ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2018年06月

政治の世界に「夢」を取り戻せるか

 2日前の当コラム欄で「閉塞感が支配する現代、ロマンを語る政治家はいなくなった」と嘆いたが、ロマンを「夢」に置き換えると、夢を語る指導者はいることに後で気が付いた。一人は新しいシルクロード構想「一帯一路」を提唱した中国の習近平国家主席、もう一人はロシアのプーチン大統領だ。プーチン氏は旧ソ連時代の「大国の復活」を夢見ている。習近平氏もプーチン氏も機会ある度に自身の夢を語り、それを追及している指導者だ。偶然、両者とも欧米型民主国家の指導者ではなく、共産主義・独裁主義的な国の政治家だ。

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▲北京の人民大会堂でフランスのフィリップ首相と会見する習近平氏(新華社記者/姚大偉)2018年6月25日、新華社日本語版サイトから

 米国人公民権運動家マーティン・ルーサー・キング牧師の「私には夢がある」(I  Have  a  Dream)という有名なメッセージを思い出すまでもなく、人は本来、それぞれ夢を持っている。その夢を実現するために努力する。「スポーツの世界」でも「学問の世界」でも同じだろう。夢をもたず、気が付いたら“夢のような”ことが実現した、という人は少ない。夢を持ち、それを眼前に常に描きながら生き、その夢を実現した、という証の方が普通だろう。

 夢を持っている人の生き方にはロマンの香りがするものだ。その夢が実現できるか否かは分からないが、それを追及しながら生きる。ひょっとしたら、夢が実現できるか分からないゆえにロマンが生まれてくるのかもしれない。成功の裏付けのない生き方だ。

 世界の政治指導者を見るなら、ロマンを感じる指導者は少なくなった。トランプ米大統領を含む欧米指導者は自身の夢やロマンを語らなくなって久しい。次期選挙に追われ、ロマンを語る時間とその余裕がない。任期は4年から6年と限定されている。選挙で落選すれば、その翌日から「タダの人」となるから、それが恐ろしいために政治家は必死に選挙に勝つために知恵と資金を投資する。習近平氏やプーチン氏のようにロマンを語ったり、見果てぬ夢を追うなど贅沢なことはできない。トランプ米大統領の最大の夢は“米国ファースト”ではなく、再選を果たすことだ。

 民主主義は歴史を通じて人類が獲得してきた現時点では最良の政治システムだろう。その民主主義の要は自由選挙だ。一定の年齢に達した国民は自分の自由意思で指導者、政党を選ぶことができる。本来は理想的なシステムだが、現実の民主選挙は個々のエゴとエゴのぶつかり合いであり、組織、政党の闘争に終始し、夢を追う前に票を獲得するために実現不可能な公約を表明しなければならない。

 問題は、国民の自由意思の行使の結果、大多数の国民が幸せになるならば、民主主義の選挙制は理想的なシステムといえるが、現実はそうではないという点だ。民主主義の功績は大きいが、再考すべき時を迎えている。少なくとも、政治家が自由に自身の夢を語ることができる政治体制が必要だ。

 そこで習近平主席とプーチン大統領の話に戻る。彼らは現代の多くの政治家が失った夢を持った指導者だ。その夢の内容がいいか悪いかは別にして、彼らは少なくとも夢を語る。
 国家主席に就任した習近平氏は2013年3月17日、全人代閉幕式の演説で「中国の夢」について、「中国型の社会主義路線を堅持し、5000年余りの民族の夢を実現する」と述べている。習近平氏は就任前から夢を持っていたことが分かる(「当方の『中国の夢』」2013年3月19日参考)。その「中国の夢」が新シルクロード構想へと発展していったのだろう。

 一方、プーチン氏は自分が生まれた時の旧ソ連時代を忘れることができない。世界を米国と2分し、支配してきたあの時代よ、もう一度、といった感じだ。ただし、ロシアの国民経済は大国どころではなく、発展途上国レベルを脱した程度に過ぎず、原油と天然ガス依存体質は消えていない。歯がゆいだろう。だから、ウクライナのクリミア半島併合という軍事的冒険に出てしまったわけだ。プーチン氏は近い将来、習主席と同様、ロシアの夢を果たすために終身制の導入を図ってくるだろう。

 習近平主席とプーチン大統領は夢をもち、国民に語る。それが「偽りのロマン」と分かっていても、他の選択肢がない現在、多くの国民はその「偽りのロマン」に運命をかけようとする。一方、トランプ氏は“米国ファースト”を唱えるが、それはワイルド資本主義社会の最後の叫びであり、そこには夢もロマンもない。世界は今日、「偽りのロマン」と「ロマンのない世界」に分かれているわけだ。

 マザー・テレサは、「世界を良くしたければ、先ず、あなたと私が変わらなければならない」と語った。政治体制が問題ではなく、そこに生きている一人一人が変わらなければ世界は良くならないというのだ。その意味からいえば、民主主義にもまだチャンスはあるわけだ。

 民主主義国は神を失い、共産世界や独裁国は神を追放してきた。その結果、「ロマンのない世界」と「偽りのロマン」が生まれてきた。それではどうすればいいのか。その答えは案外シンプルだ。失った「神の思想」を回復すればいいのだ。神を呼び戻した社会主義体制は神を回復させた民主主義体制とほぼ同一だろう。

 蛇足だが、右翼思想も左翼思想も両者を止揚できる「中心」が見つかれば、両者の対立は自然に消滅できるのではないか。左右の闘争、カインとアベルの葛藤もその「中心」を失った結果生じてきたものだからだ。

W杯王者ドイツが「運勢」を失った時

 4年前のサッカーワールドカップ(W杯)ブラジル大会の覇者ドイツ・チームが27日、Fグループ戦3戦目、対韓国戦で0−2で敗北し、決勝トーナメント(ベスト16)に進出できずにロシア大会からは早々と姿を消すことになった。ドイツ公営放送は同日夜7時のニュース番組で、「ドイツ代表の敗北」をトップで大きく報じた。

