ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2017年09月

政界で吹き荒れる新しい男らしさ

 女性は女性らしく、男性は男性らしく、と昔はよく言われたものだ。最近は、男性が女性らしく、女性が男性らしくなってきた、という声も聞くが……。欧州で今、“新しい男らしさ”が人気を呼んでいる。テレビの人気者の話ではない。政治家の男らしさだ。

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▲男らしさを誇る自由民主党(FDP)のリントナー党首(ウィクぺディアから)

 独週刊誌シュピーゲル最新号(9月26日号)で非常に興味深いエッセイが掲載されていた。クリスティアネ・ホフマン記者の「新しい男への羨望」だ。少し、その内容を紹介する。

 フランスのエマニュエル・マクロン大統領(39)、カナダのジャステイン・トルドー首相(45)、ドイツ自由民主党(FDP)のクリスティアン・リントナー党首(38)、イタリアの前首相のマッテオ・レンツィ氏(42)、オーストリア国民党のセバスティアン・クルツ外相(31)らの政治家をご存じだろう。彼らに共通している点は何か。その答えが「“新しい男らしさ”」を誇る政治家という点だ。若く、ハンサムで、輝きを放ち、カリスマ的、目標に徹し、何事にも積極的だ。007とJFK(第35代米大統領ジョン・F・ケネディ)を混ぜたような存在だ。彼らはメディアの前での自己演出力に長け、高級スーツを着こなし、党内外でそのプレゼンスを示す。

 彼らはいずれも男性だ。彼らは等しく、刷新を求めている。従来の政治ではなく、自主的に演出できる政治を願っている。たとえ、エスタブリッシュメント(既成支配階級)から反発を受けても中断しない。

 マクロン氏が39歳でフランス大統領に選出された直後、「全く新しい政治家タイプだ」と受け取られた。カナダのトルドー首相を主要国首脳会議(G7)で初めて見たトランプ大統領の娘、イヴァンカ・トランプ補佐官はカナダの政治家の若々しさと知性に魅惑されたという。クルツ外相は27歳でアルプスの小国オーストリアの外相になり、31歳の現在、来月15日の連邦議会選でトップとなって首相に選出される可能性が限りなく濃厚だ。短く髭を生やしたリントナー党首は連邦議会選の飛躍の原動力となった政治家だ。

 彼らは国こそ異なるが、有権者はその“新しい男らしさ”に惹かれて、支持する。すなわち、彼らの生き方は男らしく危機を克服し、ポスト・フェミニズム的であり、繊細でセクシーだというのだ。

 ホフマン記者は従来の男らしさとの区別を忘れてはいない。トランプ大統領は昔の男らしさの体現者であり、野生動物のハンティングなどに腐心し、上半身裸になることが好きなロシアのプーチン大統領は石器時代の男らしさに過ぎず、21世紀の“新しい男らしさ”からは程遠いというのだ。筋肉隆々とした強靭な肉体を誇るマッチョはもはや男らしさの範疇に入らないという。

 ドイツの場合、メルケル首相が12年間、政権を担当して国のかじ取りを担当してきた。メルケル政権は合理的で冷静で無難な統治を展開させ、それはメルケル首相の指導力と信頼性の証明のように受け取られた。その母権支配が久しく続き、男性政治家たちは男らしさを発揮できずに挫折していった。

 女性政治家の時代の到来と受け取られてきたが、メルケル首相の政治スタイルがここにきて限界に直面してきた。ドイツでも“新しい男らしさ”を求める声が出てきたのだ。そこで社会民主党(SPD)の救世主として登場したマルティン・シュルツ党首(61)は有権者に男性的な政治を伝達できるチャンスだったが、同党首は「ドイツの母親」メルケル首相に対抗して「ドイツの父親」を目指したが、指導力を発揮できず、「ドイツの叔父」さんどまりに終わってしまった。

 マッチョ時代は過ぎ、女性時代のあと、政界でも“新しい男らしさ”が求められてきた。彼らは若く、服装やヘアスタイルにもこだわる。女性への配慮は当然である一方、目標を定めれば反対をものともせずに、乗り越えて行く知性と集中力を有する。

 日本では衆議院選挙が実施される。民進党から議席獲得を目指して新党「希望の党」に蔵替えする政治家たちが絶えない。果たして、日本の政界にどれだけ“新しい男らしさ”を有する政治家が出てくるだろうか。ちょっと心配だ。

誰がAfDを飛躍させたか

 今月24日のドイツ連邦議会(下院)選挙後、同国メディアの関心は第1党の地位を堅持したメルケル首相が率いる「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)がどの政党と連立政権を組むかに移ってきたが、同時に、「誰が極右政党『ドイツのための選択肢』(AfD)を躍進させたか」という問いかけに強い関心が集まっている。後者の場合、犯人探しのような響きもするが、ナチス・ドイツの歴史を抱えるドイツだけに、極右政党、民族主義政党の躍進に内心穏やかではおれないからだ。

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▲AfDから離党を表明したフラウケ・ペトリ―氏

 AfDは2013年に結成された新党だ。その政党が連邦議会選で得票率12・6%、94議席を獲得し、CDU/CSU、社会民主党(SPD)に次いで第3党に躍進したのだ。

 先ず、投票結果の分析をみる。CDU/CSU支持者から約104万票、社民党から約50万票がそれぞれAfDに流れたという。2大連立政権への不満票だ。顕著な点は、普段棄権する有権者が今回、大量にAfDに投票したことだ。性別では男性票が多く、労働者や失業者がAfDに票を入れた。旧西独より旧東独で強く、ザクセン州ではCDUを抜いて得票率27%で第1党だった。

