ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2015年08月

潘基文氏「中立性原則」違反の常習者

 国連の潘基文事務総長は、9月3日北京で開催される「抗日戦争勝利70周年式典」に参加する。「事務総長は参加するだろう」と考えていた当方は、「やっぱり」といった思いが湧いてきた。

 「抗日戦争勝利70周年式典」は中国共産党政権の歴史観に立脚して祝賀されるイベントだ。193カ国の加盟国を抱える国連の事務局トップが参加すべきではないことは通常の外交官ならば分かる。韓国外相などを歴任した職業外交官出身の潘基文氏が知らないはずはない。国連は世界の平和と紛争解決を明記した国連憲章を掲げているが、その原則は「中立性」だ。

 米国や日本は国連事務総長の「抗日戦争勝利70周年式典」参加に懸念を表明している。日本政府は事務総長にその件を通達したと聞く。当然だろう。中国共産党政権が歴史的記念日を国威高揚の場に利用し、特定の国(この場合、日本)を糾弾する狙いがある。潘基文氏は中国側の意図を知ったうえで、参加を決めたのだ。同氏は確信犯だ。
 
 当方は過去、このコラム欄で数回、潘基文氏の言動が国連の「中立性の原則」を違反していると報告してきた。特に、日本の過去問題に対しては一方的な歴史観に基づいて日本を批判してきた経緯がある。

 潘基文氏の反日発言は国連事務総長に選出される前から見られた。同氏が2005年、韓国の外交通商相時代、ブリュッセルの欧州議会を訪問し、その直後の記者会見で「欧州議会も小泉純一郎首相(当時)の靖国神社参拝を批判した。第2次世界大戦参戦国として日本軍の犠牲となった経験をもつ欧州の国民の視点から見ると、靖国神社参拝は受け入れられないという意見が多かった」と報告した。その直後、「日本首相の靖国神社参拝は議題ではなく、1人の記者が質問したので、欧州議員の誰かが答えただけに過ぎない。欧州議会が小泉首相の靖国神社訪問を正式に批判したという発言は事実とは異なっている」ということが関係者の証言で明らかになった。韓国外相の発言は政治的意図を含んだ一方的な解釈であり、事実ではなかったのだ(「国連の潘基文事務総長の『悪い癖』」(2013年8月27日参考)。

 その一方、韓国の朴槿恵大統領に対する名誉毀損で産経新聞前ソウル特派員が在宅起訴された問題について、世界のメディア関係者が一斉に「言論の自由」を蹂躙する蛮行と韓国を批判する論調を発表し、韓国に「言論の自由」を守るように要求したが、肝心の国連事務総長はスポークスマンの代行で終始し、母国の言論弾圧に対して沈黙した(「潘基文氏の『名文』とその胸の内」2014年10月31日参考)。

 当方は最近もこのコラム欄で「『中立性の原則』を破った潘基文氏」(2015年6月29日参考)という記事を書いた。その中で「国連事務総長が率先して同性愛者支持の姿勢を示すことは職務上、好ましくない。米連邦最高裁判所は合憲と判断したが、あくまでも米国内の判決だ。世界には同性婚を公認しない国も多数存在する。国連憲章第100条1を指摘するまでもなく、国連事務総長はその職務履行では中立性が求められている」と述べた。


 上記の例からみても分かるように、潘基文氏には「中立性の原則」を無視した言動が少なくないのだ。「抗日戦争勝利70周年式典」への参加決定は、同氏が中立性が求められる国際機関トップには相応しくないことを改めて明確に物語っているわけだ。

 ちなみに、潘基文氏はここにきて次期韓国大統領選に意欲を示している。「潘基文氏が反日言動を繰り返すのは韓国国民を意識しているからだろう」という見方もある。

「高速道路が墓場となった」

 オーストリア東部のブルゲンラント州で27日、高速道路(A4)の路肩に駐車していた小型冷凍トラック車の中から71人の遺体(子供4人、女性8人、男性59人)が発見された。多くの遺体は窒息死と受け取られ、死亡時期は26日前。不法移民あっせん業者がハンガリー経由で移民たちを運んでいた途上、車のタイヤがパンクしたため、車を残して行方をくらましていた。

Schlepper Route
▲北アフリカ・中東から欧州に入る移民・難民ルート(オーストリア連邦犯罪局「移民あっせん業者報告書」から)

 ブルゲンランド州警察当局は28日、4人の不法移民あっせん業者(Schlepper)がハンガリーで逮捕されたことを明らかにした。1人はレバノン出身のブルガリア人、他の2人はブルガリア人とハンガリーの国籍を有するアフガニスタン人だという。警察側は遺体の身元確認に乗りだしているが、シリア旅券が見つかったこともあって、「多くはシリア難民」と見られるが、完全に身元が分かるまでには時間がかかるものとみられている。

 多数の移民の遺体が高速道路の路肩に駐車していた冷凍トラック車内から見つかったというニュースはオーストリア国民に大きな衝撃を与えている。国営放送や民間放送は移民対策や移民あっせん業者問題に関する特集番組を流している。

