ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2018年09月

ドゥテルテ大統領の衝撃の「告白」

 フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は21日、会合で「自分が子供の時、一人の神父によって性的虐待を受けて以来、自分はカトリック信者であることを止めた」と述べ、「自分はキリスト者で神を信じているが、カトリック信者ではない」とはっきりと答えている。

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▲日本を公式訪問したドゥテルテ大統領(2016年10月26日、首相公邸での歓迎晩さん会)

 同大統領が未成年時代、カトリック教会の聖職者によって性的虐待を受けたという告白は今回が初めてではない。同大統領は2015年12月、初めてカミングアウトしている。翌年6月にはカタール国営衛星放送アルジャジーラとのインタビューの中でも答えている。その意味で、大統領が聖職者の性犯罪の犠牲者の一人だったという今回の告白はまったく新しいわけではないが、興味深い点は、バチカン・ニュース(独語版)が26日、初めて報じたことだ。

 もう少しドゥテルテ大統領の話を聞いてみる。

 「自分は神を信じているが、カトリック教会の馬鹿な神ではない。カトリック教会では全てが金だ。信者の会費から結婚、葬式の時も金を支払わなければならないし、洗礼代は高い。そんな教会が良い宗教といえるか。そんな神は自分の神ではない。自分が信じる神はもっと健全な知性を有している。自分は公平で正義の価値観に基づいた神を信じている」

 世界のローマ・カトリック教会では今日、聖職者による未成年者への性的虐待事件が次から次と暴露され、教会側はその対応に苦慮している。最近は“ペテロの後継者”ローマ法王のフランシスコ法王がアルゼンチンのブエノスアイレス大司教時代、聖職者の性犯罪を恣意的に黙殺していた事実が明らかになったばかりだ。

 そして今、フィリピンの現職大統領が「子供の時、一人の神父によって性的虐待を受けた」と告白し、カトリック教会の神を「自分の神ではない」と主張している。

 大統領の告白に対し、同国のカトリック教会司教会議はこれまでのところ何も答えていない。フランシスコ法王が聖職者の性犯罪を隠ぺいした容疑に対し、口を閉ざしているように、司教会議も沈黙している。ただ、同国ソルソゴン州のバステス司教は、「大統領は自分の願うことを決められる。誰も大統領に宗教を信じるように強制できない。各自は自由意思に基づいて信じ、それを実践できるからだ」と述べているだけだ。

 フィリピンでは、ドゥテルテ大統領とローマ・カトリック教会との関係は険悪な状況が続いてきた。国民の80%が所属しているカトリック教会に対し、ドゥテルテ大統領は厳しい政策を実施し、あからさまに批判してきた。大統領は公式の演説の中でカトリック教会の「神」を「売春婦の息子」、「馬鹿」と誹謗してきた。

 フィリピンでは8000万人のカトリック信者がいる。アジア最大の信者数を誇る。フランシスコ法王は2015年1月15日から19日までフィリピンを訪問し、マニラでの野外ミサには600万人の信者が集まった。歴代最高記録だった(ドゥテルテ大統領はその翌年16年6月30日に大統領に就任した)。

 一方、カトリック教会はドゥテルテ大統領の非情な麻薬政策に対し、非人道的な政策として批判を繰り返してきた。人権団体によると、同国で既に2万2000人以上が麻薬関連の犯罪で処刑されたという。

 すなわち、フィリピンでは大統領の「アンチ・カトリック政策」に対し、カトリック教会の「アンチ麻薬戦争キャンペーン」が対峙しているわけだ。

 フィリピンのカトリック教会はドゥテルテ大統領と直接の対話を願っている。同国司教会議の広報担当者によると、「大統領と司教会議議長のロムロ・バレス大司教は直接対話しなければならない。対話の内容が後日、間違って通達されたり、大統領の発言が誤解されないために」という。一方、ドゥテルテ大統領は4人から構成された委員会の設置を提案し、教会と政府間の問題を解決すべきだと強調している、といった具合だ。

 参考までに、欧州のチェコでもアンチ・カトリック主義が強い。同国では民主化後、教会離れが更に進み、無神論的傾向が広がってきた。チェコの宗教改革者ヤン・フス(1369〜1415年)が当時のカトリック教会によって火刑に処されてことから、チェコ国民はそれ以後、カトリック教会に対し一定の距離を置きだした。カトリック教会に対し、フィリピン大統領は個人的に、チェコ国民は歴史的、民族的に、消すことが出来ない痛みと恨みを抱えている、といえるだろう。

中国旅行者が欧州で愛されるために

 スウェーデンで今、中国とのいがみ合いが起きている。そしてスウェ―デンだけではない。中国旅行者が訪れる欧州の観光地でさまざまな衝突や不祥事が起きている。旅行者は本来、欧州の観光地の住民から歓迎され、愛されてもいいのだが、中国旅行者の場合、行く先々で問題を起こしているのだ。

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▲中国観光客が殺到するスイスの観光地ルツェルン(スイス・インフォから)

 スウェーデンの場合、中国との外交問題にまで発展し、ネット上ではさまざまな意見が発信されている。多くの読者は既にご存知だろう。中国旅行者が今月初め、ホテルで宿泊を申し出たが、チックインの時間ではないことから、ホテル側がやんわりと断ったところ、中国旅行者は暴言を吐き、他のホテル客にも迷惑をかけ出したので、ホテル側が警察に通報。ホテルから外へ放り出された中国人は「殺される」、「助けてくれ」とわめいていたという。

 スウェーデン国営放送で今回の中国旅行者の振る舞いをちゃかした風刺劇が報じられると、駐スウェーデン中国大使館が動き出し、「わが国民への不当な人権蹂躙」、「中国を中傷・誹謗している」と批判、事態はスウェーデンと中国両国間の外交問題にまで発展したという話だ。

 欧州の観光地にとって、アジアからの団体客は大歓迎だが、中国旅行者に対しては余りいい評判を聞かない。そこで今回、「なぜ中国旅行者は欧州市民から愛されないのか」を考えてみた。

 中国旅行者が殺到し、彼らが使う外貨は観光地にとって貴重な収入源だ。中国旅行者に感謝こそすれ、批判できる立場では本来ない。にもかかわらず、中国旅行者の評判が良くないどころか、時には、町の秩序を破壊する不法者のように受け取られているのだ。

 例を挙げてみる。スイス中央部の観光地ルツェルンの白鳥広場は毎日、観光客でにぎわう。人口8万1000人の都市に年間約940万人の旅行者がくるが、中国人旅行者を含むアジアからの旅行者が圧倒的に多い。スイス・インフォによると、観光客密度ではイタリアのベネチアを凌ぐという。2030年には観光客数は1200万人から1400万人になると推定され、パリの年間1500万人の旅行者数に近づく。

