ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2019年02月

法王周辺にいる「悪魔の手先」たち

 バチカンで世界から司教会議議長たちが結集して聖職者の未成年者への性的虐待問題の対策が話し合われてからまだ2日も経過しない26日、オーストラリアのメルボルンからジョージ・ペル枢機卿(George Pell)が未成年者への性的虐待で有罪判決を受けたというニュースが流れてきた。

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▲バチカンで行われた「世界司教会議議長会議」=22日(UPI)

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▲聖職者の性犯罪の対策に苦闘するフランシスコ法王(バチカン公式サイトから)

 同判決は昨年12月11日に既に決定していたが、他の容疑に対する審議が継続中だったために公表は禁止されてきた。枢機卿の1970年代の他の性犯罪容疑について裁判所が起訴を諦めたこともあって、今回発表されたわけだ。この結果、ペル枢機卿は27日、未決拘留された。刑期は3月13日に決定される予定だ。有罪判決を受けた5件の刑期を合わせると、ペル枢機卿は50年間、刑務所に拘留されることになる。すなわち、バチカンのナンバー3だったペル枢機卿は刑務所でその生涯を終えることになるわけだ。ペル枢機卿の弁護士ポール・ギャルバリィ氏によると、枢機卿 は判決を不服として控訴するという。

 ペル枢機卿(77)はフランシスコ法王の信頼厚い人物だ。法王が2014年に新設した財務事務局長官に就任し、法王が世界から選出した9人の枢機卿評議会(C9)の1人だった。そのペル枢機卿がメルボルン大司教区の司教補佐時代の1996〜97年、12歳と13歳の教会合唱団の少年たちに性的虐待を繰り返していたことが判明し、2017年からメルボルン裁判所で公判が開始され、5項目の容疑に対し陪審員全員が有罪判決を下した。

 ペル枢機卿に対しては性犯罪の疑いが久しく流れていた。ペル枢機卿に性的虐待された2人のうち1人は2014年にヘロイン中毒で死去している。家族関係者によると、「息子は自殺した」と主張している。犠牲者は性的虐待の後遺症に悩んでいたが、彼の話を誰も信じなかったという。他の犠牲者は長い間沈黙してきたが、2015年、警察に行き、枢機卿による性犯罪を告発したことで、ペル枢機卿の性犯罪が明らかになった経緯がある。

 有罪判決を受けたペル枢機卿は全く動揺した表情をみせず、記者団の質問に対しては一切答えなかったという。ペル枢機卿が裁判所から出てきた時、抗議する市民から「化け物」、「地獄へ行け」と言った批判の声が飛び交った。

 オーストラリア教会司教会議議長のマーク・コラリッチ大司教は、「オーストラリア国民、世界にとってショックだ。司教たちも同様だ。法は全ての人々に平等だ。公平な判決が下されることを願うだけだ」と述べている。

 一方、バチカンは「心痛いニュースだ」と述べ、バチカン・ニュースも速報で報じた。ペル枢機卿はローマ・カトリック教会の聖職者の中で性犯罪で裁判所に有罪判決を受けた最高位の聖職者となる。それもフランシスコ法王の最側近だけに、法王にとっても大きなダメージだ。ペル枢機卿の有罪判決が最終決定すれば、フランシスコ法王は財務事務局長官の後継者を選出しなければならない。

 フランシスコ法王は24日、司教会議議長会議で、「教会は今後、聖職者の性犯罪に対して厳しく処罰する。性犯罪を犯す聖職者は悪魔の手先だ」と強調し、性犯罪の撲滅に強い決意を表明したが、法王の周辺にはその「悪魔の手先」となっている高位聖職者がたむろしているのだ。

 フランシスコ法王の友人でもあった米ワシントン大司教区のテオドール・マカーリック前枢機卿(88)に対し、バチカン教理省は16日、未成年者への性的虐待容疑が明確になったとして、教会法に基づき還俗させる除名処分を決定したばかりだ。枢機卿だった聖職者が性的虐待の罪で還俗の処分を受けるのは初めてだ。フランシスコ法王は法王就任直後、バチカン改革を推進するために9人の枢機卿を集めた枢機卿評議会を新設し、教会内外に改革刷新をアピールしたが、9人の枢機卿のうち、今回有罪判決を受けたペル枢機卿のほか、ホンジュラスのオスカル・アンドレス・ロドリグリエツ・ マラディアガ枢機卿、サンチアゴ元大司教のフランシスコ・エラスリス枢機卿の3人の枢機卿が性犯罪や財政不正問題の容疑を受けている、といった具合だ。

 フランシスコ法王の側近周辺に「悪魔の手先」がたむろしているのならば、法王がいくら声高く叫んだとしても聖職者の性犯罪は撲滅できないだろう。

金正恩氏がトランプ氏より有利な点

 「選挙」とそれによって選出された議員から成る「議会」がなければ、その国の政情はどのような状況だろうか。アドルフ・ヒトラーなど独裁的指導者が誕生する危険性が出てくるという声があるが、多くの過去の独裁者は「選挙」や「議会」を通じて民主的プロセスを経過しながら生まれてきた(例外・共産主義革命の結果、独裁国家が誕生する)。だから、「選挙」と「議会」がないと独裁制政治が復活するという懸念は正しいとはいえない。

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▲共同宣言に署名する金正恩委員長とトランプ米大統領(2018年6月12日、シンガポール CNNの中継から)

 ドイツの週刊誌シュピーゲルによると、オットーブレンナー財団が実施した18歳から29歳までの青年層を対象に実施した世論調査で旧東西両ドイツの青年たちは現行の民主主義政治に失望し、強い指導者の出現を願っているという結果が明らかになった。旧東独で26%、旧西独で23%の青年が強い指導者を願っている。すなわち、4人に1人のドイツの青年たちは強い指導者を期待しているわけだ。

 なぜ突然、そのようなことを考えたかを以下、説明する。

 トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の第2回目の米朝首脳会談が今日(27日)から2日間の日程でベトナムの首都ハノイで開催されるが、前者は民主的な「選挙」で選出された指導者であり、自身の政策、例えば、対メキシコ国境沿いに壁を建設する政策を実施するためには上院と下院の議会で喧々諤々の激しい討論を通過しなければならない。一方、後者は3代続く世襲独裁国家のリーダーだ。任期もなければ、選挙もないから、金正恩氏は自身の政策を100%実行に移すことができる。すなわち、米朝首脳会談は、「選挙」と「議会」の監視と制限を受ける大統領と、「選挙」も「議会」の拘束もない独裁者との会合といえるわけだ。

 それでは交渉ではどちらが有利だろうか。前者のトランプ氏は世界最強国家の大統領だ。米国抜きでグローバルな問題を解決できないから、その発言力は絶大だ。しかし、任期4年間が過ぎれば、再選されない限り、その翌日からタダの人。少なくとも前大統領という名誉職に甘んじなければならない。トランプ氏は当然、2020年の後も米大統領の地位を享受したいと願うだろうから、米国民の意向が気になる。選挙に勝利しなければならないからだ。だから、外交ポイントを稼ぐ必要も出てくる。

