ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2017年12月

金正恩氏に知ってほしい「現実」

 2017年は朝鮮半島の政情が一段と険悪化した年だった。「一触即発の危機」という表現が大げさではない状況が続いてきたが、この傾向は2018年に入っても暫くは変わらないだろう。

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▲風になびく北の国旗(2013年4月11日、ウィーンの北朝鮮大使館で撮影)

 もちろん、朝鮮半島の危機の最大の主因は国連安保理決議を無視して核実験、弾道ミサイル発射を繰返してきた北朝鮮にあることは言うまでもない。更に一歩踏み込んで言えば、33歳の金正恩氏(朝鮮労働党委員長)の責任だ。

 本人が自覚しているか否かは別に、世界の政治に大きな影響を与えた2017年の人物の一人であったことは間違いない。独週刊誌シュピーゲル(12月6日号)は金正恩氏を今年の顔(9人)の1人として表紙に掲載している。朝鮮半島の現状に余り関心を示してこなかった欧州メディア界で金正恩氏の言動が一面を飾る機会が珍しくなかった。地域紛争の様相が濃厚だった朝鮮半島の政情が世界の最重要議題の一つとして扱われ出した(「欧州が『朝鮮半島』の危機に目覚めた」2017年9月24日参考)。

 金正恩氏が進めている核開発、弾道ミサイル発射はスポーツ競技ではない。国内ばかりか、世界にも多大な危険を及ぼすものだ。北が9月3日、6回目の核実験(爆弾規模250キロトンと推定)を実施した豊渓里の北北西約6kmの地点で地震が数回発生したが、核実験で破壊された地盤の緩みなどが原因という専門家の声を聞く。マグニチュード4を超える観測史上最大規模の地震に遭遇した隣国・韓国では一時パニックが起きたという報道すら流れてきた(「朝鮮半島は冷戦最後の戦場だ」2017年9月22日参考)。

 朝鮮中央通信が12月9日報じたところによると、「金正恩氏は白頭山に登り、『国家核武力完成の歴史的大業』を成し遂げた激動の日々を振り返った」というが、それだけだろうか。 金正恩氏は聖山と呼ばれる白頭山に登り、今後の出方について最側近と話し合ったのではないか(水爆実験で『白頭山』噴火の危険は?」2017年9月7日参考)。

 北の第6回目の核実験を受け、国際社会は対北制裁を強化してきた。石油精製品の対北輸出を現行より90%カットする制裁が施行されだした。ロシア極東地方政府は来年から北の労働者(約9000人)に就労許可を与えない方針というニュースが入ってきたばかりだ(「北の海外派遣労働者の職場は『3D』」2015年9月6日参考)。

 金正恩氏が取れるカードはもはや限られてきた。〃鎧行動に出るか、¬婿劼鮗蕕蠅覆ら、非核化を要求する米国トランプ政権との対話に活路を見出すかだ。もちろん、中国とロシアの出方も注視しなければならないが、金正恩氏が対話に出てくる場合、最初の相手は米国だ。

 問題は、米国が非核化の完全な実施を北に強要した場合、金正恩氏はそれを受け入れることはないという点だ。だから、米朝間の対話が実りをもたらすためには、自称ディ―ルのエキスパート、トランプ大統領の出方にかかってくるわけだ。例えば、トランプ政権は、朝鮮半島の危機回避のため核実験とミサイル発射のモラトリウムを北側に提示し、金正恩氏の暴発を回避し、時間を稼ぐ方向を取るかもしれない。

 北が米本土まで届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)開発で大気圏再導入技術などを修得しない限り、北の核・ミサイル開発は米国の国益を直接脅かす恐れはないからだ。すなわち、米朝間の対話に交渉の余地があることだ。
 トランプ政権は韓国、日本の国益を最重視し、金正恩氏に非核化のイエスかノーの決断を差し迫ることはしないだろう。米国の国益を害さない限り、北の核開発、弾道ミサイルの現状凍結で妥協する可能性が十分考えられる。換言すれば、金正恩氏にもチャンスがあるわけだ。核開発を完全に断念することなく、対北制裁の一定の解除を得る道だ。

 金正恩氏は軍内部の粛清を強化するなど、党、軍の掌握に専念している。国際社会の対北圧力が強化され、拡大されれば、党、軍内にも動揺が見られ、不満分子が出てくる危険性があるからだ。

 金正恩氏をどこまで追い詰めるか、北の暴発を防ぐためにいつ救いの手を指し伸ばすか、その判断を下すため、国際社会は平壌の動向をここしばらく注視しなければならない(「米中が金正恩の追放に乗り出した」2017年12月6日参考)。

 いずれにしても、正恩氏よ、まだ遅すぎることはない。自身の命運と国の将来を核、弾道ミサイルに委ねず、その民族の力を信じ、真の国家建設に向かうべきだ。ジョージ・W・ブッシュ大統領時代の米国務長官だったコリン・パウエル氏は「使用できない武器をいくら保有していても意味がない」と述べ、大量破壊兵器の核兵器を「もはや価値のない武器」と言い切った。繰り返すが、核兵器は政権の存続保証を与えるものではないのだ。朝鮮民族の未来を見つめ、正しい選択を下すべきだ。