 静かに本を読み、散策を好むスイス国民にとって中国の大都市のようなラッシュアワー状況は考えられない。観光客が少ないと嘆く観光地にとって、贅沢な嘆きだが、数が多すぎるため、町がそれを消化しきれなくなる、という状況は生まれてくる。ルツェルンの状況はそれに当たるだろう。落ち着きと秩序を愛する住民にとって中国旅行者の殺到は耐えられなくなってきている。すなわち、中国観光客が欧州の観光地で余り評判がよくない第1の理由は、中国旅行者の数が多すぎることだ。もちろん、それは中国観光客の責任ではない。

 もう一つの理由は、率直にいえば、中国旅行者のマナーが良くないことだ。オーストリアの景勝地ハルシュタット(Hallstatt)を訪問した友人夫妻が中国旅行者の団体に遭遇した。彼らは市中でもレストランでも大声でやかましい。路上にツバを吐く姿を見た友人の奥さんは「いやね」と軽蔑する顔をしたという。土産物屋の会計の場所では順番を無視して割り込んでくる。異なる文化の衝突ともいえるが、中国側のマナー不足は明らかだ。ネット上には中国旅行者の不祥事を撮った動画が無数配信されているほどだ。

 欧州の観光都市、音楽の都ウィーンに住んでいると、多くのアジア人、特に中国旅行者によく出会う。中国旅行者の群れを見るたびに彼らに笑みを見せる。「よくここまで来られましたね」という思いが自然と湧いてくる。若い時少し学んだ中国語で挨拶してみる。彼らは異国で友達を見つけたように嬉しい顔をして喜ぶ。

 オーストリア宣伝市場機関(OEW)によれば、同国では今年1月から7月の間、54万2000人の中国旅行者がオーストリアを訪問、前年同期比で8・2%増を記録した。延べ宿泊者数は78万1000人で、前年同期比で11・5%急増だ。2010年以来、中国旅行者数は5倍に膨れ上がった。参考までに、中国旅行者に次ぐのは韓国旅行者で、延べ宿泊者数は昨年約50万人、それを追って日本約40万人、インド30万人、台湾20万人となっている。

 ちなみに、中国国民で海外旅行をする者は年間約1億3500万人といわれ、2025年には2億人になると推定されている。中国の人口を考えれば、どこに行っても中国人にぶつかるのは当然かもしれない。その行く先々で現地住民と衝突する姿を見るにつけ、同じアジア人として少々悲しい。

 中国旅行者のマナー向上には多分、時間が必要だろう。中国国民の海外旅行者数は今後、飛躍的に増加するだろう。今のうちに「海外旅行の快適な過ごし方と海外でのマナー」などを中国政府側がイニシャチブをとって啓蒙すべきだろう。繰り返すが、アジアの同胞、中国旅行者のマナーの悪さを聞くことは本当に辛い。

トランプ氏の“本当の友だち”探し

 「ニューヨーク発時事」の2本の記事が目に入った。見出しに惹かれて記事を読んだ。一本は「米大統領、中国の習国家主席と『友人でないかも』」、もう一本は北朝鮮の金正恩労働党委員長に対して、トランプ大統領が「非常に良い関係にある」と評価している記事だ。

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▲2度目の米朝首脳会談開催が期待されるトランプ大統領と金正恩氏(2018年6月12日、シンガポール CNNの中継から)

 トランプ氏は人間を「友人」と「そうではない人間」の2つに即分ける傾向が強い。前者を持ち上げる一方、後者は厳しくこき下ろす。このトランプ氏の「友人観」はひょっとしたら同氏が日ごろから自慢するディールのエッセンスかもしれない。興味深い点は、前者と後者の間には強固な壁はなく、非常にエラスチックだということだ。

 メラニア夫人と共に中国を訪問した頃、トランプ氏は習近平国家主席を高く評価していた。中国共産党政権のトップをあんなに評価して後で問題にならないかと、こちらが心配したほどだ。それがここにきて、“友人”習近平主席への入れ込みが冷えてきた。もちろん、今回も理由はある。一つは米中間の貿易戦争だ。トランプ氏は24日、第3弾目の対中制裁を発表したばかりだ、それだけではない。時事電によると、中国が米国の11月の中間選挙に大規模な干渉をしている疑いが出てきたからだ。トランプ氏は、「わが国の民主主義のプロセスを破壊するような人物と、友人になれるのか」と極めて当然の不満を吐露している。

 一方、金正恩氏へのトランプ氏の人物評は急上昇中だ。「チビデブ」といった子供の喧嘩レベルから始まり、「ロケットマン」と皮肉を込めた呼称をつけ、6月のシンガポールでの米朝首脳会談後は「立派な指導者だ」と金正恩氏の政治力を評価。ここにきては「非常に良い関係」と称賛するまでになった。トランプ氏にとって、金正恩氏は今年最高の“成長株”といったところかもしれない。

 トランプ氏の「友人観」がコロコロ変わるのは、政治的思惑がどうしても絡むからで、純粋な人間評とはいえないからだろう。トランプ氏の場合、目を覚ましたら、昨日の「友人」が「最悪の人間」となっていても可笑しくない。

 トランプ氏は今月18日、政治専門チャンネル「Hill.TV」のインタビューの中で、ジェフ・セッションズ司法長官を批判し、「自分に司法長官がいない」と嘆いている。トランプ氏の周辺に同氏を本当に守ってくれる部下や友人がいないということだ。側近で重用していた人物が辞任後、暴露本を出版し、トランプ氏を批判する。それだけではない。トランプ氏の下部構造までメディアに暴露する昔の女友達まで出てきた。

 そのような中で安倍晋三首相は数少ない政治家の「友人」かもしれない。トランプ氏が大統領に選出された後、間髪をいれずに米国に飛び、トランプ氏に「おめでとう」と祝賀した最初の海外首脳となった。その安倍首相ですら最近の日米貿易問題ではトランプ氏の強硬姿勢に驚かざるを得なくなっている。安倍首相も近い将来、トランプ氏の「友人」から「米国と不当な貿易を推進する政治家」へと、レッテルを貼り換えられるかもしれない。

 国際政治とは国益外交を意味する。国益を守るために友人を探し、国益に反する人間には距離を置くことはトランプ氏が初めてではない。ただ、トランプ氏の「友人観」が少々、極端に左右に揺れるだけだ。

 本当の友人を見つけるのは難しい。トランプ氏だけではない。金正恩氏、ロシアのプーチン大統領、習近平国家主席ら世界の指導者と呼ばれる政治家も程度の差こそあれ、同じ悩みを持っている。

