ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

ドイツ

極左「アンティファ」が日本にも

 ドイツでは目下、極右派の台頭が大きな政治問題となっている。旧東独ザクセン=アンハルト州の都市ハレ(Halle)で先月9日、27歳のドイツ人、シュテファン・Bがユダヤ教のシナゴーグ(会堂)を襲撃する事件が発生し、犯行現場にいた女性と近くの店にいた男性が射殺された。多くのドイツ国民はシナゴークへの襲撃事件に衝撃を受けたばかりだ(「旧東独でシナゴーグ襲撃事件」2019年10月11日参考)。

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▲「極左団体アンティファ」(「大紀元」日本語版2019年11月6日掲載から)

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▲“思想界のロックスター”ことカナダ・トロント大学心理学教授ピーターソン氏(ウィキぺディアから、Adam Jacobs氏撮影)

 ドイツ連邦政府は先週、反極右対策として9項目からなる対策パケットを決定した。その中には、武器法の強化、予防対策の強化、ネットでの憎悪・扇動に対する継続した監視体制などだ。同時に、ドイツ16の連邦州に広がっている民間の自警団(Burgerwehren)の存在について、治安関係者は、「彼らは公式の警察隊ではない。極右への潜在的予備軍だ」と受け取り、対策を検討している。

 極右派の台頭はドイツだけに見られるのではなく、米国、ニュージランドなど世界各地で広がっている。反難民・移民、反ユダヤ主義、外国人排斥などを掲げ、銃乱射テロ事件を引き起こしている。


 関心が極右の動向に注がれ出したが、ここにきて極左組織「アンティファ」の拡大に警戒を呼び掛ける声が高まってきた。海外中国メディア「大紀元」は6日、「極左団体『アンティファ』、カナダで保守派講演会を妨害」という見出しで大きく報道している。「アンティファ」とはアンチ・ファシズムの略称だ。

 アンティファは、「ファシズムと戦う」ことを主要理念としている。メンバーは共産主義者、社会主義者、その他の過激思想で構成され、暴力の使用を躊躇しない。「大紀元」によると、「人種や性差別への激しい抵抗運動を掲げる極左暴力組織やその思想を指す。敵視する対象の行動を阻止するために騒乱、襲撃、といった暴力を辞さない」という。トランプ米大統領は7月28日、ツイッターで、アンティファは「人の頭をバットで殴る急進左翼で、テロ集団に指定することを検討している」と受け取っているほどだ。

 「大紀元」の「カナダで極左団体が保守派講演会を妨害」という見出しを目にした時、直ぐにカナダのトロント大学心理学教授ジョーダン・ピーターソン氏(Jordan Peterson )を思い出した。ひょっとしたら、同氏の講演会が極左団体から攻撃されたのではないか、と思ったからだ。

 同教授は現代、最も注目されている保守派論客だ。ユーチューブを利用して世界の若者に語り掛けている。教授の著書「Maps of Meaning」を読んだり、話を聞いた多くの若者たちが、「人生に生きる意義を見出した」と感動している。リベラル派のメディアは「思想界のロックスター」と少々皮肉を込めて論評している。彼が行く先々で多くの若者たちが集まる一方、その講演会を妨害する極左団体も集まる。その状況は戦場のような緊迫感が漂うほどだ(「宗教抜きの倫理・道徳はない」2018年2月23日参考)。

 「大紀元」が報じた「保守派講演会」は幸いピーターソン教授の講演会ではなかったが、保守派対極左の対立構造はここにきて一層先鋭化してきているのを感じる。先月27日に実施されたドイツの旧東独テュ―リンゲン州議会選では、「極左」(左翼党)と「極右」(「ドイツのための選択肢」=AfD)政党が躍進したが、それを象徴的に示唆している。「右」と「左」に関係なく、社会が忍耐力を失い、極端な方向に走りやすくなってきている。

 「大紀元」によると、日本でも「アンティファ」が活動していると警告している。「立憲民主党・杉並区議会議員のひわき岳氏は10月19日、ツイッターで、東京都新宿で行われた反与党政権デモの様子を撮影した動画を掲載。動画には、アンティファの旗が翻る様子が映っている。また、 10月26日、東京渋谷でも、アンティファの旗を掲げた左翼組織がデモを行った」、「8月、愛知県のあいちトリエンナーレの一部展示『表現の不自由展・その後』が一時中断された件では、アンティファ名古屋支部は、展示の再開を要求する団体に主張の場を提供した」というのだ。


 冷戦は終焉し、世界を一時席巻した共産主義国は大きく後退した。しかし、資本主義国の民主世界が腐敗し、その精神的バックボーンを失ってきたのを尻目に、欧米社会で消滅したと思われてきた共産主義が蘇ってきた。アンティファは共産主義陣営の前衛部隊だ。
 第2次冷戦時代は既に始まっている。第1次冷戦で敗戦した共産主義者と支持者は資本主義社会の奥深くまで潜入し、資本主義社会を今度こそ抹殺するためにその牙を研いでいるのだ。

独で同性愛者への「矯正療法」の是非

 ドイツのイェンス・シュパーン保健相(39)は同性愛者を治療によって矯正する療法を可能な限り禁止させる方向で関連法の改正に乗り出している、というニュースが流れてきた。同相自身は同性愛者だ。昨年12月の与党「キリスト教民主同盟」(CDU)の党首選に出馬している。

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▲未成年者の同性愛者への矯正療法の禁止を訴えるシュパーン保健相(Jens Spahn)=シュパーン氏の公式サイトから

 同相が禁止を考えているのは通称コンバージョン療法(Konversionstherapien)と呼ばれるもので、その基本は「同性愛は病気だから、治療できる」というものだ。それに対し、自身が同性愛者のシュパーン保健相は「矯正療法は狂気だ。健全な対応ではない」と指摘、18歳以下に対して矯正療法を一般的に禁止することを考えている。ただし、未成年者の同性愛者で矯正療法の意味を理解でき、本人が希望する場合には禁止しない、といった例外条項を織り込むという。