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▲グループ・ステージで敗退が決まったドイツ代表のレーブ監督(2018年6月27日、ドイツ公営ZDF中継から)

 当方はウィーン時間27日16時からテレビで試合を観戦した。ドイツは対韓国戦で勝利すれば決勝トーナメントに行けるが、引き分けの場合、スウェーデン対メキシコ戦の結果次第、敗北した場合、難しくなる。もちろん、ブックメッカーは前回王者ドイツが対韓国戦では断然有利と予想していたが、当方は試合前からなんとなく不安を感じていた。

 今回のドイツ・チームは4年前のチームとは違う。MFトーマス・ミュラー、DFマッツ・フンメルスなど主力選手は残っているが、チームの持つ勢いが全く感じられなかったからだ。W杯前の対オーストリア練習試合を1−2で敗北、W杯直前の対サウジアラビア戦では2−1でかろうじて勝利したが、昔のような攻撃力、チームワークが見られないのだ。

 対韓試合では開始10分までドイツは早めに点をとって試合を有利に進めていこうという思いがあったが、時間の経過と共に韓国側の攻撃も始まった。怪我のため今季ブンデスリーグの試合に出なかったGKマヌエル・ノイアーの試合勘が心配だった。ボールを受け損じる場面もあったが、致命的なミスはなかった。前半は0−0で終わった。

 問題は、同時間、他の競技場で試合中のスウェ―デン対メキシコ戦でスウェーデンがゴールを決め1点先行したことが伝わると、ドイツ側に動揺が見られた。もはや引き分けでは決勝トーナメントに進出できない。前回のW杯王者は「ひょっとしたらグループステージをクリアできないかもしれない」といった不安を覚えたはずだ。

 独公営放送で解説していた名GKだったオリバー・カーン氏は、「ドイツの選手たちは失敗することを恐れて不安を感じている」と述べていたのが印象的だった。結局、韓国代表はアディショナルタイム3分にキム・ヨングォン、6分にソン・フンミンがゴールを決め、ドイツの大会連覇の夢を打ち砕いた。最終的には、ドイツはFグループ最下位となった。

 ドイツ・メディアのW杯報道は凄い。選手の動向を報道する一方、選手の試合外の行動も逐次報じる。W杯前にトルコ系の2人の代表(MFメスト・エジルとMFイルカイ・ギュンドアン)がトルコのエルドアン大統領と会見し、ユニフォームをもって大統領と記念写真を撮ったことが報じられると、「ドイツ代表の一員として相応しくない行動だ」という批判が高まった。2人をロシア大会に連れて行くのはよくない、といった声すら出てきた。2人の代表選手は突然降って沸いた「政治とスポーツ」の間で当惑せざるを得なくなった。

 ちなみに、ロシア大会では22日、スイス対セルビア戦でコソボ系の2人のスイス代表(グラニット・シャカ、ジェルダン・シャキリ)がゴール後、アルバニア国旗のシンボル、「鷲」のポーズをしたことに対し、「スイス選手がアルバニアのシンボルをするのは……」という声がスイス国内で高まったばかりだ。ファンの中には「彼らはスイスのためにゴールしたのではなかったのだ」と失望する声も聞かれた。国際サッカー連盟(FIFA)の規律委員会は25日、「フェアプレーの原則に反し、スポーツにふさわしくない行動」としてシャカとシャキリに1万フランの罰金処分を科した。FIFAはピッチで選手の宗教的、政治的行動を禁止している。

 チャンピオンになるのは大変だが、それを防衛するのはもっと大変だ、とボクサーの世界でよく言われてきたが、サッカー界でも同様だ。ドイツが敗退したことで、W杯で前回王者が3大会連続、グループリーグで敗退したことになる(イタリアが2010年の南アフリカ大会、2014年ブラジル大会でスペインがそれぞれグループ戦で敗退)。

 ドイツ・チームは昨年、コンフェデレーションズ杯を勝利して文字通り世界の頂上に立ったが、ロシア大会でそのトップから真っ逆さまに落下したというわけだ。

 選手の技術的な点は専門家に委ねるとして、当方はドイツが今年に入り、その国の運勢が下がってきているのを感じる。第4次メルケル政権の発足が遅れ、一時は選挙のやり直しもといわれたほど、ドイツの政界は混乱を極めた。難民・移民の殺到が契機となって、ドイツ国民の結束が崩れ、政党間の連帯も失われてきている。その結果、ドイツの運勢は下がってきたわけだ。

 ドイツ・チームの敗北を「国の運勢」のせいにするのはお笑いだ、と言われるかもしれないが、個人に運勢があるように、民族、国家にも運勢がある。運勢が下がっている時、いくら頑張っても結果を出すのが大変だ。その時、忍耐して騒がず、運勢を揚げる努力を地道に継続する以外にない。

 当方は10年前、このコラム欄で運勢とスポーツのことを書いた。参考のためその一部を紹介する。

 「オーストリア・スイス共催で開催されたサッカーの欧州選手権(ユーロ2008)で44年ぶりにスペインが優勝したと思っていたら、プロのテニス大会の最高峰、ウィンブルドン選手権で6日、5連覇中のスイスのロジャー・フェデラーを破り、スペインのラファエル・ナダルが5セットに及ぶ激闘の末、初優勝した。スポーツ界を見ている限りでは、スペインは現在、運勢がある。

 スポーツ界では強い選手がいつも優勝するわけではないし、世界ランキングが上位の選手が常に勝つわけではない。選手個人や出身国の持つ、目に見えない『運勢』が勝敗を左右することが少なくない。ユーロ2008を放映していたドイツ国営放送解説者が『ここまで勝ち残ってきたチーム同士の試合の場合、勝敗を分けるのは最終的には Spielglueck(運勢)だ』と語っていた。その通りだ。選手、チーム、国の運勢だ。運勢が強い選手には強豪選手も勝てないし、トップ・チームも敗北を強いられる」(「スペインの『運勢』」2008年7月8日参考)。