 元ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)スクリパリ大佐と娘が3月4日、英国ソールズベリーで猛毒の神経剤で暗殺されそうになったが、プーチン氏は間接的だが「国を裏切った者は許さない」と犯行を匂わせている。国、そして自分を裏切る者に対し、プーチン氏は強烈な復讐心を抱く。同時に、同氏からは信頼できる人間、友人がいないことに対する言い知れない渇きを感じる。

 トランプ氏と金正恩氏が本当の友人となれるかは分からないが、両者には年齢の差こそあれ共通点がある。友人はいないが、両者の周囲には親族関係者がいることだ。

 金氏には実妹の金与正さん(党第1副部長)が心配りをしている。南北、米朝首脳会談の舞台裏で兄・金正恩氏を内外共に支えている姿があった。トランプ氏には“美しすぎる女性”とメディアで呼ばれる長女イバンカさんとその夫、ジャレッド・クシュナー氏(大統領上級顧問)が父親のトランプ氏が脱線しないように注意を払っている。いずれにしても、親族が友人の代役を務めているということは、信頼できる人間が近くにいないことを実証している。

 「真の友は人生の宝物」という言葉を聞いたことがある。また、「まさかの時の友こそ真の友」という格言も聞く、政治家だけではなく、全て人間は本当の友を探している。

 トランプ氏のこれまでの2年弱の任期で最高の功績は、外交と政治上の政策を除けば、「友人」という言葉を政治の世界に持ち込み、「人生で友がどんなに価値あるものか」を再認識させてくれたことではないか。

トランプ氏「反グローバル化」を鮮明

 ニューヨークの国連本部で第73回総会が開幕し、25日の初日、トランプ米大統領が就任2回目の一般討論演説を行った。当方は同日、米CNNでトランプ氏の演説に耳を傾けた。以下、当方の感想だ。

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▲国連総会の一般討論演説で語るトランプ米大統領 2018年9月25日、国連公式サイトから 

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▲国連総会の一般討議演説で語る安倍晋三首相 2018年9月25日、国連公式サイトから

 トランプ氏は昨年、“アメリカ・ファースト”を宣言し、世界を驚かせたが、2回目の今回は過去2年余りのトランプ政権下の実績を挙げ、「2年余りでこのような実績を挙げた歴代政権はなかった」と自賛し、総会会場に集まった世界の首脳陣たちから笑いがもれた時、「(君たちの反応は)予想していなかったが、実際、その通りだよ」と軽くかわす余裕を見せた。

 トランプ氏は総会会場に到着が遅れたため、国連側は急きょ演説順序を変更せざるを得なかったが、それ以外は大きな問題はなく、トランプ氏の就任2年目の国連演説はホスト国代表としては及第点が取れるものだった。

 トランプ氏の演説内容は興味深かった。論理的に矛盾する点も見られたが、それ以上に考えさせる内容があった。昨年のアメリカ・ファーストは大きな脚光を浴びたが、今年は「主権の尊重」を強調し、「思想となったグロバリゼーション(国際化)」には拒絶の姿勢を鮮明にした。

 冷戦時代、欧米諸国は民主主義と自由を高く掲げ、その重要性を強調した。一方、旧ソ連・東欧共産政権は欧米の人権蹂躙批判に対し「主権」「内政干渉」という概念を持ち出して反論してきた経緯がある。

 ところで、ポスト冷戦時代の今日、米国大統領が「主権の重要性」を逆に強調したわけだ。時代が変わった、といった感傷的な問題ではなく、トランプ氏の「アメリカ・ファースト」が2年目に入り「反グローバル化」「主権重視」という新しい次元に向かってきたというべきかもしれない。

 トランプ氏は演説で北朝鮮との非核化交渉の進展を評価し、核・ミサイル関連施設の破壊を例に挙げ、「金正恩労働党委員長の勇気ある決定に感謝したい」と述べ、非核化の実現に期待を表明したが、北朝鮮の人権問題には全く言及しなかった。北の人権問題が内政問題であり、主権への干渉になる、というばかりにだ。

 その一方、トランプ氏は演説の中で2回、人権問題に言及し、批判している。ベネズエラとイランの2国だ。トランプ氏は、「ベネズエラは世界有数の原油生産国であり、豊かな国だったが、今日、多数の国民が飢えの恐れから国外に難民となって流出している」と指摘、ニコラス・マドゥロ現政権の失政を厳しく批判した。イランに対しても、「イラン指導者は国の富を奪い、贅沢な生活をする一方、国民を弾圧している」と批判した。

 トランプ氏にとって対ベネズエラ、対イラン批判は内政干渉に該当しないわけだ。前者は米国の難民対策に関わる問題であり、後者は核問題に絡んだ中東・国際社会の安全問題というわけだ。トランプ氏の「主権重視」は第1に米国に対してであり、他国に対しては国際安保問題であり、難民対策といった具合に、その時々の情勢によって異なってくる。

 トランプ氏は過去、パリに本部を置く国連教育科学文化機関(ユネスコ)から離脱したのを皮切りに、昨年8月4日、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」から正式に離脱を通知。今年に入り5月8日、イラン核合意の離脱を表明し、6月19日にジュネーブの国連人権理事会からも離脱した。トランプ氏にはそれぞれの理由はあるのだろう。トランプ氏は演説で「米国の援助は今後、友人だけに限定する。これまで多額の援助を受けながら、米国に感謝する国は少なかった」と述べている(「米国の“国連離れ”はやはり危険だ」2018年7月31日参考)。

  トランプ米政権は今年1月、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への拠出金の大幅凍結を明らかにした。米国主導の中東和平交渉にパレスチナ自治政府のアッバス議長が拒否していることに対する報復の意味合いがある、といった具合だ。ちなみに、トランプ氏は演説の中で地域の安保問題に言及し、米国に依存してきた国防負担の見直しを要求している。日本にも関わる問題だ。

 トランプ氏は「米国第一」を軸に、世界を「友邦国」と「そうではない国」に分け、前者には「連帯」と「責任の分担」を求める一方、後者には「制裁」と「圧力」を行使している。

 当方は「米国の『強さ』は誰の為か」(2018年6月19日参考)のコラムの中で書いたが、世界は外交分野でも経済でも共生共栄の道を模索しなければ繁栄できない時代圏にきている。トランプ氏は国連演説の中で「米国は本当に強い」と述べたが、一人勝ちはもはやできない。世界最強国の米国が自国に与えられた恵みを他国と共有する時にのみ、米国と世界はウインウインの関係を築くことができるのではないか。

