ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2018年02月

「宗教」と「メディア」は案外似ている

 「宗教」と「メディア」は全く別分野であり、時には対立関係に陥ることもあるが、実際はよく似ている。宗教は「これこそ真理」と宣布し、信者たちにその教え(よき知らせ)を伝達する。一方、メディアは「正しい報道」、「客観的な報道」をキャッチフレーズに読者に真実を伝える媒体であると自負している。

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▲ミケランジェロの「最後の審判」

 宗教の真理とメディアが報じる真実ではその対象が異なるが、「正しいことを伝える」と考えている点で酷似している。その正しい内容の受け手は宗教では「信者」であり、メディアでは「読者」、「視聴者」だ。信者も読者、視聴者も自分が今、読んでいる内容、見ているものが間違っているとは通常、考えない。

 ちなみに、不動産王のドナルド・トランプ氏が第45代米大統領に就任して以来、「フェイク」という言葉がメディアの世界で頻繁に聞かれる。「大統領の言っている内容は事実ではない」とか「大統領の発言はフェイク情報だ」といった指摘がメディアの世界でよく囁かれる。特に、リベラル派のメディアはトランプ氏の発言やツイッターから間違い探しに奔走する。あたかも、誤報が真実より大切というばかりにだ。

 宗教とメディアで異なる点は、メディアは速報を重視する。どのメディアが先に報じたかを重要視する。一方、宗教では速報性は余り重視されない。むしろ、急変する時代にあっても変わらない内容を売り物にする。
 ただし、ソーシャル・ネットワークの時代に入って、宗教界でも次第に速報性を大切にし始めた。世界最大の宗派、ローマ・カトリック教会のフランシスコ法王はツイッターを駆使し、インターネット礼拝はもはや珍しくなくなってきた。

 オーストリアのカトリック週刊誌「フルへエ」(Die Furche)とのインタビューの中で、ドイツの著名な宗教哲学者ハンス・ヨアヒム・へ―ン氏は、「自身がそうあってほしい、そう感じていることと一致するものを真実と受け取る傾向がでてきた」と指摘し、「Wahrheit der Stimmungen」(雰囲気やその場の空気が生み出す真理)と呼んでいる。
 参考までに、欧米社会で席巻するポピュリズムとは、その時代の願い、考えを一早くキャッチし、その風の流れを加速させる言動をとることを意味する。

 近代法王の中でも最も神学に精通したローマ法王、ドイツ人のベネディクト16世は「価値の相対主義」を頻繁に警告しきた。宗教は「価値の相対主義」には批判的だ、なぜならば、自身の信仰が唯一正しいと信じているからだ。カトリック教会の「真理の独占」という教理に通じる。その是非は別として、その主張には一貫性がある。一方、リベラルなメディアは表面上は価値の相対主義を支持する。それが寛容な姿勢だと考えるからだ。しかし、自身の報道が常に正しいと信じているから、一種の自家撞着に陥るケースが出てくる。

 カナダのトロント大学ジョルダン・ピーターソン心理学教授は、「世界は物体からでも、観念からでも成り立っているのではなく、信じることから始まった」という趣旨の内容を語っていた。宗教は「信じること」が生命線だ。一方、価値の相対主義が席巻する社会では、メディアは寛容な姿勢を装いながら、自身の報道内容が正しいと信じている。現代のメディアは宗教の世界に案外、似ているのだ。もう少し説明すると、メディアに従事するジャーナリストが特定の政治信条のミッショナリー( missionary、宣教師、伝道師)となってしまうケースが見られることだ。

北の非核化は金王朝崩壊後に実現

 韓国平昌冬季五輪大会は25日夜、17日間の日程を終えて幕を閉じたが、韓国の文在寅大統領は閉会式前、北朝鮮の高官代表団と1時間余り会談した。韓国大統領府関係者が26日明らかにしたところによると、文大統領は北側に非核化の必要性を伝えたという。それに対し、北高官代表団長の金英哲朝鮮労働党副委員長兼統一戦線部長は非核化については何も言及せず、南北対話の重要性を指摘しただけに留まったという。非核化は北側にとって南北間のテーマではなく、米朝間で話し合うべき問題という立場を取っているから当然の反応だろう。

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▲北朝鮮使節団と協議するIAEA査察関係者(ウィーンのIAEA本部で撮影)

 興味を引いた点は、北側が米国との対話については「用意はある」と答えたことだ。それに対し、サンダース米大統領報道官は同日、北側の発言に対し、まず非核化の実施が重要だという従来の姿勢を繰り返すだけに留めた。米国は北の対話政策が時間稼ぎに過ぎないと受け取っているからだ。実際、トランプ大統領は23日、国連安保理決議の制裁逃れの密輸に関わった56の船舶や海運会社などに、新たな制裁措置を発表したばかりだ。

 ここで文大統領が北側に提案したという非核化の2段階行程表(ロードマップ)を考えてみたい。簡単に説明すれば、1段階目は核・ミサイル関連活動の凍結(モラトリアム)だ。2段階目に入って、実際の非核化プロセスに入る。文大統領の2段階の非核化構想は新しい提案ではなく、米朝間で過去、何度か話し合われ、最終的には暗礁に乗り上げた内容だ。

