ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

イスラム

北とイランは対米で連携プレー

 イランは7日、中部フォルドウの地下ウラン濃縮施設で濃縮活動を開始した。テヘラン側の説明では核合意に対する「第4段階」の対応という。イランは2015年7月、欧米中露6カ国との間で締結した核合意では、フォルドウのウラン濃縮は禁止されているから、イラン側の今回の対応は明らかに核合意を違反している。

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▲イラン核合意離脱を表明したトランプ米大統領(2018年5月8日、ホワイトハウスの公式サイトから)

 トランプ米大統領が昨年、核合意を一方的に破棄し、対イラン経済制裁を再開、昨年11月にイラン産原油の禁輸を実施したことを受け、イラン側はウラン濃縮活動の濃縮度を3・67%から4・5%に引き上げる一方、最新の遠心分離機を投入し、本格的なウラン濃縮を開始した。濃縮度20%を超えれば、核兵器用濃縮ウラン90%までは技術的に短期間でクリアできるだけに、イランの核合意違反に対し、テヘランをこれまで擁護してきた欧州3国(英独仏)でも批判の声が高まっている。

 一方、北朝鮮は今年に入り12回の弾道ミサイルを発射している。先月2日には、東部の元山の海上から潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「北極星3型」を発射し、同月31日には「超大型放射砲(多連装ロケット砲)」を2発発射した。食糧不足などで苦労する国民を尻目に、金正恩氏は何かに取り憑かれたようにミサイル発射を繰返している。

 2017年9月の核実験後、北は米朝首脳会談推進中は一種のモラトリアムとして、核実験を控えてきたが、非核化を実行する兆候はみられない。

 ちなみに、米国の衛星写真などによると、寧辺周辺核関連施設で活動がみられるが、古い原子炉から核燃棒を回収し、それを再処理してプルトニウムを入手するこれまでのやり方を放棄し、北はイランと同様、ウラン濃縮活動に専念しだしている。後者は大きな施設は要らず、隠ぺいも容易という利点がある。

 「北の非核化」はもはや遅すぎる。6回の核実験を実行し、20基以上の核兵器を保有している北が非核化に応じるはずがないからだ。その点、イランの核問題とは次元が違う。

 ところで、イランと北朝鮮は地理的にかけ離れているが、対米戦略で一致してきた。トランプ大統領を挑発し、経済制裁の解除を勝ち取ることが出来るのは次期大統領選までの期間だけだ、という判断だ。トランプ大統領はウクライナ疑惑などに直面、国内では守勢を余儀なくされている。そのうえ、次期大統領選を控えたトランプ氏は大規模な軍事行動に乗り出すことはできないだろう。米軍側に大量の犠牲が出れば、再選の芽は吹っ飛んでしまう。だからこの期間、トランプ氏を少々挑発しても軍事攻撃を受ける懸念は少ない、という読みで両国は一致しているわけだ。

 イランは欧州の反発を考えて核合意の違反テンポをスローダウンしてきたが、欧州がイランを支援できる範囲は限定されていることが明らかになった以上、欧州の反応を見ながらウラン濃縮活動の濃縮度を上げていく、といったやり方を放棄し、トランプ氏の選挙期間中に、本格的なウラン濃縮活動を始める方が賢明という判断が働いているはずだ。

 一方、ベトナムで開催された第2回米朝首脳会談(2019年2月)でも明らかなように、米朝間の非核化への捉え方はコンセンサスを得ることは元々難しい。とすれば、同じように、トランプ氏の選挙期間中に弾道ミサイル開発で残された技術的な課題をクリアするためミサイルン発射を繰返す絶好のチャンスと受け取っているわけだ。

 トランプ氏が再選を果たせば、軍事行動に躊躇する理由はなくなるから、厳しい対応に乗り出すことが予想される。トランプ氏が落選したとしても、軽率な軍事衝突は考えられないが、制裁の解除は期待できない点では変わらない。イランと北の両国にとって、トランプ氏の次期大統領選期間が唯一、米国を挑発できる期間だ、ということで両国は対米政策で連携プレーを見せてきているわけだ。

 テヘランは早急にウラン濃縮度20%を超えること、北は核搭載長距離弾道ミサイルの完成を目指して、これまで以上にトランプ氏を挑発してくるだろう。ただし、経済制裁下のイランも北朝鮮も国内の経済状況は厳しく、国民は困窮下にあるから、決して余裕があるわけではない。その点、再選に腐心して他の選択肢がないトランプ氏と状況は余り変わらない。いずれにしても、イランと北朝鮮は瀬戸際に立っているだけに、偶発的な軍事衝突や事故が取り返しのつかない結果をもたらす危険性はこれまで以上に高いわけだ。

「ハッジ」のボイコットを叫ぶ声

 サウジアラビアのメッカでイスラム教徒の大巡礼(ハッジ)が9日から始まるが、ハッジをボイコットすべきだという声が世界各地のイスラム教徒指導者から飛び出している。

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▲サウジのメッカ巡礼の風景トルコ・ラジオ・テレビ協会(TRT)公式サイトから)

 ハッジはイスラム教徒にとって「5行」の一つ。人生で1回はメッカ巡礼を求められており、毎年世界各地からメッカ巡礼者が集まる。サウジ側によると、今年も230万人の参加が予想されているという。ジッダやメディナには既に数週間前から約6000機のメッカ巡礼特別機が到着済みだ。

 ハッジはホスト国サウジにとっても最大の宗教行事の一つであるとともに、経済的メリットのある行事だ。ハッジで100億ユーロ以上の金がホテルやレストランなどに入るビックビジネスだ。ちなみに、巡礼者の4分の3は外国から、4分の1はサウジ国内からという。

 ハッジ巡礼者はカアバ神殿の周囲を最初は速足で4回、それからゆっくりと3回、計7回、反時計回りする。可能ならば、黒石に触るが、多数の巡礼者が殺到し、ハッジでは過去、将棋倒しで多くの巡礼者が亡くなるという惨事が起きている。それでも、世界からハッジを目指して集まってくるわけだ。今年初めてメディナとメッカ間450キロを高速列車が走る。バスで6時間かかったところを2時間で済むというから、巡礼者には朗報だ。

 ところで、今年は少し様子が違ってきた。イスラム教徒にとって聖業、ハッジの参加をボイコットすべきだという声が異教徒からではなく、イスラム教指導者から聞こえてくることだ。しかし、理由はある。