 北朝鮮は国民が3食も十分に食べれないほど貧困に苦しんでいるが、独裁者金正恩氏は核兵器を製造して隣国を脅迫している。金正恩氏にとって自身の金王国を維持することが全てであり、それ以外は2次的な価値でしかない。

 「トランプ氏と金正恩氏の交渉でどちらが有利か」の答えは小国で最貧国の北朝鮮にあるといわざるを得ない。国力と巨額の資金を投入して製造した核兵器と長距離ミサイルを交渉の武器に、「選挙」と「議会」という2つの大きな制限下にあるトランプ氏と交渉に臨むわけだ。

 米国はその軍事力を使えば北朝鮮を一挙に破壊することはできる。その力を持っている米国の大統領が、国民に3食を与えることができない北朝鮮の独裁者に交渉では守勢を余儀なくされるということは少々理屈に合わないが、強国は民主主義の世界では常に強いとは言えないのだ。

 米大統領は過去、北朝鮮と核問題で交渉を繰り返してきたが、北側は交渉で常に旨味だけを得て、核開発計画は継続してきた。そして現在、北は核保有国を宣言している。

 実業界出身のトランプ大統領は交渉(ディ―ル)には自信があると豪語してきたが、「選挙」と「議会」の拘束から完全にはフリーでないから、同盟国の安全を脅かす合意を金正恩氏と締結する危険性は考えられる。例えば、長距離ミサイルの破棄と引き換えに、対北制裁の一部解除で両者が合意したとしても驚かない。金正恩氏にとって制裁解除が目的であり、トランプ氏にとっては米国の安全保障が最優先だ。具体的には、北からの核搭載長距離ミサイルの脅威がなくなれば、トランプ氏にとって大きな外交実績となる。

 北の指導者が米国の大統領より知恵深く、賢明だからではない。民主主義を標榜する米国の大統領は独裁国家の指導者との交渉では不利だということだ。その主因は、米大統領は民主主義のコントロールメカニズムともいうべき「選挙」と「議会」の洗礼を受けなければならないからだ。独裁者は10年先を考え、民主選出の米大統領は1、2年後の次期選挙に縛られているのだ。

 ちなみに、ドイツの青年たちが「議会」と「選挙」で選出された指導者ではなく、それらの制限から自由な強い指導者を願っているのは当然かもしれない。時代の大きな曲がり角に接している今日、時代の要望に応じていくためには「選挙」と「議会」のブレーキを恐れる必要のない強い指導者が願われるからだろう。ただし、強い指導者=独裁者ではないが、強い指導者が独裁者の道を歩みだす危険性は排除できない。古代ギリシャの哲学者プラトンは“哲人政治”を提示し、哲人の教育育成に努力したが、哲人政治の夢を実現できずに終わっている。21世紀の今日、どのような政治形態が求められているのだろうか。大きな課題だ。

聖職者の性犯罪は撲滅できるか

 聖職者の未成年者への性的虐待への対策をテーマにフランシスコ法王の掛け声でバチカンで開催されていた「世界司教会議議長会議」(通称「アンチ性犯罪会議」)は24日、ローマ法王フランシスコの閉幕の演説で4日間の全日程を終えた。

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▲バチカンで開催された聖職者の性犯罪に関する「世界司教会議議長会議」風景(バチカン法王庁の公式サイトから)

 同会議には世界から114人の司教会議議長のほか、修道院や教会関係者約70人が参加した。会議を総括した最終文書は作成されず、フランシスコ法王は、「聖職者の性犯罪予防」と「加害者の処罰」に関する司教への指針の見直しなどを約束して幕を閉じた。

 聖職者の未成年者への性的虐待は今始まった問題ではない。アイルランド教会、ドイツ教会、米国教会、オーストラリア教会、ポーランド教会など欧米教会等で発覚した聖職者の性犯罪件数は数万件といわれているが、その多くは既に時効となっている。しかし、21世紀に入っても聖職者の性犯罪は起きている。ただ、教会上層部が性犯罪を犯した聖職者を人事という形で隠蔽してきたこともあって、教会法に基づく公式の裁きを受けた件数は少ない(「バチカンの『積弊清算』の行方」2019年2月19日参考)。

 フランシスコ法王は会議の開催前、司教会議議長に聖職者の性犯罪の犠牲者と会い、その苦境を聞いてくるようにと課題を与え、会議初日の21日には協議のために21項目の枠組みを明らかにし、「世界は聖職者の性犯罪を糾弾するだけではなく、その犯罪に対する具体的な対応を求めている」と警告を発してきた。

 法王は最終日の演説では、「われわれは教会を守ることを最優先するメンタリティから脱皮し、犠牲者をまず考えなければならない。教会は聖職者の性犯罪に対し厳しく対応し、聖職者の性犯罪を隠蔽することに終止符を打つ」と約束したが、具体的にどのような対応をするのかについて、何も語らなかった。

 その一方、フランシスコ法王は、「性犯罪は教会だけの問題ではなく、社会が直面している深刻な問題だ。家庭やスポーツの世界でも発生している」と述べ、聖職者による性犯罪に対する批判を弁明することも忘れなかった。ただし、法王は、「性犯罪を犯す聖職者は悪魔の手先だ。教会での性犯罪はもっと悪い」と付け加えている。

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▲聖職者の性犯罪に抗議する犠牲者団体(Ending Clergy Abuse(ECA)のHPから(2019年2月24日、バチカンで)

 「アンチ性犯罪会議」の動向を追うためにバチカン入りした犠牲者団体は連日、サン・ピエトロ広場でデモを行った。聖職者による犠牲者団体は、バチカン会議が性犯罪を犯した聖職者やそれを隠蔽した聖職者の名前を公表し、彼らを教会から追放することを期待していたが、具体的な決定もなく会議が終わったことに失望し、「法王の演説は空言だ」といった怒りの声すら聞かれた。

 フランシスコン法王の閉幕の演説に対し、ドイツのミュンスター大学教会法研究所のトーマス・シュラー所長は「失敗だ」と断言している。「フランシスコ法王はチャンスを逸した。法王は教会歴史で改革者としてではなく、既成権力の保護者として名を残すことになった。法王は性犯罪をグローバルな社会現象と評し、聖職者の性犯罪への教会の責任について何も言及しなかった」と総括している。

 ドイツの犠牲者保護団体のマティアス・カチュ氏は、「法王は性犯罪対策では先頭に立って戦うと表明しながら、責任や過ちがどこにあるのかを明示せず、具体的な対応策を提示せず終わった。法王の演説は恥ずかしい」と酷評している。

