ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2018年08月

独代表レーブ監督「私は傲慢だった」

 ドイツのサッカー代表ヨアヒム・レーブ監督(58)は29日、サッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会で予選落ちした後、初めて公式の場で敗北の原因、今後のチーム作りなどについてその見解を語った。

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▲ロシア大会の敗北について語るレーブ監督(2018年8月29日、ミュンヘンの記者会見で、DFB公式サイトから)

 前回W杯ブラジル大会で優勝したドイツ代表はロシア大会でも優勝有力候補とみられてきたが、予選Fグループ最下位(1勝2敗)という恥辱の結果に終わった。レーブ監督はその直後、「敗北の原因などについて慎重に分析したい」と述べ、ロシア大会敗北の原因などについて、公式の場で見解を表明することをこれまで避けてきた。

 ロシア大会開幕から2カ月が経過した。レーブ監督はミュンヘンでの記者会見でドイツ代表の敗北の原因などについて語った。

 レーブ監督は、「ロシア大会の結果は自分にとってもチームにとっても大変なショックだった。弁解の余地がない」と述べた。

 〜芦者としてわれわれはその振る舞いから試合運びまで余りにも傲慢だった、ある意味で自己満足に陥っていた。
 ▲┘献訌手(29)の問題をわれわれは過少評価してきた。この問題はチーム全体のエネルギーを奪った。

 レーブ監督は、「自分の最大の間違いは、ボールを支配し、相手に攻勢をかける試合運びで予選を軽く通過できると考えたことだ。条件が問題なければ、危険を冒しても大きな失敗はないと考えていた。残念ながら、ロシア大会ではその条件がわれわれに味方しなかった。自分は傲慢だった。自分が考えているやり方を更に完全にしようと思った。2014年大会のように守りと攻撃のバランスとれた安定したチームを作ることが今後、大切となる」と述べた。

 △任蓮▲┘献訌手が独サッカー連盟(DFB)会長を名指し、彼の人種差別主義を批判し、大きな社会問題にまでなった。ドイツのサッカーナショナルチーム代表の1人、MFメスト・エジル(Mesut Ozil) が7月22日、ドイツ代表を辞任すると表明し、その理由として「DFB内の人種差別主義( Rassismus)と 尊敬心のない無礼な言動」を挙げたことが明らかになると、DFBばかりか、ベルリンの政界にも大きな波紋を投じている。

 ことの発端は、エジルともう1人のトルコ系代表、MFイルカイ・ギュンドアンが5月中旬、大統領選挙戦中のトルコのエルドアン大統領と会見し、ユニフォームをもって大統領と記念写真を撮ったことだ。それが報じられると、「ドイツ代表の一員として相応しくない」という批判が高まった。2人をロシア大会に連れて行くのはよくない、といった声すら聞かれた(エジルは現在、英プレミアリーグのアーセナルFCに所属)。

 レーブ監督は、「我々の最大の関心事はW杯に集中することだった。エジル問題は我々のエネルギーを奪っていった」と間接的ながらエジル選手を批判する一方、「チームには人種差別主義的発言はなかった」と説明。エジル選手のドイツ代表の辞任表明については「われわれにもエジルにとっても心痛い決定だ」と語った。

 レーブ監督によると、エジルはレーブ監督に辞任表明を直接伝達しなかった。監督が何度も彼と話そうとしたが、連絡がつかないまま終わったという。

 ドイツ代表は9月6日、ロシア大会のチャンピオンのフランス代表と対戦する。その3日後、ペルーとの試合が控えている。レーブ監督はフランス戦には17人のW杯参加選手に、3人の新たな選手、DFティロ・ケーラー(パリ・サンジェルマンFC所属)、MFニコ・シュルツ(TSG1899ホッフェンハイム所属)、MFカイ・ハフェルツ(バイエル・レバークーゼン所属 )を呼ぶ一方、ロシア大会前に代表から落ちた3人の選手、MFレロイ・サネ(マンチェスター・シティ所属)、FWニルス・ペーターゼン(SCフライブルク所属)、DFヨナタン・ター (バイエル・レバークーゼン所属) を再び代表チームに加えた。

 レーブ監督の契約は2022年まで。同監督のもと、ドイツ代表がこの厳しい期間を乗り越えて、新たな出発をなすことができるか。その意味で、歴史的敗北を喫したドイツ代表が新たな選手を加え、ロシア大会覇者フランス代表に対しどのような試合(独ミュンヘン開催)を見せるか注目されるわけだ。

ザクセン州でなぜ暴動が起きるか

 ドイツのザクセン州ケムニッツ市(Chemnitz)で先週末から27日にかけ、極右過激派、ネオナチ、フーリガン(Kaotic Chemnitz)が外国人、難民・移民排斥を訴え、路上で外国人を襲撃するなど暴動に走った。彼らは「メルケル退陣せよ」、「難民殺到を止めろ」と書かれたプラカードを掲げ、ヒトラーを賛美し、ビンや花火玉を極左活動グループや警察部隊に向けて投げた。

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▲独ザクセン州「2017年憲法擁護報告書」

 警察側の発表では、27日夜には極右過激派ら約5000人から6000人が市内に繰りだす一方、約1500人の極左グループが抗議デモを行った。警察側は600人を出動させ、極右派と極左グループの衝突を回避させるため放水車を動員して治安の維持にあたった。少なくとも約20人が負傷した。

 ことの発端は、35歳のドイツ人がイラン人(23歳)とイラク人(22歳)にナイフで殺害されたことで、それに激怒した極右過激派、ネオナチ・グループ、フーリガンが市内で外国人を襲撃するなどの暴動を起こした。

 ザクセン州は旧東独に属し、ケムニッツ市は同州3番目の都市で人口約25万人だ。同州では外国人や移民、難民の割合はドイツの他の州より低くいが、外国人排斥、移民・難民排斥の傾向が強い。その背後には、東西両ドイツが統合された後も旧東独の生活水準が旧西独より低く、国民には不満が溜まる中、外国人、移民が殺到してきたことから、その不満が外国人や難民に向けられてきたともいえる。

