当地でも最近、バーンアウト(Burnout、燃え尽き症候群)に陥る人々が増えてきた。これまでやる気をもって仕事に取り組んでいた人がある日、突然、気力を失い、次第に言動に精細を欠いていく。最悪の場合、欝状況に陥る。
 バーンアウトに陥るには人それぞれ原因があるという。その人の性格やキャリア、そして気質まで関ってくるらしいから、ある状況下に陥ると全ての人が同じ症状になる、というわけではない。その為、万能薬を開発するのが難しいわけだ。
 ところで、やる気を奮い立たせることは生きていく上で重要なことだ。現代的にいえば、モチベーションを如何に鼓舞するかだ。
 このようにすればモチベーションは確実に高まる、といったノウハウがあればいいが、実際は人それぞれが独自の方法で取り組んでいるのが現状だろう。
 ここで読者に独特の方法でモチベーションを高めていった人物を紹介する。戦後ドイツ語圏の代表的作家、オーストリア人のトーマス・ベルンハルト氏(Thomas Bernhard、1931〜89年)だ。
 同氏は生前、新しい家を買う癖があった。その理由を聞かれると、同氏は「新しい家を購入すれば借金が増える。それを早く返さなければ大変だという思いが強まる。そこで新しい作品を書かなければならない、といった動機が湧いてくるのだ」と答えたという。
 増え続ける借金は通常、その人にとって大きな負担だが、ベルンハルト氏にとってはやる気を奮い立たせる貴重な手段であったわけだ。
 初期長編小説「霜」から「理由」「地下室」、そして「消去」までを残した同氏は1989年、オーストリア北部オールスドルフで死去したが、自分の戯曲を新たに上演することを禁止する遺言を残している(最近になって同氏の劇作品が上演できるようになった)。
 いずれにしても、ベルンハルト氏のようにやる気を奮い起こさせるためにハウスを買い、借金を増やすことを読者の皆様に勧める考えは毛頭ない。ここでは増える借金もやる気を燃やさせる要因となることがある、という実例を紹介しただけだ。
 ストレスの多い社会に生きている読者の皆さん、バーンアウトに落ち込まないために独自のモチベーション高揚方法を開発して下さい。