ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2012年03月

大統領の学位論文95%がパクリ

 ソウルで開催された核安保サミットに参加し、29日には李明博大統領と青瓦台(大統領府)で会談したハンガリーのパール・シュミット大統領を母国では「大統領の博士号剥奪」というニュースが待っていた。
 ブタペストのセメルバイス大学評議員会は同日、「論文で引用されている箇所の出典が不明が多く、剽窃の疑いが強い」として、同大学が授与した博士号を剥奪すると決定した。評議員会の33人が剥奪を支持し、4人が反対だったという。
 シュミット大統領は有名なフェンシング選手でメキシコシティーとミュンヘンの夏季五輪大会で金メダルを獲得するなど民族的スポーツ選手だ。その大統領が1992年に提出した論文テーマは「新時代の五輪競技のプログラムについて」だ。
 調査によると、論文の180ページは亡くなったブルガリアのスポーツ学者ニコライ・ゲオルギエフ氏の本から、17ページはドイツのスポーツ学者クラウス・ハイネマン氏の本から、それぞれ剽窃していたことが明らかになったという。
 大統領の学位論文の剽窃を今年1月に暴露した週刊誌「hvg」は「180ページはブルガリア人学者から、17ページはドイツ学者から盗んだほか、10ページは国際五輪委員会のパンフレットから剽窃している」と指摘し、大統領の論文の“94・6%”は剽窃したものだ、と報じているほどだ。
 調査委員会の結果が出る前までは、大統領(2010年8月6日就任)に博士号を授与した大学側の責任を追及する声が強かったが、剽窃の規模が明らかになると、与党フィデスのゾルタン・ポコルニ副党首すら「大統領ポストの名誉を著しく傷つけた」として辞任を要求しているほどだ。博士号が剥奪されたことで大統領が1994年に獲得した教授資格も同時に喪失することになるのは確実だろう。
 欧州政治家の論文盗用問題はここ数年、メディアを賑わす機会が増えてきた。ドイツでカール・テオドル・グッテンベルク国防相が博士論文の盗用問題で閣僚ポストを引責辞任したことはまだ記憶に新しい。オーストリアでもカール・ハインツ・グラッサー元財務相や同国出身の欧州連合(EU)委員会のヨハネス・ハーン地域政策委員の博士論文の盗用がメデイアの話題になった。その意味で、ハンガリー大統領の論文剽窃問題ももはや珍しいスキャンダル事件ではなくなったわけだ。

法王と「カリブに浮かぶ赤い島」

 ローマ法王べネディクト16世は29日、メキシコ・キューバ訪問(23日―28日)を終えてローマに戻った。ドイツ法王の第23回目の公式訪問は14時間あまりの時差と気候の違いもあって、4月16日に85歳となる同16世にとって体力的にもきつい外遊となったことは間違いないだろう。
 べネディクト16世の前任法王ヨハネ・パウロ2世は1998年、ローマ法王として初めて共産国キューバを訪問したが、前法王は当時、「真理と希望の使者」としてキューバを訪れたが、ドイツ人法王は「わたしはイエス・キリストの証人として、愛の巡礼者として訪ねる」と述べている。
 べネディクト16世は26日から3日間のキューバ訪問では「基本的自由の尊重」を繰り返し強調し、「自由を尊重し、それを促進しながら社会を建設して欲しい」と主張してきた。
 約30万人が集まったハバナの革命広場の記念礼拝では「真理と公正と和解に基づいた開かれた社会を開拓しなければならない」と語る一方、キューバ共産政権に向かって「カトリック教会に自由を与えて欲しい」と語っている。法王のキューバ訪問のハイライトの同記念礼拝には、反体制派活動家や野党関係者は参加できなかった。
 注目された革命家フィデル・カストロ氏(前国家評議会議長)との会合はキューバ滞在最後の28日午後、前議長の願いを受けて実現した。バチカン法王庁のロムバルディ報道官によると、法王はカストロ前議長と30分余り会合した。両者にとって初の会合だ。「和気藹々した雰囲気の中で行われた」という。
 べネディクト16世は「キューバの3日間滞在に満足しています」と話しかけると、カストロ前議長は「テレビ放送を通じて法王の言動を全て追ってきました」と答えたという。
 バチカン放送によると、84歳の法王と2歳年上のカストロ前議長はそれぞれ「老齢」についてジョークを飛ばしたという。カストロ前議長は法王に多く質問をしたという。「ローマ法王は何をするのですか」といった質問から、政治、文化、宗教、科学のトピックスまで、法王の見解を求めたという。法王は「神の不在問題」や「信仰と知性」などのテーマにも言及したという。カストロ前議長はマザー・テレサ修道女とヨハネ・パウロ2世が列福を受けたことに言及し、「2人の列福を聞いて嬉しく思っている」と語ったという。
 ちなみに、カストロ前議長はキューバ革命後(1959年)、無神論国家を宣言したが、91年の憲法改革で「無神論」を削除し、「世俗」という表現に代えている。
 ローマ法王は28日午後、雨が降るハバナのホセ・マルティ国際空港でホスト国キューバのラウル・カストロ国家評議会議長に「あなたの将来に神の祝福があるように」と述べると、機中の人になった。
 なお、べネディクト16世はキューバ滞在中、反体制派活動家たちと出会いはなかった。