 一方、成人の同性愛者の場合でも本人の了解が欠かせられない。療法への理解が乏しいとか、外部から脅迫されているとかといった状況があれば、治療は禁止される。同法に違反すれば、1年までの拘留、ないしは罰金刑に処される。

 同相は「可能な限り同治療を禁止させたい。矯正療法は同性愛者に心理的、精神的に大きな後遺症を残すからだ。治療は逆に病気にさせるだけだ」と主張し、「同療法を禁止することで同性愛が病気ではないというシグナルを社会に送ることができる」と考えている。

 独週刊誌シュピーゲル電子版によると、保健省は同性愛者の矯正治療に関する専門家の鑑定を依頼したという。その鑑定報告によれば、「同性愛は病気でないから、治療は必要ではない。その上、治療で同性愛の性向が長期にわたって矯正されるという保証はない。むしろ、治療によって深刻な心理的重荷を背負い、不安、憂鬱をもたらし、自殺の危険性も高まる」というのだ。ドイツでは毎年、数千人の同性愛者が矯正治療を受けているという。

 ドイツで同性愛者の矯正療法を支持するのは、過激なキリスト教グループ、一部の医者、精神テラピストたちだ。彼らは異口同音に「同性愛は精神疾患だから治療できる」と強調、矯正治療の実施を要求してきた。

 療法には、‥典ぅ轡腑奪療法、▲ウンセラーの会話療法、7悪療法などがあるという。特に、の場合、自身への憎しみを煽る結果となって、療法後、欝になり、時には自殺するケースも報告されているという。いずれにしても、同性愛者を精神疾患と考え、治療可能と受け取るケースが多いが、宗教的な理由から矯正療法を強いるケースも少なくない。

 ルドヴィック・マキシミリアン大学のマーティン・ブルギ法学教授は、「国家による禁止は個人の基本法に干渉することになるから、そのような禁止法を安易に政治的に実行することは許されない。ただし、例外はその禁止が社会の利益を擁護する場合だ」(シュピーゲル誌)という。換言すれば、「同性愛者は精神的疾患だから、治療すべきだ」というコンセンサスが社会にある場合ということになる。

 ドイツでは2013年、「同盟90/緑の党」が連邦議会に未成年者への同性愛者に対する矯正療法の禁止を明記した動議を提出したが、支持を得られなかった。ヘッセン州など数州で昨年禁止イニシャティブがあったほか、シュパーン保健相が矯正療法禁止の請願書の署名を開始した。シュピーゲル誌によると、6万1251人が同請願書に署名している。ドイツ以外では米国の多くの州で矯正療法は禁止され、マルタやスペインの2、3地域では既に禁止されている。

 性的少数派(LGBT)にとって、同性愛を精神疾患と受け取られ、矯正を強要されれば、苦悩は大きいだろう。アイルランド出身の英国劇作家オスカー・ワイルド(1854〜1900年)は同性愛者として刑務所に拘留された体験をした小説家だ。英国の数学者で人工知能の父といわれるアラン・チューリング(1912〜54年)も同性愛者だった。現在は同性愛を含む性的少数派への理解は深まっている。今年5月の時点で世界では27カ国・地域が同性婚を認め、欧州では16カ国が同性婚を認めている(「ワイルドもチューリングも悩んだ」2016年6月22日参考)。

 ドイツでは過去、ベルリン市長だったクラウス・ヴォ―ヴェライト氏やギド・ヴェスターヴェレ元外相(故人)が同性愛者であることをカミングアウトした。そして若手のホープといわれるシュパーン保健相が登場してきたわけだ。彼らは政治の表舞台で同性愛の権利をアピールしてきた。シュパーン保健相はキリスト教という看板を掲げる政党(CDU)に所属している政治家だ。

 問題は、性的少数派が市民権を得る一方、異性間の伝統的な婚姻形態が大きく揺れ動いていることだ。当方は性的少数派への社会的差別が解消されることは歓迎するが、異性間の婚姻の意義が忘れられてきていることに懸念を感じている。異性間の婚姻は社会のマジョリティ(多数派)だが、彼らの声が、マイノリティ(性的少数派)に押され、時には沈黙を強いられてきているのだ。

独州議会選で「極左」と「極右」が躍進

 ドイツの政界図が大きく変わろうとしている。「キリスト教民主同盟」(CDU)と社会民主党(SPD)の2大政党が政界をリードしてきた時代は確実に終わろうとしている。旧東独テュ―リンゲン州議会選(定数90)の投票結果は改めてそのことを実証した。以下、同州議会選の結果を少し検証してみる。

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▲テュ―リンゲン州のボド・ラメロウ首相(テュ―リンゲン州首相府公式サイトから)

 旧東独のテュ―リンゲン州議会選の投開票が27日実施され、ラメロフ首相が率いる与党「左翼党」が約31%の得票率を獲得、第1党に躍進する一方、極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が前回選挙(2014年)比で12・8%増の得票率23・4%で第2党に大躍進した。

 一方、前回選挙では第1党だった「キリスト教民主同盟」(CDU)は21・8%で11・7%減と大幅に得票率を失い、AfDに抜かれて第3党に甘んじた。CDUと共に連邦レベルで連立政権をつくるSPDは8・2%で投票率が遂に1桁台に落ちた。

 議会の議席獲得に必要な得票率5%を超えた政党はその他、「同盟90/緑の党」5・2%、前回議席が獲得できなかった「自由民主党」(FPD)は5%の壁をクリアして州議会にカムバックした。

 この結果、第一党に躍進した左翼党のラメロウ首相は政権の組閣に乗り出すが、左翼党、社民党、そして「同盟90/緑の党」の3政党から成る現政権の得票率を合わせても過半数50%を超えることができず、42議席に留まった。CDUはAfDと左翼党との連立を拒否しているため、ラメロフ首相の連立パートナー探しは難航することは必至の状況だ。

