ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2019年01月

ファーウェイはどれだけ危険か?

 当方は自宅では新聞はオーストリア代表紙プレッセ一紙だけをアボ、他の紙新聞はもっぱらネットでフォローしている。プレッセ紙は自宅配達で毎朝早朝5時過ぎにはポストに届く。30日もいつものようにポストを開けてプレッセ紙を取り出して1面を見て驚いた、というか、「ああ、ここまで問題化されてきたのか」といった思いの方が当たっているかもしれない。1面トップの見出しは「ファーウェイ(Huawei)はどれだけ危険か」だ。1人の中国人女性がファーウェイのスマートフォンを見ている写真が大きく掲載され、欧州・中東・アフリカでのファーウェイ、フィンランドのノキア、中国の通信大手「中興通訊」(ZTE)、スウェーデンの通信機器メーカーのエリクソンの4社の市場占有率のグラフが載っていた。

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▲欧州・中東・アフリカ市場の通信大手4社の市場占有率のグラフ(オーストリア代表紙プレッセ(2019年1月30日付)から )

 米国を皮切りに、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、日本、ここにきてドイツ政府もファーウェイ(華為技術)製品を政府調達から排除してきたことはこのコラム欄でも紹介済みだ(「東欧で“ファーウェイ締め出し”拡大」2019年1月15日参考)。プレッセ紙は「米国政府はファーウェイが中国のスパイ活動を支援しているとして、米国市場から実質的に追放してきた。それを受け、米国の同盟国もその決定に従ってきている」とファーウェイ追放の流れを紹介。ちなみに、米国政府は今年に入り、カナダ政府が昨年12月、米国政府の要請で逮捕したファーウェイ社の任正非CEOの娘である孟晩舟・財務責任者(CFO)の引き渡しを要求したばかりだ。

 米国が恐れるシナリオは、ファーウェイが2020年に実用化を計画している5G(第5世代移動通信システム)の覇権だ。通信情報世界では5G時代を迎える。現在の4G(LTE)よりも超高速、超大容量、超大量接続、超低遅延が実現する。本格的なIoT(モノのインターネット)の時代到来で、通信関連企業は目下、その主導権争いを展開している。

 5Gが実現され、IoT技術が普及すると、家電製品や車などさまざまなモノがインターネットに接続され、モノの相互通信・データ収集が実現する。米国が警戒している点は、中国の5Gの軍事利用だ。プレッセ紙は「米国の懸念は一国だけではない。英国、フランス、ドイツの情報機関も共有している」という。

 グラフによれば、2014年、エリクソンは市場占有率40%以上を占めてトップだった。ファーウェイは26%前後だったが、その4年後の18年にはエリクソンを抜いて約40%で首位に躍り出た。ZTEは約10%だから、中国の2社で市場占有率は50%となる。

 プレッセ紙は「ファーウェイをめぐる米中の闘争は次第に欧州にも波及してきた。問題は欧州市場を独占してきたファーウェイなど中国企業抜きで、欧州が独自の5G網を設置できるかだ」と問いかける。ドイツの大手通信関係者は「ファーウェイ抜きでは欧州の5G網の構築は少なくとも2年遅れる」と懸念している。欧州の通信市場はジレンマに陥っているわけだ。

 問いは2つだ。.侫 璽ΕДい呂匹譴世唄躙韻、欧州市場に定着した中国企業をどのように再び追放できるかだ。例えば、オーストリア政府はファーウェイ問題では「セキュリティの危険性という危惧に対する証拠はないので、過剰反応する具体的な理由はない」と静観している。同国政府はファーウェイとは契約を結んでいないが、同国の通信大手TMobileは中国企業に依存している。

 欧州委員会副委員長兼デジタル単一市場担当のアンドルス・アンシプ委員は、「ファーウェイや他の中国企業は危険だ」と受け取っているが、欧州連合(EU)の統一政策とはまだなっていないのが現実だ。

 ファーウェイに代わって世界最大のコンピュータネットワーク機器開発会社、米国のシスコ (Cisco Systems, Inc.)を利用する考えも聞かれるが、多くの欧州諸国は、「米国も中国と同様だ。通信網を情報活動に利用する点で米国は中国と同じだ」と警戒している。

 それでは欧州生まれのエリクソンやノキアはどうか。2社は技術的には問題ないが、中国企業との戦いでは既に遅れを取っている。なぜならば、中国企業は国家の補助金を受け、価格競争でも欧州のそれより数段安いから、欧州企業は到底勝てない。そのうえ、エリクソンやノキアは自社の問題を抱え、中国企業の進出に対してこれまで十分対応できなかった経緯がある。

 EUは社会のデジタル化促進、5G網の整備を大きな目標に掲げているが、欧州市場から中国企業を追放した場合、大きな経済的損失が出てくるうえ、独自のデジタル化構想を実現するためには多くの時間がかかると予想されている。

「9」の付く年は中国で大暴動発生!

 当方は久しく海外中国メディア「大紀元」日本語版を読んできた。欧米、日本メディアが書かない貴重な中国情報が報じられているからだ。12年前だったと思うが、法輪功信者への臓器強制移植問題に関する記事を読んでショックを受けたことがある。その数年後、不法臓器の移植問題は他の大手メディアでも報じるようになったが、最初の報道は「大紀元」だったと思う。「大紀元」はまた、政治情勢だけではなく、人間の精神生活に関する水準の高い文化記事が多い。

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▲中国マクロ経済学者で、人民大学国際通貨研究所理事兼副所長の向松祚(コウ ショウソ)氏(大紀元資料室)

 そこで今回、「大紀元」から中国の2019年の政治、経済の見通しに関する記事をまとめた。

 中国では「逢九必乱」という言葉がある。その意味するところは、「9」という数字が付く年は社会が混乱したり、政治的暴動などが発生するという内容だ。今年は2019年だ。「9」の付く年だから、中国では多くの混乱や大暴動が起きると予想されるわけだ。
 習近平国家主席は昨年12月31日に行った新年の祝辞で、「中国は100年に1度の大変革の時を迎えている」と述べる一方、李克強首相は1月12日、国務院常務会議で「今後、苦しい生活を送る覚悟をすべきだ」と警告を発している。


 <過去の「逢九必乱」>
 1949年:中国共産党が政権を奪う
 1959年:チベット蜂起
 1969年:中国とソ連の軍事衝突
 1979年:中越戦争の勃発
 1989年:民主化暴動(六四天安門広場事件)が起きる
 1999年:法輪功信者への大規模な弾圧
 2009年:新疆ウイグル自治区ウルムチで大規模な暴動、


 さて、今年の「2019年」を中国関係者はどのように予想しているだろうか。

 中国共産党政権は、国内では経済の減速、失業者の増加、社会不安の拡大など、国外では通商貿易やハイテク技術、軍事などの分野で米国とのホットな貿易戦が更にエスカレートするとみている。

