ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2012年12月

ウィーン国連機関のトップ人事

 ウィーンに本部を置く国連機関の3機関で2013年、再選を含め、トップ人事が行われる。

PC030368
▲ウィーンの国連機関正面入口(2012年12月、撮影)

 来年事務局長選を実施するのはイランや北朝鮮の核問題を検証する国際原子力機関(IAEA)と国連工業開発機関(UNIDO)の2機関だ。一方、包括的核実験禁止機関(CTBTO)準備委員会第39会期は先月23日、次期準備委員会事務局長にラッシーナ・ゼルボ(Lassina Zerbo)国際データセンター局長を選出済みだ。同局長は2004年11月からIDC局長を務める地球物理学者だ。西アフリカのブルキナファソ出身。次期事務局長は来年8月1日、就任する。ハンガリー出身のティボル・トート現事務局長は来年夏、8年間の任期を終える。

 IAEAでは来年末で第1期の任期が終わる天野之弥事務局長の後任事務局長を選ぶ。候補登録の締め切りは今月末まで。今月28日現在、候補を登録済みは再選出馬を表明した天野氏だけだ。同氏の再選(2期目、4年間)は確実となった(天野事務局長の再選は来年6月の定例理事会で決定し、9月の年次総会で承認される予定)。

 一方、UNIDOではカンデ・ユムケラー現事務局長が来年、ウィーンに新設される「持続的エネルギー専門機関」のトップに就任するため、来年6月24日に開催される第41回工業開発理事会(IDB)で後継者を選出し、その直後、招集される特別総会で正式決定される運びだ。
 地域ローテーションでは新事務局長はアジア地域から選出することになっているが、「明記された原則ではないので断言はできない」(在ウィーン国際機関日本政府代表部)という。いずれにしても、上記の3国連専門機関の中でUNIDIOの次期事務局長だけは誰が就任するか目下、予想がつかない状況だ。

ニューヨークの国連本部、ジュネーブの欧州本部について、ウィーンは「第3の国連都市」だ。約4500人の国連職員が勤務している。上記の3機関以外にも国連薬物犯罪事務所(UNODC、ユーリ・ヴィクトロヴィチ・フェドートフ事務局長)が入っている。
 
 2013〜15年の国連通常予算の日本の分担率が12・530%から10.833%に後退する一方、世界第2の経済大国の中国の分担率はようやく5%を超え、加盟国中第6位に入ってきた。国連での日本の発言力は更に弱まる一方、中国は一層、その政治力を発揮していくことが予想される。

金正恩時代になって変わったこと

 2013年を迎える前に、北朝鮮の金正恩第1書記の1年間の歩みについて、当方流に簡単に総括してみた。
 
A・父親・故金正日労働党総書記時代と変わった点
  仝式行事で演説する
  現地視察や公式行事に夫人同伴
  H信する情報ボリュームの拡大

B・変わらない点
  だ敵を粛清する
  ソゞ気鮹動気垢
  先軍政治の継続

各項目を簡単に説明する。

仝式行事で演説する
 金正恩氏の父親・金正日総書記は政治行事、公式の場で演説することはほとんどなかった。だから、金総書記の肉声を聞いた国民はほとんどいなかった。金正恩氏はその演説能力は別として、党員や国民に向かって語り出した。例えば、今年4月15日の故金日成主席生誕100年の式典で金正恩氏は約20分間、演説している。

夫人同伴
 動物園や遊園地だけではなく、軍隊ですら李雪主夫人を同伴して視察する(金正恩第1書記は8月、朝鮮人民軍第552軍部隊を夫人と一緒に視察した)。ファースト・レディが何度も変わった故金総書記は夫人同伴で公式行事に顔を出すことはなかった。金総書記時代、ファミリー・メンバーは宮廷の垣根を越えて公式に顔を出すことはタブーだった。李雪主夫人の妊娠報道などは、ウィリアム英王子のキャサリン妃の懐妊騒動の“平壌版”だ。