 ただし、同州CDUのモーリング代表は投票日の翌日、「州民にとって安定政権を発足させることは党の利益を優先することより大切だ。その意味で左翼党との連立の可能性を排除しない」と述べ、「同州の事情はベルリンのCDUより我々が知っている」と強調し、左翼党とのいかなる連立をも拒否するCDU本部の方針とは異なる意向を示唆したばかりだ。そこで左翼党とCDUの連立政権が誕生する可能性を予測する声が出てきたわけだ。ちなみにCDUのクランプ=カレンバウアー党首は、「左翼党とAfDへのわが党の立場には変わりがない」と述べ、州CDUを牽制している。

 同州の各党の結果を振り返る。

 「同盟90/緑の党」は議席獲得の最低得票率5%を辛うじてクリアした。連邦レベルの選挙では得票率を伸ばし、欧州議会選で20.5%の得票率を獲得したばかりだが、旧東独では「同盟90/緑の党」のプレゼンスは低いことが改めて確認された。「緑の党」は選挙前、「最低2桁の得票率を獲得したい」と述べていたが、結果は5・2%に終わった。旧東独地域の現実は厳しかったわけだ。同党にとって更なる飛躍のためには旧東独対策が必須となる。ちなみに、9月以降実施された旧東独3州の州議会選の結果は、ザクセン州で8・6%、ブランデンブルク州10・8%、そしてテュ―リンゲン州で5・2%の得票率に終わっている。

 「左翼党」は初めて30%の得票率を得、第1党となったが、同党に投票した有権者は左翼党の政策を支持するというより、ラメロフ首相への信任が厚いからだ。選挙前の世論調査では62%の州国民がラメロフ首相が主導する州政府の5年間の成果を評価していた。

 同首相は「第1党となった以上、わが党が政権組閣の権利があるので、全ての政党と連立で交渉する考えだ」と述べている。

 同州議会では社民党はラメロフ連立政権に参加しているが、与党としてボーナス・ポイントはなく、得票率の低迷にストップをかけられず、得票率は遂に2桁から1桁へ落下、党州議会歴代2番目の悪い結果となった。12月に開催予定の社民党党大会ではCDUとの大連立を継続するかどうかで党内で激しい議論が予想される。CDU/CSUとの大連立政権を担ってきた大政党のイメージはもはやなくなった。

 一方、AfDはCDUを抜いて同州で第2党に進出したが、左翼党、CDU、SPDがAfDとの連立を拒否しているので、政権入りは望めない。2015年の中東・北アフリカからの難民殺到を契機に難民歓迎政策を推進するメルケル首相への批判の声が高まったが、その批判票の最大の受け手は反難民、外国人排斥を訴えたAfDだった。

 ただし、ここにきてAfDの支持者に変化が見られる。投票結果の分析によると、AfDに投票した有権者の約40%はメルケル政権への抗議票ではなく、AfDの政策への確信、自信に惹かれて投票したと答えているのだ。換言すれば、CDUやSPDの既成政党は政治信条への確信を失い、政党としてのプロフィールが揺れてきているわけだ。

 テュ―リンゲン州議会選では極左「左翼党」と極右のAfDが躍進した。社民党の伝統的な支持者(中道左派)は左翼党に、CDUの支持者(中道右派)はAfDに投票したという分析結果が出ている。

 独週刊誌シュピーゲル電子版は28日、左翼党、AfDを“新しい中道”と評し、従来の中道政党だったCDUと社民党は社会の隅に追われていると指摘しているほどだ。

韓国は「ドイツに倣え」と言うが…

 ギリシャ政府はドイツに対し、第2次大戦時の損害賠償を要求、同国議会の委員会の計算によれば、その額は2900億ユーロになるという。欧州の経済大国ドイツにとってもそれは巨額であり、到底支払いできない。ドイツ通信(DPA)によれば、ドイツ外務省は今月18日、「大戦中の損害賠償問題は解決済みだ。ギリシャ政府と戦時の賠償問題で交渉する考えはない」と支払い交渉を拒否したばかりだ。

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▲訪朝で「反日」発言を繰り返すシュレーダー前独首相(ドイツ連邦首相府の公式サイトから)

 ドイツ政府はこれまで「賠償問題は戦後直後、解決済み」という立場を堅持してきた。日本は戦後、サンフランシスコ平和条約(1951年)に基づいて戦後賠償問題は2国間の国家補償を実施して完了済みだが、第1次、第2次の2つの世界大戦の敗戦国となったドイツの場合、過去の賠償問題は日本より複雑だ。ドイツの場合、国家補償ではなく、ナチス軍の被害者に対する個別補償が中心だからだ。

 ギリシャではドイツに対して戦後賠償を要求する声が依然強いが、ポーランドでもドイツに対して戦後賠償金要求の声が出てきている。ワシチコフスキ外相は2017年9月4日、ドイツに対し、第2次世界大戦時のナチス・ドイツ軍のポーランド侵攻で1兆ドルを超える被害があったとし、賠償金を暗に請求。ドイツ側はポーランドが戦後、賠償請求権を放棄したとして、その請求を同じように拒否している、といった具合だ。

 ギリシャの膨大な戦後賠償要求のニュースは日本にも大きく報道されたが、韓国ではどうだっただろうか。なぜならば、韓国は日本の過去問題を追及する際、常に「ドイツに倣え」と掛け声を挙げ、ドイツの過去問題への対応を高く評価してきた経緯があるからだ。

 韓国ではドイツの戦時の賠償問題について果たして客観的に理解しているのだろうか、という懸念すら湧いてくる。ドイツは過去の賠償問題ではギリシャやポーランドから賠償請求を受けてきた。過去問題は解決済みではないのだ。

 ドイツにとって過去問題は政治的にはフランスとの関係だが、損害賠償問題はバルカン諸国や旧東独諸国で常にくずぶってきた厄介なテーマだ。例を挙げる。ヨアヒム・ガウク独大統領(当時)は2014年3月7日、第2次世界大戦中にナチス・ドイツ軍が民間人を虐殺したギリシャ北西部のリギアデス村(Ligiades)の慰霊碑を訪問し、ドイツ軍の蛮行に謝罪を表明したが、同大統領の演説が終わると、リギアデスの生存者たちは「公平と賠償」と書かれたポスターを掲げ、「大統領の謝罪はまったく意味がない。われわれにとって必要なことは具体的な賠償だ」と叫び出した。