 台湾の時事評論家・林保華氏は米ラジオ・フリー・アジアに対して、中国共産党政権は3つの危機に見舞われる恐れがあると述べている。
|羚餬从僂竜涕座と米中貿易戦の影響で、金融危機発生の可能性、中国共産党政権の極左政策で、共産党内部の闘争がより激しくなり、クーデター発生の可能性、C羚馘局の覇権主義で、国際社会で孤立化が進み、米中両軍が軍事衝突する可能性だ。

 一方、中国の著名なマクロ経済学者、人民大学国際通貨研究所副所長の向松祚教授は今月20日、中国上海市で行われた経済フォーラムで、「2019年にミンスキー・モーメント(全ての資産価格が急落する時)の到来に警戒せよ」と警告を発している。

 向教授によると、中国経済が景気の冷え込みを招いた原因は4点。
 1)中国当局が金融リスクを低下させるための債務削減政策で企業が資金難に陥ったこと。
 2)中国企業の収益が少ない
 3)中国当局の私有制と民営企業を排除する姿勢により、民営企業経営者の心理が強く打撃を受けたこと。
 4)米中貿易戦(唯一の外部要因)。

 向教授は、「現在中国人が保有する富の8割が不動産だ。中国の不動産時価総額は65兆ドルに達した。先進国の1年間の国内総生産(GDP)の合計に匹敵する。中国の金融システムは、資産に対する投資家や企業や個人の楽観的心理に基づいている。ある日、中国人が不動産市場、株式市場、ファンドなどすべての金融資産に失望した時、ミンスキー・モーメントが起きる」というのだ。

 経済が厳しくなれば、当然、その波紋は政治、社会など他の分野に波及する。中国共産党政権は中東や旧共産圏各国で起きた大規模な民主化運動「カラー革命」が中国で発生するのではないかという懸念と恐れを抱き始めている。

 今年は中国共産党の政権奪取70周年、チベット蜂起60周年、六四天安門事件30周年、法輪功弾圧20周年など大事件の節目の年を控えている。中国共産党政権は社会不安による政権崩壊を強く警戒し、政権安定の維持と制度安定のため、治安対策にこれまで以上に力を入れてくるだろう。ちなみに、中国では過去1年間、退役軍人、不正ワクチンの被害者、P2P金融の被害者などの抗議デモが発生している。今年に入り、国内知識人100人が言論の自由など民主化を要求し、一部では「中国共産党は歴史の舞台から立ち去れ」といった発言も飛び出したという。

 以上、中国の「2019年」への予想は厳しい。隣国の大国・中国の政治、経済の混乱は日本にも大きな波紋を与えることは必至だ。それだけに、日本も一層、中国の動向に注意を払う必要がある。


 参考、引用した「大紀元」日本語版の記事は

 「9が付く年に中国社会が混乱」1月9日 
 「苦しい生活に備えよ」1月16日
 「カラー革命に初言及」1月22日
 「中国の著名な経済学者、最新講演でミンスキー・モーメントに言及」1月23日

朝鮮半島の「点と線」

 作家松本清張には「点と線」というタイトルの長編推理小説があったが、別々の場所で異なった時間に生じた出来事を結ぶ時、意外な事実が浮かび上がる。朝鮮半島周辺で生じている様々な出来事、事件を「点」とすれば、それらの「点」を結んでいくと、考えられないようなシナリオが浮かび上がってくるのだ。

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▲在イタリアのチョ・ソンギル北朝鮮大使代理(イタリア日刊紙「イルフォグリオ」記者のツイッターから、韓国中央日報日本語版から転載)

 朝鮮半島を舞台とした「点と線」を考えたきっかけは、能登半島沖の日本の排他的経済水域(EEZ)内で昨年12月20日、海上自衛隊哨戒機P1が韓国駆逐艦から火器管制レーダー照射を受けた事件だ。防衛省はP1が記録した電波信号の音を今月21日に公開し、韓国との実務者協議を打ち切ったが、その後も韓国側からさまざまな反論、警告が飛び出している。

 少し、事件を再現する。日本のEEZ内で登場するのは、韓国駆逐艦、北朝鮮の漁船らしい船、そして上空に日本の哨戒機P1だ。その3者はそれぞれ独自の使命を担って「その場」にいた。3者をそれぞれ「点」とすれば、その点を最初に結びつける行動は韓国駆逐艦の火器管制レーダー照射だ。その結果、哨戒機P1と韓国駆逐艦は「線」で結ばれた。今回の事件のカギは3者の間で最初に行動を取った側にある。すなわち、事件のカギは韓国駆逐艦側が握っているといえるわけだ。

 韓国側はここにきて「威嚇飛行」とか「低空飛行」だったとして日本の哨戒機側に責任を負わせようとしているが、これは事件の核心をぼかす工作に過ぎない。事件の「説明責任」が韓国側にあることは明確だ。

 韓国側は「遭難していた北朝鮮の漁船救助に当たっていた」と説明したが、海上自衛隊哨戒機に火器管制レーダーの照射という危険な軍事行動を取った説明にはならない。韓国側が「点」を「線」にした行動の動機を正直に説明しないために、憶測情報が生まれてくる結果となる。

 燃料不足で遭難した北漁船を韓国駆逐艦が国連の対北制裁を破って給油していたという説から、映像に浮かび上がった北の漁船の大きさは通常の漁船より大きく、アンテナを装備していたことから、北の工作船だったという憶測まで囁かれ出してきた。

 「事件を解明する」とは、事件に登場する「点」を他の「点」と結びつけ、その「線」上に浮かぶ事実を見つける行為といえる。無数の「点」から「線」を見つけ、事件を再構成することだ。「給油説」から「北工作船」説まで様々な憶測が日韓のメディアを飾っているが、その責任は、繰り返すが、最初の「線」を結んだ韓国側にある。韓国側がなぜ日本の哨戒機に火器管制レーダーをを照射したか、誰もが理解できるように説明すれば、憶測は生まれてはこないのだ。

 ところで、日韓メディアが見落としている「点」がある。日本のEEZ内で日本の哨戒機が韓国の駆逐艦から火器管制レーダーの照射を受けたのは12月20日だった。そのほぼ1カ月前に在イタリアの北朝鮮大使館からチョ・ソンギル大使代理が行方不明となった。同大使代理は米国に政治亡命を希望しているというが、その後の所在は不明だ。この北大使代理の亡命という「点」を日本の哨戒機への韓国駆逐艦の火器管制レーダー照射事件という「点」と結びつけると新たな「線」が生まれてくる。

 忘れないでほしいことは、EEZには日韓2者だけではなく、北の工作船らしき第3者がいた事実だ。想像力の逞しい読者ならば既に一つのイメージが浮かんでくるはずだ。その通り。韓国駆逐艦は韓国に亡命したチョ大使代理を北側の工作船に引き渡している状況が浮かぶはずだ。

