ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2018年04月

金正恩氏が考える「非核化」構想とは

 南北首脳会談が27日、軍事境界線の板門店の韓国側施設「平和の家」で開かれ、既に報じられているように朝鮮半島の完全な非核化を実施する決意などが明記された共同宣言「板門店宣言」が金正恩朝鮮労働党委員長と韓国の文在寅大統領の間で署名され、公表された。

PKSKO2018042700652
▲朝鮮半島の非核化について話し合う金正恩委員長と文在寅大統領(南北首脳会談プレスセンター提供)

 第3回「南北首脳会談」全般に対する評価は概ね好意的に受け取られているが、肝心の「非核化」問題については「具体的な言及が乏しい」といった批判にさらされている。しかし、冷静に考えれば、1日の南北首脳会談で朝鮮半島の非核化について詳細なロードマップが提出されると期待し、予想した人がいるとすれば、失望するのは当たり前だ。朝鮮半島の行方は過去も現在も韓国と北朝鮮の2国で決定できる問題ではないからだ。
 米国、中国などの周辺国家の関与がなくして、朝鮮半島の如何なる問題も実質的な解決は期待できない。民族の自主性、独立性を謳った「主体思想」を標榜する北朝鮮にとっても同じだ。その地理的、軍事的、戦略的な状況を嘆くことはできても、置かれた宿命は変わらないだろう。

 朝鮮半島の非核化は数週間後に開催予定の米朝首脳会談のアジェンダであって、文大統領がどんなに関与したとしても、その影響は限られている。南北首脳会談は米朝首脳会談に向け、南北間の融和ムードを最大限発信できれば、成功というべきだった。その点からいえば、今回ホスト国だった韓国の文大統領は最善を尽くし、成功した。

 懸念される点は、金正恩氏が南北首脳会談で発信した融和ムードをトランプ米大統領にまで感染させ、北誘導の非核化を実現しようと考え出すことだ。前座の南北首脳会談の内容を本番の米朝首脳会談にまで波及させようというのだ。安倍晋三首相が繰り返し、「核・ミサイルの完全で検証可能で不可逆的な破棄」を主張する理由もその点にある。

 金正恩氏の非核化構想については、このコラムラで数回書いてきた。 『北』の非核化か『朝鮮半島』の非核化か」2018年3月26日、◆北は“リビア方式”の非核化を拒否」2018年4月2日、そして「非核化の“どの工程”で制裁解除?」4月22日の3本のコラムで詳細に述べたので、関心のある読者は再読をお願いする。

 韓国大統領府は29日、金正恩氏は首脳会談で5月中に北部豊渓里の核実験場を破棄し、それを世界に公表する意思を表明したと発表した。北側が非核化の具体的な実証作業に乗り出したと評価する声が聞かれるが、核実験場の破棄は核兵器の破棄とは違う。このシンプルな事実を忘れてはならない。

 ここにきて新たな展開が見られる。金正恩氏が巨額な資金を必要とする核開発計画を本当に中止するかもしれないのだ。もちろん、既に製造した大量破壊兵器の完全破棄ではない。今後、新たに開発しないという意味だ。
 モラトリアム(凍結)とは違うのは、ヽ房存浬蠅鯒亡、核兵器製造用の濃縮ウランやプルトニウムを生産しない、9餾欷胸厠狼ヾ悄複稗腺釘繊砲虜沙,鮗け、検証させることだ。
 ただし、恒常的な電力不足に悩む北は、核エネルギーの平和利用は堅持する。その意味で、IAEAとの間で締結するセーフガード(保障措置)下で寧辺核関連施設の活動は続ける。ただ、核エネルギーを軍事移転はせず、平和利用するだけだ。簡単にいえば、軍事関連の核活動(前者)は中止し、関連施設を破棄し、核エネルギーの平和利用(後者)はIAEAの監視下で継続するというわけだ。

 金正恩氏は上記の「非核化」構想をどこから手に入れたのだろうか。ジョージ・W・ブッシュ大統領時代の米国務長官だったコリン・パウエル氏はメディアとのインタビューの中で、「使用できない武器をいくら保有していても意味がない」と述べ、大量破壊兵器の核兵器を「もはや価値のない武器」と言い切ったことがある。金正恩氏はパウエル氏の発言から上記の非核化構想を考え出したのではないか。

 「もはや価値のない武器」を手に入れるために依然、かなりの国が密かに製造を目指し、ノウハウを入手するために躍起となっている。北もその一国だった。しかし、北は初歩的な段階といっても既に6回の核実験を実施した。ノウハウだけではなく、北の軍事基地には数基の核兵器が保管されている。核搭載可能な大陸弾道ミサイルはまだ未完成としても、ミサイルに搭載できる核兵器はあるという事実は大きい。

 まとめると、金正恩氏は既製の核兵器は保管する一方、その大量破壊兵器を開発製造する意思を放棄するというのだ。これこそ金正恩氏がトランプ大統領に提示する非核化構想ではないか。金正恩氏が譲歩する考えがない点は製造した核兵器の即放棄だ。「使用できない核兵器」をただ保管することで、「北の金王朝の体制保持の保証」を勝ち取るというのだ。金正恩氏はトランプ氏との首脳会談で北側のセールスポイントを強調するだろう。

 問題は、トランプ氏が“厳重な検証体制下ならば”という条件付きで北のセールスポイントに同意する可能性が考えられることだ。既成の北製核兵器は米国の安全には全く脅威とならない。その上、北はこれ以上製造しないと宣言し、IAEAの厳格な検証体制(追加議定書の履行)を受け入れる用意がある。トランプ氏は北の非核化でそれ以上要求するだろうか。