 驚いたことは、前独首相のゲアハルト・シュレーダー氏(在任1998年10月〜2005年11月)が退任後の17年9月訪韓し、文在寅大統領と会見する一方、「従軍慰安婦」が共同生活を送る施設「ナヌムの家」(京畿道広州市)を訪問し、そこで日本の歴史問題への対応を批判したことだ。

 シュレーダー氏は生存者と会い、「残酷な戦争の犠牲になった方々に対し、日本が謝罪できれば歴史に対する責任意識があることを表明するものと言えるが、まだ勇気を出すことができないでいるようだ。被害者が望んでいるのは復讐や憎悪によるものではなく、日本が歴史的にあったことを認め謝罪することだけだと聞いた」とし、それが実現することを願うと伝えたというのだ。

 日韓両外相(岸田文雄外相と尹炳世韓国外相=いずれも当時)は2015年12月28日、慰安婦問題の解決で合意に達し、両政府による合意事項の履行を前提に、「この問題が最終的、不可逆的に解決することを確認する」と表明した。この歴史的事実ですら、シュレーダー氏は無視しているわけだ。そのディメンツ(認知症)気味のシュレーダー氏の言動を歓迎し、ホストの文在寅大統領はいつものように、「歴史の過去問題の清算では日本はドイツに倣うべきだ」と檄を飛ばしたわけだ。

 歴史の過去問題ではドイツはそれでもラッキーだ。ドイツの隣国はポーランドやチェコなど東欧諸国だが、韓国ではないからだ。ギリシャやポーランドは国内の経済問題が厳しくなれば、ドイツに過去問題を突きつけることもあるが、両国も欧州連合(EU)加盟国だ。EUの盟主ドイツに対して過去問題で関係を悪化させる愚策は犯さない。その点、日本は厳しい。日本の隣国は韓国だからだ。国を挙げて反日を掲げ、地域の安全問題を無視して日本を批判する隣国と接しているからだ。

 韓国はドイツに対してもう少し学習し、「正しい歴史認識」を知る必要があるだろう。その一方、日本の過去問題への解決努力に対しては公平な評価を下すべきだ。文大統領よ、ドイツは戦時問題では依然、さまざまな困難を抱えていることを忘れないでほしい。

旧東独でシナゴーグ襲撃事件

 旧東独ザクセン=アンハルト州の都市ハレ(Halle)で9日正午ごろ、27歳のドイツ人、シュテファン・Bがユダヤ教のシナゴーク(会堂)を襲撃する事件が発生し、たまたま犯行現場にいた女性と近くの店にいた男性が射殺された。

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▲ハレのシナゴークを訪問したドイツのシュタイマイヤー大統領(2019年10月10日、独大統領府公式サイトから)

 Bはシナゴークの戸を銃と爆弾を使って破壊し、会堂内に侵入する予定だったが、戸を破壊できずシナグークに入ることが出来なかった。会堂にはユダヤ教最大の祝日「贖罪の日」を祝うために70人から80人のユダヤ人が集まっていた。

 ニュージランド(NZ)中部のクライストチャーチで今年3月15日、白人主義者でイスラム系移民を憎む極右思想を信奉する28歳のブレントン・タラント容疑者が2つのイスラム寺院(モスク)に侵入し、銃を乱射、「金曜礼拝」の50人のイスラム教徒が死亡、子供を含む少なくとも20人が重傷するという大惨事が発生した。Bがシナゴーク内に侵入していたら、NZと同じ惨事が発生するところだった。

 ドイツ当局の情報では、27歳のBは鉄のヘルメット、防弾チョッキ、緑色の軍服を着、リュックサックには爆弾や弾薬、手榴弾を所持し、手には複数の銃を持っていた。BはNZの犯人と同様、自身の犯行をビデオ録音していた。35分に及ぶビデオでは「悪いのはユダヤ人とフェミニストだ」と語っている。

 大惨事を防いだのは強固に作られたシナゴーク入口の戸だ。周囲は壁がある。Bは戸を破壊するために爆弾を仕掛けたが、戸は崩れなかった。それに怒ったBはシナゴークに近接するユダヤ人墓地に手りゅう弾を投げ込み、たまたま道路を歩いてきた女性の背中に向かって発砲して殺害した。

 ドイツのメディアによると、シナゴークに侵入できなかったBは「俺は敗北者だ」(Ich Bin ein Loser)と叫びながら怒りまくっていたという。

 Bはレンタカーに乗るとしシナゴークから約300メートル離れたところのケバプのチェーン店「インビス」を襲撃し、そこで食べていた労働者らに向かって発砲、1人を殺し、数人が負傷した。Bは地に倒れた男性に何度も発砲を繰りかえすと、外に出た。その頃、発砲を聞いた警察官と銃撃戦。Bは警察官の銃弾を受けて負傷すると、車で移動。途中、レンターカーから降りて、たまたま駐車していたタクシーの車を奪うと逃走。シナゴークから15キロ離れたところで、トラックと衝突し、警察官に包囲され、逮捕された。

 私的なことだが、当方は同日、左目の手術のため入院していた病院から退院したばかりだった。家にいた息子が、「ドイツでネオナチがシナゴークを襲撃し、死傷者が出たらしい」と教えてくれたので、早速ドイツのTVにスイッチを入れ、事件の模様を追った。Bがシナゴークに入れなかったと聞いて、死者が出た事件に対して不適当な表現になるが、大惨事を未然に防いだユダヤ人の安全への意識の高さに「さすがだ」と関心させられてしまった。

 NZでは犯人は容易にイスラム教寺院に入り、そこで祈っていた信者を50人殺害した。ハレのユダヤ教会堂でも信者たちが集まっていた。Bが彼の計画通りを爆弾で粉砕して会堂内に入ることが出来たならば、同じような大惨事が起きていた可能性が高い。ユダヤ人はNZの事件を知っていたはずだから、そこから多くを学んだはずだ。今回はその学習が功を奏したわけだ。

