“欧州の顔”と呼ばれてきたメルケル独首相(64)の健康状態が懸念されてきた。理由ははっきりしている。

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▲日独首脳会談後の記者会見に臨むメルケル首相(2019年2月4日、内閣広報室提供)

 事の始まりは先月18日、大阪の20カ国・地域首脳会談(G20)前、ウクライナのウォロディミル・ゼレンキー新大統領を迎えてベルリンで歓迎式典が挙行された時、両国国歌演奏中、メルケル首相の体が大きく震えだした。動画を見れば明らかだ。メルケル氏の意思とは無関係に体が激しく揺れだしたのだ。ウクライナ大統領もそれに気づいたという。メルケル氏は記者会見で「水を飲んだので良くなった」と説明、健康不安説を払しょくした。その日のベルリンは30度を超す暑い日だったので、メディアでも「暑さによる脱水症状ではないか」と報じられた。

 そして先月27日、ベルリン大統領府でクリスティン・ランブレヒト法相の就任式があった。式に参席したメルケル氏の体が再び震えだしたのだ。その時、水が運ばれたが断り、震えはまもなく収まった。

 健康不安説が流れたが、メルケル首相は同月28日、29日の両日、大阪市で開催されたG20に参加した。一時期、メルケル氏はG20を欠席するのではないか、という憶測が流れ、ホスト国日本側を心配させたが、メルケル氏は大阪に飛び、予定された全ての行事に参加し、帰国した。

 そして今月10日、3度目の震えが襲ってきた。フィンランドのリンネ首相を迎えてベルリン連邦首相府前での歓迎式典の国歌演奏時に、ウクライナのゼレンキー大統領歓迎式時と同じように震えが始まった。体の震えは第1回目よりも軽く、しばらくすると収まり、式典は終わった。

 メルケル首相はその直後の記者会見で自身の健康問題に対し、「ウクライナ大統領の歓迎式典に生じた発作に対する精神的ショックを完全には克服していないのかもしれない」と笑顔を見せながら、「心配ない。私は大丈夫」と述べ、健康悪化説を払しょくした。ちなみに、ロイター通信は「大丈夫」と語ったメルケル氏の記者会見の内容を速報で流し、メルケル氏重体の警戒解除ニュースを発信している。

 そして11日、デンマークのフレデリクセン首相を迎えた時だ。連邦首相府は歓迎式典の場に2つの椅子を用意した。メルケル首相はその椅子に座り、同じように椅子に座ったフレデリクセン首相と一緒に式典に臨んだ。もちろん、他の関係者はいつものように起立して式典に臨んだ。

 もし体が震えだしたら、メルケル氏としては国民に自身の健康問題を明らかにしなければならなくなり、その内容次第では即辞任を強いられる可能性が出てくる。そこで発作防止のために椅子に座って式典に臨んだのだろう。ということは、体の震えの発作は気象状況とはあまり関係なく、深刻な神経系列の病の可能性も出てくるわけだ。遠距離診断によると、糖尿病患者に起こる低血糖状態や甲状腺の機能亢進などが考えられるという。

 メルケル首相時代は終わりに近づいてきた。今回の健康不安説が出る前からそれは既成事実として受け取られてきた。ドイツ与党「キリスト教民主同盟」(CDU)は昨年12月の党大会でクランプ=カレンバウアー氏を新しい党首に選出し、いつでもメルケル首相を継承できる体制に入っている。

 クランプ=カレンバウアー党首はドイツ政界では“ミニ・メルケル”と呼ばれてきた。実際、昨年3月、サールランド州首相の彼女を党幹事長のポストに抜擢したのはメルケル首相本人だ。

 それに先立ち、メルケル首相は昨年10月、任期満了の2021年秋には首相の座を降り、政界から引退すると表明している。クランプ=カレンバウアー党首が当然、首相職を継承するものと受け取られてきた。同時に、欧州連合(EU)レベルではメルケル首相の愛弟子、フォンデアライエン国防相を次期欧州委員会委員長に任命させるなど、メルケル氏は党の結束とEU内のドイツの地位確保という布石を打ってきている。ポスト・メルケル時代の到来への準備をしてきたわけだ。

 メルケル首相は自身の政治の恩師ヘルムート・コール首相(任期1982〜1998年)に次ぐ長期政権を維持してきた。第4次メルケル政権を終わりまで全うし、16年間の長期政権という記録を樹立して政界から引退する考えだったのかもしれないが、CDU内でも既にメルケル首相の辞任を求める声が飛び出している。メルケル首相にとっての誤算は21年の引退時期が来る前に自身の体の不調が表面化してきたことだろう。

 2015年、欧州に中東・北アフリカから難民が殺到し、ドイツには100万人以上の難民が流入した。その難民殺到でドイツ国内でも多くの社会的軋轢が生じるとともに、欧州入りした難民の中にはイスラム過激派テロリストが潜伏し、彼らは欧州各地でテロを実行したことで、メルケル氏の難民歓迎政策は批判にさらされてきた。メルケル首相は今回の健康不安説がきっかけとなって早期引退を強いられるかもしれない。