ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2013年01月

「地下文明」の誕生

 「米国は事前にマリやアルジェリアのイスラム武装勢力の動きを掌握していた。彼らがアルジェリアのガス関連工場を襲撃することも知っていたはずだ。米国が関与する気があれば、阻止できたかもしれない。しかし、米国は監視しただけで、静観していた。イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)らイスラム系テロ勢力を駆逐する大儀名目ができるからだ」

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▲国連雑誌「Space Matters」から(科学衛星「はやぶさ」宇宙航空研究開発機構(JAXA)提供)
 
 中東テロ問題専門家アミール・ベアティ氏はこのようにいう。同氏の「米国は事前に知っていた」というのは、米情報偵察衛星のことを指している。米国は24時間、世界の軍事的重要地域を監視している。その情報衛星の精度は地上の20センチぐらいの対象も識別できる。例えば、北朝鮮は3回目の核実験を準備しているが、米監視衛星は労働者や車両の動きを手に取るように掌握している。だから、臆病な故金正日労働党総書記などは夜間に移動したといわれていたほどだ。
 
 情報収集とその管理で「後進国」の汚名を背負ってきた日本も、ようやく情報収集衛星4基体制を確立したばかりだ。日本は27日、鹿児島県・種子島宇宙センターから情報収集衛星2基(レーダー4号機と技術試験用光学センサー実証衛星)の打ち上げに成功した。光学センサー実証衛星の識別能力は晴天時に約40センチを目指すという。
 スパイ衛星、情報衛星が今後、その識別能力を向上し、ほぼ地上と同等か、それ以上になる日が近い将来、到来するだろう。故金総書記のように夜行人間となったとしてももはや意味がない。夜間でも対象を識別できるレーダー衛星が現に存在するし、その識別能力(現在約1メートル)も今後、急速に向上していくからだ。
 
 そこで監視衛星の目から逃れるためには、地下に潜る以外にない。平壌周辺には攻撃を受けた時に避難できる地下網が既に完成しているという。ウラン濃縮関連活動を実施しているイランは、イスラエルの空爆を避けるために数年前から同国中部フォルドゥで地下施設を建設し、そこで遠心分離機を増設して操業中だ。ちなみに、英国メディアが25日付、フォルドゥの地下施設で「大爆発が発生した」という報じたばかりだ(イラン側は否定)。
 情報衛星の発展は、政府の主要施設、軍事基地の地下化を加速させていくだろう。というより、既に半ば現実化している。地下施設を破壊できるバンカー・バスター(地下貫徹爆弾)も製造済みだ。
 
 蛇足だが、SF作家が数十年前に描いていた「地下文明」の誕生も現実味を帯びてきた。そこには、政府や軍事施設だけではなく、ショッピング街からサッカー場まで完備されている(人は限りなく宇宙を目指す一方、安全な隠れ場所を求めて地下に潜る)。
 

ユダヤ人も恐れる商才

 ユダヤ民族は久しく「ディアスポラ」と呼ばれ、世界を放浪してきた。イスラエルが1948年5月に建国されると世界に散らばっていたユダヤ人が祖国に集まってきた。欧州、アフリカ大陸から、そしてアジア諸国からもユダヤ人たちが建国された祖国に戻ってきた。最近は旧ソ連の共和国から帰郷するユダヤ人が多いという。彼らの多くはヘブライ語を話すことができないが、神の約束した地を慕って母国に帰っていく。

map 友人のロシア人記者が「世界でユダヤ人がいない国が1国だけある」という。日本ではない。ユダヤ系日本人が住んでいる。答えは、旧ソ連共和国のアルメニアだ。旧ソ連には多数のユダヤ人が居住していたが、アルメニアだけは例外だったという。どうしてユダヤ人はアルメニアには住まなかったか、友人記者は話し出した。同記者の話に先ず、耳を傾けてほしい。