 欧州ではドイツを含め反ユダヤ主義が再び広がってきた。中東、北アフリカから多数のイスラム系難民、移民が欧州に殺到してきた。彼らは母国で反ユダヤ主義、反イスラエルの教育を受けてきた人々だ。同時に、欧州国内でネオナチ的な反ユダヤ主義が台頭してきた。

 反ユダヤ主義の台頭を警戒し、イスラエルに移住するユダヤ人も増えてきている。同時に、外観的にユダヤ人と分かるような服装を控え、キッパの上に野球帽をかぶるなど自衛手段をするユダヤ人が出てきている(「独のユダヤ人社会で高まる危機感」2018年4月27日、「ドイツからユダヤ人がいなくなる日」2019年4月7日参考)。

 ドイツのゼーホーファー内相は、「犯行は明らかに反ユダヤ主義に基づくものだ」と指摘し、厳しく批判するとともに、国内のユダヤ系関連施設の警備の更なる強化に乗り出すことを明らかにした。なお、メルケル首相はベルリンのシナゴークを訪ねて連帯を示した。ちなみに、隣国オーストリアでは10日、欧州サッカー選手権のグループ戦、オーストリア対イスラエル戦が行われるだけに、シナゴーグやユダヤ人学校などへの警備を固くするためアンチ・テロ部隊が警戒にあたっている。

ドイツで「台湾と国交を」の署名活動

 海外中国メディア「大紀元」が20日で報じたところによると、今年5月、ドイツの国民が台湾との国交締結を請願する要望書をドイツ連邦議会に提出したという。今月18日時点で1万人を超える国民が署名した。署名数が来月9日までに5万人を超えれば、連邦議会は審議に入らなければならない。

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▲「逃亡犯条例改正案」の廃案を要求する香港国民(2019年7月5日、UPI通信)

 ドイツ連邦議会(Deutscher Bundestag)の公式サイトの Petitionen 欄をクリックすれば、請願書の詳細が掲載されている。同請願書は今年5月31日付でドイツ連邦議会に提出されている。請願書タイトルは「台湾との外交関係の樹立」(Aufnahme von diplomatischen Beziehungen zur Republik China=Taiwan)だ。請願の理由について、概要を紹介する。

「今年は天安門事件発生から30周年にあたる。同事件では平和的にデモを行っていた数千の国民が殺害された。彼らの多くは戦車に轢かれ、遺体は水路に流され処理された。この事件の責任は中国共産党政権にある。中国政府は多くの国と外交関係を樹立し、国連加盟国でもあるが、人権を蹂躙し、国民を再教育収容所に閉じ込め、閉鎖している国だ。世界的に稀な監視・検閲国家を建設し、東南アジアとの領土紛争では国際法を無視してゴリ押しをしている。そのような国とドイツ政府は外交関係を樹立し、貿易を行っているのだ」

 「1949年以来、中国は2カ国存在する。中国と台湾だ。これは蒋介石率いる中国国民党と毛沢東が引率する中国共産党の間の内戦の結果だ。2カ国は国連加盟国だったが、中国共産党政権が1972年、台湾を国連から追放した。国際法に全く合致しない決定だ。カイロ宣言(1943年)で、米英両国は中国に台湾の返還を約束したが、国際法に基づくものではない。看過できない点は、国連は東西両ドイツを認知し、南北朝鮮の2カ国に対しても同様に認知していることだ。台湾は1987年以来、民主主義国家として発展してきた。台湾は中国共産党政権とは異なり、民主国だ。にもかかわらず、ドイツが台湾を認知せず、人権を蹂躙している中国共産党政権を認知していることは理解できない。われわれはドイツ政府に台湾との国交樹立を要求する」

 一方、中国は21日、南大西洋のソロモン諸島と北京で国交樹立の共同文書に署名している。その結果、台湾と国交を締結している国は15カ国になった。中国のメディアによると、台湾と国交を断絶したキリバスも近く中国と国交を結ぶという。台湾で台湾独立志向の民進党・蔡英文政権が発足して以来(2015年5月)、台湾との国交を断絶した国は7カ国となった。中国外務省の耿爽副報道局長は20日の記者会見で、「世界には一つの中国しかなく、中華人民共和国政府が全中国を代表する唯一の合法的政府だ」と強調している。

 ところで、メルケル独首相は今月5日から3日間の日程で訪中したばかりだ。同首相の訪中はこれで12回目だ。その主な目的は中国との経済関係の強化だ。具体的には、中国からのビッグ商談を獲得することだ。メルケル首相の訪中にはドイツ産業界からフォルクスワーゲンやBMWなど同国経済を代表する企業代表が常に随伴した。

 ただし、メルケル首相は今回、李克強首相との首脳会談で香港のデモ問題に言及し、「武力衝突が生じないように、平和的な解決を期待する」と要請し、英国と北京政府間で合意した基本条約(1984年)に言及し、「中国に完全統合されるまで、香港国民の権利と自由は保障されなければならない」と強調、香港政府とデモ参加者の対話推進を求めている。

 なぜならば、ドイツ国内では、メルケル首相の訪中に対し、様々な注文が飛び出してきたからだ。例えば、野党自由民主党(FDP)が、「一国二体制を明記した1984年の英中声明を遵守するように訴えるべきだ。中国が1989年の天安門事件のように、武力で香港市民の平和的デモを鎮圧するようなことがあれば、ドイツを含む欧州は黙っておれない」と強調するなど、対中関係の見直しを求める声が与野党からも出てきたからだ(「メルケル首相の12回目の訪中は?」2019年9月8日参考)。

中国は7月、2019年版「国防白書」を発行したが、新華社は同白書の重点について「中国は必ず台湾を統一する」と記述した第1項を掲げていた。中国共産党政権が台湾を武力統一する野望を強めていることが分かる。

 ドイツ国内で中国共産党政権の実態を理解する国民が増える一方、民主国家の台湾の認知を求める国民が出てきた。分断国家だったドイツで台湾の認知を求める署名活動が始まったという事実はそれ故に注目されるわけだ(「台湾の『世界保健総会』参加を認めよ」2019年5月18日参考)。

メルケル首相の12回目の訪中は?

