ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2017年01月

しばし休載します

 読者の皆さん、ご愛読ありがとうございます。
 当方、インフルエンザに罹り、臥せっております。回復し次第、復帰しますので、しばしお待ちください。
 日本でもインフルエンザが流行している由、ご自愛ください。

北の黒鉛減速炉の再稼働は演出?

 北朝鮮の核関連施設がある寧辺の5000kwの黒鉛減速炉が再稼働した兆候が見られるという。この情報は北の核関連施設の動向を監視している米ジョンズ・ホプキンス大学の北朝鮮研究グループ「38ノース」(韓米研究所)が27日、公表したもの。

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▲風になびく北の国旗(2013年4月11日、ウィーンの北朝鮮大使館で撮影)

 西側では既に廃炉されても不思議でない黒鉛減速炉の冷却水が放出される川の水が溶け出しているのが人工衛星の写真分析の結果、判明したというのだ。その上、原子炉周辺で車両の動きが昨年からキャッチされていたという。その結果、黒鉛減速炉の再稼働、プルトニウム生産の可能性というニュースとなって、世界に報道されたわけだ。

 当方はこの記事を読んで3年前にほぼ同じニュースが発信されたこを思い出した。
 寧辺の5kw黒鉛減速炉周辺の上空から放射性希ガスが検出されたという。韓国の韓国日報が韓国政府関係者の話として報じたものだ。もし事実とすれば、減速炉は再稼動した可能性が高い。北朝鮮原子力総局報道官はそれに先立ち、「6カ国合意に基づいて無力化されていた黒鉛減速炉を再稼働させる」と宣言していた。しかし、ウィーンに本部を置く包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)は、「北朝鮮の核関連施設から放出される放射性希ガスを探知できるのは、ロシア、モンゴル、そして日本の高崎観測所の3カ所だが、キセノンを検出したという報告を受けていない」というものだった。

 興味深い点は、この時もジョンズ・ホプキンス大の韓米研究所が「衛星写真を分析したところ、蒸気タービンと発電機が設置された原子炉横の建物から白い蒸気が発生しているのを確認した。これは原子炉の稼働あるいは近く稼働を再開することを意味する」(中央日報日本語電子版)と説明し、黒鉛減速炉の再稼働説を後押ししたのだ。

 ここで北の核関連施設が集中する平安北道寧辺(平壌北部約80km)を簡単に紹介する。寧辺市内から約6km郊外に走ったところで左に曲がると、直ぐにゲストハウスに着く。国際原子力機関(IAEA)査察官が宿泊する場所で、2階建てのハウスの収容能力は10人だ。
 ゲストハウスから主要道路に戻り、核関連施設が集中する核エリアに入ると、左側にロシア型研究炉、右手には5MW黒鉛型減速炉が見える。それに隣接していた冷却塔は2008年6月に破壊された。その近辺に軽水炉建設敷地がある。九龍江を超えると核燃料製造工場にぶつかる。同工場を通過すると、いよいよ北のウラン濃縮関連施設に到着する。同施設は長さ約130m、幅約25m、高さ約12mの細長い施設だ。北のウラン濃縮施設は40余りある核関連施設の一つで、「4号ビル」と呼ばれている。

 当方が黒鉛減速炉再稼働説に否定的な理由は3点ある。
 )未魯Ε薀麈蚕夢慙活動を開始しているから、プルトニウムの生産目的で減速炉を再開する必要はない、
 減速炉を再稼働させるためには核燃料棒を生産しなければならないが、そのような情報は聞かない。
 IAEA査察官の証言によると、黒鉛減速炉は古く、一部錆びている。再稼動させたとしても大きな成果は期待できない。

 だから、2013年の黒鉛減速炉再稼働説の時は、「プルトニウム生産が狙いではなく、中国を中心とした6カ国協議の再開交渉を有利にするための政治カードに過ぎない」と、黒鉛減速炉の再稼働が偽装工作の可能性があると受け取ってきた。

 
 今回の黒鉛減速炉再稼働説はどうか。トランプ新米大統領の就任と関連するのだ。金正恩氏は博物館入りしてもおかしくない黒鉛減速炉の再稼働を演出し、北がウラン、プルトニウムの両面で核兵器を製造していることをデモンストレーションし、トランプ新大統領に北側の核開発への決意を誇示する狙いがある、と考えている。

