ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2019年10月

ちょっと不可解な事務局長選結果

 ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)の特別理事会(35カ国)は29日、7月に急死した天野之弥事務局長の後任事務局長選出を継続し、在ウィーン国際機関アルゼンチン代表部のグロッシ大使を次期事務局長に選出した。IAEA広報部によると、グロッシ氏(58)は24票を獲得、対抗候補者のフェルータIAEA事務局長代行(ルーマニア)は10票に留まった。その結果、グロッシ大使は当選に必要な有効投票の3分の2を超え、第6代事務局長に選ばれた。新事務局長はIAEA総会(加盟国171カ国)の承認を受け、遅くとも来年1月1日から4年間の任期を始める予定だ。 

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▲新事務局長の選出を決める理事会風景(IAEA公式サイトから)

 グロッシ大使の選出がアルゼンチンにとって初の国際機関のトップ就任であり、国民経済が厳しい時を迎えているだけに、同国にとって大きな朗報となるだろう。一方、フェルータ氏は事務局長代行の職務を行う一方で事務局長選に出馬したこと、グロッシ大使のように熟練外交官ではなく、加盟国の支持を得るための外交活動は制限されていた面があった。

 ところで、事務局長選の投票結果をみると、不可解な思いが湧いてくる。今月21日に実施された第1回投票では、1位はグロッシ大使15票、それを追ってフェルータ事務局長代行14票、包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会暫定技術事務局長を務めるブルキナ・ファソ出身のラッシーナ・ゼルボ氏(55)は5票だった。

 上位2候補者による第2回投票ではフェルータ事務局長代行が17票でトップに躍り出、グロッシ大使は16票だった。フェルータ氏がグロッシ大使を抜いてトップに躍り出た。すなわち、フェルータ氏はゼルボ氏支持の5票のうち、少なくとも3票を獲得したことになる(2カ国の理事国が棄権、ないしは欠席した)。

 しかし28日の投票では、グロッシ大使が20票と4票を上乗せし、フェルータ氏は3票失い、14票に後退。そして29日の投票でグロッシ大使は3分の2を超える24票を獲得して当選を決めた。同大使は先週の投票結果から一挙に8票を付け加えたことになる。上位2候補者による投票で8票の支持を一気に増やすということは驚きだ(35カ国の理事国で今回は1カ国が棄権、ないしは欠席した)。

 一方、フェルータ氏は最大票17票から最後は10票に留まり、大きく票を失った。少々サプライズだ。換言すれば、21日の投票から1週間後の28、29日の投票の間に理事国の意向に大きな変動が生じたことを意味するからだ。何があったのだろうか。

 事務局長選出は人気投票ではないし、通常の選挙で考えられる浮動票といったものはない。例えば、日本の場合、どの候補者を支持するかを東京の外務省に問い合わせ、その指示に従って在ウィーン国際機関日本政府代表部の全権大使が投票する。Aを支持すると決定した場合、最後までAに投票する。第1回目はA、第2回目はB候補者といったことは基本的には考えにくい。

 繰返すが、35カ国の理事国の中で支持者を変更した国が少なくとも7カ国あったことだ。その動機は部外者には分からない。天野事務局長の下で仕えてきたフェルータ氏ではなく、新しい顔を選びたいという思いが理事国にはあったのかもしれないし、欧州出身ではなく、今回は南米から、といった地域ローテンションの原則が働いたのかもしれない。
 IAEAは核エネルギーの平和利用を促進する国際機関である一方、「核の番人」と呼ばれ、イランの核問題、北朝鮮の非核化問題などを抱えている。その事務局側のトップが事務局長だ。重要要件は35カ国から構成された理事会が権限を有しているが、事務局長は理事国間の調停などで重要な役割を担っていることはいうまでもない。その事務局長選で今回のようなちょっと不可解な投票結果が生じたわけだ。

 IAEAは核問題を取り扱う専門機関だが、非常に政治的思惑が働く国際機関だ。その事務局長の選出プロセスで理事国の利権などが絡んでくるのは避けられないが、IAEAのトップ選出では米中の激しい外交争いが舞台裏で見られたという。特に、イランの核合意で米中の意見は対立している。

 核軍縮分野の専門家グロッシ大使は親米派だ。中国とロシアの支援を受けたフェルータ氏が上位2候補者による最初の投票でグロッシ氏を抜いてトップに立った時、米国は危機感を持ったはずだ。そこで米国は舞台裏で外交攻勢をかけ、フェルータ氏支持派の理事国を説得し、グロッシ大使を逆転勝利に導いたのではないか。米国がどのような手段で説得したのかは、残念ながら当事国以外には分からない。



 <参考>


 2019年から20年の理事国35カ国リスト
  
 Argentina, Australia, Azerbaijan, Belgium, Brazil, Canada, China, Ecuador, Egypt, Estonia, France, Germany, Ghana, Greece, Hungary, India, Italy, Japan, Kuwait, Mongolia, Morocco, Niger, Nigeria, Norway, Pakistan, Panama, Paraguay, the Russian Federation, Saudi Arabia, South Africa, Sweden, Thailand, the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland, the United States of America and Uruguay.