 トランプ氏が北の提案を渋った場合、金正恩氏は保管している核兵器を「10年先を目指して」破棄すると約束するかもしれない。もちろん、10年先の約束など誰も信じないが、今年11月に中間選挙を控えているトランプ氏は案外、北側の譲歩として歓迎するかもしれない。

 ちなみに、金正恩氏の非核化構想で唯一、頭を抱えるのは日本だろう。初歩的とはいえ、既に数基の核兵器を保管している北朝鮮が存在するのだ。一方、韓国は、北に核兵器が存在することは不愉快かも知れないが、将来の南北再統一という長期的視点から考えるならば、悪くないシナリオと考え出しても不思議ではない。

 米国は北の核兵器への関心を失っていくだろう。米国が米本土に届くことがない北製核兵器のために約2万5000人の兵士を朝鮮半島に駐留させる意義はもはやない。その時、米軍の朝鮮半島からの完全撤退が政治議題として浮上することになるわけだ。

 以上。

 米朝首脳会談でトランプ氏が金正恩氏の非核化案にどのように対応するだろうか。米朝首脳会談は朝鮮半島の未来ばかりか、日本の行方にも大きな影響を与える歴史的なイベントとなる可能性があるわけだ。

板門店「徒歩の橋」会談を読み解く!

 世界の耳目が集まった南北首脳会談が27日、韓国の文在寅大統領と金正恩朝鮮労働党委員長の間で行われ、同日午後、「朝鮮半島の完全な非核化」を確認する一方、年内に朝鮮動乱後の休戦状況から終戦条約を締結し、関係国で平和協定を結ぶ方向に努力することを明記した「板門店宣言」が両首脳によって署名された。文大統領と金委員長はその後、記者団の前に現れ「板門店宣言」の内容を報告した。

PKSKO2018042700868
▲「徒歩の橋」で会談する文在寅大統領と金正恩委員長(南北首脳会談プレスセンター提供、2018年4月27日)

 「板門店宣言」は具体的な内容には乏しく、南北首脳の決意表明といった印象を与えるが、致し方がないだろう。米国を含む周辺国の関与なくして南北両国は朝鮮半島の行方を決定できない、という現実を改めて浮き彫りにしただけだ。その意味で、6月初めまでに開催予定のトランプ米大統領と金正恩氏との米朝首脳会談こそ本番というわけだ。

 南北首脳会談で興味を引いたことは、文大統領と金正恩氏が約40分間、板門店の「徒歩の橋」のベンチに座り、側近もつけず、2人で会談したことだ。テレビのカメラは遠く離れたところから両者の会談姿を捉えるだけで、マイクがないので会話の内容は掴めない。韓国大統領府も北側も両首脳の30分間の会話について公表する予定はないという。

 板門店の「徒歩の橋」の会談内容が公表されないことから、メディア関係者の関心を一層駆り立てる結果となり、様々な憶測報道が既に報じられているほどだ。
 「徒歩の橋」会談はホスト側の文大統領が誘ったものだろう。文大統領には、第3者の介入がない状況下で金正恩氏と話したかった問題があったことを推測させる。映像では文大統領が語り、金正恩氏が頷きながら聞いているのが映し出されていた。

 文大統領は多分、英俳優ジョニー・リ・ミラーが演じるシャーロック・ホームズの話を描いた米CBS犯罪番組「エレメンタリー」(Elementary)を観たことがないだろう。シャーロック・ホームズは離れたところの会話をその話し手の唇の動きから読み取る能力を持っている。通常“読唇術”ないしは読話と呼ばれる技術だ。

 そこでCNNの首脳会談中継放送のフィルムから「徒歩の橋」の40分間の会談内容を読み解くために、金正恩氏の唇の動きに集中した。文大統領は後ろ姿なので唇を読むことは出来ないが、金正恩氏の答えから文大統領の質問が何かが薄々理解できる。

 以下の4点は「徒歩の橋」の会話を読唇術で読解した範囲だ。言語の違いもあって、当方の一方的な解釈がかなり含まれていることを最初に断っておく。

 (限臈領は会談始めに北の非核化への真剣度をやんわりと確認した。金正恩氏は笑みを見せながら「板門店宣言」で明記された内容を繰り返した。
 ∧限臈領は米朝会談への金氏のスタンスについて聞いている。金氏はかなり楽観的な見通しを述べた。文大統領はトランプ氏が気分屋でその出方が予測できない指導者だと説明し、「トランプを怒らさな方がいい」と助言している。
 J限臈領が金正恩氏に「訪中ではどのような合意があったか」をしつこく聞くと、金正恩氏は少し嫌な顔を見せた。金正恩氏の唇の動きは止まった。
 な限臈領は対北経済支援について、北側の願いを尋ねた。金正恩氏は気分を戻し、何か答えている。文大統領は頷く。

 ところで、「板門店宣言」に日本人拉致被害者の帰国問題について全く明記されていないことに日本側で失望が広がっている。文大統領は安倍晋三首相に日本人拉致問題にも言及すると約束したが、日本人拉致被害者問題はトランプ大統領が言及すると約束したことを受け、金正恩氏との会談では避けたのではないかと好意的に受け取られている。
 真相は少し違うのだろう。「日本人拉致被害者の帰国が実現すれば、安倍晋三首相の自民党政権の延命を助けることにもなる」と助言した側近の要請を受け、日本人拉致被害者問題については語らないことにしたのではないか。

 いずれにしても、「徒歩の橋」の会談内容について文大統領が口を閉ざし続けたとしても、北側が明らかにする日がくるだろう。その時、文大統領の名誉が傷つくような事実が暴露されないことを願うだけだ。政治家のひそひそ話は、やはり一般的に“きな臭い”ものが多いのだ。

