ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2019年03月

南北、UNIDO経由で制裁突破?

 北朝鮮はウィーンに本部を置く国連工業開発機関(UNIDO)へ出向職員を派遣し、UNIDOを通じて対北制裁の抜け道を模索している。同時に、韓国側は対北経済支援を実現させるために様々な外交支援を行っている。

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▲UNIDO本部があるウィ―ンの国連機関の正面入口(2013年4月撮影)

 国連の専門機関を通じて対北支援を実施するというのはあくまでもプランBだ。ハノイで開催された第2回米朝首脳会談が北側の願い通りに展開し、対北制裁の段階的解除が実現していたならばプランBは必要でなかった。対北制裁の段階的解除をプランAとすれば、国連の専門機関経由で対北制裁の解除を進めていくというのはあくまでもプランBだ。

 金正恩朝鮮労働党委員長は、ハノイの米朝首脳会談で期待通りの成果が上げられなかった後、寧辺にあるウラン濃縮施設の操業を継続する一方、同国北西部・東倉里にあるミサイル発射場の復旧作業を完了させている。米国から対北制裁の解除を得ることが難しくなったと判断し、北側はミサイル発射と核実験のカードを再びちらつかせ、米国への圧力を強める一方、プランBを実行に移してきたわけだ。

 それでは、なぜ北側はUNIDO経由で対北制裁の抜け道を模索し始めたかだ。その理由は2点考えられる。。妝裡稗庁六務局長が中国人の李勇氏(中国元財務次官)であること。北側の無理な要求も受理される可能性が高い。∧胴颪錬隠坑坑暁、UNIDOの腐敗体質を批判し、脱退したので、米国の妨害を恐れることが少ないことだ。特に、△亘迷Δ砲箸辰凸ノ呂澄

 UNIDOの過去の対北支援を少し振り返る。UNIDOは1986年以来、70件以上の対北プロジェクトを実施、その総支援額は約3000万ドルにもなる。特に、金正日政権が全力を投入して実施した羅津・先鉾経済貿易地帯をUNIDOは支援してきた。北は当時、金永南最高人民会議常任委員会委員長(党序列第2位)の息子、金東浩氏をウィーンのUNIDO事務所に派遣し、UNIDOプロジェクトの推進に積極的に乗り出した。

 金東浩氏の後任には、故金正男氏の遠縁関係にあたる尹ソンリム氏が対北プロジェクトを担当したが、尹ソンリム氏がUNIDOから突然ジュネーブに移動して以来、UNIDOには北のスタッフがいない。対北プロジェクトもモントリオール・プロジェクト(MP)が完了した現在、皆無だ。そこで平壌はUNIDOにスタッフを派遣し、新たに対北支援プロジェクトを実施させたいと考えているわけだ。

 ちなみに、北はUNIDOのMP(開始2003年、完了08年)を通じて科学兵器製造に転用できる機材を入手している。国連側は、国連の専門機関が対北安保理決議(1718)を破ったとすれば、国連全体のイメージ悪化に繋がるとして、もみ消しに腐心した経緯がある(「北の化学兵器製造を助けた『国連』」2017年2月25日参考)。

 北朝鮮は孤独な闘いをしているのではない。韓国がUNIDOに対北プロジェクトの再開を打診するなど、助け舟を出しているのだ。“金正恩氏の報道官”だと韓国野党からも揶揄された文在寅大統領はハノイの米朝首脳会談がうまくいけば、金剛山観光事業、経済特別区の「開城工業団地計画」を再開し、対北経済支援を本格的に実施できると期待したが、それも水泡に帰してしまったばかりか、トランプ米政権からは対北制裁破りは絶対容認できないとお灸を据えられている有様だ。

 南北融和路線を推進する文大統領にとって、金正恩氏の文大統領への信頼が揺れだしたことが大きなダメージだ。開城の南北共同事務所から北朝鮮職員が今月22日、撤収したというニュースは文大統領には大ショックだったはずだ。幸い、北の職員が事務所に戻ってきたというニュースが入り、ホッとしただろう。

 文大統領は来月11日、訪米し、トランプ大統領と首脳会談を行う。ハノイの米朝首脳会談後の朝鮮半島の対応について話し合われる予定だ。文大統領としては、南北間の経済支援について米国から一定の了解を得たいところだが、完全な非核化の実施を前面に出してきたトランプ大統領だけに、韓国側の願いに応じる可能性は少ない。そこで文大統領は国連安保理の対北制裁下、人道、食糧支援などを国連の専門機関を通じて実施させる道を模索してきたというのだ。

 参考までに、ローマに本部を置く国連食糧農業機関(FAO)の次期事務局長選が6月に実施されるが、有力候補者の1人として中国人の屈冬玉農業次官が挙げられている。同次官(56)が当選すれば、北側は大喜びだろう。UNIDOとFAOの2つの国連の専門機関で中国人事務局長が就任すれば、対北経済、食糧支援はこれまで以上に容易となることが予想されるからだ。

北朝鮮は極右主義者の模範の国?

 ニュージランド(NZ)のクライストチャーチで29日、2カ所のイスラム寺院(モスク)で50人が死亡、ほぼ同数の重軽傷者を出した銃乱射テロ事件の犠牲者を追悼する式典が行われた。同国ではNZ最大の都市オークランド、首都ウェリントン、そして南島の都市ダトニーデンでも厳重な警備のもと同様の追悼集会が挙行された。追悼集会には、白人主義者でイスラム系移民を憎悪する極右思想信奉の犯人、ブレントン・タラント容疑者(28)の出身国オーストラリアのスコット・モリソン首相も同席した。

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▲銃乱射事件の犠牲者を追悼する国民(NZ政府公式サイトから)

 タラント容疑者は現在、未決拘留中だ。裁判では終身刑が求刑される予定だ。同容疑者は今月15日、半自動小銃などでモスクを襲撃し、金曜礼拝中のイスラム教徒に向かって乱射した。

