ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2014年02月

ポルトガルのシンドラー

 音楽の都ウィーン市で最も長い通り名(Strassename)をご存知だろうか。「アリスティデス・デ・ソウザ・メンデス通り」だ。言葉の響きからポルトガル人の名前と分かった人は言語に相当通じた人だろう。その通りだ。メンデスは1885年生まれのポルトガル外交官だ。同外交官は“ポルトガルのシンドラー”と呼ばれ、イスラエルから「諸国民の中で正義の人」として称えられている外交官だ。

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▲“ポルトガルのシンドラー”と呼ばれるメンデス(ウィキぺディアから)

 当方は昨年、「ホロコースト犠牲者を想起する国際デー」 (International Holocaust Remembrance Day) に合わせて「ホロコーストと正義の外交官たち」(2013年1月28日)というコラムを書いたが、その中でイスラエル人の救済者として最も良く知られているスウェーデン人外交官ラウル・ワレンバーク(1912〜47年)を紹介した。
 同外交官は駐在先のハンガリーで約10万人のユダヤ人たちにスウェ−デンの保護証書を発行して救った(同外交官はナチス軍の敗北後、ハンガリーに侵入してきたソ連軍によって拉致され、ソ連の刑務所で射殺された)。

 日本では「日本のシンドラー」と呼ばれた駐リトアニア領事代理の杉原千畝(1900〜86年)は良く知られているが、「ポルトガルのシンドラー」といわれるメンデスの名前は余り知られていない。

 メンデスは1885年、カバナス・デ・ヴィリアト生まれ。父親は裁判官で地方の貴族に属する家庭で育った。コインブラ大学で法学を学ぶ。1910年から外交官。在ボルト―のポルトガル領事館総領事として勤務していた時(1940年6月)、ナチス・ドイツ軍の侵攻から逃れる約3万人の難民(その内、約10000人がユダヤ人)を救済するため、ワレンバークと同様、本国の命令に反して通過ビザを発行した。そのため、メンデスは解雇されている。1954年4月3日、リスボンの病院で亡くなった。68歳だった。

 ところで、東京の図書館で今月、「アンネの日記」やその関連図書が破損されるという事件が起きたという。犯人はまだ捕まっていない。犯人像としては、反ユダヤ主義に基づくものか、隣国から「ヒトラー」呼ばわりされている安倍晋三首相のイメージ・ダウンを狙った犯行かで見解が分かれているという。

 文藝春秋社発行の雑誌『マルコポーロ』が1995年、「ナチス・ドイツ軍がユダヤ人を虐殺するために使用した『ガス室』は存在しなかった」という記事を掲載し、世界ユダヤ協会などから激しい批判を受けた。同雑誌は広告拒否などもあって廃刊に追い込まれた。
 当方は当時、その件でウィーンのサイモン・ヴィーゼンタール氏と緊急会見したことがある。ヴィーゼンタール氏の言葉は厳しかったが、「ユダヤ人は素晴らしい日本人を知っている」と述べ、杉原千畝の名前を挙げ、「この件でユダヤ民族と日本人の関係が悪化することはない」と語ってくれたことを今でも鮮明に覚えている。

 ユダヤ民族は迫害した者を許さないが、助けてくれた人物に対しては決して忘れない。メンデスの命のビザ発行をいつまでも称え続けている民族なのだ。
 「アンネの日記」破損事件が早急に解決されることを願う。

「どこから戦争や対立は来るか」

 ローマ法王フランシスコは24日、サンタ・マルタ館(ゲストハウス)の慣例の朝拝で「どこから戦争や対立は来るか」と問いかける説教をした。
 法王は新約聖書の「ヤコブの手紙」を読みながら、「あなた方の中の戦いや争いはいったい、どこから起きるのか」と問いかけたのだ。非常にタイムリーな問題提示だ。

 法王は「今年は第1次世界大戦勃発100年目を迎えた。戦争では多くの人間が亡くなった。われわれはその大戦を追悼するが、今日も小さな戦争が世界各地で起きている」と指摘する。そして「自分は子供時代、カインがアベルを殺害したという聖書の話を聞いてショックを受けたことを思い出す。しかし、今日、われわれは戦争や紛争で多くの人が犠牲となっていても、もはや何の感慨も湧かなくなってきた」と強調した。