 フランク=ヴァルター・シュタインマイヤー大統領はインタビューの中で、「AfDを躍進させた最大の助け手はメディアだった」という。AfD幹部たちの言動を大きく報道し、AfDのメンバーをトークショーに招いて議論させる。AfD幹部が出るトーク番組はいずれも視聴率が高くなるから、AfD幹部たちはテレビの人気者となる。メディアは小さなAfDを大きくした張本人だったというわけだ。

 隣国オーストリアの極右政党「自由党」のヨルク・ハイダー党首時代を見てきた当方は「AfDの飛躍の主因はメディア」という主張はよく理解できる。ハイダー氏が登場する政治イベント、テレビ番組はいずれも高視聴率だった。ハインツ・クリスティアン・シュトラーヒェ党首になってからも同じだ。オーストリア国営放送や民間放送は選挙が近づけば、さまざまな政治トークショーを放映するが、シュトラーヒェ党首は人気者だ。彼が登場すれば番組が面白くなるからだ。ケルン首相(社会民主党)を登場させるより、視聴率も上がる。同党首は国民が考えてきたことをズバリ発言し、政権をこっぴどく批判する。視聴者はその主張に同意するというより、一種のカタルシスを感じる。

 もちろん、難民問題はAfDの躍進の原動力になったことは間違いない。シリア、イラク、アフガニスタンから100万人を超える難民が2015年夏以降、ドイツに殺到した。その難民殺到の大きな原因はメルケル首相の難民歓迎政策だったことは間違いない。CDU/CSU)党内でもメルケル首相の難民政策に批判の声が挙がったほどだ。外国人排斥、反イスラムを標榜してきたAfDはその流れに乗って、メルケル首相の難民政策を厳しく糾弾し、ドイツ・ファーストを主張して国民の支持を得たわけだ。

 ところで、連邦議会選で躍進したAfDで既に党内分裂が起きている。現実路線を主張してきたフラウケ・ペトリ―共同党首は26日、離党を表明した。アレクサンダー・ガウラント副党首ら現党指導部との対立は今年4月のケルン党大会で既に明らかだった。ペトリ―党首が作成した刷新案は党指導部から拒否されたからだ。

 AfDは現実派と急進派との間で分裂している。連邦議会選で躍進したことで、党内は急進派が主導権を握ってきた。ペトリ―党首はAfDから離党し、夫のマルクス・プレッツェル欧州議会議員と共に新たな政党を結成するのではないかと囁かれている。

 AfDとの連携で合意しているシュトラーヒェ党首は、「AfDは結成後、数年しか経過していない。現在の党内のゴタゴタは党が成長する段階で当然起きる現象だ」と冷静に受け止めている。

 なお、ドイツでは来月15日、ニーダーザクセン州議会の選挙が行われる。AfDの動向が注目される。

海外居住韓国人の切ない願い

 知人の韓国外交官と昼食を一緒にする機会があった。テーブルに着くなり話題は南北朝鮮半島の現状になった。
 「君はどう思うかね」
 「朝鮮半島の現状はこれまでにないほど危機感がありますね。武力衝突の危険すら感じます」と正直にいうと、
 「米朝間で軍事衝突はないだろう。紛争が起きれば大変なことになるからね」と答えた。

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▲ソウル世界花火祭り(ソウル観光局公式サイトから)

 多くの国民が住んでいる首都ソウルと北側国境線までは100キロもない。軍事衝突すれば、ソウルが真っ先にやられる。「そうなれば数十万人の国民が犠牲になるからね」という。だから、米朝間の軍事衝突は避けなければならないというのだ。

 当方はその意見には同意したが、米韓軍の奇襲作戦について少し尋ねた。
 「米軍は犠牲者が多く出る地上戦はしないでしょう。圧倒的な力を持つ空軍を総動員して短期間に北側の軍事拠点を破壊する可能性はどうですか」と聞いてみた。

 知人は「君、38度線の北側には数千の砲兵部隊がいつでも韓国に向かって射撃できる体制を敷いている。米空軍が国境線に配置された北側の部隊に攻撃すれば、それらの砲兵部隊は即、山の中に移動することができる。38度線の北側には小高い山があるが、その山の中に地下基地がある。米空軍が空襲を始めれば、一斉に山の中に隠れるから、国境線沿いに控えている北側部隊を短期間で全滅させることは難しい」という。

 海上から巡航ミサイルトマホークを数百発、北の軍事拠点に攻撃しても完全には壊滅させられない。北側も黙っていないから反撃を始めるため、軍事衝突すれば、双方に多くの犠牲が出ることは避けられなくなる。知人の見解は「正論」だろう。

 そこで「軍事解決がダメとすれば、外交で解決する以外に選択肢がない訳ですが、どのようにして解決できるのですか」と当然、質問せざるを得ない。

 知人は「さまざまな外交ルートでその可能性を探っている段階だ」というが、具体的には説明しない。はっきりとしていることは、韓国側は「米朝間で舌戦は激しいが、軍事衝突は避けるという理性が双方に働いていると信じている」という。

 そこで当方は、「偶発的な出来事が生じがる危険性は常にありますね。米朝間で一種の軍事ホットラインはあるのですか」と聞くと、「米朝間には多分ないが、南北間では軍事ホットラインがある。これまで韓国側が話しかけても北側の返答はなかったが、緊急事態が発生した場合、ホットラインが機能するだろう」というのだ。

 例えば、米軍の奇襲作戦で最高指導者・金正恩労働党委員長に何か生じた場合、北人民軍の指導者がホットラインを利用してその旨を韓国側に通知し、即休戦に入るといったシナリオが出てくる。最高指導者の死亡で北の人民軍が混乱し、暴発する危険性は避けられるというわけだ。