 以上、2017年を閉じるに際し、金正恩氏に知ってほしい現実を綴った。

人生をやり直しできたら……

 最近、2本の映画を観た。一本は「僕だけがいない街」(原作三部けい)というタイトルの日本のサスペンス・シリーズ、もう1本は2017年公開「アメイジング・ジャーニー、神の小屋より」という映画だ。舞台も登場人物、そのセッティングも違うが、共通点は主人公が過去の失敗、挫折した問題を“その時”に戻り、やり直し、修正し、最後は過去の問題を克服していくという点だ。

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▲アラスカのオーロラ(米空軍関係者が撮影)ウィキぺディアから

 前者は、売れない漫画家・藤沼悟がリバイバルという特殊能力(タイムリープ)で過去に戻り、自分とその周囲で発生した連続殺人事件の犯人を見つけ出すストーリーだ。過去に生じた殺人を回避し、犯人に殺された母親や友だちを救っていく。後者は、主人公マック(サム・ワーシントン主演)はキャンプに3人の子供たちと出かけた時、愛する末娘を悪者に誘拐され、殺されるという悲劇に遭遇し、自己責任を感じてきた。その若き父親マックにある日、神からの招待が届き、山小屋に行き3人の男女(神)と出会う。神とのやり取りを通じて次第に自責に悩む心を癒し、末娘の死後、バラバラとなった家族関係を取り戻していく。原作は世界的にベストセラーとなったウィリアム・ポール・ヤングの小説「神の小屋」だ。

 ここまで書いていくと、米映画「オーロラの彼方へ」(原題 Frequency、2000年)を思い出す読者がいるだろう。人生をやり直し、失った家族や人間関係を回復していくストーリーのパイオニア的作品だ。
 あの米俳優ジェームズ・カヴィーゼルが警察官役で登場している。オーロラが出た日、警察官になった息子が無線機を通じて殉職した消防士の父親と話す場面は感動的だ。ストーリーは父親の殉職と殺害された母親の殺人事件を回避し、最後は父親、母親と再会する。
 同映画は人生の失敗、間違いに対してやり直しができたら、どれだけ幸せか、という人間の密かな 願望を描いた名作だ。

 サクセスフルな人生を歩み、多くの富と名声を得た人でも、「あの時、こうしておけば良かった」「どうしてあのようなことをしたのか」と時に呟くことがあるだろう。生まれて死ぬまで100%計画通りに歩んできた人間などいない。程度の差こそあれ、さまざまな後悔や無念の思いを抱きながら生き続けている(「敗北者の『その後』の生き方」2016年11月20日参考)。

 話は飛ぶ。21世紀の宇宙物理学者たちは、宇宙がビックバン後、急膨張し、今も拡大し続けているというインフレーション理論を提唱している。宇宙誕生当時に放出されたさまざまなマイクロ波が現在、地球に届いているという。
 ところで、宇宙が直線的に膨張、拡大しているのであれば、いつか終わりを迎えると考えざるを得ない。直線運動には始まりがあると共に、終わりを想定せざるを得ないからだ。その点、円形運動は永続性がある。

 漫画家・藤沼悟、マック、そして警察官ジョンは人生をやり直し、失敗や過ちを修正し、本来願ってきた状況に戻っていったように、人間の一生、大きく言えば、人類の歴史は、同じ状況を繰り返しながら、過ちを修正し、本源の世界にたどり着こうとしているプロセスではないか。

 その内容をキリスト教的にいえば、人類始祖のアダム家庭で生じた全ての問題(アダムとエバの原罪問題やカインのアベル殺人など)を清算し、やり直し、アダム家庭が失敗しなかった状況まで元帰りする道ともいえるのではないか。大著「歴史の研究」で知られている英国の歴史学者アーノルド・J・トインビーは、「歴史は何か同じ内容を繰り返しているように見える」と喝破しているほどだ。

 人類の歴史が「アダム家庭」への回帰プロセスと考えれば、現代人が久しく失ったと感じてきた「理想」が蘇り、われわれに希望があることに気が付く。たとえ、タイムリープの特殊能力がなく、過去と無線機で通話できるオーロラが現れず、「神の小屋」への招待状が届かなかったとしても、一日一日、本源の地を目指し感謝しながら歩んでいきたいものだ。

“チェコのトランプ”は生き残れるか

 “チェコのトランプ”と呼ばれる富豪、アンドレイ・バビシュ前財務相(63)の新党右派「ANO2011」が率いる少数政権が今月13日、正式に発足したが、同国の政情が安定に向かうか否かは不明だ。

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▲バビシュ新政権の発足式(最前列の左2番目がバビシュ首相、3番目ゼマン大統領 ANO公式facebookから、2017年12月13日)

 チェコで10月20、21日の両日、下院選挙(定数200)が実施された。その結果、新党右派「ANO2011」が得票率約30%、78議席を獲得してトップ。それを追って、第2党には、中道右派の「市民民主党」(ODS)が約11・3%、第3党には「海賊党」、そして第4党に日系人トミオ・オカムラ氏の極右政党「自由と直接民主主義」(SPD)が入った。与党ソボトカ首相の中道左派「社会民主党」(CSSD)は得票率約7・3%で第6党に後退した。