歴史的人物の「最後の言葉」

 独言語学者コルネリウス・ハルツ氏(Cornelius Hartz)は55人の歴史的人物の「最後の言葉」について調査した結果を本にまとめた。それによると、有名な言葉として伝えられてきた過去の歴史的人物の「最後の言葉」が実際は「作り話だった」というケースが少なくないことが判明したという。
 例えば、「もっと光を」(Mehr Licht)と叫んで亡くなったといわれる文豪ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの有名な「最後の言葉」は侍医が後日伝えたものだが、その医者はゲーテの死の床にはいなかった。実際は小間使いの女性に「あなたのかわいらしい手を頂戴」といったのがゲーテの「最後の言葉」だった、というのだ。
 また、共産主義思想の生みの親、カール・マルクスは「最後の言葉が必要なのは生前、十分に語りつくさなかった馬鹿者だけだ」といったという。独言語学者によると、その「最後の言葉」の信頼度は70%に過ぎない。ひょとしたらマルクスはそのように言っていないかもしれないのだ。楽聖ベートーベンの「拍手喝采を、喜んで欲しい、喜劇は終わった」になると、その信頼度は30%に過ぎないという。
 また、古代ギリシャの数学者アルキメデスの最後の言葉「私の図形をこわさないでくれ」となると、その信頼度はゼロに等しいと受け取られている。古代の歴史的人物の「最後の言葉」の信頼度が低いのは致し方がないだろう。
 逆に、信頼度100%の「最後の言葉」としては、小説家トーマス・マンの「メガネを取ってくれ」、ロシア作家アントン・チェーホフの「シャンパンを」、コンラート・アデナウアー独初代首相の「泣くべきことは何もないよ」、フランスのファッションデザイナーのココ・シャネルの「見てごらん、人はこのように死ぬのよ」という一連の「最後の言葉」だという。
 スウェーデンの代表的作家アウグスト・ストリンドベルクは「子供の時から神を探してきたが、出会ったのは悪魔だった」と嘆いていたが、死の床では聖書を持ってこさせ、イエスの最後の言葉「すべてが終わった」(ヨハネによる福音書19章30節)という聖句を呟いて死んだという話が伝わっている。
 ちなみに、伝説的な米俳優ジェームス・ディーンは1955年9月、交通事故で亡くなった。24歳だった。彼はポルシェを運転し、助手席にはドイツ人技術者が座っていた。ディーンは法定時速55キロを守って運転していた。すると横道から車が来るのが見えた。助手席のドイツ人が「横から車が来るよ」と警告したら、ディーンは「彼が止まるべきだ。こちらが走ってくるのを見るだろう」といった。これがあのジェームス・ディーンの「最後の言葉」となったという。