 北側が8月29日、中距離弾道ミサイルを発射し、ミサイルは北海道上空を通過して、太平洋の洋上に落ちた時、日本ではミサイルが通過する地域でJアラートが機能し、国民は安全な場所に避難するなど対応した。
 サイレンが流れ、「北朝鮮がミサイルを発射したようです。頑丈な建物か地下に入って避難してください」というメッセージが流れる。その数分後、今度は携帯電話にSNSが入ってきた、という具合だ。

 そのニュースが韓国側に伝わると、多くの韓国国民は北のミサイル上空通過で避難する日本国民の姿を見て違和感を感じた、ということを聞いた。
 もちろん、韓国側にも危機管理があり、避難場所などが準備されているが、上空通過だけで即避難する日本人の危機管理には驚いたわけだ。
 韓国国民は長い間、隣国・独裁国家の危険にさらされてきたから、一種の危機慣れというものがあるのかもしれない。その点、戦後から平和憲法に守られて危機感を失っていった日本国民が朝鮮半島の危機を目撃し、慌てているという面もある。日韓両国の国民の間では単に歴史観だけではなく、危機感でも違いがあるのだろう。

 家族をソウルに残している海外居住韓国人は皆、切ない思いだろう。朝鮮半島の危機を外交で解決できる道を模索しなければならないが、具体的な外交的解決策がまだ見えないだけに、焦りと懸念だけが強まる。

「労働者の党」社会(民主)党の没落

 カール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスはその共著「共産党宣言」の中で、「ヨーロッパに幽霊が出る。共産主義という幽霊だ」という有名な台詞を発したが、当方は「ドイツの社会民主党(SPD)に救世主が現れた。マルティン・シュルツ氏(61)という救世主だ」と少し脱線気味にコラムを書いたことがある。欧州議会議長を5年間務めた後、ベルリンの中央政界に戻り、党大会で100%の党員の信頼と期待を背負って社民党党首に就任した時、シュルツ氏は文字通り、停滞する社民党の救世主だったからだ。

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▲党歴代最悪の選挙結果となった独社会民主党(SPD)のシュルツ党首

 それだけにシュルツ党首の「その後」は余りにも惨めだった。その直後に実施された3つの州選挙(ザールランド州、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州、そしてドイツ最大州ノルトライン=ヴェストファーレン州)で社民党が敗北を喫した時、多くの党員は驚いたが、それでも「9月の連邦議会選が本番だ。シュルツ氏はやってくれるだろう」と期待していた。しかし、3つの州選挙で敗北した社民党新党首は今月24日の本番の総選挙でも敗北したのだ。4戦4敗だ。それも社民党歴史上、最悪の得票率(20・5%)だった。社民党の党員たちは失望より、絶望感に襲われてしまったのだ。これ以上の悪い結果はないからだ。
 シュルツ党首も総選挙敗北の日(24日)、「結果は厳しく、辛いものだった」と表明する一方、「野党の党首として今後もやっていく」というのが精いっぱいだった。

 シュルツ党首の名誉のために付け加えると、SPDと大連立を組んできた「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)の結果も良くなかった。社民党とは違って戦後最悪の結果は避けられたが、戦後2番目の低得票率(約33・0%)だった。ただし、メルケル首相を率いるCDU/CSUは前回(2013年)比で得票率を約8・6%急落したが、社民党は約5・2%減に留まった。

 さて、本題に入る。欧州の社会党(社会民主党)の低落ぶりは目を覆うばかりだ。2000年の時、欧州連合(EU)の加盟国は15カ国だったが、そのうち10カ国は社民党単独、ないしは社民党主導政権だった。加盟国28カ国の現在、その数は2桁を切って久しい。
 例えば、オランダ総選挙(3月15日実施)で労働党は得票率5・7%に留まり、38議席から9議席に落ちた。フランス大統領選(4月)の社会党候補者ブノワ・アモン氏は得票率6・4%と第5番目に留まったばかりだ。欧州には現在、英労働党のトニー・ブレア英首相(任期1997〜2007年)や独社民党のゲアハルト・シュレーダー首相(1998〜2005年)といった著名な社民党系指導者はいなくなった。

 当然、「なぜ社民党は停滞するか」という問題は欧州の政治学者の大きなテーマだ。独週刊誌シュピーゲル(9月16日号)もテーマにしている。労働者の利益を代弁すると標榜してきた社会党(社会民主党)は選挙の度に得票率を落として苦戦を強いられている。なぜ有権者は社民党から去ったのか。

 理由の一つは、社民党が「労働者の政党」を標榜してきたからだ。党の支持基盤の労働者階級はもはや存在しないのだ。労働者は存在しても、階級として労働者階級は存在しなくなったのだ。その意味で、支持基盤を失った社民党が選挙の度に敗北するのは当然の成り行きなのだ。

 マルクス・レーニン主義が若者や知識人の心を捉えた時はまだいわゆる労働者階級は存在していたから、それを支持基盤とする社会党は選挙で勝利する可能性があった。その労働者階級が急速に消滅していったのだ。多くの労働者はミドルクラス入りし、自分を純粋に労働者階級に属すると認識する国民の数は急減していった。

 ちなみに、資本家の搾取を糾弾し、労働者を解放するために乗り出したマルクスが「本当は労働者が好きでなかった」と吐露していることがエンゲルス宛の書簡の中で明らかになった。社会運動に火を点けたマルクスが宣言した「労働者の解放」は実は嘘だった。マルクスが気ままに思いついたキャンペーンに過ぎなかったのだ(「マルクスは『労働者』をバカにした」2017年5月17日参考)。

