民党内で支持が十分に得られなかった」と説明している。具体的には、財務相の税政策に対して、所得税の軽減を求める声が党内で高まる一方、富裕者税の導入を求める声が連立政権の社民党関係者から日増しに強まっていた。それに対し、財務相は「国家の財政を健全化することが最優先される。税の軽減は早くても2016年以降だ」と応じてきた。そのため、国民党内からも財務相の政策に批判が上がる一方、社民党からは「財務相は裕福な国民を重視している」といった反発が絶えなかった。
 財務相は「次の世代に大きな債務を残してはならない。財政の節約が重要だ」との姿勢を最後まで崩さず、早朝招集した辞任記者会見を6分余りで閉じている。

 国民党は同日夜、党緊急幹部会を招集してミッターレーナー経済相を国民党党首に任命することを決めたが、財務相は来月初めに決めることになったという。党内では「一人が党首、財務相、副首相をを占めるのはよくない。特に、欧州経済の健全化の重責を担う財務相は激務だ」という声が支配的だ。

 野党第1党の極右政党「自由党」は「連立政権の財政政策は暗礁に乗り出したのだから、議会を解散して早期総選挙を実施すべきだ」と主張しているが、与党を含む他の政党は早期総選挙の実施には消極的だ。同国のメディアによれば、支持率で自由党がトップを走り与党2党が後塵を拝しているといった状況だ。社民党と国民党の2党ではもはや議会の過半数を占めることができない。だからファイマン首相や国民党は「早期議会選挙の実施」を考えていない。

 財務相は「わが国の財政をアテネ型にするか、それともドイツ型にするかの問題が問われている」という。ドイツ型の節約財政を実施してきた財務相は国民党内の支持を得られず、今回、辞任に追い込まれたわけだ。「節約政策だけでは国民経済を発展させることは難しい」ことは事実だが、「税制の改革の時期を間違えれば、財政悪化をもたらす」といった恐れは払しょくできない。
 今年末から来年にかけて州議会選挙が控えている。有権者を獲得するために与野党は受けのいい所得税の引き下げなどの税改革をアピールすることは間違いない。財務相は記者会見で「私は未来の世代に重荷となる財政政策はできない」とその信念を繰り返していた。国民党から抜擢される新財務相がどのような政策を実施するか、注目される。

ISに対抗し、宗教者が結集へ

 シリア、イラクの一部を占領し、カリフを宣言するイスラム教スンニ派過激テロ組織「イスラム国」(IS)に対して、イスラム教内で「あれはイスラム教とは関係がない」という怒りの声が上がってきている。同時に、ISに虐殺されている少数宗派キリスト教関係者からは「宗教の名を使ったテロ組織に過ぎない」といった批判が上がっている。

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▲ホーフブルク宮殿の式典ホールで開催されたKAICIID創設祝賀会(2012年11月26日、撮影)

 「少数宗派の信者や異教徒を虐殺するISに対して、宗教界はISに対抗する国際戦線を構築すべきだ」という要望が聞かれ出した。それを受け、ウィーンに本部を置く国際機関「宗教・文化対話促進の国際センター」(KAICIID)は、世界の宗教指導者を招請して対IS決起集会を開催する予定だ。KAICIIDは2012年11月26日、サウジアラビアのアブドラ国王の提唱に基づき設立された機関で、キリスト教、イスラム教、仏教、ユダヤ教、ヒンズー教の世界5大宗教の代表を中心に、他の宗教、非政府機関代表たちが集まり、相互の理解促進や紛争解決のために話し合う世界的なフォーラムだ。
 
 KAICIIDのクラウディア・バンディオン・オルトナー副事務局長は22日、「ISの非情な虐殺 暴虐をもはや傍観することができない。イスラム教指導者もISに対して明確に批判している。ISは蛮行をカムフラージュするために宗教を利用しているだけだ」と指摘し、「KAICIIDは近いうちに対IS決起国際集会を開催する」と発表した。ISに対抗するため、宗教者が総結集するというわけだ。
 