 イタリア最南端の島ランペドゥーザ島沖で2013年10月3日、難民545人がボートに乗り、波の荒い秋の海をリビアのミスラタ海岸からスタートし、約140キロ先のランぺドゥーザ島を目指したが、途中乗った船が火災を起こし沈没し、360人が犠牲となった時、「地中海が墓場となった」と表現したマルタのジョセフ・ムスカット首相の発言(「地中海が墓場になる!」2013年10月17日)に倣い、同国高級紙プレッセは28日付社説で「わが国の高速道路上で多くの移民の遺体が発見された。高速道路が墓場となった」と指摘し、嘆いていたほどだ。

 ミクルライトナー内相は今回の出来事を深刻に受け取り、不法移民あっせん業者の取り締まりを強化する5点計画の早急な実施を表明している。具体的には、.魯鵐リーからの国際列車の徹底的な監視(ハンガリー領土内で)、国境線のコントロール強化、O∨犯罪局内の不法移民あっせん業者担当官の増強、ど塰^槎韻△辰擦鷆伴圓悗侶哉涯化、グ槎韻△辰擦鷆犯蛤瓩鮴賁腓箸垢觚〇ヾ韻寮瀉屐等の5点だ。

 内相は、「移民あっせんをするプロ業者は犯罪者だ。彼らは移民の運命などに関心をもっていない。如何に多くの利益を獲得するかだけが最大関心事だ。わが国は同犯罪に対してこれまでも厳しく対応してきたが、今後はもっと強化しなければならない。セルビアとハンガリー国境線に対するオーストリアとハンガリーの連携は重要なステップだが、わが国は自国の国境警備も強化しなけれならない。また、司法省との連携が大切だ」と述べている。

 オーストリア連邦犯罪局(BK)の犯罪統計によると、同国では今年に入ってこれまで起訴された不法移民あっせん業者数は457人だ。今年はまだ4カ月余りを残した段階で昨年1年間の511人に迫っている。同業者の国別によると、昨年はハンガリー人64人でトップ、それを追ってセルビア人56人、シリア人34人、コソボ人34人、ルーマニア32人、ドイツ人32人だ。

 今年7月末までに欧州に入った移民・難民は約34万人で前年同期比の3倍増だ。移民ルートとして海路(地中海)と陸路(バルカン・ルート)の2通りがあるが、北アフリカ・中東地域からボートや小型船でイタリア最南端の島ランペドゥーザ島沖に殺到している一方、ギリシャのレスボス島など離島にも難民が押し寄せている。その一方、トルコ経由などでバルカン・ルート経由で欧州入りをする移民が増えてきている。

 「今回のシリア人難民は故郷を追われ、長い道のりを子供を抱えながら歩き、砂漠を超え、空腹を我慢しながら山や川を渡り、欧州の地にやっと到着、欧州でも最も豊かな国(オーストリア)に通じる高速道路上で車の中で窒息死した。このような悲劇を繰り返してはならない。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は紛争地で事務所を開設し、そこで難民審査を実施し、ジュネーブの難民条項に合致した難民を空路で安全に欧州に運ぶようにすべきだ。これこそ不法移民あっせん業者への最強の対策だ」という声が難民救済に従事する人々の間から出ている。

忘れるな!中国共産党政権の「犯罪」

 韓国の朴槿恵大統領が中国・北京で3日開催される抗日戦争勝利70周年式典に参加し、軍事パレードにも付き合うという。韓国のメディアは、「中国側は式典に参加する首脳国を発表する際、朴大統領をロシアのプーチン大統領よりも先に紹介した」と伝え、同式典にハーグの国際刑事裁判所(ICC)から戦争犯罪容疑で追及されているスーダンのバシル大統領も参加することには何も言及せず、朴大統領の式典参加決定を好意的に報じていた。

 一国の首脳が他国主催の歴史的式典に参加するか否かはその国の国益から判断される。欧米主要諸国が北京の式典参加を見合わせているなか、朴大統領の参加は目立つ。そして「なぜ」といった疑問がどうしても飛び出す。

 明確な点は、朴大統領が欧米諸国の首脳が参加しない式典に顔をみせることが韓国の国益にかなうと判断したことだ。実際、大統領府は、「隣国の中国との友好協力関係を考慮する一方、朝鮮半島の平和と統一に寄与する中国を期待する」として、「中国で韓国の独立抗争の歴史をたたえる側面を勘案し、行事に出席することにした」(聯合ニュース)と説明している。

 朴大統領の式典と軍事パレードの参加決定は予想されたことだが、当方は韓国外交に汚点を残すと受け取っている。朴大統領は中国共産党の歴史を熟知しているはずだ。文化大革命の名で数千万人が粛清され、迫害された。それだけではない。中国伝統気功・法輪功の信者たちは今も弾圧され、収容所に拘束された信者たちから臓器が摘出され、国際闇市場で売買されているのだ。カナダ人権活動家たちが中国の不法臓器売買については既に警告済みだが、スイスの国会議員ら10人が先日、中国の習近平・国家主席宛てに連署の書簡を送り、法輪功の集団弾圧を命令、執行した江沢民元国家主席の刑事責任を追及するよう求めているほどだ。