 それでは、米朝会談が開催され、何らかの合意が実現される可能性は皆無かというと、そうとは言えないのだ。今年11月に中間選挙(大統領選の中間年に実施される連邦議会や州知事など)を迎えるトランプ氏にとって、外交実績を積むという点で北との合意はプラスと考えるかもしれないからだ。

 北の非核化の場合、問題は北の核関連施設に対する監視体制だ。この場合、ウィ―ンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)が主要な役割を果たすことになる。北の非核化を監視するためにはIAEAの追加議定書に基づく特別査察の実施が不可欠だ。

 IAEAと北朝鮮の間で核保障措置協定が締結されたのは1992年1月30日だ。IAEAは1993年2月、北に対し「特別査察」の実施を要求したが、北は受け入れを拒否し、その直後、核拡散防止条約(NPT)から脱退を表明した。その後、1994年に米朝核合意が一旦実現し、北はNPTに留まったが、ウラン濃縮開発容疑が浮上し、北は2002年12月、IAEA査察員を国外退去させ、その翌年、NPTとIAEAから脱退を表明した経緯がある。
 そして2006年には、6カ国協議の共同合意が実現され、北の核施設への「初期段階の措置」が承認され、IAEAは再び北朝鮮の核施設の監視を再開したが、北は09年4月、IAEA査察官を国外追放した。

 それ以降、IAEAは北の核関連施設へのアクセスを完全に失い、現在に至る。すなわち、IAEAは過去9年間、北の核関連施設への査察活動ができなかった。IAEAには現在、北の寧辺核関連施設の査察経験がある査察官はほとんどいない。米国の監視衛星の写真を基に北の核活動をフォローしてきただけだ。寧辺核関連施設4号室を査察したIAEA査察官は既に退職した。そこでIAEAの天野之弥事務局長は昨年8月、査察局内に北朝鮮の核関連施設への専属査察チームを発足させたわけだ。

 いずれにしても、IAEAの査察が実際再開されるまでにはまだ時間がかかるだろう。北は日韓米の結束を破り、対北制裁の緩和を何とか実現しようと腐心することは目に見えている。

 最後に、金正恩氏は大量破壊兵器の一時凍結に応じたとしても、非核化は拒否するだろう。北の通常兵器は古く、脆弱であり、隣国・韓国軍の近代兵器体系には太刀打ちできない。国民経済の復興までには時間がかかる。そのような状況下で、核兵器こそ唯一の北のセールスポイントだ。それを安易に捨てることはないだろう。

 国際社会の制裁に直面して、北の政治、経済情勢は次第に厳しくなってきている。日米韓は北の甘い招きには要注意だ。トランプ大統領が主張するように、制裁を継続し続けることが現時点では最も効果的な非核化プロセスだ。実際の北の非核化は金王朝独裁体制が崩壊した後に実現される、と考えるべきだろう。

平昌冬季五輪の感動と「その後」

 韓国江原道平昌で開催された第23回冬季五輪大会は25日、17日間の日程を無事終え、閉幕した。22年の次期冬季五輪開催地は北京だ。それに先立ち20年には東京夏季五輪大会が開かれる。4年に1度開催されるスポーツの祭典、五輪大会が平昌大会を含めて3回連続アジアで開催されることは初めてのことだ。アジア地域が世界の発展の原動力となっていることを象徴的に示すものとして、アジアの国民の1人として素直に喜びたい。

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▲閉会式に参加したイバンカ・トランプ米大統領補佐官(2018年2月25日、ドイツ公営放送の中継から)

 17日間の平昌大会では、フィギュアスケート男子の羽生結弦選手の2大会連覇はやはり記憶に残った。66年ぶりの偉業だ。一方、当方が最も感動したのはスピードスケート女子500メートルの小平奈緒選手の言動だ。勝利した直後の同選手のコメントを聞いて思わず涙腺が緩んでしまった。日韓両国関係は厳しいが、小平とライバルの李相花選手との交流史は感動的だった。

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▲閉会式に行進する南北の選手たち(2018年2月25日、ドイツ公営放送の中継から)

 李相花選手は競技前までライバルの小平選手を記者会見でも「あの人」と呼び、名前を呼ぶのを恣意的に避けてきたという。そして試合後、李選手は「小平」と名前が呼ぶことができた。地元韓国選手として李相花への国民的期待は大きかった。その圧力から解放された李選手は小平選手の勝利を心から「誇らしく思う」と語ることができたという。内外の圧力に屈せず健闘した李選手の強靭な精神力に脱帽する。小平選手と李選手の友情は日韓の「未来志向の関係」を強く示している。

 女子スキーではスーパー大回転で勝利し、そしてスノーボード女子パラレル大回転でも金メダルを取ったチェコのエステル・レデツカ選手の活躍には驚いた。異種目競技で金メダルを取るなどこれまで考えられなかったことだ。レデツカ選手は“スキーの大谷翔平選手(大リーグのロサンゼルス・エンゼルス所属)”のような存在だ。