金正恩氏と文在寅大統領の「舞台劇」

 体制、国体の違いはあるが南北両国民はドラマが好きだ。北の国民は韓国のTVドラマを密かに観、韓国民は南北分断の痛みを抱える民族の主人公になった気分でドラマを観、また自身も演じる。ドラマは演出家と俳優が心を合わせて舞台作りをすれば、それを見る人々を感動させ、笑いと涙を誘うものだ。
 ひょっとしたら、南北首脳会談も同じように一幕の舞台劇だったかもしれない。ただし、18年前の初演や11年前の再演との違いは、3回目の今回は、演出効果を計算した様々な書割がこれまで以上に工夫されていたことだ。

PKSKO2018042701177
▲朝鮮半島の非核化を確認した「板門店宣言」に署名した金委員長と文大統領(南北首脳会談プレスセンター提供、2018年4月27日)

 文在寅大統領は27日の舞台のため数日間、大統領府に閉じこもって綿密に準備してきた。首脳会談で署名された「板門店宣言」の文面だけではない。例えば、歴史的な南北首脳会談の会議場となる板門店の韓国側「平和の家」に飾る花についても、「会談場を飾る花は『花の王様』と呼ばれるシャクヤクと友情の意味を持つハナズオウ、平和という花言葉を持つデイジー、軍事境界線を挟む非武装地帯の一帯に咲く野花と済州島の菜の花を使う。韓国的な美しさを表現し、繁栄の意味を持つタルハンアリと呼ばれるつぼに飾られる」(聯合ニュース電子版4月25日)といった具合だ。また、韓国大統領府が事前に公表した首脳会談での夕食会の食事メニューをみてほしい。凝りに凝っていた。


 一方、もう一人の主人公、金正恩朝鮮労働党委員長は27日のためどのような準備をしてきたのだろうか。朝鮮中央通信は何も報じていないが、金正恩氏もきっと文大統領に負けないほど多くの時間を費やして“この日”を迎えたはずだ。
 それは金正恩氏の会談冒頭のメッセージからも推察できる。曰く「平和繁栄、北南(南北)関係の新しい歴史が刻まれる瞬間に、こうした出発点に立ち、のろしを上げる気持ちでこの場に来た」(世界日報電子版)と語ったのだ。敵陣に乗り込んできた若大将といった高調した気分が伝わってくる。この台詞を考え出すまで、金正恩氏は多分、かなりの時間を費やしただろう。いずれにしても、舞台照明や書割が華やかであればあるほど、演じる俳優も観客も一種のハイ状況に陥り、舞台で展開される世界にすんなりと入っていくことができるわけだ。


 文大統領は会談冒頭で、「この10年間できなかった話を十分したい」と述べた。実際、文大統領と金委員長は会議場だけではなく、30分余り外で2人だけになって話し合っている(その内容は公表されていない)。そして両首脳は午前と午後の2回、協議した後、朝鮮半島の非核化を確認する一方、年内に終戦宣言し、平和協定を締結することで合意した共同宣言「板門店宣言」に署名した。


 韓国と北朝鮮の間では過去10年間、多くのテーマが山積している。1日の首脳会談では煮詰めた話は難しいから、各テーマ毎に作業グループを創設して今後、協議を重ねていくことになる。その意味で、今回の南北首脳会談では、実質的な成果を実現することより、今後の舞台作りのための大雑把な合意を達成することだった。その狙いは一応実現した。もちろん、「宣言」内容の履行段階で多くのハードルが横たわっていることは言うまでもない。


 第3回南北首脳会談後、5月末から6月初めには米朝首脳会談が控えている。米朝首脳会談は文字通り歴史初の政治イベントだ。それだけに、朝鮮半島の行方に大きな影響を及ぼすサミット会談の舞台に初出演するトランプ米大統領のボルテージを高めなければならない。文大統領にとって南北首脳会談ではハードな議論を交換するより、南北間の融和を演出してワシントンに発信することが重要だった。一方、金正恩氏にとっては本番を控えて一種のウォーミングアップだったかもしれない。

独のユダヤ人社会で高まる危機感

 ドイツ各地で25日、反ユダヤ主義の台頭に抗議するデモ集会が行われた。デモ参加者はユダヤ人だけではなく、一般市民もユダヤ教のシンボル、キッパを頭に被って連帯参加し、反ユダヤ主義の台頭に抗議を表明した。

BILD
▲ユダヤ人との共存を訴えるデモ風景(2018年1月、ドイツのユダヤ人中央評議会の公式サイトから)

 デモは、首都ベルリン、ケルン、エアフルト(テューリンゲン州の州都)、マグデブルク(ザクセン=アンハルト州の州都)、ポツダム(ブランデンブルク州の州都)などで行われた。
 警察当局の発表では、ベルリンのシャルロッテンブルク区のユダヤ教会前で約2500人がデモ集会に参加。デモ参加者の中には、脅迫され、持っていたイスラエルの旗を破られたり、ツバをかけられたりしたという。

 デモ集会が行われた直接の契機は今月17日、ベルリンで21歳のイスラエル人とその友人が路上でアラブ語を話す3人の男性グループから襲撃されたことだ。イスラエル人はキッパを着けていた。容疑者はシリア出身のパレスチナ人で2015年からドイツに住んでいた。

 ドイツのユダヤ人中央評議会のヨーゼフ・シュースター会長は、「ドイツ国内で台頭するユダヤ憎悪を看過してはならない。多くのユダヤ人は公共の場で自身の宗教を明らかにすることに恐怖を感じ出している」と述べた。

