ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2018年03月

ウィ―ンは露外交官を追放しない

 欧州連合(EU)19カ国が27日夜、英国で今月初めに起きた軍用神経剤による元ロシア情報員セルゲイ・スクリパリ氏(66)とその娘ユリアさん(33)の暗殺未遂事件をロシアの仕業と判断し、対抗措置として露外交官の追放を発表した。これについて、オーストリア政府はブリュッセルの決定に反対はしないものの、ロシア外交官の国外追放は考えていないという。「反対しないが、連帯はしない」というウィ―ンの対ロシア政策である。

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▲クルツ連立政権のカリン・クナイスル外相(オーストリア外務省公式サイトから)

 事件は3月4日、英国に亡命中の元ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)スクリパリ大佐と娘が、英国ソールズベリーで意識を失って倒れているところを発見された。調査の結果、毒性の強い神経剤はロシア製の「ノビチョク」である可能性が高いことが分かった。

 メイ英首相はブリュッセルで開催されたEU首脳会談で、亡命ロシア軍情報機関の元大佐と娘に対し、ロシアが神経剤で襲撃したことを実証する証拠を公表した。ドイツのハイコ・マース外相は「第2次世界大戦後、欧州の地で初めてのロシアの神経剤使用の証拠は明確だ」と述べ、ロシアへの制裁は不可避だと強調。他のEU加盟国首脳は英国の対ロシア制裁を支持、英国に倣いロシア外交官の国外追放を決定した経緯がある。それに対し、ロシアは軍用神経剤の使用や暗殺未遂を否定している。

 欧州ではこれまで、英国が23人、ウクライナ13人、ドイツ、フランス、ポーランドの3国が各4人、リトアニアとチェコが3人のロシア外交官(主に情報機関出身)を追放。ロシア寄りを示してきたハンガリーも対ロシア制裁政策に加わり、1人を追放した。
 米国の60人を筆頭に、カナダ4人、オーストラリア2人を含むと、欧米諸国で合計150人以上のロシア外交官が国外退去処分を受けることになる。冷戦後、前例のない大規模なロシア外交官の国外追放だ。オーストリア日刊紙プレッセ3月29日付の一面で「新しい冷戦の始まりだ」と懸念する声を報じているほどだ。

 ところで、EU加盟国のオーストリアはロシア外交官の追放を実施しない方針を表明し、EU加盟国から「オーストリアとロシアの特別関係」を憶測する呟きすら聞かれる。

 オーストリアのクナイスル外相は27日、「ロシアの関与が実証されたとしても、わが国はロシアとの対話の門を開けておく。厳しい時であるほど対話のチャンネルを維持することが大切だ」と述べ、ロシア外交官の国外追放を実施しないと説明した。なお、ロシアのプーチン大統領は6月、オーストリアを公式訪問する予定だが、オーストリア側にはプーチン氏の訪問に障害となることを避けたい意向が強いはずだ。

 中立国のオーストリアは冷戦時代から地理的位置を利用した東西両欧州の架け橋的役割を果たしてきた。旧ソ連・東欧共産圏からは200万人の政治亡命者がオーストリアに逃げ、“難民収容国家”の名称を得たほどだった。同時に、ロシアに対しては他の欧州諸国より歴史的に友好関係を築いてきたことも事実だ。

 オーストリアで昨年12月18日、中道右派の国民党と極右政党自由党の連立政権が発足したが、クルツ連立政権が対ロシア制裁に消極的な理由として、極右政党「自由党」が親ロシア政策をとっており、EUの対ロシア制裁の解除、クリミア半島のロシア所属の公認を支持していることもある。そのため、自由党からクルツ首相に圧力があったのではないか、という憶測が生まれてくるわけだ。
 なお、自由党のハインツ・クリスティアン・シュトラーヒェ党首(副首相)、ノルベルト・ホーファー運輸相、欧州議会のハラルド・ヴィリムスキー議員ら自由党幹部は2016年12月、モスクワを実務訪問している。

 オーストリアにとってロシアは上位10に入る貿易相手国だが、EUの対ロシア制裁後、対ロシア貿易は減少してきた。同国の経済界では対ロシア制裁の解除を願う声が強い。

 難民収容分担問題でも表面化したが、EU加盟国では政策、路線の違いが明確になってきている。どの国も自国の国益を優先するのは避けられないが、ことは化学兵器や猛毒の神経剤が犯行に使用されたのだ。シリアのアサド政権の化学兵器使用時でもそうだったが、国際社会は毅然とした姿勢で対応しなければならない。その意味で、オーストリア政府の今回の対ロシア政策は問題と言わざるを得ない。非人道的な犯行に対して、中立主義云々の論理は通用しないのだ。

金正恩氏の留守中「誰」が平壌を管理

 北朝鮮の金正恩労働党委員長は25日から28日、2011年の実権掌握後初の外国訪問として中国を非公式訪問した。北朝鮮発の特別列車が北京に到着した時、誰が乗っているかで国際メディアはスクープ合戦を展開したが、ホスト国・中国国営新華社通信が28日、金正恩委員長の中国訪問を公式発表してその謎解きは幕を閉じた。

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▲金正恩氏の訪中期間、留守番役を果たした金与正氏(右から2人目、2018年2月11日、ソウルで、韓国大統領府公式サイトから)

 北朝鮮の朝鮮中央通信が同日公表したところによると、金正恩氏の訪中には「ファースト・レディ―の李雪主夫人のほか、崔竜海党副委員長、朴光浩党副委員長、李洙ヨン党副委員長、金英哲党副委員長兼統一戦線部長ら」が同行したという。