 ヨアヒム・レーブ監督の契約は2022年までだ。同監督のもとドイツ・チームがこの厳しい期間を乗り越えるか、新しい指導者のもと再出発するかは目下不明だ。

 ドイツ国民は南米ブラジルの国民と同じようにサッカーを愛する。ドイツ・チームが新しく生まれ変わり、その素晴らしいプレイを再び見せてくれることを願うファンは多いだろう。

独“バイエルン州ファースト”の波紋

 メルケル首相が率いる独与党「キリスト教民主同盟」(CDU)とゼーホーファー内相のバイエルン州の地域政党「キリスト教社会同盟」(CSU)は姉妹政党だ。両党とも「キリスト教」を政党名に付ける中道右派政党だ。これまで両党は選挙戦ばかりか、政策ガイドライン作りでも同じ歩調を取ってきたが、両党の関係がここにきて急変してきた、というより、対立が先鋭化し、第4次メルケル連立政権の土台すら震撼させている。

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▲難民政策で連携を深めるバイエルン州ゼ―ダー首相(左)とオーストリアのクルツ首相(2018年6月20日、オーストリアのリンツで、CSU公式サイトから)

 CDU/CSUの関係険悪化の最初の契機は2015年以来の大量難民の殺到だ。100万人以上の難民が中東・北アフリカからドイツに殺到したが、その影響を最も受けたのがドイツ南部のバイエルン州だ。
 同州出身のCSUのゼーホーファー内相はメルケル首相に難民歓迎政策の修正、難民受け入れ最上限の設定などを要求してきた経緯がある。先の連立交渉でゼーホーファー氏が連立政権の閣僚入りを果たし、難民政策の権限を有する連邦内相のポストを手に入れたまでは良かった。

 しかし、政権入り後もメルケル首相の難民政策は変化しない一方、ゼーホーファー内相はドイツに難民申請した者が他の欧州で登録済みの場合、国境で強制的に返還させることを主張し、欧州統合の難民政策を模索するメルケル首相と対立。ゼーホーファー内相はCDUとの政党連携を分裂させることも辞さない強硬路線を取ってきた。

 ゼーホーファー内相の強硬政策に対し、連立与党の社会民主党(SPD)から「バイエルン州ファーストはドイツの連立政権を破壊するだけではなく、欧州全体に大きなダメージを与える」という警告の声が出てきている。

 SPDの元党首、ガブリエル前外相は「CSUの政策は非常に危険だ。CSUはそれで得るものはない。ドイツ連立政権を崩壊させ、ドイツと欧州をカオスに陥れるだけだ」と警告。一方、シュタインマイヤー大統領(SPD出身)も「党最高指導者が本来、解決できる問題に対し激しく対立を繰り返すやり方には未来はない」とあからさまに批判している。

 ゼーホーファー内相が今回、強硬政策に拘るのはバイエルン州で10月14日、州議会選挙が実施されるからだ。同州与党のCSUはこれまで議会の過半数を掌握してきたが、支持者離れの傾向が見えだした。特に、右派政党、反難民政策、反イスラム教を主張する「ドイツのための選択肢」(AfD)が州選挙で躍進する可能性が高まってきた。CSUはうかうかしておれないという危機感がある。ドイツの複数世論調査によると、CSUを支持する有権者は約38%と過半数を大きく下回っている。そこでCSUはAfDより厳格な難民対策を実施することで有権者の関心と支持を得ようというわけだ。

 ゼーホーファー内相はメルケル首相に対し、「今週末の欧州連合(EU)首脳会談前に難民政策を修正しなければ、バイエルン州は既に申請済みの難民は国境で強制送還する処置を開始する」と警告したばかりだ。なお、CDUとCSU、SPDのトップが26日夜、ベルリンの首相府で会合し、難民政策でコンセンサスを模索している。

 ちなみに、マルクス・ゼ―ダー バイエルン州首相は今月20日、オーストリアのクルツ首相とリンツで会合し、難民対策で連携強化をアピールしている。

 最後に、不動産王トランプ氏が“米国ファースト”を宣言してホワイトハウス入りして以来、欧州でもミニ・ファーストを標榜するハンガリーのオルバン首相らの政治家が出てきた。そのファースト政策を助けているのが難民・移民の殺到だ。“バイエルン州ファースト”もその延長線にある。ただし、世界各地で“ファースト”が叫び出されてきたこともあって“ファースト”に新鮮さが薄れ、少々食傷気味となってきた感もする。自分優先、自国ファーストは主張としては分かり易いが、選挙に追われる政治の世界に益々ロマンが無くなってきた。閉塞感が覆う今日だけに、このへんでロマンを語る政治家が現れてきてもいいのではないか。

「北の非核化」を逸らすフェイク情報

 歴史初の米朝首脳会談がシンガポールで開催されて今月26日で2週間が経過する。トランプ大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の首脳会談の最大の課題は「北の非核化」だったし、その点は今でも変わらないが、時間の経過は全てを巧みに変質させる。トランプ氏のキャラクターも手伝って、米朝はあたかも友邦国のような雰囲気が醸し出されてきた。トランプ氏は金正恩氏に直通電話番号を与え、「いつでもコールを」といった具合だ。一方、北朝鮮はその後、米国批判を控え、両国関係が改善されてきたというイメージの操作に腐心している。

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▲北朝鮮が過去実施した6回の核実験による地震波(包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)の公式サイトから)

 もちろん、それなりの根拠はある。北は核実験、中・長距離弾道ミサイルの発射を控えると共に、もはや使用できなくなった核実験所を破壊するなど、それなりのパフォーマンスを繰り広げている。3人の米国人人質を解放、韓国動乱で亡くなった米兵士の遺骨の返還など、人道面の努力も忘れていない。あれもこれも、決して悪いことではないが、シンガポールの米朝首脳会談はそのために設置された会合ではない。

