ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2012年09月

考えられる4つの理由

 北朝鮮最高人民会議が25日、金正恩第1書記の参席のもと、万寿台議事堂で開かれた。そこでは教育制度の改革が決定されたが、予想された経済刷新関連の発表はなかった。
 
 当方は先日、北外交官とインタビューした時、同外交官は25日の最高人民会議で包括的な経済刷新案が議題に上がり、採択されるとかなりを自信を持って答えたが、実際はまったく言及されなかった。同外交官の予想は外れたわけだ。

 当方は最高人民会議で経済改革案が議論されなかったことについて、4つの理由を考えた。)婿愼骸圓燭舛老从兀新を貫徹できる自信がなかった。金正恩氏主導の経済刷新案に対して、経済的特権を失うことを懸念する軍部幹部の一部の反対があった。7从儔革案は元々、最高人民会議の議題ではなかった、ず嚢眇楊渦餤弔之从儔革案は議論、採択されたが、公表されなかった。

 そして26日、同外交官を訪ね、今回の件について背景説明を聞くことにした。

 同外交官は自身の予想が外れたことに「少々驚いた」と述べた。そこで当方が考えた4つの理由を提示し、「今回はどのシナリオが考えられますかね」と質問した。外交官は「考えられるのはい澄6眄飢限茖噂餤が推進する経済刷新案に反対する者はわが国にはいない」と、△砲弔い討篭く否定した。
 すなわち、経済改革案(6・28方針)は決定されたが、まだ公表しないことになったというのだ。,痢崋信がない」と通じる背景があるわけだ。故金正日労働党総書記時代の経済管理措置や通貨改革が悉く失敗に終わった苦い経験があるから、「自信を持て」といっても無理な注文かもしれない。

 一方、知人の韓国外交官は「経済関連法を最高人民会議で議論し、採択する必要性はない。一部の指導者が内々、決定し、それを関係幹部たちに流すだけで十分だ。最高人民会議で公に議論され、採択された場合、失敗はできないからね。北では通常、内閣指示で経済担当幹部たちに通達するやり方をする」と説明し、の理由が最も考えられると主張した。
  当方は北外交官のだ發抜攅餝宛魎韻劉説のどちらが正しいか判断できない。明確な点は、北は国内経済の抜本的な刷新が必要だが、自国1国では難しいということだ。中国を含む外国からの経済支援が不可欠だ。北は日本からは戦争時の賠償金支払いという形の経済支援を期待しているはずだ。

ローマ法王元執事の公判が開始

 ローマ法王べネディクト16世の執務室や法王の私設秘書、ゲオルグ・ゲンスヴァイン氏の部屋から法王宛の個人書簡やバチカン文書などを盗み出し、その一部を暴露ジャーナリスト Gianluigi Nuzzi に手渡した容疑(通称バチリーク)で5月23日に逮捕されたパオロ・ガブリエレ容疑者(46)の公判が29日、始まる。裁判では ガブリエレ容疑者の他、バチカン国務省職員でコンピューターのプログラマー、クラウディオ・シャペレッティ氏(48)が従犯として訴えられている。
  
 バチカン放送が27日報じたところによると、ガブリエレ容疑者は尋問で「バチカンには悪と腐敗が溢れ、法王には正しい情報が伝わっていない。そこでメディアに情報を流す事で教会側が覚醒することを願っていた」と述べたという。
 バチカン検察側は、国家機密の暴露、組織犯罪など他の罪状も検討したが、「該当する事実がない」として、ガブリエリ容疑者の罪状は重い窃盗となったという。
 容疑者の弁護側は当初、カルロ・フスコ氏とクリスティアナ・アル女史の2人だったが、フスコ氏が容疑者との弁護方針で対立し、弁護から下りた。

 容疑者が有罪判決となった場合、3カ月から最大4年間の禁錮刑が予想される。バチカンには長期収容できる刑務所がないので、イタリア国内の刑務所に拘留されることになる。
 興味深い点は、べネディクト16世が3人の枢機卿(代表スペイン出身のユリアン・へランツ枢機卿)から構成された調査委員会を設置し、約30人の関係者への尋問を実施したが、その調査内容は裁判の中では使われないことだ。バチカン市国とバチカン法王庁の分割原則に基づく。
 ローマ法王は司法の独立を尊重し、裁判の進展には干渉しないが、判決後、法王が容疑者に恩赦を与える可能性は十分考えられるという。

