オーストリアで国民議会(定数183)の早期総選挙が9月29日に実施されてから43日が経過したが、クルツ前首相が率いる中道右派「国民党」と第4政党「緑の党」との連立交渉が11日、正式に開始される運びとなった。

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▲「緑の党」との連立交渉を始めると表明するクルツ前首相(オーストリア国営放送の中継から、2019年11月11日)

 ウェルナー・コグラー党首(57)の「緑の党」は10日、ウィーンで党連邦幹部会を開き、セバスティアン・クルツ前首相(33)が率いる「国民党」との連立予備交渉の結果について報告し、全員一致で国民党との連立交渉を正式に開始することを承認した。一方、国民党はその翌日の11日、同じく連邦幹部会、州党責任者が結集し、協議した末、クルツ党首に全権を委ね、「緑の党」との連立交渉を開始することを承認した。

 オーストリアでは連邦レベルでは国民党と「緑の党」の連立政権はこれまで実現していない。中道右派政党と党内に過激な左翼思想をもつ党員を抱える「緑の党」との連立政権が実現されれば、これが初めてとなる。なお、州レベルではフォアアールベルク州で国民党と「緑の党」の連立政権が発足し、既に2期目に入っている。

 前回選挙(2017年10月)では不法移民・難民対策が選挙争点となり、国境警備の強化など厳格な対応を主張した「国民党」が第一党にカムバック。「自由党」も強硬な移民政策で有権者にアピールして大飛躍。その結果、「国民党」と「自由党」の中道右派連立政権が同年12月に発足したが、自由党党首の絡んだ政界スキャンダルが発覚し、議会で今年5月末、不信任案が可決され、同政権は発足1年半あまりで崩壊。それを受け、早期総選挙となった経緯がある。


 クルツ国民党は9月末の議会選で得票率37%を獲得し、第一党を堅持したが、第3党で得票率を大きく失った自由党との連立再現を断念する一方、第2党の社会民主党との大連立政権は「政策の相違が大きすぎる」として拒否。最後は第4党「緑の党」との連立政権を模索してきたわけだ。前回の選挙(2017年)で議席を失った「緑の党」は党歴代最高に約14%の得票率を上げ、議会に議席を再び獲得したばかり。

 国民党と「緑の党」の予備交渉は10月9日からこれまで6回、クルツ党首とコグラー党首の党首会談は3回、開かれた。両党の間には政策的に大きな開きがある。産業界の支持がある国民党に対し、環境問題を最優先する「緑の党」とは違いが鮮明だ。

 コグラー党首は10日、連邦幹部会後、「環境と経済発展の調和を実現し、貧困対策、教育問題、インフラ政策で党の政策を反映させたい」と述べる一方、クルツ党首は「緑の党」との連立政権では景気対策を最優先課題に掲げたい意向が強く、環境保護政策を第一の課題としたい「緑の党」とは政策の重点で異なっている。

 野党に下野した自由党は国民党との第2次連立政権の発足に希望を託してきたが、クルツ党首が「緑の党」との連立を優先していることに失望を隠せない。社民党は「わが党は野党に行く」と早々とクルツ国民党との連立の可能性は排除してきた。

 クルツ氏は大きな課題が控えている、第1次政権でのパートナーだった自由党とは、政策的には似ており、特に移民、難民対策では一致してきたが、「緑の党」は難民移民の受け入れを掲げる政党だ。クルツ党首が「緑の党」の要求に譲歩し、厳格な難民政策を緩めるようなことがあれば、クルツ党首を支持してきた保守層が離れていく危険性がある。「緑の党」は環境にやさしい税改革を主張し、CO2税のような企業側への税導入を考えている。

 オーストリア日刊紙エステライヒによると、国民党と「緑の党」の連立交渉開始にOKが出た直後の世論調査では、クルツ国民党は初めて支持率を落としている。左翼系党員が多く、インフラ政策でも「緑の党」はこれまでブレーキをかけてきた経緯があるだけに、産業界でも「緑の党」の政権参加には既に不信の声が聞かれる。

 国民党と「緑の党」の連立交渉は14日ないしは15日にはスタートする予定。交渉の見通しは不確かだ。コグラー党首は、「できるだけ早急に、必要ならばできるだけ長く交渉する」と述べている。クリスマス前までに連立交渉が終わり、同国初の連邦レベルの「国民党」と「緑の党」の連立政権が発足するかは現時点では不透明だ。

 交渉が決裂すれば、自由党が再び国民党との連立を模索するだろう。33歳の若いクルツ党首の前には、新政権発足までにクリアしなければならない大きな課題とハードルがある。国民党内の「緑の党」へのアレルギーをなだめ、新しい連立政権を出発するまで、ここしばらく忍耐の日々が続く。