 極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)のマルクス・フローンマイヤー連邦議員は、「国は国民を守るべき義務があるが、それができないのならば、自身で守る以外にない。ナイフを振りかざす難民を阻止すべきだ」というコメントを発信し、極右過激派の外国人襲撃、リンチを擁護するとも受け取れる声明を出している。

 それに対し、メルケル首相は、「路上で外国人を襲撃することは法治国家として絶対に認められない」と指摘、極右、ネオナチストたちの外国人襲撃を厳しく批判した。

 ザクセン州のミヒャエル・クレッチマー首相は28日、「わが州は暴動に対応できる能力を有している」と強調し、同州の対応がまずかったという批判に反論したが、「同州内の極右過激派の動向を完全には掌握できずに、対応が遅れた」、「ドイツ全土から極右活動家たちがケムニッツに集合してきていた」と、同州治安関係者の失策を指摘する声が強い。

 ザクセン州は久しく極右過激派の拠点とみなされてきた。ネオナチ政党「ドイツ国家民主党」(NPD)は2004年から14年の間、州議会に議席を有していた。現在はAfDの躍進でNPDは後退。同州では過去、ハイデナウ市、ドレスデン市、そして今回のケムニッツ市で極右過激派の暴動が起きている。

 同州憲法擁護報告書によると、2017年、同州で約2600件の極右過激派による不祥事が発生し、1959件は犯行を行っている。ケムニッツ市には約150人から200人の極右過激派がいると推定されている。彼らはソーシャルネットワークを通じて他の極右派と連携を深め、その動員力を強化している。彼らはフーリガンだけではなく、国民からも支持を受けているという。

「西洋のイスラム化に反対する欧州愛国者」(Pegida運動)が起きた時、政治家たちがその運動の深刻さを正しく評価できなかったことが、同州の極右過激派の台頭を許すことになった、という意見が聞かれる。

 例えば、Pegidaはザクセン州のドレスデンでその活動を開始し、ネオ・テロ細胞NSUはケムニッツ市とツヴィッカウ市で拠点を構築してきた。ケムニッツ市では「民族社会主義統一ケムニッツ」(NSC)が活動を禁止されるまで同市を極右派の拠点としてきた。ちなみに、複数の世論調査によると、ザクセン州では現在、AfDがキリスト教民主同盟(CDU)に次いで第2党に躍進する勢いを見せている。

 ドイツで2015年、100万人を超える難民、移民が殺到して以来、難民・移民問題が大きな政治・社会問題となってきた。サッカーのドイツ代表の一人、トルコ系移民出身のMFメスト・エジル選手が先月22日、ドイツ代表を辞任すると表明し、その理由として「独サッカー連盟(DFB)内の人種差別主義」を挙げたことが明らかになると、DFBばかりか、ベルリンの政界にも大きな波紋を投じたばかりだ。旧東独ザクセン州の極右過激派による暴動は、ドイツ社会が難民・移民問題への対応で分極化してきたことを端的に示している。

バチカン速報が見せた「危機管理」

 フランシスコ法王はダブリンを2日間訪問した後、ローマへに帰途の機内で26日、慣例の記者会見を行った。そこで法王へ8つの質問が飛び出した。随行記者団の最大関心事はバチカンの駐米大使だったカルロ・マリア・ビガーノ大司教が公表した書簡の内容だ。

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▲ダブリンからローマへの帰途で機内記者会見に応じるフランシスコ法王(バチカン・ニュース独語版、2018年8月26日、イタリアのANSA通信から)

 フランシスコ法王が米教会のセオドア・マキャリック枢機卿による性的虐待を知りながら5年間沈黙していたという内容だ。それが事実ならば、フランシスコ法王は聖職者の性犯罪の共犯者となる。そこで記者団はフランシスコ法王に事の真相を質問したわけだ。法王は、「この件では何も言わない。公表された文書が事の真相を伝えている。賢明な記者の皆さんなら読解できるはずだ」と答え、核心には触れなかった。

 問題は、別の質問に対するフランシスコ法王の答えだ。1人の記者が、「同性愛性向がみられる子供に親は何を言うべきか」と聞いた。答えは、「子供と語り、祈るべきで、批判してはならない。また、Psychiatrie(精神科)に一度診察を受けるのもいいだろう。若い時は効果があるが、年齢が重なると難しくなるからだ」と答えた。

 フランシスコ法王の返答内容を読んだ時、当方は「これは大変だ。同性愛者やその支持者から激しい批判が飛び出すだろう」と感じた。バチカン関係者も多分同じように感じたのだろう。その数時間後、バチカン広報部から機内記者会見の質疑応答に関するバチカン速報(Vatican Bollettino)が配信されてきた。そこには「精神科に診断を」という個所は削除されていたのだ。

 その理由について、バチカン広報担当官は、「ローマ法王は2日間のダブリン訪問で疲れていた」と説明、フランシスコ法王は本来、「精神科の診断」ではなく、「心理学者に相談すればいい」と述べたかったが、間違って「精神科の診断」と語ったのだろうという。

 それでは、なぜ「精神科医」(Psychiatrie)はダメで、「心理学者」(Psychologie)ならばいいのか。答えは明確だ。精神科医の場合、患者は明らかに何らかの精神病にかかっていることになる。心理学者の場合、自身の置かれている状況について、専門家の意見を聞く、といった程度で終わる。

 具体的にえば、同性愛的性向がみられる子供に精神科の診断を勧めるということは、同性愛が何らかの精神病という前提がある。だから、同性愛者グループから「われわれは精神病患者ではない」という激しい批判が飛び出すのは当然予測できるわけだ。ただし、バチカン速報には「精神科」だけではなく、「心理学者」という言葉も記述されていない。