 世界に大きな衝撃を与えた事件発生から2週間が過ぎた。タラント容疑者が犯行前にネットに流したマニフェストなどの解明、犯行の動機についてNZ警察は調査を進めているが、同容疑者が2014年、北朝鮮を訪問していた事実が浮かび上がった。

 オーストリアのキックル内相は28日、タラント容疑者から昨年上半期に1500ユーロがオーストリアの極右グループ「イデンティテーレ運動」の指導者マーチン・セルナー氏の口座に送られていたことを報告。また、同容疑者が2014年、グループ旅行で北朝鮮を訪問したが、そのグループの中に3人のオーストリア人がいたことを新たに明らかにした。ただし、3人の身元は未公開(「NZ銃乱射容疑者、欧州極右に寄付」2019年3月28日参考)。

 NZの極右テロリストとオーストリアの極右団体との結び付き、タラント容疑者が訪朝した時に同行した3人のオーストリア人との関係などについて、オーストリアのメディアは様々な憶測を流している。

 オーストリアのクルツ首相はタラント容疑者から寄付を受けたグラーツ(オーストリア2番目の都市)に拠点を置く極右団体「イデンティテーレ運動」の強制解体を視野に入れているが、司法省関係者の話では、「団体を解散させるだけの容疑が実証されない限り、強制解散は難しい」という。

 ところで、クルツ政権は中道保守政党の「国民党」と極右政党「自由党」の連立政権だ。その「自由党」のシュトラーヒェ党首(副首相)やキックル内相は過去、「イデンティテーレ運動」のマーチン・セルナー氏と何度か接触している。

 シュトラーヒェ党首はタラント容疑者の犯行を厳しく批判し、NZの極右テロ事件と距離を置き、タラント容疑者や「イデンティテーレ運動」との関係を打ち消すために腐心している。

 興味深い点は、タラント容疑者と一緒に北朝鮮を訪問した3人のオーストリア人の身元だ。単なる偶然で一緒になったのか、両者の間に何らかの関係があったのか。西側旅行者が北朝鮮を訪問する場合は基本的にはグループ旅行だ。欧州の場合、ベルリンやウィーンの北旅行専門旅行会社を通じて旅券を得るケースが多いが、今回はスウェーデンの旅行会社の斡旋だ。

 オーストリアから過去、北朝鮮を訪問した旅行者は、 屮ーストリア・北朝鮮友好協会」関係者、▲ーストリアの左派労組関係者、メディア関係者の3通りが主だ。看過できない点は、北朝鮮はオーストリアの左派政党「社会民主党」(前身・社会党)関係者と深い繋がりがあることだ。友好協会は社民党関係者が多い。だから、タラント容疑者の訪朝時に、社民党関係者が偶然にかち合った、というシナリオが最も現実的だろう。なお、訪朝した3人のうち、1人が内務省に通報し、訪朝でタラント容疑者と知り合ったと報告したという(オーストリア日刊紙プレッセ3月29日)。

 米国に拠点を置く右翼の白人ナショナリスト・グループ、「伝統主義青年ネットワーク」の指導者マヒュー・ハイムバッハ氏(Matthew Heimbach)は、「北朝鮮が民族の純潔を維持し、民族のアイデンティティを守る限り、北朝鮮は極右主義者にとって模範の国となる」と主張し、ビデオの中でアドルフ・ヒトラーと金正恩朝鮮労働党委員長の写真を飾っている。タラント容疑者はハイムバッハ氏の思想に大きく影響を受けていたという。容疑者の訪朝動機もそこらへんにあったのかもしれない。

 いずれにしても、タラント容疑者の出身国オーストラリアは欧州のアルプスの小国オーストリアとは地理的にかけ離れているが、国名が似ていることもあってよく間違われる。不幸にも、NZの銃乱射事件は両国国民を繋げてしまったわけだ。

北朝鮮大使の「26年後の望郷」

 人は年を取ると自分が生まれた故郷に戻りたくなるのだろうか。普段は仕事にかまけて忘れていた故郷が突然、「帰っておいで」と囁きかけてくるからだろうか。「彼が国に戻ろうと考えているらしい」という情報を聞いてそんな思いが湧いてきた。

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▲駐オーストリアの金光燮・北朝鮮大使(2015年12月に開催された国連工業開発機関=UNIDO総会で撮影)

 駐オーストリアの北朝鮮の金光燮大使の話だ。同大使は1993年3月18日にオーストリアの北朝鮮大使として赴任して既に26年が過ぎた。もちろん、ウィーンの外交界では最長駐在記録の保持者だ。3月が来るたび、「彼はまだオーストリアにいるのか」と少々ため息交じりに語る同胞の外交官もいるぐらいだ。金大使はトーマス・クレスティル、ハインツ・フィッシャー、そして現在のファン・デア・ベレンの3代の大統領を知っている数少ない外国外交官だろう。

 「金大使はウィーンが大好きだ」、「彼はウィーンに骨を埋めるつもりだ」といった声が過去、ウィーン外交界で囁かれてきた。海外に駐在することは北朝鮮大使にとって大きな特権だ。その特権を自ら返して祖国の平壌に戻りたいと考える北外交官は本来、いない。

 金大使の場合、奥さんが故金日成主席と故金聖愛夫人との間の長女、金敬淑さんであり、金正恩朝鮮労働党委員長の叔父さんにあたる人物だ。金ファミリーの一員として、これまで多くの特権を享受してきたはずだが、駐在期間が26年にもなると、やはり“疲れ”が出てきたのだろうか。ウィーンに赴任する前はチェコの大使も務めてきた。海外駐在大使として30年以上外地で生活してきたことになる。70歳の大台も迫ってきた。体力的に疲れたとしても当然かもしれない。

 金大使は就任直後から何かあるたびに“病気”になってきた。もちろん、北の外交官特有の“政治病”だ。だから、「大使は病気で治療を受けている」という説明を大使館関係者から何度も聞いた。最近は背骨に問題があって歩行もままならないといった情報が流れてきた。どうやら今度はホントらしい。ここ数年、治療を受けている。

