米ハーバード大の著名な歴史・宗教学者カレン・L・キング教授はローマで開催されたコプト学会で4世紀頃の古文書(縦4センチ、横8センチ)のパピルスに、「イエスは『私の妻は……』」と書いてあったと発表した。米ニューヨーク・タイムズが報じて大きな話題となったばかりだ。その内容が事実ならば、イエスが生涯独身であったと信じてきたキリスト教会は教義の大幅な見直しが余儀なくされる。
 そこでイエスの生涯を研究している聖書研究家マーティン・ダイニンガー氏(元神父)にイエスと結婚問題について聞いた。同氏は「イエスが祭司長ザカリアとマリアとの間に生まれた庶子だったことは当時のユダヤ社会では良く知られていたはずだ。その推測を裏付けるのは、イエスが正式には婚姻できなかったという事実だ。ユダヤ社会では『私生児は正式には婚姻できない』という律法があった」という。
 同氏によれば、イエスはザカリアの庶子であったゆえに結婚できなかった。カナの婚姻の宴で、自分(息子イエス)の結婚を忘れ、他の婚姻に没頭する母マリアに対して、イエスは「婦人よ、あなたは、わたしと、なんの係わりがありますか」(ヨハネ2章4節)と厳しく述べている。イエスの哀しい心情が伝わってくる個所だ。

 英国の著作家マーク・ギブス氏(Mark Gibbs)は著書「聖家族の秘密」(Secrets of the Holy Family)の中で、「イエスの誕生の経緯は当時、多くのユダヤ人たちが知っていた。そのため、イエスは苦労し、一部の経典によれば、父親ザカリアは殺される羽目に追い込まれた」と述べている。ダイニンガー氏の主張はギブス氏の見解と通じる。

 ところで、イエスがユダヤ社会では正式に婚姻できなかったとしても、妻帯していた可能性は排除できない。キング教授が今回公表したパピルスだけではない。3世紀頃に編纂された外典「フィリポによる福音書」には、マグダラのマリアをイエスの伴侶と呼び、「イエスはマグダラのマリアを他の誰よりも愛していた」といった記述がある。

 イエスの伴侶として頻繁に登場する「マグダラのマリア」とは誰か。ダイニンガー氏は「マグダラという地名はイエス時代には存在しない。ヘブライ語のMigdal Ederをギリシ語読みでマグダラと呼んだ。その意味は『羊の群れのやぐら』だ。預言書ミカ書4章によれば、「羊の群れのやぐら、シオンの娘の山よ」と記述されている(預言者ミカは紀元前8世紀に登場)。すなわち、マグダラとはイスラエルの女王と解釈できる。そのマグダラのマリアはイエスの足に油を注ぐ。イエスは油を注がれた人、メシア(救世主)を意味する、イスラエルの王だ。イエスとマグダラのマリアは夫婦となって『イスラエル王と女王』となるはずだった」と指摘する。

 ダイニンガー氏の見解が正しいとすれば、イエスは結婚し、イスラエルの王、その妻は女王となって神の願いを果たす計画があったが、選民ユダヤ人たちの不信仰のため十字架上で亡くならざるを得なくなったわけだ。だから、再臨のメシアは必ず結婚し、「王と女王」の戴冠式を世界に向かって表明するだろうと考えられるわけだ。