 スンニ派の盟主、預言者ムハンマドの母国サウジへの批判だ。特に、サウジがイエメンの内戦に関与し、多くの国民を困窮下に陥れていることへの批判だ。イエメンではスンニ派政権に対して少数派シーア派反政府武装組織「フ―シ派」が対抗し、武装闘争は既に5年目に入っている。イエメン政府の背後でサウジが武器や資金を提供する一方、反政府側にはシーア派の代表、イランが支援するというサウジとイランの代理戦争の様相を深めている。

 もう一つはサウジの反体制派ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏(59)が昨年10月2日、トルコ・イスタンブールのサウジ総領事館で殺害された事件だ。事件の背後に、2017年6月、父親サルマン国王から王位継承者の皇太子に昇格したムハンマド皇太子が自身の改革路線を批判するカショギ氏の殺害を指令したことが明らかになってくると、欧米諸国ばかりか世界のイスラム教指導者からも批判の声が出てきた。ムハンマド皇太子は就任後、サウジの近代化を提唱し、反体制派の皇室関係者や政治家を粛正してきた経緯がある(「サウジが直面する“第2の国難”」2018年10月27日参考)。

 サウジを取り巻く中東情勢はトランプ米政権が発足して以来、急速に変わってきた。スンニ派盟主サウジはシーア派のイランの中東制覇に対抗するために、これまでの宿敵だったイスラエルに接近し、サウジ・イスラエル同盟でシリア、レバノン、イエメンなどで軍事支援を展開するイランを包囲する戦略を敷いてきた。ムハンマド皇太子はイランの最高指導者ハメネイ師を「中東の新しいヒトラーだ」と激しい敵愾心を見せているほどだ。すなわち、中東の政情が分裂してきたのだ。その影響がイスラム教の聖業、ハッジにも影を投じてきたというわけだ(「サウジとイスラエルが急接近」2017年11月26日参考)。

 オーストリア代表紙プレッセ(8月7日)によると、米国、カナダ、チュニジア、リビア、カタールのイスラム教指導者たちがハッジ・ボイコットを呼びかけている。インターネット上でも「ボイコットハッジ」が炎上しているという。リビアのムフティ(イスラム教指導者)は、「ハッジの収入は他のイスラム教徒を殺害するサウジの指導部を助けることになる」と非難し、「1回目の巡礼はいいが、2回目のメッカ巡礼はむしろ罪だ」と言い放っている。

 イスラム教の知識人は、「ハッジは精神の純化をもたらし、神に近づける業だが、反体制派ジャーナリストを殺害し、イエメンで多くの兄弟姉妹を飢餓に苦しめているサウジ指導者はハッジの精神とは一致しない」(プレッセ紙)と語っている。

 敬虔なイスラム教徒は1日5回、どこにいてもメッカの方向に向かって決まった時刻に祈る。最近は、携帯電話のGPSでメッカの方向を探す若い信者の姿が見られる。そしてお金を貯めて人生で1度はメッカ巡礼に行くことを夢見る。

 イスラム教指導者がその聖業、ハッジのボイコットを呼びかけるということはこれまでなかったことだ。それだけ、サウジを取り巻く政情は緊迫しているのだろう。ただし、多くの一般のイスラム教徒には「巡礼は政治とは無関係だ」と受け取られている。

イランの核合意停止は中東を戦火に

 イランのロウハニ大統領は8日、2015年に締結した核合意が遵守されていないとして、核合意の一部停止、ウラン濃縮関連活動の再開を表明した。トランプ米政権は同日、イランに対し追加制裁の実施を警告したことから、米国とイラン間だけではなく、イスラエル、サウジアラビアなどを加えた中東地域で武力衝突の危険性が再び高まってきた。

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▲国内外の圧力を受けるロウハニ大統領(左)=2018年7月4日、オーストリア公式訪問で(オーストリア連邦首相府で撮影)

 英、仏、独の3国と欧州連合(EU)の外相は9日、そして13日にはポンぺオ米国務長官を加えてイランの核問題への対応について話し合った。イラン側に核合意の堅持を要求する一方、事態の悪化を避けるために関係国が慎重に対応することで一致したが、具体策は明らかではない。

 核協議はイランと米英仏中露の国連安保理常任理事国にドイツが参加してウィーンで協議が続けられ、2015年7月、イランと6カ国は包括的共同行動計画(JCPOA)で合意が実現した。イラン核合意は13年間の外交交渉の成果として評価された。

 核合意の内容は、

.ぅ薀鵑惑蚕魅Ε薀鶻萋阿鬘横鞠間制限し、国際原子力機関(IAEA)の監視下に置く。遠心分離機数は1万9000基から約6000基に減少させ、ウラン濃縮度は3・67%までとする(核兵器用には90%のウラン濃縮が必要)

濃縮済みウラン量を15年間で1万キロから300キロに減少

ウラン濃縮活動は既にあるナタンツ濃縮施設で実施し、アラークの重水製造施設は核兵器用のプルトニウムが製造出来ないように変え、フォルド濃縮関連施設は核研究開発センターとする

ぅぅ薀鵑その合意内容を守れば、経済制裁を段階的に解消し、違反した場合、経済制裁を再度導入する、といった内容だ。

 イラン核合意を検証するIAEAはこれまで「イランは核合意を順守し、不法な核関連活動はない」と定期理事会で報告してきた。

 しかし、トランプ政権が発足し、トランプ大統領が昨年5月、「イラン核合意は不十分であり、イランの核開発を阻止できない上、テヘランは国際テロを支援している」として、核合意から離脱を宣言、同時に対イラン制裁を再開した。米国の核合意離脱表明後、イランは、「EUを含む欧州3国がイランの利益を守るならば核合意を維持するが、それが難しい場合、わが国は核開発計画を再開する」と主張し、関係国に圧力をかけてきた。トランプ政権は8日、イランの鉄、アルミニウム、銅の各分野を制裁対象に加える大統領令を出したばかりだ。

 イラン核合意を堅持したい英仏独は米国のイラン制裁で被る損害を可能な限り補填する「特別目的事業体」(SPV)を設立し、イランに投資する西側企業を支援する政策を実行してきたが、米国企業との取引を懸念する西側企業はイラン市場から撤退。イランから原油輸入は今年に入ってまったくない。