 その金大使が「オーストリア・北朝鮮友好協会」の関係者に、「そろそろ国に戻ることを考えている」と漏らしたという。病気の治療のためだろうか。そのためならばウィーンに留まって治療を受けた方がベターだ。平壌からの送金が滞り、活動資金もままならなくなったためだろうか。ウィーン駐在の北外交官の月給は500ユーロ程度ともいわれている。外交官として華やかな付き合いなどできっこない。

 金大使の場合、どうやら別の理由があるらしい。大使の実母が存命だ。そこで母親の傍に戻って最後の親孝行をしたくなったのではないか、というのだ。10年前にそれを聞けば信じなかったが、就任26年目を完了した今日、ひょっとしたら大使の本音かもしれないな、と受け取りだした。人は確実に年をとる。同時に、これまで気が付かなかった望郷の念が湧いてくるのだろう。母親が息子の帰りを待っていると分かればなおさらだ。

 当方は金大使が駐在30年の大台をウィーンで迎えてほしいと思ってきた。金大使のいないウィーンの北大使館は考えられないからだ。金大使が駐在しているから、当方も北朝鮮の取材に力が入る。大使のいない北朝鮮大使館は暖房のない寂しい冬の大使館に戻ってしまうだけだ。

 当方の勝手な思いはどうでもいい。金大使は26年ぶりの望郷の念に向かい合っているのだ。大使が実際、帰国するかどうかはまだ何も言えない。あと4年がんばってお勤めを全うするかもしれない。

 朝鮮半島の政情は緊迫度を深めている。第2回米朝首脳会談の破綻後、金正恩氏は中国、ロシアにより傾斜する気配を示してきた。北朝鮮の独裁政治の終わりを要求する声が海外の脱北者から出てきた。北朝鮮の非核化の見通しはまったく分からなくなってきた。それだけに、何が起きても不思議ではない不気味な時間が流れている。

 金大使がたとえ故郷に戻っても、母親を世話できる穏やかな時間を過ごすことができるだろうか、と心配になってくる。賢明な金大使がそんなことを知らないはずがない。それでも金大使は母親が待っている祖国に戻っていくつもりだろうか。望郷の念に乏しい当方はある意味で羨ましいほどだ。

NZ銃乱射容疑者が欧州極右に寄付

 ニュージランド(NZ)中部のクライストチャーチにある2つのイスラム寺院(モスク)で15日、銃乱射事件が発生し、50人が死亡、子供を含む多数が重軽傷を負ったが、犯人の白人主義者でイスラム系移民を憎む極右思想を信奉する28歳のブレントン・タラント容疑者(Brenton Tarrant)が昨年12月、オーストリアを訪問しており、同国内の極右グループに1500ユーロを支援していた事実が明らかになり、オーストリア当局は国内の極右グループとNZ銃乱射事件の容疑者との関係などの捜査に乗り出している。オーストリア代表紙プレッセが27日付け1面トップで「テロリストのウィーン献金」(Die Wien Spende des Terroristen)という見出しで報じた。

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▲欧州のイスラム化ストップを要求する「イデンティテーレ運動」( Styria Digital One GmbH提供)

 プレッセ紙によると、タラント容疑者は一匹狼ではなく、同じ信条を持つ民族主義的なグループ、組織とコンタクトし、関係を深めていたという。そのネットはウィーンにも連結されていたという。タラント容疑者は昨年上半期、1500ユーロをオーストリアの極右グループ「イデンティテーレ運動」(Identitaeren Bewegung、本部グラーツ市)の指導者マーチン・セルナー(Martin Sellner)氏宛に送金している。セルナー氏(30)はタラント容疑者から寄付を受けたことを認めたが、タラント容疑者と会ったことはないという。

 セルナー氏は、「クライスチャーチの蛮行は許されない」と述べ、タラント容疑者の銃乱射事件を批判したが、治安関係者はセルナー氏とNZ銃乱射事件の容疑者の関係を捜査するため、25日夜、セルナー氏のウィーンの住居などを家宅捜査したばかりだ。

 タラント容疑者がマニフェストで「The Great Replacement」と呼び、移民の殺到で固有の国民、民族が追放される危険を警告しているが、同運動も同じように移民の殺到に警告を発し、それに対抗するように呼び掛けるビデオが見つかっている。

 クルツ首相はタラント容疑者が国内の極右グループに献金していたという情報を深刻に受け止め、「徹底的に調査して全容を解明する」と述べている。一方、同国の野党はキックル内相(自由党出身)に「国内の極右グループの全容を報告すべきだ」と要求している。

 同国日刊紙エステライヒ紙は27日の社説で「クルツ連合政権はイスラム系過激テロ問題で示したように、極右組織に対しても毅然とした態度で臨むべきだ」と主張している。同紙によると、クルツ連立政権の政権パートナー、極右政党「自由党」のシュトラーヒェ党首(副首相)やキックル内相は「イデンティテーレ運動」主催の会合などに顔を出したことがあるという。

 欧州の治安関係者は、「タラント容疑者はその74頁の長文のマニフェストの中で欧州の極右グループの結束を呼び掛けているから、オーストリア以外の他の極右グループにも資金を送っていた可能性が排除できない」とみて、タラント容疑者から資金援助を受けていたグループを探している。

 タラント容疑者はクライスチャーチの2つのモスクを襲撃する前に欧州などを旅している。フランスでは特に十字軍の騎士団の歴史に強い関心を示している。2016年にスペイン、ポルトガル、トルコ、ルーマニア、ブルガリア、ポーランド、チェコ、スロバキア、バルト三国(エストニア、リトアニア、ラトビア)、そして昨年12月、オーストリアを訪ねている。ウィーンでは、軍歴史博物館や国立図書館を訪ねている。ウィーンの他にはザルツブルク、インスブルック、クラーゲンフルトなどを見て回っている。