独週刊誌「法王よ、嘘つくなかれ」 

 ローマ法王フランシスコにとってエストニア、ラトビア、リトアニアのバルト3国の司牧訪問(9月22〜25日)は息抜きとなったかもしれない。世界のカトリック教会で連日、聖職者の未成年者への性的虐待問題が報じられ、批判の矢はいよいよローマ法王に向けられてきた時だからだ。

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▲「汝、嘘をつくなかれ」というタイトルでフランシスコ法王を批判する独週刊誌シュピーゲル最新号の表紙

 バチカン関係者が法王の第25回目の司牧訪問(バルト3国)に専心している時、バチカン報道で定評のある独週刊誌シュピーゲルが最新号(9月22日号)でフランシスコ法王を「嘘つき」と批判する特集を掲載した。写真を含めて10頁にわたる特集のタイトルは「汝、嘘をつくなかれ」だ。旧約聖書「出エジプト記」第20章に記述されているモーセの10戒からの引用である。

 世界13億人の信者を抱える最大のキリスト教会、ローマ・カトリック教会の最高指導者にして、ペテロの後継者ローマ法王に対し、「汝、嘘をつくなかれ」(隣人について偽証してはならない)と訓戒するためには勇気が必要だ。それだけに、シュピーゲル誌は事実確認を繰り返しながら慎重に取材していったはずだ。

 同誌は「ローマ・カトリック教会は現在、危機にさらされている」と指摘。その直接の契機は、前米国駐在大使だったビガーノ大司教が「フランシスコ法王は米教会のセオドア・マキャリック枢機卿の性的犯罪を知りながら、それを隠蔽してきた」と指摘し、法王の辞任を要求したことだ。

 ビガーノ大司教の批判は詳細に及ぶ。ベネディクト16世が聖職から追放したのにもかかわらず、マキャリック枢機卿を再度、聖職に従事させたのはフランシスコ法王だ。同法王は過去、5年間、友人のマキャリック枢機卿の性犯罪を知りながら目をつぶってきた(今年7月になってようやく同枢機卿の聖職をはく奪する処置を取った)。

 フランシスコ法王は同枢機卿の性犯罪を隠蔽してきたという批判に対し、返答せず、これまで沈黙してきた。シュピーゲル誌は「南米出身のローマ法王は普段、饒舌だが、肝心な時、いつも沈黙の世界に逃げる」と評している。

 当方はこのコラム欄で「法王、沈黙でなく説明する時です」(2018年9月5日参考)という記事を書いた。沈黙が続く限り、ビガーノ大司教の書簡がやはり正しいかったと考えられるからだ。ローマ法王はそのことは知っているはずだが、口を固く閉ざしている。

 そこで当方は「聖職者の性犯罪を隠蔽してきた問題が単にフランシスコ法王だけではなく、前法王ベネディクト16世ばかりか、故ヨハネ・パウロ2世にまで及ぶ危険性があったから、沈黙せざるを得なくなったのではないか」と推測した。(「法王の『沈黙』の理由が分かった」2018年9月10日参考)。しかし、この受け取り方は甘かった。シュピーゲル誌の特集を読んで分かった。

 結論を言えば、フランシスコ法王は過去も現在も聖職者の未成年者への性的虐待問題を隠蔽してきたのだ。少し説明する。

 フランシスコ法王が第266代のローマ法王に選出されて早や5年半が経過するが、出身国アルゼンチンにはまだ凱旋帰国していない。これは何を意味するのか。

 故ヨハネ・パウロ2世は就任直後、故郷ポーランドを何度も凱旋帰国したし、ベネディクト16世もドイツを訪問し、国民はドイツ人法王を大歓迎したことはまだ記憶に新しい。一方、フランシスコ法王は母国にまだ帰国していない。シュピーゲル誌は「フランシスコ法王はローマに亡命中」と皮肉に報じているほどだ。

 アルゼンチンが軍事政権時代、その圧政に対して当時ブエノスアイレス大司教(ホルヘ・マリオ・ベルゴリオ大司教)だったフランシスコ法王は十分に抵抗せず、軍事政権の独裁政治を受け入れてきた経緯があるから、母国の国民の前に帰国できないのかもしれない、と考えてきた。

 事実はそれだけではなかった。フランシスコ法王が母国を凱旋訪問できない理由は、ブエノスアイレス大司教時代、聖職者の性犯罪を隠蔽してきたからだ。聖職者の性犯罪の犠牲となった人たちがローマ法王となったフランシスコ法王に書簡を送り、そこでアルゼンチン教会で多くの聖職者の性犯罪が行われてきた事実を報告した。その書簡の日付は2013年12月だ。フランシスコ法王はその書簡にも返答せず、沈黙している。

 フランシスコ法王は過去、ブラジル教会やペルー教会を訪問したが、母国を訪問しなかった。南米訪問の日程作成の段階でアルゼンチンは訪問先から外された。その理由はこれで明らかだろう。

 フランシスコ法王がアルゼンチン入りすれば、聖職者の性犯罪の犠牲者たちが声を高くして訴えるだろう。「大司教時代、あなたは何をしていたのか」と叫ぶ時、フランシスコ法王はどのように答えることができるか。聖職者の性犯罪に対し、“ゼロ寛容”を叫び、性犯罪を隠蔽してきた聖職者は今後、教会の聖職には従事させない、と表明してきた法王だ。その法王が多数の聖職者の性犯罪を覆い隠してきたのだ。

 ローマ・カトリック教会では聖職者の性犯罪が世界に広がっている。米国教会では聖職者の性犯罪の犠牲者数は1万9000人にもなる。カナダ教会、チリ教会、ベルギー教会、アイルランド教会、オランダ教会、ドイツ教会、オーストラリア教会、オーストリア教会で聖職者の未成年者への性的虐待事件が次々と発覚している。

 フランシスコ法王は法王就任直後、バチカン改革を推進するために9人の枢機卿を集めた頂上会議(K9)を新設し、教会内外に改革刷新をアピールしたが、9人の枢機卿のうち、少なくとも3人の枢機卿(バチカン財務長官のジョージ・ペル枢機卿、ホンジュラスのオスカル・アンドレス・ロドリグリエツ・ マラディアガ枢機卿、サンチアゴ元大司教のフランシスコ・エラスリス枢機卿)は今日、聖職者の性犯罪や財政不正問題の容疑を受けている。フランシスコ法王が主張する教会刷新の実相が如何なるものか、これで分かるだろう(「バチカンNo3のペル枢機卿を起訴」2018年5月3日参考)。

 ローマ・カトリック教会の現在の危機は、教会改革を推進するリベラルなフランシスコ法王に対し、それに抵抗する保守派聖職者との抗争といった図ではない。問題は、バチカンを含むカトリック教会がイエスの福音から久しく離れ、根元から腐敗してしまったことにある。「教会はこの世の権力を享受するため、その魂を悪魔に売り渡してしまった」というドストエフスキーの小説「カラマーゾフの兄弟」の登場人物の台詞を思い出す。

ドイツ3党首の「本音」はこれだ!