 イランの国民経済は一段と厳しくなってきた。米政府の制裁再発動を受け、通貨リアルは米ドルに対し、その価値を半減する一方、国内ではロウハニ政権への批判だけではなく、精神的指導者ハメネイ師への批判まで飛び出すなど、ホメイニ師主導のイラン革命(1979年)以来、同国は最大の危機に陥っている。イラン国営通信IRNAによると、ロウハ二大統領は11日、国家の各分野の指導者を集め、結束を呼び掛けているほどだ。

 イラン精鋭部隊「革命防衛隊」は米国に対抗するため中東の原油運輸の主要ルート、ホルムズ海峡のボイコットを示唆し、海峡周辺で対艦ミサイルを発射するなど強硬姿勢を崩していない。国防、外交を統括するイラン最高安全保障委員会は、「イラン側の要求が今後60日以内に満たされなければ、ウラン濃縮や重水貯蔵量に関する制限を遵守しない」と警告している。

 戦争は関係国の「戦争宣言」で始まるということはない。関係国の一部の暴動、暴発が大きな紛争、戦争へと拡大するケースが多い。サウジアラビアの主要な原油パイプラインが14日、爆弾を搭載したドローンの攻撃を受けた。現地からの情報によると、イランの支援を受けるイスラム教シーア派のイエメン反政府勢力「フーシ派」の仕業と受け取られている。

 ポンぺオ国務長官は14日、ロシアの南部ソチでラブロフ外相と会談後の記者会見で、「米国はイランとの戦争を願っていない」と強調。一方、イランの最高指導者ハメネイ師も同日、国営テレビで「イランは米国と戦争する考えはないが、米国との交渉は毒だ」と述べ、抵抗を続けていく意向を明らかにしている。参考までに、ニューヨーク・タイムズ紙は14日、「トランプ政権は12万人の兵力を中東地域に派遣する計画」と報じたが、トランプ大統領は否定している。

 イランはシリア、イエメン、レバノンで軍事支援してきたことは周知の事実だ。ここにきて懸念されるのは、パレスチナ内のジハードだ。イスラエルとパレスチナのガザ地区を統治しているハマスは停戦で合意したが、イランから支援を受けるパレスチナのイスラム聖戦(PIJ)が停戦合意を破り、イスラエルにロケット砲を打ち込むシナリオだ。

 イスラエルのテルアビブで14日から18日まで、ユーロビジョン・ソングコンテストが開催中だ。イスラエルがハマスとの停戦に応じたのは、同コンテスト開催中の停戦が不可欠だったからだ。ハマスもコンテスト中にイスラエルにロケット砲を発射すれば、イスラエル軍は総攻撃を始め、ハマスの壊滅を試みるだろう。ガザ地区の統治を失いたくないハマスはイスラエルとの停戦に応じざるを得なかったわけだ。もちろん、エジプト側からの説得工作もあっただろう。

 危険要因はハマスとイスラエル側の停戦合意に関与しないPIJの動向だ。ガザ地区から700発以上のロケット砲が停戦前にイスラエル領土に打ちこまれたが、イランがパレスチナのジハードに武器を供給していたからだ。イラン側から武力支援を受けたパレスチナのPIJがユーロビジョン・ソングコンテスト開催中にテルアビブにロケット砲を打ち込めば、イスラエル側の猛烈な反撃が予想される。中東地域は今、イランの核合意停止表明を受け、非常に危険な時を迎えている。

ラマダン(断食月)の「光」と「影」

 世界のイスラム教圏で6日からラマダン(断食月)が始まった。国にとって1日、2日の違いはあるが、1カ月間続く。日の出から日没まで食事を断つ一方、身の清潔を保つ。日が沈むと家庭やイスラム礼拝所(モスク)で家族や知人たちとともに断食明けの食事をする。人によっては夜明け近くまで食事をしたり、団欒する。“ラマダン太り”という言葉があるように、断食明けには普段より多くの食事を1度に取るため1カ月のラマダン期間で体重が増える信者が少なくない。ラマダンは1年のうちで最も消費が多い月ともいわれ、ラマダンの経済的効果とも呼ばれている。

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▲ウィーンのイスラム教センター(ウィキぺディアから)

 ラマダンはイスラム教徒の聖なる義務、5行(信仰告白、礼拝、喜捨、断食、巡礼)の一つだ。幼児、妊婦や病人以外は参加する。当方はイラク出身の知り合い記者がいるが、彼は病気持ちで薬を飲んでいたので断食はせず、その代わり、友人や困った人に喜捨していた。当方はラマダン期間、彼からよく食事に誘ってもらったものだ。彼は異教徒の当方に食事を奢ることで自身も心安らかに食事をしていた。当方と知人の記者はウインウインの関係だったわけだ。

 スーダン出身の国連記者のアブドラ・シェリフ氏は敬虔なイスラム教徒だ。彼はラマダン期間、断食する。彼にラマダンの効果について聞いてみたことがある。シェリフ氏曰く、「まず、心が清まるのを感じる。普段よりアラーを身近に感じる期間だ」と模範的な回答が返ってきた。シェリフ氏がいえば、「そうだろう」と聞く者も素直に納得できる点は同氏の徳かもしれない。要するに、宗教心が高揚し、他者のために尽くしたい思いがラマダン期間は高まるというのだ。同氏の表現によると、魂が清まる期間だ。

 中東ではラマダン期間、紛争当事者間で武器を下す“ラマダン和平”が実現することが多い。例えば、イスラエルとパレスチナガザ地区のハマスとの間で激しい戦いが展開してきたが、エルサレムからの情報によると、両者は6日早朝を期して停戦で合意したという。ラマダン和平ではないが、ガザ地区のイスラム教徒にとってラマダン期間の紛争は大変だ。パレスチナ側にとって停戦はウエルカムのはずだ。一方、イスラエル側にとってもユーロビジョン・ソング・コンテストが来週、テルアビブで開催されることもあって、ハマスとの停戦が不可欠だったのだろう。

 世界のイスラム教徒がシャリフ氏のような信者だったら、ラマダン期間は紛争も戦争もない平和な期間となるが、残念ながらシェリフ氏のようなイスラム教徒は必ずしも多数派ではない。

 ラマダン期間にはイスラム過激派のテロ事件が多いということで、日本外務省はHPでラマダン期間のイスラム過激派によるテロ事件への要注意というメッセージを発信しているほどだ。