メルケル首相の4選阻止は可能か

 ドイツで9月24日、連邦議会選挙が実施される。メルケル独首相は与党第1党「キリスト教民主同盟」(CDU)の筆頭候補者として4選を目指す一方、連立政権パートナーの社会民主党(SPD)はガブリエル党首(副首相兼経済・エネルギー相)が今月5日、「首相候補者として戦う」と表明し、党内の結束を固めるなど選挙モードだったが、24日に急きょ、党筆頭候補者のポストを断念し、欧州議会議長を5年間務めた後、ドイツ政界に復帰したマルティン・シュルツ氏(61)を党筆頭候補者としてメルケル首相の4選阻止を狙うことを明らかにしたばかりだ。

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▲独週刊誌シュピーゲル最新号の表紙を飾るシュルツ氏

 なお、シュルツ議長は昨年11月24日、議長の任期が終わる今年1月末、今秋に実施されるドイツの総選挙に社会民主党(SPD)のノルトライン=ヴェストファーレン州から出馬する意向を表明していたが、メルケル首相の対抗候補者に担ぎ出されたわけだ。

 メルケル首相(62)は2015年の難民殺到とその後の国内のイスラム過激派テロ事件によって国民の批判にされされる一方、難民歓迎政策に批判的な友邦政党、バイエルン州の「キリスト教社会同盟」(CSU)との関係が悪化し、一時は4選へ赤信号が灯ったが、ここにきて支持率を回復させてきている。メルケル首相は11年間連邦首相を務める一方、与党CDUの党首を16年間務めてきた。

 一方、シュルツ氏は20年間余り欧州議会議員、そして議長を務めるなど、その大部分の政治活動をブリュッセルで過ごしてきた。5カ国語に堪能でブリュッセルでは“ミスター・ヨーロッパ”と呼ばれてきた。ベルリンの独政界から久しく遠ざかっていたが、連立政権の諸問題の悪影響を直接受けることがなかっただけに、社民党の党刷新のイメージにマッチする利点がある。

 ドイツ公営放送ARDの世論調査によれば、CDUの支持率は目下約35%で断トツ。一方、SPDは約23%でCDUとの差は3ポイント縮まったが、依然12ポイントの差がある。

 ガブリエル党首が突然党筆頭候補者のポストを断念した背景には、同副首相が党筆頭候補ではメルケル首相を破ることはできないことが世論調査で明らかになったことがある。シュルツ氏が党筆頭候補者になれば、メルケル首相との戦いで善戦が期待できるという調査結果が出ていたことだ。
 なお、ガブリエル氏は27日、党筆頭候補のポストだけではなく、党首の座もシュルツ氏に譲る一方、フランク・ヴァルター・シュタインマイヤー外相が今年2月の連邦大統領選に出馬するため空白となった外相ポストに正式に就任した。

 「世界で最も影響力のある女性」の常連、メルケル首相とミスター・ヨーロッパのシュルツ氏との戦いはドイツの総選挙を俄然、面白くしたことは間違いない。メルケル首相にとって、難民政策の修正をアピールし、国民に理解を求める一方、マンネリ化を回避するために新鮮なイメージを醸しだす作戦に出てくるだろう。一方、シュルツ氏はドイツ不在の空白期間を早く補い、国民、有権者の懸念、関心事がどこにあるかを肌で理解した上で、その持ち味でもあるバイタリティーを発揮したいところだ。SPDの緊急課題は、労働者党という看板を下した後の党の新しいアイデンティティの確立だろう。

 総選挙では、CDUとSPDの他、同盟90/緑の党、左翼党、自由民主党、右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)などが候補者を出す。特に、新党のAfDが外国人排斥を標榜し、選挙戦で台風の目となることが予想される。今年5月中旬に実施されるノルトライン=ヴェストファーレン州選挙は秋の総選挙の行方を占う恰好の機会となるものと受け取られている。

人類は「終末」に一歩近づいたのか

 核戦争などで人類が滅亡するまでの残り時間を示す「終末時計」の針が2年ぶりに“30秒”進んだというニュースが流れてきた。米科学誌「ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ(ブレティン誌)」が26日に発表した。残り時間が最も少なかったのは冷戦時代の1953年で、当時は2分前だった。今回はそれについで終末に近づいてきたというわけだ。

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▲米科学誌「ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ(ブレティン誌)」の終末時計

 同誌によると、その理由は、環境問題に消極的で、核保有に対しては好意的なトランプ米大統領の登場だ。新米大統領は世界の指導者を混乱させるだけではなく、人類の終末をも脅かしているというわけだ。