 同容疑者は旅先では、オスマン・トルコの北上に抵抗したキリスト教圏の英雄たちに強い関心をもち、2、3の騎士たちの名前をクライスチャーチの銃乱射事件で使用した半自動小銃に書き込んでいるほどだ。ちなみに、タラント容疑者の活動資金はフィットネスセンターのトレーナー時代の資金、ビットコイン取引の収益、そして2010年にがんで亡くなった父親の遺産などだ。

 クライスチャーチの銃乱射事件から間もなく2週間が経過する。NZのアーダーン首相は、「自分はクライスチャーチの容疑者の名前を言いたくないし、思い出したくもない」とタラント容疑者の犯罪に強い嫌悪感を吐露している。同首相の気持ちは理解できるが、タラント容疑者がなぜ銃乱射事件を犯したのか、その白人主義、極右主義がどこからくるのか等を解明していくことは、我々が生きている時代をより知るためにも必要だろう。同時代に生きている人間の責任ともいえる。

太永浩元駐英北公使の安全を守れ

 2016年にロンドンから家族と共に韓国に亡命した太永浩元駐英北朝鮮公使は24日、自身のブログで、「スペインのマドリードの北朝鮮大使館に先月22日、何者かが侵入し、暗号化された電文解読に使用するパソコンを盗んだ可能性がある」と指摘した。この情報が報じられると、欧州に住む脱北者は、「北朝鮮にとって命よりも大切な暗号化されたコンピューターの件を暴露し、その窃盗の可能性を示唆した太永浩氏の身の安全が危なくなる」と指摘、同氏周辺の警備を一層強化すべきだと強調した。

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▲太永浩元駐英北朝鮮公使

 太永浩氏の説明によると、「北朝鮮独自の暗号技術で、数学式につくられている西洋式の暗号とは完全に異なる『抗日パルチザン式』という。これは中国共産党が抗日闘争の際に考案したもので、特定の小説のページ・段落を使って暗号文を解読する方式だ」(朝鮮日報日本語版3月25日)という。この暗号化された通信を解読するPCが米国に渡ったとすれば、北朝鮮にとって一大事というわけだ

 先の脱北者によると、「この報道が事実とすれば、北朝鮮はこれまでの通信システムを全て破棄しなければならなくなる。新しい通信システムを構築するために時間と巨額の資金が必要になるだろう」と見ている。そしてその事実を暴露した太永浩氏に対して、「北朝鮮は必ず報復するだろう」と指摘した。

 故金正日総書記の元妻・成恵琳の実姉の息子、李韓永氏が1982年に韓国に亡命し、北朝鮮の金ファミリーの内密を初めて暴露した本(『金正日に暗殺された私』)を出版し、大きな話題を呼んだことがある。同氏は1997年2月、北朝鮮が送った2人の特殊工作員に殺された。北朝鮮は当時、「絶対に公表してはならない金ファミリーの内密を暴露したものは許されない」と表明していた。今回の暗号化されたPCの件を暴露し、北朝鮮の混乱を明らかにした太永浩氏は李韓永氏と同じ立場であり、北側に多大の衝撃を与えた国賊と受け取られ、同氏の暗殺の危険性が高まってきたというわけだ。

 マドリードの北朝鮮大使館襲撃事件は「自由朝鮮」と名乗る反体制派グループが米国情報機関と連携して計画した可能性が高まっている。その指導者、メンバーの数については不明だが、2017年2月にマレーシアのクアラルンプール国際空港内で劇薬の神経剤で暗殺された金正男氏の長男、金ハンソル氏の名前が出ている(「『朝鮮半島のハムレット』の幕開け?」2019年3月20日参考)。

 金ハンソル氏は現在、米国に亡命中で脱北者の間で象徴的なリーダーと受け取られている。なぜならば「金ハンソル氏は金正恩朝鮮労働党委員長の父親でもある故金正日総書記の最初の孫だ。朝鮮では長男や最初の孫は特別の意味と重みがある。金ハンソル氏は現在23歳であり、父親が暗殺された直後、北朝鮮の解放、民主化を要求するなど、若いが象徴的指導者となれる資格を有している」というのだ。

 その金ハンソル氏の周辺にはアメリカに亡命した金正男氏の親族関係者がいる。そのうえ、韓国を含め世界には数万人の脱北者がいる。彼らが金ハンソル氏を象徴的指導者として結束し、金正恩朝鮮労働党委員長の独裁政権打倒に向かおうとしているという。

 北朝鮮外交官が命を懸けても守らなければならない暗号化した通信を解読できるPCを奪われ、その奪った者が反体制派グループ「自由朝鮮」関係者、そしてその象徴的な指導者が金正恩氏が殺させた異母兄である金正男氏の長男・金ハンソル氏であり、米国が彼らを資金面で背後から支援しているというのだ。金正恩氏が自身の政権に対抗する勢力の台頭に直面し、初めて不安と恐怖を感じたとしても不思議ではない。

 いずれにしても、海外の脱北者の「打倒・金正恩政権」への勢いを削がないためにも、韓国側は太永浩氏の身辺警備をこれまで以上に強化しなければならない。金正恩氏は脱北者への見せつけのため脱北者の家族関係者への処罰や国内の締め付けを強める一方、脱北後、北情報を次々に暴露する太永浩氏の暗殺に乗り出すことが予想されるからだ。

 先の脱北者は、「太永浩氏は命がけで北の独裁政権打倒に立ち向かっている。文在寅政権はあらゆる手段を駆使して太永浩氏の安全を守るべきだ」と語ったが、脱北者には南北融和路線に邁進する文在寅大統領には不安がある。それだけに、文大統領は韓国の大統領として国民の信頼を取り戻し、脱北者の不安と懸念を払拭するためにも太永浩氏の安全確保のために最善を尽くすべきだ。

「輸入された反ユダヤ主義」の脅威

 オーストリア国民議会のヴォルフガング・ソボトカ議長は今月15日、国内の反ユダヤ主義に関する調査結果を発表した。同調査はIfes世論調査機関が議会の要請を受けて実施したもので、16歳以上の国民2100人を対象にインタビューした。それによると、「オーストリアでは反ユダヤ主義はもはや消滅したと信じられてきたが、実際は至る所で見られる」という予想外の内容だった。調査は6つの質問に「イエス」か「ノー」と答える形式で行われた(表を参考)。