独州議会選で「極左」と「極右」が躍進

 ドイツの政界図が大きく変わろうとしている。「キリスト教民主同盟」(CDU)と社会民主党(SPD)の2大政党が政界をリードしてきた時代は確実に終わろうとしている。旧東独テュ―リンゲン州議会選(定数90)の投票結果は改めてそのことを実証した。以下、同州議会選の結果を少し検証してみる。

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▲テュ―リンゲン州のボド・ラメロウ首相(テュ―リンゲン州首相府公式サイトから)

 旧東独のテュ―リンゲン州議会選の投開票が27日実施され、ラメロフ首相が率いる与党「左翼党」が約31%の得票率を獲得、第1党に躍進する一方、極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が前回選挙(2014年)比で12・8%増の得票率23・4%で第2党に大躍進した。

 一方、前回選挙では第1党だった「キリスト教民主同盟」(CDU)は21・8%で11・7%減と大幅に得票率を失い、AfDに抜かれて第3党に甘んじた。CDUと共に連邦レベルで連立政権をつくるSPDは8・2%で投票率が遂に1桁台に落ちた。

 議会の議席獲得に必要な得票率5%を超えた政党はその他、「同盟90/緑の党」5・2%、前回議席が獲得できなかった「自由民主党」(FPD)は5%の壁をクリアして州議会にカムバックした。

 この結果、第一党に躍進した左翼党のラメロウ首相は政権の組閣に乗り出すが、左翼党、社民党、そして「同盟90/緑の党」の3政党から成る現政権の得票率を合わせても過半数50%を超えることができず、42議席に留まった。CDUはAfDと左翼党との連立を拒否しているため、ラメロフ首相の連立パートナー探しは難航することは必至の状況だ。

 ただし、同州CDUのモーリング代表は投票日の翌日、「州民にとって安定政権を発足させることは党の利益を優先することより大切だ。その意味で左翼党との連立の可能性を排除しない」と述べ、「同州の事情はベルリンのCDUより我々が知っている」と強調し、左翼党とのいかなる連立をも拒否するCDU本部の方針とは異なる意向を示唆したばかりだ。そこで左翼党とCDUの連立政権が誕生する可能性を予測する声が出てきたわけだ。ちなみにCDUのクランプ=カレンバウアー党首は、「左翼党とAfDへのわが党の立場には変わりがない」と述べ、州CDUを牽制している。

 同州の各党の結果を振り返る。

 「同盟90/緑の党」は議席獲得の最低得票率5%を辛うじてクリアした。連邦レベルの選挙では得票率を伸ばし、欧州議会選で20.5%の得票率を獲得したばかりだが、旧東独では「同盟90/緑の党」のプレゼンスは低いことが改めて確認された。「緑の党」は選挙前、「最低2桁の得票率を獲得したい」と述べていたが、結果は5・2%に終わった。旧東独地域の現実は厳しかったわけだ。同党にとって更なる飛躍のためには旧東独対策が必須となる。ちなみに、9月以降実施された旧東独3州の州議会選の結果は、ザクセン州で8・6%、ブランデンブルク州10・8%、そしてテュ―リンゲン州で5・2%の得票率に終わっている。

 「左翼党」は初めて30%の得票率を得、第1党となったが、同党に投票した有権者は左翼党の政策を支持するというより、ラメロフ首相への信任が厚いからだ。選挙前の世論調査では62%の州国民がラメロフ首相が主導する州政府の5年間の成果を評価していた。

 同首相は「第1党となった以上、わが党が政権組閣の権利があるので、全ての政党と連立で交渉する考えだ」と述べている。

 同州議会では社民党はラメロフ連立政権に参加しているが、与党としてボーナス・ポイントはなく、得票率の低迷にストップをかけられず、得票率は遂に2桁から1桁へ落下、党州議会歴代2番目の悪い結果となった。12月に開催予定の社民党党大会ではCDUとの大連立を継続するかどうかで党内で激しい議論が予想される。CDU/CSUとの大連立政権を担ってきた大政党のイメージはもはやなくなった。

 一方、AfDはCDUを抜いて同州で第2党に進出したが、左翼党、CDU、SPDがAfDとの連立を拒否しているので、政権入りは望めない。2015年の中東・北アフリカからの難民殺到を契機に難民歓迎政策を推進するメルケル首相への批判の声が高まったが、その批判票の最大の受け手は反難民、外国人排斥を訴えたAfDだった。

 ただし、ここにきてAfDの支持者に変化が見られる。投票結果の分析によると、AfDに投票した有権者の約40%はメルケル政権への抗議票ではなく、AfDの政策への確信、自信に惹かれて投票したと答えているのだ。換言すれば、CDUやSPDの既成政党は政治信条への確信を失い、政党としてのプロフィールが揺れてきているわけだ。

 テュ―リンゲン州議会選では極左「左翼党」と極右のAfDが躍進した。社民党の伝統的な支持者(中道左派)は左翼党に、CDUの支持者(中道右派)はAfDに投票したという分析結果が出ている。

 独週刊誌シュピーゲル電子版は28日、左翼党、AfDを“新しい中道”と評し、従来の中道政党だったCDUと社民党は社会の隅に追われていると指摘しているほどだ。

トランプ氏が北に送ったメッセージ

 トランプ米大統領は27日午前、ホワイトハウスで記者会見し、イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)の指導者アブバクル・バグダーディ容疑者がシリア北西部で米軍特殊部隊の軍事作戦で殺害されたと発表した。米国側の説明によると、米軍特殊部隊は26日夜、8機のヘリコプターでシリア・イドリブ県のバグダーディ容疑者が潜む拠点を襲撃。バグダーディ容疑者は家族と共に逃げたが、最後は自爆したという。ワシントンからの情報では、死体は現場で即DNA鑑定され、同容疑者であることが確認されたという。

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▲IS指導者の最後を確認するトランプ大統領らホワイトハウス関係者(2019年10月27日、ホワイトハウス公式ツイッターから)

 米海軍特殊部隊が2011年5月2日、国際テロ組織「アルカイダ」の指導者ウサーマ・ビンラディンを殺害したが、今回のIS指導者殺害は米軍のシリア撤退後のISの再編成を阻止する意味でも大きな成果と受け取られている。