北の「気象衛星」を撃墜できるか

 この欄で「北朝鮮の新指導者・金正恩氏は説明衝動に駆られている」と指摘したが、同国の朝鮮中央通信社(KCNA)は26日、4月中旬に打ち上げる「人工衛星」を気象衛星と説明し、その詳細な目的を明らかにしている。KCNAによると、「高度静止気象衛星データ受信機」という。
 北当局ほど人工衛星を打ち上げるために、国際社会に向かって饒舌に説明する国はこれまでなかった。イランの場合、事前に多くの説明なく打ち上げ、「わが国初の国産人工衛星」(2009年2月)と宣言しただけだったのとは好対照だ。
 北朝鮮の宇宙空間技術委員会は、「衛星を運搬するのはロケット『銀河3号』で、黄海に面した北西部の平安北道鉄山郡にある発射場から南の方角に向けて打ち上げること、運搬ロケットの残骸物が周辺国に影響を及ぼさないよう軌道を設定した」ことを発表済みだ。衛星打ち上げの現場に国際視察団の派遣を認めるというサービスまでちらつかせている。それでも日韓米から、「北の人工衛星は長距離ミサイルの試射だ」と疑いを受ける。そこで26日、「気象衛星だ」と叫んだ、というわけだろう。
 人工衛星の打ち上げ技術はミサイル技術に応用できる。すなわち、平和目的(気象衛星)にも軍事目的(ミサイル)にも応用できるデュアル・ユース(多目的)の技術だ。日韓米は後者を、北側は前者をそれぞれ主張して譲らないわけだ。
 国連安保理決議(第1874号)も弾道ミサイル開発を禁止しているが、人工衛星の打ち上げには言及していない。主権国家の平和目的の人工衛星打ち上げまで禁止することは国際法上からみてもできないからだ。
 国際義務を過去、違反・無視し続けてきた北が国際社会から不信の目でみられるのは当然であり、「自業自得だ」といわれても致し方がないはずだ。
 今回は少し論を進める。北は実際、人工衛星を打ち上げるだろうか、日韓米の説得を受け入れ譲歩するだろうか、を考えてみた。当方は前者を予想している。その理由は、仝龍眛成主席誕生100年祭記念行事であること(「強盛国家」の元年)、⊃郵衛星打ち上げに成功したイランの支援を受けて技術的ハードルが克服されたこと、等だ。
 もちろん、北が人工衛星打ち上げに成功した場合、北の弾道ミサイル開発を懸念する米国にとって新たな頭痛の種となることは間違いない。次期米朝協議でワシントンからさらなる譲歩を期待できるという北側の計算もあるだろう。
 今回の打ち上げで問題が生じるケースとしては、)未竜ぞ蘖卆餌任曽紊欧失敗した時、日韓米が北の気象衛星を撃墜した時―の2つのシナリオだ。,両豺隋∨矛撹内の指導層の責任問題が浮上、北の政情が大混乱する事態が考えられる。△両豺隋∨矛鎧当局の過激な反応が予想される、等だ。いずれにしても、深刻な事態が生じる危険性がある。
 「人工衛星」であろうが、「長距離ミサイル試射」であろうが、打ち上げに「成功」しても、「失敗」しても、そして「撃墜された」としても、北の今回の打ち上げは潜在的な危険性が非常に高い冒険といわざるを得ない、という結論になる。

オーストリア政界の腐敗汚職問題

 「明日の天気を予測する気象官」と「国民に奉仕すべき政治家」の信頼度調査によると、国民の70%は明日の天気を予測する気象官を信じ、政治家を信頼する国民は5%に過ぎなかった、という結果が明らかになった。オーストリア日刊紙クリア25日付が少しシニカルに報じた。
 オーストリアではここ数カ月間、政党の不法な党献金問題、政治家の汚職腐敗問題が大きな話題を呼んでいる。与党政治家だけではない。野党の政治家も程度の差こそあれ同様だ。これでもか、これでもか、といった感じがする。このままいくと、「クリーンな政治家は一人もいない」という結論に達するのはもはや不可避な状況だ。
 欧州戦闘機(ユーロファイター)購入に関係した元国防相、元副首相の汚職容疑が話題になる一方、オーストリア・テレコムへの党献金問題ではシュッセル元政権時代の閣僚が次々と汚職容疑をもたれ、同国欧州議会議員の不法なロビー活動が発覚する、といった具合だ。
 欧州連合(EU)諸国が金融・財政危機下にあって緊縮政策が不可欠な時、与党政治家が「自身の利益のために不法な金銭を入手していた」というわけで、国民の政治家への不信感はこれまでにないほど深まっている。
 ファイマン現連立政権(「社会民主党」と「国民党」2大政党から構成)はもちろん手をこまねいているいわけではない。不法な党献金問題では7000ユーロ以上の献金の場合、誰がどれだけを献金したかを公表する義務を課す党献金関連法の作成に乗り出す一方、腐敗汚職対策の関連法の強化にも乗り出しているが、実際、履行されるまでにはまだまだ紆余曲折が予想される。
 特に、国民党関係の閣僚、政治家に腐敗汚職が多発していることから、シュビンデルエッガー党首(外相)は「党員として遵守しなければならない行動規約」の作成を提案しているほどだ。
 ちなみに、オーストリアでは国会議員をしながらサイドビジネスをする政治家が多いが、副業の内容を申告ぜずにやっていた政治家も少なくないことが明らかになっている。
 叩けば叩くほど、埃が飛び出すのがオーストリアの政界の現状だろう。このコラム欄では外交官ではない元政治家、著名人、聖職者、その家族関係者にも「外交旅券」が発給されていた事件を紹介したばかりだ(「『外交旅券』発給スキャンダル」2012年1月15日)。これなど、他の国では考えられないことだが、アルプスの小国オーストリアではこの種の縁故主義は到る所でみられる現象だ。同国が「西側の東欧(旧東欧共産政権)」と揶揄される所以でもある。
 なお、オーストリアでは来年、総選挙が行われる予定だが、国民党は汚職腐敗問題で支持率を大きく失う一方、極右政党の自由党が第1党に躍進する可能性が現実味を帯びてきている。