 アルメニアのとある村にユダヤ人家庭が住んでいた。父親は息子にわずかなお金を渡して夕食用の買物を頼んだ。息子は父親からもらったわずかなお金を持ちながら市場に出かけ、店を覗くが、どこの店も値段が高すぎて買うことが出来ない。買物を諦めかけていた時だ。一人の店主が「少年よ、太陽が沈みかかった頃、もう一度、来てみな」と語ったのだ。
 太陽が沈んだので少年はまた市場に出かけた。すると、あんなに高かった肉類が考えられないほど安くなっていたのだ。夕食用に十分な買出しをした少年は家に戻った。買物袋一杯に食品を買ってきた息子を見て、父親は「お前はわずかなお金でどうしてこんなに多くの買物ができたのか」と聞くので、息子は市場で会った店主の話をした。父親は息子の話をじっくりと聞きながら、「息子よ、ここで生きていくのは大変だ。ここの商人たちはわれわれ以上に商才がある」と溜め息をついた。数週間後、父親と少年の家庭はアルメニアを後にし、神の約束の地を探して旅を続けたという。このようにして、アルメニアではユダヤ人が1人、また1人を去っていったため、アルメニアにはユダヤ人がいなくなったという。

 以上、友人記者の話は誇張もあるだろうし、少し間違いあるかもしれないが、とにかく「アルメニアにはユダヤ人がいない」ということだけは間違いがないという。世界の資本を牛耳るといわれるユダヤ人もアルメニアの商才には恐れをなし、近づかないというのだ。

 当方はアルメニアについて「世界最初のキリスト教国となった国」という以上の知識がなかった。アルメニア人の歴史に興味がそそられる。中世時代、アルメニア王国が崩壊した後、世界に放浪する民族となった。オスマン帝国下では多数のアルメニア人が虐殺された(「アルメニア人のホロコースト」と呼ばれる)。どこかユダヤ人の歴史に酷似しているのだ。
 「世界の華僑も脱帽し、インド人、アラブ人も恐れをなし、あのユダヤ人すらアルメニア人の前では小人に過ぎない」という話を後日聞いた。

悲観論者は戦いに勝てない

 息子から誕生日祝いにもらった米理論物理学者Michio Kaku博士の新著「Die Physik der Zukunft」(未来の物理学)を読んでいたら、米国の第32代大統領、フランクリン・ルーズベルト(任期1933〜45年)の「悲観論者で戦争に勝利した者はいない」という言葉が紹介されていた。

 戦争という極限状況の場合、指導者の姿勢が勝敗を決定することはいうまでもない。旧約聖書の英雄モーセのことを思い出した。モーセは約60万人のイスラエル民族をエジプトからカナン(現在のイスラエル)へ導いていた。神は12名をカナンの地に派遣し、偵察させた。偵察から戻った12人のうち、ヨシュアとカレブの2人以外は「その地に住む民は強く、町々は堅固であるばかりか、その地に住む者はみな背が高い人々であり、わたしたちには自分が、いなごのように思われた」と報告した。その報告を聞いたイスラエル民族はモーセに文句をいい、「泣き叫びながらエジプトに帰ろう」と言った。その時、ヨシュアとカレブの2人は「われわれにはエホバが保護者としておられるから、恐れることはない」と報告した。2人は他の10人のように悲観的な報告をしなかった。実際、2人が率いるイスラエル民族はカナンに入り、戦いに勝利する。旧約聖書の民数記13章に記述されている有名な話だ。

 ウィンストン・チャーチル(英政治家)は「悲観論者はあらゆる機会の中に問題を見出し、楽観論者はあらゆる問題の中に機会を見出す」と述べている。悲観論者は問題を見つける能力には長けているが、その問題がチャンスとなると信じられない人々というわけだ。ヨシュアとカレブは偵察で「チャンス」を見、他の10人は「問題」(困難)を感じたわけだ。

