独カッセル大学のヨハネス・ツィンマーマン教授は、会話の中で「私」という人称代名詞を頻繁に語る人は周辺の社会環境で問題を抱えている人が多い、という研究結果を公表した。

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▲ウィーン市内の風景(2013年4月撮影)

 同教授は精神治療を受ける患者と医者との会話を記述したカルテを参考に、その患者が使用する言葉を分析した。同教授によると、患者の話の中で登場する人称代名詞はその人の心の世界を反映する鏡のようなものだ。その研究の結果、「私」を「私たち」より頻繁に使用する人は人間関係で問題を抱えているケースが多いというのだ。

 ちなみに、ベルリン自由大学の研究家は昨年、過去50年間のポップ・ミュージックのテキストを分析したが、「歌詞の中で“私たち”という言葉が使われるケースが減少する一方、“私”という代名詞が頻繁に登場してきた」という興味深いトレントを指摘している。

 著名な精神分析学者のライハルド・ハラー氏はその新著「ナルシストのケース」の中で、人々の注目の中心に常に立とうとすることはもはや傲慢の業ではなく、理想的と受け取られるようになってきたという。病的なナルシストは全体の1%と推定し、「現代社会では『自己賞賛』の言動が評価される傾向が見られる」という。

 興味深い点は、ハラー氏の新著の内容が先のツィンマーマン教授の研究結果と通じるものがあることだ。現代社会は「私」が氾濫し、自己愛の旺盛なナルシストたちが増えてきたわけだ。

 ローマ・カトリック教会の最高指導者、ローマ法王フランシスコは法王選出前の講演の中で「自己中心的、ナルシストのような教会の刷新が必要だ」と檄を飛ばしている。ナルシスト的傾向は世界最大のキリスト教会内でも見られるのだ。


 いずれにしても、ハラー氏もツィンマーマン教授も、愛される「私」という人称代名詞に潜む現代人の精神的病をズバリ、言い当てている。