 メルケル独首相ほど中国を頻繁に訪問する西側首脳はいない。同首相は昨年5月に訪中したばかりだが、今回は5日から3日間の日程で訪中した。今回で12回目だ。今回の訪中にはいつものようにドイツ産業界からVWやBMWなど同国経済を代表する企業代表が随伴した。

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▲12回目の訪中入りしたメルケル独首相(独連邦首相府公式サイトから)

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▲中国武漢市を視察中のメルケル独首相(独連邦首相府公式サイトから)

 訪中の目的は中国との経済関係の強化だが、今回の訪中は別の意味で注目された。米中貿易戦争の真っ最中であること、それ以上に、6月初め以来、香港で連日民主化デモが行われている時、西側首脳として初めて中国入りするからだ。メルケル首相が北京の共産党政権に香港の民主化デモへの平和的対応を強く要求するかどうかにメディアの関心が注がれた。

 メルケル首相は6日、李克強首相との首脳会談で香港のデモ問題に言及し、「武力衝突が生じないように、平和的な解決を期待する」と要請し、英国と北京政府間で合意した基本条約(1984年)に言及し、「中国に完全統合されるまで、香港国民の権利と自由は保障されなければならない」と強調、香港政府とデモ参加者の対話推進を求めた。

 それに対し、李克強首相は、「北京政府は香港政府が法に基づいてカオス状況を終わらせ、秩序を回復できるよう支援する。世界は中国を信頼すべきだ。われわれはそのための知恵を有している」と述べている。同首相の発言について、香港の反体制派は、「中国は香港に軍を派遣する代わりに、緊急条例を発動させるのではないか」と懸念している。

 林鄭月娥行政長官は4日、逃亡犯条例改正案の撤回を発表し、デモ側の要求に応じたが、雨傘運動の元リーダー、香港政党「香港衆志(デモシスト)」の黄之鋒氏は5日、訪問先の台湾で、香港政府に対して市民の「5大要求」に全て応じるようにと呼び掛けた。具体的には、独立調査委員会の設置、高度の自治、行政長官を選ぶ「真の普通選挙」などの実行だ。黄氏は「全ての要求が受け入れられるまで抗議活動を続けていく」という。

 デモ側が恐れていることは、改正案が撤回された今、市民が抗議デモを行えば、香港当局に緊急条例を発動する口実を与え、政府がさらなる強硬な手段で市民を抑えつけていく可能性が高いことだ。

 海外中国メディア「大紀元」によると、「6月から始まった抗議活動において、すでに1200人の香港市民が警察に拘束された。最年少者は12歳。黄之鋒氏を含む100人以上の市民が不法集会などの疑いで起訴された」という。CNNなどの報道によれば、中国政府は既に軍隊を香港境界線に待機させ、いつでも出動できる態勢を敷いているという。人民軍が香港のデモ鎮圧に乗り出せば多くの犠牲者が出ることは避けられなくなる。

 独週刊誌シュピーゲルによると、メルケル首相の訪中入り前に、黄之鋒氏は、メルケル首相宛てに公開書簡を送り、香港のデモ参加者のために力を尽くしてほしいとアピールし、「中国とのビジネスを止めるべきだ、中国は国際法を遵守していない国だ。あなたは旧東独で成長した政治家だから、共産党独裁政治がどのようなものか誰よりも知っているはずだ」と指摘している。

 ドイツ国内では、メルケル首相の訪中に対し、様々な注文が飛び出していた。例えば、野党自由民主党(FDP)は「一国二体制を明記した1984年の英中声明を遵守するように訴えるべきだ。中国が1989年の天安門事件のように、武力で香港市民の平和的デモを鎮圧するようなことがあれば、ドイツを含む欧州は黙っておれなくなる」と強調している。

 国際人権活動家は、「香港だけではない。新疆ウイグル自治区問題についても、メルケル首相は中国側に質すべきだ。同自治州では数十万人のウイグル人が強制収容所に送られ、弾圧されている」という。

 メルケル首相は6日、習近平国家主席、そして李克強首相と会談し、7日は武漢市を訪れ、華中科技大学の学生たちの前で演説し、「中国の国民経済は成長し、貧困問題も克服できた。それに呼応して、中国の世界に対する責任は高まってきた。相互協力して開かれた世界を築くために努力してほしい」と呼び掛けている。

 ドイツの対中外交は過去、それなりの成果を挙げている。例えば、中国の著名な現代美術家の艾未未氏の釈放にドイツ政府は努力し、ノーベル平和賞を受賞した民主活動家、劉暁波の妻で詩人の劉霞さんは8年間の軟禁から解放された後、昨年7月10日にドイツに無事出国できた。メルケル首相の12回目の訪中の成果はどうだろうか。

「車王国」ドイツの高齢者運転問題

 日本で高齢者の運転による交通事故が大きな社会問題となっているが、「自動車王国」ドイツでは高齢者運転問題で年齢制限、定期的運転能力のチェックなどを求める声は聞かれるが、同国の主要な与・野党は消極的だ。

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▲ADAC会員の30・2%が60歳以上の高齢者(ADAC公式サイトから)

 独週刊誌シュピーゲル(8月24日号)は85歳の女性が運転していた車に轢かれて9歳の息子を亡くした家族をインタビューし、高齢者の運転について「コントロールがなく、いつまでも運転できる現状」に問題を提示している。記事のタイトルは「Nicht im Blick」(視野になかった)だ。

 犠牲となった子供は家族と一緒に自転車で遠出した。県道の脇道を走っていた時、85歳の女性の車が子供の姿が見えず、轢いてしまった。85歳の女性は罰金刑を受け、自動車免許は事故後、自主的に返還したという。

 以下、シュピーゲル誌の記事を紹介し、自動車王国ドイツの高齢者運転の現状を報告する。

 多くの欧州諸国では高齢運転者の運転技能のチェックを法的に決めている。例えば、イタリアでは80歳以上の運転者は2年ごとに運転能力のチェックを受けなければならない。一方、ドイツでは100歳になって自動車を運転しても違反ではない。事故を起こして相手を死傷させた場合や物的損害を起こした場合、最高5年の禁固、ないしは罰金が科せられるが、刑法には運転の年齢制限については何も明記していない。