 日本は10個を獲得した長野冬季五輪を上回る13個のメダル(金4、銀5、銅4)を獲得できた。当方が住むオーストリアは14個のメダル(金5、銀3、銅6)を獲得した。特に、アルペンスキーの王者マルセル・ヒルシャー選手は得意の回転で途中失格となったが、大回転と複合で2個の金メダルを獲得し、アルペン王者の面子を保てたことは朗報だ。スポーツの大イベント、五輪大会では多くのドラマが生まれた。喜びと感動を提供してくれた選手たちに感謝したい。

 平昌冬季大会は終わった。冬季パラリンピックは来月9日から10日間の日程で始まる。五輪史上最高の経費を投入して開催されたソチ大会(ロシア)でもそうだったが、五輪開催後の関連施設の使用問題は大きな課題だ。メインスタジアムを含む五輪関連施設をいかに維持し、再利用するかは地元を含む関係者にとって頭の痛いテーマだ。将来の五輪誘致にも関連する問題だ。一方、国際オリンピック委員会(IOC)は競技開始時間と放送権の問題で再考が求められる。また、開催地の誘致問題で地元の利権問題と絡まって生じる不正問題の対策が急務だ。

 最後に、「平昌五輪」は「平壌五輪」と揶揄されるほど、政治色の濃い大会だった。北朝鮮の金正恩労働党委員長は韓国で開催される大会を最大限に利用し、融和攻勢をかけてきた。それに対し、韓国側は、北の選手の五輪エントリーから南北アイスホッケー女子の合同チーム結成まで、北側の要求を無条件で受け入れるなど、守勢を強いられた。
 核実験と大陸間弾道ミサイル発射で、国際社会から制裁下にある北朝鮮は開会式と閉会式に高官代表団を派遣し、南北対話をアピール。金正恩氏の妹、金与正党第1副部長は金正恩氏の親書を持参し、文在寅大統領を平壌に招待した。

 パラリンピック大会後、米韓軍事演習が再開される予定だが、五輪大会期間に示した北の融和政策がどのような展開を見せるか目を離せない。例えば、北は、日米韓の結束を崩すために文大統領の平壌訪問を積極的に推し進めてくる可能性が考えられる。スポーツの祭典の五輪大会は終わったが、朝鮮半島の政情はこれから大きな山場を迎えることになる。

月の「人工衛星説」に説明を求む

 海外中国メディア「大紀元」2月22日に衝撃的なニュースが掲載されていた。私たちがよく観る月が実は人工衛星の可能性があるというのだ。これは児童文学者の意見ではなく、宇宙を研究する科学者の意見だ。

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▲月は人工衛星か

 宇宙物理学者でもない当方はその記事の是非を判断する能力も知識もない。そこで手数をかけて本当に申し訳ないが、現在米ブラウン大学惑星地質・上級研究員の廣井孝弘氏に回答してもらえば幸いだ。

 先ずは、「月は人工の物体か?=科学者の推測(大紀元)」の記事を読んで頂きたい。

 記者は月に関する6点の謎を掲載している。 

 【その1】月はいつも同じ面を地球に向けている 

 古来から、世界中の各民族の天文学者は、月に対して、長期的で充分な観察を行ってきた。月の満ち欠けは、詩人が吟じる対象である以外に、農民が耕作する際に参考とする指標であり、中国の農歴は、月の運行周期28日を基礎とする暦法であった。
 ただ、人々ははるか以前から、月に関して大変面白い事実に気がついていた。月は常に同じ面をわれわれに向けているということである。
 これは、どういうわけなのだろうか? 長期的に観察してみると、月自体が自転しており、その自転の周期が地球の周囲を公転する周期と同じなのだ。したがって、月がどこにあろうと、われわれが地球から見た月は同一面であり、見える月面の陰影もいつも同じ模様なのである。

 【その2】月は太陽とほぼ同じ大きさに見える

 地球から見れば、月の大きさは、太陽の大きさとほぼ同じである。「金環日食」であれ「皆既日食」であれ、月が完全に太陽と重なると、ほぼ同じ大きさに見える。このとき、太陽の光がほぼ完全に遮断されて、地球上では白昼が突如暗黒に変わり、空に星の光が見えるようになる。

 天文学の研究によれば、太陽と地球との距離は、月と地球との距離の395倍であり、そして、太陽の直径は、ちょうど月の直径の395倍である。そのため、地球から月を見ると、太陽と同じ大きさに見えるのである。

 【その3】月は地球の衛星としては大きすぎる

 地球の直径は、1万2756km、月の直径は3467km、月の直径は地球の直径の27%に相当する。太陽系の中で比較的大きな惑星の周囲には、すべて衛星が運行しているが、9大惑星の中で、木星や土星のようなかなり大きな惑星の周囲を運行する衛星の直径は、その惑星に比べて非常に小さく、数百分の1にしかすぎない。それに比べ、月は地球の衛星としてはあまりにも大きすぎ、太陽系の中で特殊な存在である。

  【その4】月の年齢は地球よりも古いのか

 1969年にアポロ宇宙船が月面に到着してから、科学者らは宇宙飛行士の手を借りて、月の表面から岩石の標本を採取し、数多くの計測機器を月面に設置し、月の構造に関して、細かくデータ収集と分析を行った。

 採取してきた岩石標本を分析した結果、月の表面の岩石は非常に古く、ほとんどの岩石の年齢は、地球上の最も古い岩石よりも長く、43億年から46億年もあるということがわかった。