 当方の周囲にも悲観論者と楽観主義者がいる。前者には現実を正しく把握できる知性と経験を有している者が多い一方、楽観主義者はそれらの能力で少し劣るケースが見られる。すなわち、悲観論者は楽観主義者よりも知的に優れているが、欠点は現実をより知っているため、その判断がどうしても懐疑的、消極的に傾きやすい。一方、楽観主義者は現実の厳しさに対する認識が甘い、といった印象を与える。

 大切な点は、楽観主義者が有している「信じる力」だ。ヨシュアとカレブは他の10人以上に神を信じることで秀でていた。他の10人も神への信仰はあったが、眼前の現実が更に大きな影響力を与えた。だから、神は「この民はいつまで私を侮るのか」と激怒したわけだ(民数記14章)。

 もちろん、楽観主義者が生来有している「信じる力」は神にだけに向けられているわけではない。こうあってほしいと願えば、それが実現できると「信じる力」は、どの分野にも応用が利く。そして「信じる力」は「夢」を生み出す。
 未来が輝かしいものとなるか、悲惨で暗い世界が到来するかは、私たちの「未来への信頼」と「夢の有無」が大きな影響を与えるのではないだろうか。

 根っからの悲観論者が楽観的な生き方をすることは容易ではない。最初のチャレンジは、夢を持つことだろう。夢がなければ、探し出さなければならない。悲観論者よ、夢(大志)を持て!

ホロコーストと正義の外交官たち

 昨日(27日)は「ホロコースト犠牲者を想起する国際デー」 (International Holocaust Remembrance Day) だった。ウィーンの国連では昨年、ホロコーストで犠牲となった子供たちに焦点を合わせて、写真展示会が開催されたが、今回は28日から来月8日まで、ナチス軍の迫害からユダヤ人を救済した外交官たちの展示会が開かれる。「命のビザ、正義の外交官たち」と名づけられた展示会は国連情報サービス(UNIS)と駐ウィーン国連機関イスラエル政府代表部が共催する。

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▲10万人のユダヤ人を救ったラウル・ワレンバーク(ウィキペディアから掲載)

 同展示会の案内書には「この展示会は、自身の生命や外交官としてのキャリアを犠牲にしながらもナチス軍のホロコーストからユダヤ人を救済した外交官たちに捧げる」と記述されている。ユダヤ民族の救済者(The Rescuers)と呼ばれる外交官たちは、スウェ−デン、米国、スペイン、スイス、イタリア、バチカン小国、ドイツ、日本、英国、トルコ、中国、ポルトガルと多数の国々に及ぶ。外交官たちが救済したユダヤ人の総数は20万人にもなったという。

 その中でも最も良く知られている人物はスウェーデン人外交官ラウル・ワレンバーク(1912〜47年)だろう。駐在先のハンガリーで約10万人のユダヤ人たちにスウェ−デンの保護証書を発行して救ったが、ナチス軍の敗北後、ハンガリーに侵入してきたソ連軍によって拉致され、行方不明となった。ソ連の刑務所で射殺されたといわれる。もう一人は、「日本のシンドラー」と呼ばれた駐リトアニア領事代理の杉原千畝(1900〜86年)だ。ポーランドなど欧州各地から逃げてきたユダヤ人たちに通過ビザを発行し、約6000人のユダヤ人を救った。杉原の場合、日本外務省の指令を無視しての行動だった。

 ところで、「正義の外交官たち」はナチス軍のホロコーストから逃げるユダヤ人たちを救済した外交官だけではない。冷戦時代の「プラハの春」後、オーストリアに逃げるため多数のチェコ国民がプラハのオーストリア大使館に殺到したことがあった。当時、駐チェコのオーストリア大使だったルドルフ・キルヒシュレーガーはウィーンの外務省の反対を押し切り、ビザを発行し続けた。大使はその後、大統領(74〜86年)に選出されるなど、オーストリア国民が最も尊敬する政治家といわれてきた。
 ちなみに、ビザ発行中止を要請したのはクルト・ワルトハイム外相(当時)だった。同外相は1986年、キルヒシュレーガー大統領の後任大統領に就任したが、ナチス・ドイツ軍での過去問題が国際メディアから激しく追求され、再選出馬の断念を余儀なくされている。