 日韓メディアで特別列車が目撃されて以来、金正恩氏か、ひょっとしたら妹の金与正党第1副部長が乗っているのではないか、といった憶測報道が流れた。与正氏が金正恩氏の親書を携えて韓国の文在寅大統領と会談したシーンを思い出すと、与正氏が特別列車に乗って北京入りし、習近平国家主席に兄からの親書を手渡す場面があってもおかしくないからだ。しかし、今回は与正氏の姿は北京に見られず、平壌に留まっていた。

 金与正氏が平壌で留守番をしていたという事実は、彼女が親書をもって北京入りしたと同じぐらいの重要な意味がある。
 金正恩氏が3日間、平壌を留守にし外国訪問中、という情報は北では最高級の国家機密だ。一部の最側近しか知らされていなかったはずだ。なぜなら、首領様の不在が部外に漏れると厄介な事態が起きる危険性が完全には排除できないからだ。

 金正恩氏が国内にいないことが分かれば、金正恩氏に日頃から批判的な軍幹部や労働党幹部たちがどのような考えに捉われるかを考えてほしい。軍クーデターもあり得るし、何らかの反乱が画策されるかもしれない。だから、独裁者は事前に海外訪問の日程を公表しない。公表は常に訪問が終わった帰国後だ。すなわち、「これから訪問します」ではなく、「われわれの首領様は訪問されました」という過去形とならざるを得ないわけだ。

 海外訪問だけではない。独裁者が飛行機に乗った場合もそうだ。独裁者が1メートル地上から離れると、その安全は100%保証できなくなる。独裁者の強権も地上を離れた瞬間、もはや地上のようには効果を発揮できなくなるからだ。金正恩氏の父親・金正日総書記が絶対に飛行機に乗らなかったのは臆病だったからではなく、墜落させられる危険性があったからだ。独裁者は陸を離れ、自分の支配が届かない空や海に飛び出すことへの強い恐怖心を持っている。

 北朝鮮の朝鮮中央通信は金正恩第1書記が朝鮮人民軍の潜水艦部隊第167軍部隊を視察し、潜水艦に乗艦したことを写真付きで報じたことがあった。当方は以下のようなシナリオをこのコラム欄で書いた。

 金正恩氏が潜水艦に完全に乗り込み、潜水艦と共に洋上に出た。陸では第1書記を見送る軍関係者が息を潜めて潜水艦を見つめている。そして潜水艦が完全に海の中に消えた時(視界から消えた時)、潜水艦を見守っていた軍関係者の中から1人の青年将校が立ち上がり、「これからは私が母国を指導していく」と表明した。軍クーデターが北で初めて起きた瞬間だ、それも無血革命だ。

 独裁者は陸で軍クーデターが起きたことを知らず、初めて体験する海の世界の神秘を満喫しながら側近と酒杯を交わす。数時間後、そろそろ退屈してきた。金正恩氏は陸に戻るように艦長に命令した。潜水艦は次第に浮上する。潜水艦は完全に浮上し、ハッチが開けられた。金正恩氏は外の空気を吸おうと立ち上がった時、そこは第167軍部隊の駐留地ではなく、政治犯収容所に近い埠頭だった(「金正恩氏が潜水艦に乗艦した時」2014年6月18日)。

 潜水艦の話は2014年6月だ。あれから約4年が経過する。金正恩氏の権力基盤は一層強固となったとみて間違いないだろう。国内の治安を完全に掌握していない時には絶対外遊しないからだ。

 ところで、金正恩氏が平壌を留守中、その留守を預かったのは妹の与正氏だったのではないか。これが確認できれば、韓国のメディアで「北のイバンカ」と呼ばれる金与正氏が実質的には既にナンバー2の地位にあるといえるだろう。
 平壌の金正恩氏の執務室で与正氏はひょっとしたら金永南・最高人民会議(国会に相当)常任委員長と一緒に業務を遂行し、国内の治安状況に目を光らせていたのかもしれない。

 いずれにしても、独裁者が自国を留守にする時、誰がその留守番役を担うかは、その独裁政権の政情を知る上で非常に重要な情報を提供するという話だ。

トランプ氏が中朝を再接近させた

 中国国営新華社通信が28日伝えるところによると、北朝鮮の金正恩労働党委員長は25日から28日まで中国を非公式訪問し、習近平国家主席と26日、北京の人民大会堂で初の首脳会談を行った。金正恩氏の外遊は権力を実質的に掌握した2011年末以来初めて。その初外国訪問先に伝統的な同盟国・中国を選んだことになる。

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▲中朝首脳を再接近させたトランプ米大統領(2018年3月8日、ホワイトハウス公式サイトから)

 中国側の発表によると、両首脳は伝統的な両国関係の強化と深化で一致し、金正恩氏は「朝鮮半島の非核化は祖父金日成主席、父金正日総書記の遺訓だ。その遺訓を実現するために最善を尽くす」と述べたという。

 南北、米朝の2つの首脳会談を控える金正恩氏はここにきて険悪化してきた対中関係の改善に乗り出したわけだ。新華社通信によると、習近平主席も、「非常に重要な時期に中朝首脳が会談したことは意義がある」と強調したという。換言すれば、中朝首脳会談はタイミングの良い時に実現したというわけだ。そこで習主席の「タイミングの良い時」とは何を意味するのか、少し考えたい。