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▲核爆発(CTBTOの公式サイトから)

 実際、実業家出身のトランプ大統領はロシアのプーチン大統領に対し、核兵器の縮小に応じるならば、対ロシアの制裁を解除すると発言したことがあるが、核兵器を商談物件と同じように扱う傾向が見られる。そのディ―ルがうまくいかなかった場合、問題が生じる危険性が出てくるわけだ。メキシコ国境沿いの壁建設でも誰がその費用を負担するかでメキシコと既に対立している有様だ。

 イランの核問題が深刻な時、終末時計は2012年には1分進んだが、国連安保常任理事国(米英仏露中)にドイツを加えた6カ国とイランとの間で続けられてきたイラン核協議が2015年7月14日、最終文書の「包括的共同行動計画」で合意し、2002年以来13年間に及ぶ核協議はイランの核計画の全容解明に向けて大きく前進した。そのイランの核合意に対して、トランプ大統領は既に何度か見直しを表明している。


 ウィーンには包括的核実験禁止条約(CTBT)機関の準備委員会暫定技術事務局がある。条約署名開始(1996年9月)から既に今年9月で21年目を迎えるが、条約はまだ発効していない。CTBTは今年1月現在、署名国183カ国、批准国166カ国だが、条約発効に批准が不可欠な核開発能力保有国44カ国中8カ国が批准を終えていないからだ。中国、イスラエル、イラン、エジプトらの国と共に米国も署名済みだが、未批准だ(インド、パキスタン、北朝鮮の3国は署名も批准もしていない)。

 「核なき世界」を訴え、ノーベル平和賞を受賞したオバマ前米大統領はCTBTを批准し、世界の模範となりたいという野心があったが、上院で共和党の反対を受けて批准を完了できなかった。トランプ政権下では上下院とも共和党が主導権を握っている。米国がCTBTに早期批准する可能性は限りなく遠ざかったと受け取られ出している。

 ジョージ・W・ブッシュ政権で国務長官を務めたコリン・パウエル氏は、「核兵器はもはや使用できない大量破壊兵器となった」と述べ、核兵器の保有、製造に疑問を呈したことがあったが、「使用できる核兵器」の開発が米国や一部の大国で密かに進められていることは周知の事実だ。

 最近では、北朝鮮は昨年2回、核実験を実施し、核保有国入りを模索する一方、核兵器の小型化、核搭載弾道ミサイル、潜水艦発射ミサイルの開発を急いでいる。北朝鮮だけではない。英海軍は昨年6月、フロリダの沖合で潜水艦発射型弾道ミサイル(トライデント)の実験を実施し、仏海軍は2013年、原子力潜水艦からM51型大陸間弾道ミサイルを北大西洋に向け発射している(両実験とも失敗)。実験の目的は核の小型化、戦略化だ。ちなみに、仏海軍が保有するル・トリオンファン級原子力潜水艦は計16基のM51型ミサイルを搭載できる。M51型ミサイルはフランスの核戦略の中核を担っている、といった具合だ。

 人類が終末に一歩近づいたとしても、トランプ新大統領一人の責任ではない。核保有国の特権を放棄しない米国を含む核大国の指導者たちや新規保有国入りの野心を捨てない独裁者たちだ。トランプ新大統領の登場はその核レースに拍車をかける危険性が排除できないだけだ。

“シュワちゃん”がバチカン大使に?

 トランプ米大統領が就任する前まではその一挙手一投足に一喜一憂し、就任後は新大統領との会談設定にあたふたする日韓両国の政治家たちの姿を見る度に、トランプ氏は本当に人騒がせな大統領だといわざるを得ない。

 安倍晋三首相はトランプ氏が大統領に当選した直後、ニューヨークのトランプ・タワーで非公式の首脳会談をしているから少しは余裕があるが、トランプ氏が今月20日、正式に第45代米大統領に就任した以上、今度は正式な首脳会談をぜひとも実現させたいという東京の意向を受け、駐ワシントンの日本大使館関係者は昼夜を問わず、奔走中だろう。日米間は貿易・経済問題から中国の軍事脅威など安保問題を抱えており、日米首脳会談への安倍首相の熱意は当然のことかもしれない。ぜひとも、新大統領との間で意思疎通をしたいという首相の願いはシリアスだ。