 フランシスコ法王は「精神科医」と「心理学者」の違いは理解していたはずだが、バチカン側が説明したように、「2日間のストレスの多いダブリン訪問で疲れ切っていたこともあって、説明が不正確となってしまった」というわけだろう。この弁明で同性愛者グループやその支持者が納得するかは分からない。なお、フランシスコ法王は「神の似姿の家庭は男性と女性から成る家庭だ」と述べ、同性婚に対しては一定の距離を置いてきた。

 カトリック教会では過去、同性愛は“悪魔の仕業”と考える傾向があった。だから、同性愛者を治療するために、悪魔祓いのエクソシストが呼ばれたりした。21世紀の現在、そのようなことを言えば、ことの是非は別として、同性愛者ばかりかメディアからも袋叩きに遭うだろう。

 日本では「同性婚には生産性がない」と書いた国会議員に対し、同性愛者やメディアから激しい批判が殺到したばかりだ。「同性愛は悪魔の仕業」といえば、どのような事態が起きるか、考えるだけでもゾッとする。

 幸い、バチカン関係者はそのことは理解していたわけだ。法王の問題発言の数時間後、27日にその発言個所を完全に削除したバチカン速報を配信したわけだ。バチカンの立派な危機管理だ。

 なお、フランシスコ法王が訪問先からローマへ帰途の機内記者会見で問題発言を発したケースは今回が初めてではない。フランシスコ法王が2015年1月19日、スリランカ、フィリピン訪問後の帰国途上の機内記者会見で随伴記者団から避妊問題で質問を受けた時、避妊手段を禁止しているカトリック教義を擁護しながらも、「キリスト者はベルトコンベアで大量生産するように、子供を多く産む必要はない。カトリック信者はウサギのようになる必要はない」と述べたため、批判の声が上がった。外遊後の帰途の機内記者会見ではフランシスコ法王は気が緩むのだろう、問題発言が多い。

法王の謝罪は痛みを初期化できるか

 ダブリンを訪問中のローマ・カトリック教会最高指導者ローマ法王フランシスコは26日、アイルランド教会の聖職者が過去、未成年者に対して性的虐待を繰り返す一方、教会側はその事実を隠蔽していたことに対し、「重大なスキャンダルだ」と述べ、謝罪を表明した。同法王はタブリン滞在中に聖職者によって性的虐待を受けた8人の犠牲者と会った。

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▲オーストリア国営放送の中継から、今年4月の復活祭でミサを行うフランシスコ法王

 アイルランド教会ダブリン大司教区聖職者の性犯罪を調査してきた政府調査委員会は2009年11月、調査内容を公表し、大きな衝撃を与えた。調査対象は1975年から2004年の間で生じた聖職者の性犯罪だ。同国教会聖職者が過去、30年間に渡り、数百人の未成年者へ性犯罪を繰り返してきたという事実が明らかになった。

 同国のダーモット・アハーン法相(当時)は、「性犯罪に関与した聖職者は刑罰を逃れることはできない」と指摘、調査が進めば、聖職者の中に逮捕者が出ることもあり得ると述べたほどだ。

 カトリック教会の聖職者が未成年者に性的虐待を繰り返してきたという報告書はアイルランド教会を皮切りに、ドイツ教会、ベルギー教会、オーストラリア教会、チリ教会など世界各地で公表されてきた。

 例えば、オーストラリア教会の聖職者の性犯罪調査王立委員会は昨年初めに暫定報告を公表したが、それによると、オーストラリア教会で1950年から2010年の間、少なくとも7%の聖職者が未成年者への性的虐待で告訴されている。身元が確認された件数だけで1880人の聖職者の名前が挙げられている。すなわち、100人の神父がいたらそのうち7人が未成年者への性的虐待を犯しているという衝撃的な内容だった。それだけではない。豪メルボルンの裁判所でバチカン財務長官のジョージ・ペル枢機卿(76)に対する性犯罪容疑に関する公判が今月13日から始まっている。

 最近では米教会の報告書は衝撃的だった。米ペンシルベニア州のローマ・カトリック教会で300人以上の聖職者が過去70年間、1000人以上の未成年者に対し性的虐待を行っていたことが14日、州大陪審の報告書で明らかになったばかりだ。

 聖職者の性犯罪件数や内容は異なるが、聖職者の性犯罪を教会上層部が隠蔽してきた点では同じだ。教会指導部は未成年者に性的虐待を犯した聖職者の共犯者だったという事実が明らかになってきたのだ。

 第9回カトリック教会世界家庭集会に参加するためアイルランドの首都ダブリンを訪問したフランシスコ法王はそこで聖職者の性犯罪に対し、謝罪を繰り返した。その姿を見ていると、「謝罪は民族の痛みを初期化できるか」(2014年2月16日参考)というタイトルで書いたコラムを思い出した。英国に数百年間植民地化されたアイルランド民族の痛み、大国・英国への憎しみ、恨みをどのように克服し、昇華しようとしているかをテーマに書いた。

 その一部を紹介する。
 「英国がアイルランド民族に対して過去の植民地時代の蛮行に対し謝罪したとしても、アイルランド民族の感情(反英感情)は癒されないだろうと感じる。謝罪の言葉で癒されるには同国の植民地時代は余りにも長かったからだ。
 モダンな表現をするとすれば、アイルランド民族の悲しみはそのDNAに既に刷り込まれ、細胞に記憶されている。問題は細胞に記憶された内容をどのように初期化できるかというテーマだ」

 舞台(アイルランド)は同じだが、その「民族の痛み」を、(聖職者の性犯罪の)「犠牲者の痛み」に替えればいい。すなわち、「(ローマ法王の)謝罪は(聖職者によって犠牲となった未成年者の)痛みを初期化できるか」という問いかけだ。

 オーストラリア教会を訪問し、そこで聖職者の性犯罪の犠牲者となった人と直接会見した前法王ベネディクト16世は涙を流したと報じられた。考えられない蛮行が、それも1件、2件ではなく数百件、数千件、神の使いであるべき聖職者によって犯されてきたという事実に直面し、近代法王の中で最高の神学者と呼ばれたベネディクト16世は泣く以外になかったのだ。