 国際社会の厳しい制裁下で国民経済が厳しい北朝鮮にとって、伝統的な同胞国・中国の支援が必要という台所の事情はもちろんある。しかし、それ以上に、金正恩氏にとって、南北首脳会談は別として、トランプ大統領との米朝首脳会談が次第に重荷になってきたことと中国訪問は密接な関連があるのではないか。特に、イランの核問題で対北強硬政策を主張するジョン・ボルトン国家安保補佐官が就任したばかりだ。トランプ氏が金正恩氏との首脳会談で何を言い出すか分からなくなってきた。そこで中国との関係改善を背景にトランプ氏との首脳会談に臨む対策を取ったのではないか。

 トランプ大統領は北に「完全で検証可能かつ不可逆的な核放棄」を求める姿勢を崩していない。金正恩氏は“北の非核化”を“朝鮮半島の非核核化”にリンクさせ、前者の非核化を曖昧にし、時間稼ぎする戦略を考えていたが、問題はトランプ氏が朝鮮半島の非核化に乗り気を見せ、北の核兵器の破棄を強く要求し、それを拒否すれば軍事攻撃も辞さないと言い出した時だ。金正恩氏はあまり深く考えずに米朝首脳会談を提案してしまった自分の浅はかさを悔やんでいるかもしれない。

 一方、中国は目下、トランプ米政権と通商戦争の様相を深めてきた。経済大国とはいえ、米国と正面戦争をすれば勝利のチャンスは少ない。そこで習近平主席は金正恩氏との関係を改善し、対北カードを昔のように駆使できれば対米関係を有利にすると考えたはずだ。

 中国の懸念はもう一つある。一層深刻な問題だ。トランプ大統領と金正恩氏の間で朝鮮半島の非核化、南北再統一まで話が進んだ場合、中国は朝鮮半島への政治的、軍事的影響力を失い、米国に北朝鮮を奪われてしまう危険性が出てくる。北側を中国の支配権に留めておくためには中朝の関係改善は不可欠という計算だ。だから、習近平主席は北側が韓国の大統領特使団(団長・鄭義溶大統領府国家安保室長)に非核化の意思を表明したとの情報を受け、金正恩氏と会う決意を固めたのではないか。

 金正恩氏だけではない。習近平主席もトランプ大統領の“不可測性”に頭を痛めている。次の一手が完全に予想できないのだ。そこで中国も北朝鮮も兄弟喧嘩を止め、手を結ぶ方が国益に合致するという判断が働いたわけだ。それが「今回の(金正恩委員長の)訪中は時機が特別で、意義は重大だ」(時事通信)という習近平主席の発言となったのではないか。“双方が相手を必要としている時”という意味だ。結局、これまで冷たい関係だった習近平主席と金正恩委員長を接近させたのは皮肉にもトランプ大統領だったという結論になるわけだ。

 問題は、朝鮮半島問題で南北、米国、そして中国が外交舞台に復帰し、朝鮮半島でその影響力を行使してきたが、6カ国協議のメンバー国、日本はトランプ大統領依存以外の戦略が見えない。トランプ大統領を通じて拉致問題の解決を図りたい安倍晋三首相は心細くなってきているのではないか。友人と信じていたゴルフ仲間のトランプ氏が最近見せた貿易戦争での“米国ファースト政策”の実相に触れると、日本がトランプ大統領だけに依存した朝鮮半島政策は決して賢明とはいえなくなってきているのだ。

 安倍首相は4月中旬にも米国を訪問してトランプ大統領と会談し、南北、米朝首脳会談での対応について話し合う予定と聞く。安倍首相としてはトランプ氏に北側の戦略に関するレクチャーをするといわれているが、トランプ氏の胸の内をじっくりと探るべきだ。

 トランプ氏は米大統領である前に実業家だ。その判断は利益があるかないかで変わる。そして米国の実業家に見られる利益誘導は短期的視野に基づく場合が多い。長期的な視点から朝鮮半島の行方を戦略的、経済的に考えることは期待できない。トランプ氏の最大の関心事は米国の国益であり、個人的には次期大統領選での再選だ。

 安倍首相は南北、米朝首脳会談後の日本の対応について、慎重に準備に取り掛かって頂きたい。文在寅大統領は「朝鮮半島は歴史的な転換の時を迎えている」とその決意を吐露しているが、同じことが日本にもいえる。日本は森友学園問題に貴重な時間を失っている時ではないはずだ。

「不幸な国民」の後ろ姿は見えるか

 韓国紙中央日報(日本語版)は23日、社説で第17代大統領だった李明博元大統領の逮捕について論評していた。そして最後に、「法を守ると宣誓した大統領が退任後に拘置所へ向かう悲劇が繰り返されている。韓国社会もいつまでこのような『不幸な大統領』たちの後ろ姿を見守るべきか考えなければならない」といつもの嘆き節で記事を閉じた。

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▲ベトナムの革命指導者ホー・チ・ミンの霊廟前で祈祷を捧げる文大統領(2018年3月23日、ベトナムのハノイで 韓国大統領府公式サイトから)

 ソウルの刑務所には朴槿恵前大統領が収監中だ。それに贈収賄などの容疑で李明博元大統領が加わり、2人の元大統領経験者が同時に収監されるという異常な状況となった。1995年に全斗煥、盧泰愚元大統領が同時に収監されたことがあったが、23年ぶりにその再現となる。ちなみに、文在寅大統領の政治の恩師、盧武鉉元大統領は不正資金疑惑で検察の取り調べ直後に自殺している。