 サウジアラビアのスンニ派の大ムフティー(イスラム宗教指導者の最高位)は先日 過激なイスラム集団に対して「イスラム教スンニ派の教えと全く一致しない」と、ISに対して明確に距離を置く発言をしている。一方、世界最大キリスト教会のローマカトリック教会フランシスコ法王は18日、訪韓からローマへ戻る機内の記者会見で、イラク軍と米軍がISの拠点に空爆を実施したことに対し、「ISに対する国際社会の戦闘は合法的だ」と述べ、バチカンとしては 珍しく武力行使容認とも受け取れる発言をしているほどだ。
 
 ところで、イラクの首都バグダッド北東のディヤラ州で22日、イスラム教シーア派民兵と見られる武装集団が、スンニ派のムスアブ・ビン・ウマイル・モスクを襲撃し、70人が死亡、20人が負傷したばかりだ。シーア派信者を襲撃するスンニ派ISに対する報復だということは明らかで、イスラム教の2大宗派、シーア派とスンニ派の戦いがエスカレートする危険性も排除できなくなってきた。
 
  宗派、教派の違いを超え、ISに対する批判の声が上がり、宗教者の間で連帯の動きが出てきたことはこれまで見られなかった現象だ。それだけ、ISが危険なテロ組織だということになる。21世紀のわれわれの前に、中世時代の武装集団が突然、近代的な武器を持って戦いに挑んでいる……。そのような錯覚すら覚えるほどだ。遅すぎることはない。宗教者は時を移さず、総結集し、ISに対して立ち上がるべきだ。

「自然ではない死」が増える国・韓国

 韓国の中央日報日本語版を読んでいると、「韓国社会、自然ではない死について黙想しよう」というタイトルのコラムが掲載されていた。そこで好喪(ホサン)と惨喪(チャムサン)という初めて聞く言葉に出会った。中央日報記者の説明によると、前者は長寿を全うした人の葬儀であり、後者は自然ではない理由で死去した人の葬儀を意味するという。そして記者は「好葬よりも惨葬が増える国は、正常ではない」と述べ、「韓国社会が異常な国となっている」と警告している。


 当方はローマ法王フランシスコの訪韓直前、「法王の訪韓に期待すること」というタイトルでコラムを書いた。そこで韓国社会が自殺が多いことを紹介した。韓国聯合ニュースによると、「韓国の自殺死亡率が20年間で3倍以上に拡大したことが6日、統計庁の調べで分かった。経済協力開発機構(OECD)によれば、2012年の韓国の自殺死亡率は29.1人でOECD加盟国のうち最も高い」という。中央日報記者が指摘するように、韓国では「自然ではない死に方」をする国民が異常に多いのだ。コラム記者が憂うのは当然だろう。

 長生きして寿命を全うできれば幸せだ。それが100歳の大台入りを意味するのか、90歳、80歳台かは人それぞれ違うだろう。当方などは70歳まで生きた親族が少ないから、「70歳台入りできれば、寿命を全うできたといえるだろう」と勝手に考えている。すなわち、70歳は「当方の好喪」となるわけだ。

 一方、自殺や事故で突然、亡くなるケースがある。今年4月、300人以上の犠牲者を出した旅客船「セウォル号」沈没事故が起きたばかりだ。犠牲者の遺族の嘆きは聞く者の心をも揺さぶった。また、同事故に責任を感じて自殺した人も出てきた。自然ではない死は本人、関係者ばかりか社会にも悲しみを与える。「もっと生きることができたのに」という思いを完全には払しょくできない。そしてこの自然ではない死を迎える人が増えてきているというのだ。