 目的は北の非核化の実現だ。2週間も過ぎると、トランプ氏だけではなく、メディア関係者も当初の目的を忘れ、緊迫感は次第に薄れてきた。繰り返すが、両国関係の正常化はサイド・イベントとして大切だが、メインは北の非核化の実現だ。それが実現されなければ、「歴史初の米朝首脳会談は失敗だった」と後日、歴史家が判断を下すだろう。

 米国は北の非核化が実現できるまで金正恩氏の友邦国になる必要はない。米国は北の核能力を破壊するという戦略的目標を決して忘れてはならない。新しい友達を見つけるのが上手いトランプ氏は「金正恩氏とケミストリー(相性)があう」と誇示したというが、相性云々より北の非核化の早期実現に集中すべき時だ。

 要注意は、制裁論が後退し、経済支援の話がメディアで報じられてきていることだ。その背後に中国の情報工作、フェイク情報の拡大がある。

 米朝首脳会談の内容は米朝2カ国しか知らない。日韓両国は米国から、中国、ロシアは北側からその会談内容を聞く。韓国政府も日本政府関係者も米朝首脳会談の内容を直接ではなく、間接的に聞く以外にない。安倍晋三首相ならばトランプ氏から聞くが、その内容と実際の首脳会談のそれとが一致しているという保証は残念ながらない。色が付き、薄められ、時には全く内容が違う場合だって考えられる。だから、韓国政府筋とか日本政府筋で流れる多くの情報は既に変質していると受け取っていいわけだ。

 実際、米朝首脳会談後、中国は「制裁の時は過ぎた。制裁を段階的に解除して対北経済支援の話をしよう」というニュアンスの情報を流し出している。あたかも、北の非核化が実現できたか、ないしは、できる見通しが立った、という印象を与える情報を流すわけだ。気の早いメディアは直ぐに手を出す。その度に、「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄」(CVID)は遠ざかる。

 恣意的にフェイク情報を流す側は巧みだ。直ぐに偽情報と受け取られるようなやり方はしない。それでは、フェイクか事実かを識別する方法はあるだろうか。一つある。「フェイク情報」は詳細な尾鰭が付いてくることだ。なぜならば、フェイクだから、それをカムフラージュするために、「ああだ、こうだ」「だから、こうだ」といった具合に説明が長くなるケースが多い。一方、「事実」の場合、多くは短く、あっさりしている。なぜならば、説明するとか、説得する努力が必要でないからだ。

 北の非核化の行方を考える場合、今後数カ月間はさまざまなフェイク・ニュースがメディアに流れてくるだろう。その時、そのニュースの長短をチェックし、説明の多い情報の場合、疑ってみることも重要だろう。フェイク・ニュースを流す人はどうしても多く語るからだ。
 

制裁継続が最短の「北の非核化」の道

 トランプ米大統領は22日、北朝鮮の核兵器は米国にとって「異常で並外れた脅威」と指摘し、金正恩政権に対する制裁を1年延長すると米議会に伝えたという。米朝首脳会談で曖昧のままだった北朝鮮の非核化の現状を考えればいい決定だ。シンガポールで署名した4項目の共同宣言では「朝鮮半島の非核化」という項目があったが、北朝鮮の詳細な非核化のロードマップ「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄」(CVID)が記述されていなかったことから懸念する声が聞かれた。トランプ大統領が対北制裁を今後1年間延期すると決定したことは現時点で最善の対応だ。

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▲共同宣言に署名する金正恩委員長とトランプ米大統領(2018年6月12日、シンガポール CNNの中継から)

 歴史上初の米朝首脳会談後、何が進展したのだろうか。トランプ氏は、米韓軍事演習の暫定停止が決まったほか、韓国動乱時に戦死した米兵らの遺骨200柱を北朝鮮から返還されたとして、両国首脳の合意がすでに成果を上げていると主張している。

 韓国聯合ニュースによると、米国の北朝鮮分析サイト「38ノース」は21日、米朝首脳会談後に撮影された衛星写真を基に、「北朝鮮北西部・東倉里のミサイル発射場(西海衛星発射場)でミサイルエンジン実験用の発射台を解体するなどの目立った活動は見られない」と伝えた。金正恩朝鮮労働党委員長はシンガポールの米朝首脳会談でミサイルエンジン実験場を「近く破壊する」と約束したが、まだ実施されていないわけだ。トランプ氏が主張するほど米朝合意内容の履行は順調に進んでいるとはいえない。

 北の非核化を考える場合、最も重要なステップは非核化の米朝実務協議の開催だが、まだ開催されていない。ポンペオ米国務長官は北との実務協議で今後の非核化プロセスを詰めていきたい意向だ。同国務長官が対北朝鮮制裁については、「完全な非核化が行われてから制裁などを緩和することになる」と表明し、対北政策で揺れが見られないことは評価できる。

 トランプ氏はシンガポールの米朝首脳会談直後、ツイッターで「もはや北朝鮮の核の脅威はない」と発信したが、ポンぺオ国務長官はトランプ大統領の現実認識と完全には一致していない。明確な点は、北の非核化はまだ始まってもいないのだ。楽観視できる状況は一つもない。

 当コラム欄でも指摘したが、北朝鮮が非核化プロセスを曖昧にし、時間稼ぎすれば対北制裁は永久に解除されないことを繰り返し確認することだ。北側が伝統の時間稼ぎ路線を取れば、「自身の首を絞めることになる」という警告を発することだ。

 もちろん、中国やロシアが朝鮮半島の融和雰囲気を理由に、北側に経済支援をした場合、国際社会は厳格な対応をすべきだ。北の完全な非核化実現まで制裁を緩めてはならないのだ(「米朝の『宣言文』より『制裁』の維持を」2018年6月14日参考)。

 トランプ氏は11月の中間選挙後、対北政策を再び軌道修正する可能性が考えられる。金正恩氏が米国の選挙カードを利用できる時間は限られている。北が非核化に応じない場合、トランプ氏に残るカードは軍事力の行使だ。トランプ氏は金正恩氏に直通の電話番号を渡したのだから、金正恩氏にその旨を直接連絡すればいい。