 興味深い点は、北朝鮮の独裁者、金正恩朝鮮労働党委員長がIS指導者の殺害ニュースをどのように受け取ったかだ。金正恩氏は対米交渉で強気に出てきた矢先だ。スウェーデンの首都ストックホルムで開催された米朝実務協議で、北側は「米国の対北制裁の緩和が遅れている」と不満を表明し、北代表団はその直後、「実務協議は失敗だ」と批判したほどだ。

 北側の強硬姿勢の背後には中国からの経済支援がある。そのため、金正恩氏には対米交渉で余裕が出てきたと推測されている。それだけではない。金正恩氏はポスト・トランプを考え、非核化交渉の長期化を狙い、非核化交渉の優先度を下げたといわれている。


 一方、金正恩氏と友人関係を維持したいトランプ氏は北側が非核化に応じる気配がなく、中国に急接近した兆候を見て、今回は親書ではなく、「IS指導者の死」というニュースを配信した格好だ。

 冷戦時代、ルーマニアの独裁者ニコラエ・チャウシェスク大統領夫妻が1989年12月、民主化の新政権のもと射殺されたシーンのビデオが世界に流れたが、そのビデオを観た故金日成主席、故金正日総書記は真っ青になったという話が伝わっている。「次は自分たちだ」という恐怖にとらわれたわけだ。

 トランプ氏はISの指導者の自爆ニュースを発表することで、文通関係の金正恩氏に「いつまでもぐずぐずしていると、こちらの忍耐にも限界があるよ」というメッセージを送ることになったわけだ。恣意的にそのようなメッセージを送ったのか、結果としてそのような効果が期待できるだけか、の判断は難しいが、IS指導者自爆ニュースは金正恩氏を含む世界の全ての独裁者への警告にもなったことは疑いがないところだ。

 北朝鮮には、冷戦時代の東欧のポーランドの独立自主管理労組「連帯」やチェコスロバキアの「憲章77」といった欧米メディアに知られた反体制グループは存在しないが、体制の打倒を目指した言動がこれまで皆無だったわけではない。多くは事前に発覚し、関係者は処刑されてきただけだ。もちろん、龍川駅列車爆破事故(2004年4月)のように、軍部関係者の関与がなくしては考えられないような大規模なサポタージュや暗殺未遂事件も起きている。ただ、それらの事件が外部に知られることはこれまでほとんどなかった。

 朴槿恵前政権時代、国家情報院は核開発を継続する金正恩氏の暗殺計画を練ったこともあった。南北融和政策を標榜する文在寅大統領が就任してからは、そのような計画は聞かないが、その一方、海外居住の反体制派が反金正恩運動を活発化してきた。

 ハノイでの第2回米朝首脳会談の開催5日前の2月22日、スペインの首都マドリードにある北朝鮮大使館に何者かが侵入し、大使館関係者を拘束し、パソコンや携帯電話などを奪って逃げ去るという事件が生じた。海外で北施設への反体制派の活動が報じられたのは初めてだけに、金正恩政権に大きな衝撃を与えたことは間違いないだろう。

 金正恩氏が核実験や核搭載の長距離弾道ミサイル発射の兆候を見せれば、トランプ氏は平壌に米軍特殊部隊を派遣し、金正恩氏の暗殺に乗り出す可能性は完全には排除できない。

 世界がその行方を追ってきたIS指導者が殺害された。次は誰か、世界の独裁者は口にこそ出さないが、苦い思いで呟いただろう。シリアのアサド大統領、ロシアのプーチン大統領、トルコのエルドアン大統領も米国のパワーを改めて確認しただろう。金正恩氏も例外ではないはずだ。

公会議「既婚男性の聖職叙階」を提言

 ローマ・カトリック教会総本山、バチカンで3週間、開催されてきたアマゾン公会議は26日夜(現地時間)、最終文書〈30頁)を公表した。賛成128票、反対41票で採択された最終文書は5章から構成され、牧会、文化、生態的回心などのテーマごとにまとめられている。

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▲最終文書を採択したアマゾン公会議の風景(バチカン・ニュースのHPから)

 その中で注目されるのは、「遠隔地やアマゾン地域のように聖職者不足で教会の儀式が実施できない教会では、司教たちが(相応しい)既婚男性の聖職叙階を認めることを提言する」と明記されていることだ。ただし、同提言は聖職者の独身制廃止を目指すものではなく、聖職者不足を解消するための現実的な対策の印象は歪めない。実際、最終文書では「聖職者の独身制は神の贈物」と改めて強調する一方、「多様な聖職者は教会の統一を削ぐものではない」と説明している。

 アマゾン公会議ではアマゾン地域の熱帯林の保護、アマゾンの原住民の権利保護などが話し合われてきた。その議題の中に女性聖職者の容認、既婚男性の聖職叙階問題が含まれ、集中的に話し合われた。

  „Wir schatzen den Zolibat als Gabe Gottes“, heist es (111), „und wir beten um viele Berufungen zum zolibataren Priestertum.“ Allerdings: rechtmasige Unterschiede schadigten die Einheit der Kirche nicht, sondern dienten ihr, wie auch die Vielfalt der existierenden Riten und Disziplinen bezeuge. Deshalb schlage man angesichts des Priestermangels vor, Kriterien zu erstellen, „um geeignete und von der Gemeinde anerkannte Manner zu Priestern zu weihen, die ein fruchtbares standiges Diakonat innehaben“.(バチカン・ニュース独語電子版)


 アマゾン公会議の提言が世界に12億人の信者を有するローマ・カトリック教会全てに波及するわけではないが、欧米教会の改革派を鼓舞し、独身制廃止への要求が一層高まることは必至だ。アマゾン公会議の既婚男性の「聖職叙階」提言は聖職者の独身制廃止への第一弾と受け取られ、独身制が近い将来、廃止されるのではないか、といった期待の声が既に聞かれる(欧米教会では家庭を持っている常任助祭が聖職を代理行使する場合があるが、アマゾン地域の教会では助祭制度が定着していない)。