 当方は冷戦時代、ハンガリー人の自殺がなぜ多いのかを取材したことがある。社会学者や宗教者などに聞いた。学者の一人は「ウィーン、ハンガリーのブタペスト、スロバキアのブラチスラバ周辺には昔から自殺者が多い。社会学者は自殺エリアと呼んでいる」と述べていたことを今でも思い出す。特に、ハンガリー人は欧州唯一のアジア系民族(マジャール人)で優秀だが、「困難に直面するとあっけないほどポキッと折れてしまう」というのを聞いたことがあった。
 「自然ではない死」の代表的な例は自殺だが、その背景には個人の気質、経済的理由から、地理的、民族的、歴史的な要因までさまざまなものが関わってくるから、自殺の理由は即断できない。

 韓国の話に戻る。当方はコラムで「韓国社会は厳しい内外の問題に直面している。韓国に今必要なことは、経済的繁栄以上に国民の間の絆を強くする精神的覚醒だ。韓国は終戦後、日本と同じように経済的復興に邁進してきた。先行する日本を追い付き追い越せ、といった一念で韓国民は頑張ってきた。サムスンや現代自動車など一部の韓国企業は今や世界的企業へと発展してきた。その一方、韓国は現在、一握りの勝利者と大多数の敗北者を生み出す激しい競争社会になっている」と指摘した。中央日報コラム記者が言うように、「自然ではない死」について、国民も政治家も黙想してみなければならないだろう。同記者が提示したテーマは韓国国民にとって「正しい歴史認識」より急務の課題ではないだろうか。

氷の水行と「遊びの精神」と善意

 氷水を頭からかぶる著名人の写真を初めて見たとき、「何のための水行か」と思ったが、そのアクションが「筋萎縮性側索硬化症」(ALS)と呼ばれる難病に対する社会の認識を高めると同時に、寄付を募る活動と知った。そのやり方はチェーン・メール(一種の幸福手紙)だ。指名を受けた人物は氷水をかぶり、他の人物を指名していく。これまで、多くの著名人が氷水の水行を行い、寄付してきたという。

 アイス・バケツ・チャレンジと呼ばれる同活動は米国で7月末、ALSに罹った米スポーツ選手のイニシャティブから始まったという。これまでビル・ゲイツやブッシュ前大統領、映画俳優、スポーツ選手が参加して話題を呼んできた。当方が住むオーストリアでもアルペンスキー競技のスーパースター、ヒルシャーさんやサッカー選手アラバさんも行っている。氷の水行をする著名人は今後も急速に拡大する勢いだ。

 当方が24日、ドイツのスポーツ番組を見ていると、司会者が突然、「うちの娘がALSのためにアイス・バケット・チャレンジをしました」と説明し、水行する娘さんの姿を紹介していた。アイス・バケツ・チャンレンジは単に著名人だけではなく、一般の国民まで巻き込む社会的現象の様相を深めてきたわけだ。独週刊誌シュピーゲル電子版(24日)は「米国で始まったもので、社会ネットワークを通じて雪だるま式に広がっている」と評している。

 本来のルールは、最初の人物が氷水をかぶる。24時間以内にその人物から指定された人が同じように水行する。水行しない場合、罰金として100ドルをALS関連機関に寄付するというものだ。ALS基金によれば、過去2週間で約400万ドルの寄付が集まったという。昨年の同期、基金の寄付総額は110万ドルに過ぎなかったから、インターネット上のチャレンジ・キャンペーンが大きな反響を呼び、寄付が集まったわけだ。ネット社会では寄付活動も「遊び精神」とパフォーマンスが不可欠だ。アイス・バケツ・チャレンジはその条件を完全に備えている。

 ALSといえば、英理論物理学者スティーヴン・ホーキング氏を思い出す。同氏は車いすの物理学者として世界的に著名な学者だ。例えば、オーストリアでも900人の患者が登録されている。ところで、水行し、寄付することでALSへの国民の一般的認識が深まるだろうか。著名人が同キャンペーンに参加することで寄付が集まり、難病対策が進むことは期待できるが、難病患者への理解が深まるかは分からないといわざるを得ない。