 時間は今、北側に不利だ。時間稼ぎすれば、制裁解除は遅れるだけではなく、米国の軍事カードが再び高まるからだ。金正恩氏が今年に入り既に3度も中国を訪問し、習近平国家主席と会見した背後には、体制保持でこれまで以上に中国の支援が必要となってきたからだ。トランプ氏も安倍晋三首相も焦ることはない。北が本当に非核化を実施するかを慎重に観察し、あらゆる手段でそれを検証するればいいだけだ。

 日本のメディアの一部で日本が北の非核化費用を負担するという報道が流れている。非核化費用とは一体何だろうか。それは本来、北側指導者の懐に入るものではない。非核化の費用とは具体的に米国側に支払わなければならない運送代、核施設の解体費、機材代、人件費などだ。

 核拡散防止条約(NPT) によれば、北の核兵器を持ち込むことができる国は核保有国しかない。北の場合、北の核兵器を中国やロシアに運ぶことはできないから、米国が引き取ることになる。核検証では国際原子力機関(IAEA)の査察員を利用できるが、米国は自国の専門査察員をより信頼するだろう。その場合、米国側に財政負担となる。

 すなわち、北の非核化費用とは主に米国側が担う費用といえる。その意味で、米朝枠組み合意に基づいた朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)の軽水炉建設プロジェクトへの拠出とは違う。もちろん、故金大中大統領が南北首脳会談を実現するために払ったお土産代でもない。

 「日韓が北の非核化費用を負担すべきだ」というトランプ氏の主張はある意味で当然かもしれないが、北の非核化費用を負担する以上、日本は北の非核化の検証状況について情報の共有と一定の発言権を米朝側に要求すべきだ。

移民・難民政策でEUは完全に分裂

 欧州連合(EU)は24日、ブリュッセルで移民・難民問題の緊急非公式首脳会談を開くが、加盟国の間で移民・難民政策が異なり、EU共同対策を構築することは難しい状況だ。加盟国の間では「EUは創設以来、最大の危機に直面している。28カ国から構成されたEU自体が崩壊する危険もあり得る」と懸念する声が聞かれる。

 EUで移民・難民問題がここにきて先鋭化してきた直接の契機は、最大の難民受け入れ国ドイツのメルケル連立政権内で政策の対立が表面化してきたからだ。メルケル首相が率いる「キリスト教民主同盟」(CDU)とその姉妹政党「キリスト教社会同盟」(CSU)が難民対策で対立、CDU・CSU・SPD(社会民主党)の3党からなる連立政権の土台をも震撼させているのだ。

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▲メルケル首相と難民政策で対立するゼーホーファー内相(CSU党首)CSU公式サイトから

 メルケル首相(CDU)の難民歓迎政策を批判し続けてきたゼーホーファー内相(CSU)はCDUとの政党同盟の解消をちらつかせ、連立政権から撤退も辞さない強硬発言を繰り返している。首相と内相の間で難民政策が異なれば、ドイツはもはや統一した難民政策が実施できなくなる。

 ゼーホーファー内相は23日現在、「メルケル首相の政策ガイドラインに従えば難民を国境で追放することが出来なくなる。欧州で登録済みの難民は国境で返還させるべきだ」と強気の姿勢を崩していない。独バイエルン州のヨハヒム・ヘルマン内相 (CSU)によれば、ドイツに昨年登録された4万人の難民は他の欧州で既に申請済みだったという。

 一方、リビアから殺到する難民ボートを受け入れてきイタリアで6月1日、大衆迎合運動「5つ星運動」と極右政党「同盟」(リガ)のジュセッペ・コンテ連立政権が発足したが、新政権は「わが国は今後、一人として難民を受け入れない」と主張している。東欧諸国のヴィシェグラード・グループ(ポーランド、 ハンガリー、スロバキア、チェコの4カ国から構成された地域協力機構)はブリュッセルの難民分担策を強く拒否してきた。また、オーストリアで右派政党「国民党」と極右政党「自由党」のクルツ連立政権が昨年12月に発足したが、これまで以上に厳格な国境管理を実施してきた、といった具合だ。加盟国の多くは難民お断りを全面に出してきたわけだ。

 EU議会のアントニオ・タヤーニ議長は23日、難民政策でEU各国が自国の利益だけを追求すれば、EUは分裂するだろう。難民問題はドイツの問題ではなく、欧州レベルの解決を見出さなければならない」と強調している。

 オーストリアのシュトラーヒェ副首相(自由党党首)は、「ドイツが他の欧州で登録した難民の送還処置を取れば、他国に連鎖反応が起き、欧州で国境を閉鎖する国が増えるだろう。そうなれば、わが国はこれまで以上に国境警備を強化する。域内の自由な移動を認めたシェンゲン協定は暫定的に停止されることになる」と述べている。ちなみに、クルツ連立政権が発足して以来、難民強制送還の件数は40%増加したという。

 イタリアへ殺到した難民の数は今年は2017年比で約80%減少したが、コンテ新連立政権は難民政策では厳格な難民政策を実施してきた。難民救済ボートとの問題では、マッテオ・サルビーニ内相は、239人の難民を救済したドイツのNGO救援船「ライフライン」メンバーの拘束と船の押収を要求している、といった有様だ。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、今年に入り1000人以上の難民が地中海で溺死している。参考までに、イタリア海岸警備隊は23日、「われわれはリビア海岸線での難民救済の責任を担っていない。だから、リビアの海岸警備隊に今後、救済を求めるべきだ」と通達している。

 一方、オーストリアのクルツ首相は23日、「現実的ではない難民の分担論争は止め、EU国境線の監視強化に乗り出すべき時だ。人身売買業者が主導する難民ボートが欧州にこないようにしなけばならない」と主張し、欧州域外に難民申請場所を設置し、そこで難民を保護すべきだという。欧州域外で難民収容所を設置する考えはデンマークのラース・ロッケ・ラスムセン首相も主張してきた。