「正気」と「狂気」の垣根が消えた

 欧州連合(EU)の国民の3人に1人以上が年に少なくとも1度は精神的病に冒される。欧州の経済大国ドイツの場合、過去10年間で精神的病が理由で障害年金を受けた国民は年金者全体の24・2%から39・3%に増加した。企業のトップ・マネージャーが突然、バーンアウト症候(燃え尽き症候)になり、企業戦線から後退を余儀なくされる。欧州の財政危機で失業者が急増している今日、精神的ストレスで不眠症、胃腸器官の不調などの病に罹る人々が少なくない。まさに、現代社会は精神的病が席巻し、その治療に取り組む心療内科医は超多忙だ。

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▲「狂気がノーマルに」を特集する独週刊誌シュピーゲル(2013年1月25日、撮影)

 その一方、ちょっとした精神的悩みや苦悩を精神的病と診断し、薬を与える精神科医に対する批判の声が上がっている。独週刊誌シュピーゲル(1月21日号)は「狂気がノーマルに」というタイトルの特集記事を掲載した。同誌は、日常生活のさまざまな葛藤や障害を直ぐに精神病のカテゴリーに入れ、治療を強いる現代の精神病学会の現状に警告を発している。

 外出せず、家に引きこもっている人がいれば、「あなたはAgoraphobie(広場恐怖症)だ」と呼ばれ、自殺を考えれば、うつ病と判断され、理由なく妻に怒る男性は「人格障害者」と烙印が押される。また、夫を失った妻が2週間以上、悲しみに沈んでいれば、何か精神病だと診断される(精神病専門医によると、親族が死んだ後、遺族関係者が最長2週間まで悲しむことは正常の範囲だが、それ以上悲しみ続けた場合、彼(彼女)は精神病と診断される)。
 
 アメリカ精神病学会(APA)が発行する「精神障害の診断と統計の手引き」(DSM)は精神科医のバイブルと呼ばれている。そこにはこれまで診断された全ての精神的病が網羅されている。そして新しい精神的病が発見されたら、新版で追加される。最近では心的外傷後ストレス障害に似た症状のPTED(外傷後苦々しい気分障害)がバイブル入りしたばかりだ。

 シュピーゲル誌によると、1952年版のDSMは130頁の小冊だったが、80年版は494頁、94年版には886頁の大冊に膨れ上がり、今年5月に発表予定の新版は1000頁を超えると予想されている。すなわち、精神的病に入る病の数が急増してきたわけだ。精神病専門医の学問的成果という面もあるが、それ以上に専門医の過剰な対応も見逃せられない。DSMの分類に従うならば、米国民の約46%は何らかの精神病を抱えていることになる。

 この精神病の洪水に批判的な精神科医や心理学者も少なくない。彼らは「多くの精神的障害や病は時間の経過と共に再び癒されていく。それを病気と診断し、薬を与えれば、本人は精神病と受け取り、病を深めていくだけだ」と警告している。精神病の増加はもちろん製薬会社の利益とも結びついてくる。多くの精神病専門医は自身が診断した精神病の呼称がDSMに掲載されることを最高の栄光と感じる傾向が強いという。

 精神的病を軽視し、疎かには出来ないが、過剰に反応し、薬漬けにすることは一層危険だろう。いずれにしても、私たちは、「正気」と「狂気」の垣根が消え、「狂気」が正気のように、「正気」が狂気のように受け取られる社会に生きているわけだ。