 チョ大使代理は米国への亡命を希望してイタリアに潜伏していた。その時、ソウルから特別指名を受けた外交官がローマ入りし、チョ氏と接触し、韓国への亡命を勧めた。チョ大使代理は最初はあまり乗り気ではなかった。なぜならば、韓国の文在寅大統領が親北路線を取り、北の金正恩朝鮮労働党委員長のスポークスマンのような人物であることを知っていたからだ。ソウルから派遣された韓国外交官はそのチョ氏を説得、ソウルでの亡命を保証し、経済的支援を約束する。最終的には、チョ氏は韓国亡命を決意する。そして12月上旬ごろ、ひそかにソウル入りする。

 問題は次だ。韓国大統領府に設置された南北間のホットライに電話が鳴った。金正恩氏が至急、文大統領と話したいという。テーマはチョ氏の引き渡し要求だ。親北派とは言え、脱北者を北に引き渡すことは文大統領もできない。人権弁護士として歩んできた過去もある。金正恩氏は文大統領が考え込んでいるのを感じ、「大統領、チョ氏は北朝鮮国民です。その国民の引き渡しを拒否するようでは、私はソウルを訪問できなくなります」とやんわりと、しかし、はっきりという。

 南北融和路線の推進に政治生命をかける文大統領は今年3月1日の「臨時政府」発足100周年を大々的に祝う計画を推進中だ。その式典の最高のVIPとして金正恩氏のソウル入りを願っていた手前、金正恩氏がソウル訪問をキャンセルすれば、これまでの全ての歩みが水泡に帰してしまう。

 文大統領は清水の舞台から飛び降りる決意で「分かりました。チョ氏を引き渡しますが、これは国家機密にして下さい。引き渡しは陸ルートでは難しいですから、わが海軍駆逐艦がチョ大使代理夫妻を連れていきますから、そちらは工作船を派遣し、引き取ってください」と語った。その実行日は昨年12月20日となった。

 ローマの北外交官亡命事件という「点」と朝鮮半島の海上で起きた韓国側の不祥事という「点」を強引に結びつけるとこのようなシナリオが浮かび上がるわけだ。この突飛なシナリオを直ぐに払拭できないのは、文在寅大統領が北に余りにも傾斜しているからだ。

ソロス氏「習近平は最も危険な人物」

 スイスの世界経済フォーラム年次総会(通称ダボス会議)は22日から25日まで開催されたが、トランプ米大統領やマクロン仏大統領などが参加しなかったこともあって、相対的に静かなダボス会議となった。日本からは安倍晋三首相が参加して23日に演説、国際貿易システムの見直し、世界貿易機構(WTO)の改革の必要性などを訴え、アジアの指導者としてその存在感を遺憾なく発揮できたことは良かった。

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▲中国共産党政権のデジタル世界の監視に警告を発するソロス氏(ジョージ・ソロス氏の公式サイトから)

 ところで、ダボスからの情報によると、世界的投資家、ジョージ・ソロス氏 (George Soros)が24日、夕食会を主催し、そこで中国の習近平国家主席を「自由社会の最も危険な人物」と厳しく批判する一方、トランプ米政権を称賛し、「中国に対し更に強硬な政策を取るべきだ」と檄を飛ばしたことが明らかになった。

 ハンガリー出身のソロス氏(88)は米大統領選挙では民主党候補者を支援し、巨額の献金をすることで知られている。そのソロス氏が米共和党政権を称賛することは通常考えられない。自由経済を促進し、オープンな社会建設をライフワークとするソロス氏は本来、米国ファースト、保護貿易には強い反対の立場ではないかと考えてきた。トランプ大統領には批判的なスタンスを取ってきたからだ。

 だから、ソロス氏がトランプ政権を褒めたというニュースに接したとき、フェイクニュースではないかと考えたが、そうではなかった。ソロス氏はトランプ大統領とトランプ政権を区別し、前者に対しては「彼は自分のことしか考えていない」といつものように辛辣な批判を惜しまなかったが、そのトランプ氏のもとで働くブレインたちの対中政策を称賛したのだ。

 ソロスは「オープン・ソサエティ財団」を創設し、「言論の自由」、「人権擁護」の活動をする非政府機関(NGO)を支援してきた。ちなみに、同氏が母国ハンガリーのブタペストで開校した「中央ヨーロッパ大学」(CEU)で中道右派のオルバン政権から激しい弾圧を受け、「ソロス氏は中東・アフリカから大量難民を欧州に殺到させている」と批判され、大学の閉鎖を要求されている。最終的には同大学は昨年12月、ブタペストからウィーンに移転することになったばかりだ。


 ダボス会議のソロス氏の発言に戻る。同氏は「デジタル監視への中国の圧倒的な力は世界にとって危険だ。中国は全ての国民を得点制で管理し、その言動をデータバンクに記録させる。それによって中国当局は全ての人間の日常活動を操作できるようになる。中国のインターネットは厳格に検閲され、中国共産党政権はを世界のデジタルの規則を無視し、インターネットの自由を脅かしている」と説明した。

 ソロス氏は中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)や同国通信大手の中興通訊(ZTE)を名指しで批判する。米国を皮切りに、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、日本、そしてドイツらの政府がファーウェイ社製品を政府調達から排除することを相続いで決定してきた。その理由は「中国のファーウェイとZTEのハードウェアやソフトウェアを使用すると、セキュリティ上の問題がある」というのだ。

 米国はファーウェイが米国の“国家安全保障上の脅威”となると判断し、警戒している。具体的には、ファーウェイが2020年に実用化を計画している5G(第5世代移動通信システム)の覇権だ。5Gが実現され、IoT技術が普及すると、家電製品や車などさまざまなモノがインターネットに接続され、モノの相互通信・データ収集が実現する。米国が恐れるのは中国の5Gの軍事利用だ。

 ソロス氏は、「中国共産党政権はIT関連技術と人工知能(AI)の開発に全力を投入し、世界の先頭を走っている。彼らはIT関連技術をパワーツールにして世界を制覇することを目論んでいる。世界はこれまで体験したことがない危険にさらされているのだ」と警告した。

 聴衆者から、「フェイスブックや他のITの大企業はどちら側に立っているのか」と問われたソロス氏は「利益のある側だ」と答えると、参加者から笑いと拍手が飛び出した。欧米のIT企業が利益中心で動くことを実業家ソロス氏は良く知っている。だから、ソロス氏は、「自由な社会で生きたいと願う全ての人は中国の習近平主席に反対しなければならない」というわけだ。

 ソロス氏が恐れているシナリオは「ジョージ・オーウェルも想像できなかった世界だ」と表現している。オーウェルは全体主義的なディストピアの世界を描いた「1984年」で有名なイギリス作家だ。中国共産党一党独裁政治によって運営される世界はそのディストピアを凌ぐ全体主義的社会になるという恐れだ。ユダヤ人であり、旧東欧共産党政権を体験してきたソロス氏は中国共産党政権のITとAIの覇権が何を意味するか誰よりも知っているのだろう。