 共産政権の悪魔性については旧ソ連・東欧の共産政権時代を想起すれば理解できるはずだ。共産党政権は一党独裁で「言論の自由」、「結社の自由」は認められず、「宗教の自由」も剥奪されている政治体制だ。中国は西側資本主義経済を導入して経済発展を遂げたが、その政治体制は依然一党独裁だ。

 中国経済の発展の恵みを共有したいと中国共産党政権に接近する国は少なくはない。ドイツやフランスも中国市場への進出では積極的だが、その欧州主要国も今回の北京の式典には距離を置いている。中国共産党政権が式典を覇権誇示の機会として利用することを知っているからだ。欧米諸国は中国とは同じ価値観を共有していないことを首脳の式典不参加でアピールしているわけだ。

 韓国は北朝鮮という独裁政権と対峙している。軍事衝突がいつ起きても不思議ではない。それゆえに、中国に接近し、北朝鮮を包囲したいといった戦略的な狙いは理解できるが、韓国にとって生命線である対米関係をこじらせる危険性が出てくる。そのような冒険を犯してまで中国の式典に参加する意味があるのか。

 朝鮮半島で軍事衝突が生じた時、韓国を守ってくれる国は中国共産党政権ではなく、米国だろう。朝鮮動乱(1950年6月25日〜53年7月27日)を想起するまでもないことだ。韓国軍は侵攻する中国人民軍と死闘した体験を忘れることはできないはずだ。 

 朴大統領が習近平国家元首との会談で、朝鮮動乱時の中国人民軍の蛮行への謝罪を要求し、法輪功の信者たちへの臓器摘出・不法売買といった非人道的な犯罪を即中止するように直言出来れば、日本や欧米諸国は「さすがに朴正煕元大統領の娘だ」と同大統領を見直すだろうし、米韓日の結束を高める絶好の機会ともなる。これは習近平国家主席の「中国の夢」ではないが、少なくとも「当方の夢」だ。

前教理省長官の「飲酒運転」の顛末

 ウィリアム・レヴァダ枢機卿が一時、警察に拘束された。アルコール飲酒が理由……このニュースをバチカン放送独語電子版が26日、報じていた。聖職者、それも著名な枢機卿の飲酒運転事件をバチカン法王庁の拡声器と一時揶揄されてきたバチカン放送が早々と報道していたわけだ。バチカンにも「報道の自由」の時代が到来しているのだろう。

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▲飲酒運転で拘束されたレヴァダ前バチカン教理庁長官(ハワイ警察当局)

 さて、レヴァダ枢機卿といっても一般の読者は「誰?」と首を傾げられるだろう。バチカンで最高位を務めた聖職者だ。同枢機卿のプロフィールを簡単に紹介する。1936年6月15日にカリフォルニアのロングビーチで生まれ、現在79歳。ロサンジェルスの神学校で学んだ後、58年に勉学のためローマに派遣され、グレゴリアーナ大学で神学博士号を取得。61年に司祭叙階。博士号取得後、ロサンジェルス教区のセント・ジョン神学校で教えた。76年から82年まで教理省に勤務。同年5月12日司教叙階。95年12月27日から10年間、サンフランシスコ大司教を務めた。バチカン法王庁教理省長官だったヨゼフ・ラッツィンガー枢機卿が第265代ローマ法王(べネディクト16世)に選出された後、空席となった教理省長官に任命され、2012年に定年引退するまで務めた。

 教理省とは、昔の異端裁判所だ。その長官はカトリック教理の番人といわれ、多くの改革派や反法王派の信者たちから恐れられてきたポストだ。プロトコールからいえば、教理省長官はローマ法王、国務省長官に次ぐバチカン・ナンバー3のポストだ。

 次に、バチカン前教理省長官のレヴァダ枢機卿の不祥事(飲酒運転事件)の経過を紹介する。枢機卿が神父たちとハワイで休暇を過ごしていた。食事後1人で車を運転していた。警備中の交通警察官が「運転の仕方がおかしい」と見て、枢機卿の車をストップ。アルコール検査をしたところ、ハワイの交通規則となっているアルコール許容量を大きくオーバーしていた。そこで枢機卿は警察まで連行され、数時間拘束された。枢機卿は結局、500ドルの保釈金を払い、釈放されたというわけだ。

 枢機卿の飲酒運転を報道したワシントン・ポストによると、枢機卿は、「自分は運転に対して過信していた。まったく申し訳ないことをした。警察当局の調べには協力する」と述べたという。問題が飲酒運転だけなら大きくならないだろうと予想されているが、事件の詳細について、警察当局も枢機卿担当報道官もこれまでのところ何も明らかにしていないという。なお、同枢機卿に対しては、大司教時代、未成年者へ性的虐待した聖職者の性犯罪を熟知しながら隠蔽していた疑いがもたれてきた。

 興味深いことは、ワシントン・ポストによると、レヴァダ枢機卿のサンフランシスコ大司教の後継者、Salvatore Joseph Cordileone 現大司教も2012年8月、同じように飲酒運転で執行猶3年の有罪判決を受けていることだ。サンフランシスコ大司教のポストはアルコールを飲酒しないと務まらないほど激務なのか。それとも、前任の大司教も現職の大司教もアルコールを飲酒して車を運転し、たまたま不幸にも警察官に見つかっただけのことだろうか。真相は神のみぞ知ることだ。




