ウィーンに本部を置く国連工業開発機関(UNIDO)は1986年から昨年末までに北朝鮮に対して78件の支援プロジェクトを推進し、その総支援費用は約3000万ドル(約34億8000万円)にもなる。その内、15のプロジェクトが現在も進行中だ(モントリオール・プロトコール基金の拠出プロジェクトが増えている)。
 UNIDOは過去、羅津・先鋒経済自由地帯を推進するなど、北朝鮮の経済復興を支援してきた。2005年度には6プロジェクト、昨年度は4プロジェトが承認され、履行中だが、両年の対北総支援費用はいずれも200万ドル前後だ。対北事業の透明性が欠如するとして今年3月1日で対北支援を中断した国連開発計画(UNDP)の対北支援総額は05年度210万ドル、06年度320万ドルだったから、UNIDOの対北支援はそれに匹敵する規模だ。
 保健、福祉、環境などの分野で対北支援を実施してきたUNDPは今年1月25日の執行理事会(理事国36カ国)で、米国の批判を受けて、対北支援の透明性を高める措置を検討し、北朝鮮側に善処を要求してきたが、同国からの返答が十分でないとして支援の中断を決定したばかりだ。北朝鮮外務省は3月13日、UNDPの資金流用の容疑に対し、「明らかに政治的な不純な目的に基づき、人道的な協力を中断した」と強く反発している。
 さて、UNIDOの対北支援プロジェクトの透明性はどうであろうか。UNIDOは過去、職員の腐敗、汚職、ネポティズム(縁故主義)などが表面化し、機構の改革と縮小を余儀なくされてきた。米国は1996年末、UNIDOの非効率な運営などを理由に脱退したほどだ。
 興味を引く点は02年から06年間の5年間で30件以上のプロジェクトが新たに承認されるなど、対北支援プロジェクトが急増していることだ。換言すれば、北朝鮮のユン・ソンリム氏がUNIDOにコンサルタントとして出向して以来、対北支援プロジェクトが急増しているのだ。同氏は駐フィンランドの北朝鮮参事官を勤めた後、ローマの国連食糧農業機関(FAO)などを経てUNIDOに出向している。
 米国はUNDPの対北支援資金が北朝鮮の核計画に流出していると批判してきたが、UNIDOの対北支援計画では沈黙を守っている。それは米国がUNIDOの加盟国でないからであって、UNIDOの対北支援活動が公正に行われていることを証明するものではない。ちなみに、米国の脱退後、日本がUNIDO最大の分担金負担国だ。その意味で、対北プロジェクトの透明性問題は日本にとって大きな問題であるはずだ。なお、UNDPの対北支援240万ドルがストップされたうえ、国連安保理の対北制裁の履行もあって、UNIDOの本年度対北支援プロジェクトは目下、予定されていない。