 月の表面の土壌を分析したところ、それらも非常に古く、岩石よりもさらに10億年古いものもある。科学者らは、太陽系が形成されたのは約50億年前のことだと推測しているが、月の表面の岩石と土壌はなぜそれほど古いのか?専門家たちは、首を捻っている。

 【その5】月の中心部は空洞である

 月に着陸した宇宙飛行士が、地球に帰還する際、月面で着陸用の小型飛行器に乗って宇宙船に戻った後、この小型飛行器を月に遺棄した。その際、小型飛行器が月に衝突して生じた震動が、72km離れたところに設置された地震計測器によってキャッチされた。その時、この震動は15分以上続いた。それはまるで、大きな金槌で鐘を叩いたようなもので、震動は長く続き、なかなか消えなかった。

  物理学の原理から言えば、空洞の鉄球を叩くと、震動が長く続くが、中まで詰まった鉄球を叩くと、震動は短時間で止まる。月の震動が長く続いたことから、科学者は月の中心が空洞なのではないかと考えるようになった。さらに、中まで詰まった物体が衝撃を受けると、2種類の波を測定できる。1種は縦波であり、もう1種は表面波である。しかし、中が空洞の物体は、表面波しか測定できない。月面に設置された地震計による長時間の記録の中に、縦波は観測されず、すべて表面波であった。これらのことから、科学者は、月の中は空洞状であると推定した。 

 【その6】月は金属の外殻に包まれている

 宇宙飛行士が、電動ドリルで月の表面に穴をあけようとしたところ、かなり硬くて、なかなかうまくできなかった。月の表面が土と岩石でできていれば、これほど硬くてあけにくいはずはない。その後の分析で、月の表面は固い金属で包まれていることが分かった。この金属は、宇宙船を造る時に使うチタンであった。このことから、月は、中心部が空洞の金属球であると推定されている。

 この発見から、専門家は、長い間解決できなかった問題に解答を得られた。月面に隕石の衝突による穴がたくさんあるが、不思議なことに、それらの穴は非常に浅いものばかりである。科学者の推算では、直径16kmの隕石が時速5万kmの速度で地球に衝突すれば、表面にその直径の4〜5倍にあたる60〜80km程度の深さの穴が形成されることになる。ところが、月面上で最も大きなガガーリン・クレーターは、直径が300kmもあるのに、深さはわずか6.4kmしかない。計算値から言えば、この大きさのクレーターを造りだした規模の隕石が地球上に衝突すれば、穴の深さは1200kmにも達するはずである。どうして月面上には、そんなに浅い隕石クレーターが存在するのであろうか?唯一可能な解釈は、月の表面が非常に硬いからである。月面から発見された金属成分が、この問題に良い説明を与えている。

 「月は人工の物体」

 旧ソ連の科学者はかつて、「月は、表面が改装された宇宙船である」という大胆な仮説を提出したことがある。この仮説が成り立てば、さまざまな月のなぞを全て説明することができるようになる。この大胆な仮説は、少なからぬ論議を招いたものの、現在の科学者はこの仮説を認めようとする勇気がないようである。しかし、月は自然に形成されたものでないことは確実である。

 月は、毎日同じ面を地球に向け、太陽と同じ大きさに見え、表面が硬い金属に覆われていて、長期間にわたって無数の隕石の衝突に遭っても姿が変わっていない。もし、自然の天体であるなら、このような特長は備えていないはずである。 


 以上。

 お忙しいところ申し訳ないが、専門家の立場から上記の謎について説明していただければ幸甚だ。月が人工衛星とすれば、誰が、いつ、なぜ、といった疑問が次々と湧いてくるのは避けられなくなる。

大連立問うSPD党員投票の開始

 ドイツの野党第1党「社会民主党」(SPD)は今、大きな山場を迎えている。SPDは今月7日、与党の「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)との大連立交渉で合意した。それを受けて今月20日から3月2日まで、合意内容(全177頁)について46万3723人の全党員に是非を問う郵送投票を実施中だ。メルケル首相が率いるCDU/CSUとの大連立政権が発足するかの最終決定は3月上旬の予定だ。

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▲新党首に選出された連邦議会(下院) 党会派代表のアンドレア・ナーレス議員(SPDの公式サイトから)

 SPD党員投票の結果、ゴー・サインが出た場合、CDU/CSUとの大連立政権は正式に発足する。もし、党員が反対した場合、大連立政権発足はその瞬間、消滅する。文字通り、党員が党だけではなく、ドイツ政界の行方を左右することになる。

 大連立交渉で合意した直後、党首を辞任し、外相に就任する予定だったシュルツ前党首は9日、大連立合意の是非を問う党員選挙に悪い影響を及ぼすことを避けるため、自主的に外相ポストに就任しない意向を表明した。シュルツ前党首はもともと「新政権下で如何なる閣僚ポストにも就任しない」と宣言していた。それだけに、外相就任は約束を反故にしたとして、党内の一部から激しい批判の声が聞かれていた。
 また、シュルツ前党首の後継にアンドレア・ナーレス連邦議会(下院) 党会派代表(47)が今月14日、党首代行に選出されたが(正式の任命は4月22日に開催される党大会で実施)、党内の一部から「党本部の一方的な人事」として批判的な声が飛び出した。党内の結束が緩み、混乱の様相を深めてきただけに、SPDの党員投票の行方が懸念されている。