 そして「どこから戦争は来るのか、戦争や敵愾心は市場で買うのではない。戦争はわれわれの心から生じてくるのだ。過分な欲望、憎悪、妬みなどが人々を殺している。ヤコブが指摘しているように、戦争はあなた方の肢体の中で相戦う欲情から生じるのだ」と述べている。

 「あなたがたの中の戦いや争いは、いったい、どこから起きるのか。それはほかではない。あなた方の肢体の中で相戦う欲情からではないか。あなたがたは、むさぼるが得られない。そこで人殺しをする。熱望するが手に入れることができない。そこで争い戦う」(「ヤコブの手紙」第4章1〜2節)

 今年は第1次世界大戦勃発100年目を迎える。その一方、中東ではシリア内戦、欧州ではウクライナ紛争が起きている。われわれはフランシスコ法王が提示したテーゼについてじっくりと考えてみる必要があるのではないか。
 
 わたしたちは平和を願いながら、その欲望を充足するため他者と争い、紛争する……この心の矛盾が家庭の不和、国家間の対立、戦争となって表れてくる。ヤコブの主張は簡潔だが、ズバリ言い当てている。“パウロの嘆き”と通じる内容だろう。

 「わたしは、内なる人としては神の律法を喜んでいるが、わたしの肢体には別の律法があって、わたしの心の法則にたいして戦いを挑み、そして、肢体に存在する罪の法則の中に、わたしを虜にしているのを見る。わたしは、なんという惨めな人間なのだろう」
(「ローマ人への手紙」第7章22〜23節)

 フランシスコ法王は洒落た言い方で「市場から購入してきたものではない」と述べ、わたしたちに内省を促す。

 しかし、問題は、その人間の心の戦いをどのように克服できるかだ。イエスの使徒たちはイエスの十字架を信じることで救われると主張してきた。しかし、現実のキリスト教会の姿や聖職者の性犯罪多発という不祥事を目撃すると、その主張の信頼性は限りなく揺れ出す。
 フランシスコ法王は戦争が絶えず生じている現実に対し、「泣き、嘆き、謙遜になることがキリスト者の義務だ」と述べ、それ以上は語らない。

 私たちの心の矛盾や葛藤の原因が外の世界(体制、機関、思想など)にあるのではなく、内の中にあるという診断は大きな飛躍だが、その治療方法は依然、提示されていない。未来に対して現代人が漠然と感じる焦燥感と不安はそこらに起因しているのではないか。簡単に表現すれば、「わたしたちは良くなりたいが、どうしたら良くなれるか分からない」という閉塞感だ。 

 飛躍するが、21世紀に入り、細胞の再生医学が急激に発展してきたのは、私たちの心の矛盾が初期化できることを告げる象徴的な現象ではないだろうか。

 旧約聖書の「アモス書」第3章7節は「まことに主なる神は、そのしもべである預言者にその隠れたことを示さないでは、何事をもなされない」と記述している。当方は、細胞の再生医学の発展に“神の手”を感じる一人だ。すなわち、わたしたちの心の矛盾を初期化し、本性が蘇る、という確信だ。

元世界ヘビー級王者と「ガスの王女」

 ヤヌコビッチ大統領が解任され、今年5月の大統領選に向けウクライナ情勢は動き出した。ロシアが今後、ガス供給とその価格交渉で野党勢力主導のキエフに圧力を行使してくるのは間違いないだろう。特に、ウクライナの野党勢力はさまざまな政治勢力が結集した寄せ集め所帯だから、ヤヌコビッチ大統領解任の目標が実現した今日、野党勢力内で政治権力争いが生じる危険性が考えられる。

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▲元世界ボクサー王者クリチコ氏(左)とチモシェンコ元首相(右)=ウィキぺディアから 

 ここでは5月の大統領選に出馬を既に表明した2人の野党政治家のプロフィールを紹介したい。一人はウクライナ第2野党ウダル(一撃)の党首で元ボクサー、世界WBCヘビー級チャンピオンだったビタリ・クリチコ党首(42)だ。
 厳寒の中、キエフの独立広場に留まり、ヤヌコビッチ大統領の辞任を要求してきた。その間、欧州(特にドイツ)との強い繋がりを活用してヤヌコビッチ大統領の不正を追及してきたことは周知の通りだ。