 当方は逮捕された韓国の大統領経験者の後ろ姿を見ていないので何も言えないが、その堕ちた大統領を選出したのはやはり主権者の国民だ。国民の人を見る眼識不足が「不幸な大統領」を生み出してきたという事実はやはり少々きついが、忘れてはならないだろう。ただし、「不幸な大統領」の後ろ姿はTVのニュース番組で見ても、その「不幸な大統領」を選んだ「不幸な国民」の後ろ姿は通常見えない。
 ひょっとしたら、国民は大統領職を一種の消耗品のように扱い、期限が過ぎたら、あっさりと切り捨てるか、任期中の落ち度への報復として収監することでカタルシスを感じているのだろうか。

 “国民全てが社長を目指す”社会と言われるが、全員がトップになることはできない。必ず、指導者が必要となる。その指導者の選出プロセスが韓国では正常に機能していない。これは大国の傀儡国家に甘んじてきた歴史が長かった韓民族の不幸ともいえるだろう。

 韓国で民主主義制度が定着して長くない。地域の権力者と利権の関わりもあるだろう。氏族圏で一人でも社長が生まれるとその成功者の周囲に氏族関係者が集まり、恩恵を分かち合う。歴代大統領は縁故主義の犠牲となるケースが絶えない。

 韓国の大統領は5年間の単任制だが、文大統領は任期を4年へと1年間短縮する代わりに2期までできる憲法改正案を検討中だ。再選可能となれば、2期目を目指す大統領は主権者の国民の意向に耳に傾けざるを得なくなるかもしれない。その意味で、任期4年、2期の改正案は一つの試みと評価したい。

 ちなみに、文在寅大統領は22日、国賓訪問先のベトナム・ハノイで現地在住の韓国人を前に、「韓国は現在、重大な転換点を控えており、それは巨大な水の流れを変える歴史的な瞬間になる。朝鮮半島の非核化と恒久的な平和、国の軸を新しくする改憲もしっかりと成し遂げる」(聯合ニュース日本語版)と述べ、大統領任期の延長にも意欲を示している。

 米国の大統領職は最長2期、8年間だが、任期を終えたロナルド・レーガン大統領(任期1981〜89年)は「どうして3期出来ないのか」と嘆いたという話はよく知られている。国民の支持もあった。一方、ジミー・カーター大統領(任期1977〜81年)は現職中、ソ連共産党政権の狙いを理解できず外交的に失策を繰り返したが、大統領職を終えた後、世界の紛争地の和平仲介に努力し、現職時代よりその政治活動は評価された珍しい米大統領だ。

 ところで“韓国版レーガン大統領”が出現するだろうか。“韓国版カーター大統領”は登場するだろうか。「不幸な大統領」の後ろ姿を見ず、自分たちが選出した大統領に誇りを感じ、もっと仕事をしてほしいと感じる時は到来するだろうか。「不幸な国民」の背中を慰労する指導者が出てきたら、韓国は変わるのではないか。

30年前のロウソク集会の思い出

 スロバキアの日刊紙「SME」編集記者ボリス・バンヤ氏(Boris Vanya)からEメールを受け取った。1988年3月25日ブラチスラバ民族劇場前でキリスト者たちの「宗教の自由」を要求したロウソク集会が開催されたが、スロバキアの民主化運動に大きな影響を与えた同集会30年目の特集記事を書いているので当方とインタビューしたいという内容だった。同氏は当方がロウソク集会で現場取材中に治安部隊に拘束されたジャーナリストの1人だったことを知っていた。多分、警察側の資料から当方の名前を見つけ出したのだろう。

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▲1988年3月25日、ブラチスラバで行われたスロバキアの民主改革に大きな影響を与えたロウソク集会(「SME」紙電子版からボリス・バンヤ記者の記事)

 バンヤ記者が質問項目を送信してきた。どうしてロウソク集会の開催を知ったのか、警察に連行された後、どのような扱いを受けたか、国外追放された後、スロバキアに再入国できたか、など11項目の質問だった。質問に答えながら、当方は30年前のことを思い出そうとした。

 小雨が降る夕方、ブラチスラバの民族劇場前広場がデモ集会の開催地だった。開催前から私服警察官が広場にくる市民の動向に目を光らせていた。キリスト者たちがロウソクを灯して広場に集まりだすと、警察は放水車を駆り出して集まってきた市民を追い払い始めた。当方がカバンから素早くカメラを出してシャッターを切った時、当方の背後から私服警官がカメラを奪い取り、当方を警察の車両に連れて行った。国際記者証を出し、「報道関係者だ」といったが、私服警察官はその記者証を取り上げた。そしてブラチスラバの中央警察署に連行され、釈放されるまで7時間余り尋問を受けた。当方のように警察署に連行された1人のキリスト信者が抗議したら、警察官がその青年の顔を壁に向かってぶつけたのを目撃した。

 冷戦時代の旧チェコスロバキアの民主化運動は、チェコではハベル氏ら反体制活動家を中心とした政治運動が中心だった。一方、スロバキアではキリスト信者たちの「宗教の自由」を求める運動が主導的役割を果たしていた。

 24日には「SME」電子版にバンヤ記者の記事が掲載された。当時のロウソク集会の写真が掲載されていた。その写真を見ると、当時の状況を鮮明に思い出した。記事にはロウソク集会を取材した外国メディアの名前が紹介されていた。BBCから始まり、ドイツの公営放送ARD、オーストリア国営放送(ORF)、米紙ニューヨーク・タイムズ、スイスのノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング、そして日本の世界日報となっていた。

