ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2009年01月

イスラム教と民主主義

  オーストリアでイスラム教を教える宗教教師(調査対象210人)の22%が「イスラム教の教えと民主主義は一致しない」として、民主主義を拒否している調査結果が明らかになった。すなわち、イスラム教教師の5人に1人は民主主義の法治体制を否定。その割合は教師の年齢が高くなるのにつれて増えるという。
 同調査結果は1人の宗教教育学者のドクター論文として公表されたものだが、同国のシュミード文相は同内容が明らかになるとイスラム教の宗教教師の選出を担当する同国イスラム教信仰共同体に詳細な活動報告を提出するように要請したという。
 一連のニュースを読んで、「宗教の教え」が民主主義と完全に一致すると考えること自体が宗教を知らない者の考えではないか、という印象をもった。「神の教え」と「この世の教え・規律」が完全に同一ならば、宗教の存在理由はなくなる。
 ローマ法王べネディクト16世は機会あることに、価値の相対主義を戒め、神の教えの絶対的信仰を信者に求めている。実際、カトリック教会にもキリスト教の教義を絶対視するキリスト教根本主義グループが存在する。
 宗教者は正しいと信じる教えに絶対的に従うのが正当な道と考えるならば、イスラム教の教学者の22%が「イスラムの教えと民主主義は一致しない」と信仰告白をしたとしても、特別、驚くには値しないわけだ。現実の民主主義世界をみても分るように、民主主義には改善すべき多くの問題が山積しているからだ。
 問題は、宗教者(教学者)がその自身の絶対的信仰を他者に“強要”する時に生じるのであって、絶対的信仰が問題を引き起こすのではないはずだ。

歌劇場舞踏会のチケットは完売

 舞踏会シーズンのハイライト、ウィーン国立歌劇場(Staatsoper)の舞踏会(2月19日)まであと3週間残す余りとなったが、それに先駆け、29日に歌劇場の大理石ホールで「2009年度舞踏会記者会見」が開かれた。
 ウィーンに長く駐在しているが、舞踏会(Opernball)の記者会見には参加したことがなかったので、経験を積むという意味もあって、今回は参加してみた。
 会場に到着した時、ホールには既に舞踏会関係者や記者たちで一杯。サービスされたシャンペンを飲みながら、わいわいがやがやと談笑したり、写真を撮っていた。
 政治関係の記者会見とはまったく異なった華やかな雰囲気だ。TVで見かけるアナウンサーやショーマスター、ダンサーたちの姿も見られる。
 舞踏会のプログラムをもらって席についたが、関係者の顔と名前が一致しないので、隣りに座った中年の婦人に小声で尋ねた。
 婦人は「彼女は舞踏会開催の責任者、その横にいるのが彼女の主人で、銀行の頭取よ」と熱心に教えてくれた。どうやら、婦人は全てのゲストの名前を知っているようだ。ジャーナリストではなく、上流社会の貴婦人といった印象がするほどだ。
 記者会見は始まったが、舞踏会のスポンサーを紹介することで時間が費やされ、肝心の舞踏会に関する話題は少ない。必要がないのかもしれない。舞踏会ではワルツを踊るだけで、それ以外でもそれ以下でもないからだ。
 VIPゲストの顔ぶれについては、「まだ時間があるので、どのVIPが出席するかどうかの最終確認は取れていない」という。オペルンバルには毎年、世界の政界や米映画界ハリウッドからVIPや著名な女優が参加するので、話題には事欠かない。
 高価な舞踏会チケットの販売状況については、「チケットは既に完売した」と誇らしげな答えが返って来た。金融危機にもかかわらず、というより、金融危機であるからこそ、夜明けまでワルツを踊って日々のウサを吹き飛ばしたいというのが、舞踏会参加者の本音かもしれない。

法王のイスラエル訪問、延期?