ニュージーランドも脱退へ

 「ニュージランドは来年末、国連工業開発機関(UNIDO)を脱退する旨を通達してきた。これで米国、カナダ、オーストラリア、英国、そしてニュージーランドと英語圏は次々とUNIDOを脱退していく」
 友人のUNIDO職員は深い溜息をつきながら語った。
 「どうして、英語圏加盟国はUNIDOから出て行くのかね」と聞くと、「ニュージーランド代表は『UNIDOにいても意味がないからだ』と説明していたね。英国は今年末に出て行くことは既に決定済みだ。来年は文字通り、UNIDOの存続が問われていくだろう」という(2012年1月末現在、加盟国173カ国)。

 友人によると、欧州の加盟国の中にはUNIDOの腐敗構造を批判する声が強いという。UNIDOには縁故関係で雇用された数多くの自称コンサルタントがいる。彼らは週、数時間、事務所に顔を出すだけで数千ユーロの月給を受けとる。誰もそのコンサルタントを管理していない。その上、コンサルタントといっても専門知識や経験を有さない者も少なくない。その現状を知っているから、多くの加盟国はUNIDOに対して懐疑的、批判的とならざるを得ない、というわけだ。口の悪い職員は「UNIDOは結局、ロシアと中国が牛耳っている」という。

 友人は「不思議な点は、最大の分担金(約19%、約1288万ユーロ)を負う日本側が何もいわず金だけを出していることだ。日本側が言うべき事をいえば、UNIDO幹部たちも従わざるを得ないはずだ。日本側の無策、事勿れ主義は理解できない」と、日本側に批判の矛先を向けてきた。

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▲UNIDOのユムケラー事務局長(UNIDO東京事務所のHPから)

 カンデ・ユムケラー現UNIDO事務局長の任期は来年末で終わる。同事務局長は潘基文国連事務総長から「全ての人の為の持続可能なエネルギー」担当事務総長特使に選出されたばかりだ。現事務局長は沈没寸前のUNIDO船から脱出してニューヨークに拠点を移動できるが、残されたUNIDO職員の運命は次期事務局長の手腕に委ねられることになる。なお、ローテーションによれば、次期事務局長はアジア地域から選出されることになっている。


アフリカで進行する文明の変革

 アフリカ諸国の宗教人口でキリスト教信者数がイスラム教徒数を上回わり、キリスト教がアフリカの最大宗教となった。具体的には、アフリカ全人口の46・53%がキリスト信者、イスラム教徒数の40・46%、自然宗教の信者数11・8%となっている。
 アフリカ諸国でキリスト信者数が過半数を占める国は31カ国、逆にイスラム教徒が多数を占めるのは21カ国、6カ国はアフリカの伝統的宗教が多数を占める。
 新宗教に関する国際研究センター(Cesnur)が21日、モロッコのアル・ジャディダ大学で開催された会議で明らかにした。
 同統計によると、アフリカでは1900年、キリスト信者数は約1000万人しかいなかったが、現在は数倍にも急増し、「10年後には欧州大陸、米大陸の信者数を凌ぐだろう」と予想している。キリスト教の希望はアフリカ大陸にある、というわけだ。

 しかし、アフリカ大陸でキリスト教とイスラム教間の“文明の衝突”がないかといえば、そうではない。ナイジェリアではキリスト教会を襲撃するイスラム過激グループ「ボコ・ハラム」が教会襲撃を頻繁に起こしている。今月に入っても同国北部バウチでボコ・ハラムによってキリスト教会の聖ヨハネ教会が襲撃されて、2人が死亡、40人以上が負傷したばかりだ。AP通信によると、今年に入って既に680人以上がイスラム過激派によって殺害されている。
 アフリカのキリスト教国ケニア(人口の約80%がキリスト信者)の首都ナイロビでも隣国ソマリアから侵入した国際テロ組織アルカイダ系の「アル・シャバブ」によってキリスト信者達が殺されている、といった具合だ。

 いずれにしても、キリスト教信者の増加はアフリカの社会、文化、政治、経済活動にも影響を及ぼすことは間違いない。アフリカは今、文明の変革期に入っているのかもしれない。

天野氏の再選が危ない!