 一方、隣国の韓国は日本よりかなり遅れを取っている。朴大統領の弾劾問題など国内で問題を抱え、権限を有する大統領が不在という状況でトランプ新政権との交流は一層大変だ。
 もちろん、韓国側は無策ではない。柳一鎬経済副総理をニューヨークに派遣したが、トランプ陣営から「会見は難しい」と断られたという。韓国・中央日報によると、「世界10位経済大国、同盟国の副首相がこういう『無接待』を受けて帰ってこなくてはならなかったのか、残念だ」といった声が聞かれるという。

 日韓両国にとって幸いな点は、マティス新国防長官が来月上旬にも日本と韓国を訪問することだ。トランプ新政権とのパイプ構築のチャンスだ。

 目を欧州に向けると、まったく別世界だ。英国のメイ首相が27日、ワシントンでトランプ新大統領と初の首脳会談を実施する。米英両国の伝統的な関係から見ても自然だが、他の欧州諸国の政治家がトランプ氏との会談実現に腐心しているとは聞かない。例えば、アルプスの小国オーストリアのケルン首相がトランプ米大統領との首脳会談実現のために奮闘中とは聞いたことがない。トランプ新政権に対して、欧州諸国が無関心だということではない。事実は逆だ。欧州の主要メディアは連日、トランプ新政権の今後の動向について大きく紙面を割いて報じている。

 日韓両国が米新政権の動向に異常なほどの神経を使う背景には、米国経済への依存度が大きいうえ、北朝鮮、中国といった国に対峙し、地域の安全問題があるからだろう。しかし、厳密にいえば、欧州も同様だ。ウクライナ問題、シリア問題などを抱え、米国との連携が不可欠だが、その深刻度で日韓両国の指導者たちと相違があるのだろうか。

 トランプ新大統領との首脳会談のほか、米大使として誰が派遣されて来るかが欧州でも話題だ。トランプ政権は既に国連大使にニッキー・ヘイリー・サウスカロライナ州知事を任命済みだ。駐日米大使は既に名前(ウィリアム・ハガーティ氏)が挙がっているが、隣国・韓国ではマーク・リッパート駐韓米大使は帰国済みで、その後任の名前すら挙がっていないというから、ソウル側は焦っている。

 参考までだが、世界に12億人以上の信者を有するローマ・カトリック教会総本山、バチカン市国駐在のケン・ハケット米大使の後任に日本で「シュワちゃん」の愛称で人気のある米俳優アーノルド・シュワルツェネッガ―氏(69)の名前が挙がっているという。同氏は25日、バチカンを訪問し、フランシスコ法王を謁見したばかりだ。元カルフォルニア州知事を8年間(2003〜2011年)務めた“ターミネーター”が駐バチカン米大使となれば、いろいろと話題を呼ぶだろうが、大統領選ではトランプ氏を批判したこともあって、その実現度は不明だ。シュワちゃんは一応、カトリック信者だ。




【短信】
オーストリアで「緑の党」出身初の大統領の就任式

 ウィーンのオーストリア国民議会で26日午前、アレキサンダー・バン・デア・ベレン新大統領(72)の就任式が挙行された。前「緑の党」党首出身の大統領就任は欧州連合(EU)では初めて。任期は6年間。

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▲就任式で演説するバン・デア・ベレン新大統領(2017年1月26日、オーストリア放送の中継から)

 大統領選は昨年4月、第1回投票が実施され、6月にバン・デア・ベレン氏と野党1党の極右政党「自由党」のノルベルト・ホーファー氏(45)との2候補者の間で決選投票が実施されたが、不正投票などが発覚し、連邦憲法裁判所が昨年7月1日、決選投票にやり直しを要請。それを受け、昨年12月4日、決選投票が行われ、バン・デア・ベレン氏が当選した。

根本主義組織「オプス・デイ」の人事

 世界最大のキリスト教宗派、ローマ・カトリック教会にも過激な根本主義組織が存在する。「オプス・デイ」(Opus Dei)だ。ラテン語で「神の業」を意味する。その「オプス・デイ」の指導者人事が23日行われ、スペイン出身のフェルナンド・オカリス司教(Fernando Ocariz) (72)が代表(属人区長)に選出された。バチカン放送によると、ローマ法王フランシスコは既に同人事を公認したという。

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▲「オプス・デイ」の新指導者、フェルナンド・オカリス司教(「オプス・デイ」のHPから)