 特に、社民党青年部(JUSO)ではCDU/CSUとの大連立政権に強い反対の声がある。前回の連邦議会選で得票率が急落したことを深刻に受け、「党の抜本的刷新の方が急務」というわけだ。メルケル首相の第4次政権発足を助けるのではなく、野党として党の刷新を優先すべきだという声は党内で次第に支持を広げている(SPDは昨年9月の総選挙で得票率20・5%と党歴代最悪の結果)。

 ところで、SPD党員が大連立を拒否した場合のドイツ政権の行方をここで少し考えておきたい。
 メルケル首相は連立パートナー失うから、‐数政権を発足する、∩挙をやり直す、の2通りしかない。,両豺隋安定政権は望めなく、遅かれ早かれ選挙を実施せざるを得なくなる。その場合だ。CDU内でメルケル首相の退陣を求める声が高まる可能性がある。CDUは前回の選挙ではSPDと同様、得票率を大きく失った。「自由民主党」(FDP)と「同盟90/緑の党」とのジャマイカ連立交渉に失敗し、SPDとの大連立も破綻した場合、メルケル首相に対して党内で退陣を求める声が飛び出すのは必至だ。CDU内で新しい党首探しが舞台裏で既に始まっている。(CDU/CSUは昨年9月の総選挙で第1党の地位こそ維持したが、前回2013年の得票率を8・6%減少)。

 一方、SPDは選挙直後の宣言通り、野党に下野する。複数の世論調査によれば、SPDは次期選挙で得票率20%を割ってしまうと予測されている。新党首の下で党を上昇気流に乗せることが急務となる。CDU/CSUとSPDの2大政党が停滞していると、右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が更に躍進する可能性が出てくる。

 いずれにしても、ドイツの行方は約46万人のSPD党員の判断にかかっている。彼らがどのような結論を下すか、まもなく明らかになる。

J・ピーターソン「宗教抜きの倫理・道徳はない」

 今最も注目されている心理学者といえば、カナダのトロント大学心理学教授ジョーダン・ピーターソン氏(Jordan Peterson 55)かもしれない。英紙ガーディアンは最近同教授とインタビューしていた。

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▲ジョーダン・ピーターソン教授(ウィキぺディアから、Adam Jacobs氏撮影)

 当方は教授の講話や大学での講義を動画サイトでみる程度で、教授の著書「Maps of Meaning」を直接読んだことはないので、教授の思想を体系的に説明できないが、教授の講義内容は非常に斬新で好奇心をくすぐる。以下、当方が関心を引いた教授の発言を少し拾ってみた。

 教授は宗教に関心を有している。特定の宗教授業に代わって道徳、倫理を教える学校が増えているが、「宗教を抜いた倫理、道徳は意味がない」と強調する。宗教や神話という枠組みを排除した倫理、道徳はそれを支える土台がないので空中に浮いているような状況だという。

 教授の発言を当方流に解釈するとすれば、倫理や道徳にドラマがなければ、その効用は少ないというのだ。アダムとエバから始まる聖書の世界やギリシャ神話のドラマが倫理・道徳を教える上で不可欠だというわけだ。
 教授によれば、世界は物体からでも観念からでも造られているのではなく、「信じること」から始まった。だから、教授は信仰と神話システム構造について心理学的側面を研究しているわけだ。

 教授の名を有名にした契機は、ジェンダー問題だ。欧米大学内でジェンダー論争は大きな影響を与えている。例えば、米国には男性と女性のジェンダーではなく、さまざまなジェンダーに関する表現、アイデンティティーが存在する。だから、相手を呼ぶ時、注意が必要となる。
 カナダで「ジェンダーの表現、そのアイデンティティーの保護はカナダの人権の基本的権利」と明記した「An Act to amend the Canadian Human Rights Act and the Criminal Code」 (Bill C-16, 2016)と呼ばれた法案が昨年、施行されたが、ピーターソン教授は反対の立場を表明し、注目された。

 「最近は複数で相手を呼ぶ傾向が出てきた」という。どのジェンダーか分からないからだ。間違ったジェンダー表現で話しかけたら反発されてしまう。だから、問題を回避するために複数で呼ぶ。

 教授はジェンダー表現とそのアイデンティティーの保護を法的に明記することに危機感を感じている。「全体主義的な世界につながる危険性がある」とまで指摘している。

 最近では、ポーランド国会が「ホロコースト法」を採決した。ユダヤ人強制収容所について「ポーランドの」といった呼び方をすれば刑罰を受ける(「ポーランドの『ホロコースト法案』」2018年2月2日参考)。この場合、「言論の自由」は制限される危険性が出てくる。一方、ジェンダー問題では特定の表現、アイデンティティーを強要する。教授は「前者より、後者の方がより危険だ」と主張する。砕けた表現をすれば、「言うな」と強要するより、「このように言え」と強要するほうがもっと危ないということだ。