【短信】 金正恩氏、ITF総裁に若い世代起用

 米テコンドー専門誌「テコンドー・タイムズ」電子版が26日、報じたところによると、ブルガリアの第2都市プロヴディフ市(Plovdiv)で開催中の国際テコンドー連盟(ITF)の19回世界選手権と同時に開かれたITF総会で総裁人事が行われ、新総裁にリ・ヨンソン(Ri Yong Son)師範が選出された。張雄総裁は終身名誉総裁に任命された。

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▲ITFの新総裁に選出されたリ・ヨンソン氏(同氏の左は張雄前総裁)=専門誌「テコンドー・タイムズ」のHPから

 リ新総裁(50歳代の初め)は1990年初めからテコンドー創設者・崔泓熙氏に師事し、張雄総裁時代にはウィーンのITF本部で事務局長として世界各地の支部を訪問し、指導してきた、その後、母国に戻りテコンドー委員会と国家オリンピック委員会の副会長に就任した。リ新総裁は張前総裁がやり残したITFのオリンピック競技参加を最大の課題として取り組んでいく。

 一方、名誉総裁となる張氏(77)は崔泓熙氏の死後、13年間総裁として働いてきた。張氏は今後、名誉総裁としてITFの財政基盤の構築と、韓国主導の世界テコンドー連盟(WTF)との連携に力を注ぐという。

 世界のテコンドーは、韓国主導のWTFと北朝鮮が管理するITFの2つに分かれているが、ITFは更に3分裂している。テコンドー連盟は1966年、崔泓熙氏が創設したが、同氏が2002年に死去すると、同総裁の息子・重華氏を中心としたITF、ITF副総裁だったトラン・トリュ・クァン氏が旗揚げしたITF、そして張雄総裁を中心とした北主導のITFの3グループに分裂した。

 次期総裁選では、WTFとの連携に実績のある張氏の続投が有力だったが、「金正恩第1書記は指導部の若返りに乗り出しているから、若い候補者が擁立されるのではないか」という声があった(「南北テコンドーの再統一成るか」2015年8月23日参考)。

 なお、1996年7月から国際オリンピック委員会(IOC)の委員を務める張氏は、今回ITF総裁から降りたことから、IOC委員のポストも失うのではないか、といった噂が流れている。同氏は今年10月、訪韓予定だったが、訪問がキャンセルされる可能性が出てきた。

AP通信の記事とIAEAの対応

 国連安保常任理事国(米英仏ロ中)にドイツを加えた6カ国とイラン間で続けられてきたイラン核協議は先月14日午前、最終文書の「包括的共同行動計画」で合意し、2002年以来13年間に及ぶ核協議はイランの核計画の全容解明に向けて大きく前進し、国連安全保障理事会は同月20日、最終合意内容を承認する安保理決議(2231号)を採択したばかりだ。これを受けて、対イラン制裁の解除に向けた手続きがスタートしたが、ウィーンのAP通信記者が今月19日、以下のスクープ記事を発信した。

 Iran will be allowed to use its own inspectors to investigate a site it has been accused of using to develop nuclear arms, operating under a secret agreement with the U.N. agency that normally carries out such work, according to a document seen by The Associated Press.

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▲特別理事会に臨む天野之弥事務局長(2015年8月25日、IAEA提供)

 テヘラン郊外のパルチン軍事施設への査察はイランの核問題の解明の鍵と見なされてきた。同施設で核軍事転用の為に起爆実験が行われた疑いが囁かれてきたからだ。通称、「軍事的側面の可能性」(PMD)の問題だ。AP通信によると、そのパルチン軍事施設への査察がIAEAの査察員によって行われず、イラン側が提供する施設内の写真や映像などをIAEAが受け取るという形で実施されるというのだ。この報道が事実ならば、イラン核協議の最終合意の信頼性が揺れ出すことにもなりかねない。

  
 同記事が伝わると、イランとの合意に批判的な米共和党議員の間で、「オバマ大統領はイラン核問題の解決という成果を焦るあまり、最も重要な査察活動に対してイラン側の要求に譲歩していたのか」といった驚きと、「前例のない検証だ。オワイトハウス関係者は最終文書を読んでいないのではないか」といった皮肉混じりの批判まで飛び出したという。

 それに対し、IAEAの天野之弥事務局長は20日、プレスリリースの中で、包括的共同行動計画とは別にイランと締結したアレンジメントについて、「加盟国とIAEA間で締結されたセーフガード協定はコンフィデンシャルに属するから、答えることはできないが、イランとのアレンジメントは技術的に健全であり、これまでの査察実践とも一致している。セーフガードの基準に対して如何なる譲歩もしていない」と反論している。同事務局長の迅速な返答は、IAEAの間で、「同記事内容がイラン核協議の最終合意の信頼性を損なうのではないか」といった危機感があったことを裏付けている。

 ちなみに、イランの核査察問題を担当してきたハイノネン元IAEA査察局長(現・米大学で教鞭)はAP通信の質問に、「そのようなセーフガードが加盟国との間で締結されたことは過去、なかった」と述べ、事実とすれば異例だと示唆している。