 総選挙後、連立政権発足を目指したベビシュ党首は2カ月余り、連立パートナー探しをしたが、見い出せなかったため、ゼマン大統領は今月13日、バビシュ党首を首相とした少数政権を発足させた。14閣僚から構成された少数政権はANO政治家と無党派の専門家から成っている。バビシュ新首相は、「われわれは他の政党の忍耐や譲歩を待っていない。新政権は今日から国のために働き始める」と述べている。同時に、欧州連合(EU)の難民受け入れの分担案に対しては、「受け入れることはない」と改めて強調した。

 新政権発足後、議会に信任を問う信任投票を実施するまで最大30日間の時間が与えられるが、バビシュ新首相は来年1月10日に信任投票を実施すると明らかにしている。新首相は共産主義者とオカムラ氏のSPDの左右政党から支持の確約を得ているという。
 なお、ソボトカ前政権で今年5月まで第1副首相兼財務相も務めた新首相にはEUの中小企業育成の補助金を横領した疑惑がかけられきた。そのことが他の政党の第1党与党との連携の最大の障害となってきた。
 バビシュ首相は食糧、農業、化学関連企業など250社以上の企業が連携する同国有数の大企業 Agrofert-Holding の創設者だ。新政権を「Agrofert-Holding政権だ」と指摘する声も出ている。  
 議会200議席中、78議席しか有さないバビシュ少数政権は他の政党が一致して反対すれば、即解散に追い込まれ、早期選挙の実施となる可能性が高い。それに対し、ミロシュ・ゼマン大統領は今月25日の慣例のクリスマス演説で、「議会の早期解散、新選挙の実施を求める声があるが、有権者を嘲笑するものだ。大統領が首相に任命した人物との連携を拒否する政党は非常識だ」と強く批判。その上で「信任投票でバビシュ首相が敗北したとしても、私は彼を再び首相に任命する。同首相の少数政権は数か月後には安定政権となると確信している」と言い切っている。

 ゼマン大統領(73)のバビシュ少数政権支持の狙いは、来年1月12,13日に実施される大統領選にゼマン大統領も再選を目指して立候補していることと密接に関係しているはずだ。ゼマン大統領は少数政権を発足させ、同国の政情を安定させることでその政治力を国民にアピールできる。もちろん、それだけではないだろう。反EU傾向のバビシュ首相と連携してチェコの外交重点をEUからロシア、中国寄りに路線修正できるチャンスと受け取っているかもしれない。

 チェコは中欧に位置し、民主化後は国民経済も発展してきたが、同時に、社会の世俗化は急速に進展してきた。EUへの懐疑心も高まり、共通通貨のユーロ導入には消極的だ。難民政策ではハンガリーと共に難民受け入れに強く反対してきた。同時に、チェコでは冷戦後、神を信じない国民が増えた。ワシントンDCのシンクタンク「ビューリサーチ・センター」の宗教の多様性調査によると、チェコでは無神論者、不可知論者などを含む無宗教の割合が76・4%と、キリスト教文化圏の国で考えられないほど高い。

 チェコは今年11月で民主改革(通称“ビロード革命”)から28年が経過した。欧米の資本主義文化、消費文化が席巻する一方、精神的支柱を失ってきた国民が多い。そこに“チェコのトランプ”と呼ばれるバビシュ氏が登場し、国のかじ取りを始めたわけだ。ロシアや中国寄りを見せるゼマン大統領の支援を受けたバビシュ少数政権は政権の延命のためこれまで以上に反EU路線を強めていくことが予想される。

日韓合意の非公開文書を2年で公開

 「外交世界では『日本だけでなく、他の国のカウンターパートにも韓国はいつでも政権が交代されれば非公開合意が公開される可能性があるという先例を残し、不信を招きかねない』という懸念の声が出ている」

  上記の文書は日本メディアの社説でも論評でもない。韓国大手日刊紙中央日報(日本語版)の記事の最後の個所だ。この正論を見つけた時、 事件の核心を理解しているジャーナリストが韓国にもいると知ってホッとした。

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▲日韓慰安婦問題の検証報告を公表する韓国外務省(2017年12月27日、韓国外務省公式サイトから)

 旧日本軍の慰安婦問題に関する「日韓合意」(2015年12月)を検証してきた韓国外務省の直属作業部会(外交官や専門家計9人で構成)は27日午後、検証結果を公表した。ポイントは2点だ。一つは日韓合意には公開された合意内容の他、非公開の内容があったこと、もう一つは「協議過程で、被害者の意見を集約しないまま、政府の立場を中心に合意をまとめた。そのため元慰安婦らとの意思疎通を欠いていた」という点だ。 

 2点目は韓国側の責任であり、日韓合意を焦った当時の朴槿恵政権が批判を受けることになる。最初の点は中央日報が指摘したように今後の韓国の外交にも深刻な影響を与える問題を含んでいる。この場合、韓国側の外交文書の扱い方だ。

 今年7月31日に設置された韓国外務省作業部会が計20回の会議を実施してまとめた報告内容は日本とは関係がない。河野太郎外相は談話を発表し、「合意に至る過程に問題があったとは考えられない。韓国政府が合意を変更しようとするなら、日韓関係は管理不能となり、断じて受け入れられない。引き続き着実に実施するよう強く求める」(時事通信)と要求している。その通りだろう。日韓合意に問題点が浮かび上がってきたとすれば、韓国側はそれを検証し、その責任を明確にし、再発防止に努める以外にない。