 ピーターソン教授の世界を理解することは容易ではないが、教授が語る表現の斬新さとその視点は魅力的だ。教授はロシアの文豪フョ―ドル・ドストエフスキー、独哲学者フリードリヒ・ニーチェ、スイス心理学者カール・グスタフ・ユングが好きだという。講義ではそれらの作品や言葉がよく引用される。ちなみに、教授は進化論を信じているという。ならば進化論と宗教・神話の世界の整合性はどのようになっているのだろうか。

“大アルバニア主義”の台頭

 2018年2月17日、コソボがセルビア共和国から離脱し、独立国家宣言して10年目を迎えた。世界で最も若い独立国の祝賀集会が18日、コソボの首都プリシュティナで開催された。アルバニアからエディ・ラマ首相が出席し、演説の中でアルバニアとコソボの大併合の可能性を示唆した。バルカンで恐れられてきた“大アルバニア主義”が再び蘇ってきた、としてセルビアでは批判と警戒の声が聞こえる。

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▲大アルバニアの地図(ウィキぺディアから)

 コソボは独立して国家宣言するまでセルビア共和国に帰属する一自治州だった。同自治州では約90%がアルバニア系住民で占められている。セルビアのベオグラード政府がコソボの自治権を制限したことを受け、独立運動が拡大し、北大西洋条約機構(NATO)のベオグラード空爆まで、セルビアとコソボの間で民族紛争が続いた。

 ウィ―ンで開催されたコソボの将来を協議する外交交渉では、コソボ側はアルバニアとの併合の可能性を決して口に出さなかった。タブー・テーマだったからだ。コソボ側がアルバニアとの併合を示唆すれば、セルビア側の強い反発が予想され、コソボの独立交渉は即ストップする危険性があった。

 大アルバニア主義とは、アルバニア人が居住してきた歴史的な地域で、アルバニア、コソボのほか、マケドニア、モンテネグロ、セルビア、ギリシャの地域の一部も含まれる地域をひとつにしよういうものだ。通常、「民族的アルバニア」と呼ばれるもので、大アルバニア主義はその再現を標榜するものだ。

 そのタブーをアルバニアのラマ首相が破ったのだ。同首相はコソボの首都プリシュティナで、「アルバニアとコソボの政治・経済関係」の強化を主張、共同の外交と国防政策を提唱し、関税同盟、統一教育プログラムの実現を提案する一方、両国共同の大統領設置案を明らかにしたのだ。
 首相は、「共同大統領はあくまで象徴的なものだが」と付け加えたが、アルバニアの政治家がコソボとの併合を促すような提案を独立宣言の祝賀集会で表明したわけだ。

 独立国家を宣言して10年を迎えたコソボの現状は決して楽観的ではない。コソボを主権国家と認知している国はまだ114カ国で、ロシアやセルビアを含む80カ国以上が認知していない。欧州連合(EU)28カ国では5カ国が依然、承認を渋っている。スペイン、ギリシャ、スロバキア、ルーマニア、キプロスの5カ国だ。いずれも国内に少数民族を抱えている国々だ。

 それだけではない。アルバニア系住民と少数派民族セルビア系住民の間の対立は解消されていない。セルビア系住民が多数住むコソボ北部のミトロヴィツァ市(Mitrovica)で先月16日朝、セルビアの政治家オリベル・イバノビッチ(Oliver Ivanovic)氏が射殺された。犯人は走る車から消音銃で4発、政治家の胸に発砲。イバノビッチ氏(64)は運ばれた病院先で死亡した。
 コソボ国民にはフラストレーションが高まっている。国民経済は期待したほど成長できず、腐敗、縁故主義が席巻し、失業率は30%を超える。多くの若者たちは海外に職を求めて出ていく。

 コソボで昨年5月10日、ムスタファ政権(「コソボ民主党」と「コソボ民主連盟」の大連立政権)に対する不信任案が可決され、同年6月11日の前倒し選挙(定数120、有権者数約190万人)が実施された。その結果、中道右派連合が勝利し、中道右派「コソボ未来同盟」(AKK)のハラディナイ党首が昨年9月7日、首相にカムバックしたばかりだ。なお、ハラディナイ首相はコソボ紛争ではコソボの独立のために戦った「コソボ解放軍」(UCK)の軍司令官の一人。同首相には、戦争犯罪だけではなく、麻薬、武器密輸など組織犯罪の関与容疑が囁かれてきた。

 アルバニアとコソボの合流は遠い将来のテーマだが、ティラナ(アルバビアの首都)からきた首相がプリシュティナで示唆した「大アルバニア主義」発言はバルカン全域に少なからずの衝撃を投じたことは間違いないだろう。

ハンガリー・ファーストの行方は

 ハンガリーで4月8日、国民議会選挙が実施される。複数の同国世論調査によると、オルバン首相が率いる中道右派政党「フィデス」が約50%の支持を獲得して断トツで、それを追って極右政党「ヨッビク」が約20%で続いている。第3次オルバン政権の発足は現時点ではほぼ確実だ。選挙戦ではオルバン首相は“ハンガリー・ファースト”政策を強調している。

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▲国民に向かって演説するハンガリーのオルバン首相(「フィデス」の公式サイトから)

 オルバン首相は18日、国民向けの演説で「西欧社会は堕落した」と強調し、「難民・移民の殺到で欧州の伝統的なキリスト教社会に暗雲が漂い、危機に瀕しているが、欧州社会はそれに気が付いていない。欧州の都市では近い将来イスラム系住民が半数を占めていくだろう」と警告を発した。