 シュースター会長の説明によると、ユダヤ人家庭では息子たちには、「外ではキッパを被らないか、野球帽を被ってキッパを隠すように」と、娘たちには「地下鉄では『ダビデの星』のネックレスやペンダントを隠すように」と注意している。また、今年はイスラエル建国70年を迎えたが、Tシャツにイスラエル国旗が描かれたものは着ないように呼びかけているという。ちなみに、ドイツに住むユダヤ人の数が12万人から最大20万人と推定されている。

 イスラエルの著名な野党メンバー、ヤイル・ラピッド元財務相は、「ユダヤ人がキッパを付けて外に出かけられないということは異常だ。われわれは恐怖を感じながら生きていかなければならない時代は過ぎたと考えてきたが、そうではなかった」(オーストリア通信)と述べている。

 ドイツで今月、“欧州版グラミー賞”と呼ばれる「エコー賞」に反ユダヤ主義のラップを歌うデュオ、Kollegah・ Farid Bang が受賞した。多くの音楽家たちは、2人の受賞に抗議し、ドイツ音楽協会は「エコー賞」の廃止に追い込まれている。

 ドイツで反ユダヤ主義といえばネオナチや極右派の専売特許といった感じだったが、ここにきてイスラム系移民のユダヤ憎悪が席巻してきた。
 ドイツでは反ユダヤ主義の言動で告訴された件数は年平均1200件から1800件だ。これまでその90%は極右派グループやネオナチたちの仕業だったが、過去2年間でイスラム系住民の反ユダヤ主義の言動が増えてきている。

 ドイツでは2015年、中東・北アフリカ諸国から100万人を超えるイスラム系難民が殺到したが、「結果として反ユダヤ主義を輸入した」という声が聞かれる。なぜならば、多くの難民は反ユダヤ主義が社会に深く刻み込まれたアラブ諸国出身だからだ。彼らは小さい時から、ユダヤ人は悪魔だ、世界の悪はユダヤ民族の仕業だ、といった教育を受けている。換言すれば、イスラム教国出身の難民には反ユダヤ主義のDNAが流れている、というわけだ(「イスラム系移民のユダヤ人憎悪」2017年12月22日参考)。

 なお、2015年の難民殺到時、難民ウエルカム政策を推進したメルケル首相は「如何なる反ユダヤ主義もドイツでは絶対に受け入れられない」と強調している。

文在寅大統領へ淡い期待を込めて

 韓国の文在寅大統領と北朝鮮労働党の金正恩委員長の南北首脳会談が27日、南北軍事境界線にある板門店の韓国側の「平和のハウス」で開かれる。
 南北首脳の会談は2000年6月(金大中大統領・金正日総書記、平壌)、2007年10月(廬武鉉大統領・金正日総書記、平壌)に次いで今回が3回目だが、北側指導者が韓国領土に入るのは南北分断後、初めて。6月初めまでにはトランプ米大統領と金正恩委員長が歴史上初の米朝首脳会談を開くことになっている。その意味で、南北首脳会談は米朝会談の“前座”とみる向きもあるが、南北首脳会談が成功しない場合、米朝首脳会談の開催は考えられない。北の非核化を含む朝鮮半島の行方を左右する重要な首脳会談だ。韓国大統領府は、金正恩氏には国賓級ゲストのプロトコールに従って歓迎するという。

20180423042734891_WUV12ZDC
▲米韓首脳会談後の共同記者会見で(2017年11月、韓国大統領府公式サイトから)

 ところで、金正恩氏は100mもない距離をどのような思いを抱きながら北側から韓国側の「平和の家」に足を踏み入れるだろうか。南北首脳会談は平昌冬季五輪大会を中心に南北間で展開された融和路線の一つの成果だが、国際社会の厳しい制裁下にある北側としては制裁緩和と経済支援の獲得への重要な一歩ともなるわけだ。韓国側の情報では、南北間で「南北非核化宣言」が表明され、南北間の融和政策推進が明記された政治文書が発表されると予想されている。

 首脳会談では北の非核化問題がメインテーマだが、南北間の離散家庭再会など人道的な交流も話し合われる予定だ。人権弁護士として活躍してきた文在寅大統領にとって、南北離散家庭再会問題は個人的にも重要なテーマの一つだろう。

 文大統領自身も朝鮮動乱勃発後、北から韓国側に逃げてきた家庭出身だ。文大統領は、91歳となった母親が北に残した親戚や知人と再会したいと願っていることを誰よりも知っている。

 文大統領の家庭は1950年、米国の「SSメレディス・ヴィクトリー号」(Meredith Victory)に乗って韓国の巨済島に逃げてきた数多くの家庭の一人だった。その3年後に生まれた文大統領は南北の再統一をライフテーマに、最初は人権弁護士として、そして今政治家として歩んでいるわけだ。

 文大統領は「米国のプレゼンスなくして南北の再統一はない」と考えている。彼は韓国の進歩的知識人に見られる反米主義者でもなく、在韓米軍の即撤退を要求してもいない。米国の朝鮮半島での役割を知っているからだ。独週刊誌シュピーゲル最新号(4月21日)は「本当のチャンス」という記事の中で「文大統領はポピュリストではない」と証言する声を紹介している。

 文大統領は金正恩氏との会談で日本人拉致被害者の帰国問題にも言及し、その早急な帰国実現を要請する、と聞いた。率直に感謝し、そのメッセージが単なる政治的計算に基づいた発言ではなく、文大統領個人の心から出た発言と信じたい。家族の分裂の痛みを文大統領自身が体験し、これまで離散家庭の再会に努力してきたキャリアがあるからだ。

 少し、文大統領を持ち上げ過ぎた感はあるが、朝鮮半島の行方に重要な影響を与える南北首脳会談を直前に控え、文大統領へ淡い期待を込めて書いた。
 文大統領はその歴史的職分を成功裏に果たし、朝鮮半島の安定、南北再統一に貢献してほしい。それは日本の国益にも合致するからだ。