 ここにラマダン期間に発生したイスラム過激派テロ事件の例を振り返る。

 。横娃隠掲6月3日、ラマダン期間にロンドンで死者8人が出るイスラム過激派テロ事件が発生した。ロンドン中心部テムズ川にかかるロンドン橋をワゴン車で暴走し、橋上の歩行者を轢いた後、車から降りて数人を刃物で死傷させた。実行犯3人は駆けつけた警察に射殺された。

 ■隠暁7月にはバングラデシュの首都ダッカのレストランでイスラム過激派の襲撃テロが発生、日本人7人を含む20人以上が殺害されるテロ事件が起きた。犯人はイスラム過激テロ組織「イスラム国」(IS)で、ラマダン期間だった。

 それでは、なぜラマダン期間にテロ事件が多発するのか。両者の関係を考えてみたい。.ぅ好薀犇掬未僚ゞ疑瓦普段の期間より高まる。断食明けの食事をモスクで他の信者たちと一緒に取る機会が増える。イスラム過激派のイマームが反米、反キリスト教演説で信者を扇動することがある。ラマダンはイスラム教徒にとって聖なる月だ。この期間に天に功労を積むことで天国に行きやすくなる、という教えがある。ぅぅ好薀牴畄稠匹砲箸辰謄薀泪瀬鵑録者から寄付を募る最高の期間だ。信者も普段より多くの金銭、物質を寄付する。ゥぅ好薀牴畄稠疋謄蹈哀襦璽廚魯薀泪瀬鶸間、信者たちに異教徒への聖戦を呼び掛ける。いずれにしても、ラマダンは魂の高揚をもたらす一方、異教徒への憎悪も強まる期間であるわけだ。これをラマダンの「光」と「影」というわけだ。

「冒涜罪」はもはや時代遅れか?

 スイスのニュースサイト「スイスインフォ」によると、同国で無宗派から「信仰への冒涜罪」の撤廃要求が出ているという。主張の根拠は冒涜罪が「言論の自由」を制限するからだという。「信仰への冒涜罪」とは時代錯誤の響きがするが、欧州人権裁判所は預言者ムハンマドを「小児性愛者」と呼んではならないという判決を下したばかりだ。欧州ではドイツ、イタリア、スペイン、ギリシャ、オーストリアなどは冒涜罪がある一方、フランスではない。英国、オランダ、アイルランドでは冒涜罪を廃止している、といった具合で「冒涜罪」の是非で欧州ではコンセンサスはない。

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▲トルコのエルドアン大統領を風刺したべ―マ―マン氏(独週刊誌「シュピーゲル」2016年4月16日号の表紙から)

 そこで冒涜罪として刑罰の対象となった過去の実例を振り返りながら、少し考えてみた。

 .僖スタンで昨年10月31日、イスラム教を冒涜したとして死刑判決を受け、拘留されてきたキリスト教徒のアーシア・ビビさん(47)さんが同国最高裁から無罪判決を受けた。欧米のメディアでも大きく報道されたばかりだ。

 事件の発端は極めてシンプルだ。ビビさんが井戸から水を飲んだ時、イスラム教徒から「お前が飲んだので水が汚れた」と中傷された。彼女は「私はキリスト信者だ。それではムハンマドは人のために何をしたの」と聞くと、イスラム教徒はツバを吐き掛け、彼女を押し倒した。その翌日、彼女はイスラム教を侮辱したとして逮捕され、2010年に死刑を言い渡せられた。パキスタンでは1980年代、イスラム教を守るために宗教冒涜罪を施行している。幸い、最高裁は今回、「証拠不十分」として判決を撤回した。ビビさんが無罪となったことが伝わると、イスラム教社会では激しい抗議が沸き上がっている。

 ▲蹈轡△僚性パンク・グループ「プッシー・ライオット」(Pussy Riot) が2012年2月、大統領選挙中に、モスクワの救世主大聖堂の聖壇前で、「聖母マリアさま、プーチンを追い出して!」と歌い、正教会の神聖を犯したとして拘束。モスクワのハモヴニチェスキー地区裁判所は同年8月、禁固2年の実刑判決を言い渡した。

 ロシア議会はその後、「信者の宗教的感情を侮辱する目的」で行われた教会やモスクでの活動に対して禁固刑や罰金を科す内容の冒涜罪を成立させた。2012年実施された世論調査では、ロシア国民の約49%は信者の宗教心を傷つけた場合、厳罰に処すべきだと考え、反対は約34%だった。

 I霑した2人のイスラム過激派テロリストが2015年1月7日、パリの風刺週刊紙「シャルリー・エブド」本社を襲撃し、自動小銃を乱射し、建物2階で会議を開いていた編集長を含む10人のジャーナリストと、2人の警察官を殺害するテロ事件が発生した。
 イスラム過激派テロリストの風刺週刊紙本社襲撃事件直後、300万人以上のフランス国民が反テロ国民行進に参加した。行進に参加した国民は同週刊紙の愛読者だけではなかった。むしろ、「言論の自由」というフランス革命の成果が攻撃されたことに対する憤りが強かった。人間本来の自由の謳歌を求めたルネッサンス運動は啓蒙思想と結びついて1789年、フランス革命を引き起こした。その革命で獲得した成果の一つが「言論の自由」を含む「自由」だった。

 ぅ疋ぅ銚営放送(ZDF)の風刺コメディアン、ヤン・べーマーマン氏(Jan Bohmermann)が2016年3月31日、"Neo Magazin Royale"の番組の中でトルコのエルドアン大統領を揶揄した風刺詩(Schmahgedicht)を披露。その内容に怒った同大統領はドイツ側に即抗議すると共に、同氏を名誉棄損で告訴した。べーマーマン氏の風刺詩はきわどい表現と侮辱に満ちた内容だった。 

 メルケル首相は同年4月15日、刑法(StGB)103条に基づき同氏へのマインツ検察当局の捜査を認可すると表明した。刑法103条では、外国の国家元首に対する名誉毀損事件の捜査にはドイツ政府による捜査権付与が必要と明記されている。ただし、メルケル政権内でも社会民主党のシュタインマイヤー外相(当時)やマース司法相(当時)はメルケル首相の決定に不満を表明した。同外相は「言論、報道、芸術の自由はわが国の基本法の中でも至上の問題だ」と述べている(「『風刺』はどこまで許されるか」2016年4月17日参考)。


 以上、冒涜罪に関係する実例を挙げた。その事例はそれぞれ異なるが、冒涜罪と「言論の自由」に関連する内容だ。,魯ぅ好薀犢颪任茲みられる典型的な冒涜罪の内容だ。その好対照はだろう。フランスでは「言論の自由」を重要視するから、イスラム教の創設者ムハンマドを中傷し、冷笑するとしても公けでは批判されない。同国では「言論の自由」を束縛する冒涜罪は存在しない。