次はオランダが脱退の番だ

 「オランダ政府は国連工業開発機関(UNIDO)から脱退する意向だ。脱退問題は目下、議会で議題に挙げられている。上下院で審議され、今年下半期には脱退が正式に決定する予定だ」

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▲ウィーンの国連機関正面入口、左側は国際原子力機関(IAEA)本部、右側はUNIDO本部(2012年12月撮影)

 駐ウィーン国際機関オランダ政府代表部UNIDO担当官は電話で当方にこのように答えた。脱退の理由は明確だ。「年間300万ユーロを払い続ける価値がないからだ」という。欧州諸国はどの国も出費の節約を強いられている。分担金だけ払い、国益とならない機関からは脱退するというわけだ。

 UNIDO(本部ウィーン)では昨年、ニュージランドが今年末に脱退する旨を通達済みだ。これで米国、カナダ、オーストラリア、英国、そしてニュージーランドと英語圏は次々とUNIDOを脱退していく。そして次はオランダというわけだ。国連の専門機関で加盟国が次々と脱退していく機関はUNIDO以外にはない。

 英国が2011年、「UNIDOは国連の専門機関としては最悪の状況だ」と表明した時、UNIDOのカンデ・ユムケラー事務局長は「UNIDOの実態が正しく伝えられていない。失望した」と嘆いた(同事務局長がいう「UNIDOの実態」とは何かを一度、じっくりと聞いてみたいものだ)。

 米国は1996年、UNIDOの腐敗体質を批判して脱退した。当時、「米国の国連蔑視政策だ」と批判的に受け取られたが、ここにきて「米国の判断は正しかった」と見直されてきた。UNIDOの腐敗体質は今、始まったわけではない。UNIDOには縁故関係で雇用された数多くの自称コンサルタントがいる。彼らは週、数時間、事務所に顔を出すだけで数千ユーロの月給を受け取る。誰もそのコンサルタントを管理していない。その上、コンサルタントといっても専門知識や経験を有さない者も多い。中東加盟国のある大使は失業中の息子をUNIDOに送り込んでいる、といった類の話は少なくない。だから、欧米の加盟国がUNIDOに対して懐疑的、批判的とならざるを得ないわけだ。ウィーン外交筋は「UNID
Oは結局、ロシアと中国が牛耳っている」と見ているほどだ。

 ウィーンの国連関係者の間で「Xデー」が囁かれている、ドイツがUNIDOから脱退を表明する日だ。ドイツ外交官は「わが国の政府もUNIDOの運営には不満足だ。ミスマネージメント、腐敗から人材の質まで全てが問題だが、現時点では脱退を考えていない」という。その主因は「ドイツが国連安保理の常任国入りを願っている、国連の専門機関から脱退すれば、開発途上国から批判を受けることは必至だ。大国・ドイツのイメージにもマイナスだ」という計算があるからだ。

 それでは同じように、常任理事国入りを願う日本はどうだろうか。UNIDO最大分担金(約19%、約1299万ユーロ)を担う日本は脱退を全く考えていない。UNIDOをアフリカ支援の受入れ機関として活用できると信じているからだ。
 それでは、最大分担金を支払う国として、UNIDOの腐敗体質を是正し、必要なアドバイスを提供するなど、主導的な役割を果たしているか、というとそのような活動はまったく見られない。「金は払うが、口は出さない」という従来通りの消極的姿勢だ。そのため、UNIDO幹部たちからは「日本が分担金を払い続ける限り、UNIDOは安泰だ」と楽観視されているほどだ。 

 

北の「経済強国建設」は見果てぬ夢

 金正恩第1書記は1日、「新年の辞」の中で「経済強国建設」を今年の主要目標に掲げたが、具体的な経済改革案には言及しなかった。知人の北外交官によると、「経済強国建設はわが国の大きな課題だが、具体的な経済案については公式には発表されていない」という。