 バチカン法王庁のナンバー2、国務長官のピエトロ・パロリン枢機卿はイタリアの日刊紙イル・ ファット・クオティディアーノ(Il Fatto Quotidiano)とのインタビューの中で、「聖職者の独身制について疑問を呈することはできるが、独身制の急激な変化は期待すべきではない。教会の教義は生き生きとしたオルガニズムだ。成長し、発展するものだ」と述べ、「教会の独身制は使徒時代の伝統だ」と指摘、独身制の早急な廃止論には釘を刺したことがある。

 それでは、独身制に神学的な背景があるかというと、事実はまったく逆だ。旧約聖書「創世記」を読めば、神は自身の似姿に人を創造され、アダムとエバを創造された。その後、彼らに「生めよ、ふえよ、地に満ちよ」(第1章28節)と祝福している。独身制は明らかに神の創造計画に反しているわけだ。野生動物学のアンタール・フェステチクス教授は、「カトリック教会の独身制は神の創造を侮辱するものだ」と言い切っている。

 ちなみに、キリスト教史を振り返ると、1651年のオスナブリュクの公会議の報告の中で、当時の多くの聖職者たちは特定の女性と内縁関係を結んでいたことが明らかになっている。カトリック教会の現行の独身制は1139年の第2ラテラン公会議に遡る。聖職者に子供が生まれれば、遺産相続問題が生じる。それを回避し、教会の財産を保護する経済的理由があったという。

 ローマ・カトリック教会の聖職者の独身制は教義(ドグマ)ではない。「イエスがそうあったように」、イエスの弟子たちは結婚せずに聖職に励むことが教会の伝統と受け取られてきた。近代神学の権威者、前法王べネディクト16世は、「聖職者の独身制は教義ではない。伝統だ」とはっきりと述べている。

 生前退位したべネディクト16世の後継法王、南米出身のフランシスコ法王は就任以来、独身制の見直しを示唆してきたが、バチカン内の保守派の抵抗もあって貫徹できずにきた。アマゾン公会議では「礼拝を主礼する神父がいなければ、信者たちの教会離れを加速させる」という南米教会の危機感が浮き彫りにされたわけだ。

 聖職を捨て結婚した元カトリック神父のマーティン・ダイニンガ―氏は、カトリック教会の聖職者独身制については、「聖職者の存在形式を独身制で拘束することは間違いだ。各個人は本来その良心の声に従って生き方を決定すべきであり、神父や修道女が良心に耳を傾けて、自身を解放することを願っている」と述べ、「私は昔、良心を通じて神を感じてきたが、今は妻を通じて神を感じている。その感覚は良心を通じて感じるより以上に激しく、強いものだ。それは驚きであった。私はもはや1人で神の前に出て行くのではなく、妻と共に神の前に出て行く。結婚という絆で、神は私により近い存在となった」と証言していた(「元神父ダイニンガ―氏が選んだ人生」2019年9月10日参考)。

 聖職者の未成年者への性的虐待への対策をテーマに「世界司教会議議長会議(通称「アンチ性犯罪会議」)が今年2月、フランシスコ法王の掛け声で開催されたばかりだ。そして10月、アマゾン公会議では既婚男性の聖職叙階について話し合われたわけだ。両者は密接な関係があることは一目瞭然だ。

 なお、公会議は話し合うが、決定はしない。最終決定はローマ法王の手にあるからだ。フランシスコ法王は年内にもアマゾン公会議の最終文書について最終的な立場を表明する予定だ。

学生が銃をもって講堂に現れた!

 ドイツの情報機関、独連邦憲法擁護庁(BfV)のハンス・ゲオルグ・マーセン前長官は11日、ドイツ日刊紙ヴェルトのオンライン・インタビューで、旧東独ザクセン=アンハルト州のハレで9日起きたユダヤ教シナゴーク襲撃事件について、「治安当局はデモや集会で活動する極右過激派は監視できるが、子供部屋や両親の家に住み、一日中、チャットし、反ユダヤ主義、外国人排斥、女性蔑視に過激化していく極右派を取り締まることはできない。彼らはインターネットを通じて他の過激派と接触するが、事件が起きるまで彼らのアイデンティティーを掌握できない」と述べ、彼らを“オタク・テロリスト”と呼んで話題を呼んだが、欧州最古の総合大学、ウィーン大学で16日、マーセン氏が呼んだ“オタク・テロリスト”に当てはまる学生が武器を携帯して講堂(Saal)に出席していたことが判明し、大学関係者ばかりか、国民にも大きな懸念を呼び起こしている。

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▲ドイツ語圏最古、最大の総合大学、ウィーン大学の正面(2013年4月撮影)

 ウィーン大学は1365年3月122日、ルドルフ4世(ハプスブルク家の当主、オーストリア公)によって創立されたドイツ語圏最古・最大の総合大学だ。コンラード・ローレンツ(動物行動学)、フリードリヒ・ハイエク(経済学者)、人間の血液型を発見したカール・ラントシュタイナーら10人のノーベル賞受賞者が同大学から出ている。欧州の名門の一つだ(「ウィーン大学650年の光と『影』」2015年3月17日参考)。

 学生は物理学を専攻していた。彼が16日、講堂に銃を携帯して現れたのを他の学生が気が付いた。連絡を受けた学校側は学生に銃を持って大学には来ないように注意し、その日は何もなく終わったが、「ウィーン大学の学生が銃をもって大学に来た」というニュースが外部に流れ、メディアに報じられると、大学関係者ばかりか、国民にも衝撃を投じた。