 ローマ法王べネディクト16世は、法王就任初のイスラエル訪問を今年5月に予定してきたが、それが実現するかどうか、怪しくなって来た。バチカンとイスラエル両国関係がここにきて再び険悪化してきたからだ。イスラエルの英字紙エルサレム・ポストは27日、社説の中でバチカン法王庁への抗議として、「駐バチカンのイスラエル大使を帰国させるべきだ」と提案しているほどだ。
 両国関係が険悪化した理由は一つだけではない。
 )_Δ郎7遒貌り、教会から破門したカトリック教会根本主義者故ルフェーブル大司教の聖職者グループ「兄弟ピウス10世会」の4人の司教に対する破門宣言を撤回する教令を出したが、4人の司教の中にホロコーストを否定する発言をした聖職者が含まれている(英国のリチャード・ウイリアムソン司教)。
 ∨_Δトリエント・ミサを認めた結果、聖金曜日(キリストの受難日)の祈りの中でユダヤ人の改宗を促す祈りが復活した。
 ドイツ出身のローマ法王は第2次世界大戦時のローマ法王ピウス12世の列副を推し進めている。同12世はナチス政権のユダヤ人虐殺に対し沈黙してきた、としてユダヤ人社会から批判がある―等が考えられる。
 前法王ヨハネ・パウロ2世はイスラエルとの関係改善に努力してきたが、べネディクト16世が2005年4月、法王に就任して以来、両国関係は再び緊迫してきた。今回のルフェーブル派聖職者の破門宣言撤回の教令は世界のユダヤ人社会を怒らせたといわれる。それだけに、べネディクト16世のイスラエル訪問が延期されたとしても不思議ではない(オーストリア日刊紙ザルツブルガー・ナハリヒテン)と受け取られ出している。

解雇を恐れ、欠勤日数が減少

 ドイツ駐在の知人記者が久しぶりにウィーンの国連記者室を訪ねてきた。そこでドイツの近況について聞いてみた。話は自然、金融危機の影響になった。
 「ドイツでは既に実体経済に影響を及ぼしている。連日、企業の労働者解雇ニュースが流れている。国民の最大の関心事は目下、職場の確保だ」という。
 欧州の中でもドイツ企業は一般的に給与体系が良く、国民は休暇には外国旅行に出かける余裕があった。有給休暇は30日間余り保証され、病気になれば最大6週間の休暇が取れる。労働条件は至れり尽せりで、「ドイツは労働者の天国」といわれる所以だ。
 ところが、それも次第に怪しくなってきたという。「1年前は風邪をひけば、1週間余り、病気休暇をとっていた労働者がここにきて病欠を避け、無理しても出勤するようになってきた。1週間も病欠すると、職場を解雇される恐れがあるからだ」という。
 当方が「これは米国発の金融危機がもたらしたポジティブな影響かもしれないね」と同意を求めると、知人はニヤニヤしながら、「話は続きがある。ドイツの自動車産業をみればいい。労働者が風邪で鼻水をたらしながら仕事に励んでも、会社側は余り喜ばない。売れない車を大量に生産しても会社の利益になるどころか、損失が拡大するからだ」という。
 会社を休めば解雇を心配し、無理して職場に出ても上司から歓迎されない。ドイツの自動車産業に働く労働者の現状はそのような状況だというのだ。

ロシア正教会の次期総主教選

 ロシア正教会最高指導者・アレクシー2世の死去(2008年12月5日)に伴い、次期総主教選が27日からモスクワの救世主キリスト大聖堂で始まる。
 正教会からの情報によると、全教会会議に先駆けて25日に開かれた主教会議で3人の候補者が選出された。アレクシー2世の死後、総主教の代理を務め、総主教選の準備をしてきたスモレンスクとカリーニングラードのキリル府主教(62)、カルーガとボロフスクのクリメント府主教(59)、そしてミンスクとスルツクのフィラレ府主教(73)の3人だ。3人とも12人から構成された正教会指導委員会に属するメンバーだ。
 27日にはロシア全土、旧ソ連連邦共和国、外国から総数711人の代表が参加して全教会会議が開かれ、29日までに新総主教が決定される運びだ。
 ソ連共産党政権時代、ロシア正教会は政権の手先となって生きのびる以外に道がなかったため、共産党政権との癒着、腐敗が絶えなかったが、ソ連連邦解体後はプーチン政権下で愛国教会としてロシア民族主義を鼓舞する役割を果たしてきた経緯がある。
 キリル府主教は25日、主教会議で「教会は特定の政治的立場を擁護してはならない」と述べ、「政治」と「教会」の分離を主張している。
 なお、新総主教(終身制)は2月1日、正式に就任する。