 「経済強国」を国家目標と掲げる以上、その青写真、ヴィジョンが前提だ。青写真もなく、経済強国だ、と叫んでも意味がない。当然、金第1書記はそのようなことを熟知しているはずだ。それでは、金第1書記はその経済改革の青写真を公表できない事情があるのだろうか。

 以下、考えられる理由を挙げてみた。

 ]働党内の反改革派の抵抗
 経済利権の喪失を懸念する軍幹部の抵抗
 「経済強国建設」は内外に向けた単なる掛け声に過ぎず、実質的意味はない
 し从儔革の実施が開国へと繋がり、最終的には政権崩壊をもたらす、といった不安が払拭できない

 ,鉢△呂發辰箸盥佑┐蕕譴詬由だが、先の北外交官は「金第1書記は党と軍の実権を掌握してきた。第1書記が願えば改革は実行できるはずだ」という。は考え難い。金第1書記は政権安定のためには国民の生活アップは不可欠だということを知っているからだ。問題はい澄MЭ佑隆攅餝宛魎韻蓮峽从儔革に乗り出せば、国の開放に繋がり、政治の改革が進む危険性が出てくる。そして国の開放は即、金第1書記を含む既成政権派の危機を意味する。簡単にいうならば、経済改革の行き着く先は金政権の崩壊ということだ。独裁政権は自分の首が飛んでしまうような開放政策を実行できない」という。

 ここまで考えると、経済改革案を公表できない主要原因としてい有力となる。金第1書記の父親、故金正日労働党総書記は国内経済の刷新の必要性を知っていたが、経済自由地帯の設置どまりで、抜本的な市場経済の導入までは決断できなかった。それでは息子の金正恩第1書記はどうだろうか。世代の違いはあるが、独裁者の立場は同じだ、と見るのが現実的だろう。すなわち、北の「経済強国建設」は見果てぬ夢に終わるわけだ。

北朝鮮国営朝鮮中央通信(KCNA)によると、同国国防委員会は国連の対北安保理制裁強化決議に反発し、「高い水準の3回目の核実験は米国を狙うものとなる」と表明したばかりだ。ひょっとしたら、金第1書記は核兵器の保有で政権堅持ができると考えているのかもしれない。もしそうならば、大きな誤算だ。核を保有した独裁政権のソフトランディングは厳しいからだ。朝鮮半島を覆う雲行きが怪しくなってきた。

麻生さん、さっさとは死ねません

 独ケルン市で先月、強姦された女性が妊娠を恐れ、堕胎ピル(Pille danach)を要求したところ、カトリック系病院が拒否した。そのため女性は堕胎処置をしてくれる病院を探し、最終的にはプロテスタント系病院に受け入れられたという。
 この件が報じられると、国内のカトリック系病院に対し、「強姦された女性が妊娠を恐れ、堕胎ピルを要求したのに、それを非情にも拒否するとは考えられないことだ」といった批判の声が高まってきた。キリスト教民主同盟(CDU)、社会民主党(SPD)や「緑の党」議員たちから、「緊急医から送られてきた患者を追っ払う病院はもはや病院ではない」という批判から、「カトリック系病院の業務を停止させるべきだ」といった過激な声まで聞かれる。

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▲キリスト教倫理と医療現場の間で苦悩するカトリック系病院(2013年1月22日、バチカン放送独語電子版から)

 バチカン放送(独語電子版)によると、国内の反響を深刻に受け止めた独カトリック系病院同盟(KKVD)のトマス・ヴォルトカンプ会長は「ケルンの場合、困窮下の患者を受け入れなかったという点で間違いを犯したが、カトリック系病院全体の存在に疑問を呈したり、批判することは受け入れられない」と反論し、「法に基づき、カトリック系病院は患者の一定の要望に対して拒否できる権利を有する」と述べた。具体的には、中絶、堕胎、安楽死などがそれに該当するだろう。
 同会長は「カトリック系病院はキリスト教倫理と患者の期待との間で常に苦悩してきた。全ての要望を受け入れるか、全てを拒否するか、難しい選択に遭遇している。明確な点は一病院が単独で決定できる問題ではないことだ」と語った。
 なお、ドイツには435のカトリック系病院があり、約9万8000のベットに約16万5000人が働いている。ドイツ全土では、約5病院に1病院はカトリック系病院だ。