 ドイツが高齢者の運転の年齢制限や技能チェックに消極的なのは、同国にとって自動車産業が国民経済の原動力であり、メルセデス・ベンツ車、BMW、フォルクスワーゲン(VW)、オペル車などの車を製造し、世界に輸出している国だという事情がある。トランプ米大統領がドイツに対し、自動車の対米輸出に追加関税をつけると話した時、ドイツ産業では大きなショックが走ったことはまだ記憶に新しい。

 ドイツでは65歳以上の国民で運転免許所有者の数は1600万人、その3人に1人は毎日、運転している。75歳以上の国民で自動免許所有者はドイツでは200万人以上だ。その数は年々増加している。

 全土にアウトバーン網が敷かれ、高速道路では速度制限はない。当方も昔、知人のベンツ車を運転して200キロのスピードで高速道路を飛ばしたことがある。高速道路でノロノロと走っている車はほとんどがオランダ人の運転手だ。オランダでは100キロのスピード制限があるからだ。

 都会に住んでいれば、バスや地下鉄、鉄道を利用して目的地に行けるが、少し離れた田舎に住んでいれば、車がなければ目的地に行くのに時間がかかる。交通当局は公共機関の利用を呼び掛けているが、バスのインターバルは長いから、車で30分で行けるところを待ち時間を含めで1時間半以上かかるといったことが普通だ。だから、運転免許を持ち、運転に支障となる病気がない場合、自家用車を利用するようになるわけだ。

 高齢者には年を重ねるのにつれ運転機能が後退していることの自覚がない場合が多い。ケルンのマックス・プランク老化生物学研究所は、人が年を取ると体にどのような変化が出てくるかを研究している。それによると、20歳から人の細胞は老化を始め、40歳を過ぎると頭脳は収縮し、視覚は悪化し、50歳、60歳に入ると聴覚も悪くなる。65歳過ぎると、体は筋肉をもはや造成できなく、70歳ごろには、記憶力も衰え、80歳になると、視覚領域が20,30%減少する。90歳以上になると3人に1人はデメンツ(認知障害)になる、といった報告だ。

 交通事故の統計からいえば、65歳以上の運転手より、18歳から25歳の運転手のほうが多く事故を起こしているが、75歳以上の運転手の場合は、人身事故の74・3%が事故の張本人だ。だから、85歳の老人が車のペダルを踏むことには大きなリスクが伴うわけだ。

 ドイツでは、欧州連合(EU)が決めた高齢者運転の健康チェックの義務化に対して、与党「キリスト教民主、社会同盟」(CDU/CSU)、社会民主党(SPD)、自由民主党(FDP)らが反対しているため、ドイツ連邦議会で過半数を獲得することは難しい。

 ドイツでは新車が良く売れる。今年1月から4月、新車を登録した国民の12・5%は59歳以上の国民だ。日本のJAFに当たるロードサービス組織ADAC(ドイツ自動車クラブ)会員の30・2%が60歳以上だ。2017年に実施されたドイツ連邦議会選で60歳以上の有権者は3人に1人を超えた。ドイツは既に高齢化社会だ。国民は高齢化し、それに伴い、高齢者の運転者が増えるわけだ。

 米国では銃規制関連法案の施行が難しいように、ドイツでは高齢者の運転年齢制限、高齢者運転の健康チェックの導入が難しい。自動車王国ドイツでは高齢者の運転制限は依然、タブー・テーマなのだ。

独メルケル連立政権は当分継続か

 旧東独の2州、ザクセン州とブランデンブルク州で1日、州議会選挙の投開票が行われた。ザクセン州では「キリスト教民主同盟」(CDU)が、ブランデンブルク州では社会民主党(SPD)が、それぞれ得票率を大きく失いながら第1党の地位を堅持する一方、予想されたことだが極右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が大躍進し、両州で第2党に進出した。投票率は両州とも前回(2014年)を大きく上回り、ザクセン州で約65%(前回49%)、ブレンデンブルク州は約60・5%(47・9%)と、有権者の選挙への関心の高さを示した。

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▲ブランデンブルク州議会選で第1党を守ったSPDのディートマー・ヴォイトケ首相(SPD公式サイトから)

 この結果、両州とも第1党を中心とした連立政権が発足する予定だが、CDUとSPDは第2党のAfDとの連立を拒否しているため、議会で安定政権を確立するためには3党連立政権を発足せざるを得なくなり、連立交渉は難航が予想される。

 ザクセン州議会(定数112)では、ミヒャエル・クレッチマー首相が率いるCDUが前回比で得票率を7・3%失ったが、32・2%で第1党をキープした。前回は難民・移民反対、外国人排斥を訴えるペギーダ(Pegida)やAfDがまだ存在しなかったが、今回はAfDの躍進もあって得票率が下がることが予想されていた。そのため「30%台の得票率」はまずまずの成果と受け取られている。SPDは7・7%で前回比4・7%減と低迷した。

 一方、AfDは対前回比17・8%増やして得票率27・5%と躍進し、CDUに次いで州第2党に躍進した。興味深いのは、旧東独の伝統的左派「左翼党」が10・4%に留まり、8・5%減と大幅に得票率を落としたことだ。連邦レベルでCDUと第1党を争う「同盟90/緑の党」は2・9%増で8・6%に留まった。

 ブランデンブルク州議会選(定数88)では、ディートマー・ヴォイトケ州首相が率いるSPDが26・2%で前回比で5・7%減だったが、第1党を維持し、選挙後はSPD主導の連立政権発足が濃厚だ。同州でもAfDが23・5%で前回比11・3%増と大きく得票率を伸ばし、ザクセン州と同様、第2党に大躍進した。CDUは15・6%で7・4%減で第3党。左翼党はここでも7・9%減で10・4%と大きく得票率を失った。なお、両州で自由民主党(FDP)は議会獲得の得票率5%を獲得できず、州議会進出は実現できなかった。