 「クリチコ氏は元ボクサーであり、職業政治家ではない。演説も朴訥であり、その言動はカリスマ性に欠ける」と指摘されてきた。武装警備隊とデモ隊が衝突して多数の犠牲者が出た時、デモ参加者に必死に「冷静」を呼びかけていた同氏の姿が印象的だった。
 ただし、多くの犠牲者が出た直後、ヤヌコビッチ大統領と野党リーダーの会合でクリチコ氏が大統領と握手したことが伝わると、独立広場に待機していたデモ参加者から「裏切り者」といった罵声を受けている。クリチコ氏は野党政治家として誰と握手でき、誰とは握手してはならないか、といった政治的感覚はまだ乏しい。世界チャンピオンとして欧州のスポーツ・メディアの世界では抜群の知名度があるが、母国での支持はまだ限られている。

 もう一人の大統領候補者はユリヤ・チモシェンコ元首相(53)だ。職権乱用罪で禁錮7年の判決を受け東部ハリコフの病院に収容されていたが、22日釈放されると直ぐにキエフに飛び、独立広場でデモ参加者の前で演説をし、「私は戻ってきた」と涙声で話しかけている。そして大統領選に出馬する意思を表明した。2004年のウクライナのオレンジ革命の中心的人物だ。
 
1990年代、エネルギー企業の責任者であり、短期間で巨額の富を得た。“ガスの王女”とも呼ばれ、カリスマ性がある人物だ。同元首相はサッチャー元英首相、オルブライト元米国務長官など女性政治家を尊重し、その肖像画をキエフの事務所に掲げている(ザルツブルガー・ナハリヒテン紙)。

 1997年に初めて国会議員。ユシチェンコ首相(当時)時代に活躍。2004年の大統領選で不正があったとして、ヤヌコビッチ氏の大統領当選の無効を要求する国民の反政府運動が発生(通称オレンジ革命)し、その中心的リーダーの一人となった。
 革命で政権交代が実現した後、ユシチェンコ大統領のもとで首相を務めたが、政策の対立などで同大統領とは袂をたち、首相のポストから辞任。07年、政権に復帰。同年の大統領選ではヤヌコビッチ氏に敗北。その直後、ロシアとの09年のガス供給協定の職権乱用罪で7年の禁固刑の判決を受けてこれまで服役してきた。

 プーチン大統領は「ユーラシア連合」を掲げ、旧ソ連共和国へさまざまな圧力を行使してきた。キリギスタン、アゼルバイジャン、アルメニア、グリジアではロシアの影響力の拡大に懸念する国民の声が高まっている。それだけに、ウクライナを失えば、その影響は他の共和国にも波及し、ドミノ現象を誘発する、という恐れがプーチン大統領にはある。

 5月の大統領選で誰が大統領に当選するとしてもロシアからの圧力に屈せず、親欧路線を堅持していくことは難行だ。クリチコ氏はドイツのメディアの質問に答え、「自分のリングはここだ(独立広場)。ここでの戦いはリング上よりハードだ」と語っている。

ウクライナ情勢の宗教的側面

 ウクライナ情勢はヤヌコビッチ政権の事実上崩壊、早期大統領選の実施決定など急展開してきた。一方、ウクライナを将来のユーラシア連合の一員と考えるロシアのプーチン大統領は、ソチ冬季五輪大会の閉幕を受け、本格的にウクライナ情勢に干渉してくることが予想される。

 そこでウクライナ情勢の背後で同国の政情に少なからず影響を与えている同国の宗教界の動きをまとめておく。

 ウクライナ全土で23日、警察官とデモ隊の衝突で犠牲となった80人の慰霊ミサが行われた。ウクライナ正教会のフィラレット総主教は「われわれは兄弟姉妹として愛すべきだ」と呼びかける一方、「多くの犠牲を出した紛争の責任者は処罰を受けなければならない」と主張した。
 同総主教の発言で注目すべき点は、分裂して20年以上になるウクライナ正教会(キエフ総主教庁系)とモスクワ総主教庁系のウクライナ正教会の再統合を提案し、「教会の再統合はウクライナ国民の一体化をもたらすはずだ」と述べていることだ。
 