 .罐瀬篆佑論こΔ鮖拉曚靴討い
            
             イエス   ノー
            
  オーストリア人   39%  39%
  トルコ系       63%  14%
  アラブ系       64%  27%


 ▲ぅ好薀┘襪存在しなかったら、中東は平和
 
  オーストリア人   11%  68%
  トルコ系       51%  27%
  アラブ系       69%  23%


 イスラエルはパレスチナを第2次世界大戦のドイツと同じように対応


  オーストリア人   34%  37%
  トルコ系       65%  12%
  アラブ系       76%  17%


 ぅ罐瀬篆佑歴史で迫害されるのは、ユダヤ人の責任もある
 
  オーストリア人   19%  62%
  トルコ系       50%  23%
  アラブ系       40%  51%


 ゥ罐瀬篆佑否か直ぐに判る

  オーストリア人   11%  76%
  トルコ系       41%、 40%
  アラブ系       43%  50%


 Χ制収容所やユダヤ人迫害は過大に叫ばれている


  オーストリア人   10%  78%
  トルコ系       41%  30%
  アラブ系       35%  51%


(出所・オーストリア代表紙プレッセ3月16日)


 具体的には、国民の10%は「自分は反ユダヤ主義」という自覚を有し、約30%は無自覚だが、「反ユダヤ主義傾向がある」という。反ユダヤ主義傾向が強い国民は、オーストリアで生まれたか、10年以上オーストリアに住んでいるトルコ系とアラブ系出身者だ。

 例えば、ユダヤ強制収容所やユダヤ民族迫害について「多くは過大に報じられていると思うか」の質問に対し、トルコ系は41%、アラブ系の国民は35%が「そのように感じる」と答えている。通常の国民は10%に過ぎない。ちなみに、トルコ系やアラブ出身の国民は目の前の国民がユダヤ人か否かを素早く識別できるという。

 一般的な傾向としては、若く、高等教育を受けた国民は反ユダヤ主義傾向が少なく、右派的、権威主義的な国民は反ユダヤ主義傾向がみられる。良きニュースは、「ユダヤ人は世界大戦で迫害されてきた民族であり、オーストリアはユダヤ人を支援する道徳的義務を持っている」という見方が増えてきていることだ。

 オーストリアでは終戦直後、「我が国はナチス・ドイツの犠牲国だった」と受け取り、ナチスの戦争犯罪への関与を久しく否定してきたが、フランツ・フラニツキー首相時代(1986〜97年)に、「オーストリアもナチス戦争犯罪の責任がある」と歴史の見直しが進められていった経緯がある。歴史の見直し作業を通じて、ユダヤ民族へのスタンスが改善されてきたわけだ。

 同調査で非常に懸念される点は、「外国から輸入された反ユダヤ主義」の拡大だ。エッツシュタドラー内務次官は「この事実を看過できない」と警告している。

 この調査では、2015年以降、オーストリアに殺到した中東・北アフリカ諸国からの難民、移民を対象とはしていない。彼らを調査対象とすれば、オーストリア国内の反ユダヤ主義は更に深刻となることは必至だ。彼らは主にイスラム教徒であり、反イスラエル、反ユダヤ主義が叫ばれている国の出身者だからだ。彼らがオーストリアで難民申請をし、認知され、国内に定着していった場合、反ユダヤ主義的言動が更に増加することは想像に難くない。明確な点は、彼らは潜在的な反ユダヤ主義の温床となる、ということだ。

 問題は、オーストリアに既に定着したトルコ系、アラブ系の国民の反ユダヤ主義傾向だ。オーストリア日刊紙プレッセ(3月24日)は社説の中で、「特に、トルコ系の国民、オーストリアで生まれた移民の3世、4世か、成長した国民の中に反ユダヤ主義の傾向が顕著に見られる。彼らの中に激しいユダヤ嫌悪が見られ、彼らの多くはイスラエルの国家も否定している。その原因は、無知、偏見、宗教が絡んだ中東の政情の反映、反ユダヤ主義を政治的武器に利用する政治指導者たちの影響にある」と分析している。 例えば、トルコのエルドアン大統領は反イスラエル、反ユダヤ主義政策を政権寄りのメディアを通じて巧みに扇動し、国民に「イスラム教徒犠牲アイデンティティ」を煽っている。海外に住むトルコ系国民もその影響を受けているわけだ。

 それだけではない。トルコ系の若い世代の反ユダヤ主義傾向はオーストリアの終戦後の歴史教育の影響も無視できないという。簡単に言えば、トルコ人はオーストリアでは歓迎されない民族だという歴史教育を小学校から頻繁に聞かされているからだ。その結果、若いトルコ系国民は自分たちはオーストリアでは歓迎されない民族だという鬱屈した思いが強まる一方、その反動として反ユダヤ主義に走る傾向がみられる。

 まとめると、「輸入された反ユダヤ主義」の脅威とは、オーストリアに殺到したイスラム系難民・移民の潜在的な反ユダヤ主義と、トルコ系国民に見られるエルドアン大統領の反ユダヤ主義プロパガンダの政治的影響の2点が考えられるわけだ。
 

性犯罪問題への対応で揺れる法王

 ローマ法王フランシスコは、フランス教会リヨン大司教区のフィリップ・バルバラン枢機卿(68)の大司教辞表を受理しなかった。同枢機卿は今月7日、聖職者の未成年者への性的虐待事件を隠蔽したとして執行猶予付き禁固6カ月の有罪判決を受けたばかりだ。枢機卿は上訴している。

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▲6カ月の執行猶予付き有罪判決を受けたバルバラン枢機卿(バチカン・ニュースのHPから)

 バルバラン枢機卿はフランス教会では性犯罪問題で有罪判決を受けた最高位の聖職者だ。それだけに、判決が明らかになると、フランス教会ばかりかバチカンでも大きな波紋を呼んだ。同枢機卿は判決が明らかになるとフランシスコ法王にリヨン大司教職の辞任を申し出た経緯がある。