 それに対し、フランスのマクロン大統領とスペインのペドロ・サンチェス 新首相は「欧州域内に到着した難民の収容センターの設置」を提案している。マクロン大統領は「欧州は難民への連帯を表明し、経済的支援を実施すべきだ。難民返還の場合も欧州レベルで共同に実施すべきだ」と主張している。

 厳格な難民政策を実施するハンガリーのオルバン首相は22日、同国のラジオ放送とのインタビューの中で、オーストリアとイタリア両国を称賛し、「東欧4カ国と同じ政策を実施している。西欧の難民歓迎政策に対抗して連帯していこう」と呼びかけている。

 なお、オルバン首相は24日のブリュッセルの難民問題のミニ非公式首脳会談について、「ドナルド・トゥスクEU大統領が招集したのではなく、ジャン・クロード・ユンケル委員長が招集したものだ。合法性に問題がある」と反発し、ブリュッセルのミニ首脳会談への参加ボイコットを呼びかけている。

 ヴィシェグラード・グループ(東欧4カ国)に対しては、フランスなどから「EUから経済支援を受け利益を享受する一方、欧州の基本的価値観を無視して自国ファーストを主張することは許されない」という厳しい批判の声も出ている。

 いずれにしても、EUは今月28日、29日の両日、首脳会談を開催するが、24日の非公式首脳会談で移民・難民問題でEU共同の対応が決定する可能性はほとんどない。 

洗礼式で泣く幼児を叩いた老神父

 喜怒哀楽という言葉があるが、その中でも「怒り」という感情は最も怖い。怒りを爆発させたゆえに、その人の人生が変わったという人もいるだろう。以下は、神に仕える聖職者が怒りを抑えきれなかった結果、生じた不祥事の話だ。

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▲幼児の洗礼式(写真は上記のコラムとは無関係です)ウィキぺディアから

 パリ郊外のシャンポーで幼児洗礼の式典中、幼児が大きな声で泣くので、洗礼を施す神父が幼児の頬っぺたを叩いてしまった。その時のビデオがSNSを通じて流れ、多くのフランス人がそのシーンを見て驚いたり、怒ったりしたという。

 洗礼を担当した神父は多分、若い聖職者だろうと勝手に考えていたら89歳の老神父だったので改めて驚いた。人生の喜怒哀楽をそれこそ十分に体験した年齢だ。もう直ぐお迎えが来てもおかしくない年齢だ。その89歳の老神父がなぜ幼児を叩いたのだろうか。誰でも持つ疑問を当方も感じた。

 老神父が所属する教区は22日、老神父に洗礼を施すことを今後禁止すると発表した。平信者たちの家族が老神父の顔を見ると怖くなって自分の子供を教会に近づけなくさせるので、迅速な対応が願われていたからだ。

 ビデオを観ると、神父は幼児の顔を掴むと、叩く前に「静かにしろ」と厳しく叱咤している。教区側は「神父の行為は絶対に許されない」と指摘し、「自制心の損失」「神父は多分疲れ切っていたのだろう」などを挙げ、老神父の突然の攻撃的な行為を説明している。神父自身は幼児を叩いた後、自分が取った行為が間違っていたと幼児の親に詫びている。すなわち、突然、切れてしまったというわけだ。

 担当教区の司教はその直後のインタビューで、「神父は幼児を静めさせようと願ったが、どうしていいか分からなくなり、ついつい手を出てしまったのだろう。神父の殴打はピンタと抱擁の間の行為だった」と説明し、神父が計画的に幼児を殴打したわけではないと、老神父に代わって弁明している。

 幼児の立場からいえば、人生を始めたばかりの時、神に仕える神父に頬っぺたを叩かれた体験が今後の人生にどのような影響を与えるだろうか、とついつい考えてしまう。

 同じ22日、児童ポルノグラフィの所持と拡大容疑で訴えられバチカン元外交官の裁判がバチカンで行われたが、元バチカン外交官は「ワシントン人事の命を受けたことがきっかけで一種の精神的危機に陥っていた」と説明、なぜ児童ポルノグラフィにはまりこんだかを説明し、自身の行為が不適当だったと認めたというニュースが入ってきた。バチカンは昨年9月、元外交官の職務を解任している。近日中に判決が下される予定だ。

 上記の2例はたまたま6月22日に流れてきた出来事という意味だけではない。89歳の老神父の幼児殴打もエリート外交官だったバチカン元外交官の行為もいずれも自制心を失ってしまった結果だ。

 元バチカン外交官は児童ポルノグラフィを集め、それを拡大することが教会の教えからも罪であることを理解していたが、「自分は左遷させられた」という思いに捉われた元外交官は怒りが湧き、正常な歩みから脱線してしまったのだろう。老神父も元バチカン外交官も普段は穏やかな人物だったと信じたい。何らかの切っ掛けで自制心(セルフコントロール)を失い、本人もビックリするような不祥事を犯してしまったケースだろう(元バチカン外交官の場合、左遷前に児童ポルノグラフィに走る何らかの性向があったかもしれない)。

 「魔が差す」という表現があるが、怒りは最も魔が差す契機となる。人類最初の殺人事件、カインがアベルを殺害した事件も、カインが神から祝福される弟アベルの姿をみて自制心を失い、嫉妬と怒りから弟を殺害した。それ以降、怒りを抑えることは人間にとって容易なことでなくなった。

 カインがアベルを殺害する直前、神はカインに「もし正しい事をしていないのでしたら、罪が門口に待ち伏せています。それはあなたを慕い求めますが、あなたはそれを治めなければなりません」(創世記第4章7節)と警告を発していた。

性犯罪問題で米枢機卿に聖職停止

 ローマ・カトリック教会の聖職者による未成年者への性的虐待事件を書いているときりがないが、ローマ法王に次ぐ高位聖職者、枢機卿の性犯罪容疑となるとやはり無視できない。記録しなければならない。以下、バチカン・ニュースが21日、大きく報道した内容だ。

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▲聖職停止を受けたマカリック枢機卿(2008年1月24日、スイスの「世界経済フォーラム」(ダボス会議)で、ウィキぺディアから)

