逃げていてもいつかは逮捕されるだろうと予想していたが、ペーター・ザイゼンバッハ―(Peter Seisenbacher)被告が7日、ウクライナからポーランドに入る国境で逮捕され、12日、オーストリアのウィ―ンに護送され、拘留された。

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▲ザイゼンバッハ―氏の逮捕を報じるオーストリア「プレッセ」電子版(マリオ・クナイスル氏撮影)

 ザイゼンバッハ―被告(59)といっても知らない人が多いだろう。ロサンゼルス(1984年)とソウル(1988年)の両夏季五輪大会柔道86kg級の金メダリストだ。世界選手権、欧州選手権のチャンピオンにもなっている。文字通り、86kg級では敵なしの強さを発揮した柔道家だ。

 その彼が2013年、未成年者への性的虐待容疑を受け、16年に起訴されたが、公判に姿を見せずウクライナに逃亡、17年8月に逃亡先のウクライナのキエフで一旦逮捕されたが、オーストリアと犯罪人引き渡し協定を締結していないウクライナ側は引き渡しを拒否。オーストリア側は再度、引き渡しを申請した時には同被告は再び姿を消していた。それ以後、行方は不明となっていた。それが今年9月7日、偽造旅券でウクライナからポーランドに入国しようとしたところ逮捕され、ウィーンに送られたという経緯がある。ザイゼンバッハー被告はこれまで一貫して少女への性的虐待容疑についてコメントを控えてきた。

 ザイゼンバッハ―被告はオーストリアのスポーツ界では英雄だ。同被告の活動に刺激を受け、多くの若い後継者が生まれ、オーストリアは欧州の柔道国となったほどだ。五輪大会で金メダルを取った後、1992年までオーストリアのスポーツ振興協会会長を務め、スポーツ振興に携わってきたが、2010年からはグルジア(現ジョージア)、そして12年からアゼルバイジャンの男子柔道ナショナル・トレーナーとなった。トレーナーとして、両国で多数のメダリストの柔道家を育て上げている。ウィーンにスポーツセンターをオーブンし、若手の育成に力を入れてきた。

 告発内容は、同被告が1997〜2004年、柔道クラブのトレーナーとして働いていた時、同被告が経営する柔道センターに通っていた2人の少女に対して、性的犯罪を犯したというものだ。具体的には、1997年、クラブのトレーナーとして当時9歳の少女に性的接触し、少女が11歳になると、性的行為を強いたという。2人目の犠牲者は13歳の少女だ。検察側は証言を固め、ザイゼンバッハ―被告を起訴したわけだ。

 参考までに、スポーツ界ではトレーナーと選手間で性的な問題が表面化するケースが増えている。最近では、米女子体操界で五輪チームの元医師が女子体操選手に性的暴行を行っきた問題が大きく報じられたばかりだ。オーストリアでも女子アルペンスキー界でトレーナーによる女子選手への性的ハラスメントが問題となった。しかし、メディアに報じられるケースは氷山の一角に過ぎず、実際はもっと多くの性的事件が起きているのかもしれない。

 当方はこのコラム欄で「金メダリストの柔道家の『蹉跌』」(2017年1月19日参考)で「日本で柔道を学んだ柔道家(7段)の蹉跌は心が痛い」と書いたが、今も同じ思いだ。ザイゼンバッハ―被告の2年半以上に及ぶ逃亡生活は終わった。裁判では容疑内容に対し、事実を語ってほしい。