H信する情報ボリュームの拡大
 金日成主席、金正日総書記時代、独裁者とその一党は国民に向かって命令をしても、国民にそれを説明することはなかったが、3代目の金正恩氏が登場して以来、北当局は他者を意識して説明するようになった。12月の長距離ミサイル発射でも次々と詳細な情報を国際社会に向かって発信した。発射失敗した4月の時も、隠蔽せずに事実を即発信した。金正恩氏の意向に呼応するように、国営朝鮮中央通信(KCNA)の英語版は今日、故金総書記時代の倍以上の情報ボリュームを発信している。

だ敵を粛清
 李英鎬人民軍総参謀長を7月、突然解任する一方、過去2年間で31人の党幹部たちを左遷ないしは粛清して自身の政治基盤を強化してきた。誰が指導者になっても独裁政権では政敵の粛清は変わらないことを実証した。正恩氏の政権基盤は主に叔父の張成沢労働党行政部長ら金ファミリーを中心として構築されてきた。

ゥリスト教迫害監視団体「オープン・ドアーズ」(本部・米国)が今月27日発表したところによると、北朝鮮国内の宗教弾圧は継続されている。オープン・ドアーズは「金正恩政権は2,3の変革を試みているが、基本的には何も変わっていない」と指摘している。金正恩政権にとって最大の優先課題は政権の維持にある。だから、宗教者は常に監視されているという。同団体が発表した「宗教弾圧国リスト」では北は今回もトップだ。

δ控離ミサイルの拡大と質向上を目指している。3回目の核実験の可能性も囁かれている。父親正日総書記が始めた「先軍政治」を継承している。核・ミサイルの拡大は独裁政権の堅持を保証するものであり、対外交渉の数少ないカードだ、という点で金総書記時代と変わらない。

【総括】
 Aを強調するか、Bを重視するかで金正恩氏の1年間の歩みに対する評価は分かれるだろう。具体的には、独裁政権に新しい風をもたらしたという評価と、独裁政権の体質に全く変化はない、といった見解に分かれる。
 多分、実際はAとBの両面性を持った政権で落ち着くかもしれない。ないしは、正恩氏はその政権の輪郭を構築できず模索段階だ、といえるかもしれない。いずれにしても、上記の項目では、「経済改革案(6・28方針)」については意図的に外したが、A路線、B路線であろうが、国内経済の刷新なくして、政権の長期安定は難しい。

 明確な点は、30歳にもならない青年指導者について、国際社会がこれほど関心を払い、注目するということは稀有な現象だということだ。それは、朝鮮半島の行方が世界の動向に大きな影響を与えることを物語っている。
 2013年は、金正恩氏がAの方向に前進するか、Bの路線に定着していくのか、路線決定の正念場を迎える年となるだろう。 

来年オーストリアが騒々しくなる

 オーストリアでは2013年、選挙、国民投票が重なるスーパー・イヤーを迎える。新年早々1月20日、徴兵制の是非を問う国民投票がその幕開けを告げると、国民議会選挙と4州議会選挙が待っている。

P1030485
▲オーストリア国会(2012年5月撮影 )

 徴兵制の是非を問う国民投票についてはこのコラム欄で紹介済みだ(「徴兵制廃止の是非を問う」2012年12月22日)。連立政権を構成する与党2党(社会民主党と国民党)が対立しているだけに、投票結果は秋に実施予定の総選挙の行方にも少なからずの影響を及ぼすものと予想される。

 3月3日に入ると、ケルンテン州とニーダーエスターライヒ州の州議会選挙が行われる。ケルンテン州では与党ケルンテン自由党関係者の汚職問題が契機で議会が解散され、早期選挙の実施となった。汚職疑惑問題に関与した与党の自由党と国民党が支持率を失う一方、野党の社民党が第1党に復帰する可能性が出てきた。
 ニーダーエスターライヒ州は国民党の牙城だ。前回選挙ではエルヴィン・プレール州知事が率いる国民党が約54%の得票率を獲得して圧勝した。しかし、今回は国民党の第一党は変わらないが、実業家フランク・シュトローナハ氏(「マグナ・インターナショナル」創設者)が結成した新党「シュトローナハ・チーム」が州議会進出を目指し参戦するだけに、国民党の過半数獲得は難しくなった、と受け取られている(「新党結成し政界に乗り込む実業家」2012年8月29日参考)。
 