 また、イタリアの聖職者による性犯罪の犠牲者ネットワークは、「バチカンの会議が未成年者への性的虐待問題で明確な戦略を打ち出すものと期待していたが、司教議長たちは何も決めなかった。彼らへの信頼はもはやゼロだ」と述べている。

 聖職者から性的虐待を受けた元修道女と会談したオーストリアのカトリック教会司教会議議長、シエーンボルン枢機卿は会議開催前、「会議にはあまり期待していない。聖職者の性犯罪が教会内で行われたという事実に対し、司教たちが共通認識を持つことができれば成功だ」と述べていた。なぜならば、聖職者の性犯罪について、アフリカ教会やアジア教会では、「それは欧米教会の問題に過ぎない」といった声が支配的だったからだ。

 ちなみに、ドイツのカタリナ・バーリー法相は世界的に聖職者の性犯罪が起きているカトリック教会に対し、「個々の性犯罪に対し司法と密接に協調すべきだ」と求めている。

 バチカンは16日、「世界司教会議議長会議」開催5日前、カトリック教理の番人・バチカン教理省(前身・異端裁判所)が米ワシントン大司教区のテオドール・マカーリック前枢機卿(88)に対し、未成年者への性的虐待容疑が明確になったとして、教会法に基づき還俗させる除名処分を決定した。枢機卿だった聖職者が性的虐待の罪で還俗の処分を受けるのは初めてだ。そして今回、世界の司教会議議長を招集して「アンチ性犯罪会議」を開催したわけだ。

 バチカンは聖職者の未成年者への性的虐待問題を深刻に受け止めていることを内外にアピールしたが、「バチカン主催の『アンチ性犯罪会議』はバチカンが真剣に性犯罪問題に取り組んでいることを示すアリバイ工作に過ぎなかった」という辛辣な批判も聞こえる。

 聖職者による性犯罪の犠牲者にとって、フランシスコ法王との会合も実現できず、不満足な会議に終わったが、今回の司教会議議長会議の開催が聖職者の性犯罪対策で成果をもたらすか否かは教会の今後の歩み次第だろう。バチカン放送によると、バチカンは近い将来、「未成年者の保護のための法」の施行、聖職者の性犯罪対策で苦慮する司教区へ「支援グループの派遣」、「未成年者の保護に関するパンフレット配布」などを実施するという。

 いずれにしても、聖職者の未成年者への性的虐待問題の対応を協議する「アンチ性犯罪会議」が第2回、第3回と今後も開催され、会議が定期化されることだけはご免こうむりたい。

海外に住む日本人の「日本嫌い」

 米国出身の日本文学者、ドナルド・キーン氏が24日亡くなった。96歳だった。日本文学が世界で読まれるようになった背景には同氏の功績があったことは疑いない。川端康成や谷崎潤一郎、三島由紀夫ら文壇の大家と交流し、日本文学を英訳して世界に紹介していった。

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▲ドイツ語圏最古、最大の総合大学、ウィーン大学の正面(2013年4月撮影)

 時事通信のキーン氏の功績を紹介する記事を読みながら、日本人はキーン氏に感謝してもしきれない恩を受けたという思いが湧いてくる。日本語は異国人にとって学ぶにも容易ではない言語だ。その日本語、日本文化にキーン氏は惹かれ、最後は日本国籍を取得し、日本の土になった。

 ところで、海外には日本学科を開講している大学がある。そこには現地の教授が学生たちに日本語やその歴史、文化を紹介する一方、現地在住の日本人の先生がその補助をしている。ドイツ語圏最古・最大の総合大学、ウィーン大学にも日本学科がある。

 1980年代、90年代にかけ、ウィーン大学日本学科には2人の教授がいた。1人は主任のS教授、もう1人はP教授だ。S教授は授業では日本社会の公害が如何にひどいか、社会の腐敗などを紹介し、日本を厳しく批判していた。一方、P教授は江戸時代の日本文学を紹介していた。

 S教授と会見し、日本学科について取材したことがあった。同教授の口からは日本社会、文化の良さについての話は飛び出さなかった。「教授は本当は日本が好きではないのだ」と直感した。好きでもない日本について教授は学生に語っていたのだ。

 一方、P教授は日本が大好きで、その文化を学生に伝えたいという思いが強かった。大学の関係者から受講生数を聞いたところ、S教授の講義を聞く学生数は少なく、P教授の講義を受講する学生数の方が圧倒的に多かったことを聞き、納得した。日本学科に籍を置く学生は日本に関心をもち、その言語、文化を学びたいという思いで受講しているのであって、特定の政治思想ではないからだ。

 ウィーン大学日本学科は当時、左翼関係者で牛耳られていた。S教授は社会党(現社会民主党)出身の左翼知識人で、奥さんは社会党機関紙の責任者だった、日本学科の関係者には左翼活動家が多かった。彼らの中には日本赤軍と関係を有する者もいた。日本学科が入っている建物に入ると、その壁には安保反対といったパンフレットが至る所に貼ってあった。

 日本の大企業は海外の大学の日本学科を支援するためにスポンサーとなるケースが多いが、ウィーン大学の日本学科を支援する日本企業はなかった。ウィーン大学日本学科が日本の左翼活動家の拠点となっていることを知っていたからだ。

 日本語、日本文化といった異国の分野に関心をもち、それを学ぶ教授、学生には少なくとも日本に対する関心と愛があると考えるが、ウィーン大学日本学科は例外だった。日本を愛し、その一員となるために国籍を取得し、そして生涯を終えたキーン氏とは180度異なる人々だった。

 海外に住む日本人の中にも「日本嫌い」が結構いる。彼らは安倍晋三政権を批判し、現地人に日本の悪口をまき散らす。もちろん、日本人だけではない。ドイツには親北派の韓国人が多く住んでいたが、彼らはソウルの政府を批判し、欧州で北朝鮮とも接触し、密かに訪朝した韓国人もいた。

 海外に住む多くの日本人は、母国を誇り、母国の良きニュースが届けば自分のことのように嬉しくなり、悪いニュースが流れてくれば、首を傾げ、懸命に弁明しょうとする。日本に住んでいた時は愛国心とは無縁だったが、海外に住むようになって国のことを思う心が生まれてきた、という日本人が多い。一方、少数派だが、海外に住む日本人の中には、「日本嫌い」がいる。

 日本の国内で安倍政権や社会の在り方を批判する国民はいるし、民主主義社会では当然のことだが、海外居住の日本人から「日本嫌い」の声を聞くと、当方などは少々戸惑いを覚える。その「反日」の中に、母国から受け入れられず、追われた者の強烈な恨み、つらみを感じることもある。