 フェルナンド・オカリス司教は前任者ハビエル・エチェバリーア・ロドリゲフ氏の死後、暫定的にその職務を代行してきたが、今回、正式に3代目の属人区長に選出されたわけだ。

 新属人区長は1944年、パリ生まれ。スペインのマドリードで成長し、バルセロナで物理学を、ローマで神学を学んだ。新属人区長はバチカン教理省の神学アドバイザーであり、法王庁立聖十字架大学の共同創設者だ。

 「イスラム根本主義」という表現はメディアで頻繁に登場するが、世界に12億人以上の信者を抱えるローマ・カトリック教会内にもイスラム根本主義勢力に負けない「カトリック根本主義グループ」が存在する。その代表的グループが「オプス・デイ」だ。米作家ダン・ブラウンのベストセラー小説「ダ・ヴィンチ・コード」の中で登場して以来、一般の人々にも「オプス・デイ」の名は知られるようになった。

  「オプス・デイ」は1928年、スペイン人聖職者、ホセマリア・エスクリバー・デ・バラゲル(1902〜1975年)によって創設された。ローマ法王、故ヨハネ・パウロ2世が「オプス・デイ」を教会法に基づいて固有の自立性と裁治権を有する「属人区」に指定している。

 「オプス・デイ」の創設者は故ヨハネ・パウロ2世に列福されている。その教えは従属と忠誠を高い美徳とし、肉体や性に対しては過剰なまでに禁欲を重視する。同グループはエリート部隊とみなされ、世界のキリスト教化を最終目標としている。世界に約9万2600人の「兵士」(約1500人の聖職者を含む)がローマ法王のエリート部隊として活躍している。メンバーの98%は平信徒で、聖職者は2%に過ぎない。医者や弁護士など高等教育を受けたメンバーが多い。メンバーの57%は女性。約70%は既婚者で、30%が独身平信者だ。

 ちなみに、カトリック根本主義グループとしては、「オプス・デイ」の他、ガブリエレ・ビターリッヒが創設した「ワーク・オブ・エンジェル」と呼ばれる「天使の業」、マドリードの画家フランチェスコ・アルグェロが神に出会って回心、ギターと聖書をもって宣教を開始した「求道への道」などが存在する。
 個人的な霊体験に基づく教えに一様に警戒心が強いバチカン法王庁は「天使の業」や「求道への道」に対しては批判的だが、「オプス・デイ」に対しは、歴代のローマ法王が加護してきた。その結果、「オプス・デイ」は今日、バチカン内外で大きな影響力を行使してきている。

子供部屋のテロリストたち(続)

 オーストリアのソボトカ内相は23日、「17歳の容疑者はイスラム過激派テロ組織『イスラム国』(IS)を支持し、関係を持っていた」と指摘し、容疑者(Lorenz K)がサラフィストの背景を有していたことを明らかにした(注・前回のコラムでは容疑者の年齢を18歳としましたが、17歳に訂正)。

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▲オーストリア内務省の記者会見風景(2017年1月23日、内務省の公式サイトから)

 一方、ドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州のノイスで21日、ウィーンのテロ計画事件と関連して21歳の容疑者が拘束された。独週刊誌フォーカスによると、独の特殊部隊(SEK)がノイスの容疑者宅を奇襲し、逮捕した。ウィーンの容疑者Kはノイスで爆弾を製造していたというが、SEKが突入した部屋からは爆弾関連物質は見つからなかったという。17歳の容疑者Kは地下鉄、ウィーン西駅か多くの市民が集まる場所で手製爆弾を使った大量テロを計画していたという。

 ウィーンの容疑者Kの共犯者として12歳のマケドニア系の少年が23日、治安当局の尋問を受けたという。そのニュースを聞いた時、12歳という年齢に驚いた。12歳がどのような役割を果たしていたかは不明だが、Kと頻繁に接触していたという。ちなみに、少年は14歳以下ということで拘束できないため、治安関係者の監視下に置かれている。

 10年前の2007年9月、「子供部屋のテロリストたち」というタイトルのコラムを書いたことを思いだした。テロリストの年齢は当時、20歳だった。彼らは「アフガニスタン駐留の同国軍を撤退させよ」と要求し、「応じない場合、テロの対象とする」という脅迫ビデオを流した容疑だ。オーストリアのテロ対策特殊部隊コブラが容疑者の家に突入した時、彼らは子供部屋で休んでいたことから、オーストリアの大衆紙「エステライヒ」は「テロ対策特別部隊、子供部屋に突入」と報じ た(「子供部屋のテロリストたち」2007年9月15日)。