 公平、平等という言葉は魅力的だ。それらの言葉に惹かれて社会運動に足を突っ込んだ若者たちがいたが、多くは途中で挫折し、失望していった。
 労働者の味方を標榜してきた社会党党首たちが政界から足を洗った後、どのような生き方をしているかを思い出せばいいだろう。ドイツのシュレーダー首相やオーストリアのアルフレート・グーゼンバウア―首相(任期2007〜08年)はロシアやカザフスタンの独裁者の政治アドバイサーとして高額の給料を得ている。グーゼンバイア―氏は社会党青年部の責任者時代、モスクワを訪問し、地べたに接吻をするほどのマルクス崇拝者だったが、今は資産家の助け手となっている。その姿から「労働者の味方」といったイメージは沸かない。

 近未来、労働者階級だけではなく、労働者もいなくなるかもしれない。人工知能(AI)が労働者から職場を奪っていくからだ。労働者はかわいそうだ。労働者の味方を装った偽りの救世主に希望を託して裏切られ、そして将来、AIがその職場を奪い、労働者を職場から追放していく。だから、大多数の労働者は自身が労働者階級に所属することに自己嫌悪となり、労働者の味方を標榜する社民党から距離を置こうとする。

 欧州政界には英国の労働党ジェレミー・コービン党首が活躍しているが、同党首は「社会民主主義者ではなく、社会主義者」(シュピーゲル誌)だ。一方、39歳で最年少大統領に選出されたフランスのエマニュエル・マクロン新大統領は沈みかけた社会党という船からいち早く飛び出した賢明な政治家だ。

 昨年5月1日、ウィ―ン市庁舎前広場で慣例のオーストリア社会民主党主催のメーデー集会が開かれた。そこにホイプル市長と共に演壇に立ったヴェルナー・ファイマン首相(任期2008〜16年)は多くの労働者の前で慣例のメーデー演説を始めた。その時だ。普段は拍手喝采で迎えられる社民党党首のファイマン首相は激しいヤジと罵倒を受けたのだ。メーデーの日の演説で、社民党党首が罵倒されるということは長い社民党の歴史でもなかったことだ。ファイマン首相はさすがにショックを隠し切れなかった。それでも最後まで演説して演壇から降りた。ひょっとしたら、あの日の出来事は欧州の社民党没落を象徴する瞬間ではなかったか。ファイマン首相はその8日後、首相の辞任を表明している。

独AfDは本当にネオナチ党か

 ドイツで24日、連邦議会選挙(下院)が行われ、極右政党の「ドイツのための選択肢」(AfD)が得票率12・6%を獲得し、連邦議会で第3党の地位を獲得した。AfDは2013年結党以来、州レベルでは議席を獲得してきたが、連邦議会では初めて。ドイツ・ナチ政党の歴史を抱えるドイツで、極右政党のAfDが連邦議会入りを果たしたというニュースは国内外でさまざまな反応を呼び起こしている。

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▲支持者に感謝するAfDの公式サイト(2017年9月25日)

 ベルリンでは同日夜、多くの市民が反AfDデモを行い、「AfDを追放せよ」「ネオナチ党だ」といった檄が飛び交った。ところで、AfDは本当にネオナチ政党か。同党のプロフィールを少し調べてみた。

 「ドイツのための選択肢」(AfD)は2013年、ギリシャ経済危機を契機に反欧州連合(EU)を掲げて結成された。党首はフラウケ・ペトリー、共同党首はイェルク・モイテンだ。 AfDは党結成以来、州レベルで躍進を続けた(現145議席)。欧州議会にも議員を出している。前回の総選挙では議席獲得できる得票率5%の壁をクリアできずに惜敗(4・7%)したが、今回は2桁を超えた。党結成4年の新党が連邦議会で94議席(暫定)を占める政党に大飛躍したことになる。

 同党にはさまざまな政治信条をもつ支持者が集まっている。共通点は反移民、外国人排斥傾向が強く、特に反イスラム傾向があることだ。EUに対しては一時、離脱を主張する声が強かったが、ここにきて離脱よりEUの刷新、加盟国の主権尊重に重点を置く現実路線に修正してきた。

 AfDには旧東独のドレスデンから生まれた政治運動ペギーダの流れを組むメンバーも多い。ペギーダは反イスラム色が強く、愛国主義的政治運動で、一種の“ドイツ・ファースト”を政治信条としている。

 ドイツでは2015年夏以降、シリア、イラク、アフガニスタンから100万人を超える難民が殺到したことを受け、国民の間にイスラム教徒への嫌悪感や不安が生まれてきた。AfDは国民の不安、恐れを巧みに扇動し、選挙戦では難民歓迎政策を実施してきたメルケル首相を激しく批判し、有権者の一定の支持を得た。

 ただし、AfDは単なる抗議政党ではない。党指導部には反ユダヤ主義傾向も見られ、ガス室の存在を否定し、ホロコーストを否定する発言をする支持者もいる。そのため、これまでさまざまな物議を醸し出してきたわけだ。

 同党は今日、右派政党として現実路線をいくか、民族主義的、外国人排斥の従来の路線を継続するかで党内が分かれている。AfDは今年4月、ケルンで党大会を開催し、選挙筆頭候補者を選出したが、フラウケ・ペトリー党首が提出した党刷新案(現実路線)は拒否されている(ペトリ―党首が党内の強硬派から締め出される可能性も考えられる)。

 メルケル首相はAfDとの連立政権を組むことを拒否している。党歴代最低の得票率(約20・5%)だった社会民主党(SPD)のシュルツ党首も「議会民主主義を擁護する意味で我々は警戒しなけれなならない」と述べ、AfDの連邦議会進出に警告を発している。

 左派系メディアからは「AfDはネオナチ政党」と酷評されることが多いが、同党の政治信条を見る限り、オーストリアの極右政党「自由党」に似ている。実際、AfDは昨年、「自由党」と連携を強化することで合意している。