 異国の日本で日本人以上に日本を愛し、日本の土となったキーン氏には驚きと感動を覚える。同氏の冥福を祈る。

成長を妨げる「犠牲者メンタリティ」

 米国のテレビ俳優ジャシー・スモレット(Jussie Smollett)は先月、2人の男に襲撃され、負傷した。スモレット(36)は警察に通達した。彼の証言によると、2人は彼を殴打しながら、「黒人」「ホモ」など罵声を飛ばし、彼に向かって「Make America Great Again」と叫んだというのだ。

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▲米国のTV俳優、ジャシー・スモレット(ウィキぺディアから)

 時間の経過と共に、別の事実が浮かび上がってきた。スモレットはFoxの人気テレビ番組「エンパイア」(Empire)で活躍していたが、どうやらギャラ問題で不満があったという。「エンパイア」は今、5シーズンを撮影中だ。俳優関係者の話ではスモレットのギャラは1本10万ドルだったとみられるが、彼は自分の市場価格をアップさせるために、襲撃を演出し、2人の男性を雇い、彼を襲撃させ、「ホモだ」、「黒人だ」と叱咤させたというのだ。

 彼は襲撃直後、警察官の事情聴取に、「私は彼らを憎まない。私の愛は憎悪の影響を受けない」と述べたという。このニュースが広がると、スモレットへの同情と共感の声が高まり、犯人が白人でトランプ大統領支持者ではないかという憶測まで流れ、民主党を支援する俳優が多いハリウッドでは一躍大きな話題となった。スモレットを支援する声明を発表する俳優も出てきた。彼らにとって、スモレット襲撃事件はトランプ政権を批判する絶好の機会となった。

 ここまではスモレットの計算通りだったが、彼を襲った犯人が逮捕され、襲撃が演出だったことが判明、スモレットも偽証罪で逮捕された。スモレットは、「自分は黒人であり、しかもゲイ(スモレットは同性愛者)だ。その自分が社会の多数派の白人、それもトランプ支持者に襲撃されたというニュースが流れれば、話題となり、自分の名前は一躍有名になり、ギャラもアップするだろう」と考えたのだろう。残念ながら、彼の計算は水泡に帰し、刑務所送りとなったわけだ。

 米国では少数派の権利を擁護する人種差別反対運動や性少数派(LGBT)擁護が広がっている。特に民主党は、「黒人は常に犠牲となっている」と口癖のように主張してきた。だから、多くの黒人は、「自分たちは犠牲者だ」と信じている。「自分はあなたよりもっと犠牲となった」と、犠牲者争いのような状況すらみられるという。

 民主党は自身の支持基盤である黒人が自立し、犠牲者と考えなくなることを最も恐れている。カナダのトロント大学心理学教授ジョーダン・ピーターソン 氏(Jordan Peterson )は、「自身のことに責任を持て」と主張し、「全てのことを社会のせいだと詭弁を弄するべきではない」と強調する。ピーターソン教授は欧米保守派青年層から圧倒的に人気のある学者だ。

 一方、米国の黒人女性活動家キャンディス・オーエンスさん(Candace Owens)は「民主党は黒人に対し、『君たちは人種差別の犠牲者だ』と洗脳し、黒人が犠牲者メンタリティから抜け出すことを妨げている」と警告している。

 また保守派ラジオ放送の黒人パーソナリティのラリー・エルダー氏は、「黒人は75%が父親がいない家庭で成長してきている。すなわち、家庭の崩壊だ。だから、人種差別が問題というより、家庭の崩壊が最も大きな問題だ」と指摘、家庭崩壊を助長するような政治を暗に批判している。

 欧米社会では弱者、犠牲者を過大に擁護する傾向がある。その結果、そのステイタスに甘んじる少数派が増えてきている。社会学者はそれを「犠牲者メンタリティ」と呼んでいる。

 犠牲者メンタリティは「われわれは多数派によって迫害され、虐待されてきた。全ての責任は相手側にある」という思考パターンだ。フェミニズム、ミートゥー運動もその点、同じだ。しかし、それが行き過ぎると、弱者、少数派の横暴となる一方、強者=悪者説が広がり、強者は守勢を強いられる。社会は活力を失い、健全な社会発展にもブレーキがかかる。


 いずれにしても、スモレット事件は米社会の黒人が置かれている状況を鮮明に現わしている。同時に、事件が報道されると、慎重に検証することなくスモレットを擁護し、ここぞとばかりにトランプ政権批判に利用したCNNやリベラルなメディアの対応には呆れるばかりだ。

英保守党「『孔子学院』は深刻な脅威」

 英与党・保守党の「人権委員会」は今月18日、同国内にある中国の「孔子学院」について、「中国共産党政権のプロパガンダ機関(中国共産党統一戦線部の出先機関)であり、学問の自由と表現の自由の脅威となっている」と指摘、「孔子学院」と英国内の研究機関との間で交わされた全ての合意内容について再考を求める19頁に及ぶ報告書を公表した。英国与党が「孔子学院」問題を議会で追及するのは今回が初めてのことだ。

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▲英国与党保守党「人権委員会」発行の中国の「孔子学院」調査レポート(2019年2月18日)

 同報告書では、中国共産党プロパガンダ責任者の李長春 (第17期中央政治局常務委員)が2007年、「孔子学院は中国海外プロパガンダ機関である」と述べたこと、共産党文部省幹部の徐琳「孔子学院」事務局長が2010年、「孔子学院はわが国の影響を世界に拡大するための重要なソフトパワーの一部」と語ったことを紹介し、「世界で『孔子学院』を閉鎖する大学が広がっている」と指摘し、少なくとも27の大学や学校で「孔子学院」との協力関係を破棄しているという。例えば、ストックホルム大学、コペンハーゲン・ビジネス・スクール、シュトゥットガルト・メディア大学、ホーエンハイム大学、リヨン大学、シカゴ大学、ペンシルバニア大学、ミシガン大学、 マックマスター大学、トロント・スクールボード 、ノースカロライナ州立大学、イリノイ大学、テキサスA&M大学などで既に閉鎖、ないしはその方向に進んでいる。

 中国共産党政権は欧州では動物園へパンダを贈る一方、「孔子学院」の拡大を主要戦略としている。「孔子学院」は2004年、海外の大学や教育機関と提携し、中国語や中国文化の普及、中国との友好関係醸成を目的とした公的機関だが、実際は一種の情報機関だ。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)のクリストファー・ヒュース教授は、「孔子学院は中国当局の宣伝機関だ」と断言するなど、欧州知識人の間では「孔子学院」の拡大に懸念の声が高まってきている(「『孔子学院』は中国対外宣伝機関」2013年9月26日参考)。

 問題は、「孔子学院」では検閲が行われ、自由な討論が制限されていることだ。特に、3つのテーマ、「天安門広場虐殺事件」、「チベット」そして「台湾問題」はタブーとなっている。同時に、「孔子学院」のカリキュラムは独立性、包括的、全体的な視野に欠けているという。また、「孔子学院」で働く職員が中国共産党の方針に批判的な場合、差別されるなどの迫害を受けていることも懸念という。