 当方は冷戦時代、通常1人で共産圏に入り、取材していた。一匹狼のジャーナリストの当方のことも忘れず、ロウソク集会30年目の特集記事に言及してくれたバンヤ記者に感謝する。

「Rok a pol pred Nežnou revoluciou a takmer pať rokov pred rozdelenim spoločneho štatu sa o Slovensku a Slovakoch hovorilo a pisalo na celom svete – v britskej televizii BBC, nemeckej ARD, rakuskej ORF, v americkych novinach The New York Times, vo švajčiarskych Neue Zurcher Zeitung či v japonskych Sekai Nippo.」

 スロバキアでは今日、別のデモ集会が各地で開催されている。先月25日、著名なジャーナリストが婚約者の女性と共に自宅で銃殺された。犠牲者は政治家や実業家の腐敗や脱税問題を調査報道することで国内で良く知られていたヤン・クツィアクさん(27)だ。それ以後、政治家とマフィアの癒着を黙認してきた政府の責任を追及する抗議デモ集会が行われている。フィツォ首相やカリナク内相らが次々引責辞任に追い込まれる一大政変となってきた。キスカ大統領が今月22日、フィツォ首相の後継者にペレグリニ氏を任命したが、議会の解散、早期総選挙の可能性も排除できなくなってきた。

 スロバキアの民主化運動に決定的な影響を与えたロウソク集会開催30年目の今年、ジャーナリストの殺人事件が起きて同国の政情は大きく揺れ出した。政治家の腐敗問題はスロバキアが更に飛躍するために避けて通れない課題だろう。

「北」の非核化か「朝鮮半島」の非核化か

 「北朝鮮の金正恩労働党委員長は訪朝した韓国特使団(団長・鄭義溶大統領府国家安保室長)に非核化の意思のあることを初めて明らかにした」というニュースが大きく報じられた。韓国では北の非核化が核実験を含む稼働中の寧辺核関連施設の全面的停止を視野にれたものと早合点して歓迎する声が聞かれたが、金正恩氏は果たして“北の非核化”に言及したのか、それとも“朝鮮半島の非核化”を示唆したのだろうか。この辺のニュアンスは訪朝の韓国特使団の報告では明確ではない。

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▲全てはこの時から始まった(文大統領、金正恩氏の妹、金与正党第1副部長から親書を受け取る。2018年2月10日、韓国大統領府公式サイトから)

 南北、米朝首脳会談の開催日が近づくにつれて、金正恩氏の非核化が後者を意味していた可能性が濃厚となってきているのだ。韓国や米国は北朝鮮の「完全で検証可能かつ不可逆的な核放棄」を求めているが、金正恩氏は米朝会談で「朝鮮半島の非核化」を持ち出すのではないか。

 それでは、「北の非核化」と「朝鮮半島の非核化」ではどう違うのか。前者の非核化の対象はあくまでも北朝鮮の核関連活動の開発、停止を意味する。それ以上でもそれ以下でもない。一方、後者の場合、北の核関連活動だけではなく、その延長上に核兵器を保持する在韓米軍の朝鮮半島からの完全撤退が含まれてくる。朝鮮半島の核フリー地帯構想にもつながる。

 それでは、トランプ米大統領は金正恩氏とどの非核化についてディ―ルする考えだろうか。トランプ氏を含む米国側から聞こえてくる声は「北の非核化」であり、「朝鮮半島の非核化」ではないのだ。

 金正恩氏がトランプ大統領との会談で北の非核化を朝鮮半島の非核化にリンクしてきた場合はどうするのか。在韓米軍の核の傘を撤去しないならば、北側に一定の核活動を容認するか。厳しい選択が強いられることになる。

 トランプ氏が金正恩氏に「お前の核兵器を解体せよ」というならば、金正恩氏は直ぐに「米国も核兵器を有しているではないか。米国は許されるが、わが国は許されないというのは不平等で公正ではない」と差し迫ってきたならば、トランプ氏は説明に窮するだろう。「北は独裁国家で世界の無法国家だからだ」とツイッターでは発信できても眼前の金正恩氏にはさすがのトランプ氏も言えないだろう。

 この2つの非核化問題を米朝で議論する時、北側の主張は論理的には説得力がある。核拡散防止条約(NPT)の不平等性をつくテーマだからだ。核保有国と非保有国の間には歴とした不平等さがある。核兵器を保有していない国に開発・保持を禁止し、厳密な監視体制で管理する一方、核保有国には新たな核実験や開発のモラトリアム以上の義務はないからだ。

 トランプ政権は現在、核戦力体制の見直し(NPR)に取り掛かっている。金正恩氏の大陸間弾道ミサイルが米国本土まで届かない限り、北の核戦力に対し声を大にして糾弾する必要はないから、金正恩氏が北の非核化を朝鮮半島の非核化にリンクさせてきた場合、朝鮮半島の“近い将来”の非核化を約束するかもしれない(その場合、トランプ氏は事前に日韓両国の承諾が必要となる)。一方、トランプ氏が朝鮮半島の非核化を拒否し、北の非核化を強要する場合、金正恩氏は米朝首脳会談の失敗を米国側の非協調的な姿勢にあったとプロパガンダするだろう。