 バチカン法王庁は、米国ワシントン大司教区の元責任者セオドア・マカリック枢機卿(Theodore McCarrick)の45年前の未成年者への性的虐待容疑に対し「信頼できるもので、実証に基づいた容疑」と判断し、今後の一切の聖職行使の停止を言い渡した。これはニューヨークのティモシー・ドラン枢機卿が20日、公式声明で発表したものだ。

 マカリック枢機卿(87)への容疑は同枢機卿がニューヨーク大司教区の神父として従事していた時代のことだ。ドラン枢機卿によると、教会の規約に基づき、バチカンに通達された。バチカンのナンバー2、パロリン国務長官はローマ法王フランシスコの指令を受け、マカリック枢機卿に今回、聖職禁止を言い渡したわけだ。

 それに対し、マカリック枢機卿は「バチカンの決定には忠実に従い、今後聖職を行使しない」と語る一方、容疑に対しては、「「自分は容疑のような行為をしていない」と否定した。 

 ドラン枢機卿は、「ワシントン大司教区の関係者はバチカンの決定に対し、悲しみ、ショックを受けている」と述べる一方、教区の代表として性的虐待の全ての犠牲者に対し謝罪を表明した。同時に、「事件を報告してくれた犠牲者の勇気に感謝する」と語った。

 マカリック枢機卿は1930年7月ニューヨーク生まれ。大学や教育分野でキャリアを積んできた。1977年にニューヨーク教区の司教補佐。1981年に教区司教、86年にニューアーク大司教に就任した後、2001年2月、ヨハネ・パウロ2世から枢機卿に任命されている。

 枢機卿は2001年から06年までワシントン大司教区の最高責任者だった。同時代は米国同時テロ事件、イラク紛争やアフガニスタン紛争への参戦をはじめ、米教会の聖職者による性犯罪が次々と発覚した波乱の時代だった。彼は保守的な立場だったがブッシュ政権を支持してはいなかった。

 世界のカトリック教会では聖職者の性犯罪が報道されない月がないほどだ。最近では、オーストラリア南オーストラリア州のアデレード大司教区のフィリップ・ウイルソン大司教(67)が1970年代、1人の神父の未成年者への性的虐待を知りながらもみ消した容疑で有罪判決を受けたばかりだ。

 豪教会といえば、メルボルンの予審担当のベリンダ・ウォリントン治安判事は5月1日、バチカン財務長官のジョージ・ペル枢機卿(76)を性犯罪容疑で正式に起訴している。ローマ法王フランシスコが2014年2月に新設したバチカン法王庁財務長官のポストに就任した同枢機卿はバチカンの職務を休職し、メルボルンの裁判所に出廷して自身の潔白を表明してきた。

 豪教会やアイルランド教会だけではない。米教会、独教会からベルギー教会など世界各地の教会で枢機卿、司教たちの未成年者への性的虐待事件が白昼の下、明らかにされてきた。

 当方が住むオーストリアでも1995年、オーストリア教会最高指導者、ハンス・グロア枢機卿が未成年者に性的虐待を犯していた問題がメディアに報道された。バチカンは当時、容疑の解明を隠蔽し、枢機卿を地方の修道院に左遷。枢機卿はそこで病死した。グロア枢機卿事件はカトリック教会の聖職者の性犯罪の最初のケースだった。

 当方はこのコラム欄で「バチカンに住む『亡霊』の正体は」(2018年5月30日)でバチカンの過去の歴史を簡単に紹介し、世界13億人の信者を抱える世界最大のキリスト教会に如何に多くの不祥事が起きたかを紹介した。そして新ミレニアムの西暦2000年に入り、聖職者の性犯罪が次々と暴露されていったわけだ。

 現ローマ法王フランシスコは教会刷新へのチャンスについては、「エジプトのスフィンクスを歯ブラシで掃除するような試みだ」と吐露し、バチカンに住み着く亡霊退治が容易ではないことを示唆したが、聖職者の独身制をキープするカトリック教会にとって聖職者の性犯罪防止は最も難しいテーマだろう。

大麻の「解禁」は麻薬依存の道開く

 カナダのトルドー首相は20日、同国上院でマリファナ(乾燥大麻)の小規模生産、使用を認める法案が可決されたことを受け、10月17日を期し同法案を施行すると明らかにした。カナダのメディアによれば、同首相は、「可決後、8週間から12週間後に施行できるが、地方で準備に時間がかかるという声があるので施行期日を少し遅らせた」と説明している。

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▲ Cannabis Act(カンナビス法案) カナダ上院公式サイトから

 カナダ上院は19日、マリファナの使用と生産を合法化する法案を賛成52、反対29、棄権2で可決した。大麻の解禁は国レベルとしては主要先進国会談(G7)では初めて。南米のウルグアイで初めて解禁され、米国では9州と首都ワシントンで既に解禁されている。トルドー首相は2015年の選挙でマリファナの合法化を公約としてきた経緯がある。

 マリファナの合法化の背後には、.泪螢侫.覆ソフト・ドラックであり、酒類と同様で人間に大きな影響はない、禁止することで、マリファナを売買する犯罪グループが暴利を儲ける一方、マリファナを買うために犯罪に走る人々が増える、といった理由が挙げられている。

 ,紡个掘▲Ε―ンに事務局を置く国際麻薬統制委員会(INCB)は「麻薬をソフト・ドラックとハード・ドラックに分類すること自体が間違いで、大麻には非常に危険な化学成分(カンナビノイド)、例えば、テトラビドロカンナビノール(THC)が含まれている」と指摘し、大麻の自由化は危険だと強調している。INCBは毎年春、前年の年次報告書を発表するが、オランダなど大麻の自由化を進めている加盟国に対して、「若い世代に間違ったシグナルを送り、麻薬の拡大を助長させる危険性がある」と警告を発してきた(「カナビスの合法化は危険だ!」2018年2月13日参考)。