 国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長(65)は24日、年次総会後開催された理事会で再選に出馬する意思を表明し、加盟国に支持を求めた。天野氏は「職務に意欲があり、続行したい。健康にも問題がない」とフランス通信(AFP)記者に答えている。

 天野氏の再選が本人の意欲と健康問題で決定するとすれば、同氏の再選は間違いないところだが、IAEA事務局長選は本人というより、加盟国の意向、特に、国連安保常任理事国5カ国の意向が決定的な影響を与える。その意味で、IAEA事務局長選は通常の国連人事だ。天野氏個人の能力や意欲は2次的要因に過ぎない。

 3年前の事務局長選を振り返ってみよう。日本人初のIAEA事務局長誕生は決して楽くではなかった。理事国の1国が土壇場で棄権しなければ、天野氏は候補者レースから脱落していたのだ。幸い、その理事国の棄権で当選に必要な理事国の3分の2の支持を得で当選した。天野氏は当時、文字通り、薄氷を踏む思いだったろう。
 
 天野氏は2009年12月、事務局長に就任すると積極的に加盟国を訪問する一方、IAEA最大分担国・米国のグリン・デービスIAEA担当大使(当時)に対しは、「高官人事から対イランの核問題まで、米国の意向に従う」(内部告発サイト「ウィキリークス」が公表した米外交公電)と忠誠発言をしている。

 さて、天野氏の再選の見通しはどうか。声を拾ってみた、日本と「竹島(韓国・独島)」問題を抱える韓国側は「天野氏は良くやっている。事務局長選は領土問題とはリークしない」と表明、天野氏の再選に好意的だ。一方、ロシア外交筋は「わが国は独自の対抗候補者を擁立する考えはない。なぜならば、ウィーンに本部を置く国連薬物犯罪事務所(UNODC)の事務局長はロシア人だ。ウィーンにある国連機関で2人のロシア人がトップに立つことは良くない。対抗候補者が出れば、その段階で考える」という。
 
 IAEA関係者はどうか。1人の関係者(匿名条件)は「天野氏は現職の事務局長として有利だが、同氏が苦戦し、落選する可能性も排除できない」と指摘、落選のシナリオとして「イスラエルが年内にイランの核関連施設を軍事攻撃した場合だ」と述べた。その時、天野氏の対応次第では理事国が大きく分裂し、反天野派が来年春の事務局長選で過半数を奪う可能性も考えられるというのだ。

 天野氏が3年前、完全忠誠を表明した米国がイスラエルの軍事攻撃を支持した場合、天野氏の立場は難しくなる。例えば、イスラエルは2007年9月、シリアの核関連施設を空爆した。天野氏は理事会に提出した「シリアの核報告書」の中で、「イスラエルが空爆したシリア北東部の核関連施設(ダイール・アルゾル施設)は核関連施設の可能性が高い」と指摘し、シリアがIAEAに未申告で核関連活動を行っていたと批判したが、イスラエルの空爆についてはほぼ無視した。天野氏はイスラエルのイラン核関連施設空爆に対しても同じ様な見解を表明すれば、理事国の中で強い反発が出てくることは必至だ。
 
 再選を目指す天野氏としては、イスラエルがイランの核関連施設に軍事攻撃を仕掛けないことを祈るだけだろう。しかし、イスラエルの軍事攻撃というシナリオを想定し、日本側は再選戦略を練る必要がある。

IAEAはイスラエルに情報提供

 イラン国会で国家安全保障・外交政策委員会の委員を務めるジャハンギルザデ議員は23日、「国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長はイスラエルを“頻繁”に訪問してイランの核関連情報を流してきた」と批判した。ロイター通信は同日、ドバイ発で報じた。しかし、ロイター通信も指摘しているように、天野事務局長はIAEA事務局長就任後一度しかイスラエルを訪問していない(2010年8月)。決して“頻繁”には訪問していない。同議員のミステークだ。