 ソロス氏の演説全文は以下のサイトから。
 https://www.georgesoros.com/2019/01/24/remarks-delivered-at-the-world-economic-forum-2/

危険な韓国の「甘えの構造」

 かなり昔の話だが、日本人の精神性など解明した精神分析学者・土居健郎の「甘えの構造」(1971年)がベストセラーとなったことがあった。当方も読んで「なるほど」と感動したことを思い出すが、どうやら「甘えの構造」は日本人だけではなく、海を越えた隣国韓国にも別の「甘えの構造」があることが明らかになってきた。以下、説明する。

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▲閣僚会議でスピーチする文在寅大統領(2019年1月22日、韓国大統領府公式サイトから)

 日韓の両国関係は目下、緊迫している。旧日本軍の「慰安婦」問題の見直しに始まり、日本の植民統治時代の「徴用工」への賠償金問題、そして韓国海軍艦艇が日本の哨戒機に火器管制レーダーを照射した問題まで、次から次へと難題が浮上してきた。「歴史の正しい認識」問題は「過去」がテーマだ。だから21世紀に生きる日本側も反論に窮することがあったが、日本の哨戒機への韓国海軍の火器管制レーダ照射問題は「現代」生じた問題である。もちろん、両国間の海上でのいがみ合いも「現代」という書割を呈しているが、実際は「過去」が「現代」という舞台を借りて、暴れ出したとでもいうべきかもしれない。

 しかし、日韓間で生じた海上でのいがみ合いは「現代」生じた事件だけに、日本側はチャンスが出てくる。韓国の主張を検証し、その間違いを主張できるチャンスだ。例えば、日中間で対立する「南京事件」は「過去」の問題だ、日本側は中国の主張があり得ない暴論だと指摘したとしても限界がある。「過去」の問題だからだ。しかし、繰り返すが、韓国海軍艦艇の日本哨戒機への火器管制レーダ照射は「現代」生じたのだ。韓国側の主張に対して、日本側は説得力のある反論を提示できるわけだ。これが当方がいう「チャンス」の意味だ。この機会を利用すれば、韓国の他の「過去」問題の主張に対してもその信頼性を揺るがすことができるわけだ。チャンスを掴むべきだ。

 当方は軍事問題の専門家ではないから、詳細な両軍のやり取りはその分野の専門家に委ねるとして、両軍のやり取りを見て感じた2点について当方の考えを述べる。

 火器管制レーダー照射問題が出た時、「問題」は韓国艦艇が日本の哨戒機に照射したか否かだった。その「答え」は本来、「照射した」か「照射していない」の2つの返答しかない。ところがこの「問題」がいつの間にか消え、「日本の哨戒機が韓国海軍艦艇に近接飛行していたか否か」にすり替わってしまった。テーマが変わったのだ。最初の「問題」の答えが出ない段階で、別の「問題」が飛び出してきたのだ。その主要責任はやはり韓国側にあると言わざるを得ない。

 「火器管制レーダー照射」の真偽に決着つける前に別のテーマが介入し、本来の問いがぼけていったわけだが、これは明らかに韓国側の恣意的なテーマのすり替えだ。しかし、「問題すり替え工作」をするということは、韓国艦艇が日本の哨戒機に火器管制レーダーで照射したことを間接的に認めることにもなる。韓国側が照射していないのであれば、「わが国は照射していない」と宣言し、「照射した」という日本側の主張を論破することに全力を投入すればいいだけだ。テーマ替えなどは不必要だ。

 日本側が当時の状況を撮影した画像を公開するなど、異例の攻勢に出てきたため、韓国側は戸惑い、「照射の真偽」から「日本の哨戒機が韓国艦艇に余りにも接近したことが大きな問題だ」という別のテーマにすり替えていったわけだ。後ろめたさがなければ、テーマを変えるなどの小細工をする必要はない。以上から、韓国海軍が日本の哨戒機に火器管制レーダを照射した可能性が限りなく濃厚という結論が出てくる。

 2点目は、韓国が急きょ出してきた2番目のテーマだ。韓国側は「日本の哨戒機は韓国海軍の艦艇に危険を感じるほど低空接近してきた」と批判する。それに対し、日本側は海上での国際法を挙げ、「わが哨戒機は十分距離を取って飛行していた」とデータを公表して反論した。問題は韓国側の言い分だ。韓国海軍艦隊は「日本の哨戒機が低空接近したので危険を感じた。暴発の恐れすら出てくるから、今後は急接近しないように」と警告を発したのだ。

 当方は日本側が挙げた国際法の根拠を信じる。多分、韓国側も日本側が挙げた国際法を知っているはずだ。すなわち、日本側の反論は極めて官僚的だが、説得力がある。それに対し、韓国側は「危険を感じる距離」と受け取り、日本側に警告を発したわけだ。

 韓国側にとって国際法上の規約、過去に締結した外交協定にどのように明記されているかという以上に、「われわれは……感じる」という主観的な判断が国際法より重要となる。今回の韓国海軍の説明もその例外ではないのだ。韓国側の説明をもう少し説明すれば、「国際上の規約はそうだが、問題はわが海軍艦艇が日本の哨戒機の接近に危険を感じたという事実だ」ということになる。国際上規約より、主観的な受け取り方を重視する。ルールの破壊だ。

 最近では慰安婦問題の日韓合意(2015年12月)を破棄、そして日韓基本条約、請求権協定(1965年)を無視した最高裁の判決、そして今年3月には「日韓併合条約」(1910年)を無視して韓国臨時政府発足100年記念式典の挙行など、韓国が国際法、外交協定に対し如何にルーズであり、違反しているかは一目瞭然だ。

 韓国側は「協定は当時の関係者が締結したもので、自分には関係ない」といった態度だ。文大統領は慰安婦問題での日韓合意破棄の理由として「犠牲者の声が十分に反映されていない」と弁明した。大統領が外交合意をそのような説明だけで破棄できるのが現在の韓国なのだ。

 これではどの国が真剣に韓国と外交交渉をし、外交合意を模索するだろうか、ひょっとしたら明日には無効となる協定作成のために膨大なエネルギーを投入したいと考える国や外交官がいるだろうか。

 韓国は歴史的にも大国の支配を受けてきた。その結果、前日のコラムでも指摘したが、強者へのルサンチマン(怨恨)が生まれてきた。同時に、そのルサンチマンは「道徳的優位性」という感情を生んできたが、時間の経過と共に「道徳的優位性」は変質し、「われわれは被害者だ」という「甘えの構造」が生まれてきた。だから、「強国と締結した協定などは意味がない。被害者のわが国が十分ではないと判断すれば、いつでも破棄できる」という思考が強まっていったわけだ。これを韓国の「甘えの構造」と呼ぶことにした。