 また、目的はいいが、手段がよくない、といった批判も聞く。すなわち、水行する人物を他者が選び、強要するような仕方だ。何らかの善行、寄付も基本的には本人の自主的な関与が大切だ。チェーン・メールのようなやり方はやはり問題だ。著名人の水行には善行だはではなく、一種の職業的パフォーマンスの匂いもする。「寄付が集まり、ALSへの社会の認識が高まる切っ掛けとなるからいいことだ」といった実務主義的な受け取り方もできるが、当方には少し気になる。

 いずれにしても、アイス・バケツ・チェレンジは将来、他の難病支援にもつながるかもしれない。多くの人は他者のために何かをしたいと願っているものだ。その精神が一時的なブームで消滅せず、様々な分野で広がることを期待する。

「法王職」の終身制廃止近し?

 訪韓を終え、ローマに帰国途上、機内の記者会見の中でフランシスコ法王は「私もべネディクト16世の早期退位に共感する」という趣旨の発言をしたという。すなわち、前ローマ法王べネディクト16世と同様、健康が悪化し、法王の使命を果たせなくなった場合、「潔く法王職を辞任し、後継者にポストを譲る」というのだ。フランシスコ法王にとって、べネディクト16世は法王職を刷新した歴史的な改革者というわけだ。

 ドイツ法王べネディクト16世は2013年2月、突然、「健康上、法王職を継続して履行できなくなった」という理由から法王職を降りることを表明した。カトリック教会ばかりか、全世界は終身制が当然と考えてきたから、驚いた。だから、ローマ法王の早期退位について、さまざまな憶測が流れたものだ。べネディクト16世自身、後日、「神が私の辞任を願われた」と述べている。

 べネディクト16世の早期退位、フランシスコ法王の共感発言の背景には、27年間の長期政権を続けたヨハネ・パウロ2世(在位1978〜2005年4月)の姿があったのではないだろうか。ポーランド出身のヨハネ・パウロ2世はパーキンソン病にかかり、法王職務を履行するのも難しい健康状態だったが、終身制の法王職を最後までまっとうした。当時、教理省長官だったべネディクト16世はヨハネ・パウロ2世の姿を身近に見てきたはずだ。それが同16世の退位表明につながったのではないだろうか。同じことが、フランシスコ法王にも言えるだろう。べネディクト16世の決断が賢明であったと受け取っているはずだ。

 少し、飛躍するが、歴代のローマ法王について予言した聖マラキによれば、ローマ・カトリック教会の最後の法王はべネディクト16世で終わっている。その後の法王については、聖マラキは何も予言していないのだ。すなわち、ペテロの後継者、ローマ法王職がドイツ人法王で終わり、全く新しい時代を迎えることを強く示唆しているわけだ。

 11世紀の預言者、聖マラキは「全ての法王に関する大司教聖マラキの預言」の中で1143年に即位したローマ法王ケレスティヌス2世以降の112人(扱いによっては111人)のローマ法王を預言している。そして最後の111番目が昨年退位したベネディクト16世だったのだ。(「法王に関する『聖マラキの預言』」2013年2月23日参考)。

 フランシスコ法王以降は、従来のカトリック教会ではなく、新しい宗教として生まれ変わるのではないか、といった予感がするほどだ。南米出身のフランシスコ法王は昨年4月、8人の枢機卿から構成された提言グループ(C8)を創設し、法王庁の改革<使徒憲章=Paster Bonusの改正>に取り組んできた。そして、今年10月5日にはシノドス(世界代表司教会議)を開催し、そこで「福音宣教から見た家庭司牧の挑戦」(仮題)について協議することになっている。今後は聖職者の独身制の廃止、離婚・再婚者へのサクラメント問題にも何らかの改革が実施されるのではないかと期待されているわけだ。

 ちなみに、独週刊誌シュピーゲルはフランシスコ法王の改革をソ連最後の大統領ゴルバチョフ大統領のペレストロイカ(露語で改革)に倣って、“パパストロイカ”(Papastroika)と呼んだことがあるが、パパストロイカがローマ法王職の終身制に終わりを告げるのではないだろうか。
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