 ロシアのメディアが「シャルリー・エブド」本社襲撃事件について、「言論の自由がテロを招いた」と指摘し、テロに遭った仏週刊紙に対しては、「風刺やユーモアではなく、冒涜と愚弄、醜聞で稼ごうという気持ちだ。欧州は伝統的価値観から逸脱し、堕落した」と厳しく論評していた。い任亘粗尊瓩和減澆垢襪、その是非で政権内では不一致という現状を露呈していた。 

 イスラム教系難民・移民が殺到した欧州ではイスラム・フォビアがみられる。それに対し、イスラム教徒の「宗教的感情を傷つける」という声を聞く。信仰への冒涜だ。一方、ホスト側の欧州では「イスラム教徒は招きもしないゲストだ。文句を言える立場ではない」といった少々厳しい反論も出ている。いずれにしても、欧州社会では今後もイスラム教徒の宗教的感情をどれだけ配慮するかが大きな問題だろう。

 もちろん、「信仰への冒涜」はイスラム教に関わるだけの問題ではない。キリスト教社会でもあった。ビートルズが最高潮の時、ジョン・レノンが「僕はイエスより偉大だ」と叫んだというニュースが流れると、米国のキリスト教社会で大きな反発の声が上がり、ビートルズのレコードボイコット運動が起きたことがあった。レノンは冗談のつもりで発言したのだろうが、キリスト教根本主義的な信者の「宗教的感情」を傷つけたわけだ。

 世俗化が急速に進む欧州社会では、宗教的な神性、宗教的感情といった世界に批判的になってきた。スイスで冒涜罪の撤廃を要求するのは人口の約24%を占める無宗派の人々だ。それに対し、欧州人権裁判所は昨年10月、冒涜の禁止を支持し、信仰への中傷は言論の自由から除外されるという判決を下している。同時に、誤った事実に基づいた発言は「言論の自由」から除外されるとしている。

 ちなみに、スイスでは冒涜罪について「他人の信仰心、特に神への信仰を公かつ卑しく中傷する者、もしくは信仰上の崇拝対象物を侮辱する者は(中略)、罰金刑に科される」と明記している(スイスインフォ)。

 フランスのテロ事件の直後、オランド大統領(当時)は、「反テロでわれわれは連携しなければならない」と強調したが、どのような「言論の自由」をわれわれは今後、命を張ってでも守らなければならないのか、真剣に考えるべきだろう。なぜならば、「言論の自由」というより、「言論の暴力」と言わざるを得ないような言論も少なくないからだ。べーマーマン氏の詩を「言論の自由」として擁護することに当方は抵抗を覚える(「どのような『言論の自由』を守るか」2015年1月11日参考)。

ワッハーブ派と「ムスリム同胞団」

 サウジアラビアの反体制派ジャーナリストのジャマル・カショギ氏殺人事件はサウジ側の計画的な犯罪が濃厚となってきたが、それに呼応してサウジへの制裁論が活発化してきた。

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▲ホーフブルク宮殿で開催されたKAICIID創設祝賀会(2012年11月26日、撮影)

 英国は事件に関係した容疑者に対し入国禁止。フランスのマクロン大統領はサウジ国王と電話会談で制裁の実施の意向を表明し、対サウジ軍需品輸出を停止することを示唆したという。昨年、サウジと総額13億8000万ユーロの軍需品輸出を締結しているフランス側にとっても大きな経済的痛手だろう。ドイツのメルケル首相も、「サウジとのさらなる軍需品輸出交渉は停止する」と述べている、といった具合だ。

 サウジと巨額の軍需関連物資輸出契約を締結したトランプ米政権はカショギ氏殺人に関係した21人のサウジ関係者の米国入国禁止などを決めたが、軍需輸出停止はまだ検討中という。ポンぺオ国務長官は、「捜査結果次第でさらなる制裁が実施されるだろう」と述べるに留めている。

 米紙ワシントン・ポストによると、米中央情報局(CIA)のジーナ・ハスペル長官が23日、トルコを訪問し、イスタンブールのサウジ総領事部内でのカショギ氏殺害状況を録音した音声記録を聞いたという。トルコ側はメディアにリークするだけで、音声記録をこれまで誰にも聞かせてこなかった。米CIA長官がそれを聞いたとすれば、米国はサウジ指導部が事件に直接関与したことをこれ以上曖昧にできなくなるだろう。


 欧州議会は24日、ストラスブールでサウジにカショギ氏殺人事件の全容解明を要求する決議案を採択し、報道の自由とジャーナリストの権利擁護などを求めた。欧州議員の中からはサウジへの軍事輸出を全面停止を求める声も出た。

 オーストリアのクナイスル外相は、「EU(欧州連合)レベルで対サウジ武器輸出全面禁止を決めるべきだ。イエメン戦争やカタールの危機を解決するためにもEUは共同制裁が重要だ」と述べている。

 ところで、EUの下半期議長国オーストリアでは目下、サウジ主導の宗派間の対話フォールム「宗教・文化対話促進の国際センター」(KAICIID)の閉鎖要求が出ている。オーストリアの野党「リスト・ピルツ」は24日、KAICIIDの閉鎖を要求する動議を議会に提出したばかりだ。

 ウィーンに事務局を置くKAICIIDは2012年11月26日、サウジのアブドラ国王の提唱に基づき設立された機関で、キリスト教、イスラム教、仏教、ユダヤ教、ヒンズー教の世界5大宗教の代表を中心に、他の宗教、非政府機関代表たちが集まり、相互の理解促進や紛争解決のために話し合う世界的なフォーラムだ。設立祝賀会には日本から立正佼成会の庭野光帖次代会長が出席した(「サウジ主導の宗派間対話は本物か」2014年10月21日参考)。

 サウジ主導の同機関に対しては、設立当初から批判の声はあった。サウジのイスラム教は戒律の厳しいワッハーブ派だ。実際、米国内多発テロ事件の19人のイスラム過激派テロリストのうち15人がサウジ出身者だった。同国ではまた、少数宗派の権利、女性の人権が蹂躙されていることもあって、人権団体やリベラルなイスラム派グループから「国際センターの創設はサウジのプロパガンダに過ぎない」といった声が絶えなかった。