 4月に入ると、ザルツブルク州とチロル州の両州議会選挙が実施される。両州とも選挙日程はまだ確定していない。モーツアルトの生誕地のザルツブルク州の選挙は、財政担当者の公費の不法投機が明らかになったばかりだ。与党社民党が有権者に信任を問うことになる。社民党が支持を大きく失う一方、国民党が第1党に復帰するチャンスが出てきた、と受け取られている。同月には国民党が与党のチロル州議会選挙も行われる。

 そして秋には国民議会選挙を迎える。現連立政権の社民党と国民党の苦戦、極右派政党の自由党の躍進、緑の党の現所維持、新党シュトロナーハ・チームの健闘などが予想されている。社民党と国民党の2大政党が議席の過半数を獲得する時代はすでに過ぎ去った。どの政党が第一党になったとしても複数の政党から成る連立政権となる見通しだ。

 欧州連合(EU)27カ国の中では同国の失業率(昨年4.2%)は低く、欧州の財政の危機の影響はまだ少ない。その一方、政治家の汚職、腐敗の多発で国民の政治への関心は薄れてきた。いずれにしても、アルプスの小国オーストリアは来年、騒々しくなる。

ウィーン・フィルの「光と影」

 ウィーンの楽友協会で1月1日、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤー・コンサートが開催される。世界70カ国以上に中継放映されるニューイヤー・コンサートは音楽の都ウィーンだけではなく、新年を告げるコンサートとして、世界中の音楽ファンを魅了している。2013年のニューイヤー・コンサートはフランツ・ヴェルザー=メスト氏が2011年に次いで2回目の登場だ。ヨハン・シュトラウスのワルツだけではなく、1813年生まれのリヒャルト・ワーグナーとジョビッペ・ヴェルディの生誕200周年を記念して彼らの作品も演奏される予定という。

P1040915
▲ニューイヤー・コンサートが開催される楽友協会(2012年12月27日、ウィーンで撮影)

 ところで、ニューイヤー・コンサートを間近に控えたこの時、ウィーン・フィルと国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス党)政権との関係に対する批判の声が挙がってきた。野党「緑の党」は「ナチス政権下のウィーン・フィルの役割を客観的に調査する歴史家委員会を設置すべきだ」と要求している。オーストリア通信(APA)が26日、報じた。
 それによると、緑の党議員で歴史学者のハラルド・ヴァルザー氏は「ニューイヤー・コンサートはナチス政権の文化政策の一環だった」と主張する。同議員によれば、ウィーン・フィルのユダヤ系楽団メンバーがナチス政権によって強制収容所に送られ、そこで殺されたが、ウィーン・フィルはこれまで彼らを慰霊するコンサートを開催したことがない一方、ナチス政権の全国青少年指導者で戦争犯罪人と判決されたバルドゥール・フォン・シーラッハに名誉リンクを授与している」と批判し、「正しい歴史認識を拒否することはウィーン・フィルの名誉を傷つけるだけでなく、オーストリア共和国の名誉を傷つける」と述べている(ウィーン・フィルの6人のユダヤ系メンバーがナチスに殺された。当時、楽団の解散は回避されたが、ナチスの政治プロパガンダにその演奏活動が利用されたことは事実だ)。

 それに対し、ウィーン・フィルのクレメンス・ヘルスベルク楽団長はオーストリアのメディアのインタビューに答え、「1939年のニューイヤー・コンサートの発足はオーストリア国民に対する崇高な思いであり、一種の抵抗運動でもあった」と説明し、ナチス政権に迎合してたという批判を一蹴している。
 なお、ウィーン・フィルのサイトでは「かつてのオーストリアの歴史の暗い一幕において、ニューイヤー・コンサートはオーストリア国民に自国へ回帰の念を呼び起こし、同時によりよい時代への希望をもたらした」と記述されている。

 ちなみに、ウィーン市文化評議会は今年4月、1897年から1910年までウィーン市長を務め、反ユダヤ主義者で有名だった政治家カール・ルエガー(1844〜1910年)の名前をつけた通り名の撤廃を決定したばかりだ(「反ユダヤ主義者を街から追放せよ」2012年4月22日参考)。同国では戦後60年以上を経過した今日でも、反ユダヤ主義を標榜した政治家、文化人への追求、ナチス政権との関わりを検証する動きがある。