 フランスTV放送によると、同枢機卿は18日、フランシスコ法王を謁見し、辞任の意向を正式に伝えたが、法王は受理しなかったという。同枢機卿はインタビューの中で、「フランシスコ法王は裁判の行方を注視してきた。法王とは判決前、会って話し合うことになっていた。判決が明らかになった後もその約束は変わらなかった。大司教という立場は神が与えたミッションだから、そのミッションを辞任するという表現は不適当だろう。教会では全て法王の判断次第だ。法王が辞任願いを受け入れなかった以上、もはや何もいえない」と説明している。

 枢機卿の罪状は、1980〜90年代、ベルナルド・プレナ神父が犯した性犯罪を知りながら警察側に告訴せず、隠蔽した容疑で、バルバラン枢機卿と5人の教会関係者が訴えられていた。今年1月の段階では検察当局は「有罪にもっていくのは無理」と判断していたが、リヨンの裁判官は「犯行は許されない」として執行猶予付きで禁固6カ月の有罪判決を下した。有罪判決は、カトリック教会の高位聖職者に対する信者や国民の目が厳しいことを物語っている。

 興味深い点は、同時期、フランシスコ法王はチリのサンチャゴ大司教で同国教会の最高指導者リカルド・エザッティ枢機卿(77)の辞表を受けいれていることだ。チリ教会では聖職者の未成年者への性的虐待事件約150件(250人以上の犠牲者)が捜査対象となってきた。フランシスコ法王は昨年6月10日、聖職者の性犯罪の隠蔽に関与したとして1人の大司教と2人の司教の辞表を受理している。同枢機卿自身は、「自分は容疑内容を隠蔽したことがない」と無罪を繰り返し強調してきた。

 フランシスコ法王はチリ教会の聖職者性犯罪問題では信者や犠牲者たちから批判されてきた聖職者をかばい、「彼が性犯罪を隠蔽した証拠はない」と主張し、後日、自身の判断の間違いを認めざるを得なくなった、といった大失策を犯した。

 フランシスコ法王は今回、聖職者の性犯罪を隠蔽した容疑で執行猶予付きながら有罪判決を受けたバルバラン枢機卿の辞表を受け入れなかったことで、リヨン大司教区ばかりか、フランス教会にも戸惑いが見られる。

 ちなみに、バルバラン枢機卿とエザッティ枢機卿の辞任申し出に対するフランシスコ法王の対応が異なったのは前者が68歳と若いが、後者が現役司教の実質的定年の75歳を超えていたから、という声も聞かれる。

 聖職者の未成年者への性的虐待問題では犯罪を犯した聖職者だけではなく、それを隠蔽した教会上層部の責任も大きい。フランシスコ法王は聖職者の性犯罪では“ゼロ寛容”を強調してきたが、性犯罪を隠してきた教会上層部への対応で“揺れ”が見られることは事実だ。

 フランシスコ法王自身もブエノスアイレス大司教時代、聖職者の性犯罪を知りながらそれを隠してきたという容疑が囁かれてきた。法王には、性犯罪を犯した聖職者とその事実を隠してきた教会指導者は同罪であるという認識に欠けている。

 バチカンで先月22日から4日間、聖職者の未成年者への性的虐待問題への対策をテーマに世界司教会議議長会議(通称「アンチ性犯罪会議」)が開催されたが、その後も聖職者の性犯罪が報じられている。

 オーストリア教会の最高指導者シェーンボルン枢機卿は24日、同国日刊紙クローネンとのインタビューの中で、カトリック教会の聖職者による性犯罪が絶えない背景について、「イエスの福音を生活で正しく実践していないからではないか」と指摘している。

米中の「欧州情報戦」の覇権争い

 幸い死傷者が出ず、事前に防止されたこともあって、11人のテロ容疑者の逮捕というニュースはあまり注目されなかったが、ベルリンからの情報によると、ドイツのヘッセン州とラインラント=プファルツ州で治安部隊が容疑者宅を奇襲し、合わせて11人のテロ容疑者を逮捕した。主犯はオッフェンバッハ出身の21歳の男性とヴィースバーデンの31歳の2人の男性の合わせて3人。フランクフルト検察当局が22日発表した。

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▲NSA本部(NSAのHPから)

 これまでの捜査で明らかになったことは、容疑者たちはイスラム過激思想を動機とした大規模なテロを計画していた。彼らは「不信仰者を可能なかぎり多く殺害する」と考えていたという。 ニュージランド(NZ)中部のクライスチャーチにあるイスラム寺院(モスク)で15日、白人主義者による銃乱射事件が発生し、50人が死亡した直後ということもあり、欧米主要国ではNZの事件に反発したイスラム過激派による報復テロを警戒していた。それだけに、大量殺人テロを計画していたグループを事前に拘束したドイツ当局は大きな手柄を立てたわけだ。

 話はスペインに飛ぶ。駐スペイン中国大使館の呂凡大使は今月15日、マドリードの大使館で記者会見を開き、「スペインが米国の要求に応じ、ファーウェイ(中国通信機器大手・華為科技)をスペインの通信網から追放するようなことがあれば、スペインと中国間の経済関係に大きな支障が生じるだろう」と警告を発した。そのニュースが報じられると、スペイン国内で「中国大使の警告はヤクザの脅しだ。中国側が最初にすべきことは、ファーウェイが中国共産党政権のスパイ活動を支援していないことを証明することだ」と反発する声が飛び出している(海外中国メディア「大紀元」3月18日)。

 スペインと中国間の貿易総額は昨年836億ドルで過去最高だった。中国企業のスペイン市場への投資も増加し、バレンシア湾やビルバオ湾は中国企業が大出資している。「大紀元」によれば、米国が先月末バルセロナで開催された電子機器展示会・携帯世界会議(MWC)に関係者を派遣し、ファーウェイの機器やサービスを使用しないよう働きかけたという。中国大使の警告はそれを意識したものだろう。