お元気ですか、権栄緑氏

 北朝鮮の金正日労働党総書記が訪朝した中国要人と会談したことで、健康悪化説が流れて以来、燻ってきた「金総書記死亡説」は払拭されたが、それ以上でも、それ以下でもないだろう。ここでは総書記の健康状況には言及しない。金総書記の健康問題は、遅かれ早かれ、時間が解答してくれるだろう。時間に委ねた方が賢明なテーマだ。
 さて、ここで気になる北朝鮮要人が2人いる。1人は駐スイスの李哲大使であり、もう1人は金総書記の要請に基づき欧州で物品調達に動いてきた権栄緑氏だ。今回は権氏について述べてみたい。
 同氏は長い間、ウィーンにあった北朝鮮直営銀行「金星銀行」(2004年6月閉鎖)に幹部として登録されてきた人物だ。同氏は拉致された韓国映画監督夫妻をベルリンで迎えたり、大量のベンツ購入でメディアに報じられたことがある人物だ、といえば思い出す読者もいるだろう。藤本健二氏の著書「金正日の料理人」(扶桑社)の中でも紹介されているから、ご存知の方もあるだろう。
 その権氏の動向に関心があるのは当方1人ではない。ベルリン駐在の日本のフジTV関係者たちも密かにこの謎に満ちた人物を追っているという。
 問題は同氏をキャッチし、会見できる機会がほとんどないことだ。権氏は過去、ウィーンと平壌間を頻繁に行き来してきた。ウィーンやザルツブルクの潜伏場所は分かっていても不在が多い上、同氏を見つけたとしても、同氏は何も語らない。当方は過去、数回、同氏と会い、挨拶を交わしたことがあるが、それ以上を超えて交流はできなかった(権氏は独語を流暢に話す)。
 権氏のアパートを訪問した時だ。戸のブザーを押すと、出てきた同氏は当方の顔を見ると、「何しにきたのだ」と喧嘩腰だ。当方が「できましたら、少しお話をしたいのですが」というと、権氏は顔色を変え、「馬鹿野郎」と罵声を飛ばすと戸を“バタン”と閉めてしまった。権氏は一度、「自分はもう年だから、退職の身だ。ベンツ車の購入ももはやしていない」と語った。
 当方は昨年、今年76歳の権氏を偶然、ウィーンの北朝鮮大使館の中庭で見た。背広姿の同氏は矍鑠(かくしゃく)とした紳士だった。とても「退職した老人」といった感じではなかった。
 なお、権氏は、金総書記の義弟、駐オーストリアの金光燮大使や、金総書記夫人だった故・成恵琳夫人の親戚関係者よりも地位(党ランク)の高い人物であり、「こちらから電話して呼び出すことができる人物ではない」(親戚関係者)という。
 「権氏、お元気ですか」

独で宗教授業を要求する署名活動

 独連邦首都ベルリン市で現在、公共学校で「宗教」を「倫理」と対等の選択科目とすべきだと要求する署名活動が実施され、住民投票実施に必要な署名数17万人分が集められた。
 ベルリンでは2006年以来、宗教授業に代わり倫理が義務科目として公共学校に導入され、第7クラスから実施されてきた。一方、宗教授業は選択科目に降ろされてきた。
 それに対し、「教育の場で宗教教育は欠かせられない」として新旧教会代表、政治家、著名人が結集して「Pro Reli」を結成し、署名活動を開始したのだ。そして署名活動締め切り日の今月21日までに17万人の署名が集められたわけだ。
 この結果、ベルリン市当局は宗教授業を公共学校で義務科目として扱うかどうかの住民投票を実施しなければならなくなった。学校関連法の改正には有権者の少なくとも25%の支持が必要だ。この場合、約61万票だ。ちなみに、住民投票の実施日としては、欧州議会選挙の投票日6月7日か、連邦議会選挙の9月27日に、同時実施する案が検討されている。
 新・旧教会で少しは相違があるが、ドイツでは信者離れが進み、運営が厳しくなってきた教会も出てきている。その背景には、聖職者の性スキャンダルの多発、それに伴う信頼の失墜がある。それにもかかわらず、宗教授業の実施を求める声が高まってきたということは、同国社会の根底には依然、宗教(教会)への期待感が失われていない事が伺える。

ブタペストに「金星銀行」出現?

 「ブタペストに幽霊が彷徨しだした。金星銀行(1982年、ウィーンで開業)という幽霊だ」と書けば、カール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスの著書「共産党宣言」の前文を想起する読者もいるかもしれない。
 北朝鮮の欧州唯一の直営銀行「金星銀行」(ゴールデン・スター・バンク)は2004年6月に閉鎖された。北の中東ミサイル取引きや麻薬密輸などに関与している疑いを持たれた同銀行は、米国の対北金融制裁の圧力を受け、閉鎖に追い込まれたことはまだ記憶に新しいが、ここにきて、その閉鎖された銀行がブタペストで出現した、という情報が流れているのだ。
 「金星銀行のブタペスト開業」という話は決して新しいものではない。「オーストリア・北朝鮮友好協会」会長だったアドルフ・ピルツ氏は2006年、「北朝鮮外交官から聞いた」と証言していたほどだ。
 今回の「金星銀行の再出現」説の根拠として、.屮奪轡總以得権が昨年、北朝鮮をテロ支持指定国リストから解除したことで、北が国際金融機関との交流が可能となったこと、∨鳴鮮はハンガリーのジュルチャー二社会党(元共産党)政権に人脈を有していること、ハンガリーが欧州連合(EU)の加盟国であること、等が考えられる。
 ただし、北朝鮮は経済的理由からブタペストの大使館を閉鎖し、駐オーストリアの同国大使館にハンガリーを兼任させている。独自の大使館もないハンガリーに北朝鮮が同国の銀行をオープンした、という話は少々説得力に欠ける。
 そこで最後は駐オーストリアの北朝鮮外交官と同国商務官にその真偽を聞いてみた。外交官は「そんな話を聞いたことがない。ブタペストにわが国の銀行が開業したというならば、自分も当然、聞いているはずだ」と強調し、商務官は「私は知らない」と答えをぼかした。