 IAEAが要請して開かれた特別理事会で25日、天野之弥事務局長はイラン核協議の合意に基づくイラン査察関連活動に必要な特別費用として年間約920万ユーロの拠出を加盟国に要請したが、その直後に開かれた記者会見では、AP通信の記事に関連した質問が集中的に飛び出し、天野事務局長が返答に窮するといった場面が見られた。

 なお、イラン側はAP記事についてコメントを出していないが、パルチン軍事施設へのIAEAの査察要求に対し、「軍事施設はセーフガード協定外だ」という立場を繰り返し主張、査察を拒否してきた経緯がある。

 IAEAは12月15日までに査察検証に関する最終報告書を提出する予定だ。その内容如何で対イラン制裁解除の行方が決まるだけに、今回のAP通信記者へのリーク情報にみられたように、イラン核合意の支持派と反対派の間でメディアを巻き込んださまざまな情報戦が舞台裏で展開されるものとみられる。

朴大統領は「謝罪」外交から卒業を

 こんなこと言って申し訳ないが、朴槿恵大統領は相手側によく謝罪を要求する指導者だ。日本に対しては、大統領に就任して以来、任期の半分、2年半余り、過去の歴史問題、特に戦時中の従軍慰安婦や強制労働に対して日本に執拗に謝罪を要求してきた。その大統領は24日、大統領府での会議で、韓国軍兵士2人が負傷した地雷問題や今月20日の北側の砲撃事件について、「北側が謝罪しない限り、わが国は対北政治宣伝放送を止める考えはない」と主張し、強硬姿勢を示した。

 幸い、板門店で開催されてきた南北高官会議は25日未明(現地時間)、北側が地雷問題について異例の「遺憾表明」(謝罪表明とは違う)したことを受け、韓国側も北が要求してきた対北宣伝放送の中止を受け入れ、南北間の軍事衝突といった悪夢は一応回避できた。その意味で、今回は朴大統領の不動の謝罪要求が功を奏したようにみえる。韓国メディアでは「大統領の原則外交の勝利」と評価する声が聞かれる。

 しかし、実際のところは、北側は同大統領の頑固な「謝罪要求」を巧みに利用し、謝罪要求を土壇場まで拒否し、韓国側の打つ手がなくなったのを見計らって、謝罪要求への代価を釣り上げ、それが受け入れられるとあっさりと遺憾を表明した、というのが真相ではないか。

 韓国メディアの報道によると、北側が今回勝ち取ったことは、第一に対北宣伝放送の中止だが、南北間の離散家庭再会事業、金剛山観光事業の再開を含む民間交流の活性化で韓国側と合意できたことだろう。一方、韓国側は北側から念願の遺憾表明を受け取ったことが最大の成果だ。もちろん、離散家庭の再会への合意は南側にとっても朗報だ。
 そこで南北高官会合の損得勘定をみると、国際社会から孤立している北側は外貨獲得のために韓国を交渉テーブルに引き戻すことに成功し、対外的には準戦争宣言を表明し、緊迫化させてきた南北間の軍事衝突を回避する譲歩を見せ、中国側の紛争回避要請を受け入れたことにもなり、北京側への関係改善へのシグナルともなる。その意味で、北側は韓国より多くの成果を得たといえるだろう。

 もちろん、北側の異例な遺憾表明について、韓国国防省側が高官会議が開催されている時、記者会見を招集し、「韓米は現在の韓半島危機状況を持続的に注目し米軍の戦略資産(先端戦略兵器)の韓半島投入時点を弾力的に検討している」(中央日報日本語電子版)と表明し、事態の進展如何では米軍が関与する可能性を強調したことが北側の考えを変えたという説も聞かれる。中央日報日本語電子版25日は、「核ミサイル32発搭載のB−52の投入への北側のトラウマ」といったタイトルで、北側の米軍先端武器への恐れが今回の北側の激変をもたらした」と言った解説記事を掲載している。しかし、紛争がエスカレートすれば、米軍が出てくることは北側も事前に計算できることだ。「北のB−52へのトラウム説」は少々深読みではないか。

 先述した朴大統領の謝罪要求外交について、当方の考えをまとめたい。朴大統領の日本への謝罪要求と今回の北側へのそれとは相手もその内容も異なっているから、両者をごちゃごちゃにして論じることはできない。それは分かっているが、何か事が生じれば直ぐに相手に謝罪を求める朴大統領の政治姿勢で問題の解決は可能だろうか、といった思いを持ち続けてきた。

 謝罪を要求する前提は、自分は正しく、相手は間違いだという認識がある。だから、執拗に要求する。日本に対しては、我が国は犠牲国だという認識だ。北朝鮮に対しては、南北間の今回の衝突は北が始めた、という確信があったからだ。
 今回は成功した感じだが、板門店の南北高官会議で韓国側が朴大統領の指示に沿って北側に謝罪を求め続けた場合、まとまる話し合いも壊れてしまう危険性があった。交渉担当の韓国高官が取れる外交手段は非常に狭まれていた。それを“救った”のが北側の異例の遺憾表明だったのだ。