 個人への謝罪となれば、日韓両国間の過去問題のように政治的、外交的解決は考えられない。やはり、蛮行を犯した当人が犠牲者に詫び、償う以外に道がないが、犯行者の謝罪が犠牲者の痛みを完全に初期化できるという保証もない。聖職者の性犯罪の場合、蛮行を犯した聖職者が既に死去したか、犯行の時効が過ぎたケースが多いのだ。

 法王はタブリンでも、「聖職者の性犯罪を2度と起こしてはならない」と強調したが、ここにきてフランシスコ法王の責任を問うと共に、辞任要求すら出てきた。最高指導者としての引責問題ではない。法王自身が聖職者の性犯罪を隠していたという内部告発だ。
 フランシスコ法王は就任後、聖職者の性犯罪に対しては“ゼロ寛容”を表明したきたが、ローマ法王庁の元駐米大使、カルロ・マリア・ビガーノ大司教は26日、オンラインで、「法王は米教会のセオドア・マキャリック枢機卿が若い神父や神学生に対し好ましくない性的行動を取っていたことを知りながら、その事実を隠し、沈黙していた」と非難する文書を公表しているのだ。

 ローマ法王の謝罪が犠牲者の痛みを初期化できないばかりか、法王自身が聖職者の性犯罪の共犯者とすれば、どうすればいいのか。繰り返すが、ローマ・カトリック教会は本来、ベネディクト16世が2013年2月11日、生前退位を表明した時点で2000年の教会の使命を閉じて解体すべきだったのだ(「カトリック教会は解体すべきだった」(2018年8月17日参考)。

「核実験に反対する国際デー」の現実

 ウィーンに事務局を置く包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)から久しぶりにイベントのお知らせが届いた。「核実験に反対する国際デー」(International Day against Nuclear Tests)の29日、ウィーン国連で国際社会に向かって核実験廃止を訴える行事が行われるという。同時に、核実験禁止を促進するため、児童たちの核実験禁止に関連した絵画展示会や旧ソ連時代に456回の核実験が行われたカザフスタンのセミパラチンスク(Semipalatinsk)の核実験場の状況を取った写真展が開かれる予定だ。

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▲原爆投下後の広島市の状況(米政府保管の写真)

 世界には9カ国の核保有国が存在する。米英仏露中の国連常任安保理事国5カ国とイスラエル、インド、パキスタン、それにニュー・カマー(新参者)の北朝鮮だ。北朝鮮の場合、正式には核保有国を認知されていないが、同国は過去、6回の核実験を実施した。潜在的に核保有国となりそうな国も少なくない。

 ジョージ・W・ブッシュ大統領時代の米国務長官だったコリン・パウエル氏は、「使用できない武器をいくら保有していても意味がない」と述べ、大量破壊兵器の核兵器を「もはや価値のない武器」と言い切ったが、その「もはや価値のない武器」を手に入れるために依然、かなりの国が密かにその製造を目指し、ノウハウを入手するために躍起となっている。冷戦終焉直後、核兵器全廃の時が到来すると考えた人々にとって、落胆せざるを得ない現実だ。

 問題は、核保有国の核軍縮は停滞しているばかりか、核兵器の小型化、近代化が加速されてきていることだ。核保有国が非保有国に向かって核兵器廃絶を叫んだとしても、その信頼性が問われることになる。例えば、米国は2017年から2026年の間で4000億ドルを核兵器の近代化、維持のために投入する予定だ。

 米国でトランプ政権が誕生して以来、“大国ロシア”の復興を夢見るロシア、世界の覇権を目指す中国共産党政権と米国との関係が険悪化してきた。第2の冷戦時代と呼ばれるほどだ。

 イラン核合意から離脱を宣言し、北の非核化を実現するために米朝首脳会談を開催したトランプ氏は対イラン、対北への圧力を強化する一方、中国とロシアへの牽制のために巨額の軍事予算を投入してきた。トランプ大統領は今月13日、今年10月からの来年会計年度の国防権限法案に署名した。国防予算の総額は約7170億ドルだ。

 スウェーデンの「ストックホルム国際平和研究所」(SIPRI)によると、2016年の世界の核弾頭総数は1万4935発だった。その93%以上は米国とロシアの両国が保有している。英国は215発、フランス300発、中国270発、インド最大130発、パキスタン140発、イスラエル80発、北朝鮮は最大20発の核弾頭を有しているとみられている。

 CTBTは1996年9月に国連総会で採択され、署名開始されて今年で22年目を迎えた。8月現在、署名国183カ国、批准国166カ国だが、条約発効に批准が不可欠な核開発能力保有国44カ国中8カ国が批准を終えていない。米国、中国、イスラエル、イラン、エジプトの5カ国は署名済みだが、未批准。インド、パキスタン、北朝鮮の3国は未署名で未批准だ。

 興味深い事実は、トランプ政権の発足後、CTBT条約に署名、批准した国は出ていないことだ。ミャンマーが2016年9月21日に批准して以来、どの国も署名、批准していない。すなわち、過去2年間、CTBT条約は発効に向かって全く前進がなかったわけだ。国連総会で毎年、日本主導の核廃絶決議案が賛成多数で採択されてきたが、世界の核軍縮の現状はここにきて厳しさを増してきているといえるだろう。

危険水域に入った韓国の「少子化」

 イタリアの少子化を取材するために2001年、ローマなど現地を取材したことがあった。その時、「わが村では犬の数が住民より多い」という話を聞いてビックリしたことがある。
 東西両ドイツの再統一の立役者ヘルムート・コール(独連邦首相、在位1982〜98年)は「冷戦後の欧州最大の問題は少子化対策だ」と語ったことがある。メルケル首相が政権担当する前だ。少子化問題はイタリアを含めて欧州で現在、社会・政治・経済構造の変革を求める大きな問題となってきた。コールの少子化発言は正鵠を射ていたわけだ。

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▲初老の男と子犬(2013年9月25日、イタリア北部ベルガモで撮影)