 保守党人権委員会は過去、「孔子学院」の調査を開始し、学者や元外交官、人権活動家たちなどから多くの証言を集めてきた。同時に、孔子の名で発表された文献を調査し、専門家たちのパネル討論会なども実施した。今回公表した報告書はそれらの調査結果であり、人権委員会が行ってきている「中国の人権問題」、「強制臓器移植問題」などに続くものだ。

 人権委員会は報告書の最後に、10項目の勧告を発表し、「英国の大学、研究機関は『孔子学院』に関する調査が完了するまで更なる連携を停止するように助言する」と記述している。

 「人権委員会」委員長のフィオナ・ブルース議員( Fiona Bruce )は「われわれは言語学習や文化交流の促進は大歓迎するが、『孔子学院』が学問の自由、表現の自由、基本的な人権、そして国家の安全を脅かしているかを評定する必要がある」と指摘し、「われわれが入手した証拠は『孔子学院』が英国の大学や研究機関に大きな影響を与えていることを証明しており、深刻な懸念がある」と述べている。

 なお、海外中国メディア「大紀元」によると、世界に525の「孔子学院」があり、英国には29カ所あるという(エディンバラ、リバプール、マンチェスター、ニューキャッスル、ノッティンガム、カーディフ、ロンドンカレッジなど主要大学に設置されている)。そのほか、高校には148の孔子課堂(クラス)がある。中国共産党政権はイメージアップのため、海外で「孔子学院」を積極的に展開し、2020年までに世界で1000の開校を予定しているという。






 <参考>
「孔子学院」に対する10項目の勧告




The Conservative Party Human Rights Commission believes that the question of the presence of Confucius Institutes in British universities requires immediate and urgent attention. We therefore call on Her Majesty’s Government to consider this report and respond to the concerns outlined, and we recommend the following steps:


1. A review of all current agreements between British universities, schools and other educational institutions and Confucius Institutes;

2. A suspension of further agreements between British universities and educational institutions and Confucius Institutions until such a review has reported;

3. A full and thorough study of all recent reports on Confucius Institutes, including the National Association of Scholars titled Outsourced to China: Confucius Institutes and Soft Power in American Higher Education; the report by Professor Marshall Sahlins titled Confucius Institutes: Academic Malware; the report by the USC Center on Public Diplomacy at the Annenberg School, titled Confucius Institutes and the Globalisation of China’s Soft Power; Clive Hamilton’s new book Silent Invasion: China’s Influence in Australia; the documentary film, In the Name of Confucius; and other sources referenced in this report and beyond;

4. An investigation into whether British educational institutions, including universities and schools, with Confucius Institutes and classrooms, are involved in discrimination and violate the Equality Act 2010 in their hiring processes;

5. An investigation into whether Confucius Institutes are being used to monitor and intimidate students and/or teachers in the United Kingdom;

6. An investigation into claims that Confucius Institutes impede freedom of expression and academic thought in discussions – particularly in regard to the Tiananmen massacre, Tibet and Taiwan – in order to prevent censorship and protect freedom of expression;

7. A requirement that all colleges, schools and universities require their administrations to present details of their proposed association with Confucius Institutes to the faculty as a whole before signing an agreement;

8. Legislation to require transparency from Confucius Institutes (and all foreign donors) to universities, colleges, schools and other educational institutions in Britain with which they agree contracts and to ensure that foreign institutions are not able to hold undue influence, whether political, ideological or religions, on the curriculum and teaching practices of British institutions;

9. A review of all visas for Confucius Institute teachers, to assess their activities and ensure that the visas are consistent with their original purpose and are lawful and have not exceeded parameters;

10. A requirement that, where Confucius Institutes provide teaching in Chinese history or culture, a truly independent, holistic, balanced, and comprehensive curriculum is adopted, to allow for discussion of a diversity of topics, including Tibet, Taiwan and the Tiananmen massacre.

文大統領、金正恩氏と「人権」を語れ

 在イタリアの北朝鮮大使館からチョ・ソンギル大使代理が昨年11月、行方不明となった。同大使代理は米国に政治亡命を希望しているというが、その後の所在は不明だ。そこにローマの外務省から、「大使代理の娘(17)が平壌に帰国したようだ。北側は娘さんが祖父母が住む北に帰国したいと希望していたと説明しているが、強制的に帰国させた可能性がある」という情報が流れてきた。イタリア当局は、「北側の説明では昨年11月14日、大使代理夫妻の動向に不信を嗅ぎつけた北側が娘を一方的に北に帰国させた」として、人権蹂躙の疑いがあるため北側に説明を求めているという。

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▲北で女性への性暴力が蔓延している実態を記した国際人権擁護団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」報告書

 どうして北側は大使代理夫妻の亡命意思をキャッチしたのだろうか。2016年には駐英北朝鮮公使だった太永浩氏は家族一緒に韓国に亡命したことがあったが、その直後、金正恩朝鮮労働党委員長は海外駐在の外交官に対する監視を強化している。不信な動向があれば、即帰国させてきた。

 海外の北朝鮮大使館には必ず1人、外交官の動向を監視する治安機関出身の工作員が派遣されている。通常、彼らは一等書記官、ないしは参事官という外交官の地位で赴任する。監視対象は大使館内の外交官、特に、大使と公使の動向には目を光らせる。例えば、大使が赴任先で誰と会ったかを逐次報告する。彼らは定期的に平壌に大使館内の動きを報告。問題があったら、即連絡する体制を敷いている。

 もちろん、大使や公使は誰が治安関係者かを薄々知っているから、彼の前では言動に注意する。賢明な大使や公使はその治安機関出身の外交官を取り込むために、食事に招いたり、ちょっとした贈物もする。すなわち、海外の北朝鮮大使館でも国内と同じように相互監視網が張られているわけだ。

 当方は過去、大使館内の治安関係者にマークされ、最終的には北に強制帰国させられた北のエリート銀行マンを知っている。彼はロンドンで経済を学び、ウィーンでオーストリアの銀行関係者と共同事業を行い、山積した対オーストリア債務を解消するために努めていた。

 その彼がウィーン市内のアジアショップで家族のために三色団子やお餅を買っていたところに偶然出くわした。彼はマズいところを見られたといった表情を見せ、さっさと会計を済ませて出ていった。彼は海外で贅沢な生活をしていると思われることがどれだけ危険かを知っていた。三色団子など誰でも買って食べられるが、北では贅沢品だ。自分が海外のアジアショップで贅沢な食糧を購入していることが北関係者に伝われば、マズいのだ。北のエリート銀行マンが3色団子を買うのにもビクビクしなければならない、これが偽りのない北の現状なのだ。