 自由党はヨルク・ハイダー党首時代は「ネオナチ政党」というレッテルを張られたが、ハインツ・クリスティアン・シュトラーヒェ党首時代に入って、右派政党の現実路線を鮮明化してきた。EUに対しても離脱ではなく、EUの改革を要求している、といった具合だ。ただし、AfDと同様、党内にはネオナチ的な政治信条を有する党員はいる。その意味で、自由党は依然、極右政党と呼ばれているわけだ。

 興味深い点は、自由党は同性婚問題ではっきりと反対しているオーストリア唯一の政党だ。AfDも男性と女性の伝統的家庭像を支持し、同性婚には反対しているドイツ唯一の政党だ。

 ドイツ連邦議会で6月30日午前、同性愛者の婚姻を認める法案(全ての人のための婚姻)の採決が実施され、賛成393、反対226、棄権4と賛成票多数で可決された。CDUは党として同性婚にこれまで反対してきたが、メルケル首相が「党の強制を解除し、個々の議員の良心に委ねたい」と発言。その結果、連邦議会の採決ではCDUから75議員が同性婚法案に賛成を投じた。

 選挙結果の分析によると、CDU支持者から約100万票がAfDに流れたという。その票の中にはメルケル首相の難民歓迎政策への抗議票が含まれているが、それだけではない。キリスト教的価値観や伝統を失ってきたCDUから保守系の有権者が次第に離れてきているというのだ。それが事実とすれば、CDUにとって深刻な問題だ。

 CDU・CSUは今回、得票率約33・0%で、前回(2013年)比で約8・5%を失った。党歴代2番目に悪い結果だ。AfDの飛躍の陰でCDUの低落ぶりはあまり注目されていないが、メルケル首相の与党は今、危険水域に入ってきているのかもしれない。

ドイツで極右政党が第3党に躍進

 ドイツで24日、連邦議会選挙(下院、任期4年)の投開票(有権者総数約6150万人)が実施され、メルケル独首相が率いる与党第1党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)が得票率約33・2%を獲得し、前回(2013年)より得票率を落としたが、第1党を堅持した。一方、欧州議会議長5年間勤めた後、ベルリンの中央政界入りしたシュルツ党首の与党第2党「社会民主党」(SPD)は得票率約20・8%と党歴代最悪の結果に終わった。

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▲勝利宣言するメルケル独首相(ドイツ公営放送の中継番組から、2017年9月24日)

 注目された第3党争いは、極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が約13・1%を獲得して第3党の地位を得た。AfDは2013年の党結成以来、初めて連邦議会の議席を獲得した(前回の総選挙で4・7%と議席獲得できる得票率5%の壁をクリアできずに惜敗した)。リントナー党首の自由民主党(FDP)は約10・4%で連邦議会にカムバックを果たした。左翼党は約8・7%、そして「同盟90/緑の党」が約9・2%だった(得票率は暫定結果)。

 昨年11月の米大統領選や今年5月のフランス大統領選では“チェンジ”という言葉がモードとなったが、ドイツでは順調に国民経済が発展していることもあって、有権者の多くはチェンジ より現状維持志向(キープ)が強い。メルメル首相は、「私が政権に就任した直後、500万人の失業者がいたが、その数は今日、250万人と急減した」と強調し、12年間の政権の成果を強調してきた。

 メルケル首相は同日夜、「前回の選挙より、得票率を落としたが、戦略目標だった第1党与党の地位をキープできた。わが党以外に次期政権を組閣できない」と勝利宣言するとともに、次期政権の課題として、国民経済の成長、国内の治安改善、難民対策などを掲げた。メルケル首相の4選はほぼ確実となった。

 党創設以来、最悪の得票率に終わった社民党のシュルツ党首は、「残念ながら、結果は厳しく、痛みが伴うものだ。極右政党が連邦議会入りした今日、議会政治を守るために第一野党としてその職務を果たさなければならない」と述べ、CDU/CSUとは再び大連立政権を組まず、野党の道を歩む意向を示唆した。

 今回の選挙のハイライトは極右政党のAfD第3党に躍進したことだ。党幹部たちの反ユダヤ主義的発言で一時、支持率を落としたが、選挙戦終盤、厳格な難民政策をアピールし有権者の支持を得た。ちなみに、メルケル政権の難民歓迎政策に反発したCDU/CSU支持層から100万票以上がAfDに流れた、という選挙分析が明らかになっている。

 関心は選挙後の組閣工作に移る。CDU/CSUはどの政党と連立政権を組むか、SPDと大連合を再び構築するか、FDPと「同盟90/緑の党」との3党でジャマイカ連合(党のカラーからジャマイカの国旗の色となる)を組むか、さまざまなシナリオが囁かれている。ただし、CDU/CSUはAfDと左翼党との連立は拒否している。それだけに、新政権発足まで時間がかかるかもしれない。

 欧州連合(EU)の盟主ドイツのメルケル首相は「EUは目下、英国のEU離脱や難民対策など難問に直面している。EUのかじ取りを担うドイツには安定政権が必要だ」と表明している。

北の地震は「人工」でも「自然」でも大変

 韓国の聯合ニュース(日本語版)によると、韓国気象庁は24日、23日午後5時29分(日本時間)のマグニチュード(M)3.2の地震の前、23日午後1時43分にもM2.6の地震が起きていたという。すなわち、23日に少なくとも2回の地震が6回目の核実験を実施した豊渓里から北北西に約6kmの地点で発生していたことになる。いずれも自然地震という。

 そこで先ず、23日の聯合ニュース(日本語版)の地震関連記事を最新ニュースからラースト記事の順序で紹介する。

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▲北の地震を報じる韓国「聯合ニュース」日本語版(2017年9月23日)


 [合ニュース(現地時間9月23日23時8分)

