ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

スイス

スイスで「高齢者の犯罪」が増加

 スイスといえば、日本人が1度は訪問したい欧州の国のひとつだろう。アルプスの小国は景色が美しく、治安が安定し、国民経済も豊かというイメージがある。実際、スイスは他の国と比較した場合、それは当たっている。卑近な例だが、同じアルプスの小国オーストリアと比べてみても、国民1人当たりの所得はスイスが高い。だから、スイスで稼いでオーストリアに住めばいいが、逆の場合、生活は少し厳しくなる、といった具合だ。

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▲スイスのリゾート地アローザ(スイス政府観光局公式サイトから)

 前口上はここまでにして、スイスで高齢者による刑法犯件数が増加してきたというニュースが入ってきた。スイス・インフォのニュースレターによると、60歳以上の国民の刑法犯件数が2011年から18年の間に30%増加したという。ただし、同時期、社会の高齢化もあって、60歳以上の国民の数が15%増加しているから、件数の増加率は少し下がる。それにしても、アルプスの中立国、経済的に恵まれているスイスで何が起きているのだろうか。

 チューリヒ応用科学大学(ZHAW)犯罪防止研究所のディルク・バイア―教授によれば、60歳以上の国民の犯罪は侮辱、暴行、万引きが3大犯罪という。そのほか、過失傷害、詐欺、セクハラ、脅迫、名誉棄損、公務執行妨害などが多い。

 重要な点は高齢者の犯罪動機だが、バイア―教授によると、他の年齢のそれと大きな違いはないという。ゞ発性、貧困、社会的認知の欠如、だ鎖声栖機↓ゼ匆餞超だ。その中で興味がある動機は△良郎い澄スイスでは65歳以上の貧国率は約15%であり、貧困が犯罪の主要動機とは受け取られていない。ちなみに、スイスでも様々な社会的支援や保障があるが、それだけでは十分ではないから、生活苦に陥る高齢者も出てくる。

 スイス・インフォによると、い寮鎖声栖気亡慙△垢襪、2018年に殺人で起訴された高齢者は22人、そのうち80歳以上は6人だ。認知症やパーキンソン病が高齢者の間で増加してきたが、さまざまな精神疾患が今後、高齢者の主要な犯罪動機となることも予想される。

 先進諸国では高齢化、少子化は急速に広がっている。高齢者の犯罪件数の増加はある意味で当然かもしれない。バイア―教授は「高齢者の犯罪は依然、全体から見ればマイナーだ」と述べているが、今後、そうとは言い切れないわけだ。

 これまで犯罪の増加といえば、青少年の犯罪増を意味した。精神的に不安定な一方、体は成長する。青少年を守るべき家庭は崩壊し、学業でも悩む若者が少なくない。年々、犯罪に走る若者の年齢は低下してきた。その一方、欧米先進国で高齢者の犯罪問題がテーマとなってきたわけだ。

 スイスばかりではない。ドイツでも高齢者の犯罪問題がメディアでも話題となってきている。特筆すべき点は、「青少年の犯罪」も「高齢者の犯罪」でも、犯罪動機が「貧困」にあった時代は過ぎ、精神疾患、偶発性といった新たな動機が台頭してきていることだろう。

 当方が住む欧州では、1人住まいの高齢者が多い。家庭は崩壊し、孤独に苦しむ高齢者は益々増えてきた。英国では孤独対策の関係省が設置され、ドイツでも同じような計画を聞く。周囲に家族はなく、1人住まいの孤独な高齢者の増加は犯罪増加の遠因ともなる。犯罪は時代、社会を反映する。スイス・インフォの「高齢者の犯罪増加」ニュースは深刻な内容を含んでいる。

スイスに飛び火したベネズエラ混乱

 1人より、2人の方が賑やかで良い、とはいえない。当方が住むオーストリアには2人の日本大使が赴任されている。1人はオーストリアとの2カ国間を担当する小井沼紀芳特命全権大使だ。もう1人は国連を含む国際機関を担当する在ウィーン国際機関日本政府代表部の北野充特命全権大使だ。

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▲ベネズエラのマドゥロ大統領とグアイド暫定大統領(ウィキぺディアから)

 船頭が多いとどうしても争いやいがみ合いが起きてくるものだ。外務省から派遣された2人の大使の間で権限争い、領域争いが起きたとは表立っては聞かないが、全く平和共存関係かというと、そうともいえない。オーストリア担当大使館所属の日本人外交官がウィーンの国連機関を訪ね、会議に参加していたというニュースが国際機関担当の日本大使館関係者の耳に入った時だ。「なぜ、君は国連にきているのかね」といった不審な顔をされたという証言を関係者の口から聞いたことがあるから、やはり小国に2人の日本大使がいるのは財政的に贅沢すぎるだけではなく、人間関係で様々な不祥事が生じる原因ともなるわけだ。