 その数カ月後、彼は夫人と共に帰国させられた。北外交官をマークしていた西側情報機関関係者の話によると、彼は投資事業で巨額の資金を失ってしまったため、平壌から2人の財政管理人が派遣され、大使館内で尋問を受けた。その直後、彼は夫人と共に北に連行された。夫人はオーストリアの友人に「帰国するのが怖い」と呟いていたという。

 話を在ローマの北大使代理の亡命に戻す。娘さんは、大使館内の治安担当の外交官に強制連行された可能性が高い。帰国後、彼女に何が待っているかは北関係者ならば知っている。

 コラムのテーマに入る。南北の融和路線を実施、金正恩氏とは3度の首脳会談をこなし、ホットラインを通じて頻繁に話している文在寅大統領は何をしているのか。金正恩氏が非核化を言い出したのは文大統領の融和政策のためではない。トランプ政権の対北制裁と軍事的圧力だ。金正恩氏は制裁解除を実現するために韓国の融和政策に乗ってきた。それを文大統領はあたかも自身の南北融和路線が朝鮮半島の緊張緩和に貢献したと受け取り、朝鮮半島の平和の天使役を演じている。その文大統領が金正恩氏の要求に応じ、密かに制裁解除の動きを見せていることに、日米両国は強い不信の目を注いでいる。

 文大統領は北の非核化を口には出すが、あまり熱意を感じない。南北再統一後、核兵器を保有する国として朝鮮半島で君臨できれば、日本に初めて優位にたつことができる、という野心が見え隠れする。

 文大統領にお願いしたい。在イタリアの北朝鮮大使代理の亡命の件で金正恩氏に「娘さんを大使代理夫妻のところに戻すように」と説得してほしいのだ。それが実現できれば、トランプ政権は文大統領を見直すだろうし、韓国国民も文政権の南北融和政策を少しは理解するだろう。 

 文大統領は毅然とした態度で金正恩氏に助言すべきだ。金正恩氏の怒りを受け、関係が途絶えたとしても仕方がない。金正恩氏が変わらない限り、金正恩氏との関係は遅かれ早かれ切れてしまう。相手が嫌うテーマ(人権)を避けて築いた関係はいつまでも続かないのだ。このコラム欄で何度かいってきたが、文大統領は金正恩氏と「人権問題」を語るべきだ。

「ドナルド・セバスチャン」の相性は

 安倍晋三首相にとってゴルフ友達でもあるトランプ米大統領との会合は既にルーティンとなった感があるが、欧州アルプスの小国オーストリアのセバスチャン・クルツ首相にとっては文字通り世界の政治のひのき舞台、米ホワイトハウスでトランプ大統領と行う会合は初体験だ。オーストリア通信(APA)によると、同国の首相がホワイトハウスで米大統領と会うのは13年ぶりという。

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▲トランプ大統領と会見するオーストリアのセバスチャン・クルツ首相(オーストリア連邦首相府公式サイトから)

 クルツ首相は20代後半から政界入りし、弱冠31歳で一国の首相に上り詰めた政治家(現在32歳)だ。2015年に中東・北アフリカから大量の難民が欧州に殺到した時、国境線の閉鎖をいち早く実施して名を挙げた。同首相は欧州政界では既に有名人であり、同首相と会見を期待する欧州の政治家も少なくない。特に、難民問題で苦悩するドイツでは、難民歓迎政策を実施したメルケル首相とのコントラスということもあって、厳格な難民政策をいち早く打ち出したクルツ首相はスターだ。ドイツの政治討論ではクルツ首相は常連ゲストだ。

 昨年下半期は欧州連合(EU)議長国として欧州政治を主導し、今年に入ると、その活動範囲を拡大。米国入りする前に韓国・日本を実務訪問し、文在寅大統領、安倍首相らアジアの指導者と面識を持ったばかりだ。

 クルツ首相はホワイトハウスでいよいよトランプ大統領と会合する。同首相は19日夜、米国入りし、ポンぺオ国務長官と夕食を共にし、20日午後1時50分(現地時間)、トランプ大統領と会談する。会合時間は15分から20分間という。会談後の記者会見は予定されていない。

(トランプ・クルツ首脳会談は日本時間21日午前になるので、21日付のこのコラム欄には遅すぎる。そこで、今回は13年ぶりに米大統領と会うオーストリア首相周辺の声、準備状況、期待などを中心に報告する。会談内容で重要なテーマが出てきたら後日報告)

 トランプ米大統領と欧州との関係は良好ではない、というより少々険悪だ。トランプ大統領はドイツ製自動車など欧州車に対して追加関税を検討。自動車産業が国民経済発展のシンボルでもあるドイツ経済界は大ショックを受けたばかりだ。

 トランプ氏が第45代米大統領に就任して以来、欧州はワシントンから配信されるツイッター情報に常に驚かされてきたが、ドイツ製自動車への特別関税のニュースは普段は冷静なメルケル首相も驚かせた。地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」から撤退し、欧州の外交が力を入れてきた「イラン核合意」(2015年7月)からもあっさり離脱、欧州の安全にも密接な関係がある中距離核戦力全廃条約(INF協定)から離脱宣言し、欧州諸国を再びロシアの核弾道ミサイルの脅威にさらさせたばかりだ。それだけではない。シリア内戦で拘束されたイスラム過激テロ組織「イスラム国」(IS)の欧州出身戦闘員の引き取りを欧州側に要求してきた。

 ルクセンブルクのジャン・アセルボーン外相ではないが、ワシントンから発信されるトランプ大統領のツイッター外交で欧州はショックの連続だ。欧州政治家の中にはトランプ嫌いが増えてきた。クルツ首相がトランプ大統領と会見することが伝わると、オーストリア最大野党社会民主党の欧州議会選の筆頭候補者アンドレアス・シーダー氏は、「トランプ大統領は歴代最悪の米大統領であり、世界の安全に危険な大統領だ。クルツ首相は自身のPRとトランプ大統領とのセルフィー(自撮り)のために米国に行く」と少々ジェラシーも含む皮肉を述べているほどだ。

 米国と欧州の間には話し合わなければならないアジェンダは多いが、公式訪問ではなく、15分と短時間の会見だからトランプ氏とクルツ首相の間で深い対話は期待できない。「顔見せ程度に終わるだろう。トランプ氏にとって、クルツ首相の名前は今回初めて聞くはずだ」といった声もある。

 しかし、トランプ氏とクルツ首相は年齢の差こそ大きいが、案外、相性が合うのではないか。クルツ首相は聞き上手だ。彼に会った政治家からは好かれる天稟のタレントを有している。そこで一方的な推測だが、以下は当方の予想だ。