 検証自体が「日韓合意に国民の不満がある」という認識から、文在寅政権がその日韓合意のプロセスを検証したわけだから、問題の最初からその検証結果まで、全ては韓国側の事情だ。日本側としては、韓国がどのような教訓を日韓合意で引きだすとしても2年前に合意した外交文書の内容が速やかに履行されることを願うだけだ。ボールは韓国側にある。2年前の日韓合意の検証問題は純粋に韓国の国内問題だからだ。    

 ここでは非公開文書の内容について、少し考えてみたい。日韓合意での非公開文書では、ヾ攅饑府が慰安婦関連団体(韓国挺身隊問題対策協議会)を説得すること、海外に少女像を設置することを支援しないこと、ソウルの日本大使館前に設置された少女像の撤去、ご攅饑府は今後、「性奴隷」といった表現をしないことの4点について日韓両国の立場がまとめられている。

 報告書では、「韓国側は交渉の初期から慰安婦被害者団体と関連した内容を非公開として受け入れたが、これは合意が被害者中心、国民中心ではなく、政府中心で行われたことを示している」(韓国聯合ニュース)と受け取っている。その上で、「韓国政府が少女像を移転し、第三国で追悼碑を設置しないよう関与し、性奴隷の表現を使用しないよう約束したわけではないが、日本側がこうした問題に関与できる余地を残した」と評している。すなわち、非公開部分の多くの内容は韓国側の事情でこれまで公開されなかったことを暗に認めているわけだ。

 中央日報は、「非公開の外交文書を合意2年後に公開するということに法的な問題はないだろうか」と韓国政府に疑問を呈している。同紙によると、「公共機関の情報公開に関する法律」では、「国家の安全保障・国防・統一・外交関係などに関する事項として公開される場合、国家の重大な利益を顕著に害する恐れがあると認められる情報(第9条2項)」を非公開にした。そして「外交文書公開に関する規則」には、外交文書を30年間非公開にして、その後の外交文書公開審議会の審査を経て一般に公開することができるように定めているという。

 日韓合意は2015年12月だ。2年という短い期間後、韓国は国内事情もあって日韓の外交合意の非公開内容を公表したことになる。中央日報記者でなくても、この点こそ韓国外務省直属作業部会がまとめた検証報告書の最大の問題点といわざるを得ない。  

「法王」に残された時間はあるか

 2017年もあと数日を残す余りとなった。今年10月は、マルチン・ルター(1483〜1546年)が当時のローマ・カトリック教会の腐敗を糾弾し、「イエスのみ言葉だけに従う」といった信仰義認を提示し、贖宥行為の濫用を批判した「95カ条の論題」を発表して500年目だった。ルターの宗教改革が欧州のキリスト教会、そして世界の教会に大きな衝撃を投じたことは周知の事実だ。ルターの出身国ドイツではローマ・カトリック教会とプロテスタント教会がほぼ拮抗している。ルターの登場は世界のキリスト教会を新旧両教会に更に分裂させる切っ掛けともなったわけだ。

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▲バチカンのサン・ピエトロ広場でのクリスマス礼拝(2017年12月25日、オーストリア国営放送から)

 ところで、ここではルターの宗教改革を振り返るのが目的ではない。新年(2018年)はローマ法王フランシスコが教会の刷新に本格的に取り組む年となりそうだというテーマだ。フランシスコ法王は来年、世界12億人以上を擁するローマ・カトリック教会の改革者として、これまで以上に強い言動が予想されるのだ。

 ドイツ出身のベネディクト16世が生前退位した後、アルゼンチン出身のベルゴリオ枢機卿が2013年3月、ペテロの後継者、第266代の法王に選出されて4年が過ぎてしまった。今月17日で81歳となったフランシスコ法王にはもはやあまり時間がない。
 フランシス法王はコンクラーベ(法王選出会)で激しくカトリック教会の腐敗、堕落を糾弾し、その爆弾発言が枢機卿たちの心をとらえ、法王に選出された経緯がある。フランシスコ法王の使命はバチカン法王庁の刷新であり、聖職者の未成年者への性的虐待事件などで揺れる教会の信頼性回復、抜本的改革にあることは本人も自覚しているはずだ。歴代初めて貧者の聖者、アッシジのフランチェスコの名前を法王名に付けたフランシスコ法王は教会の改革者の道を歩みだしたわけだ。

 フランシスコ法王の教会刷新はルターの宗教改革に匹敵するかもしれない。すなわち、多くの抵抗に直面するという意味でだ。フランシスコ法王がここにきて焦ってきているのを感じる。時間との戦いだ。もっと現実的に表現すれば、フランシスコ法王の健康問題だ。10年の時間はもはや残っていないだろう。最大5年の時間かもしれない。膝を悪くし、手助けがなくては立ち上がるのが厳しいとしても、まだ動けるうちに、教会の改革に取り組まなればならないからだ。

 フランシスコ法王は今月21日、枢機卿や司教たちが参席する場ではっきりと警告を発している。

 「この場に教会の刷新を阻止するキャリア主義者、無価値、利己主義者、そして不従順者がいる。どれだけ忍耐と献身が必要なのか。ローマ(バチカン法王庁)で改革する仕事はエジプトのスフィンクスを歯ブラシで磨くのと同じだ」