 ウクライナの主要宗派、正教会は3つに分裂している。神学的な違いは少なく、地域的、歴史的、政治的思惑から分裂してきた経緯がある。
 ウクライナがソ連から独立した直後、モスクワ総主教庁から独立したキエフ総主教庁系ウクライナ正教会が最も多くの信者を有し、それについでモスクワ総主教庁系のウクライナ正教会、そして独立正教会だ。
 正教会以外では、ポーランド国境線の西部を中心にウクライナ東方カトリック教会が強く、プロテスタント系教会、ユダヤ教も存在する。

 ウクライナ情勢がプーチン大統領の出方に影響を受けるように、ウクライナの宗教界もロシア正教会のキリル総主教の意向を無視できない。
 そのキリル総主教は23日、書簡を公表し、そこでウクライナの内戦の終焉を要求、「隣国で多くの犠牲者が出ていることに耐えられない痛みを感じる。全ての正教会はウクライナの平和と兄弟紛争の解決のために祈ろう」と述べている。

 ロシア正教会の本音は、ウクライナ正教会(キエフ総主教庁系)が今回の紛争でその国民の支持を拡大し、影響力を強めることへの恐れだ。ロシア正教会はウクライナ正教会を依然、自身の管轄内と受け取っている。だから、ウクライナ紛争でキエフの正教会の影響力が拡大することは好ましくないのだ。
 ちなみに、モスクワ総主教管轄のフセボロド・チャプリン大司祭は1月末、「ウクライナを部外者の手に渡さないためロシアはモスクワに干渉すべきだ」と要求したほどだ。

 以下、その他のウクライナ宗教界の動きをまとめる。

 .Εライナの正教会評議会と宗教同盟は22日、大統領の解任後、ウクライナの分割を警告し、「領土の分割を主張する分離主義は神と民族の将来の世代への罪だ」と批判する声明文を公表した。宗教同盟はウクライナの宗教団体、18のキリスト教会、イスラム教、ユダヤ教が所属、ウクライナの宗教団体の約75%が所属している。

 ▲エフのユダヤ教ラビは22日、ウクライナの紛争で反ユダヤ主義的襲撃が増加しているとして、「ユダヤ人は外出せず、家に留まるように」とアピールしている。ウクライナでは2012年の時点で約25万人のユダヤ人が住んでいる。

 ローマ法王フランシスコは19日、一般謁見でウクライナの政治家と国民に向かって「暴力を行使してはならない。国の平和のために努力すべきだ」と呼びかけた。
 バチカン放送独語電子版が22日報じたところによると、キエフの独立広場でカトリック信者たちが、2004年、故ヨハネ・パウロ2世によって奉献された十字架を掲げ、和解を呼びかけた。キエフのカトリック教会の司教補佐は「この十字架はウクライナに希望をもたらす」と述べ、パウロ2世とヨハネ23世が列聖を受ける4月27日まで独立広場で掲げられると表明している。

 ヤヌコビッチ政権の崩壊を受け、ウクライナが東部のロシア寄り地域と親欧州派の西部に分裂するのではないか、という懸念の声が出ている。それだけに、ウクライナの宗教界の責任も大きい。

トラップ・ファミリーと「祖国」 

 アルプスの小国オーストリアに対するイメージを日本人に聞くと、ミュージカル映画「サウンド・オブ・ミュージック」(1965年公開)の世界を挙げる人が結構多い。

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▲マリア・フランツィスカ・トラップさんの死を報じる日刊紙「ザルツブルガー・ナハリヒテン」

 同映画は実話だ。この映画では、第37回アカデミー主演女優賞を獲得したジュリー・アンドリュースが修道女マリアの役を演じ、トラップ大佐の7人の子供の家庭教師につく。時代はオーストリアのドイツ併合、第2次世界大戦前だ。舞台はオーストリアのザルツブルク(モーツアルトの生誕地)だ。オーストリア帝国海軍退役軍人のトラップ大佐の家でマリアと7人の子供たちの交流が美しい歌「ドレミの歌」「エーデルワイス」などと共に展開していく。
 ナチスドイツ軍のオーストリア併合、退役軍人のトラップ大佐へ軍から出頭命令が届き、ドラマは急展開、ナチスドイツ軍を嫌う大佐家族は合唱コンクールに出演後、スイスへ逃亡し、米国に渡る、そこでトラップ合唱団として米国ばかりか世界中でその美しい合唱を披露していった。