 韓国の「甘えの構造」は日本とは異質だろう。日本人は過去の問題を水に流す傾向が強い。いい意味で諦観思想が強い。過去を絶対に忘れないユダヤ人とはその点は好対照かもしれない。韓国の「甘えの構造」は過去の支配者、すなわち、日本に対して最大限に発揮される。日本に対しては何をしても許される、といった病的な思考となってくる。

 韓国がその「甘えの構造」を米国に対し発揮すればどのような結果をもたらすか考えれば分ける。米国を含む欧米社会は言葉を重視する。だから、2か国間で締結した外交文書を突然破棄すれば、激怒し、必要ならば即制裁を科すだろう。米軍の哨戒機に対し韓国海軍艦艇が火器管制レーダーを照射した場合、米軍は躊躇することなく韓国艦艇にミサイル攻撃を加えるだろう。

 韓国側も米国と日本の違いを理解しているから、米哨戒機に向かって火器管制レーダーを照射するという愚行はしないだろう。ただし、日本の哨戒機に対しては何でもOKという「甘えの構造」が海軍関係者にも見られるとすれば、恐ろしいことだ。

文在寅大統領のルサンチマン(怨恨)

 スイスインフォから同国の高級紙ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング(略称NZZ)の日韓関係を報じた記事(「日本と何も共有したくない韓国」)が配信されてきた。NZZはスイスだけではなく、独語圏ではドイツ日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング(FAZ)と共に高い評価を受けている日刊紙だ。その独語圏最高峰の日刊紙が日本と韓国両国の関係をどのように論評しているかを知りたくて読んでみた。Patrick Welter記者の東京発のレポートだ。同記事の原題は「韓国は北朝鮮を友と宣言し、日本とは何も共有したくない」だ。

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▲反日政策に邁進する文在寅大統領(韓国大統領府公式サイト、2019年1月24日)

 記者は「韓国政府は北朝鮮に近づき、日本政府との確執を広げた」という。具体的には、韓国防衛白書から「北朝鮮は敵」という表現が削除される一方、日本を不信の目で見てきた。日本は3年前から韓国との2カ国関係について、「自由、民主主義、人権という基本的価値を共有」するとは受け取らなくなっている。

 文在寅大統領は南北融和政策を展開することで、「半島の緊張を解き、北の非核化を実現する」と考え、北朝鮮に対しては可能な限り柔らかな口調で接してきている。日本に対しては、「歴史問題に対する中途半端な対応」を機会ある度に批判し、旧日本軍の慰安婦問題や植民統治時代の元徴用工への賠償問題を蒸し返し、日本を糾弾。それに対し、日本側は1965年の日韓基本条約と共に結ばれた請求権協定でそれらの問題は解決済みとの従来の立場を繰り返している。

 日韓両国の緊張関係はここにきて軍事領域にも及ぶ。「昨秋、日本の海上自衛隊の旗をめぐる問題から、韓国・済州島で開かれた友好的な国際観艦式に参加しないという事態に発展した。先月からは韓国海軍が日本の哨戒機に火器管制レーダーを照射したかどうかをめぐり両国が争っている。韓国政府はこれを否認し、日本政府は韓国側に責任があるとの立場を貫く」と書き、両国の立場を記述している。ちなみに、文在寅大統領は3月1日の韓国臨時政府発足100年の記念式典を計画し、世界に向かって日本の過去を批判するプロパガンダ作戦を展開させる予定だ。


 興味深い点は、韓国の反日政策の背景についてだ。NZZ記者は「南北両国がこれほど団結できるのは占領時代の日本に対する怨恨( Ressentiments) 以外にない」と説明する。すなわち、日本への怨恨が南北の結束を一層強めているわけだ。

 「怨恨」(ルサンチマン)は単なる憎悪感情ではない。心理学者によると、「強者に対する弱者の憎悪や復讐衝動などの感情が内攻的に屈折している状態」という。

 それだけではない。「韓国政府は対日関係の緊張が続くように苦心している。なぜならば、経済減速を背景に、文政権の人気は急降下。日本に対する批判は、そこから目を反らすのに役立つからだ。同時に朝鮮半島の(南北)接近が日韓両政府の緊張関係を一段と厳しくする」と、韓国の北接近の背景を冷静に分析している。すなわち、文在寅大統領の反日政策は、)未箸隆愀原化に役立つ、国内の経済失政から国民の関心をそらす、という2点に集約できるわけだ。

 記者は「日韓とも北朝鮮の非核化という共通の目標を持つが、日本の安倍晋三首相は文大統領よりも強硬姿勢をとる。北朝鮮政府と政治・経済的に接近する準備を整える前に、数十年前に北朝鮮に拉致された日本人の行方を明らかにするよう求める。一方、文氏は対北経済制裁をできるだけ早く緩和し、開城工業地区を再開したい考えだ」と両国の指導者の対北政策の違いを明確に述べている。

 欧州では安倍首相を右派の民族主義者と受け取り、一部では危険な指導者扱いしているメディアもあるが、NZZは冷静に朝鮮半島の動向を分析している。特に、文在寅大統領の反日政策への分析はやはり鋭い。

 ところで、当方は文大統領の反日政策をフォローしていて合点がいかないことがあった。文大統領は金正淑夫人と共に敬虔なカトリック信者だ。文大統領夫妻は昨年、バチカンを訪問し、フランシスコ法王を謁見した。その一方、日本に対しては歴代大統領の中でも最も反日傾向が強いといわれる。

 「愛と許し」を説くイエスの教え(福音)を信じる文大統領は日本には恨みの権化のように振る舞う。当方の疑問は「文大統領自身、その矛盾を感じないのか」という点だ。政治家の「政教分離だ」という説明もあるが、文大統領の反日は一時的、暫定的なものではない。今回、NZZ記者の記事に接して、その疑問点が少し解けたように感じた。すなわち、「日本へのルサンチマン」だ。

 「ルサンチマン」(フランス語)という言葉を哲学の世界に使用したドイツ人哲学者、フリードリヒ・ニーチェ(1844〜1900年)は、キリスト教を「弱者による強者へのルサンチマンの反逆」と受け取っている。ニーチェの視点からみれば、文大統領がキリスト信者であるのは偶然どころか、最も適当な選択だったという点に気が付く。参考までに、韓国でキリスト教が広まったのは、韓民族が大国の支配を受けた時代が長く、ルサンチマンの土壌があったからだ。

 文大統領の反日は強者(日本)へのルサンチマンだ。韓国人が「歴史の正しい認識」論争で日本人に対して常に感じる「道徳的優位性」は、キリスト教初期時代、ローマ帝国の支配下にあったキリスト教徒がローマ人に対して感じた「道徳的優位性」と酷似している。