 フランシスコ法王は2014年でも同じようにバチカンの高位聖職者に向かって「法王庁病に取りつかれた者よ、がんの腫瘍だ。最終的に教会ばかりか自分をも破壊させる」と警告を発したことがあった。今年はそれに匹敵する内容だが、それより直接的であり、攻撃的だ。そしてローマ法王への忠誠を強調している点が新しい。換言すれば、バチカンの改革に乗り出す法王に対する批判、不従順が顕著となってきたことに対するペテロの後継者の必死の叫び声といえるだろう(「バチカンで今、何が起きているか」2017年7月3日参考)。

 ちなみに、ヨハネ・パウロ2世時代(1978〜2005年)、ローマ法王は絶対に誤らないという「法王不可謬説」があった。ローマ法王の言動を批判する聖職者や信者は破門されてきた歴史があるが、フランシスコ法王時代に入り、ローマ法王の神学的過ちなどを堂々と指摘する高位聖職者が増えてきているのだ。

 例えば、フランシスコ法王が2016年4月8日、婚姻と家庭に関する法王文書「愛の喜び」(Amoris laetitia)を発表した時だ。256頁に及ぶ同文書はバチカンが2014年10月と15年10月の2回の世界代表司教会議(シノドス)で協議してきた内容を土台に、法王が家庭牧会のためにまとめた文書だ。その中で「離婚・再婚者への聖体拝領問題」について、法王は、「個々の状況は複雑だ。それらの事情を配慮して決定すべきだ」と述べ、最終決定を下すことを避け、現場の司教に聖体拝領を許すかどうかの判断を委ねた。

 法王文書の内容が明らかになると、4人の枢機卿は昨年9月、フランシスコ法王に一通の書簡を送り、離婚・再婚者への聖体拝領問題について、「法王文書の内容については、神学者、司教たち、信者の間で矛盾する解釈が生まれてきている」と苦情を述べ、別のところでは、「法王が発表した文書とそれに関連した発言は婚姻、道徳、聖体拝領に対する異端的な立場だ。フランシスコ法王の思想には道徳的真理を相対化するモダン主義とマルティン・ルター(異端者)の影響がある」といった内容の批判すら聞かれた(「フランシスコ法王は異端者?」2017年11月2日参考)。

 フランシスコ法王は、官僚主義に流れ、古い教義に固守した教会の体質を刷新できるか、法王選出5年目を迎える2018年は大きな正念場を迎えることになる。
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トランプ大統領の“警告”の限界

 トランプ米大統領は6日、イスラエルの米大使館をテルアビブからエルサレムに移転すると発表、イスラエルの首都をエルサレムとする意向を表明したが、中東アラブ・イスラム諸国から強い反発の声が挙がっている。東エルサレムを将来のパレスチナ国の首都と考えているパレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長は、「米国の和平交渉には今後応じない」と宣言しているほどだ。

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▲国連緊急特別総会(2017年12月21日、国連公式サイトから)

 国連安保理事会で18日、米国の「エルサレム首都」認定の無効を明記した決議案が、米国の拒否権で否決されると、国連緊急特別総会が21日招集され、無効案が採決された。加盟国193カ国中、無効賛成が128カ国、反対9カ国、棄権35カ国、欠席21カ国だった。ただし、安保理決議とは異なり、総会決議には拘束力はない。

 それに先立ち、トランプ大統領は、「米国の案に反対する国には今後経済支援をしない。毎年、数百万、数千万ドルの支援を米国民の税金から支援を受けている国が米国の案を支持しないということは考えられない」と述べ、国連総会の採択で米国の「エルサレム首都」認定の無効に賛成した国は覚悟すべきだ、といった脅迫外交を展開した。その結果、棄権票、欠席票は予想外に増えたが、トランプ氏の脅迫外交の勝利とまでは言えない。無効案が勝利した事実には変わらないからだ。

 そこで国連総会の採決結果について少し詳細にみていく。米国の「エルサレム首都」認定を支持し、その無効案に反対した9カ国は、米国、イスラエルの2カ国の他、グアテマラ、ホンジュラス、マーシャル諸島、ミクロネシア、パラオ、ナウル、トーゴだ。ちなみに、中米グアテマラのモラレス大統領は24日、テルアビブにある同国大使館をエルサレムに移転すると発表している。

 一方、棄権国にはウガンダ、南スーダン、マラウイなどアフリカ諸国が多かったが、ポーランド、チェコ、オーストラリア、フィリピン、カナダ、アルゼンチン、メキシコなども含まれている。欠席国は総会の採決に外交官が姿を見せなかった加盟国だ。その数が21カ国だ。棄権国、欠席国は経済的に米国に依存している小国、ないしは伝統的な親米国家、米国の近隣諸国といえるだろう。

 トランプ大統領の“警告”にもかかわらず、無効賛成が過半数を占めることは事前に予想されていた。57カ国から構成されるイスラム協力機構(OIC)が賛成するだろうし、安保理でも15カ国中、反対票は米国一国だけだったからだ。