 ちなみに、サウジはイスラム教スンニ派過激テロ組織「イスラム国」(IS)に対して批判してきたが、シリア内戦では反アサド政権グループで戦っていたISを支援していたことは周知の事実だ。

サウジはイスラム教のスンニ派の盟主だが、ワッハーブ派に属し、厳格な原始的イスラム教回帰を目指す根本主義的傾向が強い。一方、カショギ氏殺人事件で窮地に立つサウジを追求するトルコのエルドアン大統領はイスラム根本主義組織「ムスリム同胞団」を支持し、イスラム法を国是とした国家を目指している。

 すなわち、カショギ氏殺人事件は時間の経過と共に、ワッハーブ派と「ムスリム同胞団」の2つにイスラム教内の根本主義を標榜するイスラム教国間の覇権争いの様相が深まってきたわけだ。具体的には、ムハンマド皇太子とエルドアン大統領との争いだ。サイコロは既に振られた。カショギ氏殺人事件前にはもはや戻れない。

イラン産ピスタチオが店から消える

 トランプ米政府は6日、イラン核合意からの離脱を受け、解除した対イラン制裁を再発動した。第1弾として自動車部品、貴金属取引の禁止、米ドル紙幣の購入などが禁止。11月4日からは第2弾としてイランの主要収入源の原油取引の停止が控えている。

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▲イラン核合意離脱を表明したトランプ米大統領(2018年5月8日、ホワイトハウスの公式サイトから)

 米政府の制裁再発動を受け、通貨リアルは米ドルに対し、その価値を半減する一方、国内ではロウハニ政権への批判だけではなく、精神的指導者ハメネイ師への批判まで飛び出すなど、ホメイニ師主導のイラン革命(1979年)以来、同国は最大の危機に陥っている。

 イラン精鋭部隊「革命防衛隊」は米国に対抗するため中東の原油運輸の主要ルート、ホルムズ海峡のボイコットを示唆し、海峡周辺で対艦ミサイルを発射するなど強硬姿勢を崩していない。

 トランプ大統領は「イランの指導者と無条件で会談する用意がある」と強調する一方、「イランが米国を脅迫すれば、これまでみたことがない重大な結果を招くだろう」と警告することも忘れていない。

 トランプ大統領は5月8日、「核合意はイランの核開発計画を停止させるのには適したものではない。合意は最悪で一方的な内容だ。核合意は平和をもたらさなかった」と核合意離脱の理由を説明し、「米国は今後、最大級レベルの対イラン経済制裁を実施していく」とテヘラン当局に警告を発した。具体的には、米国はイランにウラン濃縮関連活動の全面停止、核関連施設への査察履行など12項目を提示し、その受け入れを要求している。

 イラン核交渉は、国連常任安保理事国(米英仏中露)の5カ国にドイツを加えた6カ国とイランの間で行われてきた。そして2015年7月、イランの濃縮ウラン活動を25年間制限し、国際原子力機関(IAEA)の監視下に置き、遠心分離機数は1万9000基から約6000基に減少させ、ウラン濃縮度は3・67%までとするなどを明記した包括的共同行動計画(JCPOA)で合意した経緯がある。

 問題は、イランにとって米国と交渉テーブルに座ることは容易ではないことだ。イラン革命後、「米国に死を」、「米国は大サタン」と叫んできた同国の対米外交を180度変更し、トランプ政権と交渉に応じるわけにはいかないからだ。

 イラン革命部隊のモハマッド・アリ・ジャファリ指揮官は、「イランは北朝鮮ではない。国民はわが政府に米国と交渉する権限を付与していない」(オーストリア日刊紙プレッセ8月8日)と述べている。

 実際、ロウハニ大統領は8日、テヘランで北朝鮮の李容浩外相と会談し、「米国は信頼できない国だ」とトランプ政権を厳しく批判している。

 対イラン制裁再発動直前の5日、国営イラン航空が欧州旅客機メーカーと購入契約を結んでいたプロペラ機5機がテヘランの空港に到着したというニュースを読んで、イラン国営通信社の在ウィーン国連記者が話した事を思い出した。同記者は「制裁で航空機の部品が購入できないため、イランでは過去、何度も航空機が墜落してきた。だから、テヘランに帰国する時はイラン国営航空を利用せず、トルコ航空を利用する」という。薬局で薬を購入することも難しくなってきている。米国のイラン制裁はイラン国民経済に大きなダメージを与え、その最大の犠牲者は国民というわけだ。

 イラン各地で昨年12月以後、失業問題、所得減少、通貨の下落、物価高騰などに抗議するデモが行われている。イラン南西部のフーゼスターン州やイスファハンでは水不足で地元当局に激しい抗議行動が起きている。彼らは指導者の腐敗や権力乱用などにも抗議したという。

 ちなみに、イランで2009年、同じように反政府デモがあったが、その原因ははっきりしていた。マフムード・アフマディーネジャード大統領(任期2005〜13年)の不正疑惑に抗議するデモだった。100万人以上のイラン国民が路上に出て抗議した。今回の反政府デモの特長は、国民経済の停滞に抗議する一方、「独裁者に死を」、「われわれはイスラム共和国を願わない」といった過激な政治的スローガンすら飛び出してきていることだ(「イランで今、何が起きているのか」2018年1月5日参考)。最近は、「ガザ地区やレバノンではない。われわれはイランに住んでいるのだ」と主張し、対外軍事支援に腐心するイラン当局の外交に対しても抗議が聞かれだした。

 イラン議会は8日、ロウハニ同国大統領の側近の1人、ラビイ―労働・協同組合・社会福祉相(62)を解任した。イランでは先月、経済の苦境の責任を取らされる形で、中央銀行総裁が交代したばかりだ。ロウハニ大統領を取り巻く政治環境は厳しさを増している。

 テヘランからの情報によると、イランのモハンマド・ ジャヴァード・ザリーフ外相はオマーンを訪問し、ビンアラウィ外相と会談。ビンアラウィ外相はその直後、ワシントンを訪問、ポンぺオ国務長官と会談し、イラン側の意向を伝えたという。それが事実ならば、イランはオマーンに米国との調停を依頼しているわけだ。米国と交渉する以外、イランには他の選択肢がなくなってきたのだろう。

 蛇足だが、当方はイラン産のピスタチオが大好きだ。制裁の再発動でイラン産ピスタチオを見つけるのが難しくなるという。当方にとっても対イラン制裁の行方は他人事でなくなってきた。