教会は「終身雇用の職場」?

 神父不足を解消するために神父募集広告を出しているローマ・カトリック教会のことはこの欄でも紹介したが、欧州のカトリック教国スペインでも教会が神父不足を解決するため広告用ビデオを作製し、そこで「私たちはあなたに生涯の職場を保証します」と職を探す若者たちに語りかけている。そのビデオがスペインで好評を博しているという。オーストリア日刊紙クリアが24日、報じた。 
 スペインでは若者たちの失業率が50%にもなる。2人に1人が失業状況だ。彼らは安定した職場を求めるが、金融・財政危機の中、新規雇用を求める会社は多くない。大学を卒業しても臨時雇いや派遣社員のような職場しか見つからない。終身雇用を提供してくれるような職場は皆無に等しい。
 一昔前は公務員は給料は高くないが、一生、働ける安定した職場といわれてきた。だから、国内経済が厳しい時は公務員ポストが人気を呼び、公務員になる若者たちが増えたものだ。しかし、現在は事情が異なる。公務員も終身雇用が約束された職場ではなくなってきた。公務員も解雇される時代を迎えているのだ。
 例えば、ギリシャでは大量の公務員が解雇されている。アテネの次に財政危機に陥る候補国として名が挙げられているスペインでも公務員はもはや終身雇用を約束する夢の職場ではなくなりつつあるのだ。
 そのような中、スペインのカトリック教会は聖職者不足を解決するため人材を急募、その際「終身雇用の職場保証」をそのキャッチフレーズとして利用している。
 ビデオの内容を少し紹介する。若者が登場、少し照れながらは「どれだけの夢が実現しましたか。私はあなたに高給な職場を約束できませんが、終身雇用を保証します」と述べる。その直後、聖職者の服を着た人物が出てきて「これからは心弱く感じたりしないでしょう」、「心躍る人生を約束します」、「召命感を持つことができます」、「決して後悔しないでしょう」等のメッセージが次々と飛び出す、といった具合だ。
 スペイン教会司教会議は「ビデオを通じて多くの若者が召命感に目覚め、教会の戸を叩くのではないだろうか」と大きな期待を持っているという。
  

“犯人”探しに乗り出したバチカン

 世界最大のキリスト教宗派、ローマ・カトリック教会の総本山、バチカン法王庁がその内部情報の流出で頭を悩ましていることはこの欄でも紹介した。バチカンのロムバルディ報道官が先月、“Vatileaks”(ヴァチ・リークス)と呼称した問題だ。
 バチカンはリーク事件に対して手をこまねているわけではない。ローマ法王べネディクト16世が率先して対策に乗り出したのだ。バチカン日刊紙オッセルパトーレ・ロマーノが3月17日付けで報じたところによると、べネディクト16世はバチカンの内部情報がメデイアに流出した事件について「大きなショックを受けた」(バチカン独語電子版)という。そこでハイレベルの調査委員会を設置して調べるように関係者に指令を出したというのだ。すなわち、ローマ法王直々がリーク事件の犯人探しに乗り出してきたわけだ。
 バチカンを犯人探しに追い詰めた直接の契機はこの欄でも紹介した「枢機卿の『法王殺人の陰謀説』」2012年2月13日)の内容だ。それによると、ローマ法王べネディクト16世が12カ月以内(今年11月まで)に殺される、というバチカンの機密書簡内容がイタリアの一部メディアで報じられたことだ。
 バチカン側は当時、この報道内容を「馬鹿げた内容」(ロムバルディ報道官)と必死に否定したが、その法王殺人陰謀説が高位聖職者の話として報じられたという事実から、バチカン内部に教会への忠誠心のない者が潜伏している可能性があるわけだ。メディアの報道に対して普段は冷静な対応に終始するバチカンがこの陰謀説のリーク源を掴むために犯人探しに乗り出さざるを得なくなったのだろう。
 バチカン日刊紙とのインタビューの中で、バチカン国務省総務局長官代理のジョヴァンニ・アンジェロ・ベッチウ大司教は「国務省関係者は自分の出世と陰謀だけを考えている、との批判は当たっていないが、関係者の中には不正直で内務文書を外部のメデイアに流す者もいるかもしれない」と説明し、「バチカン関係者は再度、内外共に刷新し、相互信頼関係を確立しなければならない。その前提として真剣さ、忠誠、そして正確さが問われる」と主張している。
 バチカンの犯人探しが成功するかどうか、ハイレベル調査委員会の捜査能力を注目したい。