 ちなみに、ドイツで今年から医者の処方箋なしでも、オンラインで堕胎ピルを購入できる道が開かれたばかりだ。それに対し、独カトリック教会司教会議は「生命を殺すことはキリスト教の倫理に反する」と強調し、堕胎ピルのオンライン販売を強く批判している。 

 蛇足だが、日本の新聞を読んでいると、敬虔なカトリック教信者の麻生太郎副総理兼財務相が21日、社会保障制度改革国民会議で終末期医療について、「生きられるからといって延命措置をされたら堪らない。さっさと死ねるようにしてほしい」(日本経済新聞)と述べたという。カトリック教徒の麻生財務相もご存知と思うが、バチカン法王庁は安楽死には強く反対し、「さっさと死ぬ」ことも許していない。

事務局長、異例の注意を喚起

  ウィーンに本部を置く国連工業開発機関(UNIDO)が北朝鮮に化学兵器(神経ガス)製造可能な機材を供給していたことが明らかになったが、UNIDOのカンデ・ユムケラー事務局長は先月11日、職員宛に付属書類を含む5頁の内部用メモランダム(Interoffice Memorandum)を送り、国連安保理決議で制裁対象リストに挙げられている加盟国(北朝鮮を含む12カ国)への支援プロジェクト履行の際、制裁違反とならないかを慎重に検証して実施するように異例の注意を喚起していたことが判明した。

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▲制裁対象国への対応で注意を喚起するユムケラー事務局長のメモランダム(2013年1月21日、撮影)

 国連関係者は「事務局長が職員に向かって制裁対象国への対応で注意を喚起することは珍しい」と指摘、UNIDOが北に化学兵器製造可能な機材などを提供したという日本メデイアの報道内容を深刻に受け取り、対応に乗り出さざるを得なくなったからだ、と一般的に受け取られている。ユムケラー事務局長は「制裁違反かどうか不明な場合、安保理制裁委員会に書簡を送り、確認を取るべきだ」と指摘している。

 UNIDOのモントリオール・プロジェクト(MP)に精通する独化学者は、「事務局長の発言はUNIDOが対北安保理決議(1718)の違反事実を認めたわけだが、制裁を蹂躙した関係者への処罰は何も行われていない」と指摘、MP担当者の管理責任を明確にするよう要求している。同化学者によれば、ニューヨークの対北安保理制裁委員会関係者はUNIDOの対北MPの詳細な情報の収集に乗り出してきている。UNIDOの対北MPは2003年に開始され、08年に完了した。

 北は4塩化炭素(CTC)がモントリオール議定書締結国の規制物質となっているためその代替農薬生産のためUNIDOに支援を要請。それを受け、UNIDOは07年4月、CTCに代わる別の3種の殺虫剤を小規模生産できる関連機材購入のため入札を実施した。そして受注を獲得したエジプトの化学製造会社「Star Speciality Chemicals」が08年8月、有機リンとオキサゾール誘導体を製造できるリアクトルを北に輸出した。有機リンはサリン、タブン、ソマン、VX神経ガスと同一の化学グループに属する。北が入手した化学用反応器はカズサホス(Cadusafos)12トン、土壌殺菌剤ハイメキサゾール(Hymexazol)20トン、クロルピリホスメチル(Chlorpyrifos Methyl)16トンを年間製造できる能力を有する。UNIDOのMP関係者は、北が化学兵器製造用に利用する可能性を薄々知りながら、機材を支援した疑いがもたれている。