 問題の学生は21日には銃の代わりにナイフを所持して再び学校に現れたが、大学の入口で警備関係者に止められた。学校側は銃携帯を禁止する一方、学校への通学を禁止した。なお、学生は銃所持の許可証を持っていたが、銃を携帯して外出できる許可証はもっていないため、銃関連法に違反することから、銃を押収し、検察当局が学生を調べている。

 米国では大学や高等学校で銃乱射事件が多発し、多くの犠牲者が出ているが、ウィーン大学内で学生による銃乱射事件は発生していない。それだけに、他の学生たちの間にも不安の声が聞かれる。

 メディアの報道によると、学生はトランプ米大統領ファンでオーストリアの極右組織「イデンティテーレ運動」を支持。週刊誌プロフィールによると、学生はツイッターで「可能なだけ多くのイスラム教徒を殺害したい」と書いていた。なお、学生は久しく睡眠障害で治療を受け、薬を常用していたという。

 今回は問題が起きる前に対応できたため不祥事は生じなかったが、非常に危険な実例だろう。米大学だけではない。ウィーンでも銃乱射事件などが起きる危険があることを改めて示したわけだ。ウィーン大の物理学科の講堂に約300人以上の学生が当時いたという。


 学生はなぜ銃を携帯していたか、彼を取り巻く環境はどうだったか、などを慎重に調査する必要があるが、オタク・テロリストの潜在的危険性があったことは間違いないだろう。

 同学生はオーストリアの治安関係者の監視対象にあった人物でもない。マーセン氏がいった「事件が起きるまでそのアイデンティティーはまったく知られていなかった」というオタク・テロリストのカテゴリーに入るわけだ。

 なお、独週刊誌シュピーゲル電子版によると、旧東独のハレのユダヤ教シナゴーク襲撃事件の容疑者シュテファン・B(27)は「失業状況で、友人もなく、母親の下で生活していた」という。自分の部屋に閉じこもり、インターネットで極右思想に染まっていき、「可能な限り、多くのユダヤ人を殺す」と叫びながらシナゴークを襲撃したわけだ(「“オタク・テロリスト”に要注意」2019年10月17日参考)。

難航するIAEA事務局長選

 ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)では、今年7月に急死された天野之弥事務局長の後任選出が進められているが、難航している。21日には特別理事会(理事国35カ国)が開催され、第1回投票が行われたばかりだ。28日午後には第3回目の投票が行われる予定だ。

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▲投票箱を運ぶIAEA関係者(IAEA公式サイトから)

 次期候補者に最初は4人が出馬していたが、非公式の投票(10月10日、15日)の結果、支持者がゼロだったスロバキア原子力安全委員会のジアコバ委員長が出馬を取りやめたため、21日の第1回投票は、フェルータIAEA事務局長代行(ルーマニア)、在ウィーン国際機関アルゼンチン代表部のグロッシ大使、そして包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会暫定技術事務局長を務めるブルキナ・ファソ出身のラッシーナ・ゼルボ氏(55)の3人となった。

 IAEA側の発表では、第1回投票の結果、1位はグロッシ大使15票、それを追ってフェルータ事務局長代行14票、ゼルボ氏5票だった。上位2候補者による第2回投票ではフェルータ事務局長代行が17票でトップに躍り出、グロッシ大使は16票だった。

 当選のためには有効投票の3分の2の支持を獲得しなければならない。理事国35カ国が投票した場合、24票の支持が必要となる。第2回投票のような場合(棄権2カ国)、22票で十分だ。当選者が出るまで投票は繰り返されるが、当選条件を満たす候補者が出ない場合、新たな候補者を立てて投票をやり直すことになる。なお、新事務局長は総会(加盟国171カ国)によって承認を受ける。新事務局長の任期は来年1月1日からスタートする予定だ。

 2019年から20年の理事国は以下の通り。同35カ国が事務局長を選出する。理事会議長はミカエラ・クミン・グラニットIAEA担当スウェーデン大使だ。


 Argentina, Australia, Azerbaijan, Belgium, Brazil, Canada, China, Ecuador, Egypt, Estonia, France, Germany, Ghana, Greece, Hungary, India, Italy, Japan, Kuwait, Mongolia, Morocco, Niger, Nigeria, Norway, Pakistan, Panama, Paraguay, the Russian Federation, Saudi Arabia, South Africa, Sweden, Thailand, the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland, the United States of America and Uruguay.



 参考までに、IAEA事務局長(任期4年)は故天野氏が第5代目だった。天野氏は2009年に初めて当選し、2013年、17年と3選したが、3期目の途中7月18日に亡くなった。4代目はエジプト出身のモハメド・エルバラダイ氏が1997年から2009年まで任期3期を務め、2005年にはIAEAと共にノーベル平和賞を受賞した。スウェーデン外相を務めたハンス・ブリクス氏が1981年から97年の4期を務めた。同じくスウェーデンからシグバード・エクランド氏が61年から81年、そして初代事務局長は米国出身のスターリング・コール氏が57年から61年まで短期間務めた。

 IAEAは核エネルギーを扱う純粋な技術機関だが、加盟国の様々な政治的思惑を無視しては運営できない点で、他の国連専門機関と同じだ。亡くなった天野氏はイランの核合意問題では米国のトランプ政権から嫌われる立場だった。「イランは核合意を順守している」と理事会で報告する度に、米国からバッシングを受けてきた経緯がある。また、北朝鮮の核問題では、IAEA査察官が2009年4月、北から国外追放されて以来、同国の核活動を検証できないなど、難問が山積しているだけに、誰が事務局長に選出されたとしても、その職務は重く、困難が伴なうだろう。

オーストリアと韓国は相性がいい!