 そのトラップ・ファミリーの娘、マリア・フランツィスカ・トラップさんが今月18日夜(現地時間)、99歳で米国のバーモント州ストウ市で亡くなった。
 マリアさんは1914年生まれ。トラップ合唱団の解散後、27歳の時、ニューギニアで宣教活動をしている。生前、何度か故郷のザルツブルクを訪れている。

 ところで,日本人や米国人が大好きな「サウンド・オブ・ミュージック」は地元のオーストリアでは余り愛されていない、というか、歓迎されていなかった。当方がオーストリアに居住しだした当初、「サウンド・オブ・ミュージック」の話をしても知らない人がいたほどだ。

 しかし、長く住んでいると、「国民が世界的にヒットした映画をなぜ好きではないか」が少し分かってきた。ナチス・ドイツ軍の支配下で多くの国民が困難な時、祖国を捨てて逃げていった家族への冷たい目、苦しい運命を共有せずに逃げた、という無言の批判だ。
 その一方、ナチス軍の支配に抵抗したオーストリア国民は当時、少数派であり、大多数の国民はナチス・ドイツ軍を歓迎し、支援した。その後ろめたさを国民は払拭できない。
 祖国を捨てていった家族への無言の批判とナチス政権を支援したという後ろめたさのミックスした思いが、映画「サウンド・オブ・ミュージック」を愛せなかった理由ではなかったか。

 ただし、第2次世界大戦後70年を迎えようとしている今日、戦争体験者も少なくなり、オーストリア国民も「サウンド・オブ・ミュージック」を平静な心で観賞できるようになってきている。ザルツブルクの映画の舞台は観光名所だ。

「日本の信者は教会の教えに無関心」

 世界のローマ・カトリック教会の司教会議はローマ法王フランシスコの要請を受け、「家庭と教会の性モラル」(避妊、同性婚、離婚などの諸問題)に関して信者たちにアンケート調査を実施したが、日本のカトリック信者を対象に同様の調査が行われ、このほどその結果が明らかになった(世界各国司教会議が実施した信者へのアンケート結果は今年10月5日からバチカンで開催予定の世界代表司教会議で協議される)。

 バチカン放送独語電子版が20日に掲載した日本司教会議の報告によると、「日本のカトリック信者はモラルに関する教会の教義を知らない」というのだ。婚姻前の性生活や避妊道具の使用などについて、日本のカトリック信者は「まったく罪意識がない」という。カトリック教義では、避妊ピルやコンドームの使用は禁止されている。教会の聖体拝領に対しても多くの信者は「まったく無関心だ」という。

 日本司教会議関係者は「教会の教えと信者の現実の間には大きな亀裂がある」という。信者たちは教会の性モラルについて教会関係者と話し合うということもない。若い信者の場合、両親の願いで幼少時代に洗礼を受けたが、信仰に対する確信はまったくないというのだ。最近は、信者の間で同性愛者への寛容が広がり、カトリック信者と非信者間の結婚が増加してきている。

 日本司教会議の真摯な分析には感動するが、日本の信者を対象とした調査結果をみて、驚くというより、「それではなぜ、教会に留まっているのか」という素朴な疑問が湧いてきた。教会の教えを無視、関心も持たないというならば、通常の概念からいえば、信者とはとても言えない(日本司教会議によると、同国では約44万人の信者がいる。全人口で0・5%にもならない)。

 司教会議の調査結果は特別驚くべきことではないが、それにしても、日本ではキリスト教が根を張らないのはどうしてだろうか。「日本の風土にはキリスト教のような唯一神教は合わない」という声をよく聞く。森羅万象から神性を感じ、それを拝する日本人は、遠藤周作が主張していたように、父親のような厳格な宗教(砂漠の宗教)ではなく、母親のような包容力のある宗教を求めているからだろうか。

 蛇足だが、キリスト者だった日本の政治家は、良く知られている処では現職中に病死した大平正芳元首相(聖公会)、そしてカトリック信者で初の首相となったのが麻生太郎現副首相兼財務・金融相だろう。
 その麻生氏はホテルのバーで酒を飲むことが日曜日の礼拝参加よりも好きというから、教会の教義には関心の薄い平均的な日本のカトリック信者の一人なわけだ。