 ドイツやオーストリアで発生したテロ関連事件の容疑者の年齢はそれ以降、年々、若くなっていく。実例を挙げる。

 .疋ぅ墜酩凜丱ぅ┘襯鷭のビュルツブルクで昨年8月18日午後9時ごろ、アフガニスタン出身の17歳の難民申請者の少年(Riaz Khan Ahmadzai)が電車の中で乗客に斧とナイフで襲い掛かり、5人に重軽傷を負わせるという事件が起きた。犯行後、電車から降りて逃げるところを駆け付けた特殊部隊員に射殺された。目撃者によると、少年は犯行時に「神は偉大なり」(アラー・アクバル)と叫んでいた。少年は1年前に難民としてドイツに来た。保護者はいなかった。

 ▲Ε ーンの職業学校卒のオリバー・N(当時16歳)は2014年、イスラム教過激テロ組織「イスラム国」(IS)に入り、シリアでジハードに参戦したが、負傷して15年3月、ウィーンに帰国したところ、反テロ関連法違反で逮捕された。
 
 オーストリアでは2014年、15歳と16歳の2人のイスラム教徒のギムナジウムの少女が突然、シリアに行き、反体制派活動に関わったという情報が流れ、ウィーンの学校関係者ばかりかオーストリア社会に大きなショックを与えた。
 

 オーストリア内務省のコンラード・コグラー公安事務局長は、「若者たちの過激化傾向は年々、早まってきている」と指摘している。それにしても、12歳のテロリストは余りにも若い。テロリストというイメージと合致しない。イスラム過激派思想、サラフィスト、「神の国」(シャリア)建設といったイスラム系テロリストの常套句が12歳の年齢とは一致しにくいのだ。

 インターネット時代で生まれた子供たちは早い段階でITに接し、複雑な器材をこなすようになっていく。だから、彼らは子供部屋でイスラム過激派のサイトを開け、その影響を受けることは十分考えられる。学校の教室ではないから、教師はいない。親も関与できない空間、子供部屋でイスラム系テロの講義を受けることができるわけだ。

 息子や娘がイスラム過激派に走った家族関係者は、「息子、娘がいつイスラム過激派の影響を受けたのか分からない」と嘆く声をよく聞く。
 治安当局は、イスラム系青年たちの過激化防止のため文部省、社会省と連携を深める一方、過激化問題の相談所を設置し、過激な道に行こうとする子供を抱える家族関係者の相談に応じている。

トランプ氏にバチカンも困惑気味

 米国でトランプ大統領が就任したが、新大統領を「われわれの大統領ではない」と主張する抗議デモが米全土で広がっている。米国発のニュースによると、ワシントンだけでも約50万人の女性たちが21日、「女性の権利」を要求してデモを行ったという。昨年11月の米大統領選は米国社会を保守派トとリベラル派に2分したが、ここにきてトランプ氏に対して「女性の権利」を訴える運動の様相も帯びてきた。

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▲親の代からの聖書の上に手を置き宣誓式に臨むトランプ新大統領(2017年1月20日、CNN放送の中継から)

 ところで、トランプ新大統領に対して、世界12億人以上の信者を有するローマ・カトリック教会でもその評価は分かれていることが明らかになってきた。
 南米出身のローマ法王フランシスコは、22日付のスペイン日刊紙「エルパイス」とのインタビューの中で、「米国の新大統領に対する評価は発言ではなく、その行動によって測られるべきだ。米新大統領に対し恐れたり、喜んだりすることは賢明ではない」と述べ、早急な人物評価を一応避けている

 米大統領選前、ソーシャル・メディアで「フランシスコ法王はトランプ氏を支援している」といったフェイクニュースが流れたが、法王自身は今回のインタビューの中で、現在のポピュリスト的な傾向を厳しく批判し、「ヒトラー時代と同じ傾向が見られる。人々はわれわれのアイデンティティとは一致しない救世主を願う。壁を建設してわれわれのアイデンティティを奪う他の民族の侵入から守ろうという。これは非常に良くない」と強調し、暗にトランプ氏の政治信条を批判している。

 米国では反トランプ派の「女性の行進」が広がっているが、ワシントンで開かれた同行進には多数の修道女の姿が目撃されたという。彼らはトランプ新大統領の女性軽視の発言や民族主義的な言動に強い抗議を表明している。