 潘基文前国連事務総長(任期2007〜2016年)は退官後も頻繁にウィーンを訪問する。そのたびに同氏は、「オーストリアは私の第2の故郷です」という。これは外交官時代に身についたリップサービスではない。本当にオーストリアが好きなのだ。理由はちゃんとある。同氏の外交官としての輝かしいキャリアはウィーンから始まったのだ。駐オーストリア大使を皮切りに、ソウルに帰った後、2004年から06年まで外相(外交通商部長官)を務め、その後は国連事務総長として出世街道を邁進していった。

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▲「グローバル市民のための潘基文センター」設立記者会見、左・潘基文氏、中央・クルツ首相、右・オーストリア前大統領のフィッシャー氏(2018年1月3日、オーストリア連邦首相府内で)

 ウィ―ンは同氏の出世の道を開いてくれた運のいい街だ。感謝しないほうが可笑しい。それだけではない。同氏の名前を付けた「グローバル市民のための潘基文センター」(NGO)が昨年1月3日、ウィーンで設立されたばかりだ。韓国はオーストリアとは俗にいう「ケミーが合う(相性がいい)関係」なのだ。以下、その点を説明する(「潘基文氏の退職後のライフワーク」2018年1月7日参考)

 韓国の初代大統領、李承晩氏(在任1948〜60年)の奥さんはオーストリア人女性、フランチェスカ・ドナーさんだった。奥さんは韓国で生涯を終えた。韓国でハンセン病が広がった時、最初に支援に乗り出したのはオーストリアのカトリック修道女たちだったという。中欧の小国オーストリアと極東アジアの韓国の間の人的交流の歴史は長い。

 このコラム欄で少し書いたが、オーストリアと韓国両国の戦中、戦後の政治情勢は案外似ている。ハプスブルク王朝が崩壊した後、オーストリアは共和国(第一共和国)となったが、多くの国民はその精神的支柱を失った。その時、ナチス・ドイツが1938年、オーストリアを併合した。多くの国民は併合を喜び、ヒトラーのウィーン凱旋では20万人の市民が歓迎した。その一方、オーストリア国内でも反ナチス運動が展開され、多くの国民がその犠牲となった。ナチスに対する強い抵抗運動があったのだ(「ヒトラーの『オーストリア併合』80年」2018年1月3日参考)。

 第2次大戦の敗北後、オーストリアは「モスクワ宣言」に基づき、ナチス・ドイツの最初の犠牲国として歩きだしたが、国是として中立主義を掲げ、国連をウィーンに誘致した(ドイツとオーストリアは言語は同じだが、ドイツ人はゲルマン民族であり、オーストリアはケルト民族)。

 韓国は日韓併合後、約40年間、日本の統治下あった。韓国内では日本の植民地化を潔しとしない独立・抵抗運動もあったが、日本の統治下で国の発展に積極的に乗り出す国民が出てきた。韓国は第二次大戦では旧日本軍と一緒に連合軍と戦った。敗戦後は、再独立して経済発展に乗り出したことは周知の事実だ。

 一方、韓国は戦後、軍事政権を経て民主主義国として再スタート。為政者たちは国民の結束を強め、愛国心を鼓舞するために旧支配国・日本への「反日」カードを駆使してきた(「韓国よ『反日』と『愛国』は全く別」2018年11月25日参考)。

 興味深い点は、朝鮮半島が南北に分断された後、北朝鮮は民族の自主性を強調する「主体思想」を掲げて民族の復興に乗り出した一方、韓国は旧統治国への憎悪を国民の結束の原動力に利用していったことだ。民族の自主性を強調する北朝鮮に対し、韓国はひけめを感じてきた面が否定できない。

 韓国聯合ニュースによると、「金正恩朝鮮労働党委員長は南東部の景勝地・金剛山を視察した際、韓国側と共同で進められた金剛山観光事業を『南(韓国)に依存しようとした先任者の政策は大変に間違っていた』と批判し、南側の施設をすべて取り除き、金剛山の自然景観にふさわしい現代的な施設をわれわれ式に新たに建設すべきと指示した」という。金正恩氏の発言の真意は明らかではないが、北にとって民族の自主性、主体性が常に重要となるわけだ。

 戦後、オーストリアは中立主義を掲げ、1990年代後半に入って戦争責任を認めたが、韓国は「反日」に固執し、日韓併合、大戦の敗北といった事実を直視できずにきたわけだ(「韓国はオーストリアに倣え!」2019年10月23日参考)。

 ちなみに、オーストリアには「韓国・オーストリア友好協会」と「北朝鮮・オーストリア友好協会」の2つの団体が存在する。冷戦時代は双方の交流はまったくなかった。北朝鮮はウィーンに欧州工作の拠点を構築する一方、フィッシャー大統領ら政界の要人との人脈を作り上げていった。韓国は国民議会議長の国民党幹部を友好協会の議長に迎え、後者と対抗してきた歴史がある、といった具合だ(「ウィーンで展開された『北』工作活動」2017年11月29日参考)。

 ただし、冷戦が終焉し、文在寅大統領の南北融和政策もあって、両者の友好協会の壁は壊れ、双方の交流が進められてきている。韓国の建国記念日の祝賀会にはフィッシャー氏や「北朝鮮友好協会」のエデュアルト・クナップ会長の姿も見られるなど、南北の融和は現実化してきた(「韓国『開天節』ウィーン祝賀会風景」2019年10月4日参考)。

 潘基文氏の「オーストリアは私の第2の故郷」という発言は、もちろんモーツアルトやシューベルトらが活躍した「音楽の都」だからではなく、やはり両国の歴史には酷似している部分があるからだろう。