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▲超少子化に対峙する韓国の「国旗」

 そのイタリアの2017年の合計特殊出生率は1・34人だ。日本の1・44よりも下回っている。ところで、韓国聯合ニュースが22日報じたところによると、韓国の合計特殊出生率はなんと1・17で、経済協力開発機構(OECD)加盟国36カ国で最下位だったというのだ(合計特殊出生率とは、1人の女性が出産可能とされる15歳から49歳までに産む子供の数の平均)。

 その合計特殊出生率が1・3未満の場合、「超少子化国」と呼ぶというが、韓国はOECDの中で唯一、「超少子化国」入りした。人口を維持しよう とすれば、出生率は最低でも2・1が必要。

 参考までに、OECDの中でも韓国に次いで合計特殊出生率が低いのはイタリアとスペインで1・34だ。いずれにしても、韓国の合計特殊出生率の低さが突出している。イタリアで市民・住民の数より犬・猫が多い地域があるとすれば、韓国でもそのような犬・猫王国の地域が存在していても不思議ではない。

 当方はこのコラム欄で「韓国がOECD加盟国の中で自殺率が最も高い」というニュースを紹介したことがあった。少しデーターが古いが、2013年を基準としたOECD加盟国の自殺による死亡率は人口10万人当たり12・0人だったが、韓国は29・1人で、OECD加盟国のトップ、その次にハンガリー(19・4人)で、3番目が日本(18・7人)だった。1985年からの自殺率推移をみると、OECD加盟国のほとんどは減少しているが、韓国は2000年から増えている。日本も自殺率が高いが、2010年以降は減少傾向にある(「自殺大国・韓国が提示した課題」2015年9月1日参考)、「ソウル大A君の『遺書』への一考」2016年1月4日参考)。

 海外に住んでいると、韓国ニュースといえば、北朝鮮の核問題関連記事が圧倒的に多く、韓国の自殺件数の増加、超少子化現象などが報じられることはめったにないが、特に、少子化問題は韓国社会の将来を左右するテーマだ。

 韓国中央日報(日本語版24日)は横浜市立大学国際総合科学部の鞠重鎬教授の著書『流れの韓国 蓄積の日本』を紹介したが、同教授はその著書の中で「韓国の高齢化は日本をはるかに上回る速度で進行中」と指摘している。

 国民経済が低成長に入っている韓国の経済界では、日本の「失われた20年」を繰り返すのではないかといった懸念の声が聞かれる。日韓両国の国民経済には共通点と相違点はあるが、両国の社会の共通点は高齢化、少子化現象だろう。

 大統領に就任以来、破竹の勢いで高支持率を維持し、平昌冬季五輪大会を開催し、南北首脳会談を実現することで国民の支持を得た文在寅大統領だったが、ここにきて支持率に陰りが見えだしてきた。

 聯合ニュースは24日、「韓国ギャラップが同日に発表した世論調査結果によると、文在寅大統領の支持率は前週に比べ4ポイント下落した56%だった。同社の調査では昨年5月の就任後最低」と報じた。支持率低下の理由として「経済状況全般に対する政府の責任論、所得主導の成長論を巡る攻防が一層激化したため」という。

 世界の耳目を集めた北朝鮮の非核化の見通しが不透明さを増す一方、対北経済制裁の解除への圧力は高まってきた。対北融和政策を実施してきた文政権は大きな分岐点に遭遇している。同時に、同政権が進める経済政策への国民の批判の声が高まってきているわけだ。

 低迷する国民経済を一挙に回復させる処方箋が見出せない場合、文政権は外交で実績を上げようとするだろう。それだけに、朝鮮半島では夏明け以降、終戦宣言、南北再統一への動きがこれまで以上に加速される可能性が考えられる。 

 「韓国の合計特殊出生率がOECD最下位」というニュースは、韓国を取り巻く状況が海外から見るより深刻であることを端的に物語っている。外交とは違い、少子化現象をストップさせる即効薬はない。政治・社会全般の抜本的な改革が不可欠となるうえ、時間がかかる。パリパリ(早く早く)文化の韓国にとって、少子化対策はそれゆえに容易ではないわけだ。

どれだけ「相手」を知っているか

 職業柄、批判することが多い反面、称賛することは少ない。ジャーナリストの職業病といえば、そうかもしれない。全てをその通りだと受け取ることはめったになく、「きっと何かその裏にあるだろう」と憶測する。これはジャーナリストには不可欠な気質かもしれないが、時には大きな間違いを犯し、やり切れなさを覚えることも出てくる。

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▲聖書の世界で口下手で有名なモーセ(オランダの画家レンブラント・ファン・レインの絵画「モーセの十戒」)

 批判することで、その相手より事の真相をより理解しているといった印象を与えるが、実際は事の全容を知らないのに批判することが少なくない。批判は健全な言論活動には欠せないが、批判の内容が偏見や間違った情報に縛られていないかがやはり問われるだろう。

 話は飛ぶ。アマゾンやNetflixで米TVシリーズ番組をよく見る。当方はメル・ギブソン監督の映画「パッション」(2004年)でイエス・キリスト役を演じた米俳優ジェームズ・カヴィーゼルのファンだ。映画「オーロラの彼方へ」(原題 Frequency、2000年映画)を観てからファンになった。最近では、米CBS放送のTV番組「パーソン・オブ・インタレスト」(Person of Interest) で元CIAエージェントの主人公(ジョン・リース)を演じ、好評を博した。

 ところが、「パーソン・オブ・インタレスト」を宣伝するイベントに出演した時、ファンからの質問に答えるカヴィーゼルを見て驚いた。彼はもぞもぞとしゃべり、何を言いたいのか時には聞き取れない。後で、彼は口下手で話すのが苦手というのを知った。多くの作品で名演技をしてきた彼が口下手とは信じられなかった。流ちょうに作品を紹介し、ファンを喜ばすだろうと考えていたので、そのイベントの動画を見て正直かなり驚いた。彼は小さい時から内気で話すのが下手だった。その彼が俳優の道に入り、多くの名作品を演じてきたわけだ。彼は敬虔なキリスト信者としてハリウッドでは有名だ。口下手のモーセに神は兄アロンを遣わしたように、カヴィーゼルには英語教師の奥さんが彼を支えているという。