EU大使「一帯一路」構想に反対

 興味深い記事が独経済紙ハンデルスブラット(4月17日付)に掲載されていた。見出しは「EU大使、中国の『一帯一路』(One Belt, One Road)構想に結束して反対」というのだ。

Xi_Jinping
▲新シルクロード経済圏構想を推進する中国の習辺平国家主席(ウィキぺディアから)

 欧州連合(EU)28カ国中、27カ国の駐北京大使は、中国の習近平国家主席が提唱し、国を挙げて促進している新しいシルクロード計画、通称「一帯一路」について、「自由貿易を打撃し、中国企業の利益を最優先している」と批判する内容の報告書を作成した。

 独紙が入手した報告書は、「2013年に明らかになった中国側の計画書にはEUの貿易の自由化に抵抗し、中国企業に有利になるように誘導せよ」と明記されていたと指摘している。

 報告書は今年7月に開催予定のEU・中国首脳会談の準備文書の一部だ。ハンガリー以外の大使が署名している。EU委員会は中国のプロジェクト、新しいシルクロードに対し、加盟国の共同スタンスを構築する戦略文書の作成に乗り出しているわけだ。

 新シルクロード計画は中国から陸路と海路で南東アジア、パキスタン、中央アジア、中東を越え欧州、アフリカまで65カ国を繋ぐ大構想である。
 中国当局が太鼓を叩いて宣伝するプロジェクトは、第2次世界大戦後、米国が戦後の欧州復興のためにスタートしたマーシャル・プラン以来の巨大な国際開発計画だ。

 EU外交官は「中国と協調することを拒否するつもりはないが、われわれの立場を説明すべきだろう。中国企業は公共事業の受注競争で優遇されている。シルクロード・プロジェクトは参加国全ての利益を配慮すべきだが、実際はそれからほど遠い」とはっきりと言明している 。

 報告書の中でEU大使たちは「中国は自国の利益に合致したグロバリゼーションの形成を願っている。例えば、過剰設備能力の縮小、新しい輸出市場の創設、資源確保の保証だ」という。
 中国企業が公共事業の調達に関する欧州の透明性原理、環境保護、社会規約の遵守を強いられなかったならば、欧州の企業は良き商談を得ることは難しい。そして、中国側は欧州の個々の加盟国との関係を強化し、欧州の結束を分断しようとしている。例えば、ハンガリーやギリシャは中国の投資に依存しているため、中国からの圧力を受けやすい。例えば、ハンガリーは2017年3月、北京で拘束された人権弁護士への虐待に抗議するEUの書簡に署名を拒否している。といった具合だ。


 もちろん、シルクロード・プロジェクトだけがEUと中国間の問題ではない。トランプ米大統領が言及しているように、外国投資に対する中国側の規制問題や知的所有権の侵害など多数の難問が山積している。

 ドイツのシンクタンク、メルカートア中国問題研究所(Mercator Institute for China Studies )とベルリンのグローバル・パブリック政策研究所(GPPi)は欧州での中国の影響に関する最新報告書をまとめたが、それによると、「欧州でのロシアの影響はフェイクニュース止まりだが、中国の場合、急速に発展する国民経済を背景に欧州政治の意思決定機関に直接食い込んできた。この場合、中国企業のドイツの先端技術の取得といった経済スパイ、知的所有権の侵害問題ではない。政治的影響だ」と警告を発している(「中国の覇権が欧州まで及んできた」2018年2月5日参考)。


 ジグマ―ル・ガブリエル前独外相は2月17日、独南部バイエルン州のミュンヘンで開催された安全保障会議(MSC)で習近平国家主席が推進する「一帯一路」構想に言及し、「新シルクロードはマルコポーロの感傷的な思いではなく、中国の国益に奉仕する包括的なシステム開発に寄与するものだ。もはや、単なる経済的エリアの問題ではない。欧米の価値体系、社会モデルと対抗する包括的システムを構築してきている。そのシステムは自由、民主主義、人権を土台とはしていない」と明確に断言している(「独外相、中国の『一帯一路』を批判」2018年3月4日参考)。

 ドイツ貿易・投資振興機関(Germany Trade & Invest)が今年2月に公表した報告によると、「シルクロード計画は不確な法的枠組みで政治的不安定な国に焦点を合わせている」と結論し、「中国国営銀行が進めるプロジェクトの約80%は過去、中国企業がその恩恵を受けている」と指摘している。 

独社民党で初の女性党首誕生

 ドイツで22日、メルケル連立政権に参加している社会民主党(SPD)がヴィースバーデンで党大会を開き、連邦議会(下院) 党会派代表のアンドレア・ナーレス議員(47)を新党首に選出した。155年の歴史を誇るSPD(1863年創設)で初の女性党首の誕生だ。党首選はマルティン・シュルツ党首(62)の辞意表明を受けて行われた。

csm_Nahles
▲SPD初の女性党首に選出されたアンドレア・ナーレス女史(2018年4月22日、SPD公式サイトから)

 党首選ではフレンスブルク市長シモーネ・ランゲ女史(41)が対抗候補として出馬したが、勝敗は明らかだった。焦点は、ナーレス議員がどれだけの支持を得るかにあったが、結果は約66・35%と予想外に低迷だった。

 SPDは昨年3月19日、ベルリンで臨時党大会を開き、前欧州議会議長のシュルツ氏を全党員の支持(有効投票数605票)でガブリエル党首の後任に選出し、キリスト教民主同盟(CDU)のメルケル首相の4選阻止を目標に再出発した。前党首は停滞する党勢を復帰してくれる救世主のように期待されていたが、その後の3つの州議会選(ザールランド州、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州、そしてドイツ最大州ノルトライン=ヴェストファーレン州)でことごとく敗北を喫し、本番の昨年9月24日の連邦議会選では社民党歴史上、最悪の得票率(20・5%)に終わった。