攻撃にさらされる「宗教シンボル」

 ユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教はアブラハムを「信仰の祖」とする唯一神教だが、その信仰のシンボル(ユダヤ教のキッパ、キリスト教の十字架、イスラム教女性信者のヒジャブなど)がさまざまな理由から攻撃にさらされている。

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▲キリスト教のシンボル、十字架(イタリアのフィレンツェの「サンタ・マリア・ノヴェッラ教会」の「十字架のイエス」=フィレンツェ・ガイドブックから)

 このコラム欄で報告したが、ドイツでは目下、反ユダヤ主義の台頭に治安関係者は頭を悩ましている。4月17日、ベルリンで21歳のイスラエル人とその友人が路上でアラブ語を話す3人の男性グループから襲撃された。イスラエル人はキッパを着けていた。容疑者はシリア出身のパレスチナ人で2015年からドイツに住んでいた。

 独ユダヤ人中央評議会のヨーゼフ・シュースター会長によると、ユダヤ人家庭では息子たちには、「外ではキッパを被らないか、野球帽を被ってキッパを隠すように」と、娘たちには「地下鉄では『ダビデの星』のネックレスやペンダントを隠すように」と注意している。また、今年はイスラエル建国70年を迎えたが、Tシャツにイスラエル国旗が描かれたものは着ないように呼びかけているという。すなわち、ユダヤ教を表示する如何なるシンボルも身の安全のために着用しないというのだ(「独のユダヤ人社会で高まる危機感」2018年4月27日参考)。

 欧州ではキリスト教のシンボル、十字架が公表施設から追放されて久しい。ドイツでは1995年、独連邦裁判所が公共建物内の磔刑像(十字架)を違憲と判決している。

 それに対し、ドイツ南部バイエルン州のマルクス・ゼーダー州首相は先月25日、州の全ての公共施設でキリスト教の十字架を掲げるようにという政令を出し、議論を呼んでいる。
 難民殺到の入口、バイエルン州にとって、十字架はキリスト教のシンボルというより、ドイツ人のアイデンティティといった意味合いが強い。ゼーダー州首相自身「十字架は宗教的なシンボルではなく、文化のシンボルだ」と指摘し、公共施設での十字架の復活を主張しているわけだ。
 

 一方、ドイツでも近年、イスラム教徒が増加し、その数は500万人とも推定されている。2015年には100万人余りの難民・移民が中東・北アフリカからドイツに入ってきた。
 急増するイスラム教徒に対し、ドイツでもスカーフ着用禁止を求める声が高まってきた。スカーフ着用禁止が「宗教の自由」に違反するのではないかという批判に対して、「公共施設内でスカーフを着用することは認められない。スカーフは宗教的シンボルではなく、政治的イスラム教を表示するからだ。『宗教の自由』を蹂躙するものではない」という見解が支配的となってきている。ドイツでは既に8州で公共施設、学校内のスカーフ着用を禁止している。

 イスラム教徒の増加を受け、メルケル首相は、「イスラム教はドイツ社会の一部だ」と指摘する一方、第4次メルケル政権の内相に就任したバイエルン州「キリスト教社会同盟}(CSU)出身のゼーホーファー内相は、「イスラム教はドイツ社会には入らない」と明確に主張している。同じ政権で首相と内相の間でイスラム教に対する受け取り方が180度異なるわけだ。

 独民間放送RTLとN−TVが今年3月20日、21日の両日、1003人を対象に実施した世論調査結果によると、47%の国民は「イスラム教はドイツに属する」と受けとり、46%は「イスラム教はドイツ社会の一部ではない」と答えていることが明らかになった。イスラム教の受け取り方でドイツは2分化しているわけだ。

 蛇足だが、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教にはそれぞれそ信仰を表示するシンボル的存在物があるが、それでは無神論者のシンボルは何だろうか。「私は無神論者です」を表示するシンボルは存在するか。カール・マルクスの「資本論」を脇に掲げ歩けば少しは分かるかもしれないが、路上に出る度に重い本を抱えるのも大変だ。

 「神は存在しない」と積極的に考え、唯物的世界観を持つ人は最近、少なくなってきたが、それでも積極的無神論者と呼ばれる人はいる。彼らの中には「神はいない」運動に献身する人もいる。不可知論者やニヒリストとは異なり、彼らには常に(存在しないはずの)神が付きまとい、「神はいない」と口に出して呟かないと心が落ち着かない傾向がある。

 いずれにしても、無神論者もニヒリストもその信条を表示したシンボルを持っていないから、路上で見知らぬ人から自身の世界観ゆえに攻撃されたり、否定されるといった“殉教の道”は避けられる。ただし、彼らからは“永遠の命”といった人間が本来希求する願望を捨て去った人間の底なしの淋しさが感じられる。

バラバと左の強盗が手を結ぶ時

 イエスが十字架に架かった時、2人の強盗が同じように十字架に架かっていた。左側の強盗はイエスに、「お前がキリストだったら十字架から降り、俺たちを助けてくれ」とうそぶいた。すると右側の強盗が、「何を言うのか。われわれは自身の悪行の結果、十字架にかかっているが、この方は何も悪いことをしていない」と述べ、イエスを慰めた。イエスは右の強盗に、「あなたは今日、私と共に楽園にいるだろう」と述べている。

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▲プーチン大統領(中央)、イランのロウハニ大統領(左)、そしてトルコのエルドアン大統領(右)=2017年11月22日、ロシア南部ソチ、ロシア大統領府公式サイトから

 上記の話は新約聖書「ルカによる福音書」第23章に記述されている。左の強盗は神を信じない無神論世界に生きる人間を象徴し、将来生まれてくる共産主義を予示していた。共産主義者を“左翼”と呼ぶのは左の強盗から派生している。一方、右側は神を信じる民主主義の登場を示唆し、右翼という表現はこの右の強盗に起因している(右翼は本来、神を信じる人々を指したが、最近の右翼には神を否定する無神論者も加わっている)。

 話は少し戻る。ローマから派遣された総督ピラトはイエスが無実であることを知っていた。出来れば釈放したかったので、ユダヤ人に聞いた。「囚人バラバを救いたいか、イエスを救いたいか」と。大多数のユダヤ人は暴動と殺人で捕まっていたバラバの釈放を願い、イエスに向かって「十字架を」と叫んだ。それを聞いた、総督ピラトはイエスを十字架に引き渡した。