極寒のロシアと「ウォッカ」の話

 オーストリア国営放送によると、「ロシアでは目下、極寒が覆い、シベリアではマイナス57度、首都モスクワでも零下27度」という。ロシア全土が震え上がっているのだ。ロシア政府は6歳以下の子供がいる家庭に対して「子供を外に出さないように」と注意を喚起する一方、自動車の使用にも警告を発している。郊外で運転中、エンジンが止まり、運転手が車の中で凍え死んでしまうケースが発生しているからだ(同じ日、ウィーンでは雪も降らないクリスマスを迎えた。日中は気温がプラスまで跳ね上がった)。

 モスクワからの情報によれば、この極寒を乗り越えるため、多くの市民はウォッカを飲むという。飲めば体は温まり、いい気分となり、ついつい眠ってしまう。そうして外で凍死する市民も出てきているという。

 話は飛ぶ。当方は昔、ウォッカとロシアの政治家についてコラムを書いたことがある。以下、少し紹介する。

 「レオ二ード・ブレジネフ氏が82年11月に亡くなると、後任のユーリ・アンドロポフ氏が就任したが、84年2月に急死。その後継者のコンスタンティン・チェルネンコ氏も任期1年余りで85年3月に死亡した。日本の政界を想起させるように、指導者が1年毎に変わる時代が続いた。だから、ミハイル・ゴルバチョフ氏が登場した時、国内では『やっと健康な政治家が登場した』と歓迎の声が強かった。厳密に言えば、ウォッカを飲み過ぎず、政務が履行できる政治家の登場を願っていたのだ。しかし、ソ連邦が解体し、ロシア共和国最初の大統領にボリス・エリツィン氏が登場すると、同氏も昔のソ連政治家と同様、ウォッカの飲み過ぎもあって心臓に爆弾を抱えながら激務をこなす、という状況だった。同氏は公式訪問予定のホスト国に到着しながら、飛行機の中で泥酔していた、というエピソードの持ち主だ。ウォッカを制する者はロシアの政治を制する。プーチン大統領は柔道家らしく規律と自制を重視する。ロシア政治家の間では健康に配慮する珍しいタイプだ。ウォッカを自制できるプーチン氏が国際社会の人権蹂躙批判ぐらいで政権を放棄することは、少なくともロシアでは考えられないことだ」

 当方はこれまで、ウォッカで身を持ち崩すロシア政治家の話を聞く度、「情けない」と少々批判的だったが、今回、零下57度のシベリアの人々やモスクワ市民の姿をみて、「ウォッカはロシア民族にとって寒い冬を生き延びていく上で欠かせられないのだろう」と考え直している。もちろん、当方はウォッカを賛美する気持ちは毛頭ないが、零下30度、40度の中で生きている人々にはウォッカは助けとなる、という「ウォッカの効用」を再認識した、という意味でだ。
 参考までに、レストランではウォッカを冷蔵庫ではなく、冷凍庫で保存する。ウォッカは凍らないのだ。 

エリサベツとマリアの出会い

  ローマ法王べネディクト16世は第4主日の23日、エリサベツとマリアの2人の婦人について語っている。祭司ザカリヤの妻エリサベツはキリストの道を直くするエリアの再臨者、洗礼ヨハネの母親だ。マリアがイエスを産む半年前に洗礼ヨハネを出産している。
 べネディクト16世は「エリサベツとマリアの2人の妊婦の出会いは旧約聖書と新約聖書の出会いを象徴している。エリサベツはキリストの来臨を待つイスラエル民族を象徴し、マリアはその願いを成就した具現者を意味している」という

  半年早く生まれた洗礼ヨハネは当時、ひょっとしたらキリストではないかと思われるほど、出生の奇跡と共に、その修道生活はユダヤ社会で高く評価されていた。一方、彼自身当初、「わたしは水でバプテスマを授けたが、このかたは、聖霊によってバプテスマをお授けにになるであろう」とイエスを証している。
 イエス自身、マタイ福音書11章14節で「あなた方が受け入れるならば、洗礼ヨハネは主の道を直くするエリアの再臨者だった」と述べている(ユダヤ民族の間ではキリストの降臨の前にエリアが再臨すると信じられてきた)。