 旧東独の両州議会選は 第4次メルケル連立政権の行方を左右する選挙となるかもしれないと注目されていたが、州選挙で連敗が続くSPDがブランデンブルク州で政権維持の公算が濃厚となったことから、SPD内でくすぶり続けきた「SPDの低迷はCDUとの大連立が主因」としてメルケル政権からの離脱を要求する声が沈静化し、党内議論は今年12月初めに開催される党大会まで延期される見通しが高まった。

 なお、テュ―リンゲン州議会選が10月27日に実施されるが、同州ではSPDは「同盟90/緑の党」より支持率が低く、SPDの期待度は大きくないことから、同州議会選の影響は連邦レベルでは大きくないと受け取られている。

 メルケル首相は旧東独の州議会選挙結果を歓迎し、SPDとの大連立政権を継続できると確信。SPDのショルツ財務相は、「ブランデンブルクの社民党はよく頑張った、SPDは選挙で勝利できる政党であることを示してくれた」と同州SPDの活躍を評価する一方、「AfDの躍進をこれ以上許してはならない」とAfDの動向に警告を発することを忘れなかった。

 東西ドイツの再統一から今年で30年目を迎えたが、旧東独国民には、「われわれはベルリンから理解されていない」といった不満や怒りが強い。2015年後は難民殺到もあって旧東独では外国人排斥、難民受け入れ反対の声が高まり、AfDが旧東独国民の抗議票を吸収して飛躍してきた。そのとばっちりを受けたのは、これまで批判票の受け皿だった左翼党だ。同党はザクセン、ブランデンブルクの両州で今回、大きく得票率を失った。

旧東独州議会選にみるドイツの現状

 ドイツでは、9月1日にザクセン州とブランデンブルク州で、10月27日にはテュ―リンゲン州と、旧東独の3州で立て続けに州議会選挙が行われる。極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)は3州でいずれもトップ争いに絡んでいる。

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▲ザクセン州政府閣僚会議の風景(2019年8月20日、ザクセン州議会公式サイトから)

  ドイツForsa世論調査によると、AfDは3州とも20%以上の支持を得てトップ争いに加わっている。ザクセン州では与党「キリスト教民主同盟」(CDU)が31%でトップを走り、それをAfDが25%で追っている。ブランデンブルク州では与党の社会民主党(SPD)が21%、それを追ってAfDが20%と僅差で第2位、CDUは18%で第3党に甘んじている。ちなみに、欧州議会選(今年5月)ではAfDは同州で第1党だった。テュ―リンゲン州では左翼党が26%でトップ、それを追ってCDU24%、AfD21%と3党が激しいトップ争いを展開させている。

 前回の州議会選(2014年)の結果に基づいて、ザクセン州ではCDUとSPDの連立政権、ブランデンブルク州はSPDと左翼党、テュ―リンゲン州では左翼党・緑の党、SPDの3党の連立政権が発足した。

 AfDは今回、3州で20%以上の得票率を獲得する勢いを見せているが、どの政党もAfDとの連立政権を拒否している。興味深い点は、連邦レベルで第1党へ進出する勢いを見せている「同盟90/緑の党」は旧東独では伸び悩んでいることだ。世論調査によると、ブランデンブルク州で14%、テュ―リンゲン州11%、ザクセンで10%に留まっている。

 東西両ドイツの再統一から今年で30年目を迎えた。ドイツ連邦政府は8月21日、閣議で1991年に導入された「連帯税」を2021年から納税者の9割を対象に廃止することになった。連帯税は旧東独の開発支援を目的として導入されたもので、国民1人当たり所得の5・5%が給料から差し引かれてきた。メルケル政権は連帯税の廃止で国民経済に刺激を与えたい意向だ。連帯税の廃止は国民には減税だ。

 ドイツ政府は東西間の経済格差は縮まってきたと判断しているが、ドイツ経済研究所(DIW)は4月、「東西間の生産性は依然20%の差がある」と指摘し、所得差も依然、旧西独と旧東独の間で歴然とある。雇用市場も同様だ。AfDはメルケル連邦政府の経済政策や難民・移民政策を批判し、有権者の批判票を集めているわけだ。

 旧東独の3州の中で人口が最も多いザクセン州(約430万人)をみれば、旧東独が旧西独とは明らかに違うことが分かる。ザクセン州ではCDUが僅差でAfDを抜き、第一党だ。同州では対ロシア制裁の解除を求める声が強い。メルケル政権はウクライナの併合などを理由に対ロシア制裁を実施中だが、同州のミヒャエル・クレッチマー首相は、「早急に制裁を解除すべきだ」と主張する。同州首相はメルケル首相の与党CDUに所属しているが、所属政党ばかりか連邦レベルの政策にも反対の立場を表明しているわけだ。

 ザクセン州では対ロシア制裁解除を要求する声が過半数を占める。その背景には対ロシア制裁で同州の機械輸出などが大きな影響を受けているからだ。ブランデンブルク州のディートマー・ヴォイトケ州首相はSPDだが、対ロシア制裁の解除ではザクセン州首相の意見を支持している。

 ちなみに、ロシアのプーチン大統領は旧東独時代、ザクセン州の州都ドレスデンを拠点としたソ連国家保安委員会(KGB)のエージェントだった。旧東独では当時、35万人から50万人のロシア兵士が駐留していた。

 ドイツでは昨年8月末、ザクセン州のケムニッツ市で極右派の暴動が起きたが、同州のマーテイン・デュリグ経済相はシュピーゲル誌との会見の中で、「われわれの敵はAfDでなく、不安だ。それに打ち勝つためには希望と確信が必要だ」と述べたが、「不安」に打ち勝つ「希望」と「確信」をどの政党が国民に提示できるだろうか。旧東独国民には「われわれはベルリンから理解されていない」といった不満や怒りが強いのだ。

 旧東西ドイツが再統一して今年で30年目を迎えるが、分断国家の再統一には30年は短すぎるのかもしれない。
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