 国内の野党に対しては、「彼らは国境線で鉄条網を設置することを拒否し、欧州連合(EU)が強要する難民受け入れ政策を支持してきた。わが党はハンガリー社会へのイスラム系難民・移民の殺到を阻止するために鉄条網を設置し、イスラムの北上を止めてきた」と、過去の難民政策の実績を鼓舞する。オルバン首相は議会の3分の2の議席を堅持するために難民問題を駆使し、選挙戦を有利に展開させているわけだ。

 欧州で2015年アラブ・中東諸国から100万人を超える難民が殺到した時、オルバン首相は一早く国境線の監視を強化し、鉄条網を設置。ハンガリーの国境警備隊が放水で難民を追っ払っている写真が世界に流れると、欧州各地からハンガリーの難民政策を批判する声が挙がった。
 しかし、ハンガリーの難民政策は大量の難民殺到で苦しむ独南部バイエルン州で歓迎され、隣国オーストリアでは当時外相だったクルツ首相が受け入れ、対バルカン国境線を閉鎖するなど強硬政策を実施して、成果を上げていった。

 難民歓迎政策を主張してきたドイツのメルケル首相ですら、難民受け入れ最上限設置こそ拒否しているが、国境管理の強化に乗り出している。難民政策では、欧州は程度の差こそあれ“オルバン化”してきたといわれるほどだ。

 その一方、ハンガリーを見る目は決して好意的ではない。EUの難民受け入れ分担枠を拒否し続けるからだけではない。オルバン政権が「言論の自由」や「司法の独立性」を無視する改革案を実施し、ここにきて非政府機関(NGO)の監視強化を目指す改正法を議会に提出するなど強権的な統治スタイルに対し、EUは大きな懸念を有しているからだ。外交政策では、オルバン政権はEUから距離を置く一方、ウクライナのクリミア半島の併合で欧州の制裁下にあるロシアに歩み寄りを示してきている。EUのブリュッセルからハンガリーは異端児扱いを受けていることは事実だ。

 最近では、ハンガリーのブタペスト出身のユダヤ系の世界的な米投資家、ジョージ・ソロス氏が1991年、冷戦終焉直後、故郷のブタペストに創設した大学、中央ヨーロッパ大学(CEU)について、オルバン政権は厳しく対応し、閉鎖を要求している。国民議会で昨年4月採決された改正案によれば、外国人が開校した学校はハンガリー国内の学校と共に自身の居住国にも同様の学校を開校していなければならないからだ。
 オルバン首相は欧州に殺到する難民・移民の背後にそれを支援するソロス氏の関与があると指摘し、全土に反ソロス・キャンペーンを展開している。

建国70年迎えるイスラエルと「中東」

 独南部バイエルン州のミュンヘンで開催された安全保障会議(MSC)の最終日(18日)、イスラエルのネタニヤフ首相が演説し、イランを激しく批判した。それだけではない。イスラエル軍が今月10日、同国空域に侵入したイランの無人機を破壊したが、その破片を檀上で示し、会場にいるイランのザリフ外相に向かって、「これは君のものだよ。イスラエルを試みる馬鹿げたことはするなと暴君に伝えたまえ」と述べた。その後、壇上に立ったイランのザリフ外相は、「イスラエル空軍こそ連日、シリアを空爆している。シリア空域に侵入したイスラエル戦闘機が先日、撃墜された。イスラエル軍の無敵神話はこれで消滅したよ」とやり返した。

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▲イランの無人機の破片を示すイスラエルのネタニヤフ首相(2018年2月18日、独ミュンヘンの安全保障会議で、独連邦国防省公式サイトから)

 国際会議の場でイスラエル代表とイラン代表が激しくやり合うシーンは珍しいことではないが、両者の舌戦は通常レベルを越えていただけに、会場にいたドイツのウルズラ・ゲルトルート・フォン・デア・ライエン国防相ら欧米諸国の政治家たちは驚いた表情をしていたほどだ。

 イスラエルは、イランがシリアでロシアと連携してアサド政権を支援し、レバノンではヒスボラを軍事支援し、対イスラエル攻撃を後押し、イラクではアバーディー政権(シーア派)と連携していることに強い警戒心を持っている。
 その一方、イスラエルはここに来て、これまで関係が薄かったサウジアラビアに接近中だ。スンニ派の盟主サウジはシーア派の大国イランの中東での影響力拡大に神経質となっていることもあって、イスラエルとの関係強化には問題がないと受け取られている。

 一方、イランはシリア、イエメン、レバノン、イラクなどに軍事支援を行い、イスラエルの包囲網を作る一方、中東で戦略的拠点を構築し、政治的影響力の拡大を狙うロシアのプーチン大統領との連携を深めてきた。

 中東和平の調停役を演じてきた米国はトランプ政権が発足して以来、イスラエル寄りを鮮明にしてきた。 トランプ米大統領は昨年12月6日、イスラエルの米大使館をテルアビブからエルサレムに移転すると発表、イスラエルの首都をエルサレムとする意向を表明したが、中東アラブ・イスラム諸国から強い反発の声が挙がっている。トランプ大統領はイランとの核合意協定の破棄を示唆し、イランの弾道ミサイル開発に強い危機感を感じ出している。