 米朝首脳会談の焦点は、金正恩氏の非核化の真剣度を探るというより、トランプ大統領が朝鮮半島の非核化まで突っ込んだディ―ルをするかに移ってきた。文在寅大統領がここにきて米朝韓3首脳会談を提案した背景には、朝鮮半島の非核化、在韓米軍の完全撤退を推進することで文大統領と金正恩氏の間で暗黙の合意が出来上がっているからではないか、といった憶測が湧いてくるのだ。

ドイツでイスラム論争が再熱 

 ドイツで過去、イスラム教がドイツ社会に属するか否かで論争があった。クリスティアン・ヴルフ大統領(在位2010年7月〜2012年2月)が2010年、「イスラム教はドイツに属する」と発言したことが直接の契機となったが、今回はメルケル首相が今月21日、第4次政権の施政演説の中で「イスラム教はドイツに属する」とヴルフ大統領の発言を繰り返したのだ。

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▲第4次政権が発足し、施政演説するメルケル首相(2018年3月21日、ドイツ連邦議会で、ドイツ民間放送の中継から)

 メルケル首相は連邦議会(下院)での施政演説で難民政策に多くの時間を割き、100万人余りの難民が殺到した2015年の再発は回避しなければならないと強調する一方、困難な難民を受け入れたドイツ社会を称賛する中で、「ドイツ社会に統合したイスラム教徒はドイツ社会に属する」と述べた。
 独週刊誌シュピーゲル(電子版)によると、ホルスト・ゼーホーファー新内相(「キリスト教社会同盟」CSU)は「メルケル首相の難民政策は理解できない」と指摘、メルケル首相の「イスラム教はドイツに属する」と述べた発言内容に怒りを露にしたという。

 ゼーホーファー内相はバイエルン州を拠点とするCSUの党首であり、2015年の難民殺到時にはバイエルン州はその入り口となった。その直接の契機はメルケル首相の難民ウエルカム政策だった。それだけに、新内相は難民収容の最上限設定に今なお抵抗するメルケル首相の難民政策に根底から不信感が拭えないのだ。

 CSUがキリスト教民主同盟(CDU)と社会民主党(SPD)との大連立交渉で内相ポストを要求した背後には、難民政策を主導したいという狙いがあった。念願かなってゼーホーファー氏は第4メルケル政権で内相ポストを得たが、その新内相を前にメルケル首相は「イスラム教はドイツに属する」と発言したわけだ。

 それでは、ドイツ国民は再発したイスラム論争をどのように受け止めているだろうか。民間放送RTLとN−TVは今月20日、21日の両日、1003人を対象に実施した世論調査結果によると、47%の国民は「イスラム教はドイツに属する」と受けとり、46%は「イスラム教はドイツ社会の一部ではない」と答えていることが明らかになった。イスラム教の受け取り方で国論が2分化しているわけだ。

 州別によると、旧東独地域でイスラム教嫌悪傾向が強く、約62%の国民がイスラム教を拒絶している。同時に、60歳以上の高齢者も同様、約53%はイスラム教拒否の姿勢が見立つ。
 党派別では、民族派の新党「ドイツのための選択肢」(AfD)は87%、自由民主党(FDP)が59%とそれぞれ反イスラム教傾向がある。逆に、社会民主党(SPD)は64%、「同盟90/緑の党」76%が「イスラム教はドイツに属する」と考えている。同時に、メルケル首相が率いるキリスト教民主同盟(CDU)でも過半数はメルケル首相の発言を正しいと受け取っている。ちなみに、「イスラム教に恐怖を感じるか」という質問に対しては、70%が「ない」と答えている。

 イスラム論争について、ザールランド州のトビアス・ハンス首相 (CDU)は「イスラム教がドイツに属するかどうかの論争はどうでもいいことだ。どの宗教がドイツに属するかは政治が決定する課題ではない。わが国の法体制を受け入れ、統合している国民はドイツに属する」と述べている。シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州のダニエル・ギュンター首相 (CDU)は「仮想論争は止めるべきだ。重要なことは具体的に対応することだ」と述べ、イスラム教に過度な反応を示すCSUに対して警告を発している、といった具合だ。

 イスラム教問題はドイツだけではなく、欧州全土を分裂させている。旧東欧のポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリーは欧州連合(EU)の難民受け入れ分担を拒否し、中東・北アフリカからの難民の殺到を「イスラム教の北上」と受け取り、イスラム教徒への嫌悪感が強い。ドイツは2015年の難民殺到で最も多くの難民を受け入れてきたが、国民の間にはイスラム教への対応で依然、コンセンサスが見つかっていないのが現状だ。

国連人権理、中国代表部の横暴さ

 スイス・ジュネーブの国連人権理事会で21日、非政府機関(NGO)の「国連ウオッチ」が招いた中国反体制活動家、楊建利(Yang Jianli)氏が中国の人権状況を報告中、中国代表部は同氏の報告を何度もストップさせ、会議議長から「ストップする理由はない」と勧告される場面があった。

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▲楊建利氏(ウィキぺディアから)

 以下、独週刊誌シュピーゲル電子版の記事を参考に、ジュネーブの国連人権理事会での中国代表部の横暴さを紹介する。

 楊建利氏は1963年、中国山東省生まれ。1989年の天安門広場の学生抗議デモ集会に参加した後、出国を強いられる。2002年に中国を訪問時にスパイ容疑で逮捕され、5年間監禁生活を送った。07年4月に釈放された。現在、米国で亡命生活を送っている。