 最近は「スーパーナチュラル」(Supernatural)に凝っている。14シーズンは終わり、15シーズンが撮影中だと聞く。当方は11シーズンまで観た。長編人気番組だ。その主人公の悪魔ハンターの1人、ディーン・ウィンチェスター役を演じるテキサス出身の俳優ジェンセン・アクレスも同じように口下手だということを知った。番組の中のディーンを見ていると、考えられないことだ。インタビューの中でユーモアたっぷりに語るのは常にもう1人の主人公サム役のジャレッド・パダレッキ。アクレスはそれを脇で見ていることが多い。一方、パダレッキは若い時から俳優の世界に入ったが、うつ病を抱えている。その彼を日常生活で励ましているのがアクレスだ。2人は番組の中だけではなく、実生活でも本当の兄弟のようなだという。番組の長寿の秘訣はその辺にあるのだろう。2人とも結婚し、子供がいるが、家族付き合いしているというから羨ましい。

 観客を大笑いさせた後、家に帰ると、「風呂、飯、寝る」だけをしゃべり、自宅では寡黙だという落語家の話を聞いたことがある。テレビや映画で見たり、聞いたりするファンは俳優に一定のイメージを抱く。そのイメージから俳優の性格や日常生活を推測することが多いが、カヴィーゼルやアクレスはそのイメージとは違った世界を通過してきたことを知って新鮮な驚きを感じた。

 話を戻す。私たちはどれだけ相手を知っているだろうか。中途半端な情報や生半可な知識、メディアを発信するイメージに躍らされていることが多いのではないか。政治の世界でもそうだろうし、隣国に対する好き嫌いも同じではないか。これはジャーナリストの世界の生きる当方にとっても忘れてはならない点だと考える。

 「今日、何人の人を批判し、何人の人を褒めただろうか」
 一日を終えてベットに就く時、数えてみるのもいいだろう。批判したことが多かった日と、称賛したことが多かった日では、ひょっとしたら、夜見る夢にも違いが出てくるかもしれない。

駐在期間が25年を超えた北大使

 北朝鮮も猛暑だというが、ウィ―ン14区の北大使館はどうだろうか。冷房など期待できないから、この暑さをどのように凌いでいるのだろうか。そこでウィ―ンの北大使館に足を運んだ。外は35度前後とあって、強い日差しを避けるために大使館正面の写真展示ケースは閉められていた。ひょっとしたら、金正恩朝鮮労働党委員長とトランプ米大統領の首脳会談関連の写真が飾ってあるのではないかと期待していたが、残念だった。大使館の2階の一部屋だけは窓が開いていたが、1階の部屋は全て閉鎖されていた。熱風を入れないためだろう。

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▲駐オーストリアの北朝鮮の国旗(2018年8月21日、ウィ―ンで撮影)

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▲駐オーストリアの金光燮・北朝鮮大使(2015年12月に開催された国連工業開発機関=UNIDO総会で撮影)

 中庭には外交官が利用するベンツが3台駐車していた。夏の日差しを防ぐために、駐車場にはインスタント屋根がつけられていた。後庭には2人の外交官が木の陰で椅子に座り、談笑しているのが見える。

 朝鮮半島の政情はシンガポールで6月に開催された米朝首脳会談後も決して落ち着いていない。肝心の非核化はストップするどころか、核関連活動は進められているという報告書が先日明らかになったばかりだ。9月の国際原子力機関(IAEA)総会に提出するためにまとめられたものだ。そんな厄介な問題を抱えている国の大使館といった雰囲気はまったくない。

 朝鮮半島の緊迫感はウィ―ンにはない。ただし、国連安保理決議を無視し核実験や弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮に対し、欧州でも制裁が施行されている。イタリアやスペインは昨年、同国駐在の北大使に国外退去を命じた。オーストリア外務省は北外交官の数を激減させ、現在は7人に過ぎない。

 その中で唯一、金光燮大使は変わらない。駐オーストリア大使に赴任して今年3月で25年間となった。ウィ―ンの外交官としては間違いなく駐在任期の最長記録保持者だろう。その金大使は通常、6月末から3カ月余は平壌に戻っている。

 金大使とは付き合いが長くなった。就任直後は「夫人は故金日成主席と聖愛夫人との間の長女、金敬淑さん」という事実を否定していたが、ウィーン駐在が長くなるにつれて、そんなことはどうでもよくなったのか、出自には拘らなくなった。

 脊髄を痛めているのでウィ―ンでも治療受けてきたという。ひょっとしたら、政治病かもしれない。当方が見た限りではやはり少し悪いのだろう。西側に駐在する北大使となれば、外部からは分からないストレスがあるはずだ。

 チェコには故金正日総書記の異母弟、金平一大使が就任している。同大使はブルガリア、ノルウエー、ポーランド、チェコと欧州を転々としながら大使職を務めてきた。同じように、ウィーンの金大使はチェコで5年間を務めたが、ウィーンの大使としては今年3月で25年となってしまった。両金大使は同じ国にいつまで駐在するかは多分分からないだろう。帰任命令が来ない限り、永遠に留まり続けることになる。

 マレーシアのクアラルンプール国際空港で起きた金正男氏の暗殺事件(2017年2月13日)は両大使に大きな衝撃を与えたことは間違いないだろう。当然だ。金正男氏は金正恩氏の異母兄だ。親族を暗殺することに金正恩氏は全く躊躇しないことが改めて明らかになったからだ。

 9月9日に北の建国70周年を迎える。中国の習近平国家主席の初の訪朝も予定されているというから、平壌内でも迎えの準備で忙しい時だ。米朝首脳会談で約束した非核化が今後どうなるか分からない。南北間の融和・対話路線が先行する一方、非核化は取り残され、いつしか政治議題から外されるかもしれない。中朝の歴史的結束という、いつか来た道を金正恩氏も歩み出してきたのかもしれない。