 ところで、欧州の中立国スイスに2館のベネズエラ大使館がある。もちろん、2人の大使、外交官がいることになる。首都ベルンと国連機関がある国際都市ジュネーブにだ。自国の大使館が2館ある場合、スイスに住むベネズエラ国民が旅券の延長や領事関係の要件で大使館に足を向けるとき、どちらの大使館に行けばいいのか、と戸惑ってしまうだろう。そんな話がスイスの公共ニュースサイト「スイス・インフォ」が6月14日報じていた。

 問題は、2カ所の大使館が同じ主人を大統領としている館ならば、地理的に近い大使館を訪ねれば事は済む。ベルンとジュネーブでは地理的には少し離れているから、例えば、チューリッヒに住むベネズエラ国民はベルンに行けば時間を節約できる。

 問題は2館の主人が異なることだ。ベルンのベネズエラ大使館がニコラス・マドゥロ大統領のベネズエラを代表している一方、ジュネーブのベネズエラ大使館の場合は暫定大統領のファン・グアイド氏を国の代表としている大使館だという事実だ。すなわち、前者は政府代表の大使館、後者は反政府代表の大使館ということだ。

 スイス・インフォによると、首都ベルンにあるベネズエラ大使館は昔からベネズエラ政府公式の外交使節を務め、ニコラス・マドゥロ大統領の管轄下にある。ジュネーブのベネズエラ大使館は大使館とは名ばかりで小さなベネズエラ・レストランでスイスに住む反マドゥロ勢力の集会場に過ぎず、外観から判断すれば、一国の大使館という風格はない。

 ジュネーブ居住のベネズエラ国民は、「ベルンの大使館は我々を公平に取り扱ってくれない」という不満が強い。特に、その国民が野党側を支持している場合、仕事がスムーズには進まない。もちろん、ベルン側はそのような批判を一蹴し、「われわれはすべての国民を等しく公平に対応している」と弁明している。

 要するに、欧州のアルプスの小国スイスでもマドゥロ大統領派とグアイド暫定大統領派のいがみ合いが展開されているわけだ。前者はロシアや中国が支援し、後者は米国、ブラジルなど約50カ国がグアイド氏を正式の大統領として公認している。ただし、スイスは公認していない。

 世界最高の原油埋蔵量を誇るベネズエラで紛争が生じて以来、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の統計では約340万人が自国から避難し、コロンビア、エクアドル、ペルーなどに避難している。その難民の一部は親族関係者を頼って欧州に移住してきた。南米からの報道によると、ベネズエラでは深刻な食料不足や医療品不足、さらには全国規模の停電など人道危機に直面しているという。

 スイスに住むベネズエラ国民は母国の現状にやりきれない思いがあるだろう。国家財政を潤すほどの原油生産ができる国がガソリン不足で車を利用できないとか、日常用品にも事欠くということは、同国の為政者の統治能力が疑われても仕方がない。

 スイスに住むベネズエラ国民が迷うことなく、自国の大使館を訪ねることができる日はいつ到来するだろうか。

ファーウエイ、スイスに研究拠点

 トランプ米政権から中国共産党政権の情報工作に関与しているとして国際市場から追放されてきた中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)はここにきて欧州の中立国スイスのチューリヒとローザンヌで研究拠点を新設する計画を推進中だ。スイス・インフォが5月27日報じた。

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▲米国にサイバーセキュリティー対策の調停を呼び掛けるファーウェイ社法務担当最高責任者、宋柳平・上級副社長=2019年5月29日、中国、深センで(ファーウエイ公式サイトから)

 ファーウェイ・スイスのフェリックス・クラマー副社長が先月23日、スイス公共放送に語ったところによると、チューリヒとローザンヌに研究拠点を作り、約1000人の雇用を生むという。スイスが誇る最先端の技術、IT、ナノテク、材料科学、その他の科学分野の専門的知識に関わる研究拠点というのだ。

 スイスは中立国であり、欧州連合(EU)には加盟していないが、政情は安定し、国民経済は発展している。スイスを訪問する中国人旅行者はスイスの観光業を潤している。ファーウェイが世界的に高水準の連邦工科大学のあるスイスに研究拠点の設置を考えたのはさすがだ。ファーウェイは「スイスの強みを生かして」他の欧州諸国にも投資を広げていくという。例えばパリに工業デザイン研究所、ロンドンに国際金融の専門センターを作る案を検討中という。

 この記事を読んだとき、「スイスは昔から世界から逃げてきた人々が住み着く“逃れの国”だといわれた。レーニンはスイスに逃れ、革命を計画し、カルヴィンもスイスに逃れ、宗教改革を起こした。スイスは追われた人々の避難場所だった。そして自分の懐に逃げてきた避難者を決して追っ払うことはしなかった」と書いた昔のコラム記事を思い出した。