 例えば、安保理決議案を提出したエジプトは親米派であり、同時にOIC加盟国の一員だ。同国は米国から年間、13億ドルの軍事支援を受けている国だ。無効賛成票を投じれば、米国から支援が途絶えるのではないか、といった不安もあったはずだ。ただし、米国の対エジプト軍事支援は米議会で決定された法に基づくもので、トランプ氏が大統領令で停止することはできない。また、エジプトは対イスラム過激テロ戦線で重要な役割を果たしている国だ。トランプ氏も自身の警告をたやすく実行に移すことはできないだろう、というエジプト側の読みがあったはずだ(オーストリア日刊紙プレッセ12月22日参考)。エジプトは無効賛成に票を投じた。

 トランプ大統領は、クリスマスの前に外交勝利をして家族と共にクリスマス休日を楽しみたいと願っていただろうが、「エルサレム首都移転」案は世界で強い反対があるという事実を改めて噛み締める結果となったわけだ。

 米国が財政的に支援している国が米国の政策に反対することは許されない、と考えるトランプ氏の論理はある一面で筋が通っている。特に、経済の世界では資本力のある大企業が選択権を有する。資本の乏しい企業は大企業に吸収されていくか、消滅する。資本主義社会はワイルドだ。強い者(企業)が勝つ世界だ。

 しかし、外交の世界では経済界の支配原理が即活用できない。特に第2次世界大戦後、世界は帝国主義から民主主義世界に入り、大国は弱小国家に対等の権利を付与する傾向が強まってきた。国連193カ国の各国は小国でも大国・米国と同じ一票を持っている。ワイルドな資本主義社会の実業家出身トランプ氏は外交世界でその経済パワーを発揮し、相手を脅迫することはできないわけだ。これは、米保守派の間で聞かれる「国連無用論」の根拠ともなっている内容だ。 

「サンタクロース」と「クリスマス」の関係

 11月中旬から始まったサンタクロースのシーズンは過ぎ去り、25日はようやくイエスの誕生日だ。クリスマスを迎える直前まで、欧州ではショッピングに明け暮れた人々が少なくない。24日夜か25日になれば、プレゼントを交換しなければならないからだ。だから、サンタクロースの歌声に乗ってショッピング街を彷徨ってきた。

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▲甘いチョコレートケーキの上にもサンタクロース(2017年12月24日、撮影)

 ところで、なぜイエスの誕生日にプレゼントを交換しなければならないのか、真剣に考えた人は多くはないだろう。クリスマスとサンタクロースはペアを組んでいるのだ。厳密にいえば、サンタクロースがクリスマスを利用しているといった方が当たっているかもしれない。しかし、「そんなことはどうでもいい。やっと、クリスマスを迎えたのだから」と多くの人は苦笑しながら言うだろう。

 欧州では昔、サンタクロースはクリスマスシーズンにはいなかったが、米国からクリスマスソングと共に、欧州にやってきた。25日のイエスの誕生日とサンタクロースは本来、まったく別だが、いつの間にか両者は一つとなった。サンタクロースが届けるプレゼントがないクリスマスはもはや考えられなくなったからだ。

 当方の居間からクリスマスソングが流れてきたが、欧州生まれのソングはあの「聖夜」ぐらいで、クリスマスに口ずさむ多くのクリスマスソングは米国生まれだ。米国のクリスマスソングに乗って、サンタクロースが欧州でもその役割を果たす。

 イエスの33歳の生涯やその使命について、喧騒な日々を忘れ、クリスマスシーズンに少しは考えてもいいのだが、米国生まれの消費文化はそんなことを許さない。いかにアイデアのあるプレゼントをクリスマスの日に手渡すかが最大の関心事だからだ。
 誰がこんなクリスマスにしたのか、と厳しく追及したとしても今日(25日)はクリスマスの日だ。サンタクロースはその仕事を終えて既に戻っていった。欧州ではサンタクロースに代わってクリストキントが子供たちにそのプレゼントを渡す日だ。

 ウィ―ン市庁舎前広場の欧州最大のクリスマス市場は今月31日のシルベスター(大晦日)に向けて衣替えをする。プンシュの代わりに豚の小物が露店を飾る。全てベルトコンベアーに乗って事は進む。

 クリスマスシーズンを彩る市場も今後、「クリスマス市場」とは呼ばず「冬の市場」と呼ぼうという声が聞かれる。クリスマスシーズンを「クリスマス」を付けて呼ぶ必要性を多くの人々はもはや感じなくなってきたからだ。

 欧州ではキリスト教文化がこれまで定着してきたから、路上で挨拶する時も「Gruess Gott」というのが一般的だったが、ここにきて事情が変わってきた。大学で学生が「教授、Gruess Gott」と挨拶すれば、返事をしない教授がいるという。学生が慌てて「グーテンターク」と言い直すと、「グーテンターク」と挨拶を返すのだ。存在もしないキリスト教の神の名で挨拶されたくない、というのだろう。

 クリスマスはサンタクロースにその主導権を奪われ、サンタクロースと業務提携するアマゾンは益々巨大化する一方、神は人々の日常生活から追放されていく。
 「欧州キリスト教文化の世俗化」という表現で問題が解決するわけではない。なぜならば、人は日常生活からかけ離れた何か“神性な”ものや存在に強い憧憬心を抱いているからだ。クリスマスにもはや神性さを感じなくなったとすれば、われわれはそれに代わる何か神性なもの、存在を緊急に探し出さなければならなくなる。

 メリー・クリスマス!