 実際、イスラエルがイランの核情報を入手したければ、テルアビブを訪問した天野事務局長に聞かなくても、IAEA本部のウィーンを訪ねれば容易に入手できる。駐IAEA担当のイスラエル大使は“頻繁”にIAEAを訪問し、駐IAEA担当の米大使と会談する姿が何度も目撃されているし、イスラエル大使は過去、天野事務局長と少なくとも数回は会談したはずだ。

 具体的に例を挙げよう。ウィーンを訪問したイランのサレヒ外相が昨年7月12日、天野事務局長と会談した。その1時間後、駐IAEA担当のイスラエルのエフド・アゾウライ大使(Ehud AZOULAY)はIAEAの会議場(Mビル)内でIAEA関係者からサレヒ外相と天野事務局長との会談内容のブリーフィング(報告)を受けている。 

 もう1つの例を挙げる。イランの首都テヘランで核科学者のムスタファ・アハマディロウシャン氏が今年1月11日、ドアに取り付けられた爆弾で爆死した。イランでは過去2年間で4人の核科学者が殺害されている(「イランの核問題と『終末時計』)2012年1月13日参照)。

 それに対し、イランのハビーブ国連副大使は当時、「犯人は事前にわが国の核開発計画に参加してきた核科学者名を入手していた」と指摘し、イランの核査察情報を握るIAEAから情報が漏れた可能性を示唆している。その推測が正しいとすれば、IAEAはイランの4人の核物理学者殺人事件の共犯者(殺人幇助罪)になる。IAEAのトップ、天野事務局長の責任は大きい。

 内部告発サイト「ウィキリークス」(2010年12月)によると、天野事務局長は就任直前、駐IAEA担当の米大使に対し、「高官人事からイランの核問題まで米国の意向に完全に従う」(米外交公電)と発言したという。イスラエルを支持する米国の意向を受け、天野事務局長がイランの核情報をイスラエル側に提供したとしても不思議ではないわけだ。

教会の「部分脱会」は認めない

 ドイツのローマ・カトリック教会司教会議は20日、教会脱会に関する一般規約を公表した(9月24日付で施行)。その狙いは、教会脱会がどのような結果をもたらすかを明確にし、教会を「信仰団体」と宗教法人の「機関」とに分割し、後者(機関としての教会)からだけ脱会するという主張は認められないことを明確にするところにある。
 ただし、教会脱会を当局に通達した段階で自動的に教会から破門されることはなく、教会側と脱会希望者との対話を通じて、信仰を失い、教会復帰の可能性がないと判断された場合、関係司教区が教会脱会者の破門を宣言できるという。

 具体的には、教会脱会者はサクラメントをもはや受けられず、教会関係の職務やポジションを有することもできない。また、教会脱会者が亡くなった場合も教会側は教会葬儀を拒否することができる。

  ドイツ教会では2007年、ハルトムート・ツァプ神学教授がカトリック教会から脱会したが、教会にはこれまで通り所属していると主張した。すなわち、カトリック教会という「宗教法人」から脱会したので教会税は支払わないが、「信仰団体」としてのカトリック教会には従来通り、所属しているというのだ。それに対し、同教授の管轄教区、フライブルク大司教区は「宗教法人と信仰団体を区別することは出来ない」と反論し、教授の教会脱会は無効と指摘し、これまで通り教会税の支払いを要求した。同教授の件について、連邦行政裁判所は今月26日、審議を開始する。
  参考までに紹介すると、スイス連邦裁判所は8月4日、カトリック教会から脱会したいが、その信仰は維持したいと願うルツェルン州(カントン)の婦人の申請に対して、「教会から脱会した信者もカトリック教の信仰を有していると主張できる」という判決を下しているといった具合で、各国によって異なった対応が行われている。

 ドイツ司教会議が教会脱会について改めて規約を作成した背景には、教会という宗教法人からは脱会するから教会税を払わないが、その信仰は維持するという通称“部分脱会者”の増加を防ぐ狙いがあることは間違いない。その意味で、同一般規約は教会の一種の組織防衛策だ。