人権理事会、対イラン決議案採択

 ジュネーブの国連人権理事会(理事国47カ国)は22日、イランの人権状況に懸念を表明すると共に、国連イラン人権特別報告者アフマド・シャヒード氏の任期1年間の延期などを明記した決議案 (A/HRC/19/L.22)を賛成22票、反対5票、棄権20票で採択した。反対した5カ国は、ロシア、中国、キューバ、カタール、バクグラデシュだった。
 決議案は特別報告者のレポートを歓迎し、イランの人権状況が急速に悪化してきたことに「深刻な懸念」を表明。昨年一年間だけで少なくとも670人の国民が処刑されたこと、その処刑方法も石打ち刑など残虐なやり方が再導入されたこと、青年たちの処刑や公開処刑が増えていることなどに言及し、イラン当局に警告を発している。
 また、少数派宗派に属する国民への弾圧も強化され、その宗教関連施設の強制的閉鎖、関係者の有罪判決などが行われているという。例えば、イラン人のキリスト教聖職者がその背教を理由に死刑判決を受けた。また、芸術家への迫害、インターネットの検閲、「言論の自由」の制限も指摘された。イランでは現在、42人のジャーナリストが刑務所に拘束されている。
 決議案はまた、国連人権特別報告者にイランの人権状況調査へのアクセスを認めるようにイラン当局に要求し、「第22会期と第67国連総会までにイラン人権最新報告書を理事会に提出するように」と特別報告者に要請した。
 理事国の発言内容を少し紹介する。スウェーデン代表は「イランは特別報告者の入国と人権調査のアクセスを認め、人権理事会と協調すべきだ」と指摘。それに対し、キューバ代表は「イランは自主決定の権利を有する。イラン内政への干渉は中止すべきだ」と強調。イラン代表は「人権理事会は特定の国の政治的利益を擁護する機関となっている。イラン政府は人権理事会と協力している。特別報告者が国連行動規約を遵守せず、公平な調査が期待できないので入国を拒否した」と反論。決議案に反対したロシア代表は「関係国を孤立化させる政治的な決議案は非生産的だ。対話を阻害するだけだ」と説明。中国代表も同様、「問題解決のベストは対話だ。加盟国の人権問題に対して外部が圧力を行使することに
は反対だ。理事会がイランの人権状況を公平に評価することを期待する」と注文をつけている。
 「人権問題」と「核問題」の相違こそあるが、ジュネーブの人権理事会の動向は、ウィーンで開催される国際原子力機関(IAEA)定例理事会の進展状況と酷似している。イランを批判する理事国と擁護する理事国はいつも同じだ。