 韓国気象庁と韓国地質資源研究院によると、23日午後5時29分(日本時間)ごろ、北朝鮮北東部、咸鏡北道・吉州の北北西23kmでM3.2の地震を観測した。
 気象庁は当初、M3.0と発表したが、同3.2に修正した。震源は北緯41.14度、東経129.29度から、同41.351度、同129.056度に修正した。地震の発生場所は6回目の核実験が実施された位置の北北西6km付近という。
 気象庁は今回の地震について、核実験場がある豊渓里近くで起き、規模が小さくないことから爆発による地震との見方が出ていることについて、音波が発生しないことなどから自然地震と分析している。

 ⇔合ニュース(同21時27分)

 韓国気象庁によると、23日午後5時29分(日本時間)ごろ、北朝鮮北東部、咸鏡北道・吉州の北北西23kmでM3.0の地震を観測した。韓国気象庁と国連の核実験全面禁止条約機関(CTBTO)は自然地震との分析結果を出したが、中国当局は爆発による地震と分析している。
 震源は北緯41.14度、東経129.29度という。韓国気象庁は地震の規模が大きくなく、観測網から外れていたことから震源の深さを明らかにしていない。同庁は地震波の特長、音波が発生していないことなどから、自然地震と分析している。
 同庁の地震専門分析官は、「今回、地震が発生した場所は6回目の核実験が実施された位置から南東に約20km離れている。自然地震の際に表れるP波とS波がはっきりと出ている。(核実験などによる)人工地震で観測される音波も発生していない」と述べた。

 N合ニュース(同19時35分)

 韓国気象庁は23日、同日午後5時29分(日本時間)ごろ、北朝鮮北東部、咸鏡北道・吉州の北北西23kmでM3.0の地震が発生したと伝えた。咸鏡北道吉州郡の豊渓里には核実験場があるが、同庁の地震火山センター長は、「波形を分析したところ、自然地震だった」と話している。
 震源は北緯41.14度、東経129.29度という。気象庁は地震の規模が大きくなく、観測網から外れていたことから震源の深さを明らかにしていない。
 同庁の地震専門分析官は、「今回の地震は自然地震の際に表れるP波とS波がはっきりと出ている。(核実験などによる)人工地震で観測される音波も発生していない」と説明した。ただ、中国の地震局が今回の地震は爆発によるものと発表していることから詳細な分析を進めている。

 の合ニュース(同19時1分)

 韓国気象庁によると、23日午後5時29分ごろ、北朝鮮北東部、咸鏡北道・吉州の北北西23kmでM3.0の地震が発生した。
 咸鏡北道吉州郡の豊渓里には核実験場がある。同庁の関係者は、「波形を分析した。自然地震とみられる」「北が6回目の核実験をした場所から20kmほど離れている」と話している。


 上記の4つの記事で共通内容は、|録免生時刻の午後5時29分、⊃霧暫蓮∨緬明升横械襭蹇↓「自然地震」の3点。相違はマグニチュード。当初m3.0としていたが、最終的に3.2に修正された。

 中国が当初、爆発による地震らしいと報じたことから、北が7回目の核実験を実施したのではないか、という懸念が沸いたが、韓国気象庁がいち早くその報道を否定し、地震のS波とP波を検証し、「人工地震ではなく、自然地震」と発表した。そのため、北の7回目の核実験説は消えた(中国側も修正している)。

 ただし、「良かったと」といって喜んではおれない。M2.6とM3.2の2回の自然地震が前回のM5.7記録した6回目の核実験を実施した場所から余り離れていない所で起きていることが判明したからだ。爆発規模250ktともいわれた6回目核実験で地盤が崩れたという情報も流れた。ひょっとしたら核実験周辺の地盤が崩れ落ちているかもしれない。その上、白頭山の爆発の懸念も排除できない。7回目の核実験ではなかった可能性が濃厚だが、白頭山の火山爆発や大地震の前触れではないかといった不安は払しょくできないからだ(「水爆実験で『白頭山』噴火の危険は?」2017年9月7日参考)。

 「人工地震」「自然地震」、どちらに転んでも周辺国家に大きな被害を及ぼす。前者の場合、トランプ米大統領はもはや黙っていないだろうから、米朝間で軍事衝突が勃発する危険性が出てくる。後者の場合、想定できない災害をもたらす危険性が考えられる。「人工地震」でも「自然地震」でも北の地震はやはり心配だ。

欧州が「朝鮮半島」の危機に目覚めた

 欧州は北朝鮮の核・ミサイル問題にはこれまで余り関心を示さなかった。というより、欧州にはイランの核問題があったから、外交の優先課題として極東の北朝鮮の核・ミサイル開発よりイランのウラン濃縮関連活動の行方の方が深刻だったからだ。

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▲「朝鮮半島の危機」の調停に意欲を示すメルケル独首相(「キリスト教民主同盟」公式サイトから)

 その欧州が今、朝鮮半島の危機に目覚めてきた。北朝鮮が中距離弾頭ミサイルを発射したり、今月3日に6回目の核実験を実施した直後、欧州連合(EU)の盟主メルケル独首相は「危険だ。許されない」として批判声明を即発表している。その反応は迅速となってきた。なぜか。

 考えられることは、核実験は地域問題ではなく、国際問題だからだ。米ジョンズ・ホプキンス大学(Johns Hopkins University)の北朝鮮分析サイト「38ノース」の発表では、3日の北の核実験の爆弾規模が250キロトンと推定され、欧州大陸でもその人工地震は観測された。金正恩氏(朝鮮労働党委員長)の核実験が欧州の大地をも震わせたのだ。

 北の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発が急速で、北が発射したミサイルは米本土だけではなく、欧州にも届く射程距離を有することが明らかになった。もはや、北の核・ミサイル開発を極東の地域問題といって静観できなくなってきたのだ。北の問題が欧州全土の防衛、治安問題に直接かかわってきたからだ。