  UNIDOは安保理決議(1718)に違反して北に化学兵器製造可能な機材を供給したことが判明した後も、「そのような事実はない。全てのプロジェクトは詳細な検証のもとに実施されてきた」(UNIDO has not provided any materials to the DPRK in violation of the corresponding UN Security Council Resolution)と反論し、報道内容を否定してきた。在ウィーン国際機関の日本政府代表部関係者も「UNIDO関係者に確認したが、北に化学兵器製造可能な機材を供給した事実はないとの返答を得た」と述べるだけで独自の調査を怠ってきた。UNIDOの最大分担金拠出国の日本側の消極的な対応と危機管理に批判の声も出ている。

 当方は過去2回、このコラム欄でUNIDOの安保理決議違反を紹介した(「北が化学兵器を製造できる理由」2012年11月29日、「危険な『入札書』」2012年12月10日参照)。2回目は関連の国連文書も提示した。



 
 

国民投票で判明した「国防」の欠如

 オーストリアで20日、徴兵制の存続を問う国民投票が実施され、大方の予想通り、徴兵制維持派が約59・8%と過半数を獲得し、職業軍の導入案は約40・2%に留まった。ファイマン政権は国民投票の結果を尊重し、徴兵制を今後も堅持していくことになる。投票率は国民投票としては異例の約49%と高かった。

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▲徴兵制の維持を決定したオーストリア(オーストリア国防省提供)

 今回の国民投票は、ファイマン連立政権の社会民主党と国民党の両与党が立場を異にしていたため、投票前から今秋の国民議会選挙の前哨戦と受け取られ、両党を中心として激しい党主導のキャンペーンが展開された。

 投票結果の年齢別分析によると、16歳から29歳の有権者の約63%が徴兵制の廃止、職業軍の導入を支持し、60歳以上は現徴兵制維持が60%以上越えた。徴兵年齢に当たる若者たちが6ヶ月間の現徴兵(シビル・サービス9ヶ月)の廃止を願い、職業軍導入を支持したのは当然の結果かもしれない。一方、高齢者の有権者の多くは、現徴兵制が廃止されれば、自然災害や社会看護ケアで奉仕活動するシビル・サービスも廃止されると考え、徴兵制の維持を支持したという。
 有権者(約640万人)が自身の直接の利害関係から投票するのは当然だが、徴兵制の是非を問う国民投票で、「国防を今後どうするか」という議論は政党や国民の間から余り聞かれなかった。

 欧州が東西両陣営に分裂した冷戦時代、徴兵制は欧州のどの国でも国防の中核的な制度だった。しかし、冷戦時代が終わり、治安を直接脅かす国がなくなると、徴兵制は次第に廃止され、職業軍を導入する国が増えてきた。欧州連合(EU)27カ国中、21カ国が既に徴兵制を廃止し、職業軍を導入している(例外・旧ソ連の軍事的脅威にさらされてきた歴史をもつフィンランドやエストニアでは徴兵制が依然実施されている)。

 その点からみると、オーストリアの国民投票結果は欧州のトレンドに反する。その背景には、徴兵制維持を主張してきた国民党の「徴兵制が廃止され、職業軍が導入されれば、わが国の中立主義は消滅する」とか、「徴兵制の廃止は即、シビル・サービスの廃止を意味する。自然災害対策や高齢者のケアなどが難しくなる」といった主張が功を奏したことになる。それに対し、職業軍導入派の社民党は「国民党の主張は事実ではない。過去の自然災害で動員されたシビル・サービスの奉仕者は少数に過ぎない」と反論し、「国民党は有権者の不安を煽るキャンペーンを展開してきた」と指摘している(社民党の牙城、ウィーン市だけは職業軍導入派が過半数約54・2%を獲得した)。

 徴兵制の存続を問う国民投票は終わったが、「冷戦後の国防をどのように実施していくか」についての真摯な議論は今後の課題として残されたわけだ。
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