 ドイツ大連立政権のドタバタ劇にようやく幕が降りた。ベルリンでメルケル首相(「キリスト教民主同盟」CDU党首)、ナーレス党首(「社会民主党」SPD)、そして「キリスト教社会同盟」(CSU)党首のゼーホーファー内相が23日、再度会合した。テーマはドイツ情報機関の独連邦憲法擁護長(BfV)のハンス・ゲオルグ・マーセン長官(55)の処遇問題だ。

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▲3者党首会談で勝利者となったSPDのナーレス党首(SPD公式サイトから)

 「もう決まっていたのではないか」と首を傾げる読者がいるかもしれないが、ナーレス党首が党内からの強い圧力を受け、マーセン長官の処遇問題の仕切り直しをメルケル首相とゼーホーファー内相に申し出たのだ。

 23日夜の再会合の結論は、マーセン長官を更迭するが、内務次官には転任させず、ゼーホーファー内相の特別顧問とし、その報酬はBfV長官と同じレベルに留めることになった(欧州・国際問題担当局長クラスの俸給)。最初からそのように決めておけばドタバタすることはなかった。

 話を戻し、以下、3者がどのような思惑でマーセン長官の処遇問題を協議し、妥協したかを当方の勝手な推測のもとに再現してみた。

 マーセン長官のビデオ判定問題の経緯についてはこのコラム欄でも何度も書いた。興味のある読者は過去のコラムを読んで頂きたい。メルケル大連立政権の3党首は18日、先月26日のケムニッツ市の暴動事件で誤解を与えるような発言をメディアにしたマーセン長官を更迭し、内務次官に転任させることを決めたばかりだ。その直後、内務次官の給料はBfV長官そのそれより数千ユーロ多いことが判明し、「更迭ではなく、栄転だ」という不満の声が出てきた。特に、マーセン長官が内務次官に転任することで内務次官のポストを失うSPD側の不満の声が強かった。


 <メルケル首相>
メルケル 「とにかく、この問題を早く決着つけたいわね。“欧州の顔”といわれるのに、こんな国内の小さな人事問題で貴重な時間を投入しなければならないのは残念ね。マクロン大統領らから笑われてしまうわ。それにしても、マーセン長官は許せない。私がケムニッツ暴動直後に表明した発言をバカにするように、暴動はなかった、外国人排斥、難民襲撃はなかった、なんていうのだから。1本のビデオで判断すべきではないわ。他のビデオでは難民が襲撃されているところが写っていたわ。ゼーホーファー氏はマーセン長官の能力を高く買い過ぎている。早くこの問題に決着つけて、欧州の顔に戻りたいわ」

 <ナーレス党首>
ナーレス 「私としたことがどうして前回の協議で気が付かなかったのかしら。ホルスト(ゼーホーファー内相)には騙されてしまったわ。今度こそ彼のメンツを潰してやる。絶対、マーセン長官を内務次官にはしない。そんなことをすれば、党内の若手から『党首は何をしているのか。会議でなぜ抗議しなかったか』という突き上げが出てくるわ。党首の座を狙う党員は私が失敗するのを待っているのよ。私はマルティン(シュルツ前党首)のよう無能な党首とは呼ばれたくない。それにしても、反難民、外国人排斥を唱えるAfD(極右政党「ドイツのための選択肢」)はいやね。せかっく大連立政権が動き出したと思った時、マーセン長官問題が飛び出し、それをニヤニヤして喜んでいるのだから」

<ゼーホーファー内相>
ゼーホーファー 「バイエルン州党首に専念していた方が楽しかった。つまらない問題でベルリンに呼び出され、同じ問題を何度も話し合わなければならないのは疲れる。前回はナーレス党首をうまくかわしたが、今回は強硬姿勢だろう。労働者の味方という標語を捨てきれないSPDだから、世論調査ではAfDに抜かれてしまったのだ。国民は難民・移民の殺到で困惑している。難民殺到はもう御免だと感じているのだ。そんな時、難民の強制送還に文句をつけてばかりいる。マーセン長官はCDU党員だが、その能力を失うことは国の損失に繋がる。それにしても、ナーレス女史の理解力には疑問を感じるよ。メルケル首相にしても女性政治家はどうして頑迷なのか。ベルリン生活はつまらない問題が多すぎる。ミュンヘンに戻りたいよ」

 最後に、3者首脳を悩ましたマーセン長官
マーセン 「やれやれ、やっと決着したか。それにしてもメルケル首相は俺を好きでないらしい。彼女の難民歓迎政策こそドイツが今日直面している全ての問題の根源にあることを忘れている。ケムニッツ市の暴動についても、同じ東独出身の首相としては理解が欠けている。牧師家庭出身の娘さんだから、難民を追放するといった非人道的手段がとれないのだろう。しかし、難民がこれ以上殺到したら、ドイツ社会はカオスに陥るこ。それが読めないのだから、平穏な時の首相は務まるが、危機管理が問われる時の国家のかじ取りは難しい。BfV長官から内務次官の栄転を聞いて、正直ビックリした。妻(日本人女性)も驚いただろうが、内心喜んでいたはずだ。それにしても、ゼーホーファーはいいやつだ。俺の能力を知っている。今後は彼の特別顧問だから気楽にやっていくよ。政治家と付き合うのは本当に疲れる。ゲハルト(シンドラー前独連邦情報局BND長官)もよく言っていたが、本音を吐露すれば批判にさらされる職業は俺には向いていない」

 以上、当方が勝手に推測して書いた内容だ。大げさな部分もあるだろうが、まったく見当外れということはないはずだ。

 3者首脳会談の再会合での勝利者はナーレス党首であり、内務次官の栄転の夢が消え、3000ユーロ増額の給料を失ったマーセン長官とその奥さんは大連立政権のドタバタ劇の犠牲者だ。そして敗北者は、指導力のなさを露呈したメルケル首相だろう。

 

バチカンは台湾との関係を断絶?