(参考までに、朝鮮中央通信が先月16日、9月9日の建国70周年前に大赦を実施すると表明した。金正恩氏はひょっとしたら拘束されている日本人を釈放するかもしれない。日朝の交渉開始の先手だ)

 ウィ―ンの金大使もプラハの金大使も平壌中央政界から疎外されている。両大使は西側に駐在しながら甥の金正恩氏の動きを静観しているだけだ。第3者の目からいえば、寂しい立場だが、彼らは案外、金正恩氏より人間らしい生活をしているのかもしれない。

 金大使は当方に、「俺は一生、オーストリアに駐在したい」ともらしたことがある。英誌エコノミストの調査部門「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)」が毎年発表している「世界で最も住みやすい都市ランキング」で、ウィーン市が「2018年版第1位」の名誉を獲得したばかりだが、金大使はそれを身に染みて感じている1人かもしれない。

米聖職者の性犯罪が突き付けた課題

 ローマ法王フランシスコは20日、世界の信者宛てに書簡を送り、その中で米ペンシルべニア教区で発生した聖職者の未成年者への性的虐待事件について謝罪を表明する一方、信者たちに「聖職者の性犯罪撲滅で連携して戦ってほしい」と呼びかけた。枢機卿宛てでも司教宛てでもない。法王の信者宛て書簡は異例だが、それだけ、ローマ法王は米教会の聖職者の性犯罪の規模に衝撃を受けていることが推測できる。

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▲映画「パウロ、キリストの使徒」の公式ポスター

 米ペンシルベニア州のローマ・カトリック教会で300人以上の聖職者が過去70年、1000人以上の未成年者に対し性的虐待を行っていたことが14日、州大陪審の報告書で明らかになった。州大陪審は2年間余り調査を行い、900頁に及ぶ報告者をまとめた。報告書には、聖職者の性犯罪だけではなく、教会が性犯罪を犯した聖職者を組織的に隠蔽してきた事実も記述してある。

 フランシスコ法王は4頁にわたる書簡の中で、聖職者の性犯罪をはっきりと「犯罪」と断言している。とすれば、世界のローマ・カトリック教会の最高責任者、ペテロの後継者ローマ法王に責任問題が出てくるが、その点については何も言及せず、謝罪と連帯を呼びかけるだけで終始している。アイルランド教会の時とその反応は大きくは違わない。

 2000年前のイエスの教えを伝え、多くの聖人たちを輩出したカトリック教会だが、その一方で多くの不祥事を繰り返してきた。5年前にローマ法王に選出されたフランシスコ法王は、「過去の亡霊たちを追放し、教会を近代化するために就任した」と述べたことを思い出す(「バチカンに住む『亡霊』の正体は」2018年5月30日参考)。

 例えば、フランシスコ法王が財務省長官に任命したバチカンのナンバー3、ジョージ・ペル枢機卿は今、故郷のメルボルンで2件の性犯罪容疑で公判を受ける身だ。枢機卿といえば、ローマ法王に次いで高位聖職者。その枢機卿や司教たちが性犯罪を犯しているのだ。神父や修道僧たちが性犯罪を犯しても、もはや驚かない(「カトリック教会は解体すべきだった」2018年8月17日参考)。

 キリスト教会はイエスの十字架を信じれば救われると主張してきたが、その教えを語る聖職者が未成年者に性的虐待を繰り返してきた。これは何を意味するのだろうか。フランシスコ法王は書簡の中で、「聖職者の性犯罪の犠牲者の痛みや嘆きは天まで届いている」と記している。

 パウロは「ローマ人への手紙」第7章の中で、「私は、内なる人としては神の律法を喜んでいるが、私の肢体には別の律法があって、私の心の法則に対して戦いを挑み、そして、肢体に存在するする罪の法則の中に、私をとりこしているのを見る。私は、なんというみじめな人間なのだろうか」と嘆いている。有名な“パウロの嘆き”だ。

 米教会の聖職者の性犯罪報告は、パウロの嘆きを思い出させると共に、イエスの十字架救済がやはり完全な救いをもたらしていないという事実を実証している。聖職者が未成年者への性的虐待をするのはパウロがいう「肢体の律法」の虜になった結果だ。

 フランシスコ法王は信者宛てに書簡を送り、謝罪を繰り返すが、今取るべきことは聖職者の独身性の廃止などの対策だろう。具体的な改革なくして謝罪していても効果がないばかりか、教会の信頼性を益々失っていくだけだ。聖職者に家庭を築くことができる道を開き、神を家庭の中で証する生活が求められているのではないか。

 24人のイタリア女性たちがフランシスコ法王宛てに公開書簡を送り、その中で聖職者の独身制の廃止を請願したことがある。24人の女性は神父や修道僧の愛人であり、密かに同棲生活をしてきた女性たちだ(「神父たちの愛人が『独身制廃止』要求」2014年5月21日参考)。

 カトリック教会では通常、「イエスがそうであったように」という理由で、結婚を断念し、生涯、独身で神に仕えてきた。しかし、キリスト教史を振り返ると、1651年のオスナブリュクの公会議の報告の中で、当時の多くの聖職者たちは特定の女性と内縁関係を結んでいたことが明らかになっている。

 カトリック教会の現行の独身制は1139年の第2ラテラン公会議に遡る。聖職者に子供が生まれれば、遺産相続問題が生じる。それを回避し、教会の財産を保護する経済的理由が(聖職者の独身制の)背景にあったという。

 教会にとってさらに重要な課題は、カトリック教義の中核をなす「イエスの十字架救済論」の見直しだろう。繰り返すが、イエスの十字架を信じたとしても、「肢体の律法」に翻弄されているのならば、その人は完全には救われたとはいえない。この「現実」から目を背けるべきではないだろう。