 また、独ケルン大司教区のライナー・ヴェルキ枢機卿は、「米国を再び偉大な国にする」というトランプ氏に対し、「偉大になろうとする者は全ての人々に奉仕すべきだ」と述べている。 また、独ニーダーザクセン州南部ヒルデスハイムのノルベルト・トレレ司教は新大統領の就任演説を聞き、「当惑した」と述べている、といった具合だ。

 カトリック教会は反トランプ派だけではない。人工中絶に強く反対するトランプ氏を全面的に支持する声も少なくない。興味深い点は、反トランプ「女性の行進」に参加した女性の権利擁護者の中には死刑に反対する一方、胎児の命を殺す人工中絶を「女性の権利」として擁護する活動家が少なくないことだ。

 トランプ氏はプロテスタント派の長老派教会に所属している。幼い時から聖書に強い関心があったという。就任式には親の代からの聖書を持参し、その上に手を置いて宣誓式に臨んでいるほどだ。

 蛇足だが、トランプ新大統領は飲酒、たばこ、麻薬には手を出さないという。ただし、トランプ氏の名前がついた「トランプ・ウォッカ」は売りだされたことがある。アルコール類を摂取しない実業家のウォッカ・ビジネスは結局はうまくいかなかったと聞く。

ウィーンでISのテロ計画発覚か

 世界の耳目がワシントンの連邦議会議事堂で20日開催されたドナルド・トランプ新米大統領の就任式に集まっていた時、音楽の都ウィーンで同日午後6時(現地時間)、速報が流れてきた。18歳のアルバニア出身のオーストリア人が地下鉄で爆発テロを実施する計画をしていた容疑で特殊部隊コブラによって逮捕されたというのだ。内務省コンラード・コグラー公安事務局長は「テロ計画は履行される寸前だった」と述べている。

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▲緊急記者会見を招集したソボトカ内相、2017年1月20日(オーストリア内務省公式サイトから)

 緊急記者会見を招集したソボトカ内相は同日夜、テロ情報が「外国情報機関から」と明らかにする一方、容疑者が単独か共犯者がいるか、イスラム過激派テロ組織「イスラム国」(IS)との関連について、「捜査が進行中だ。そのため詳細な情報は公表できない」と説明する一方、「市民が多数集まる場所は可能な限り、回避するように。特に、持ち主がない鞄が見つかったら気を付けるように」と、国民に警告を発している。

 容疑者はウィーン市10区の自宅アパートで逮捕された。同容疑者が所用していた携帯電話やラップトップは押収され、容疑者のコンタクト状況などを解析中という。コンラッド・コグラー公安局事務局長は、「18歳の容疑者が単独でテロを計画していたはずはない」と判断、その背後にはイスラム過激派勢力の暗躍があるとみている。

 ソボトカ内相は、「オーストリアがイスラム過激派テロの脅威から安全だということはない。今回のテロ計画の発覚はそのことを証明している」と述べ、フランス、ベルギー、そしてドイツで発生したイスラム過激派テロ組織がオーストリアでテロを計画したとしても不思議ではないと述べた。
 ウィーン市内は翌日の21日、国際空港内や鉄道構内への監視が強化され、市民が集まる場所では監視する警察官の姿が通常より多く目撃された。

 ちなみに、オーストリア内務省によると、今年8月31日現在、同国からシリアやイラクで聖戦を繰り広げるISに参戦した国民数は280人で、そのうち、221人は男性、59人は女性だった。女性の数は全体の21%を占めている。
 また、戦闘地のシリアやイラクからオーストリアに帰国した国民は87人で、そのうち13人は女性。オーストリアからISに参戦して死亡が確認された数は44人。全て男性だ。

 オーストリア、特にその首都ウィーン市は世界的な観光地であると共に、国連、石油輸出国機構(OPEC)、欧州安全保障協力機構(OSCE)など30を超える国際組織の本部、ないしは事務局がある国際都市だ。
 そのオーストリアで過去3度、大きなテロ事件が発生した。テロリスト、カルロスが率いるパレスチナ解放人民戦線(PFLP)が1975年12月、ウィーンで開催中のOPEC会合を襲撃、2人を殺害、閣僚たちを人質にした。81年8月にはウィーン市シナゴーグ襲撃事件、そして85年にはウィーン空港で無差別銃乱射事件が起きている。それ以降、首都ウイーンを舞台とした大きなテロ事件は生じていない。