プラハで欧州の極右党指導者会合

 チェコの首都プラハで今月中旬、欧州の極右政党指導者が結集した。欧州議会の政治会派「国家と自由の欧州」(ENL)の会合だ。
 ENLに所属する極右政党指導者は現在の欧州連合(EU)が加盟国の主権を蹂躙しているとしてEUの終わりを主張する一方、反難民、反イスラム教をその基本政策としている。

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▲議会で演説をするシュトラーヒェ副首相(自由党党首)=2017年12月20日、自由党公式HPから 

 同会合のホストはチェコの日系人トミオ・オカムラ氏の極右政党「自由と直接民主主義」(SPD)だ。SPDは10月20、21日の両日に実施された下院選挙で得票率10・6%を獲得し、第4党に躍進した。
 同会合にはフランスの欧州議会議員で「国民戦線」のマリーヌ・ル・ペン党首、オランダの反イスラム教を主張する極右政党「自由党」のヘルト・ウィルダース氏らが集まった。

 ただし、今年1月、ドイツのコブレンツで開かれたENLに参加した「ドイツのための選択肢」(AfD)は今回欠席した。それだけではない。欧州の極右政党集会といえば、常に顔を出してきたオーストリアの極右政党「自由党」のハインツ・クリスティアン・シュトラーヒェ党首の姿がなかった。同国ではクルツ新政権が発足する直前で、プラハの会合に顔を出す時間がなかったからだ。同党首はクルツ新連立政権で副首相に就任した。

 ちなみに、ル・ペン党首は、「オーストリアの自由党の政権入りは欧州にとってグッド・ニュースだ。歴史的な出来事だ」と高く評価し、ウィルダース氏は、「オーストリアの勝利で欧州議会でのENLへの評価が高まる」と歓迎している。

 会合では、チェコ、ハンガリー、ポーランドが難民受け入れのためのEU案を拒否していることに対し、オカムラ氏は、「受け入れで、欧州がイスラム教に植民地化されることになる」と指摘し、東欧諸国の難民受け入れ拒否は当然と主張。ウィルダース氏も東欧の立場に理解を示している。

 ところで、オーストリアの自由党からシュトラーヒェ党首だけではなく、自由党事務局長でENL副代表、欧州議員のハラルド・ヴィリムスキ氏も日程の都合でプランの会合に参加しなかったことから、クルツ新政権に参加した自由党は2019年の欧州議会選後、ENLから脱退するのではないか、という憶測が流れている。クルツ政権の第1与党「国民党」出身のカラス欧州議会議員は「自由党はENLから脱退すべきだ」と要求している一人だ。

 クルツ新首相は政権発足直後、ブリュッセルに飛びジャン=クロード・ユンケル委員長と会合し、オーストリアの新政権が親EUであることを通達している。自由党のプラハ会合欠席も同党が欧州の極右政党の反EU路線に一定の距離を置くことを示した最初の決定ではないかと受け取られている。

韓国の来賓には椅子の高さにご用心

 あまりにもバカバカしいので日本のメディアもさすがにあまり関心を示していないが、ゲストとして訪日し、安倍晋三首相を表明訪問した際、韓国政治家が座った椅子が安倍首相の椅子より明らかに低かった。これは韓国を見下す日本側の意図的な画策だ、といった批判の声が聞かれるという。もちろん、韓国でだ。

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▲安倍首相より低い椅子に座らされた洪準杓自由韓国党代表(2017年12月14日、東京の首相官邸で、写真・自由韓国党から)

 それでは、なぜそのバカバカしいテーマを当方は書き出すのかというと、あまりにもバカバカしくて涙が出そうになったので、涙を拭くために韓国の椅子の高さ騒動をアウトプットし、心の平静さを取り戻そうと考えた次第だ。

 韓国の政界では過去、訪日した際、自分が座った椅子が会見相手の日本政治家より低かったという証言があった。今回その椅子の高さ論争に再び火を点けたのは今月14日、野党・自由韓国党の洪準杓(ホン・ジュンピョ)代表が安倍首相を表敬訪問した時だ。同代表の椅子が明らかに安倍首相より低かったことが分かると、韓国メディアが早速、報道し、その記事はアクセス数でランキング1位となっているのだ。

 椅子の高さ騒動は康京和(カン・ギョンファ)外交部長官が今月19日、就任後初の訪日で安倍首相と会談した時にも飛び出してきたことから、椅子の高さ論争は日韓関係を一層揺るがす一大事となってきたのだ。

 以下、中央日報の記事を紹介する。
 「就任後、初めての訪日で安倍首相を表敬訪問した韓国の康京和外交部長官も、安倍首相より低い椅子に座ったことが確認され、『外交的欠礼』という声が出ている。安倍首相は花柄が入った高いソファに座ったのに対し、康京和外交部長官は低いピンク色のソファに座った。安倍首相が自然に康京和長官を見下ろすような姿になるが、これは意図的にしたものではないかという声が韓国政界で出ている」 

 洪準杓代表が座っている写真が中央日報に掲載されていた。確かに、安倍首相の椅子より同代表のそれは貧弱な感じはするし、高さは韓国メディアが報じたように、低く見える。
 年末で超多忙の安倍首相側に「意図的に低い椅子を用意する」といった画策を弄する時間はなかったはずだ。時間があったのはゲストの韓国側だったために、椅子の高さが大きな争点に浮上した、というのは事の真相だろう。