 バラバはイエスの生前中、イエスの死によって実際救われた最初の人間だった(「マタイによる福音書第27章)。ちなみに、スウェーデン作家、ペール・ラーゲルクヴィストはイエスに救われたバラバのその後の遍歴を小説で描いている。そのバラバの末裔から7世紀にイスラム教が出てきた。アブラハムを信仰の祖とする点ではユダヤ教、キリスト教と同じだが、彼らの両手には“コーランと剣”が握られていた。

 左の強盗の末裔から神の存在を否定する無神論世界観、人生観が生まれ、共産主義として結実していった。共産主義の歴史が粛清の歴史であり、血の歴史であったことは決して偶然ではない。
 一方、右の強盗から生まれた民主世界は冷戦時代、共産主義との戦いで勝利したが、その後、民主世界内で腐敗と貧富の格差などが席巻し、民主主義の土台となるべきキリスト教は世俗化に陥り、その生命力を急速に失っていった。それに呼応するように、共産主義の末裔たちが次第に力を回復させてきた。

 一挙に話は21世紀に戻る。ロシア南部ソチで1月30日、シリアの和平実現を目指してシリア各勢力を集めて「シリア国民対話会議」が開かれたばかりだ。ロシアはトルコやイランと共に、国連主導の和平協議とは別の枠組みでシリア和平の実現に積極的に乗り出してきた。

 冷戦で失った大国を復帰するために腐心するロシアのプーチン大統領は、その勝敗のカギがイスラム教圏で影響力を拡大することにあると喝破し、イラン、トルコ、シリアなどのイスラム教国と結束を深めていく。忘れてはならない点は、ロシアの背後に中国共産党政権が息を潜めながら時の到来を待っていることだ。

 プーチン大統領、イランのロウハ二大統領、そしてトルコのエルドアン大統領の3首脳が昨年11月22日、ロシア提唱のシリア会議開催で一致し、手を握っている写真が世界に配信されたが、この写真ほど共産主義とイスラム教が結束し、キリスト教に対抗するという聖書的予言を見事に物語っているものはないだろう。

 21世紀に入り、生命力を失ってきた民主キリスト教圏に対し、冷戦時代で一旦敗北を喫した共産主義がイスラム教圏と連携して再戦を挑んできている。民主圏の代表、米国がこの戦いで冷戦時代のように主導力を発揮できるだろうか。

 トランプ米大統領は昨年12月6日、イスラエルの首都をエルサレムと見なし、米大使館をテルアビブからエルサレムに移転すると公表したが、この発言は相手側の機先を制した米国の戦略的決定とも受け取れるわけだ。冷戦第2ラウンドのゴングは既に鳴った。

改宗するイスラム教徒が出てきた!

 中東・アラブ諸国でイスラム教徒がキリスト教に改宗する現象が見られるという。同時に、欧州に入ったイスラム系難民がキリスト教に改宗する数が増えてきた。後者の場合、難民申請でキリスト教徒の方が難民認知で有利という事情から改宗するケースがあり、偽装改宗ではないか、といった声も聞かれる。

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▲「反テロ宣言」に署名したイスラム教指導者たち(「オーストリア・イスラム教信仰共同体」のHPから)

 オーストリア日刊紙クリアとのインタビュー(1月21日)で著名な中東専門家の政治学者トーマス・シュミディンガー氏は、「イスラム諸国で無神論者になったり、キリスト教に改宗する傾向が見られ出した。イスラム教徒のキリスト教改宗は命がけだ。同時に、イスラム系難民申請者の中には難民認知でプラスとなるうえ、強制送還の危険性が少ないという理由から改宗するケースも増えている」と述べている。
 同氏によると、中東の地域では、当局の監視の目から逃れるため地下教会が生まれているという。中国共産党独裁政権下の地下教会を想起させる情報だ。

 オーストリアのローマ・カトリック教会の情報によれば、昨年1年間で成人が洗礼を受けた数は750人だった。過去最高だ。首都ウィーン市だけでもその数は15カ国、計260人になったという。幼児洗礼とは異なり、成人になってからの洗礼は特別だ。

 ウィーン大司教区の広報担当者によれば、昨年の改宗者750人のうち、約75%はイスラム教徒からの改宗という。例えば、イランでイスラム教徒がキリスト教徒に改宗すれば、極刑に処されるケースが少なくないという。
 イスラム系難民申請者の改宗に対して、偽装改宗という疑いが払しょくされないが、同広報担当者は、「それは偏見だ。なぜならば、イスラム系難民の改宗の場合、少なくとも1年の準備期間がある。信仰姿勢から礼拝参加状況、生活姿勢など厳密なハードルがある。教会は偽りのキリスト者を願わない」と強調する。ちなみに、プロテスタント系教会信者に改宗したイスラム教徒の数は昨年230人だった。


 ローマ・カトリック教会を含むキリスト教とイスラム教はその教義や信仰実践は異なるが、似ている点も少なくない。両宗教は「信仰の祖」アブラハムから派生した唯一神宗教であり、ユダヤ教のルーツを共有している。そして聖書に登場するモーセ、イエス、そして聖母マリアは、イスラム教コーランでも重要な役割を果たしている。マリアは同名だが、イエスはイスラム教ではイ―サーと呼ばれている。もちろん、違いはある。聖書では、アブラハムは息子イサクを献祭するが、コーランではイサクではなく、イシマエルとなっている。

 それでは、なぜキリスト教に改宗するイスラム教徒が出てきたのだろうか。最大の理由はイスラム過激派テロ組織「イスラム国」(IS)の蛮行にある、と指摘する宗教学者もいる。イスラム国のカリフを宣言し、他宗派信者を殺害する姿を目撃した敬虔なイスラム教徒は自身の宗教に懐疑的となり、イスラム教から距離を置くか、他宗派に走る。聖書を読んで、覚醒したというイスラム教徒の証言も報道されている。

 中東・北アフリカ諸国から2015年、100万人を超えるイスラム系難民がドイツに殺到したが、イスラム系難民の収容は反ユダヤ主義をドイツに輸入する結果となった(「イスラム系移民のユダヤ人憎悪」2017年12月22日参考)。同時に、数はまだ少ないが、難民の一部はキリスト教に改宗するケースが出てきたわけだ。
 ユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教の3大宗派が欧州で「文明の衝突」を繰り返す一方、緩やかだが「文明の統合」も見られ出した、というべきかもしれない。
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