 バチカン法王庁と中国共産党政権は22日、北京で両国間の司教任命問題で暫定合意に達したことを受け、関連文書に署名した。署名式にはバチカン代表団からアントニオ・カミレーリ外務次官、中国からは王超外務次官らが参加した。バチカン・ニュースは“歴史的な合意”として特集を組んで大きく報じた。

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▲中国のキリスト信者たち(バチカン・ニュースのHPから)

 バチカンのナンバー2、国務省長官のピエトロ・パロリン枢機卿は今回の暫定合意について、「中国の全てのカトリック信者たちの統合を実現し、バチカンと中国政府の相互認知を促進させる」と評価している。バチカンのグレッグ・バーク報道官の説明によれば、「同合意は政治的なものではなく、司教任命問題に限定された牧会上のものだ。今回の対話プロセスはバチカンと中国間の交渉の終結を意味するのではなく、開始だ」という。バチカン側は今回の合意に基づき、ローマ法王の許可なく中国で任命されていた司教7人を正式に承認したと発表した。

 パロリン国務長官はバチカン・ニュースへのビデオ声明の中で、「合意内容は司教の任命と認知に関するもので、大きな意味合いがある。特に、中国でのカトリック教会の活動、中国政府とバチカン間の対話促進と平和促進にとって大切だ。この合意によって中国の全ての司教たちはペテロの後継者のローマ法王と繋がった。司教たちの統合は長い間、難しかった。合意は統一と相互信頼を醸成し、新しい刺激をもたらす手段となることを期待している」と述べた。

 今回の暫定合意はバチカンと中国共産党政権の間で締結された「政教条約」ではない。バチカン側が繰り返し強調するように、あくまでも牧会上の合意で、バチカンと中国間の関係正常化への一歩に過ぎない。司教任命問題はベネディクト16世時代から既に暫定的ながら暗黙の合意が双方にあった。今回はその“現実”を文書化した、といえる。

 バチカンと中国共産党政権との関係は険悪な状況が続いてきた。中国外務省は過去、両国関係の正常化の主要条件として、|羚馥眄への不干渉、台湾との外交関係断絶―の2点を挙げてきた。

 中国では1958年以来、聖職者の叙階はローマ法王ではなく、中国共産政権と一体化した中国聖職者組織「愛国協会」が行い、国家がそれを承認するやり方だ。一方、バチカンは司教任命権を北京に委ねる考えはなかった。そのため、新しい司教が誕生する度に両者間で問題が生じてきた。最近では、「愛国協会」が2006年4月と11月、バチカンの認可なくして司教を叙階したため、バチカンは激しく抗議している。

 バチカンは中国国内のカトリック信者をケアするために中国側との対話を試みてきた。その試みは故ヨハネ・パウロ2世から始まり、べネディクト16世時代の07年、中国を潜在的な最大の宣教地と判断し、北京に対して対話を呼びかけた。同16世は中国の信者宛てに書簡を公表するなど関係の正常化に乗り出している。ちなみに、同16世のメッセージはインターネット上で公表されたが、中国政府はそのサイトを後日削除したことが判明した。

 バチカン放送によれば、愛国協会は現在、中国を138教区に分け、司教たちが教区を主導している。ローマ法王に信仰の拠点を置く地下教会の聖職者、信者たちは弾圧され、尋問を受け、拘束されてきた。その一方、両教会の境界線は次第に緩やかになってきていた。例えば、愛国協会の多くの司教たちが後日、ローマ法王によって追認されてきた。

 中国では過去20年間で5000以上の教会が建設され、改修されている。中国当局の公式データによれば、12の神学校があり、69人の司教、1600人の神父、3000人の修道女がいる。国民の宗教熱が高まる一方、愛国協会では聖職者不足、特に、若い神父不足が深刻化している。中国のカトリック信者は約1200万人と推定されている。

 中国共産党政権にとって、バチカンとの関係正常化は国際社会のイメージアップに繋がるが、国内の信者への影響を考えた場合、完全には歓迎できない。香港カトリック教会の最高指導者を退位した陳日君枢機卿は、「中国政府はバチカンとの対話には関心ない」と警告を発している。

 実際、中国政府は今月10日、宗教統制を強化するガイドラインを発表した。北京や河南省など複数のキリスト教会では、十字架の破壊、聖書の焼却処分、教会の閉鎖が相次ぎ起きているという。中国国内ではこれまでに7000箇所の十字架が取り下げられたという情報も流れている。北京で最大のキリスト教会「シオン教会」も閉鎖の危機にあるという(中国海外メディア「大紀元」)。

 いずれにしても、バチカンと中国共産党政権間の完全な関係正常化のためにはもう一つの大きなハードルを越えなければならない。中国当局はバチカンに台湾との関係断絶を要求しているからだ。バチカンは現時点ではその意向はないから、中国との「政教条約」締結は非現実的なシナリオだ。

 参考までに、中国に最初の宣教師が送られたのは西暦635年と推定されている。ペルシャから派遣された宣教師は当時のシルクロードを経由しながら中国に入っていった。それから1400年余りの年月が経過する。その間、さまざまな政権が生まれては倒れていったが、キリスト教の福音は今日まで中国の大地から途絶えることはなかったわけだ。

メルケル大連立政権の“ドタバタ劇”

 ドイツの政情は韓国のそれとは違い急展開することは少ない。政治家を含めドイツ国民はよく考えるし、たっぷりと議論し、結論を出すからだ。パリパリ(早く早く)が国民性の韓国人とは、いい悪いは別として、全く違う。

 例を挙げて説明する。思い出してほしい。サッカー・ワールド大会(W杯)ロシア大会で予選グループ選で最下位に終わった時、ドイツ社会はカオスに陥った。考えられない、惨めな結果だったからだ。ヨアヒム・レーブ監督(58)は8月29日になってやっと敗戦の原因解明を終え、記者会見した。歴史的敗戦後、ほぼ2カ月の月日が経過していた。とにかく、ドイツ人は考える時間が必要な国民だ。ドイツ人の強さも弱さもそこにある。

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▲躍進続けるAfDの連邦議会代表のアリス・ワイデル氏とアレクサンダー・ガウラント党首(左)=AfDの公式サイトから

 問題は、十分に議論した末、その結論に問題が見つかった時だ。ドイツ人は自信を失い、当惑する。ドイツ情報機関の連邦憲法擁護庁(BfV)のハンス・ゲオルグ・マーセン長官の処遇問題でメルケル首相をはじめ、関係省のゼーホーファー内相、連立政権パートナーの社会民主党(SPD)のアンドレア・ナーレス党首は議論を重ねた。そして今月18日にマーセン長官の更迭を決定したが、同長官を内務次官に転任させることも同時に決めた。ゼーホーファー内相曰く、「マーセン長官の能力を失うことはできない」と説明している。