 イエスは「心の貧しい人たちは幸いである。天国は彼らのものである」と述べ、「義のために迫害されてきた人たちは、幸いである。天国は彼らのものである」(マタイによる福音書第5章)と激励している。貧しい弱者のキリスト信者が強者に対し「道徳的優位性」を感じることで信仰を高めていったように、韓民族(貧しい弱者)は植民統治する日本(強者)に対してルサンチマンを抱く一方、「道徳的優位性」を密かに誇ることで厳しい現実を乗り越えてきた。その意味で、文在寅大統領の反日は韓民族の歴史が生み出した所産だ。

 経済発展を遂げた韓国は今日、日本へのルサンチマンを維持するために腐心する一方、「道徳的優位性」が失われてきたことに焦りと不安を感じ出してきている。なぜならば、「道徳的優位性」に支えられないルサンチマンは自己破壊以外の何ものでもないからだ。

東欧「外国労働者は歓迎、難民拒否」

 欧州連合(EU)の難民・移民政策は大きな試練に直面している。特に、東欧のEU加盟国でヴィシェグラード・グループ(地域協力機構)と呼ばれるポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリーの4カ国はブリュッセルの難民分担案を拒否してきた。ハンガリーの中道右派のオルバン首相は、「中東アラブ諸国からのイスラム系難民の受け入れは欧州のキリスト教社会とは相いれない」とはっきりと主張。“オルバン主義”と呼ばれる厳格な難民政策はEU諸国の中でも拡大してきた。

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▲経済成長する一方、労働力不足が深刻なポーランド(ポーランド政府公式サイトから)

 ところで、独週刊誌シュピーゲル(2019年1月12日号)によると、ハンガリーと同様に難民受け入れを拒否してきたポーランドの中道右派「法と正義」(PiS)政権下で多数の外国人労働者が働いているという。経済協力開発機構(OECD)の統計によると、2016年には約67万人の外国人が労働許可書を得ている。その数は米国の同年の数より1万人多いという。すなわち、中道右派政権のポーランドで他の欧州諸国ではみられないほど多数の外国人労働者が働いているというわけだ。

 シュピーゲル誌によると、ポーランドで働く外国人労働者は主にベラルーシやウクライナ出身だ。彼らの多くは季節労働者で、短期労働許可書を得て工場やレストランの料理人、農業分野で働いているという。総数は200万人と推定されている。

 同誌は「ポーランドは、爆撃下に生き、迫害されてきたシリア難民の救済を拒否する一方、ウクライナやベラルーシから労働移民を受け入れている」と少々皮肉を込めて報じている。

 ポーランドだけではない。旧東欧諸国のヴィシェグラード・グループ4カ国でも程度の差こそあれ見られる現象だ。同4カ国はEU諸国の中でも高い経済成長率(平均約4%)を誇り、失業率は低い。欧米企業が労賃が安く、質の高い労働力が得られる4カ国に積極的に進出してきた結果、労働者不足が深刻となってきた。企業側は労働者の賃金を高めることで労働者を集めてきた。産業分野では年10%の賃金アップを提供するところもあるという。その結果、企業は競争力を失う。ポーランド内の優秀な労働者は英国など賃金の高い他のEU諸国に移民するため、国内の雇用市場は益々労働者不足が深刻化するわけだ。もちろん、外国直接投資にも影響が出てくる。

 ハンガリーで昨年12月12日、国民議会が改正労働法を採決し、雇用者側が労働者に要求できる残業上限を従来の年間250時間から400時間まで許容されるようになった。それ以来、同国各地で野党や労働組合が反対デモを繰り広げ、「改正労働法は労働者を奴隷のように働かせる悪法だ」と糾弾、改正法案を「奴隷法」と呼び、強く反対している。国民議会前で警察隊とデモ参加者の衝突が繰り返し起きている。

 オルバン政権は「企業や工場で労働者不足が深刻となってきている」と述べる一方、残業が増えることで労働者の手当てが増えるなどメリットが労働者側にもあると説明している。オルバン政権の場合、難民・移民の受け入れを拒否、外国人材の受けれには積極的ではないこともあって、労働者不足は国内の既成労働者の就業時間を増やす以外に解決の道は目下ないわけだ(「“ハンガリー式”労働者不足対策」2018年12月23日参考)。

 ポーランド政府次官が「わが国の繁栄は外国人移民に依存している」と現状を正直に説明したため、モラヴィエツキ首相から解任されたばかりだ。難民、外国人の受け入れを拒否してきたポーランド右派政権は、国民経済の発展が外国人労働者に依存している現状を認めたくないのだ。シュピーゲル誌は「移民なくしてグローバリゼーションは機能しない」と指摘している。

 日本で昨年末、労働者不足を解決するために外国人労働者の受け入れ枠拡大、それに関連して出入国管理法の改正案が成立したばかりだ。ドイツもEU域外出身の外国人労働者の受け入れ拡大に動き出し、外国人労働者枠を大幅に緩和する移民法改正案を閣議決定している、といった具合だ。

 外国人労働者の増加は、労働力不足の解消だけではなく、治安問題、文化慣習の軋轢などさまざまな社会問題とも関わってくるテーマだ。外国人労働者の受け入れを促進するためには、社会全体の受け入れ態勢の整備が急務だ。東欧4カ国の現状は労働力不足に直面している日本にも様々な教訓を与えるだろう。

新旧教会の「聖金曜日」巡る祝日論争

 キリスト教にとって最大の祝日といえば復活祭(イースター)だろう。復活祭はイエスの生誕日(クリスマス)より重要だ。イエスは十字架にかけられ殺害された3日後、復活し、離散した弟子たちを再び呼び集めた。復活祭を通じてイエスの教え(福音)はユダヤ教から離れ、キリスト教として世界に広げられていく。すなわち、イエスの復活からキリスト教が始まったわけだ。復活祭は移動祝日で今年は4月21日だ。

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▲「十字架のイエス」(2013年3月31日、バチカンの復活祭)

 イエスが十字架上で苦悶し、殺害された受難の日は聖金曜日(独Karfreitag)と呼ばれるが、世界最大のキリスト教、ローマ・カトリック教会(旧教会)は復活祭前の聖金曜日を祝日としていない一方、ルターから始まったプロテスタント教会(新教会)と古カトリック教会(復古カトリック教会)は教会祝日としている。すなわち、旧教会と新教会では聖金曜日への対応が異なっている。

 オーストリアはカトリック教国だから、聖金曜日(今年は4月19日)も平日通り勤労の日だ。オーストリアで新教徒の場合、雇用主に信者証明書を提出し、自分が新教徒であることを証明すれば、教会祝日として休むことができる。すなわち、カトリック教信者の労働者は「聖金曜日」も働く一方、新教徒は祝日として休むことができるわけだ。

 雇用者側が「オーストリアはカトリック教国で、聖金曜日は法定祝日ではないから、新教徒の君も出勤しなければならない」と要求した場合、プロテスタント信者の社員は出勤して働くが、後日、「休日にも関わらずに働いた」ということで雇用者にその手当を要求できる(労働者が休日に働いた場合、通常より高い日給を要求できる。または別の日に1日休日を得る)。カトリック信者の場合はそのような請求権はない。聖金曜日が通常の平日であり、祝日ではないからだ。