 問題は△世蹐Αマリファナを合法化すれば、それを売買し、暴利を儲けてきた犯罪グループが減少するというのだ。しかし、犯罪グループは通常、マリファナだけを扱っているのではなく、他の覚せい剤の密売にも関わっている。マリファナの合法化は他のハードな麻薬への誘い口になり、麻薬業者を更に潤わせる結果ともなるだけではないか。

 実際、覚せい剤の密売件数は増加している。マリファナを消費してきた人々が麻薬売買業者から購入しなくても良くなるから、その結果、犯罪件数が減少するという期待は非現実的だ。麻薬の摂取が常習化し、他のハードな麻薬への誘惑に抵抗できなくなるケースの方が現実的であり、より深刻なことではないか。

 すなわち、,皚△皀泪螢侫.聞臻_修陵由とはならないのだ。むしろ、マリファナの合法化は他の麻薬摂取への道を開くと共に、健康を一層悪化させる危険性を回避できなくなる。

 著名な人物や政治家が「若い時、数回、マリファナを吸ったことがある」と自慢話のように語り、それがメディアに流れることがある。そんな証は「若い時代の……」といった類の話では済まない。若い世代に間違ったアドバイスをすることになる。トルドー首相も「自分は5、6回、マリファナを吸ったことがある」と述べている。危険な証だ。

 「ドイツ刑事協会」(BDK)のアンドレ・シュルツ議長は大衆紙ビルトとのインタビューで、「大麻の禁止は歴史的にみても無理があり、知性的にも目的にも合致していない。人類の歴史で麻薬が摂取されなかった時代はなかった」と述べ、大麻の完全自由化を支持する発言をし、大きな話題を呼んだことがある。大麻を禁止し続ければ、刑務所は大麻消費で拘束された人々で溢れる。大麻の解禁は刑務所を解放するために必要悪だという主張だ。賛成はできないが、現場の声であり、最も現実的な大麻解禁支持説だろう。

 繰り返すが、「禁止」すれば、不法な密売業者を喜ばせ、「解禁」すれば、密売業者にダメージを与え、最終的には犯罪も減少する、という一連の偽りの論理を再考する必要があるだろう。もちろん、麻薬の医療目的の使用は別問題だ。

児童虐待問題と家庭の崩壊

 日本で児童への虐待事件が多発しているという。犠牲者が児童や幼児の場合、悲惨だ。加害者が両親の場合、なおさらだ。親は本来、子供の成長を願い、健康ですくすくと育ってほしいと願うが、実際はそうではないケースが出ている。

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▲美しいペラゴーニア(Pelargonie) 2018年6月20日、撮影

 日本のメディアによると、東京都目黒区で今年3月、5歳女児が虐待を受けて死亡するという事件が起きた。両親は保護責任者遺棄致死の疑いで逮捕された。女児はノートに「もうおねがい、ゆるして」と書いていたという。そのニュースが流れると、多くの日本人は泣いた。そして子供を抱えている家庭はやり切れない思いがしただろう。「どうして」という思いと共に、「どうしたらそのような悲惨な事件を防ぐことができるか」と考えざるを得ない。

 日本の児童虐待事件のことを考えていた時、スイスインフォからスイスの児童虐待件数に関するニュースが届いた。日本人が1度は訪ねたいアルプスの小国でもやはり悲惨な事件は起きている。以下のデータはUBSオプティムス基金(本部チューリヒ)が2016年9月から11月の間、児童相談所や病院、警察など国内の児童保護関連機関に報告された虐待の件数を集計したものだ。

 スイスインフォによると、同国では年間、3万から5万人の児童が虐待されているという。その数は同国の子供人口の2から3・3%に該当する。その内、22・4%がネグレクト(育児放棄)、20・2%が身体虐待、19・3%が心理的虐待、18・7%が配偶者への家庭内暴力の目撃、15・2%が性的虐待という。子供人口1万人当たりの虐待報告件数はチューリヒ地域、ジュネーブ州を含む南部に多いという。

 ちなみに、日本の全国の児童相談所が2016年対応した児童虐待件数は12万件以上だったという。人口比でみると、スイスの児童虐待件数は日本より10倍から15倍多い。スイスインフォは、「児童虐待件数はあくまでも氷山の一角に過ぎない」と指摘し、実数ははるかに多いことを示唆している。スイスでも児童虐待問題は大きなテーマであることが分かる。

 当方が住むオーストリアでも例外ではない。児童虐待事件が起きる度にメディアでも報じられる。まだ20歳に満たない若い母親が子供を産んだが、育てることが出来ず、育児を放棄するケース、最悪の場合、虐待して殺害し、その遺体をゴミ箱に捨てたという悲惨な事件もあった。

 小さく、弱い存在がいれば、それを守ろうとする動物的本能がある。象やライオン、ペンギンなどの動物の親が子供を身を張って護り育てる姿や鳥の親子の様子などを見ると、親子の情が薄れてしまった人間の世界があまりにも悲惨だ。本来ならば人間には幼いものや子供への自然な愛が備わっている。だが子供の時に親に愛されずに育つと、彼らが親になった時、子供の愛し方が分からないケースが出てくるだろう。

 欧州では父親が娘に性的虐待をするケースが多い。調べていくと、娘に性的虐待をした父親も幼い時、家庭で父親から虐待された体験を持っていたというケースが少なくない。児童虐待事件も代々、世代から世代へと受け継げられていく面がある。その忌まわしいチェーンを断ち切らなければならない。

 児童虐待事件はやはり家庭崩壊の結果だと言わざるを得ない。児童相談所のネットワークの強化、権限強化、一連の法的整備などは急務だが、同時に結婚や家庭を持つことの意味、役割などを再認識する必要があるだろう。家庭は社会の最小単位だ。そこで人は愛を学ぶからだ。

 問題はどのようにして崩壊した家庭を再建していくかだ。家庭の崩壊は少子化を加速させるだけに、国の命運をかけたテーマだ。政治家、有識者ばかりではなく、私たち一人ひとりが真剣に考えていかなければならない。
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