 しかし、洗礼ヨハネは次第に若いイエスの言動を理解できなくなり、「自分はエリアではない」(ヨハネ福音書1章21節)」と述べ、「洗礼ヨハネはエリアの再臨者だ」と語ったイエスの言葉を否認している。そして「来るべき人はあなたですか、それとも待つべきですか」と弟子を通じてイエスに尋ねている。
 そして洗礼ヨハネは一見つまらないことで首を斬られて亡くなる。「洗礼ヨハネの首切り」の話は、新約聖書の「マタイによる福音書」14章や「マルコによる福音書」6章に記述されている。

 洗礼ヨハネが「自分はエリアの再臨でない」と否認したため、イエスは自身がメシアであると宣言すれば、メシアが降臨する前に再臨するエリアはどこにいるのか、と質される羽目に陥る。最終的には、大工の息子に過ぎなかったイエスは偽キリストと中傷・非難される立場に追い込まれていく。

 カトリック教会は洗礼ヨハネを大聖人、大預言者と称賛するが、イエスは「あなたがたによく言っておく。女の産んだ者の中で、バプテスマのヨハネより大きい人物は起こらなかった。しかし、天国で最も小さいものも、彼よりは大きい」と述べている。聖書を読む限りでは、洗礼ヨハネがイエスをメシアとして最後まで証し、彼に従ったという形跡はない。

 洗礼ヨハネの不信仰の結果、イエスは十字架の道を行かざるを得なくなる。使徒パウロは「この世の支配者達のうちで、この知恵を知っていた者はひとりもいなかった。もし知っていたら、栄光の主を十字架につけはしなかったであろう」(コリント毅仮錬言瓠砲斑欧い討い襦7り返すが、イエスの十字架は決して神の予定したものではなく、洗礼ヨハネの不信仰、選民ユダヤ民族の無知によってもたらされた結果である、と明確に述べているのだ。

 洗礼ヨハネとイエスを産んだエリサベツとマリアの出会いは、べネディクト16世がいうように、新旧聖書の出会いを象徴しているが、もう少し具体的にいえば、エリアの再臨とキリストの降臨をもたらした2人の婦人の歴史的な出会いだった。残念ながら、2人の婦人の出会いは、イエスの十字架という悲劇で終わったのだ。

「日朝の架け橋になりたい」

P1040821 日本の友人に頼んでいた藤本健二氏の新著「引き裂かれた約束」(講談社)=写真が届いたので早速読んだ。同氏の最初の著書「金正日の料理人」(扶桑社)に匹敵するほど興味深い内容が記述されていた。

 11年ぶりに平壌に戻り、金正恩氏に会った藤本氏は文字通り、涙、涙だ。故金正日総書記から幼い子供達の遊び相手になってほしいと依頼された藤本氏の正恩氏への傾斜ぶりは理解できる。

 新著の中で注目すべき点は、11年ぶりに平壌に訪れた藤本氏を歓迎する宴の席に招かれた17人の中で、藤本氏もその身元を知らない謎の人物の存在だ。年齢50歳から60歳。その男は正恩氏が催した宴の席で立ち上がり、藤本氏に「あなたが共和国に来たことを歓迎しません。あなたには心がない」と述べたのだ。
 ホストの正恩氏は「そんなことを言うな」と注意するが、男は座らないのでもう一度「座れ」と叱咤する場面がある。その男は正恩氏に仕える身近な人物のはずだ。藤本氏は「国家安全保衛部関係者かもしれない」と推測している。

 故金正日総書記時代、総書記のゲストに対し、男のような発言は考えられない。そのような状況が生じたら、その男は即処罰されただろう。藤本氏は著書の中で「招待してくれた『線』とは違う『線』が、私の存在を不愉快に思っているのだろう」と述懐している。それだけではない。金正恩氏自身も「夜は危ない。ここ8番宴会場の宿舎で、家族みんなで泊ったらいい」と述べたという。

 上記の内容は、正恩氏の政治基盤がまだ安定していない、という憶測を生み出す。藤本氏がいう別の「線」とは具体的になにを意味するのか。今後、時間の経過と共に、明らかになってくるかもしれない。

