ハンガリーで1988年6月、ユーゴスラビアのベオグラード店について東欧第2号のマクドナルド店がオープンした時の話だ。
 ハンガリー第1号店はブタペスト市のペスト地区の繁華街バーツィー通りから少し横道に入ったレギポスタ通りにあった。
 マグドナルド店のオープンは数カ月前からクチコミで流れていたから、多くの市民は開店日を首を長くして待っていたほどだ。
 開店数時間前には既に多数のブタペスト市民が長い列を作っていた。当方はその列の先頭に立っていた。ここで少し弁明するが、当方はハンバーガー・ファンでも、空腹で苦しかったわけでもない。ブタプスト市民の波動を肌でキャッチするために列に加わっていたのだ。
 時間が来た。戸が開いた。列が大きく揺れ動く。青年たちは素早くカウンターに殺到した。老人たちも負けない。当方も彼らについて走った。店の第1号客という名誉は得られなかったが、ハンガリーでマグドナルドのビック・マックを初めて食べた“最初の10人”には入ったはずだ。
 当時、ビックマック1個が43フォリント、ハンバーガー1個が25フォリントだった。ブタペスト市民の平均所得からみると、かなり高価だ。それでも、皆は不満を言わなかった。
 席に座ってゆっくりと食べることはできないから、多くの客はテイクアウトした。彼らの顔には一様に「何かを達成した」といった満足感があった。
 「これが噂のハンバーカーか」「これが米国のファースト・フードか」といった面持ちだ。米食文化との出会いの瞬間でもあったのだ。ちなみに、ブタペストの第1号マクドナルド店は1年後、1日売上高で世界1を記録している。
 米ハンバーガー店の開店が大きなニュースとなった冷戦時代の終焉直前の懐かしい思い出だ。