 韓国も北も互いに譲歩をしなければ、会合は徹夜を繰り返したとしても、解決できないことを熟知していたはずだ。同時に、南北両国は戦争を回避し、和解を願っているからこそ、協議を続けたわけだ。その点で南北間は緊迫していたが、その立場は最初から似ていたのだ。

 紛争の原因を明確にし、責任側に謝罪を要求することは大切だが、それ以上に、相手側の狙いを探り、その狙いに振り回されることなく、冷静に話し合うことだろう。今回の南北高官会議が北の提案で始まったという事実は、北が紛争の拡大を願っていないことを示唆していたのだ。

 一国の指導者となれば、相手が悪いと分かっていても謝罪を要求せず、相手の意図を見抜き、妥協を模索する冷静さが大切だ。相手が悪いから批判し、謝罪を求める、といった対応では腕白坊主の喧嘩レベルを超えない。
 今回は北側の遺憾表明で救われたが、謝罪要求一辺倒の外交は逆に相手に利用され、次の一手を読まれてしまう危険性がある。今回の北側の遺憾表明はその好例ではなかったか。任期後半に入る。朴大統領は謝罪要求外交からそろそろ卒業すべきだろう。

米大統領候補者トランプ氏の「正論」

 韓国日刊紙「中央日報」日本語電子版(24日付)は米共和党大統領候補者ドナルド・トランプ氏の発言を大きく報じていた。その記事には、「金正恩は頭がおかしいか、そうでなければ天才だ」という日本語タイトルが付いている。同発言は、同氏が21日、アラバマ州のバーミンガムのラジオ放送との番組の中で答えたものだ。

 当方がその記事に惹かれたのは少々刺激的ななタイトルのせいもあるが、米大富豪の大統領候補者が朝鮮半島の現状をどのように見ているかを知りたいと思ったからだ。

 同氏は新しいことは何も言及していないが、一点、日本にとっても重要と思われる発言をしている。先ず、その部分を紹介する。

 「トランプ氏は韓国を防御することから米国が得るものはないという『安保無賃乗車論』を繰り返した。『なぜわれわれが皆を防御するのか。彼らは金持ち国家だ。正しい指導者がいるならば彼らはわれわれに巨額の資金を出すだろうし、そうすれば皆が幸せになる。だが、今、現実はとても悲しい状況だ』」

 トランプ氏は豊かな国・韓国が自国の安保を米軍に頼っている現状を「悲しい状況だ」と指摘し、「韓国がその気になれば自力で国家を守れる国力を有しているはずだ」と述べ、韓国の「安保ただ乗り論」を批判しているのだ。この発言を読んだとき、「日本にも当てはまることだ」と思わされた次第だ。

 日本で目下、集団的自衛権のための安全保障関連法案が議論されている。野党側は「日本は70年間、平和だった。それは憲法9条があったからだ。にもかかわらず、安倍政権は憲法9条に反する集団的自衛権のための安保関連法案を施行しようとしている」と反対し、「国民を戦争に駆り立てている」と騒いでいる。

 確かに、日本は70年間、戦争に直接巻き込まれることなく、その国力をもっぱら経済発展に投入できた。しかし、次の70年間も同じように日本国民が平和を享受できる保証はどこにもない。朝鮮半島の現状をみれば分かる。中国はアジアの覇権を狙い着々とその軍事力を増強している。そこで安倍政権は集団的自衛権のための安保関連法案を施行し、国の平和を守る積極的平和主義を展開させようとしているわけだ。

 トランプ氏は日本の安保政策について何も言及していないが、同氏の口から「お金持ちの国・日本はその安全を米国に依存し、自国は何もしない」といった「日本の安保ただ乗り論」が飛び出したとしても不思議ではない。

 米共和党は伝統的に保護主義者の集まりだ。共和党候補者が次期大統領に選出された場合、安保分野では日本の負担を更に求めてくるのは目に見えている。そのような時、日本が安保関連法案すら施行出来ない場合、米国の日本への失望は深刻だろう。米国が日本を見限り、中国とアジアの安保を仕切る方向に変わることだって十分あり得ることだ。米国は国益を重視する国だ。自国の利益に一致しないと分かれば、日本を切り捨てることさえ躊躇しないだろう。

 トランプ氏が大統領選レースで勝利する可能性は現時点では少ないが、誰が次期大統領に選出されたとしても、米国から日本への安保負担要求が強まることは避けられないだろう。その意味から、暴言や奇抜な言動が目立つトランプ氏だが、今回の発言は韓国だけではなく、日本の国民に対しても重要な内容を提示している、と受け取るべきだろう。

 日本がアジア諸国と連携しながら平和で共栄・発展できるアジア圏を構築していくためには、日本もその国力にあった負担を担わなければならない。集団的自衛権のための安保関連法案について、「日本を戦争に駆り立てる」とか「徴兵制の復活」といった類の反対論は、自国の安全に対する無責任なプロパガンダに過ぎない。