 ちなみに、イランの核問題は2015年7月14日、国連安保常任理事国(米英仏露中)にドイツを加えた6カ国とイランとの間で続けられてきたイラン核協議が「包括的共同行動計画」(JCPOA)で合意し、2002年以来13年間に及ぶ核協議に一応の終止符を打った。

 ところで、イスラエルは今年5月14日、建国70年目を迎える。世界のディアスポラ(離散)だったユダヤ人が1948年、パレスチナでイスラエル国の独立宣言をした(イスラエルが失った国を再建する時、イエスが再臨する時期に入るという予言が聖書関係者で囁かれてきた)。

 世界の情勢は混沌とし、ユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教の世界3大唯一神教の発祥の地・中東は再び一触即発の状況となってきた。ネタニヤフ首相はミュンヘンのMSCで、「わが国は必要ならばイランを攻撃することに何も躊躇しない」と言明しているほどだ。

ユダヤ人が引きずる「良心の痛み」

 先日、疲れたのでベットに横になりながらラジオを聞いていた時、「良心の痛み」をテーマにさまざまな有識者に見解を聞いていた。「良心」という表現はキリスト教が出現する前からあった。ソクラテスも良心について言及していたという。興味を引いたのは、一人のユダヤ人の意見だ。アウシュヴィッツ強制収容所で多くのユダヤ人が犠牲となったが、生き残ったユダヤ人の中には一種の良心の痛みを感じながら、その後の人生を歩むケースが少なくないという。

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▲ナチ・ハンターと呼ばれたサイモン・ヴィーゼンタール(1995年3月、ウィーンのヴィーゼンタール事務所で撮影)

 そのユダヤ人は、「犠牲となったユダヤ人たちはベストのユダヤ人だった。そうではなかったわれわれは生き延びた。彼らに対し一種の良心の呵責を感じる」という。参考までに説明すると、「犠牲となったユダヤ人は“神の供え物”となった。供え物は常に最高のものでなければならない」という信仰がその根底にある。

 当方はナチ・ハンターと呼ばれたサイモン・ヴィ―ゼンタール(1908〜2005年)と数回、会見したが、彼に「戦争が終わって久しいが、なぜ今も逃亡したナチス幹部を追い続けるのか」と単刀直入に質問したことがあった。するとヴィーゼンタールは鋭い目をこちらに向け、「生きている人間が死んでいった人間の恨み、憎しみを許すとか、忘れるとか、言える資格や権利はない。『忘れる』ことは、憎しみや恨みを持って亡くなった人間を冒涜する行為だ」と強調した。当方はその時、ユダヤ人の死生観に新鮮なショックを受けたことを今でも思い出す(『憎しみ』と『忘却』」2007年8月26日参考)。

 ラジオ放送の良心の呵責の話を聞いた後、ヴィーゼンタールの話を考えた。「確かに、許す許さないといった問題は死者の権利かもしれないが、生き残った人間は死者に対して良心の呵責を感じるものだろうか」と考えた。ホロコーストを生き延びたヴィーゼンタールは強制収容所で命を落とした多くの同胞に、その後の人生でやはり良心の痛みを感じながら生きてきたのだろうか。もはやかなわない願いだが、ヴィーゼンタールにもう一度会って確かめたくなった。

 オーストリアの精神科医、心理学者、ヴィクトール・フランクル( 1905〜1997年)はどうだったのだろうか。“第3ウィーン学派”と呼ばれ、ナチスの強制収容所の体験をもとに書いた著書「夜と霧」は日本を含む世界で翻訳され、世界的ベストセラーとなった。独自の実存的心理分析( Existential Analysis )に基づく「ロゴセラピー」は世界的に大きな影響を与えている。

 フランクルは収容所で亡くなった多くのユダヤ人の死に対しても「意味があった」と受け取り、犬死ではなかったと自身を納得させ、犠牲となったユダヤ人に対する自身の痛みを昇華していったのだろうか。

 もちろん、ホロコーストを体験したユダヤ人の中には神への信仰を失ったユダヤ人もいた。600万人以上のユダヤ人がナチス・ドイツ軍の蛮行の犠牲となった後、「なぜ神は多数のユダヤ人が殺害されるのを黙認されたか」「神はどこにいたのか」といったテーマが1960年から80年代にかけ神学界で話題となった。アウシュヴィッツ前と後では神について大きな変化が生じたわけだ。神学界ではそれを「アウシュヴィッツ以降の神学」と呼ぶ。

 例えば、ユダヤ人作家で1986年のノーベル平和賞受賞者エリ・ヴィーゼル氏(1928〜2016年7月2日)は自身のホロコースト体験を書いた著書「夜」の中で、「神はアウシュヴィッツで裁判にかけられた。その判決は有罪だった」と述べている。

 人は良心の呵責から逃れることができない。ホロコーストを生き延びたユダヤ人は、死者に対して良心の呵責を感じながら、その痛みが癒される時を願ってきたのだろうか。反ユダヤ主義の言動に怒りを発する前に、自身の心の世界で痛みを感じてきたのだろうか。
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