ヨルダン王子の「アラブ社会憲章」

newsimage ヨルダンのハッサン・ビン・タラール王子は首都アンマンで開催された「中東のキリスト信者はどこへ」というタイトルの会議で中東の少数派宗派の保護を明記した「アラブ社会憲章」(Arabischen Sozialen Charta )を提案した。
 王子は2008年度第25回庭野平和賞を受賞するなど、これまで世界宗教の連携と宗派間の対話を推進する活動を展開してきた。国連の「文明間の対話」メンバーの一員として活躍してきた中東の代表的知識人の一人だ。
 アンマンの会議はタラール王子が1994年に創設した「宗教間対話のためのヨルダン王立研究所」が主導し、シリア正教会、キリスト教アナバプテスト派(再洗礼派)中央委員会が共催して開かれた。会議には、ヨルダン、シリア、レバノン、パレスチナ、イラク、エジプト、スーダン、イランから宗教家、政治家、学者などが参加した。
 タラール王子は中東地域でキリスト信者たちが迫害される状況に心を痛め、少数宗派の改善をアピールする一方、中東のキリスト者に対しては「どうか留まってほしい。われわれはあなた方を必要としている。あなた方はアラブ社会に所属する」、「アラブのキリスト者はアラブ人であり、アラブ思想とアラブの刷新のパイオニアだ」と述べ、「キリスト者が留まる事が出来るためには、アラブ諸国の中にはその憲法を改正しなければならない国がある。キリスト者も真の国民であることを認知しなければならない。少数派宗派の国民の権利尊重が欠如している点がアラブ社会の弱点だ」と主張している。
 王子によると、「アラブ社会憲章」の内容は1948年の国連人権宣言の内容と同じだ。残念ながら、アラブ諸国では「国連人権宣言」の内容はこれまで履行されなかった。イスラム教は全ての人間は平等と教えるが、コーランを読むと、イスラム教徒と非イスラム教徒の相違、男性と女性の違いが強調されている箇所が少なくない。そして多くのイスラム教徒はその教えに従ってきた。
 例えば、カイロのイスラム教スンニ派の最高権威機関アズハルによると、イスラム教からキリスト教やユダヤ教への改宗は死刑に値する。無神論者の権利も無視されている。サウジアラビアのイスラム教最高指導者、シェイフ・アブドルアジズ・アルシェイフは先日、アラブ半島にあるキリスト教の教会を全て破壊するように指令を出し、物議を醸し出している、といった具合だ。 
 コーランは西暦700年頃のアラブの砂漠時代を反映した内容だ。だから、21世紀に適した「アラブ社会憲章」が必要となる、という提案は非常に現実的であり、説得力がある。「アラブ社会憲章」がアラブ人の知識人から出てきた、という点で革新的な提案といえるだろう。

★写真は「アラブ社会憲章」を提案するヨルダン王子=独バイロイト大学のサイトから

「ミサイル」と「人工衛星」の間に

 北朝鮮が16日、人工衛星打ち上げを発表して以来、日韓米を中心に「国連安保理決議違反」として批判の声が上がる一方、北側は人工衛星打ち上げを「宇宙空間の平和利用」だと必死に反論している。
 人工衛星打ち上げ技術が弾道ミサイル開発技術に通じることから、北が「人工衛星だ」と口を酸っぱくして主張したとしても、日韓米は「それは長距離ミサイル発射だ」と受け取って批判を繰り返す。極論すれば、北は人工衛星を打ち上げることができないことになる。だから、「主権国家の自主権の蹂躙だ」といった北側の反論となって返ってくる。
 親北のイランは2009年2月、国産初の人工衛星「オミド(希望)」の打ち上げに成功した。核開発計画を進めるイランの人工衛星開発に対しては、欧米諸国は当時、今回の北の人工衛星打ち上げ発表と同様、懸念を表明した。例えば、ギブズ米大統領報道官(当時)は「オバマ政権は非常に懸念している」と語っている。
 イランの核計画に対しても同様だ。イランが「わが国の核計画は核エネルギーの平和利用だ」と主張しても、欧米諸国は「核兵器製造を密かに模索している可能性がある」と考え、同国の核計画の全容解明まではイラン側の言い分を信じない。国際原子力機関(IAEA)はイランの核問題を理事会議題として協議開始して以来、8年目を迎えるが、イランの核計画が平和目的かどうかを依然検証できないでいる。
 北朝鮮の人工衛星打ち上げでも同様だ。日韓米は北の主張を信じない。北という国家が国際社会の責任と義務を履行するまで、北の主張に対して懐疑的とならざるを得ないからだ。北は過去、2回の核実験とミサイル発射を繰り返してきた。
 「人工衛星の打ち上げ」や「核エネルギーの平和利用」は主権国家の権利であり、どの国もそれを阻止できない。この点だけを取り出して、北やイランが「人工衛星打ち上げや核計画の促進は主権国家の権利だ」と声高く叫んだとしても、国際社会からは余り理解されない。両国に対する国際社会の「信頼」が欠如しているからだ。
 「人工衛星打ち上げ」に対する日韓米と北側の見解の相違は、両者間に「信頼」が決定的に欠けていることを端的に示している。信頼しないもの同士がいくらその主張を繰り返しても相手側を説得できない。
 国際社会での「信頼」は一朝一夕では獲得できない。険悪な人間関係を解決するためには並大抵の努力では済まない。同様に、国際社会での信頼醸成には多くの外交努力の他、義務の履行を重ねていくことが不可欠だ。
訪問者数
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

Recent Comments
Archives
記事検索
QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