 ところが、ルクセンブルクの欧州司法裁判所(ECJ)は今月22日、 崟散睛貌」はプロテスタント信者だけがフリーでカトリック信者は働かなければならないこと、⊃袈掬未聖金曜日に仕事をした場合、雇用者に特別手当を要求できることは欧州連合(EU)の「差別禁止法」から判断しても不当である、という判断を下したのだ。

 もちろん、同判決を通じて、オーストリアの労働者は新旧教徒の区別なく聖金曜日を休みたければ、雇用者にその旨を通達すれば可能の道は開かれるが、全ての要求が受け入れられるかは別問題だ。オーストリア代表紙プレッセ(1月23日)は一面で大きく報道した。

 オーストリアでは年に13回の教会関連の法定休日がある。そこで「聖金曜日」も祝日とすれば、旧教徒と新教徒の間の差別はなくなるが、新たな問題が生じる。賢明なカトリック教徒の労働者は雇用者側に「自分は過去、聖金曜日も仕事をしてきたが、手当はもらわなかった」と主張し、過去の未払い分を要求するかもしれない。オーストリアではこの種の時効は3年だから、時効前ならば労働者は雇用者に支払いを請求できる。大企業となれば、社員の数も多いから、その支払額も少なくない。だから雇用者側も「聖金曜日」の一律祝日化には抵抗が出てくる。キリスト教関連の祝日問題でも経済問題が絡んでくるとにわかに複雑となり、解決も容易でなくなるという典型的な例だ。

 キリスト教とは無関係の読者からは「どうして新旧両教会は聖金曜日の対応で異なっているのか」という素朴な疑問が飛び出すだろう。多分、両教会の信仰の重点の違いとでもいえるかもしれない。

 宗教改革者、マルティン・ルター(1483〜1546年)はイエスの十字架上の受難によって人間の罪が解放されたという「十字架の神学」を主張した(ルターは当時、バチカンの行き過ぎた強権に不満を持っていた)。一方、カトリック教会ではイエスの十字架上の受難より、十字架から復活したイエスの勝利こそ称えるべきだという「栄光の神学」により力点を置いている。換言すれば、「同伴者として神」と「全能の神」とでもいえるかもしれない。

 聖金曜日をどのように受けとるかは、単に祝日論争ではなく、イエスの降臨目的、33歳で十字架で亡くなったイエスの生涯をどのように解釈するかなどのキリスト教神学の根本的なテーマにかかわってくる。

 カトリック教国のオーストリアでも年々、信者が減少し、社会の世俗化が急速に進んでいる。50%以上の国民がカトリック教会の信者ではなくなった時、同国でこれまで施行されてきた教会関連の年13日間の祝日はどうなるのだろうか。それとも「無神論者の日」とでも呼ぶ新たな祝日を新設し、廃止された教会祝日の差し替え休日とするだろうか。いずれにしても、大多数の労働者にとって教会関連であろうが、そうでなかろうが、1日でも休日が多いほうが嬉しい。

 最後に、オーストリアの商工会議所や産業界からは教会関連祝日がこれ以上増えることに強い反対がある。例えば、12月8日は教会の祝日「聖母マリアの無原罪の御宿り」だ。クリスマスシーズン中ということもあって、教会の祝日(休日)を返上してオープンするスーパーや百貨店が増えてきている。

ベルリンで3宗派の「一つの家」計画

 信仰の祖「アブラハム」からユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教の3つの唯一神教が誕生した。発生順にいえば、キリスト教とイスラム教はユダヤ教の教えを土台としている。「モーゼの十戒」の教えは表現の違いはあるがキリスト教やイスラム教の聖典にも記述されている。

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▲ユダヤ教、キリスト教、イスラム教を内包した「一つの家」の草案(BBCサイトから)

 ユダヤ教の「ヤウエ」、キリスト教の「父」、そしてイスラム教の「アラー」もその表現は異なるが、3大唯一神教はこの宇宙を含む森羅万象を創造した神を崇拝し、偶像崇拝を忌み嫌い、多神教を否定している。

 南北に分割された後、生き延びた南朝ユダがペルシャの王クロスの恩寵を受けてエルサレムに帰還した後、律法を中心とした今日のユダヤ教が誕生した。2000年前にユダヤ社会に生まれたイエスは選民ユダヤ民族から受け入れられず、十字架上で亡くなったが、復活後、福音の教えはローマに伝えられ、392年にローマでキリスト教は国教と認められ、世界に拡大されていった。ローマ・カトリック教会を頂点に今日、キリスト教は約300のグループに分かれている。

 一方、570年頃に生まれたムハンマドは神の啓示を受け、教えを伝えていくが、メッカから追放された後、教えは戦闘的になっていく。ムハンマドの後継者問題がきっかけでスンニ派とシーア派に分裂していったのは周知の事実だ。

 歴史を振り返ると、3宗派間の対立が理由で紛争や戦争は現在まで繰り返されてきている。十字軍戦争しかり、イスラム過激派テロしかり、3宗派は自身が信じる神を掲げて、他の神を信じる者たちを追放し、弾圧してきた。旧約の神は“妬みの神”といわれ、“愛の神”を唱えるキリスト教も他宗派との相克を繰り返してきた、といった具合だ。

 そこで原点に返ろう、という動きは過去にもあった。最近では、世界最大宗派、ローマ・カトリック教会の最高指導者フランシスコ法王はパレスチナ自治政府代表のアッバス議長とイスラエルのペレス大統領をローマに招き、和平実現のために「祈りの集い」を開いたことがある。

 サウジアラビアのアブドラ国王の提唱に基づき2013年11月、ウィーンに事務局を置く国際機関「宗教・文化対話促進の国際センター」(KAICIID)が設立された。キリスト教、イスラム教、仏教、ユダヤ教、ヒンズー教の世界5大宗教の代表を中心に、他の宗教、非政府機関代表たちが集まり、相互の理解促進や紛争解決のために話し合う世界的なフォーラムだ。

 また、世界的神学者ハンス・キュンク教授は、キリスト教、イスラム教、儒教、仏教などすべての宗教に含まれている共通の倫理をスタンダード化して、その統一を成し遂げる「世界のエトス」を提唱している。それらの試みはある一定の成果をもたらしたことは事実だが、残念ながら宗教・宗派の壁をブレークスルーするほどのインパクトには欠けていた。

 そこで今、3宗派、ユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教を一つの屋根のもとに集めた「一つの家」建設計画がドイツの首都ベルリン中心部のペトリ広場(Petriplatz)で進行中だ。具体的には、ユダヤ会堂(シナゴーク)、キリスト教会、そしてイスラム寺院の各宗派の建物機能を象徴的に内包し、互いに中央集会所に連結された「一つの家」を建設しようという、かなり野心的なプロジェクトだ。