 日韓両国には椅子の高さ以外に議題がないとすれば、それもいいだろうが、実際は多くの議題を抱えている。朝鮮半島は危機に直面している。同時に、日韓両国には厄介な歴史問題も抱えている。例えば、日韓両外相(岸田文雄外相と尹炳世韓国外相=いずれも当時)は2015年12月28日、慰安婦問題の解決で合意に達し、両政府による合意事項の履行を前提に、「この問題が最終的、不可逆的に解決することを確認する」と表明している。日本側としてはソウルからのゲストに、「日韓合意の進展具合はどうですか」と聞いてみたいところだろう。それが、日韓政治家の椅子の高さ論争に歪曲されてしまったのだ。これこそ韓国側の“意図的な”議題操作ではないのか、という憶測が日本側に飛び出したとしておかしくないはずだ。

 韓国のゲストが「自分が座る椅子が低い」と感じる症候群は何を象徴しているのだろうか。ジークムンド・フロイト(1856〜1939年)やアルフレッド・アドラー(1870〜1937年)の精神分析の助けを受けなくても、「韓国側の椅子論争の背後には、日本への強烈なライバル心とその裏返しの劣等感がある」という診断が下されるだろう。しかし、それらは久しく指摘されてきたことだ。

 蛇足だが、スイスのジュネーブの国連欧州本部の正面入口には有名な大きな「壊れた椅子」が飾られている。スイスの芸術家の彫刻作品だ。椅子の片足が壊れているが、これは地雷の犠牲者を象徴しているといわれる。すなわち、「壊れた椅子」には明確な政治的メッセージを込められているわけだ。
 「壊れた椅子」だけではない。椅子は社会的地位や立場を表示しているケースが少なくない。会社の地位が上がれば、椅子もそれなりに豪華になり、ひょっとしたら椅子の高さも変わるかもしれない。韓国の政治家が椅子の高さに拘るのはある意味で当然かもしれないが、その反応が少々極端なのだ。

 韓国人は忘れている。韓国は世界有数の輸出国であり、その文化は世界を感動させるものを多く含んでいる。どうか自信をもってほしい。どの国もいい点と悪い点がある。日本と比較する癖から脱皮すべきだろう。日本も多くの問題を抱えているのだ。比較するのではなく、助け合って足りない部分を相互補う関係をそろそろ築こうではないか。

イスラム系移民のユダヤ人憎悪

 ドイツで反ユダヤ主義といえばこれまでネオナチや極右派の専売特許といった感じだったが、ここにきてユダヤ人への憎悪はドイツに住むイスラム系移民によるものが増えてきた。独週刊誌シュピーゲル最新号(12月16日号)が5頁にわたってドイツの反ユダヤ主義の現状をルポしている。以下、その概要を紹介する。

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▲踊りだしたパレスチナの人々(2012年11月29日、ウィーン国連内にて撮影)

 トランプ米大統領は今月6日、イスラエルの米大使館をテルアビブからエルサレムに移転させると表明、エルサレムをイスラエルの首都と認定する意向を表明したが、その直後、ドイツ国内のパレスチナ人などアラブ系住民が一斉にデモ行進し、強い不満を表明したばかりだ。一部で、デモ参加者はイスラエルの国旗を焼き、トランプ大統領の写真を破るなどした。シュピーゲル誌によると、1人のパレスチナ人女性は、「エルサレムはイスラエルの首都ではない。イスラエルの首都は地獄だ」と激怒している。

 ドイツでは反ユダヤ主義の言動で告訴された件数は年平均1200件から1800件だ。これまでその90%は極右派グループやネオナチたちの仕業だったが、「過去2年間でイスラム系住民の反ユダヤ主義の言動が増えてきている」という。
 2年前といえば、2015年、100万人を超える中東・北アフリカ諸国からのイスラム系難民がドイツに殺到した時期と重なる。だから「イスラム系難民の収容は反ユダヤ主義を輸入したことになった」という見解が出てくるわけだ。

 与党「キリスト教民主同盟」(CDU)の幹部、イエンス・シュパーン氏は、「多くの難民は反ユダヤ主義が社会に深く刻み込まれたアラブ諸国から来た人たちだ。彼らは母国でユダヤ人は悪魔だ。世界の悪はユダヤ民族の仕業だといった教育を小さな時から受けてきている」と指摘。ドイツ治安関係者も、「アラブ系住民のユダヤ人憎悪は深刻なテーマだ」と主張しているほどだ。

 ドイツに住むユダヤ人たちは反ユダヤ主義が拡大してきたことを受け、キッパ(Kippa、男性が被る帽子のようなもの)などユダヤ教のシンボルを身に着けない、公共の場でヘブライ語を喋らない、といった危機管理に乗り出している。また、学校でイスラム系生徒からモビング(嫌がらせ)されたユダヤ系生徒は学校を移り、私立学校に転校するケースが出てきている。ユダヤ系家庭では子供が誕生してもユダヤ系と分かる名前を避ける傾向すら出てきているという。

 メルケル首相は、「如何なる反ユダヤ主義的言動に対しても厳格に処罰しなければならない」と警告を発し、治安関係者は、「極右派による反ユダヤ主義的言動だけではなく、イスラム系の反ユダヤ主義にも対応しなければならない」と強調している。
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