潘基文国連総長の人事能力を憂う

 ウィーンの国連内に事務所を持つ包括的核実験禁止機関(CTBTO)準備委員会のラッシーナ・ゼルボ事務局長の夫人が国連工業開発機関(UNIDO)のコンサルタントとして勤務していることを最近、知った。その月給は8000ユーロという。夫人を2年前、UNIDOのコンサルタントとして雇用したのはやはりカンデ・ユムケラー前UNIDO事務局長だった。

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▲「全ての人のための持続可能なエネルギー」機関が入っているアンドロメダ・タワービル(2014年2月20日、撮影)

 ユムケラー氏は8年間UNIDO事務局長を務めた後、昨年から「全ての人のための持続可能なエネルギー」担当の国連事務総長特使となった。潘基文事務総長がなぜ、エネルギー問題の素人であり、UNIDOを崩壊させたユムケラー氏に新設の任務を任せたのかは不明だが、明確な点は国連事務総長の人を見る目がないということだ。

 ユムケラー氏は新設機関のトップとして2年間の準備期間で年間63万ユーロ、月5万ユーロを手にする。その額は同氏を抜擢した潘基文事務総長やオバマ米大統領より高給だ。新設機関の事務所は駐国際機関の日本政府代表部が入っているアンドロメダ・タワービルの15階だ。20人の職員を抱えている。

 欧州のエネルギー問題専門家は「ユムケラー氏のスタッフの多くはエネルギー問題の素人であり、同氏の友人、知人たちの集まりに過ぎない。彼らは高給を受け取るが、その能力は甚だ疑わしい」という。

 そのユムケラー氏は最近、親戚のAnthony Abdul−Karim Kamara氏を広報局長に任命した。P5の待遇だから月給9000ユーロだろう。同氏は国連機関での経験はゼロだ。

 ウィーンの国連外交官は、「明らかに、縁故人事だ。ユムケラー氏は将来、出身国シエラレオネの大統領になるために多くの布石を打っている。新広報局長はユムケラー氏を国際社会に売り込むための人物に過ぎない」と受け取っている。先述したCTBTO事務局長の夫人へコンサルタントのポストを与えたのも人脈つくりの一つというのだ。

 ユムケラー氏をよく知る外交官は、「彼は2018年の大統領選に出馬する考えだ。UNIDO事務局長時代、ウィーンの事務所にほとんどとどまらず、世界を飛び回ったのは顔を売り、国際社会で人脈を構築するためだった」という。
 同外交官によると、ユムケラー氏は次期国連事務総長の有力候補者ヘレン・クラーク女史(ニュージーランド)にも接触して、顔を売っている。同女史が国連初の女性事務総長となれば、事務次長のポストを狙っているはずだ」というのだ。

 UNIDO事務局長時代のユムケラー氏の縁故主義、腐敗などはこのコラム欄でも何度か紹介してきた。現UNIDOの腐敗にはユムケラー氏の責任が大きい。そのユムケラー氏が国連の資金を駆使し、自身の野心実現のために腐心しているのだ。

 繰り返すが、潘基文国連事務総長は、エネルギー問題の専門家でもなく、UNIDOを腐敗させた人物をどうして高給で新設機関のトップに抜擢したのか。国連資金の浪費以外の何ものでもないのだ。潘基文事務総長の責任は大きい。

中国は北の「反人類罪」の共犯者だ

 北朝鮮人権問題を調査してきた国際調査委員会は17日、北当局が行っている拉致、拷問などを「人道に反する罪」という表現で批判し、責任者を追及するため国際刑事裁判所(ICC)へ付託や国連特別法廷の設置を安保理に勧告した。北朝鮮の人権蹂躙を「反人類罪」と明確に断定した今回の勧告は歴史的だ。

 同委員会は2013年3月以来、日本、韓国、英国、米国で公聴会を開く一方、脱北者らにインタビューし、北の「人道に反する罪」の立案に努力してきた。報告書は372頁に及ぶ膨大な内容だ。

 脱北者の証を読んだ息子は「なぜ米国は北を攻撃し、北の国民を解放しないのか。米国は過去、北ほど悪くない国にも軍事介入してきたではないか」と呟いた。
 息子の呟きはある意味で当然だろう。米軍は過去、イラクに軍事介入して政権を打倒した。理由はイラク・フセイン政権が大量破壊兵器を保有しているという情報に基づいていた(戦争後、イラク政府は大量破壊兵器を保有していなかったことが明らかになった)。