藤本氏がビザを拒否された理由

 知人の北朝鮮外交官とのインタビューの一部を紹介する。

 ――12月の大統領選挙に無所属の安哲秀ソウル大融合科学技術大学院長が正式に出馬を表明した。若い世代に人気のある同氏は与党セヌリ党の朴槿恵氏の対抗馬と予想されている。

 「安氏はわれわれには無名の人物に過ぎない。その点、朴女史はわが国でも良く知られている。その政策も信念も分っているから、わが国としては交渉しやすい相手だ、という点で朴女史のほうが無名の安氏よりはいい」(同外交官は「支持する」という言葉を避けて、「交渉しやすい」と表現した)。

 ――話は飛ぶ。故金正日労働党総書記の専属料理人、藤本健二氏は今月、再訪朝を試み、北京で旅券を待っていたが、拒否され帰国した。金正恩第1書記は、前回の訪朝(7月21日〜8月4日)の際には「いつでも歓迎する」と述べたというが、藤本氏に対する北の態度は変わったのか。

 「わが国の藤本氏への立場は変わらない。多分、今回はコミュニケーションで問題があったか、技術的な問題が生じただけだろう」
 (韓国外交筋は「藤本氏は北朝鮮の言葉を間違って受け取っていた可能性がある。藤本氏が願う時に訪朝できるのではなく、北が願う時に訪朝できるという意味だ。藤本氏は金正恩第1書記に歓迎されたので少々ハイとなっていた。また、藤本氏が帰国後、日本のメディアにいろいろなことを語ったので、北側は不快となっている点もあるかもしれない」と分析している)

 ――金正恩第1書記は国内経済の再生に乗り出してきた。同第1書記の初の経済改善措置である「6・28方針」について。

 「今月25日開催される最高人民会議(国会に相当)で正式に関連法案が採択される予定だ。同経済方針は英語ではニュー・エコノミックス・マネージメント・システム(新経済管理体制)と呼ぶ。特定の経済地帯だけではなく、通貨、金融政策を含む包括的な経済刷新案だ」

 ――最後に、欧州の金ファミリーの動向について。

 「金光燮大使(故金総書記の義弟、駐オーストリア大使)は今月末にウィーンに帰任する。ワルシャワの金平一大使(故金日成主席と金聖愛夫人の間の息子、駐ポーランド大使)は既に帰任しているだろう」
 (ウィーンの金大使は来年でオーストリア駐在20年目を、ワルシャワの金大使は来年で駐ポーランド大使就任15年目を、それぞれ迎える)

「イエスの妻」へのバチカンの反論

 米ハーバード大の著名な歴史・宗教学者カレン・L・キング教授はローマで開催されたコプト学会で4世紀頃の古文書(縦4センチ、横8センチ)のパピルスに、「イエスは『私の妻は……』」と書いてあったと発表した。米ニューヨーク・タイムズが18日電子版で報じたことから、大きな衝撃を投じた。それが事実ならば、イエスが生涯独身であったと信じてきたキリスト教会にとって神学の見直しが迫れることになるからだ。

 古文書は、2世紀末頃にギリシャ語で書かれた原文をコプト語で訳したものという。キング教授は匿名者から古文書の信憑性の調査を依頼された。そこで調査した結果、同文書は信頼できると判明したという。ただし、教授は「古文書はイエスが結婚していたことを証明するものではない」と強調し、この文書からイエスの結婚説を主張できないと説明している。
 
 バチカン放送独語電子版は20日、「古文書の出典から判断してもイエスの生涯を証明するテキストではないことが分る。歴史的なイエスに関する信頼できるテキストは新約聖書以外にない。その聖書ではイエスに妻があったとか、結婚していたと記述された個所は一箇所もない(同時に、結婚しなかったという記述もない)」と指摘し、パビルスの記述内容を懐疑的に受け取っている。
 同放送はまた、「パビルスの記述は非常に興味深いが、歴史的イエスとは全く関係がない」と述べたフリードリヒ・アレクサンダー大学エアランゲン=ニュルンベルク大学ペーター・ピルホーファー教授(新約聖書学)のコメントを紹介し、「イエスが結婚していたと主張するには古文書は十分ではない」と突き放している。