 クルツ首相がトランプ氏に、「米大統領のポストは大変ですね。欧州の政治家はあなたのことを『歴代最悪の大統領』と言っています。僕はそうは思いませんよ」と言い出す。大統領就任以来、多くの旧友を失い、任命した閣僚は次から次と辞任、ないしは解任され、欧州からは批判の声しか聞かなかったトランプ氏は眼前の32歳の青年首相を見て、「セバスチャン君、君は僕の友達になれるよ」と言い出す。賢明なクルツ首相は素早く「大統領、僕たちは友達ですよ」と相槌を打つ。そしてトランプ氏とクルツ首相は「ドナルド・セバスチャン」で相互呼び合うことで合意して15分間の短い(独語で短いはクルツという)会合を終える。

 クルツ首相との会談を終えたトランプ大統領を待っていた通信社の記者は「大統領、会合はどうでしたか」と聞くと、トランプ氏は笑顔をみせながら、「うまくいったよ。セバスチャンは僕の欧州の友達だよ」と答える。それを聞いた通信社記者は、「アルプスから来たオーストリアの青年首相セバスチャンはトランプ大統領の心をとらえた。トランプ氏にとって欧州の初めての友達だ。セバスチャンは金正恩氏(北朝鮮の独裁者)に次いでトランプ氏の2番目の友達だ」という見出しの速報を世界に配信する、といったシナリオも考えられる。

 実際、トランプ氏とクルツ首相は難民対策では共通点がある。対メキシコ国境の壁建設で議会と戦うトランプ大統領は、大量の難民殺到を阻止するために国境沿いをいち早く閉鎖したクルツ首相から激励されるかもしれない。クルツ首相は意見の相違が大きい貿易問題やイラン核問題は避け、難民対策に絞って意見の交換をすれば、会合は15分で終わらないかもしれない(「オーストリア外交が少しおかしい」2019年1月21日参考)

 なお、トランプ大統領との会談のほか、クルツ首相は米国ユダヤ協会(AJC)デヴィッド・ハリス理事長と会合し、夜にはトランプ大統領の娘、イバンカ・トランプ大統領補佐官夫妻からディナーに招待されている。翌日21日には国際通貨基金(IMF)の クリスティーヌ・ラガルド専務理事、世界銀行のクルスタリナ・ゲオルギエヴァ総裁代行との会見が入っている。

 いずれにしても、トランプ大統領との短い会見がどのような展開となろうが、世界最強国・米国の大統領との出会いはクルツ首相の今後の政治活動に大きな財産となることは間違いないだろう。

ワシントン発「ISとの戦の後始末」

 イスラム過激派テロ組織「イスラム国」(IS)との戦は既に終わりが見えてきた。それに呼応し、ロシア、イラン、そしてトルコの3国主導によるシリア内戦後の話し合いが進展している。一方、トランプ米大統領はシリアから米軍撤退を発表したが、米与野党内で米軍撤退に反対の声が出てきており、トランプ大統領の計画通りには早期撤退は難しくなってきた。そのような中、トランプ氏は英国、フランス、そしてドイツら欧州諸国にシリア北部で拘束中の800人を超える欧州出身のIS戦闘員の引き取りを要求。拒否した場合、彼らを解放せざるを得なくなると付け加えることを忘れなかった。

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▲クルツ首相は15日、安倍晋三首相と会談。20日にホワイトハウスでトランプ大統領と会談予定(日本首相官邸公式サイトから)

 シリアのクルド系の情報によると、クルドが管理している北シリアの地域には800人のISの外国人戦闘員が拘束され、それにISの夫人700人の女性たちと1500人の子供たちがいるという。

 トランプ氏からIS戦闘員の引き取りを強いられた欧州は18日、ハムレットのように、「ISの戦闘員を受け入れるべきか、トランプ氏の要求を拒否すべきか」で苦悩を深めている。

 トランプ氏の要求に対し、デンマークは「わが国は受け入れない」と素早く拒否。ドイツではメルケル大連立政権下で微妙な相違があるが、戦闘員以外の家族、子供たちの受け入れでは問題がないという立場だ。

 一方、欧州連合(EU)から離脱問題で奔走中のテレーザ・メイ英首相は、「戦争犯罪を犯した戦闘員はその犯行を行ったシリアで裁判を受けるべきだ」と表明、英国移送には難色を示している。

 すなわち、トランプ発「ISとの戦の後始末」案で欧州は3陣営に分かれてきた。ーけ入れる用意がある、∪簑仄け入れない。B崚戮魴茲瓩ねる―だ。欧州は機会ある度に“共通外交”を標榜してきたが、トランプ氏の要求に対し加盟国間でコンセンサスは見つかっていない。

 EU外務・安全保障政策担当のフェデリカ・モゲリーニ上級代表は18日、ブリュッセルで開かれた外相理事会後、「基本的には加盟国が決めるべき問題だ」と匙を投げている。

 ところで、国際法的観点からいえば明確だ。「祖国に帰国を願う国民を受け入れざるを得ない。帰国を願う国民がIS戦闘員だったとしても国籍を有している以上、その国はその国民の出入国を保証する義務がある」というのだ。国内に帰国したIS戦闘員は国内で裁判を受け、刑罰を受ける。ただし、シリアで刑罰を受けた人間は国内で同じ犯罪で再度刑罰を受けることは基本的にはない。 

 中東・北アフリカから難民が殺到した時、欧州諸国の中でもハンガリーと共に厳格な難民政策を実施、国境線を素早く閉鎖したオーストリアのセバスチャン・クルツ首相は、「わが国はフランス、デンマーク、英国のように、戦闘で蛮行を犯してきたIS戦闘員に対しては、国民の安全を第一に考えざるを得ない」と述べ、IS戦闘員の引き取りには消極的だ。

 ちなみに、オーストリア連邦憲法擁護・テロ対策局(BVT)によると、同国から総数320人がイスラム過激派活動家としてシリア、イラクで紛争に参戦し、そのうち約60人が死亡。約90人がオーストリアに帰国した。紛争地にまだ約100人がいるが、そのうち約30人はオーストリア国籍所有者だ。

 ハイコ・マース独外相は、「IS戦闘員の引き取りは難しい。国籍所有者の権利が問題ではなく、安全問題だ」と反論し、「トランプ大統領の要求を受け入れることは簡単ではない」と強調。一方、フランスのニコル・ベルべ法相は、「シリアからのIS戦闘員の引き取りには応じない」とはっきりとトランプ大統領の要求を拒否している。フランスの場合、戦闘員だけではなく、その家族も引き取らない。なぜならば、「彼らはフランスの敵だ。ただし、未成年者の子供たちの引き取り問題では個々のケースを慎重に検討する」という。

 ルクセンブルクのジャン・アセルボーン外相は、「欧州と米国の関係が危機に直面している。米国が命令し、欧州はその命令を実行するといった関係になってきた。これでは欧州と米国の正常な関係は崩壊する」と警告を発している。

 欧州は貿易関係、イランの核合意問題、対中関係でトランプ政権と対立してきた。IS戦闘員の引き取り問題が新たに加わり、米国との関係は一層、険悪化する兆候が出てきた。トランプ大統領のツイッター外交に対し、欧州は為す術もなく、守勢を強いられてきている。欧州の共通外交は“夢のまた夢”に過ぎないわけだ。