 もちろん、イランの核交渉が合意したこともある。イラン問題では2015年7月14日、国連安保常任理事国(米英仏露中)にドイツを加えた6カ国とイランとの間で続けられてきたイラン核協議が「包括的共同行動計画」(Joint Comprehensive Plan of Action.=JCPOA)で合意し、2002年以来13年間に及ぶ核協議に終止符を打ったばかりだ。IAEAは現在、イラン核計画の全容解明に向けて検証作業を続けている。そこで、_そにも余裕が生まれた、▲ぅ薀麑簑蠅魍宛鬚撚魴茲任たという自信、などがあって北問題への関心が高まってきたといえるかもしれない。

 国連安保理決議に基づき、トランプ米大統領は21日、対北への独自制裁を決定し、北との貿易、取引に係った金融業者への制裁を含む包括的な制裁の係る大統領令に署名した。これを受け、欧州の金融界、企業関係者ももはや他人事のようには振舞っておれなくなったという事情もあるだろう。

 読売新聞によると、ブリュッセルで21日開催された加盟国の大使級会合で対北制裁問題が論議され、)未悗料金制限、∨鵡駝韻悗領昂発給の厳格なチェックなど独自制裁が決められ、今月16日の外相理事会で正式に決まるという。

 それに先立ち、スペイン外務省は18日、駐マドリードの北朝鮮大使に今月30日までに国外退去するように通告している。メキシコ、ペルー、クウエートなどが既に同様の通告を発している。また、フランスのローラ・フレセル・スポーツ相は21日、北朝鮮の核・ミサイル問題が深刻化した場合、来年2月に韓国の平昌で開催の冬季五輪大会に参加しないことも考えられると示唆したばかりだ。すなわち、欧州の政治家、企業も北問題に敏感となってきたわけだ。

 欧州加盟国では既に、駐在北外交官数の制限が実施されてきた。欧州諸国の中でも大きな大使館を有するオーストリアの北大使館では既に外交官数は2桁を割っている。ただし、国連の専門機関を抱えているオーストリアでは、北大使(金光燮大使)を国外退去させることは難しいだろう。せいぜい、外交官数を制限させるだけだ。同じことが、フランスやイタリアでもいえる。

 メルケル独首相は今月10日の独紙フランクフルター・アルゲマイネ日曜版(電子版)のインタビューの中で朝鮮半島の危機打開への調停役を申し出ている。軍事衝突の恐れが出てきた朝鮮半島をトランプ米大統領には任せておけないという危機感が働いているのだろう。米日韓の3カ国を中心とした対北政策が軍事衝突以外の他の選択肢がなくなった場合、対話、外交路線を主張する欧州の調停に委ねてみるのも一つの打開策かもしれない。いずれにしても、欧州が朝鮮半島の情勢に強い関心を持ちだしたことはマイナスではないだろう。

対北制裁は「戦争宣言」を意味する

 トランプ米大統領は21日、核実験、ミサイル発射を繰り返し、国連安保理決議に違反する北朝鮮に対し、更なる制裁を決定した大統領令に署名した。
 ワシントンからの情報によると、北朝鮮の核・ミサイル開発の資金源を断つ一方、エネルギーや金融、繊維、漁業、情報技術(IT)など幅広い業種で北と関係した個人や団体を制裁対象に指定し、米国内の資産を凍結し、貿易決算などで北と関係した外国金融機関を米金融システムから締め出す、という強硬な内容だ。

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▲安倍晋三首相の国連総会での一般討論演説、2017年9月20日、国連総会会場で(内閣広報室提供)

 当方は欧州駐在の一人の北朝鮮ビジネスマンを知っている。彼はアメリカン・エクスプレスのゴールド・カードの所持者だ。欧州を飛び歩く彼はそのカード一枚で旅費、宿泊代から商談の決算まで片付けていく。米国の対北制裁が完全に実施された暁には、彼はもはやアメリカン・エクスプレスのゴールド・カードを使用できなくなるから、商談ばかりか、日々の生活も大変となるだろう。

 特定の国に対する制裁は間接的な「戦争宣言」を意味する。手に武器を握っていないだけだ。北朝鮮の場合、国際社会から久しく孤立し、自給自足の国民経済だから、制裁は他の国のような痛みをもたらさないといわれてきたが、世界の金融界を操る米国が制裁の完全履行に乗り出した場合、北はお手上げ状況となる。

 もちろん、中国やロシアが対北国境でさまざまな取引を継続するかもしれないが、中国の王毅外相は、「中国は制裁を完全に実施していく」と明言している。制裁違反をすれば、中国企業も制裁対象となる危険性が出てくるからだ。

 イラン問題では2015年7月14日、国連安保常任理事国(米英仏露中)にドイツを加えた6カ国とイランとの間で続けられてきたイラン核協議が合意し、2002年以来13年間に及ぶ核協議に終止符を打ったばかりだ。その結果、イランがその核合意を遵守する限り、制裁は段階的に解除されることになった。

 国際社会の対イラン制裁は単にテヘラン指導部だけではなく、一般国民の生活を窮地に陥らせた。その一つはイランの航空機が頻繁に事故を起こし、墜落するケースが挙げられる。最新航空機を購入できないこと、古くなった航空機の部品、メンテナンスが難しい、といった状況が続いてきたからだ。米国の対イラン経済制裁は1979年からスタートしている。核問題に関連した国連の制裁は2006年からだ。対イラン制裁が効果を発揮するまで少なくとも10年の月日が経過しているのだ。