 「一つの家」建設計画の発端は、ベルリンのペトリ広場で中世以降の複数の教会の遺跡が発掘されたことから始まる。その遺跡のあとに宗教間の対話と共存を象徴する建物「一つの家」(House of One)を建設する計画(ペトリ広場の祈りと学ぶ家)が9年前、宗教関係者から出てきた。最初の予定より少し遅れたが、2020年4月14日に「一つの家」の礎石を行うことになっている。

 その日は、ドイツの啓蒙思想家レッシングの劇詩「賢者ナータン」(Nathan der Weise)がベルリンで初演された日(1783年4月14日)に当たる。同戯曲は宗教間の寛容と対話を描いた寓話だ。ゴットホルト・エフライム・レッシング(1729−1781年)は、ドイツの詩人、劇作家、思想家。ドイツ啓蒙思想の代表的な人物だ(「『賢者ナータン』が直面した課題」2016年4月25日参考)。

 「一つの家」は3宗派の基本的な要求を満たしていなければならない。例えば、ユダヤ教徒の清浄な食事典範にかなっていなければならない、といった具合だ。建築年数は3年、工費4300万ユーロ以上と見積もられている。ただし、「一つの家」の建設に最終的ゴー・サインが出るまでにはまだ紆余曲折があるかもしれない。

 同じ屋根の下に住めば、これまで気が付かなかった相手の良さを発見できる一方、相手の欠点も見えてくる。スープの冷めない距離で付き合ってきた時とは違った戦いが出てくるかもしれない。「一つの家」が“積み木箱”のように強風が吹けば壊れてしまうハウスとなるか、嵐にも負けない強固なハウスとなるかは、そこに住む住人たちの責任にかかってくる。「一つの家」プロジェクトが実現されることを期待したい。

独でトランプ氏の政策に同調の動き

 ドイツ日刊紙「南ドイツ新聞」が21日報じたところによると、ブラウンシュヴァイクのドイツ連邦航空局(LBA)が今週中にイランの第2の航空会社、民営航空であるマーハーン航空のドイツ乗り入れを禁止する予定だ。テヘランのエマーム・ホメイニー国際空港を拠点空港としているマーハーン航空は週に3便、テヘランからデュッセルドルフへ、1便はミュンヘンに飛んでいる。ドイツ外務省は同報道の真偽の確認を避けているという。

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▲イラン第2の航空会社「マーハーン航空」のドイツ乗り入れ禁止?(マーハーン航空の公式サイトから)

 マーハーン航空は2011年から米国の制裁リストに挙げられている。米国は同盟国に対しても同様の処置を取るように強く要請してきた。同航空のトップはハミッド・アラブネドシャッド・チャノーキ氏(Hamid Arabnedschad Chanooki)でイラン革命防衛隊と繋がりのある人物だ。米国の情報によると、マーハーン航空はシリアに武器や弾倉を運送してきた。

 欧州連合(EU)は1月9日、イランの情報機関に対し、ヨーロッパの地で暗殺計画を企てたという理由で制裁を科す決定を下した。欧州理事会の発表によると、「イランの情報機関と2人のイラン国籍の人物がヨーロッパで暗殺計画を企てていた」という理由で、財産その他の資産を凍結する決定を下したという。マーハーン航空のドイツ乗り入れ禁止はこれまでにない厳しい制裁だ。欧米諸国の情報機関によると、イランは過去、オランダで2件の殺人を犯し、パリやデンマークで殺人計画を練っていたという。

 ところで、トランプ米大統領は昨年5月8日、イラン核合意離脱を表明した。核協議はイランと米英仏中露の国連安保理常任理事国にドイツが参加してウィーンで協議が続けられ、2015年7月、イランと6カ国は包括的共同行動計画(JCPOA)で合意が実現した。

 トランプ米大統領はイラン核合意から離脱を表明する一方、対イラン制裁を再施行。それに対し、ドイツや他の交渉国は強く反発。ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)も「イランは核合意の内容を遵守している」(天野之弥事務局長)として、米国の核合意離脱を批判してきた。それに対し、トランプ大統領は、「核合意には抜け道がある。それだけではない。イランはミサイル開発を継続し、世界各地でテロ活動を支援している」と説明してきた。

 核協議に参加したドイツが今回、欧州でイラン情報機関の暗殺計画とその支援の容疑があるとしてイラン第2の航空会社のドイツ乗り入れを禁止する制裁を科すならば、米国側の主張を追認することになる。

 それだけではない。米国を皮切りに、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、日本らの政府が中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)社製品を政府調達から排除する動きが広がってきた(「東欧で“ファーウェィ締め出し”拡大」2019年1月15日参考)。

 トランプ米政権は「ファーウェイは中国の情報機関とつながっている」として、セキュリティーの理由からファーウェイの使用禁止を欧州の同盟国にも強く呼びかけてきたが、ドイツはこれまで消極的だった。そのドイツが今年に入り、高速大容量の第5世代(5G)移動通信システムの国内インフラ整備にあたり、ファーウェイの参入を排除する方向で検討中というのだ。

 国際条約を次から次へと離脱する一方、米国ファーストを実施、保護貿易主義的な姿勢を示すトランプ大統領に対し、メルケル政権は批判的なスタンスだったが、ここにきて相次いでトランプ氏の政策に同調する動きを見せているのだ。

 独週刊誌シュピーゲル(2019年1月12日号)は駐ベルリンの新任米国大使、リチャード・グレネル大使(Richard Grenell)のプロフィールを紹介していたが、その記事の見出しは「小さなトランプ」だ。新米大使の政治信条は文字通り超保守。米国の新任大使がベルリンに赴任すれば、ドイツの政治家や政党代表はいそいそと挨拶に大使館を訪問するが、この新任の米大使を訪ねてくる政治家、外交官は少ないという。トランプ嫌いのドイツで「小さなトランプ」を訪問する政治家、外交官は少なく、「米大使はベルリン政界で孤立している」(シュピーゲル誌)という。

 トランプ嫌いのシュピーゲル誌だから、米大使に対しても批判的な人物評になってしまうのだろうが、メルケル政権がイランのマーハーン航空のドイツ乗り入れ禁止、ファーウェイの政府機関の調達禁止などトランプ米政権の政策に呼応する動きを見せてきたことは事実だ。シュピーゲル誌はメルケル政権下で見られだしたトランプ氏の政策に同調する動きを過大報道したくないのだろう。

 メルケル政権が変わったのか、欧州を取り巻く政治情勢に変化がみられるのか。それともトランプ大統領の欧州アプローチがソフトとなってきたのだろうか。新しい変化は欧米の結束を再び緊密にする前兆か、単なる偶然に過ぎないのか、判断を下すにはもうしばらく時間が必要だろう。
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