バチカンの「積弊清算」の行方

 韓国の文在寅大統領は「積弊清算」を掲げ、民族の過去の過ちを清算し、歴史の見直しを主張しているが、バチカンも同じように「積弊清算」に乗り出している。

 バチカンは今月21日から24日まで4日間の日程で聖職者の未成年者への性的虐待問題を協議する「世界司教会議議長会議」を開催し、そこで教会の土台を震撼させてきた聖職者の性犯罪への対応について話し合う。「バチカンの積弊清算」は成果をもたらすだろうか。

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▲「積弊清算」を進める韓国の文在寅大統領とフランシスコ法王(2018年10月18日、バチカンで、韓国大統領府公式サイトから)

 同会議の招集を提案したフランシスコ法王は会議参加者の司教会議議長に聖職者の性犯罪の犠牲者に会い、その苦境を聞いてくるようにと宿題を与えた。今年3月で法王就任6年目を迎えるフランシスコ法王は同会議が聖職者の性犯罪問題の克服で大きな成果をもたらすことを期待している。バチカンの改革を唱え、アシジの聖フランシスコを法王名に初めて使用したフランシスコ法王の「積弊清算」の真価が問われるわけだ。

 聖職者の未成年者への性的虐待は今始まった問題ではない。アイルランド教会、ドイツ教会、米教会、オーストラリア教会、ポーランド教会など欧米教会で発覚した聖職者の性犯罪件数は数万件といわれているが、その多くは既に時効となっている。しかし、21世紀に入っても聖職者の性犯罪は起きている。ただ、教会上層部が性犯罪を犯した聖職者を人事というかたちで隠蔽してきたこともあって、教会法に基づく公式の裁きを受けた件数は少ない。

 興味深い点は、「世界司教会議議長会議」開催5日前の16日、カトリック教理の番人・バチカン教理省(前身・異端裁判所)は米ワシントン大司教区のテオドール・マカーリック前枢機卿(88)に対し、未成年者への性的虐待容疑が実証されたとして教会法に基づき還俗させる除名処分を決定したことだ。枢機卿だった聖職者が性的虐待の罪で還俗の処分を受けるのは今回が初めてだ。

 フランシスコ法王が昨年7月、マカーリック大司教の枢機卿会辞任申し出を受け入れ、「今後は聖職者として公的な場には出ないこと」を命じた。前枢機卿は現在、米カンザス州の修道院に住んでいる。バチカンニュースによると、教理省は今年1月11日、マカーリック前枢機卿の容疑の調査を終了、今月13日、控訴も却下することを決めたばかりだ。

 2001年から06年までワシントン大司教だったマカーリック前枢機卿は1970年から90年の間、神父候補者を誘惑したほか、少なくとも2人の未成年者に性的虐待を行ってきたことが明らかになり、フランシスコ法王は昨年7月の段階で同枢機卿の枢機卿会辞任申し出を受理したが、法王自身はマカーリック前枢機卿の性犯罪を隠蔽してきた疑いが浮上、教会内外で大きな波紋を呼んだ。

 マカーリック前枢機卿のスキャンダルを暴露した元バチカン駐米大使カルロ・マリア・ビガーノ大司教は通称「ビガーノ書簡」の中で、「フランシスコ法王は友人のマカーリック前枢機卿の性犯罪を事前に知りながら、隠蔽してきた」と指摘、フランシスコ法王の辞任を要求した。それゆえに、バチカン教理省は21日から始まる「世界司教会議議長会議」を前にマカーリック前枢機卿問題に急いで決着つけたかたちだ。

 ローマ・カトリック教会総本山、バチカンの歴史は決して栄光に満ちたものだけではなく、スキャンダルの歴史でもあった。第2次世界大戦で連合軍が1944年秋、ローマを解放した時、英国の政治家ハラルド・マクミランはバチカン内に入った時の印象を以下のように書いている。

 「バチカンには時間が存在しない。何世紀も経過したが、バチカンでは4次元の世界が支配し、歴史の亡霊たちがそこに佇んでいる」

 ヒトラーやムッソリーニの独裁者と同じように、蛮行を欲しいままにした法王とその犠牲となった奴隷たちの亡霊が住んでいるというのだ。ローマ法王に選出されたフランシスコ法王は、「過去の亡霊たちを追放し、教会を近代化するために就任した」と述べ、バチカンの「積弊清算」に乗り出してきた。聖職者の性犯罪はその中でも最も大きな積弊だ。聖職者の性の問題は教会の組織と密着しているだけに、教会の抜本的な改革なくして解決は難しいからだ。

 聖職者の性犯罪問題が出てくる度に、聖職者の独身制廃止議論が飛び出す。それに対し、教会側は「イエスがそうであったように」という新約聖書の聖句を取り出して、「だから……」と説明する。ただし、前法王ベネディクト16世は、「聖職者の独身制は教義ではない。教会の伝統だ」と述べている。カトリック教会の近代化を協議した第2バチカン公会議(1962〜65年)では既婚者の助祭を認める方向(終身助祭)で一致している。聖職者の独身制は聖書の内容、教義に基づくものではない。教会が決めた規約に過ぎないことをバチカン側も認めている。

 キリスト教史を振り返ると、1651年のオスナブリュクの公会議の報告の中で、当時の多くの聖職者たちは特定の女性と内縁関係を結んでいたことが明らかになっている。カトリック教会の現行の独身制は1139年の第2ラテラン公会議に遡る。聖職者に子供が生まれれば、遺産相続問題が生じる。それを回避し、教会の財産を保護する経済的理由があったという。 

 文在寅大統領の「積弊清算」は民族を迫害し、弾圧した侵略者、共犯者を見つけ出し、その罪を暴露して追及することだが、「バチカンの積弊清算」はちょっと違う。教会やローマ法王自身が罪を犯し、それを久しく隠蔽してきたからだ。審判の前に立つのは第3者ではなく、教会自らが審判の前に立つ。「バチカンの積弊清算」が文大統領のそれより難しいのは当然かもしれない(文在寅大統領の「積弊清算」は、韓民族の責任、北朝鮮の蛮行を恣意的に無視している)。

 「世界司教会議議長会議」に参加するオーストリアのカトリック教会最高指導者・シェーンボルン枢機卿は、「自分は会議に大きな期待を持っていない。会議を通じて、教会内で多数の聖職者による性的犯罪が行われてきた、という事実を確認できれば成果だ」と述べていたが、懺悔室で信者の罪の告白を聞くのには慣れてきた聖職者が今、自らその懺悔室に入り、過去の「積弊」を告白し、清算しなければならないわけだ。ちなみに、平信徒がミサ後、懺悔室で告白する内容はほとんど性的問題だという。聖職者の場合も例外でないわけだ。
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