朴大統領の「歴史事実への不誠実さ」

 韓国日刊紙ハンギョレ新聞が今月18日、「朴槿恵大統領は今年7月の非公式会合で、『来年にも南北は統一されるかもしれないから、準備するように』と発言していた」と報じ、話題を呼んだ。政治家の発言を理解するためには通常、発言した時、政情などを踏まえたうえで、その真意を探らなければならないが、朴大統領の発言は少々、雲をつかむような話だ。

 もちろん、「南北再統一は来年にも実現するかもしれない」という朴大統領の発言内容を「非現実的」として完全には排除できないが、大統領の発言は政治家のそれというより、“巫女のお告げ”のようだと言われても仕方がないだろう。朴大統領の名誉のために説明を試みるとすれば、同大統領の発言は、北朝鮮で金正恩第1書記時代に入り、党・軍幹部70人余りが粛清され、亡命したという事実を踏まえ、「北の崩壊が予想以上に早いかもしれない」といった漠然とした認識から飛び出しただけだろう。

 その朝鮮半島で再び南北間の軍事衝突の危険が高まっている。南北高官会議が22日、板門店で開かれ、正面武力衝突といったシナリオを回避する動きが見えだしたが、危険性は依然排除できないのが朝鮮半島の現状だろう。

 その直前、「朴大統領は、来月3日北京で開催される抗日戦勝利70周年式典に参加する」というニュースが流れた。親中、反日政策を主導してきた朴大統領にとって、抗日戦勝利70周年式典は中国との友好関係を深めるうえでいい機会かもしれないが、中国は韓国の歴史では常に侵略国家であり、多くの国民を苦しめてきた国家である、という歴史的事実を忘れてはならないだろう。ズバリ、朝鮮動乱(1950年6月25日〜53年7月27日)を想起すべきだ。中国人民解放軍が参戦し、多くの韓国国民が犠牲となり、南北が分断された。中国には南北分断の責任があるのだ。

 その中国が主催する抗日戦勝利式典に韓国大統領が出席するという。歴史を全く知らない人間ならばいざ知らず、韓国大統領が中国の抗日戦勝利式典に出席するということは、韓国の威信を傷つける反国家行為といっても過言ではない。ちなみに、韓国は抗日戦の勝利国ではなく、日本軍と一緒に戦い、敗北した立場だ。ここにも歴史的事実に対して不誠実さがある。

 当方は駐オーストリアの北朝鮮外交官と朝鮮動乱問題で議論したことがある。北外交官は、「動乱は韓国側が始めた戦争だ」と主張して最後まで譲らなかった。当方が懸命に歴史家の証言を伝えたが、「お前は何を言うか」という一言で一蹴された。同外交官は平壌でそのように教えられてきたのだ。
 しかし、朴大統領は北外交官ではない。中国が朝鮮半島で演じてきた役割について、真剣に振り返る必要があるだろう。繰り返すが、中国人民軍が多数の韓国兵士、国民を殺害したのだ。(「北朝鮮書記官と『あの日』」2008年2月27日参考)

 朴大統領は大統領就任後、日本に対しては「正しい歴史認識」をキャッチフレーズに、従軍慰安婦問題や強制労働の問題を取り上げ、日本を批判。外遊先では「告口外交」をし、日本を中傷誹謗してきた。そして貴重な大統領の任期5年間の半分を浪費してしまった。

 朴大統領には先ず、朝鮮動乱に関する歴史書を再読することを勧める。そして動乱で犠牲となった多くの国民の前で中国の抗日戦勝利70周年式典参加を決定した経過を説明すべきだろう。残念ながら、朴大統領の発言には歴史的認識の欠如が目立つのだ。
 朴大統領は、「南北統一が来年にも実現できるかもしれない」と発言する一方、その南北分断の責任国の中国の抗日戦勝利式典に参加するのだ。その言動は「正しい歴史認識」からはほど遠い。

南北テコンドーの再統一成るか

 ブルガリアの第2都市プロヴディフ市(Plovdiv)で24日から国際テコンドー連盟(ITF)主催の第19回世界選手権が開催されるが、開催中に総会が開かれ、次期総裁を選出する予定だ。

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▲南北テコンドーの再統一に意欲を示す北朝鮮の張雄ITF総裁(2003年6月、ウィーンITF本部にて撮影)

 次期総裁の有力候補は現総裁の北朝鮮の張雄氏だ。同氏は北朝鮮の国際オリンピック委員会(IOC)メンバーだ。北では珍しい国際派だ。同氏は総会で選出された総裁ではなく、テコンドーの創設者で前総裁、崔泓熙に指名された人物だ。それだけに、張氏の総裁選出にはこれまでさまざまな声が聞かれた。ズバリ、選挙の洗礼を受けていない総裁に対し批判的な声だ。そこで今回、総会で選出され、総裁として晴れて公認されたいという願いが張氏にあるといわれる。


 次期総裁選について説明する前に、ITFの歴史を少し紹介する。テコンドー組織は、韓国主導の世界テコンドー連盟(WTF)と北朝鮮が管理するITFの2つに分かれているが、ITFは更に3分裂している。
 テコンドー連盟は1966年、崔泓熙氏が創設したが、同氏が2002年に死去すると、同総裁の息子・重華氏を中心としたITF、ITF副総裁だったトラン・トリュ・クァン氏が旗揚げしたITF、そして張雄総裁を中心としたITFの3グループに分裂した。それぞれが「わがテコンドーこそ崔泓熙氏が創設したITFだ」と主張し、本家争いをしてきた。