 当方の知り合いのイランの女性記者は当時、「国連の制裁の影響でイラン航空はしばしば事故を起こしているのよ。メディアには余り報道されないけれど、飛行機の調子が悪い、といっては途中、緊急着地したりしている」と教えてくれた。だから、テヘランに行く時はトルコ航空を利用すると語っていた(「イラン航空は怖い」2013年7月21日参考)。そして帰国する時は病気の実母のために薬を買って帰るという。テヘランでは医療薬品は貴重品で容易には手に入らないからだ。ちなみに、対イラン制裁の一部が解除された直後、イランはエアバス旅客機114機の購入を発表している。

 問題は制裁の強度ではない。金正恩氏がそれを痛みと感じ、核・ミサイル開発を断念するかだ。北は制裁下でも核実験を繰り返し、ミサイルを発射し続けることが考えられる。そして、金正恩氏はある日、その大量破壊兵器を使用したいという誘惑にかられるかもしれない。

 繰り返すが、国際社会の制裁にあったイランと独裁国家の北朝鮮では国体が違う。だから、対北制裁が即効果を発揮して、金正恩氏が核・ミサイル開発を即中止するとは考えられないのだ。対北制裁を実施したとしても、国際社会は北の大量破壊兵器の脅威から解放される保証はないのだ。

 韓国の文在寅大統領は北に800万ドル相当の人道支援を実施するという。制裁下で最も被害を受ける北の国民、特に、子供、児童だ。だから医療品や食糧の支援は重要だが、実施時期を考えるべきだ。金正恩氏に間違ったシグナルを送るべきではないからだ。

 北朝鮮の動向を注意深く監視する必要があるだろう。制裁下の金正恩氏が突然、キレて暴発する危険が排除できないからだ。先述したが、制裁は「戦争宣言」である。北朝鮮との間の戦争は既に始まっているのだ。

「朝鮮半島は冷戦最後の戦場だ」

 ニューヨークの国連総会にデビューしたトランプ米大統領は19日(米東部時間)、40分を超える国連初演説の中で北朝鮮の核・ミサイル問題に言及し、「北側が考え直し、核・ミサイル開発を止めなければ、同盟国の安全を守るために北を完全に破壊しなければならなくなる」という趣旨の発言をした。

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▲G20で日米韓3カ国首脳が会合(2017年7月6日、独ハンブルクで、韓国大統領府公式サントから)

 一国の首脳が国連総会の演壇から特定の国に対し、「完全に破壊する」と警告するのは、国連総会の長い歴史の中でもめったにないシーンだろう。それだけに、予想されたことだが、批判や反発も呼んだ。欧州の盟主メルケル独首相は早速、トランプ氏の演説内容を「不適切な発言」と批判している。

 トランプ氏の「完全破壊」発言を聞いた北朝鮮の李容浩外相は「バカバカしい。犬の吠え声に過ぎない」と言い返した。北側は米大統領の発言に内心穏やかではないだろうが、強硬姿勢を崩すわけにはいかない。一種の売り言葉に買い言葉だ。

 トランプ大統領は核・ミサイル開発に没頭する北朝鮮の金正恩労働党委員長に「ロケットマン」というニックネームをつけ、「彼はそれ以外、することがないのかね」とからかうなど、同氏の口は止まらないが、米朝間で幸い軍事衝突はまだ起きていない。

 米大統領と北朝鮮との間では中傷・誹謗合戦が始まって久しい。国連総会の舞台で米大統領の発言を聞かされた国際社会は発言のユニークさに驚きながら、その行く末を案じる。舌戦がエスカレートして核戦争とならないか、という恐れをやはり完全には払拭できないからだ。

 国連総会と同じ時期に開催中の国際原子力機(IAEA)関年次総会でも加盟国(168カ国)から北朝鮮の核・ミサイル開発を批判する発言が相次いだ。大多数の加盟国代表は北の核・ミサイル開発が国連安保理決議、IAEA理事会決議に反するとして北に早急な非核化を求めている。北はIAEAを脱退したため、ウィ―ンの本部で開催中の第61回年次総会には代表団を派遣していない。加盟国の対北批判は一方通行で終始するのは止む得ない。いずれにしても、国連本部のあるニューヨーク、第3の国連都市であるウィ―ンで目下、北朝鮮問題がホットな争点となっているわけだ。

 米朝間の舌戦は現時点では、米国側にとっては「北の非核化を促す圧力」を、北側にとっては「米国への挑発、反発」を意味している。もちろん、口論だけではない。朝鮮半島周辺では米空母が来月は日本海に入り、中国とロシア両国は対北国境線周辺で軍事演習をしている。米朝間の軍事衝突のシナリオを完全には排除できないからだ。同時に、米朝間で非公式の外交交渉が第3国で展開中とも聞く。一方、北朝鮮の周辺国家、日本や韓国はストレスの多い日々を過ごさざるを得ないわけだ。

 武力衝突という最悪のシナリオを回避するために、国際社会は結束して対北圧力を強化しなければならないが、対北制裁にもレッドラインがあるだろう。危険水域に突入すれば、軍事衝突を回避できなくなるからだ。金正恩氏は白旗を揚げることを潔しとしない指導者だ。金正恩氏が「完全破壊」を覚悟で武力衝突の道を選ぶことも考えられる(「『白旗』を掲げない金正恩氏への恐怖」2017年2月27日参考)。

 ソ連・東欧共産政権が崩壊した直後、北朝鮮生まれの世界的宗教指導者文鮮明師は、「朝鮮半島の戦いがまだ残されている。朝鮮半島の南北問題を解決しない限り、冷戦時代は幕を閉じない」と述べたことがある。
 血を流さず、冷戦の最後の戦場を勝利できるか、多くの犠牲者を再び出すか。われわれはその選択を強いられているわけだ。冷戦時代を何としてでも最小限の犠牲で閉じなければならない。
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