 北朝鮮の状況はどうだろうか。国連人権問題担当委員会は「人道への罪」と指摘し、関係者の処罰を要求したのだ。オバマ米政権は今回の報告書の内容をどのように受け止めているのだろうか。

 「なぜ、米国は反人類の罪を犯している北朝鮮に軍事介入して国民を解放しないのか」という疑問に対して、代表的な答えを紹介する。

 .櫂團絅螢好箸離バマ大統領は戦争を好まない。軍事上、必要と分かっていても戦争を避けようとする(オバマ大統領が軍事介入を避けたゆえに、さらに戦争が拡大し、犠牲者が増えるケースも出てきた。例えば、シリアだ。過去3年余りの内戦で13万人以上が犠牲となり、多数の子供が亡くなった)。米国社会も戦争疲れの状況だ。
 ∨未稜惴紊肪羚颪控えている。米国の軍事介入は中国との軍事衝突を引き起こす危険性が排除できない。
 K未浪甬遑害鵑粒房存海鮗損椶靴拭F厩颪核兵器を保有していることはほぼ間違いない。核保有国への軍事介入は余りにも危険な冒険だ。
 つ鮮半島で戦争が発生した場合、中国、韓国、日本など近隣諸国への影響が考えられるうえ、世界経済に大きなマイナスだ。
 
 米国のイラク戦争の場合、原油の利権問題が関与していたことは周知の事実だ。北の場合はどうか。北には自動車やIT産業では不可欠のレアメタル(希少金属)が豊富に埋蔵されている。ウラン、金鉱などの鉱山資源もあるが、それらは米国が絶対守りたい直接の国益ではない。

 軍事力の比較からいえば、米国は短期間で北の独裁政権を打倒し、国民を解放できる力を持っている。国際社会は「反人類罪」の北政権の崩壊を歓迎するだろう。米軍の軍事介入を批判する国は少ないだろう。にもかかわらず、米国は目下、北への軍事介入を考えていない。

 戦争を避け、北のソフトランディングを目指す米国の立場は間違っていないが、少なくとも「反人類罪」をいつまでも黙認しないことを北の独裁政権にはっきりと通告すべきだろう。
 国民が拷問され、4カ所の政治犯収容所には8万〜12万人の政治犯が収容され、家族ごと処刑されている。そのような国が21世紀に存在するということは私たちの恥だ。

 最後に付け加えるが、中国は今回の国際調査委員会の勧告を批判し、安保理で拒否権を行使する姿勢を明らかにしている。中国は北の「反人類罪」の共犯者だ。

これが海外の日本人記者クラブだ

 非政府機関「国境なき記者団」(本部パリ)が12日公表した2014年の「世界の報道の自由度指数」で、日本は59位と前年より6位下がった。日本国内の「報道の自由」がテーマだが、海外に派遣された特派員が所属する「日本人記者クラブ」の実態も忘れてはならないだろう。

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▲ウィーンの国連全景(2013年12月17日、撮影)

 そこで当方が7年前、ウィーン駐在の日本大手メディア特派員から聞いた「衝撃の告白」を再度、紹介する。海外駐在の日本人記者クラブの実態を物語っているからだ。

 「記者クラブは相互監視システムに酷似している。他社が特ダネやスクープをすることを回避するのが狙いだ。だから、本人が情報を入手した場合、大スクープ以外は他社の記者と共有する。俗に貸しをつくるというやつだ。情報を教えられた側も新しいニュースを聞くと、その借りを返すために、情報を相手の記者に教えるのだ。
 特に、海外に2年から3年間、特派員として滞在する場合、その地の日本人記者クラブに所属することが、国内で所属する以上に重要となる。短期間の滞在中に、他社の記者がスクープするようなことがあれば、東京のデスクからどやされてしまう。だから、記者クラブのメンバーたちは日頃から家族ぐるみで付き合いをする。情報を独占せずに他社の記者に教えてやるのは、保険をかけるようなものだ。スクープを出し抜くのはお互いなしにしようという一種の紳士協定だ。
 このように、日本記者クラブも機能していく。クラブの幹事は交代制だ。幹事になれば、日本大使館への窓口となり、大きな政治的行事がある場合、例えば、国際原子力機関(IAEA)の理事会の場合、日本大使にブリーフィングを要請し、クラブのメンバーにその日程を知らせる。
 この相互監視制が機能しない状況が生じることもある。例えば、大手の新聞社から若手の記者が赴任した時だ。彼は初めての特派員生活だから、意欲に満ち溢れている。同時に、見るもの、聞くものが新鮮だから、記事も大量生産する。それを横目で見る2年以上の古手の特派員は『若い記者はコレだから困るんだ』と嘆いてみせる。
 しかし、新しい若手の特派員も次第に記者クラブの制度に順応してくる。ちょっとしたスクープをすれば、赴任先の特派員社会で孤立することが目に見えてくるから、自然に自己規制が働く。このようにして、海外の日本人特派員は相互監視の世界に適応する一方、取材活動は支局の現地雇いのアシスタント記者まかせとなっていく。大きなミスをせず、無難に3年間余りの特派員生活を過ごすことが最大の関心事となり、家庭ぐるみで海外生活をエンジョイし、帰国すればいい、というふうに考え出す」