 連邦議会後の社民党のゴタゴタはこのコラム欄でも報告してきた。メルケル首相の率いる与党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)と大連立を組むか、野党に下野するかで党内で意見が分かれた。大連立交渉を始めることを決めた後も、交渉合意の是非で党内で意見が分かれるなど、社民党は揺れ続けた。党大会で100%の支持を得て登場したシュルツ氏だったが、結果としては敗戦処理のためグランドに上がった投手のような立場だった。今年に入って、SPDは3回の党大会を開催している。党内が不一致であることを端的に物語っている(「『労働者の党』社会(民主)党の没落」2017年9月27日参考)。

 ナーレス議員はシュルツ党首の後任に選ばれたが、その支持率は約66%と、3人に2人の支持を得たが、3人に1人は支持しなかったわけだ。党の中には、ナーレス議員も党の現在の混乱に責任があるといった声が聞こえる。

 ナーレス議員はまだ若いが党キャリアは30年と長い。そのバイタリティに期待する党員もいる。大連立に反対してきた社民党青年部(JUSO)は党首選ではナーレス議員を支持した。

 ドイツの複数の世論調査によると、社民党の支持率は現在、20%を割っているという。社民党は労働者層の支持を失いつつあるわけだ。
 ナーレス氏は「自由は重要だ。公平はわれわれの目標だ。しかし、『連帯』はグルーバル化し、ネオ・リベラルに流れ、デジタル化した世界で最も欠けているものだ」と指摘し、「時代の大きな挑戦に対し、前進と連帯への勇気を持って歩んでいこう」を呼び掛けている。

 参考までに、2015年の難民殺到以来、欧州の政界は右派化してきたが、ここにきて左派党の復活が見られ出した。
 欧州のトレンドを先駆けて表す直接民主制のスイスでは、地方の小都市では右派政党が強いが、チューリヒ、ジュネーブ、バーゼル、ベルン、ローザンヌなど都市部で社民党など左派政党が台頭してきている。チューリヒ市で3月4日に実施された参事会(自治都市の議決機関)選挙で、社会民主党や「緑の党」が躍進し、市議会でも絶対多数を勝ち取ったばかりだ。

 独社民党(1863年創設)は東方外交のヴィリー・ブランド、ヘルムート・シュミット、「新中道」を提唱したゲアハルト・シュレーダーといった時代の挑戦に立ち向かった指導者を輩出してきた政党だ。ナーレス新党首には欧州の左派政党指導者としてその指導力を発揮してほしい。

イランとの核合意はどうなるか

 トランプ米大統領は5月12日、イランとの核合意を破棄するかどうかの決定を下す。トランプ氏は大統領選からオバマ政権時代の外交実績といわれる核合意(2015年7月に最終合意した「包括的共同行動計画=JCPOA」)を「これまで締結された合意の中でも最悪のディールだ」と批判し、その破棄を主張してきた。

iaea_and_iran
▲合意した「行動計画表」を示すIAEAの天野之弥事務局長とイランのサレヒ原子力庁長官(2015年7月14日、IAEA提供)

 それに対し、イラン側は既に何度も「わが国はパートナーが核合意を堅持している限り、それを遵守していくが、破棄されたならば、核開発計画を継続するだけだ」と脅迫してきた。
 イランのモハンマド・ジャヴァード・ザリーフ外相は今月19日、ニューヨークでイランの国営放送の中で、「わが国はこれまでJCPOAの内容を遵守してきた。米国が核合意を破棄すれば、わが国にもさまざまなオプションがある。それらは快よいものではないだろう」と述べ、核関連活動の再開を強く示唆したばかりだ。

 核合意はイランと米英仏中ロの国連常任理事国に独が参加してウィ―ンで協議が続けられてきた。そして3年前、JCPOAで合意が実現した経緯がある。核合意の内容は、イランが濃縮ウラン関連活動を制限し、貯蔵量や遠心分離稼働数を縮小する一方、イラン側が核合意を遵守する限り、欧米諸国の経済制裁を段階的に解除するというものだ。

 米国はイランが核合意内容を遵守しているかを90日ごとに判断して議会に報告する。一方、JCPOAの内容を検証する国際原子力機関(IAEA)はイランの核合意の履行状況を現地査察を通じて3カ月ごとにまとめ、加盟国に報告してきた。IAEAの天野之弥事務局長は最近の3月理事会では、「イランはJCPOAを遵守している」という内容の報告書を提出している。

 トランプ米大統領はこれまでイラン問題では核開発だけではなく、中距離弾道ミサイルの発射実験や国際テロ活動の支援活動にも言及し、「イランは核合意する一方、ミサイル開発を継続している。シリアとイエメンでは武装闘争を支援している。オバマ前政権は核合意後、イランがより開かれた社会となるだろうと予想したが、実際はその逆だ」と指摘、強い警戒心を示してきた(「イランと北朝鮮の科学技術協定」2012年9月3日参考)。

 ちなみに、イランは昨年1月29日、中距離弾道ミサイルの発射実験を実施した。ミサイルの飛行距離は約1010キロ。同ミサイルが核搭載可能なミサイルかは不明だ。イランは同年9月23日に入っても新たな中距離ミサイルの発射実験を実施し、「成功した」と発表している。

 一方、英仏独の欧州3国は核合意の維持を主張し、トランプ政権を説得する外交攻勢を取ってきた。
 独週刊誌シュピーゲルによると、ドイツ、フランスと英国3カ国の約500人の国会議員は米議会宛てに書簡を送り、「イランは核合意を遵守しているが、米政府はそれを破棄しようとしている」と指摘、大統領の核合意破棄を阻止すべきだと訴えている。