 イエスの十字架救済論を修正した場合、カトリック教義の土台が崩れるが、イエスは教会を建設し、それを運営するために降臨されたわけではないはずだ。

 メル・ギブソン監督の映画「パッション」(2004年)でイエス・キリスト役を演じた米俳優ジェームズ・カヴィーゼルが新作「パウロ、キリストの使徒」(アンドリュー・ハイアット監督)で「ルカによる福音書」「使徒行伝」の著者であるルカの役を演じている。パウロ役はジェームズ・フォークナー。近代神学の基礎を築いた聖パウロと使徒ルカの交流を通じてネロ皇帝時代のキリスト者迫害下でイエスの教えを伝える2人の姿が描かれているという。

 ユダヤ教から出発し、人間の無力さと神の恩寵を強調したキリスト教神学を構築していったパウロの歩みを振り返りながら、イエスが降臨された目的とその生涯をもう一度見直す必要があるだろう。イエスは本当に33歳で十字架で死ぬために降臨されたのだろうか。

 米教会の聖職者の性犯罪がそれらの問題の再考を促す契機となるならば、不祥事にもそれなりの意味が出てくる。ローマ・カトリック教会とローマ法王には残された時間は少ないのだ。

「 心霊スポット」対策いろいろ

 当方は幽霊について当コラム欄でかなりの頻度で報告してきた。ただし、当方は幽霊のロビイストではないし、幽霊ハンターでもない。多くの読者と同様、幽霊をみれば震えてくるタイプだが、幽霊が存在することは知っている。そのため、幽霊の存在を示唆するようなニュースや情報を見つければ、昔ば新聞を切り抜き、今はPCに記憶させて情報を収集してきた。

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▲スウェ―デンの画家ニルス・ブロメール作「草原のエルフたち」

 読売新聞電子版(8月20日)で肝試しのため「心霊スポット」にくる若者たちを追放するため軽快な音楽を流して、「心霊スポット」の雰囲気を壊す対策をしているという記事が目に入った。以下、その記事の一部だ。

 「群馬県藤岡市と埼玉県神川町にまたがる下久保ダムの管理所が、肝試しに訪れる若者らの迷惑行為を撃退する奇策を打ち出した。夜間に車や人がダムに近づくと、ご当地ヒーローの軽快なテーマ曲がスピーカーから流れ、雰囲気を一変させる。周辺は『心霊スポット』との風評に悩まされており、地元では『負のイメージ一掃を』と期待が集まっている」

 記事によると、十数年前、インターネットで「心霊スポット」として広まり、肝試しの若者らが騒いだり、空き家に侵入したりと地域住民を悩ませてきたという。「心霊スポット」などは馬鹿げた話だと一蹴されるかもしれないが、関係者には深刻な問題だろう。「心霊スポット」周辺の旅館や店に客がこなくなるなど、経済的損害も出てくる。

 ところで、オーストリアでも「心霊スポット」と呼ばれる場所がある。例えば、交通事故が多発する場所だ。その場所には慰霊塔が建てられていることが多い。

 ところで、当地のメディアによると、ドイツ・ニーダーザクセン州の高速道路A2で頻繁に事故が発生する個所がある。対策に悩んだ関係者が妖精(エルフ)の専門家に依頼し、妖精に事故を起こす霊を閉じ込めてもらった、というニュースが報じられた。オーストリア高級紙プレッセ(8月6日)にも報じられていたから、話は少なくともシリアスだろう。

 妖精といっても多くの人は童話の世界だけで、見たこともないし、その存在も信じていないだろう。しかし、北欧のアイスランドでは国民の60%が妖精の存在を信じ、妖精専門家がいるほどだ。ローマ・カトリック教会では幽霊(悪霊)退治のためにエクソシストが存在するのと同じだ。

 ドイツで妖精エキスパートの助けを求めた、というのは少々可笑しいが、その事故現場周辺に漂う霊を解放しない限り、事故は限りなく繰り返されるから周辺住民にとって深刻だ。多分、エクソシストが事故現場にいる悪霊の追放を試みたが失敗。そこで悩んだ末、妖精の専門家に話が持ち込まれたのだろう。

 「心霊スポット」は簡単にいえば、幽霊(悪霊)が出てくる場所だ。そして幽霊が出てくるのはそれなりの事情が必ずある。理由なくして幽霊が飛び出すことはない。

 )瓦なった人が浮かばれず、その場所から離れることができない。幽霊となってその周辺に住み着く。彼らの多くは恨みを抱えているから、その恨みを晴らすために関係者にとりつく。
 交通事故で突然亡くなった場合、亡くなった運転手は自分が死んだことを分かっていないため、事故現場周辺にウロウロしている。彼らには「あなたは死んだ」と伝える必要がある。
 戦争や紛争で亡くなった人が霊界に行かず、この地上に幽霊となっている場合がある。ウィ―ンの日本レストランの地下には第2次世界大戦時の空爆で亡くなった人の幽霊がいた。ウエイトレスは夜になると、地下から不気味な音が聞こえてきたという。

 多くの幽霊はこの世の未練が強く、無念、後悔、恨み、復讐心といった思いを抱いている。幽霊はマイナスのエネルギーを放出しているから、その周辺に近づくと、怖くなったりする。肝試しで「心霊スポット」を行くのはやはり危険だ。幽霊は自分と似た性格や事情の人間が近づくと急接近してくるからだ。

 ちなみに、「心霊スポット」で音楽を流し、幽霊が出そうな雰囲気を壊すという発想は悪くないが、一時的な対応であり、問題の根本的解決とはならない。幽霊が出てくる場所、その周辺の歴史を研究し、幽霊が「誰か」を突き止める必要があるからだ。その点、欧州では幽霊に関する研究は進んでいる。アイスランドではエルフの存在について博士論文を書く学者もいるという。

 幽霊の場合、その存在を認知して、その幽霊のために祈ってくれる人が出てくれば、癒される。死んだ人の悲しみ、恨みを聞き、それを解き明かすことで、彼等を所定の霊界に送ることができれば幸いだ。ある意味で、米TV番組「スーパーナチュラル」(Supernatural)や「Ghost Whisperer」が描く世界は少々、極端な場合もあるが、大きくは間違っていないだろう。

 
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