 次に、スイスに飛ぶ。ベルン駐在の米国大使館はスイス政府に対し、スイス国内で中国の通信技術の利用に懸念を表明したという。スイスのニュースサイト「スイス・インフォ」(3月18日)によると、「同国の通信大手サンライズはファーウェイの技術を利用し5Gネットワークを構築する計画を進めている。ファーウェイはスイスの主要な大手通信会社と提携している」という。

 トランプ米政権はファーウェイが中国共産党政権のスパイ工作を支援しているとして、同盟国に対し、ファーウェイを政府の入札から追放するように呼び掛けてきた。それに対し、ファーウェイ側は今月初め、米国の「スパイ工作容疑」を否定し、米国政府を相手取りテキサス州の裁判所に提訴したばかりだ。

 欧州連合(EU)はファーウェイ対策では分裂している。中国側の投資を期待して中国に傾斜してきた加盟国は13カ国にも及ぶ。それに対し、トランプ米政権は「ファーウェイを政府入札から排除しない国に対しては米国は今後情報協力をしない」と警告を発している。具体的には、米国家安全保障局(NSA)ら同国諜報機関がイスラム系過激テロ活動の情報を入手したとしても提供しない、という情報ボイコット宣言だ。

 思い出してほしい。NSAが2013年、欧州の盟主ドイツのメルケル首相の携帯電話を盗聴していることが発覚して大きな波紋を投じた。内部告発サイト「ウィキリークス」は2015年6月、「NSAが3代のフランス大統領の通信を傍受していた」と指摘、その関連文書を発表し、大きな話題を呼んだこともあった。 米国の情報網は欧州全土に広がっている。情報戦争時代では敵国、同盟国の区別は極めて希薄となってきた一方、盗聴を含む情報技術は急速に発展してきた。情報戦争では情報収集技術の有無が決定的だ(「私の本当の友人は誰?」2015年6月26日参考)

 欧州の情報機関の多くはNSAやCIAなど米諜報機関から情報提供を受けてきた。このコラムの最初にドイツのテロ情報を紹介したのは、ドイツ連邦情報局(BND)が米国側の情報提供を受け、テロを未然に防げた、ということを思い出すためだ。その重要な情報源がストップされれば、欧州のテロ対策も大きく後退せざるを得なくなる。

 トランプ米政権は同盟国に対し、「ファーウェイをとるか、米国との情報協力を維持するか」の選択を強いているわけだ。もう少し客観的に表現するとすれば、「(ファーウェイなどを駆使した)中国の情報工作の拡大に対し、(欧州全土で情報戦の主導権を握ってきた)米国が必死に防衛に乗り出してきた」ともいえるかもしれない。

イチロー「外国人となることの意義」

 大リーグ・マリナースのイチローの外野手(45)が21日、引退を表明した。その日は来ると誰もが考えていたが、やはり到来した。日米メディアはイチロー引退表明を大きく報道した。偉大な実績を残した、稀有な選手だったと改めて感じる。

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▲イチローのキャリアを称賛するニューヨーク・ヤンキースの公式ツイッター

 イチローのプロ野球選手としてのキャリアや実績は日本のスポーツ記者の記事を読めば分かる。ここでは、イチロー選手の引退表明後の会見記事を読んで当方が感じた点をまとめた。

 1時間20分を超える長時間の会見の後半、イチローが答えた以下の発言を紹介する。

 「アメリカに来て、メジャーリーグに来て、外国人になったこと、アメリカでは僕は外国人ですから。このことは、外国人になったことで人の心を慮ったり、人の痛みを想像したり、今までなかった自分が現れたんですよね。この体験というのは、本を読んだり、情報を取ることができたとしても、体験しないと自分の中からは生まれないので」(AERA dot3月22日配信)

 イチローの「外国人になった」自分の発見とそれに伴うさまざまな世界は、イチローがいうように、本を読んだり、インターネットでサーチしたとしても実感としては理解できないだろう。日本のプロ野球で大きな実績を上げて大リーグ入りしたイチローにとっても、「アメリカでは僕は外国人ですから」と感じたわけだ。イチローはその「外国人」の自分を発見することで、「人の心を虜ったり、人の痛みを想像したり、今までなかった自分が現れたんですよね」と説明する。彼は「外国人」としてのステイタスが時間の経過と共に自身の精神世界を広げていったと証したのだ。簡単なことではない。

 一般的にいえば、「外国人であること」は決して快い状況ではない。「外国人」であるゆえに馬鹿にされ、中傷され、誤解された経験は「外国人」に一度でもなった人ならば程度の差こそあれ体験しているだろう。もちろん、「外国人であること」が全てネガティブなわけではない。ポジティブなこともあるだろうが、「外国人」になった当初は残念ながら前者の体験の方が多い。ただ、「外国人であること」を長い間味わっていくうちに、イチロー選手のように後者の体験が多く生まれ、人間として成長できる契機ともなるわけだ。

 「外国人」となるためには、生まれた母国を去り、異国で生活することだ。一方、自国で外貌も言語も服装も違う人間に出会った場合、「彼(彼女)は外国人」だ。「外国人」の生活を10年間務めた後、母国に帰れば、彼(彼女)は「外国人」の衣を脱ぎ、通常の国民の一人に戻る。その意味で、「外国人」という立場は決して永続的なステイタスではない。

 21世紀は移民時代といわれる。経済移民ばかりか、政治移民、環境移民など様々な形態の移民が生まれている。その移民を受け入れるかどうかで、欧州では喧々諤々の討議が繰り返されている。少子化に直面し、労働者不足が深刻になった国々ではある一定の移民を受け入れる方向にコンセンサスが出来上がりつつある。

 ところで、移民は「外国人」だ。言語も文化圏も異なる国からの「外国人」だ。その「外国人」がもたらすであろう様々な社会的軋轢を恐れ、移民受け入れを拒否する国もある。問題は単一民族だけの国家はもはや存在しないという現実だ。労働者不足が理由でなくても、様々な「外国人」が住み着いている。