 楊建利氏は理事会で、「中国代表部が国連人権理事会に参加する資格があるのだろうか」と疑問を呈した時、中国代表部から激しい抗議の声が飛びだし、「ジュネーブの人権理事会の名誉を傷つける発言だ」と糾弾し、 楊建利氏の話をストップさせようとした。会議議長から「中国側の抗議は無効」と退けられた。

 楊建利氏は中国代表部から何度も横やりを受けながらも話し続けた。毛沢東の文化大革命、法輪功や民主運動への弾圧を言及し、「中国で過去、数百万人の国民が殺害された」と指摘した。

 中国代表部から即抗議が出たが、同氏は話し続けた。
 「中国全国人民代表大会(全人代)は3月11日、国家主席の1期5年、2期10年間の憲法条項を撤廃し、終身制への道を開く憲法改正案を賛成多数で成立させた。習近平氏は2023年以降も国家主席のポストに座り続けることができる。中国は独裁国家の道に入った」と述べると、中国代表部から一段と強い口調で、「そのテーマは人権理事会の議題ではない」といった抗議の声が挙がった、といった具合だ。

 ちなみに、中国全人代は今月20日、「全ての国家機関は習近平国家主席の思想に忠実に従わなければならない」として、それを監視する新しい監視法を成立し、幕を閉じた。これによって、習近平国家主席は毛沢東以来の最も権力を有する権力者の地位に就いたわけだ。
 習主席は20日、全人代閉幕の演説で、中国を分裂させようとする全ての試みに対し警告を発し、「わが国が世界で占めるべき地位を獲得するために血の出る戦いをする用意がある」と宣言している。

 このコラム欄でも紹介してきたが、中国共産党政権は今年に入ってキリスト教会の建物を破壊するなど強権を発動している、中国北部の山西省臨汾(Linfen)市で1月9日、キリスト教会「金灯台教会」の大きな建物が当局によって取り壊された。中国共産党政権は、「わが国は憲法で信教の自由を認めている」と豪語してきたが、国内の宗教団体や教会を厳しく統制し、必要ならば教会建物を破壊し、信者たちを拘束している。

 習主席は、「宗教者は共産党政権の指令に忠実であるべきだ」と警告を発する一方、「共産党員は不屈のマルクス主義無神論者でなければならない。外部からの影響を退けなければならない。インターネット上の宗教活動を厳しく監視しなければならない」と強調したことがある(「中国共産党政権、宗教弾圧強める」2016年4月27日参考)。

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▲法輪功メンバーたちのデモ行進(2015年9月19日、ウィーン市内で撮影))

 また、中国共産党政権は国内の気効集団「法輪功」メンバーに対して激しい弾圧を繰り返してきた。法輪功メンバーを監視する機関(通称「610公室」)を設置し、法輪功の根絶を最終目標としている。そればかりではない。中国当局は拘束した法輪功メンバーから生きたままで臓器を摘出し、それを業者などを通じて売買している。2000年から08年の間で法輪功メンバー約6万人が臓器を摘出された後、その死体を放り出された、という報告が国際人権活動家から公表されているほどだ。

バチカンのレター・ゲート事件

 ローマ・カトリック教会総本山バチカン法王庁広報事務局のダリオ・ビガノ長官(55)が21日、引責辞任した。以下、イタリアのメディアで“レター・ゲート事件”と呼ばれている不祥事を読者に報告する。

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▲引責辞任したバチカン広報事務局のビガノ長官(バチカン・ニュース電子版から)

 ローマ法王フランシスコの就任5周年を記念して先日、フランシスコ法王の神学に関する11巻の著書が発表された。それに先立ち、ビガノ長官はその前文を前法王ベネディクト16世に依頼したが、同16世はビガノ長官宛ての返信でフランシスコ法王に関する著書出版を「素晴らしいプロジェクトだ」と称賛する一方、「申し訳ないが、健康が許さなく、11巻の著書を時間内に読むことは難しい」と述べている。

 著書の記念発表会がきた。ビガノ長官は、近代法王の中でも神学の権威者と呼ばれているベネディクト16世からの手紙を持ち出し、「素晴らしいプロジェクトだ。フランシスコ法王は神学的、哲学的素養のある法王だ」と称賛した手紙の部分を朗読した。
 問題は、「健康上の理由で11巻を読めない」と述べたベネディクト16世の手紙の部分や「なぜ反法王のドイツ神学者がプロジェクトに関与しているのかね」と著者の選抜で問題を指摘した箇所にはまったく言及しなかったことだ。
 そして記念発表会ではベネディクト16世の手紙のコピーがメディア関係者に配布されたが、手紙の他の部分は読めないように処理されていた。バチカン担当ジャーナリストからは「典型的な情報操作だ」という批判の声が出たのは当然だ。それに対し、ビガノ長官は後日、「手紙は個人宛に書かれたものだから、全内容を公表できないと考えた」と説明している。

 バチカン広報事務局は2015年6月、フランシスコ法王がメディア改革のために新設した機関で600人を超える職員が勤務している。バチカンでは最大規模の機関だ。ビガノ長官はバチカンのメディア改革の総責任者だった。その長官がフランシスコ法王就任5周年記念著書発表会で躓いたわけだ。