 問題は、3者会談で上記の人事異動が決定したにもかかわらず、SPDと野党から激しい批判の声が飛び出してきたことだ。マーセン長官の解任は当然だが、その長官をなぜ内務次官に抜擢するのか。それでは栄転を意味する、といった余りにも当然すぎる批判だ。特に、マーセン長官のために内務次官ポストを失うSPDから強い批判の声が出てきた。それに驚いたナーレス党首はメルケル首相に、「マーセン長官の人事問題について再度交渉したい」と要請。メルケル首相もゼーホーファー内相も申し出を受け入れ、「今週末までには最終決定したい」ということになった。交渉のやり直しだ。ドイツ人らしくないドタバタだ。

 ドイツ情報機関のトップ、マーセン長官の更迭劇については、このコラム欄でも数回報告した。ことは先月26日から27日にかけてドイツ東部ザクセン州のケムニッツ市で35歳のドイツ人男性が2人の難民(イラク出身とシリア出身)にナイフで殺害されたことから始まった。極右過激派、ネオナチ、フーリガンが外国人、難民・移民排斥を訴え、路上で外国人を襲撃。それを批判する極左グループと衝突し今月1日には18人が負傷した。

 メルケル首相はその直後、「法治国家で路上で難民や外国人が襲撃されることは絶対に許されない」と極右グループの蛮行を厳しく批判した。そこまでは問題なかったが、マーセン長官が今月7日、日刊紙ビルトで「ケムニッツ市の暴動を撮影したビデオを分析した結果、極右派が外国人や難民を襲撃した確かな証拠は見つからなかった」と述べ、極右派が難民を襲撃しているところを映したビデオに対して「信頼性に疑いがある」と言ってしまったのだ。

 次は、マーセン長官の発言がなぜ政権の危機を誘発させたかだ。反難民、外国人排斥を訴えて路上に繰り出す「ドイツのための選択肢」(AfD)ら極右勢力に対し、メルケル連立政権ではその対応でコンセンサスが出来ていない。メルケル首相は、「ドイツの民主主義を危機にさらしている」と反難民・移民政策の危険さを訴える。そこにマーセン長官の発言が飛び出し、AfDを擁護しているような印象を与えてしまった。いずれにしても、ゼーホーファー内相の「難民・移民が(ドイツが直面している)全ての問題の根源だ」という発言はある意味で正鵠を射っている。

 ドイツ公営放送ARDが21日公表した政党支持に関する世論調査によると、AfDはSPDを抜いて第2党に躍進した。メルケル首相が率いるCDU/CSU(キリスト教社会同盟)は28%と支持率を落としたが依然トップ。それをAfD18%、SPD17%だ。AfDが政権を奪うことができる近距離に接近してきた。ちなみに、CDU/CSUとSPDの現大連立政権の政党支持率は合わせても45%と過半数の50%を下回っている。

 来月14日にはバイエルン州議会選が実施される。ドイツ南部の同州は2015年の難民・移民の殺到をもろに受けた州だけに、反難民・移民の声は他の州より強い。世論調査ではAfDは同州でも既に第2党に躍進し、これまで過半数を支配してきた与党CSUの支持基盤を崩してきている。

 ドイツの2大政党(CDU/CSUとSPD)には昔のような勢いはない。4期目に入ったメルケル首相(CDU党首)には“欧州の顔”と評価された時のような指導力はもはや期待できない。SPDは久しく低迷し、難民・移民問題では党内の意見調整が難しく、コンセンサスを見出すのが難しい(「ドイツで難民不正認知問題が浮上」2018年5月25日参考)。

 100万人を超える難民・移民が殺到した2015年以降、2大政党は益々その指導力を失ってきた。マーセン長官の人事処遇問題でのドタバタ劇は、今年3月14日に発足したばかりの第4次メルケル大連立政権が既にレームダック状況に陥ってきたことを示している。

更迭された独長官の奥さんは日本人

 独連邦憲法擁護庁(BfV)のハンス・ゲオルグ・マーセン長官が18日、更迭された。ここまでは予想されたことだが、次のニュースには少し驚かされた。更迭されたマーセン長官はゼーホーファー内相のもとで内務次官に就任するというのだ。

 独メディアの中では「これでは更迭とはいえない。マーセン長官の給料はきっと長官時代より多い」と茶化す。国家公務員としては2段階昇進した給料が手に入る。だから、更迭というより、昇進だ。

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▲更迭されたマーセン長官(BfV公式サイトから)

 マーセン長官の異例人事について少し説明する。

 ことは先月26日から27日にかけてドイツ東部ザクセン州の第3の都市、ケムニッツ市で35歳のドイツ人男性が2人の難民(イラク出身とシリア出身)にナイフで殺害されたことから始まった。極右過激派、ネオナチ、フーリガンが外国人、難民・移民排斥を訴え、路上で外国人を襲撃。それを批判する極左グループと衝突し今月1日には18人が負傷した。

 メルケル首相はその直後、「法治国家で路上で難民や外国人が襲撃されることは絶対に許されない」と極右グループの蛮行を厳しく批判した。そこまでは問題なかったが、マーセン長官が今月7日、日刊紙ビルトで「ケムニッツ市の暴動を撮影したビデオを分析した結果、極右派が外国人や難民を襲撃した確かな証拠は見つからなかった」と述べ、極右派が難民を襲撃しているところを映したビデオに対して「信頼性に疑いがある」と言ってしまったのだ。

 事件当日、「極右派が外国人や難民を襲撃した」、「一部でリンチが行われた」といった情報がメディアに流れたが、長官の発言はそれを否定するか、疑いを投じたわけだ。

 ゼーホーファー内相はマーセン長官を呼び、事件の真相を問いただす一方、メルケル大連立政権の社会民主党(SPD)からは「マーセン長官は極右グループを擁護している」として、長官の辞任を要求するなど、マーセン長官の発言は“政権の危機”にまで発展していった。

 そこでメルケル首相(「キリスト教民主同盟」CDU党首)、ゼーホーファー内相(「キリスト教社会同盟」CSU)、アンドレア・ナーレスSPD党首の3首脳が会議し、マーセン長官の処遇について話し合った。その結果、長官の更迭と昇進が同時に決定したというわけだ。換言すれば、3者はメンツを維持するため妥協したわけだ。

 マーセン長官自身は、「私はビデオを見た感想を述べただけに過ぎない」と発言トーンを修正し、理解を求めたが、ことは既に遅すぎた。

 ところで、マーセン長官は1991年、内務省入りしたが、そこで2人の友人と出会った。一人はゲハルド・シンドラー氏で後日ドイツ連邦情報局(BND)長官となった。もう一人はディエター・ロマン氏で2012年にドイツ連邦警察長官に抜擢された。同時期にマーセン氏はBfV長官に就任した。