 移民問題を考える場合、イチロー選手のように、「外国人となったことで分かる世界」を多く体験した国民は貴重な人材だ。彼らは、移民問題を「自国ファースト」からではなく、「外国人」と共存できるグローバル世界へと導くことができる水先案内となれるからだ。

 イチロー選手の証に倣って、「一度は外国人となろう」と呼びかけたい。「外国人」となった時、母国に住んでいた時には感じることができなかった世界が見えてくるのではないだろうか。

「宗教の中国化推進5カ年計画」とは

 トランプ米大統領は目下、2020年の次期大統領選のために様々な戦略を考え、そのために腐心している。一方、第2次冷戦時代のもう一方の雄、中国共産党の習近平国家主席も同じように様々な戦略を考えている。9000億ドルを投入した新マルコポーロ構想「一帯一路」を旗印に、「中国製品2025」で先端技術ばかりか宇宙開発でも覇権を握り、同国の通信関連大手ファーウェイ(華為技術)で5G(第5世代移動通信システム)の市場を制覇する、といった中長期の計画を考えている。トランプ氏との違いは習近平主席の目が来年ではなく、数十年先まで注がれていることだ。もう少し厳密にいえば、ポスト・トランプ時代も計算に入れていることだ。

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▲中国のキリスト信者たち(バチカン・ニュースのHPから)

 共産主義の計画経済は「5カ年計画」を中心に、予算や投資を国家が事前に計画して進めていく。興味深い点は、中国共産党政権は国民経済だけではなく、宗教分野でも「5カ年計画」を立て、推進させているのだ。正式には「宗教の中国化推進5カ年構想」(2018年から2022年)だ。誤解しないでほしい。「宗教の促進」5カ年計画ではなく、「宗教の中国化」推進5カ年計画だ。

 共産主義イデオロギーでは「宗教はアヘン」であり、無神論主義を国是とする。その「宗教」を中国共産党政権が撲滅するというのならば理解できるが、「宗教」の中国化を推進させるというのだ。「宗教」を完全には否定せず、その中国化を進める、という意味に受け取れるわけだ。

 中国共産党政権は「宗教」を撲滅することはできないことを知っている。共産党員の党員数が急減する一方、なんらかの宗教を有する国民の数はもはや共産党員数の数倍といわれる。すなわち、一党独裁を主張する中国共産党員は中国社会では文字通り少数派グループに過ぎないのだ。中国社会の多数派は宗教人だ。中国共産党は、多数派の宗教人と正面衝突をすれば一時的に勝利したとしても最終的には敗北する危険性があると歴史を通じて学んでいる(「中国共産党員の85%が宗教を信仰」2017年8月6日参考)。

 ソ連・東欧の共産党政権は1980年から90年にかけ、次々と崩壊し、消滅していったが、その改革の原動力の一つは宗教運動だった。ポーランドでもヨハネ・パウロ2世の出現で共産党政権は守勢に追いやれ、スロバキアでは「信教の自由」を求める民主運動が共産党政権を崩壊に導いたことは周知の事実だ(大国・ソ連の復興を夢見るロシアのプーチン大統領はロシア正教と連携して国民の掌握に乗り出している)。

 中国でも気功集団の法輪功運動の拡大に直面した江沢民(当時)国家主席は1999年6月、法輪功メンバーの取り締まりを目的とした通称「610公室」という組織を設立し、弾圧していったが、法輪功は消滅するどころか、さらに拡大している(「中国の610公室」2006年12月19日参考)。

 それでは、「宗教の中国化」とは具体的に何か。中国の憲法では「信教の自由」は明記されているが、キリスト教会は壊され、礼拝参加者は拘束されている。一方、中国共産党の官製聖職者組織「愛国協会」に所属しない聖職者は聖職活動ができないだけではなく、生命の危険すらある。

 海外中国メディア「大紀元」日本語版(3月18日)によると、中国で唯一活動が許されているプロテスタント教会は三自愛国運動だが、その徐暁紅委員長は今月11日、北京で開かれていた中国人民政治協商会議で「教会は西側ではなく中国(共産党)の元で動かなければならない」「社会の安定に影響を及ぼし、政権転覆を企てる反中国勢力の行動は失敗するだろう」と述べている。

 中国共産党政権は昨年、ローマ・カトリック教会総本山バチカンと司教任命権で合意したが、その内容は愛国協会が任命した司教をバチカンが承認するというものだった。だから、香港カトリック教会の最高指導者を2009年に離任した陳日君枢機卿は「バチカンは中国共産党に騙された」と警告を発したわけだ。中国のキリスト信者を保護するという名目でバチカン側が中国共産党政権に大きく譲歩した合意といえる。

 一方、宗教に脅威を感じる中国共産党政権は現在、新疆ウイグル自治区で激しい弾圧と同化政策を行っている。「宗教の中国化推進5カ年計画」は目下、新疆ウイグル自治区で最も具体的に実行されているのだ。中国共産党政権はウイグル自治区の宗教(イスラム教)を壊滅できないとしても、中国化はできると信じているわけだ。

 習近平主席は、「宗教者は共産党政権の指令に忠実であるべきだ」と警告を発する一方、「共産党員は不屈のマルクス主義無神論者でなけれならない。外部からの影響を退けなければならない」と強調したことがある。

 中国は国内の多数派の宗教国民に対し、中国への愛国主義(中国ファースト)を義務付けることで、「宗教の中国化推進5カ年計画」を進める一方、自由主義国や国内の資本家、知識人、宗教指導者を味方の陣営に引き込み、同じ戦線に立たせる「統一戦線工作」を推進させているわけだ(「『中国共産党』と『中国』は全く別だ」2018年9月9日参考)。

 中国共産党が党是としている共産主義思想はどこかキリスト教に似ている。共産主義は共産党を救世主、労働者を選民とみなしているからだ。その観点からいうと「宗教の中国化推進5カ年計画」とは、中国共産党という偽宗教が他の宗派に対して宗教戦争を仕掛けたもの、と受け取れるわけだ。
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