 ビガノ長官は著書発表会ではフランシスコ法王を称賛したいという忠誠心からベネディクト16世の手紙の中の不都合な箇所を判読できないようにデジタル操作したのだろう。引責辞任する必要があったかどうかは微妙なところだが、バチカンにとってはシリアスだった。フランシスコ法王は今年に入り、フェイク情報が世界に席巻していると警告を発したばかりだ。そのバチカンのお膝元でそれもメディア改革を担当する総責任者が意図的に情報を操作したと思われる行為をしたのだ。バチカンとしても看過できなくなったわけだ。

 ビガノ長官は辞任願いをフランシス法王に提出し、法王は即受理し、アンドリアン・ルイス・ルシオ次官を暫定的に長官とする人事を発表している。フランシスコ法王にとっても黙認できないと受け取られたのだろう。以上、バチカンのレター・ゲート事件だ。

 ビガノ長官は嘘をいったのではない。事実を公表したが、都合のいい事実だけで、悪い事実を隠蔽したのだ。ある意味で、嘘よりも狡猾だ。これがレター・ゲート事件の教訓だろう。

ロボット車の初の人身事故発生

 米アリゾナ州でのテンピ市で18日夜(現地時間)、1人の女性(49)が車道に飛び出したところ自動操縦車(ロボット車)に跳ねられ、運び込まれた病院で死去した。女性はこれまで明らかになったロボット車による最初の犠牲者と受け取られている。米紙ニューヨークタイムズらが大きく報じた。

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▲オーストリアの大衆紙「エスターライヒ」21日付の国際面はロボット車の事故を大きく報道

 現地の警察当局の発表によると、事故を起こした時、時速約60キロで走行中の自動車には1人が座っていたが、自動操縦で走行中だった。事故を起こした車種はボルボXC90。ロボット車はボルボ社が製造したのではなく、米配車サービス大手ウーバーテクノロジーズの車両だった。ダラ・コスロシャヒ最高経営責任者(CEO)はツイッターで「信じられない悲しいニュースだ」と述べている。ウーバーテクノロジーズ社は無人自動車の固有システムを開発している。

 米道路交通安全局(NHTSA)と国家運輸安全委員会 (NTSB) は事故を調査するために独自チームを編成して事故発生地テンピ市に派遣すると発表した。ウーバーテクノロジーズ社は「事故の全容解明のために当局と連携する」と発表する一方、テンピ、ピッツバーグ、サンフランシスコ、トロントでのロボット車の全テストを暫く停止するという。

 現地からの情報によると、女性が自転車を引きずりながら車道に入る寸前、木立の影となったために、ロボット車のセンサーは女性をキャッチできなかった。そのため「人間が運転していても事故は防げられなかった」と受け取られているという。

 今回のロボット車の事故は米国内でその安全性について議論を呼んでいる。一番多く聞かれるのは「無人自動車の安全性」への危惧を表明する声だ。一方、「世界で毎年、100万人以上が交通事故で亡くなっている。そして事故の90%は運転する人間の過失によって発生している」という理由から、ロボット車の登場で交通事故を減少できるという意見もある。ロボット車の技術的問題だけではない。無人自動車による事故が起きた場合の法的、倫理的な問題についても議論が分かれている。

 ちなみに、2015年、無人操縦の自動車で1人が死去した。バッテリー式電気自動車と電気自動車関連商品、ソーラーパネル等を開発・製造・販売している自動車会社「テスラ」社の自動操縦車が技術的な欠陥で事故を起こしたケースだ。

 カリフォルニア州では4月から自動操縦車の運転を基本的に認めている。同州では世界から50社が無人自動車の試運転の認可を得ているという。ただし、メルセデス・ベンツ、BMW、フォード、日産、ボルボなど大手自動車メーカーは2020年前までは自動操縦車を市場に出す計画はないという。 

 ところで、ロボット車は、.汽ぅ弌執況發紡个垢詼瓢濛从など安全基準を満たさなければならない、¬疑夕動車の運転状況を信号で監視、H行中のデータを記録する飛行機と同じく、走行中の全データを記録しなければならない。し抻ヾ韻無人自動車を停止できるように警察側との通信体制の確立、といった技術的課題をクリアしなければならない。

 近い将来、自動操縦車の技術的向上で技術的なハードルは克服できるかもしれないが、ロボット車のプログラム作成段階でさまざまな法的、倫理的な問題も出てくる。

 2つの例を挙げる。

 ]上に突然、3人の子供が飛び出した。ロボットカーは車に設置されたセンサーで即座に子供の動きを計算して事故を回避する処置を取る。ハンドルを右側に切って眼前の樹木に車を衝突させれば子供をひかずに済む。ロボットカーは「事故の損傷を最小限に抑える」ようにプログラミングされているから、「3人の子供の命を守る」という選択を取る。事故に関わった人間の数は3(子供)対1(車内の人間)だ。「事故の際、犠牲を最小限に抑える」とプログラミングされているロボットカーには他の選択肢はない。

 ∩以に子供が歩道から飛び出した。歩道には老婦人が歩いている。子供を守るためには歩道に車を乗りあげる以外に他の選択がない。ロボットカーは躊躇することなくハンドルを歩道側に切り、老婦人は犠牲となる。人間の平均寿命のビッグ・データに基づき、ロボットカ―は子供の命が老婦人のそれより長生きすると判断する。

 いずれにしても、ロボット車のプログラミングは人間の仕事だから、車内の人間を事故から守ることを最優先するようにプログラミングするか、車内の人間を犠牲にしても事故を最小限度に抑えるようにプログラミングするか、議論が分かれるだろう(「自動運転車が選択する“最善の事故”」2016年1月31日参考)。
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