スイスで「高齢者の犯罪」が増加

 スイスといえば、日本人が1度は訪問したい欧州の国のひとつだろう。アルプスの小国は景色が美しく、治安が安定し、国民経済も豊かというイメージがある。実際、スイスは他の国と比較した場合、それは当たっている。卑近な例だが、同じアルプスの小国オーストリアと比べてみても、国民1人当たりの所得はスイスが高い。だから、スイスで稼いでオーストリアに住めばいいが、逆の場合、生活は少し厳しくなる、といった具合だ。

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▲スイスのリゾート地アローザ(スイス政府観光局公式サイトから)

 前口上はここまでにして、スイスで高齢者による刑法犯件数が増加してきたというニュースが入ってきた。スイス・インフォのニュースレターによると、60歳以上の国民の刑法犯件数が2011年から18年の間に30%増加したという。ただし、同時期、社会の高齢化もあって、60歳以上の国民の数が15%増加しているから、件数の増加率は少し下がる。それにしても、アルプスの中立国、経済的に恵まれているスイスで何が起きているのだろうか。

 チューリヒ応用科学大学(ZHAW)犯罪防止研究所のディルク・バイア―教授によれば、60歳以上の国民の犯罪は侮辱、暴行、万引きが3大犯罪という。そのほか、過失傷害、詐欺、セクハラ、脅迫、名誉棄損、公務執行妨害などが多い。

 重要な点は高齢者の犯罪動機だが、バイア―教授によると、他の年齢のそれと大きな違いはないという。ゞ発性、貧困、社会的認知の欠如、だ鎖声栖機↓ゼ匆餞超だ。その中で興味がある動機は△良郎い澄スイスでは65歳以上の貧国率は約15%であり、貧困が犯罪の主要動機とは受け取られていない。ちなみに、スイスでも様々な社会的支援や保障があるが、それだけでは十分ではないから、生活苦に陥る高齢者も出てくる。

 スイス・インフォによると、い寮鎖声栖気亡慙△垢襪、2018年に殺人で起訴された高齢者は22人、そのうち80歳以上は6人だ。認知症やパーキンソン病が高齢者の間で増加してきたが、さまざまな精神疾患が今後、高齢者の主要な犯罪動機となることも予想される。

 先進諸国では高齢化、少子化は急速に広がっている。高齢者の犯罪件数の増加はある意味で当然かもしれない。バイア―教授は「高齢者の犯罪は依然、全体から見ればマイナーだ」と述べているが、今後、そうとは言い切れないわけだ。

 これまで犯罪の増加といえば、青少年の犯罪増を意味した。精神的に不安定な一方、体は成長する。青少年を守るべき家庭は崩壊し、学業でも悩む若者が少なくない。年々、犯罪に走る若者の年齢は低下してきた。その一方、欧米先進国で高齢者の犯罪問題がテーマとなってきたわけだ。

 スイスばかりではない。ドイツでも高齢者の犯罪問題がメディアでも話題となってきている。特筆すべき点は、「青少年の犯罪」も「高齢者の犯罪」でも、犯罪動機が「貧困」にあった時代は過ぎ、精神疾患、偶発性といった新たな動機が台頭してきていることだろう。

 当方が住む欧州では、1人住まいの高齢者が多い。家庭は崩壊し、孤独に苦しむ高齢者は益々増えてきた。英国では孤独対策の関係省が設置され、ドイツでも同じような計画を聞く。周囲に家族はなく、1人住まいの孤独な高齢者の増加は犯罪増加の遠因ともなる。犯罪は時代、社会を反映する。スイス・インフォの「高齢者の犯罪増加」ニュースは深刻な内容を含んでいる。

韓国はオーストリアに倣え!

 「韓国は『ドイツに倣え』というが…」というコラムを掲載したが、読者から「韓国はオーストリアに倣え」というコメントを頂いた。このコメントは非常に正鵠を射ている。韓国の戦後の対応は非常にオーストリアのそれと酷似しているからだ。ただし、オーストリアは戦後問題の課題を克服できたが、韓国は依然、苦慮している、という違いはある。以下、少し説明する。

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▲「漢江の奇跡」をもたらした韓国の朴正煕大統領

 オーストリアは1938年、アドルフ・ヒトラーを率いるナチス軍に併合された。その段階でオーストリアは消滅した。
 韓国は1910年、日本に併合された。その段階で国際法的に韓国は消滅した。

 ナチス・ドイツ軍は敗戦し、オーストリアも敗戦国となった。
 日本は敗戦した。しかし、韓国は「わが国は旧日本軍の占領下にあって民族の自立のために戦ってきた。だから、戦勝国だ」と主張し、戦勝国入りを希望したが、米国ら戦勝国から拒否された経緯がある。

 オーストリアは戦後、久しく、ナチス軍の戦争犯罪の最初の犠牲国と主張。世界ユダヤ協会から「オーストリアはナチス軍の戦争犯罪の共犯」と反論された。
 韓国は戦後、旧日本軍の植民地政策から解放されたと受け取り、日本に戦争賠償を機会ある度に要求してきた。

 オーストリアでワルトハイム元国連事務総長が大統領に立候補すると、同氏のナチス戦争犯罪容疑が浮上し、世界ユダヤ協会やメディアから叩かれた。欧米諸国はワルトハイム氏が大統領に就任すると、対オーストリアへの外交制裁に乗り出した。

 韓国の朴正煕政権(当時)は日本から日本統治時代の補償金性格の援助金を入手し、それをもって韓国の国民経済を復興させた(「漢江の奇跡」と呼ばれた)。その後、韓国では日本に対して反日運動が高まり、慰安婦問題などを掲げてを日本を批判し、歴史の清算を要求してきた。

 オーストリアがヒトラーの戦争犯罪の共犯だったことを正式に認めたのはフラニツキー政権(任期1986年6月〜96年3月)が誕生してからだ。フラニツキー首相はイスラエルを訪問し、「オーストリアにもナチス・ドイツ軍の戦争犯罪の責任がある」と公式の場で初めて認めたことから、同国で歴史の見直しが始まった。そこまで到達するのに半世紀余りの歳月が必要だった(「ワルトハイムと民族の『苦悩』」2018年4月7日参考)。