 7年前の告白だが、大筋では今も変わらないだろう。IAEA理事会では会期が終わる度に日本人記者がIAEA担当の日本人外交官から詳細な報告を受ける。
 ウィーン日本人記者クラブに所属していない当方はもちろん参加できない。当方が日本人記者向けのブリーフィングを聞こうと近づいた時、記者たちは嫌な顔をして外交官と共に別の部屋に行ってしまった。日本人記者クラブは海外でもその排他性を遺憾なく発揮しているわけだ。

脱退国出身の国連職員を追放せよ

 ウィーンに本部を置く国連工業開発機関(UNIDO)に加盟するG77諸国(開発途上国のグループ、中国を含め現在132か国が所属)が李勇事務局長に「脱退国出身の職員を解雇すべきだ」と要請したことがこのほど明らかになった。

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▲ウィーンにあるUNIDO本部

 UNIDOから過去脱退した国は、カナダ、米国、オーストラリア、ニュージーランド、英国、フランス、オランダ、ポルトガルなどだ、それに脱退予備軍としてスペイン、ギリシャ、イタリア、ベルギーの名前が挙がっている。

 「脱退国の増加で予算が縮小され、機関の運営が難しくなってきた。経費の88%は人件費と維持費だ。活動に投入できる予算は残りの12%に過ぎない。その意味で、脱退国出身の職員を解雇し、その浮いた資金を活動に投資する」というのがG77の主張だ。

 例えば、英国人職員は現在、14人だ。彼らの給料は総額200万ユーロ。フランス人職員は15人、同じく約200万ユーロだ。脱退国出身の職員約50人の総給料は1000万ユーロにもなる。そこで脱退国出身職員を解雇することで浮いた資金を活動費に回すことができるという理屈だ。
 知人のUNIDO職員は「李事務局長は年内にもG77諸国の要望を受け入れ、約50人の職員を追放することになるだろう」と予想している。

 当方が「脱退国への制裁の意味合いがありますね」というと、知人は「制裁ではない。例えば、フィットネスセンターで訓練するためには会費を払わなければならないだろう。会費を払わない人がフィットネスセンターを利用できないように、UNIDOから脱退した国にも言えることだ。脱退した国出身の職員が脱退した機関で働くことはフェアではない」と強調、「脱退国の企業に対しては機材や関連物質の購入の入札からも外すことになる」という。

 G77の要望が受理されれば、UNIDOには米・英・カナダ出身など脱退国出身の職員がいなくなる。「国連の専門機関としては少々奇妙な現象ではないか」というと、知人は「致し方がないことだ」と説明した。

 UNIDOは今後、最大の分担金負担国の日本を筆頭に、ドイツと中国の3国を中心に支えられていくことになる。欧州連合(EU)加盟国が次々と脱退しているが、EUの盟主ドイツは現時点では脱退を考えていないという。ただし、UNIDOの財政を監視する外部監査人にドイツ人を派遣し、UNIDOの活動を監視する考えだ。
 知人は「UNIDOの腐敗を監視し、改善できない場合、ドイツの脱退もあり得るだろう」と述べた。

 日本の場合、中国の反日活動がこれまで以上に激化すれば、日本側も分担金の支払遅滞などの外交カードを駆使して中国人事務局長を主導するUNIDOに圧力をかけてくるかもしれない。いずれにしても、UNIDOは大嵐の中に突入してきた。
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