 また、欧州連合(EU)外相理事会は今月16日、イランがシリアのアサド政権ばかりかイエメンでイスラム教シーア派系反政府武装組織「フーシ派」を、レバノンではシーア派武装組織ヒズボラを軍事支援しているとして、イランの関係者、企業を対イラン経済制裁のリストに掲載することを協議している。その狙いは核合意を破棄しよとしているトランプ大統領を説得し、EUが率先して対イラン制裁を新たに強化することで、トランプ大統領の懸念に応えようというのだ。
 ルクセンブルクのジャン・アセルボーン外相は、「核合意を救済するために対イラン制裁を強化しなければならない」と単刀直入に述べている。 

 トランプ氏が欧州3カ国の外交努力に敬意を表し、イラン核合意を当分維持する方向にいくかもしれない。イラン核合意の行方は北朝鮮の非核化交渉にも影響を与える。だから、トランプ氏は6月初旬までに開催予定の米朝首脳会談を最優先し、イラン核合意への最終決定を先延ばしすることは十分予想されるわけだ。

非核化の“どの工程”から制裁解除?

 北朝鮮の金正恩労働党委員長は20日、朝鮮労働党中央委員会総会で核実験と中長距離弾頭ミサイルの試射中止を表明し、過去6回の核実験を実施してきた北東部、豊渓里の核実験場を廃棄すると述べた。
 朝鮮中央通信が配信した上記のニュースが世界に流れると、北の戦略路線の大転換と歓迎する声が支配的だ。

o0800048512781302783
▲朝鮮半島(ジオカタログ株式会社の地図)

 ヾ攅饌臈領府は21日、南北、米朝首脳会談を前にした北の決定に対し、「全世界が願う朝鮮半島の非核化に向けた意味のある進展」と評価する尹永燦国民疎通首席秘書官名義のコメントを出した(韓国聯合ニュース)。
 ▲肇薀鵐彿涜臈領は20日、いつものようにツイッターで「とても素晴らしいニュースだ。大きな前進だ」と発信し、「金正恩氏との首脳会談が楽しみだ」と述べている。
 F本の安倍晋三首相は21日「前向きな動き」と評価する一方、重要な点は「核・ミサイルの完全で検証可能で不可逆的な破棄だ」と前者の2人が言及しなかった点を改めて指摘した。

 金正恩氏は南北、米朝首脳会談を控え、北のスタンスを公式の場で表明したが、内容は「核保有国」宣言でもある。総会で採決された決定書には「わが国に対する核の脅威や核による挑発がない限り、核兵器を絶対に使用せず、いかなる場合も核兵器や核技術を移転しない」(聯合ニュース)と明記されている。換言すれば、「わが国は既に核兵器を保有したので、更なる核実験は不必要だ」というわけだ。だから、使い古した核実験場の破棄は特筆すべきことではないのだ。

 南北、米朝首脳会談の最大テーマは「北の非核化」だという点をもう一度確認すべきだろう。その両会談前に、金正恩氏は再度「核保有国」宣言を公表したのだ。韓国の文在寅大統領が言うように、幸先のいいスタートではないのだ。

 金正恩氏は「北の非核化」交渉を「朝鮮半島の非核化」に絡ませて議論する考えを強く示唆しているのだ(「『北』の非核化か『朝鮮半島』の非核化か」2018年3月26日参考)。同時に、リビア方式の非核化はもはやテーマにはならないことを改めて指摘したのだ(「北は“リビア方式”の非核化を拒否」2018年4月2日参考)。

 南北、米朝首脳会談のテーマは(核保有国を宣言する)北にその大量破壊兵器の破棄(北の非核化)を説得することだ。核実験の凍結(モラトリアム)で事が終わるのではない。モラトリアムは「北の非核化」協議に入る入口に過ぎない。文大統領もトランプ大統領もゴールを忘れないで首脳会談に臨んで頂きたい。重箱の隅をつつくようで申し訳ないが、入口で対北制裁の段階的解除云々をテーマとしては絶対ならない。

 米朝首脳会談を控え、拘束中の3人の米国人の解放に言及するなど、北はスタートラインで何らかの報酬(対北制裁の解除と経済支援)を得ようと腐心してきた。そこで早急に、北の非核化の工程表を作成すべきだ。そのロード・マップで最も重要な点は、どの工程で対北制裁の解除を開始するかを明確にすることだ。モラトリアムの時でもない。国際原子力機関(IAEA)の検証・査察開始の時でもない。北の核関連活動がもはや軍事転用される危険性がなくなったとIAEA側が報告するまで制裁解除は交渉テーブルに挙げてはならない。

 金正恩氏は対北制裁の解除と経済支援を早急に手に入れたければ、その工程プロセスを短縮し、圧縮して実行すればいいだけだ。故金正日総書記時代のように、北がIAEAの査察活動を阻止したり、妨害すれば、その非核化プロセスは長時間となり、北側が報酬を得る日は遠のく。全ては北側の非核化の履行状況にかかっているのだ。北は自身の運命を自分で決定できるのだ。その意味でフェアなディ―ルだ。

 金正恩氏はイランの核交渉を思い出すべきだ。2003年から始まった核交渉が2015年7月、核合意が実現するまで13年以上の年数がかかったのだ。

 懸念事項は、ゴールに向かって走り出したマラソン選手に声援を送る周辺の応援団だ。特に、融和政策を主張する韓国の文在寅政権や中国は注意が必要だ。金正恩氏が短時間で非核化のゴールを切ることができるように支援すべきだが、ゴールを切る前に支援の手を差し伸べるべきではない。それでは、マラソン選手に不法なドーピング、栄養ドリンクを勧めるコーチと同じだ。 

 金正恩氏は訪中の際、中国の習近平国家主席に対し、非核化はあくまで「段階的、同時進行」で実施すると、「行動対行動」の原則を強調している。だから、「北の非核化」交渉では、どの段階で対北制裁解除と経済支援が始まるかを、金正恩氏に事前に通達すべきだ。金正恩氏が「それでは遅すぎる」と不満をいうのなら、トランプ氏を平壌に招いて米朝首脳会談を開こうと考えないことだ。

英国のスクリパリ事件の「核心」は?