 崔泓熙氏の息子の重華氏はカナダに拠点を置く一方、クァン氏は同じようにカナダに定住しながらも、ウィーンに事務局を構えている。それに対し、張総裁はウィーンのITF本部をそのまま使用している。
 張雄総裁側は、「崔泓熙氏から正式にITF総裁に任命された」と強調、正統を強調すれば、崔泓熙氏を父親とする重華氏は、「私こそ総裁の直接の後継者だ」と述べ、血統を主張。一方、クァン氏はウィーンのITF本部に所属していたが、重華氏がITF本部から独立宣言するとその直後、同じように独自のITFを宣言した、といった具合だ。
 ITFの3派はそれぞれ会員数の拡大に腐心してきたが、支持国、会員数では韓国のWTFがITFのそれを大きく上回っているのが現状だ。

 興味深い点は、南北に分かれてきたITFとWTFが急接近してきていることだ。ITFの張総裁はWTFとの共同、連携に強い関心を示し、WTFの趙正源総裁と積極的に会談している。両者は昨年8月、中国・北京で相互連帯と支援などを明記したメモランダムを作成しているほどだ。
 オリンピックではWTFテコンドーが公式に承認され、ITFテコンドーはオリンピック競技に参加できない。そこでWTFと連携を図り、競技参加の道を開きたい、というのがITF側の本音かもしれない。

 次期総裁選に戻る。大方の予想では先述したようにWTFとの連携に実績のある張氏が最有力だが、欧州テコンドー関係者によると、「金正恩氏は世代の若返りに乗り出していることから、ひょっとしたら若い候補者を擁立するかもしれない」という。張氏にとってマイナスは同氏自身がテコンドー選手としてのスポーツ歴はなく、元バスケットボール選手だったことだ。ちなみに、WTF関係者は、「南北のテコンドーの再統一の上で張氏の再選が望ましい」と考えている。

「宗教的狂気」と考古学者の学者魂

 シリアから悲しいニュースが続く。内戦勃発から4年が過ぎたが、シリアは主権国家の様相をもはや維持していない。今風にいえば、シリアは地図上から消滅してしまったようだ。アサド政権は国土の半分も管理できず、反体制派武装勢力、そしてイスラム教スンニ派過派テロ組織「イスラム国」(IS)らが国土を分割支配している。過去の内戦で約25万人のシリア人が犠牲となり、400万人が難民となったという。

 ISの侵攻に脅威を感じたシリアの少数宗派キリスト信者たちは次々と国外に逃避し、同国ではキリスト信者がもはやいなくなったといわれているが、21日、同国 Karjatain にあった西暦4世紀ごろ建立された修道院 Mar Elian がイスラム国の武装勢力にブルドーザーで破壊されたというニュースが飛び込んできた。 
 シリアの砂漠に立つ同修道院はこれまで多くの紛争や戦闘を目撃してきたが、生き伸びてきた。しかし、ISが今月初め、Karjatain に侵攻すると2週間も経たずに、完全に破壊されてしまった。ISは修道院破壊の理由を、「同修道院には3世紀のキリスト教の殉教者聖人エリアンが祭られている。これは神の神性を蹂躙するものだ」と説明している。要するに、「偶像崇拝」というのだ。

 ちなみに、同修道院はシリアのカトリック教徒にとって重要な巡礼地で、毎年9月3日に記念行事が開催され、数千人の信者たちが訪ねてきた。内戦勃発後は、5000人余りのイスラム教徒が同修道院内に避難してきた。同修道院の聖職者たちはいずれも行方不明となったという。

 数日前、シリアのパルミラ( Palmyra )の遺跡管理元総責任者であった考古学者ハリド・アサド氏( Khaled Asaad、82)がISに公開斬首されたという悲報が届いたばかりだ。ハリド・アサド氏は世界遺産パルミラを50年余り管理してきた人物だ。ISが5月、パルミラに侵攻する直前、同氏は息子たちと重要遺産の一部をトラックで運び、移動させ、ISの破壊から防いだが、自身はISに拘束された。
 英紙ガ―ディアンなどによると、ISは、パルミラに貴金属が保管されているとして、アサド氏にその保管先を白状するように脅迫したが、同氏は「貴金属などない」という一方、考古学上貴重な遺産が破壊されないため沈黙を続けたという。

 同ニュースを読んで、蛮行を繰り返すISに怒りを感じる一方、ISの脅迫にもかかわらず、考古学者として世界遺産パルミラを守るために命を懸けた考古学者ハリド・アサド氏の“学者魂”に強く感動した。

 ISはシリアだけではなく、イラク内の占領地でも世界的遺産を次々と破壊している。ISは2月、イラク北部のモスル博物館に収蔵されていた彫像を粉々に破壊し、古代ローマの主要都市ハトラでも破壊を繰り返してきた。独週刊誌シュピーゲル電子版は21日、ISの蛮行を「宗教的狂気」( Religioeser Wahn )と評している。
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