 当方はこのコラム欄で「藤本氏がビザを拒否された理由」(2012年9月23日)について北外交官と韓国外交筋に聞いたことがある。北外交官は「わが国の藤本氏への立場は変わらない。多分、今回はコミュニケーションで問題があったか、技術的な問題が生じただけだろう」と説明。一方、韓国外交筋は「藤本氏は北朝鮮の言葉を間違って受け取っていた可能性がある。藤本氏が願う時に訪朝できるのではなく、北が願う時に訪朝できるという意味だ。藤本氏は金正恩第1書記に歓迎されたので少々ハイになっていた。また、藤本氏が帰国後、日本のメディアにいろいろなことを語ったので、北側は不快となったかもしれない」と分析した。

 当方は藤本氏の新著から同氏のビザ拒否の真相を期待していたが、見出せなかった。ひょっとしたら別の「線」の嫌がらせかもしれないが、断言できない。
 参考までに付け加えるなら、北朝鮮が今月12日、長距離ミサイルの発射を成功させたことで軍強硬派の立場が強固となり、正恩氏周辺の権力構図に変化が生じたかもしれないことだ。

 故金総書記の専属料理人だった藤本氏は「日朝の架け橋になりたい」という。同氏の心意気は貴重だが、故金総書記に仕えていた13年間、同氏が目撃しなかった北朝鮮の独裁政権の現実は、一人の男の心意気だけでは解決できない、複雑でドロドロとした問題が蠢いているはずだ。


宗教心への冒涜は許されない

 独立世論調査機関「Lewada」が17日公表したところによると、ロシア国民の過半数は宗教関連施設や信者たちへの冒涜行為に対し、関連法の強化を支持しているという。
 国民の約49%は信者の宗教心を傷つけた場合、厳罰に処すべきだと考え、反対は約34%だった。ロシアでは過去、宗教を冒涜した場合、「公共秩序の破壊」という法の枠組みで対応されてきた。

 超党派で提出された宗教冒涜法案によれば、信者の宗教心を傷つけた場合、最高3年の刑罰に処され、宗教関連建物を破壊した場合、最高5年の刑罰に課せられることになる。同法案は来年1月、議会で審議される予定だ。

 同法案作成の直接の契機は、モスクワの救世主キリスト教会内で「反プーチン」ソングを歌い、踊った3人の女性パンクバンドのフーリガン行為だった(2人の女性に対して2年の有罪判決が下された)。ロシア正教会内でフーリガン行為をした3人の女性バンドの罪状は正教徒が崇拝する聖堂の冒涜行為だ。
 ちなみに、女性パンクバンドの蛮行だけではなく、ロシアでは正教会の十字架を破壊したり、聖画(イコン)が墨で汚されるなど、宗教施設関連へのヴァンダリズムが頻繁に発生している。

 興味深い点は、約70年間、唯物思想を標榜した共産主義政権が君臨し、「宗教はアヘン」として宗教者への弾圧が激しかったロシアで、信者たちの宗教心を保護しようとする動き、法案作成が進められているという事実だ。

 もちろん、冒涜法の強化を諸手を挙げて賛同は出来ない。プーチン政権が同法案を反政府運動の弾圧に利用する危険性が排除できないうえ、「宗教心の冒涜」といってもその定義が曖昧模糊としている面があるからだ。

 しかし、それらを考慮したとしても、ロシアで信者の宗教心への冒涜行為に対し、西欧キリスト教社会のそれ以上に厳しい刑罰で対応する動きが出てきたという事実は、特筆に値することだ。宗教性、藝術性を有するロシア民族の「神への回帰」が始まったのだろうか。

クリスマスのサボテンの花

 気象予報士によると、23日はオーストリア全土で雪が降るが、クリスマス・イブの24日、クリスマスの25日、そして聖ステファンの日(26日)にはウィーンでは雪が降らないだろうという。

P1040818
▲花を咲かしたバイナハト・カクトゥス(2012年12月22日、撮影)