 ドイツの国内外の治安を担当した3人組の中で、シンドラー長官は、米国家安全保障局(NSA)が2013年10月のメルケル独首相の携帯電話を盗聴していたことが発覚して、責任を取って解任された。そして今回、問題発言でマーセン長官はBfV長官を更迭されたわけだ。3人組は当初から、メルケル首相の難民歓迎政策について「ドイツの治安を危なくする」として批判的だった。


 なお、マーセン長官の内務次官人事については、内務次官ポストを譲るSPD側から強い反発の声が出ている。メディアには「マーセン長官は極右政党『ドイツのための選択肢』(AfD)に近い」という批判まで飛び出してきた。

 情報機関関係者は通常、口が堅く、メディアに登場することは滅多にない。政治の舞台裏で情報を集め、スパイ工作をするのが役割だ。マーセン長官の場合は例外で、メディアに頻繁に登場し、インタビューによく応じてきた。簡単に言えば、“お喋りスパイ”だった。今回の更迭劇はその発言が問題となったわけだ。口は災いのもとを実証してしまった。

 蛇足だが、マーセン氏の奥さんは日本人女性だ。マーセン氏は日本が大好きで、時間があれば日本を訪問する親日派だ。ドイツのスパイ機関トップの奥さんが日本人女性だった、という事実は余り知られていない。メディアとのインタビューが好きだったマーセン氏だが、私生活では口が堅かったわけだ。どのような縁から結婚されたかは知らないが、マーセン長官が訪日した時、今の奥さんと知り合ったという。


 いずれにしても、マーセン氏本人は分からないが、奥さんは主人がスパイ活動担当のトップの座から降りて内務次官に転任したことを内心喜んでいるかもしれない。内務次官になって給料が約3000ユーロ増えるのだ。

金正恩氏よ「ノーベル平和賞」を狙え

 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は19日、平壌の百花園迎賓館で韓国の文在寅大統領と共に「平壌共同宣言」に署名したが、その直後の記者会見で「朝鮮半島を核兵器と核脅威がない平和の地にしたい」と述べた。

 朝鮮半島の非核化を北の指導者が口に出したのは初めてだ。文大統領が金正恩氏の発言を高く評価したことは言うまでもないが、それを外電で知ったトランプ米大統領も「非常に興奮した」という。

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▲平壌での歓迎バンケット風景(2018年9月18日 韓国大統領府公式サイトから)

 当方はその発言内容を聞いた時、バラク・オバマ米大統領(当時)が2009年4月5日、チェコの首都プラハで核兵器の廃絶を訴えた、あの「プラハ演説」を思い出した。

 金正恩氏とオバマ大統領の発言には格調の差こそあるものの、内容は同じだ。核兵器の廃絶だ。オバマ氏は、「核兵器を使用した唯一の核保有国として行動する道義的責任がある」と強調し、米国が先頭に立ち、核兵器のない世界の平和と安全を追求する決意を強調した。オバマ氏はその年10月9日、「プラハ演説」が高く評価され、ノーベル平和賞を受賞した。オバマ氏は当時、大統領就任直後であり、何もまだ具体的な政策を実行に移したわけではなかったが、やはり時の勢いがあったのだろう。同氏はノーベル平和賞を獲得した。

 それでは金正恩氏はどうだろうか。「何が」って、ノーベル平和賞の話だ。金正恩氏はオバマ氏と同様にノーベル平和賞を受賞できるだろうか。オバマ氏と金正恩氏を同列に置いて比較することは多分間違っているだろうが、発言内容は同じであり、世界の注目度も両者にはある。

 北朝鮮の非核化は単に朝鮮半島の平和だけではなく、世界の平和に繋がるテーマだ。金正恩氏はその鍵を握る指導者だ。そして今回、国際社会に向かって非核化について初めて具体的に語ったのだ。当時のオバマ氏にも負けないインパクトがあるはずだ。


 金正恩氏の発言の中で注目すべき点は、北の核関連施設が集中する寧辺核関連施設を永久的に破棄する用意があると申し出たことだ。「米国が米朝共同声明の精神に基づき、相応の措置を取れば」という条件は付いているが、画期的な申し出だ。

 もちろん、それは十分ではない。北は依然、何基の核兵器を保有しているかを明らかにしていない。また、既成の核兵器の放棄すら語っていない。厳密にいえば、北の非核化はまだ一歩も前進していない。史上初の米朝首脳会談後、北の非核化の遅れにイライラしてきたトランプ大統領を念頭に置いて、金正恩氏は非核化で少し前進的な発言をしてリップサービスをしただけかもしれない。多分、そうだろう。

 オバマ氏には当時、勢いがあった。黒人初の米大統領であり、弁護士出身で演説はうまい。一方、金正恩氏はどうか。3代目の世襲独裁者であり、親族関係者の処刑も躊躇しない凶暴性を隠さない。国際社会の反対にもかかわらず、核兵器を保有し、これまで6回の核実験を実施し、核保有国を宣言した。そのキャリアから判断すれば、金正恩氏は平和賞候補の資格は皆無に等しいことは一目瞭然だが、金正恩氏にはまだチャンスがある。

 核保有後、核兵器を完全に破棄すれば大きな実績だ。南アフリカに次いで2番目の国家となる。ひょっとしたら、金正恩氏の実績の方がドラマチックかもしれない。南アは民主国家だが、北は独裁国家だ。その指導者が自主的に核兵器を破棄したとすれば、ノーベル平和賞級の実績として称えられても可笑しくないはずだ。

 少々、金正恩氏を持ち上げ過ぎたかもしれない。
 独裁国家とはいえ、金正恩氏は世襲でそれを引継いただけだ。同氏はまだ若いし、その手は故金日成主席、故金正日総書記ほどには血に染まってはいない。今なら独裁国家から決別できる。北を経済大国にする時間もあるはずだ。

 最後に、米CNNに倣ってファクトチェックをしたい。オバマ氏は「プラン演説」で世界を感動させ、期待を持たせたが、2期8年間で彼はそれを実現しただろうか。残念ながら実現できずに終わった。そればかりか、オバマ政権下で何度も未臨界核実験が行われた。核爆発こそ避けたが、核兵器の近代化のために多くの実験を許可した。最初に人を感動さえ、期待させた分、その失望はやはり大きい。

 一方、金正恩氏にはオバマ氏のようになってほしくはない。核廃絶を表明した以上、朝鮮半島を非核化エリアにしてほしい。それが実現できれば、オスロのノーベル平和賞委員会も過去の独裁政治云々も忘れ、“未来志向”となって本当にノーベル平和賞を金正恩氏に与えるかもしれない。取り巻く条件が厳しければ厳しいほと、それを克服した暁には栄光が待っている。金正恩氏よ、ノーベル平和賞を目指せ。

 少し遅くなったが、以上は、当方の「真夏の夜の夢」だ。

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