 英国で3月4日、亡命中の元ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)スクリパリ大佐と娘が、英国ソールズベリーで意識を失って倒れているところを発見された。調査の結果、毒性の強い神経剤が犯行に使用されたことが判明した(治療を受けてきた両者は生命の危険は脱し、健康を回復してきた)。

csm_opcw-hq_03_97a4bc9bba
▲オランダのハーグのOPCW本部(OPCW公式サイトから)

 英生物化学兵器実験所ポートンダウン研究所は事件発生直後、「ロシア人元スパイ暗殺未遂事件で使用された神経剤はロシア製の『ノビチョク』である可能性が高い」と発表した、ボリス・ジョンソン英外相は当時、「100%確かだ」と強調した。

 それに対し、ロシアのラブロフ外相は今月14日になって、「検出された神経剤は無力化ガスと呼ばれるBZ(3−キヌクリジニルベンジラート)で、西洋諸国で製造された。同物質は冷戦中に米国の化学兵器として備蓄されていたが、ロシアの備蓄には一度も含まれたことがなかった」というスイスの核・生物・化学兵器防衛研究所(シュピーツ研究所)の研究結果を明らかにした。

 英国の「ポートンダウン研究所」とスイスの「シュピーツ研究所」はいずれもその分野では世界的に権威のある研究機関だ。両研究所で一致している点は、犯行に有毒化学物質(toxic chemical)が使用されたことだ。

 英国の場合、殺人手段に有毒化学物質が使用されたこと、その犠牲者が元ロシアの情報関係者だったことで世界のメディアの注目を一層浴びた。

 ロンドン発とモスクワ発の情報が連日発信され、一方は「こうだ」と主張し、他方は「それは全く違う。事実はこれだ」といった具合に、相反する情報がメディアで報じられている。その情報のジャングルの中、一般の読者は事件の核心を見失い、困惑に陥ってしまう。そこで頭を冷静にして、情報を少し整理したい。

 オランダのハーグにある化学兵器禁止機関(OPCW)関係者は12日、殺人未遂事件に使われた神経剤は「ノビチョク」と断定した英研究所の分析結果を追認する一方、「ノビチョク」は旧ソ連で開発されたとされる猛毒だが、今回の事件で使用された神経剤がどこで作製されたかについては明言を避けた。

 一方、シュピーツ研究所は「BZは冷戦中に米国の化学兵器として備蓄されていたが、ロシアの備蓄には一度も含まれたことがなかった」と指摘し、注目された。ラブロフ外相は早速、「OPCWはシュピーツ研究所の分析結果を考慮していない」と異議を唱えたわけだ。

 OPCWのウズンジュ事務局長は18日、「犯行に使用された神経剤にはノビチョクのほか、西側で作製された神経剤が実験所で見つかった」というラブロフ外相の反論に対し、「ノビチョクの一種だけで、他の神経剤は見つかっていない」と述べる一方、「BZは調査を検証するためにOPCWがスイスの研究所に送ったコントロール実験(対照実験)用だ」と説明した。すなわち、科学研究において、結果を検証するための比較対象を設定する実験を行ったわけだ。

 もちろん、ロシア側もそのことを知っていたはずだが、ラブロフ外相はあたかも新たに発見したかのように「BZ」説を主張し、英国側の「ノビチョク」説の信頼性を崩そうとしたわけだ。


 シリアでもダマスカス近郊の東グータ地区で今月7日、シリア政府軍が化学兵器を使用し、多数の市民に犠牲が出たが、ここでもロシアの関与が囁かれている。
 化学兵器のルーツを探す場合、_蹴慂軸錣鮑鄒修任る技術力を保有している国、機関、化学兵器への操作経験を有している国、機関、H塙圓瞭圧 修裡嚇世両魴錣考えられる。その3点の全てに該当する国は目下、ロシアしかないのだ。

 シリアの場合、アサド政権もロシアもOPCWチームに化学兵器が使用された現場査察を早急に認めるべきだが、ロシア側は様々な理由を挙げて現地査察を阻止している。これでは「やはりロシアか」といった印象を国際社会に与えてしまうだろう。西側外交官では「証拠品などは既に持ち去られただろう」という声が支配的だ。

 現代は情報合戦だ。その中にはフェイク・ニュースも含まれているから、事件の核心を掌握するのには容易ではない。
 世界の情報機関は特定の目標を達成するためにさまざまな情報工作を展開するが、その中で重要な工作は、正しい情報を発信することではなく、無数の相反する情報を流すことで事件の核心を隠蔽することにある。ロシアの情報放送「Russia Today」(RT)やオンラインの情報通信「Sputnik」が得意とする分野だ(「モスクワ発情報には注意を」2016年12月2日参考)。

 英国のスクリパリ事件の場合、どの国が技術力( 砲鳩亳魁吻◆砲鰺し、犯行を実行する動機()があるかだ。特に、は決定的だ。ロシアは目下、を隠蔽するために、有毒化学物質の特定論争にテーマをすり替えようと腐心しているのだ。

訪問者数
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

Recent Comments
Archives
記事検索
QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