 韓国は戦争で日本の植民地から解放されたと受け取り、日韓併合の歴史的事実を無視、日本の戦争責任を追及して今日に至る。

 以上、簡単にオーストリアと韓国両国の戦後の動向をまとめた。両国が酷似しているのは、日韓併合、ナチス・ドイツへのオーストリア併合(Anschluss)、そして戦争犯罪の関与を否定してきた時までだ。一方、相違点は、上述したように、オーストリアはフラ二ツキ時代に大きな転換をし、戦争責任の共犯を認めたが、韓国は日韓併合という歴史的事実すら否定し、韓国は日本の植民地政策で弾圧され、第2次世界大戦で解放されたと受け取ってきた。だから韓国は「オ―ストリアに倣え」という檄が飛び出してくるわけだ。

 韓国も過去、歴史の見直しのチャンスがあった。朴正煕大統領時代(任期1963年12月〜1979年10月)だ。「高木正雄」という日本名をもつ彼は旧日本軍に所属し、旧日本軍と共に戦った体験がある。すなわち、日韓併合を体で経験した政治家だった。彼がオーストリアのフラ二ツキ首相のように、「わが国は日本と同様、第2次世界大戦の敗北国だった。戦争責任の一部は韓国側にもある」と表明すれば、大きな転換となっただろう。文在寅現政権のような、歴史の書き換えは生じなかったかもしれない。

 オーストリアは「歴史の正しい認識」まで半世紀を要した。韓国は戦後70年以上を経過したが、依然、民族の歴史を直視できないでいる。韓国よ、オーストリアに倣え!

「考える葦」の語る内容が問われる

 このコラム欄で「人は『運命』に操られているのか」というタイトルの記事を書いた。年をとったせいか、人間の力ではどうしょうもない運命に強い関心がある。その時、オーストリアの最大手日刊紙「クローネ」日曜版(10月20日)に医者で神学者のベストセラー作家、ヨハネス・フーバー氏(73)が「運命の解剖学」(Die Anatomie des Schicksals)という新書を出したという記事を読んだ。著者は「人に影響を与える運命がどのようにして生まれてくるか」を説明している。

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▲「人間は考える葦」と述べたフランスの哲学者ブレーズ・パスカルの肖像(ウィキぺディアから)

 著者は婦人科医で40年あまり出産に立ち会ったが、「出産時、赤ちゃんは既に一定の運命を持っている。スマイルで生まれる赤子、怒ったような泣き声で生まれてくる赤子、静かに生まれてくる赤子などさまざまだ。両親、祖父母などからその気質を既に継承してきているのが分かる。人はそれを運命と呼ぶかもしれない。親が考えてきた『思考』の世界は子に継承される。『思考』にはエネルギーが必要だ。そしてエネルギーを通じて物質化された『思考』はその人が死んだ後、様々な形態で宇宙に生き続ける」と説明している。

 先代、先々代の「思考」の世界が埋め込まれたDNAが代々、継承されていくという。当方に興味深い点は「思考」、「考え」が物質化して継承されるということだ。

 著者が指摘するように「思考」はエネルギーを通じて物質化され、その「思考」は人間が死んだ後も生き続けるという。それを読んで理解できたことがある。ユダヤ人が身近に住んでいないのにポーランドではなぜ反ユダヤ主義が席巻するのか、旧ソ連・東欧諸国の共産政権が崩壊した後も共産主義が生き続け、最近では復活すら見えだした現象、西欧諸国で見られる反イスラム傾向などの背景について、生きてきた人間の「思考」が物質化してエネルギーとして宇宙に散らばり、その思考がその後、地上の人間にいろいろな影響を与えているという考えだ。

 反ユダヤ主義を例に挙げれば、ポーランドでは戦後、ユダヤ人の数は少ないが、反ユダヤ主義は依然、広がっている。その謎を解くのは、反ユダヤ主義の「思考」で生きた多くのポーランド人が亡くなった後も、その反ユダヤ主義という思考が物質化して生き延び、その後の世代に影響を与えていると理解できるわけだ。

 著者は「現代は進化発展生物学(Evodevo)の時代だ。進化は神の業だ」という。科学者が答えることが出来ない2つの問いがあるという。1点は「宇宙にある自然法はどこからくるのか」、2点は「宇宙形成の最初の条件はどこからくるのか」だという。

 著者によれば、運命は一見、偶然の業といった響きがあるが、そうではなく、先祖代々が蓄積してきた「思考」、「気質」などが後世代に影響を与える現象ということになる。それだけではない。人間は過去の運命を背負って生まれるが、生きている時にその運命を変えることができるばかりか、良き運命を生み出し、後孫に残すことが出来るという。

 蛇足になるが、韓国では反日が強く、国を挙げて反日活動を奨励してきた。その思考、思想は現政権が崩壊し、新政権が生まれてきたとしても消滅することはなく、物質化した「反日」思考は影響を与える。極端な場合、韓国に反日感情が無くなってきたとしても、、半島には「反日」が消えない、といった現象すら予想できるわけだ。

 反日だけではない。人間の思考がどれほど大きな影響を世代を超えて与えるかを考える場合、何を話し、何を考え、何を信じるかが如何に重要なテーマかが分かる。人を罵倒し、人の心を傷つけること、憎み恨むことなどが何世代にも渡って悪影響を与える状況を考えなければならない。フランスの哲学者パスカルは「人間は、自然の中で最も弱い葦の一本に過ぎないが、それは考える葦である」と述べた。その「考える葦」の語る内容が今、問われているわけだ。
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