 年末年始に東奔西走する日本の読者からみれば、空を見上げ、雪の降るのを待っている当方などは、怠け者の代表かもしれない。しかし、国連の記者室はガランとし、会議はない。200カ国余りの国旗が風で揺れているだけだ。一方、街に出かければクリスマス・プレゼントを買うために殺到する人々で圧倒される。

 国連はクリスマス休暇であり、市内に出かけクリスマス・プレゼントを買うという習慣のない当方は自宅の窓からいつ降るかもしれない雪を待ちながら、ラジオから流れるクラシック音楽に心の緊張をほぐす、といった日本の読者には考えられないような贅沢な時間を享受する。
 怠け者の当方が自宅で少しは仕事をするようにと、家人は居間の窓際にコンピューターと印刷機を設置してくれた。そこでこのコラムを書いている。

 目が疲れると窓から空を見上げ、雪の訪れを待っていると、居間の端にあったカクトゥス(サボテン)が目に入った。3年前、家人が友人からもらったカクトゥスはこれまで全くといっていいほど家人たちの注目を浴びることはなかった。もう枯れてしまったのではないか、と思っていたほどだ。それが数日前、薄ピンクの花を咲かしたのだ。家人は「生きていたのね」と驚き、急に水を注ぎ出し、カクトゥス用の土を買いに出かけた。

 カクトゥスには水をやり過ぎれば根が腐るから良くないと聞いたことがあった。それをいいことに一週間以上水を忘れたりしたが、カクトゥスは花を咲かすことを忘れなかった。
 家人曰く、「このカクトゥスはバイナハト・カクトゥス(Weihnachtskaktus)といって、クリスマス・シーズンになると花を咲かす」という。

 家人たちは「カクトゥスは光が必要だから、日中は窓際に置くのがいい」と言い出した。これまで一目すらされなかったカクトゥスが市民権を回復した瞬間だ。

徴兵制廃止の是非を問う

 オーストリアで来年1月20日、現徴兵制の堅持か、職業軍の創設かを問う国民投票が実施される。この問題では、社会民主党と国民党の2大政党から成る同国の大連立政権は真っ二つに意見が分かれている。社民党は職業軍隊を支持し、国民党は現徴兵制の維持、といった具合だ。同国の複数の世論調査によると、徴兵制の維持が現時点では多数の支持を得ている。

foto bundesheer
▲徴兵制を問う国民投票を実施する国防軍(オーストリア国防省提供)

 ファイマン首相、ダラボス国防相ら社民党関係者は国民に職業軍の必要性を訴え、世論の啓蒙に勤めている。ダラボス国防相は「緊急時発生時には徴兵制の軍隊では対応できない。兵器体系も近代化し、それらを使いこなすためにも職業軍が必要だ」と主張する。一方、国民党は「冷戦後、大戦争が勃発する危険性は限りなく少ない。その一方、自然災害は頻繁に発生している。徴兵制が廃止されれば、徴兵の代替義務に従事してきた若者たち(Zivildienst)の確保が難しくなり、社会福祉関係施設や災害対策で人材を確保することが困難になる」と強調する。

 隣国のドイツは昨年、徴兵制を中止することを決定し、連邦軍の再編(約25万人の兵力を18万5000人に減少する一方、軍拠点の縮小など)に乗り出している。ただし、平時の徴兵制を廃止するだけで、戦争発生時には徴兵制を再導入するシナリオは排除されていない。
 欧州27カ国の内、オーストリアと同様、徴兵制を堅持している国は6カ国に過ぎない。残りの21カ国は徴兵制を廃止し、職業軍を保有している。最近ではドイツの他、スウェーデンが2010年に徴兵制を廃止(中止)している、といった具合だ。すなわち、欧州のトレンドは徴兵制の廃止、職業軍隊の確立に向かっているといえるだろう。

 例えば、徴兵制を維持しているフィンランドやエストニアなど北欧では冷戦終了後もロシアを依然、潜在的脅威と受け取られ、徴兵制が維持されている。

オーストリアでは来年初めに実施される徴兵制を問う国民投票の結果は同年秋に行われる総選挙にも少なからず影響を与えるだろうと受け取られている。それだけに、社民党と国民党の啓蒙活動は今後1ヶ月間、過熱化していくことが必至だろう。
訪問者数
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

Recent Comments
Archives
記事検索
QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