駐中国大使の視点

 ウィーンに一時帰国中のオーストリアの駐中国マーチン・サジィック全権大使(Martin Sajdik)が20日夜、「北京五輪後の中国」というタイトルで講演すると聞いたので早速、出かけた。当方にとって、五輪後の中国の政情は興味深いが、それ以上に、大使が北朝鮮担当大使を兼任し、昨年9月9日の北朝鮮建国60周年祭に出席した外国外交団の一員であったことを知っていたので、講演後、是非とも会見したいと考えたからだ。
 大使は「中国経済の現状」と「外交政策」の2点を客観的な事実と経済統計を挙げて説明した。欧州連合(EU)は中国にとって最大貿易国である一方、人権外交を優先するEUの価値観外交は中国との衝突を回避できないと指摘。例えば、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世が訪欧し、サルコジ仏大統領と会談した時、北京指導部を怒らせたことは記憶に新しい。ブッシュ前米大統領が同14世と会見しても大きな声を出さなかった中国指導者もEUに対しては声を荒げて抗議した。この違いは、「EUが共同軍隊を有さない単なる経済共同体の域を越えていない、という現状を北京指導者が良く知っているからだ」という。換言すれば、「米国は怖いが、EUは怖くない」といったところかもしれない。
 ここでは詳細に報告できないが、EUの視点からみた北京情勢の分析は、新鮮で学ぶことが多かった。
 さて、昨年9月9日の北朝鮮建国60周年祭について、大使は「招待された外交官たちは金総書記が登場すると考えていたが、顔を見せなかったので一様に驚いた。しかし、北朝鮮政府主催晩餐会は非常にスムーズに運営されていたので、われわれ外交官たちも感動した」と述べ、金総書記の欠席は既に折込済みで、北朝鮮指導部には大きな動揺が当時、感じられなかったと証言した。
 大使は「北朝鮮労働党の党大会は1980年以来、開催されていない。金総書記は正統性を確保できる指導体制を考えているはずだ」と述べ、ポスト金総書記の体制に強い関心を示した。

欧州のオバマ氏はいずこに?

 「エジプトでコプト教出身の首相が誕生するのは、米国で黒人のオバマ氏が大統領に選ばれるよりも難しい。例えば、コプト派のブトロス・ガリ元国連事務総長すら、エジプトでは首相にはなれなかった。イラク南部バスラ市には多数の黒人が住んでいるが、彼らが政治舞台に進出することは、オバマ氏の大統領当選よりも困難だろう」
 スーダン出身の記者はこのように言い切った。
 米国内ばかりか、アジアでも米国初の黒人大統領、オバマ氏の登場は歓迎されているが、アラブ諸国やアフリカ(ケニアを除いて)ではオバマ氏の対話路線を歓迎しても、黒人大統領誕生そのものに両手を挙げて歓迎しているわけではないという。
 一方、欧州ではどうか。オーストリアの日刊紙ザルツブルガー・ナハリヒテン紙は20日付の社説で、「どうして欧州ではオバマ氏のようなカリスマ性のある政治家が出てこないのか」と自問した後、「欧州で過去、カリスマ性のある政治家が皆無だったわけではない。いた。スターリンからヒトラーまで強烈な政治指導者がいたが、いずれも国民や他国に不幸をもたらしてきた」と指摘。そのような歴史的教訓から「欧州ではカリスマ性のある政治家が出現したら、早い段階でその目をつぶそうとする」という。
 同紙は「米大統領の任期は4年間、最長2期の8年間だ。だから、8年ごとに米国の政界には新風が吹く」と述べ、米国の政治文化は若くてタレントのある政治家が出てきやすい、と少し妬みを含んだ思いで評価している。
 
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