 現地のテロ問題専門家は今回のテロ計画について、「イスラム過激派はトランプ米大統領の就任式に合わせ、ウィーンで地下鉄爆発テロを計画していた可能性が考えられる。ここ数日、数週間は警戒を緩めるべきではない」と警告を発している。

“アメリカ・ファースト”は当然だ

 ワシントンの米連邦議会議事堂で20日、第45代米大統領ドナルド・トランプ氏(70)の就任式が行われた。ワシントンは生憎の雨模様だったが、多くの国民が新大統領の就任式をみようと集まった。当方もウィーンの自宅でCNN放送を見ながら就任式をフォローした。就任式のハイライトはもちろん、新大統領の就任演説だが、トランプ新大統領は選挙戦の演説の延長のように単刀直入な表現と言葉で語りかけた。

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▲就任式に臨むトランプ新大統領(2017年1月20日、CNNの中継から)

 トランプ大統領の演説テキストは「小学校の作文レベルの文法だ」と冷笑していたメディアがいたが、分かりやすいという点では新大統領の演説は模範的だ。新大統領の就任演説のエッセンスは、演説の中で2度飛び出した「アメリカ・ファースト」だろう。

 ポピュリズムが席巻している欧州に住んでいると、「〇〇ファースト」という表現は政治家の口から頻繁に飛び出す。もはや、珍しくもなく、新鮮な感動もなくなった。ただメイフラワー号のピルグリム・ファーザーズの建国時の話を聞いている米国の国民にとって、「アメリカ・ファースト」はかなり刺激的な表現ではないだろうか。「アメリカ・ファースト」は自国の利益を最優先するという意味だからだ。

 次世代が生き延びていくために目の前の穀物を食べることなく忍耐したピルグリム・ファーザーズの話は米国の「神の下で一つ」という建国精神の基ともなっているが、トランプ新大統領の「アメリカ・ファースト」はその建国精神に相反するのではないかという一抹の懸念が湧いてくるからだ。

 オーストリアでは「オーストリア・ファースト」は極右政党「自由党」のキャッチフレーズだ。外国人排斥、自国優先の政策は有権者の心をつかみ、「自由党」は選挙の度にその得票率を増やしていった、次期総選挙では「自由党」が第1党に躍進する、という世論調査結果が報じられているほどだ。

 ここでは「〇〇ファースト」の専売特許がトランプ氏ではなく、欧州のポピュリストにあると主張する気持ちはない。「〇〇ファースト」という言葉には国民の心をつかむ魔力があるのというのは国の違いを超えて同じだということだ。

 さて、「アメリカ・ファースト」について考えてみたい。少し、冷静に考えれば、どの国の政治家が「わが国はラースト」と叫ぶだろうか。トランプ新大統領も演説の中で言及していたが、どの国も結局は自国の国益優先の路線を行く。国民の生命と財産の保護者として選出された政治家からは「わが国がファースト」以外に他の選択肢がないからだ。その意味で、トランプ新大統領の「アメリカ・ファースト」は批判を受けたり、逆に評価されるべき内容ではない。余りにも当然過ぎることだ。

 レトリックを駆使した演説を得意としたオバマ前大統領やヒラリー・クリントン氏の演説と比較すると、トランプ氏のそれは余りにも単刀直入で飾りっ気がない。物足りなさを感じる国民もいただろうと推測する。ツイッターを駆使するトランプ氏は140文字以上長いテキストには慣れていないだけだ。

 トランプ新大統領の「アメリカ・ファースト」は華やかな就任式を飾るのには少々デコレーション不足だが、繰り返すが、間違いではない。新大統領が伝えたかった内容は全て盛られていたからだ。問題は、新大統領自身が演説の中で述べていたが、「もはや語るのではなく、アクション」だからだ。

 政治は商談ではない。ディ―ルだけで事が済むわけではない。妥協も和解もそして時には譲歩も必要だ。そのような指摘はトランプ新大統領自身がこれから学んでいかなければならないことであり、就任式を終えたばかりの新大統領に、あれこれ注文をつけても余り意味がないだろう。

 ただし、当方にとって少し寂しい点は、新大統領の哲学、理念が見えないことだ。新大統領が尊敬するロナルド・レーガン大統領のような明確な世界観、人生観がトランプ氏の口からはまだ聞かれないからだ。
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