 キリスト教ではイエスは独身で33歳の生涯を終えたことになっているが、1945年、上エジプトのナグ・ハマディで発見された古文書(通称・ナグ・ハマディ写本)の中には、イエスが結婚していたと記述されている。例えば、「フィリポによる福音書」と呼ばれている3世紀頃の文書には「マグダナのマリアはイエスの伴侶」と明確に記述されている。「トーマスによる福音書」でもイエスが女性と一緒に寝食を共にしていたことを匂わす個所がある、といった具合だ。ただし、それらの古文書は新約聖書の「外典」に属する。

 いずれにしても、バチカンは、キング教授の調査結果を待つまでもなく、「イエスは結婚していた」「イエスに妻があった」といった類の情報に対しては全面的に否定するだろう。
参考までに、学者法王べネディクト16世は「ナザレのイエス」の3部作を完成したばかりだ。「イエスの妻」を含むイエスの家庭問題が明らかになれば、法王の労作は大幅な修正を余儀なくされるだろう。

「イエスの生涯」が見直される時

 米紙ニューヨーク・タイムズは18日、米ハーバード大歴史学者カレン・キング教授が「イエスに妻があった」ことを記述した文献を発見した、と報じた。

 イエスは、神の子だが、神ではない。神、イエス、聖霊の3位1体論は後世の思想だ。イエスはわたしたちと同様、肉体を持ち、痛みも喜びも感じる生身の人間だった。それをキリスト教は神に奉った。そしてあたかも彼は33歳の若さで十字架に死ぬ為に降臨したという神学を構築していった。

 イエスはわたしたちと同様、結婚適齢期になった時、家庭を築く為に結婚を考えたはずだ。祭司長ザカリアの娘が予定されていたが、結婚できなかった。カナの婚姻の宴で自分の結婚を忘れ、他の婚姻に没頭する母マリアに対して、「婦人よ、あなたは、わたしと、なんの係わりがありますか」(ヨハネ2章4節)と厳しく述べている。また、「わたしの母とは、だれのことか。わたしの兄弟とは、だれのことか」(マタイ12章48節)と語っている。誰もが当時、イエスの心の世界を理解できなかったのだ。

 参考までに付け加えると、「イエスが結婚していた」、といった記述は決して新しくはない。新約聖書以外の文献(外典)、例えば、3世紀頃編纂された「フィリポによる福音書」にはマグダラのマリアをイエスの伴侶と呼び、「イエスはマグダラのマリアを他の誰よりも愛していた」といった記述がある。

 神はイエスをメシア(救世主)として選んだ。「マタイ1章」には、アブラハムからイエス誕生までの家系が記されている。その血統には義父と関係をもったタマルの名前がある。姦淫したダビデ王の名前も入っている。罪なき神の子イエスがそのような血統から誕生したのだ。聖書が神の導きで記述されたとするならば、罪なき人間イエス誕生までの家系の謎を解かなければ、イエスの生涯を正しく理解できないだろう。

 イエスを神に奉るキリスト教会は「イエスが処女マリアから生まれた」という伝説を考え出した。イエスが既婚者の祭司長ザカリアとマリアの間で生まれたことが分れば、キリスト教会はその神聖を主張できないとでも考えたのだろう。人間が性関係ではなく、神の霊を受けて生まれた、というお伽噺をあたかも神聖な証のように教え、信じさせてきたのがキリスト教だ。
 イエスが結婚を望んでいた事が判明すれば、独身制を維持する世界最大のキリスト教会ローマ・カトリック教会はどうなるのか。“イエスがそうであったように”、全ての聖職者は結婚しなければならなくなるのだ。

 イエスの弟子の1人ユダがそうであったように、わたしたちはメシア、キリスト、救い主について間違った捉え方をする。しかし、実際のイエスはタマルやダビデの血統から生まれたのだ。彼は1人の青年として女性と結婚し、家庭を築き、イエスの家庭は人類の理想家庭となるはずだった。イエスに関する現在の神学は大きな訂正が余儀なくされるわけだ。

 いずれにしても、「イエスに妻があったのではないか」という今回の古文献の発見は今後の検証が必要だが、イエス像の訂正の始まりを告げるものとして、注視すべきだろう。
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