 アルプスの小国のスイスには200万人以上の外国人が住んでいる。同国の外国人率は約25%だ。国民の4人に1人がスイス国籍を有していないことになる。アラブの春以来、中東からスイスに逃げてくる避難民も絶えない。スイスでは1990年、イスラム教徒数は約15万人に過ぎなかったが、その数は過去20年間で数倍に膨らんだ。
 
 ファーウェイはもちろん避難民ではないが、欧米諸国から中国共産党政権の情報工作の手先と受け取られ、ファーウェイを公共分野から追放する動きが世界的に広がっている。米国政府は、カナダや欧州諸国にも同様の処置をとるように働きかけ、カナダ政府が昨年12月、米政府の要請で逮捕したファーウェイ社の創設者・任正非氏の娘、孟晩舟・財務責任者の米国引き渡しを要求したばかりだ、、といった具合だ(「東欧で“ファーウェイ締め出し”拡大」2019年1月15日参考)。

 ロイター通信は5月19日、「グーグルはトランプ政権がファーウェイをブラックリストに加え、ファーウェイとアメリカ企業が取り引きすることを禁止したことを受け、今後発売されるファーウェイ向けにソフトの提供や技術支援、共同開発を停止する」と報じた。その結果、ファーウェイ製スマートフォンはグーグルの基本ソフト「アンドロイド」の最新版を使用できなくなるだけではなく、「Gメール」などのアプリも搭載できなくなる。ファーウェイに対する米国製品・技術の輸出には米商務省の許可が必要になった。事実上の輸出禁止措置だ。

 スイス・インフォによると、米国はスイスに対してもファーウェイ追放に協力するように圧力をかけてきている。ただし、スイス通信によると、スイスコム、サンライズ、ソルトの3大通信企業はファーウェイとの関係を断ち切る方針はない。サンライズの5Gネットワークはファーウェイの技術を使っている。

 ちなみに、スイス経済で中国の影響はますます大きくなっている。80社以上のスイス企業が既に中国に買収されている。バーゼルの農薬・種子大手シンジェンタが16年、中国国有化学大手の中国化工集団(ケムチャイナ)に約440憶フランで買収された時はメディアでも注目された。


 欧米から追われたファーウェイはアルプスの小国スイスに避難し、欧米市場再上陸のために研究拠点を設置するわけだ。一方、米国からの様々な圧力を受けるスイスは“追われた避難民”を追っ払わないという同国の伝統をいつまで堅持できるだろうか(「中国との付き合い方に悩むスイス」2018年10月26日参考)。

スイスの高額紙幣と「現金払い文化」

 スイス国立銀行(中央銀行)は5日、1000フランの新デザインの紙幣を発表した。スイスのニュースサイト「スイス・インフォ」によれば、新紙幣は光沢インク・繊維や切り抜き、紫外線や超極小文字など15個の偽造防止加工が施されている。さらに外側にコットン紙、内側にポリマーを使った3層構造で強度を高め、これまでの紙幣より長持ちするようになっているという。

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▲世界最高の高額紙幣スイスの1000フラン

 スイスの1000フランは紙幣としては世界で最も高額な紙幣だ。日本円で約11万円にもなる。ただし、1000フランを財布に入れて買物に出かける国民は少ない。あまりにも高額紙幣だから、買物では受け手が困るからだ。

 例えば、散歩の途中で立ち寄った喫茶店で一杯のコーヒーを飲み、1000フランで支払おうとした場合、店側は多分、1000フランを受け取らないだろう。偽札の懸念からだけではない、おつりが払えないからだ。

 1杯4・30フラン(約480円)のコーヒーを注文し、1000フラン紙幣で払った場合、店側はその日稼いだ全てをかき集めてもお釣りが払えないかもしれない。1000フランだと233杯のコーヒーを飲むことができる。店側は1000フランの紙幣で支払う客の1杯のコーヒー代のために232杯のコーヒー代のおつりが必要となる計算になる。

 だから、スイスでは1000フランを発行する意味があるか、といった素朴な疑問の声が国民から出ているわけだ。ちなみに、スイスは10、20、50、100、200、そして1000フランの6種の紙幣がある。

 ところで、高額紙幣といえば、スイスの紙幣「1000フラン」だけではない。欧州連合(EU)の共通通貨ユーロの場合も最高額紙幣500ユーロ(日本円で約6万2000円)もかなりの高額紙幣だ。

 当方は昔、近くのスーパーで500ユーロ紙幣で支払おうとして断られたお客を見たことがあった。買物の場合、最高でも100ユーロ紙幣で支払いが行われる。500ユーロの高額紙幣や200ユーロ紙幣で支払する人も通常のスーパーではほとんど見ない。ましてや、500ユーロ札を持ち歩いて喫茶店に入る人は少ないだろう。

 参考までに、一般的に店でお客が最も頻繁に使うユーロ紙幣といえば、50ユーロ紙幣だ。だから、紙幣が偽造紙幣ではないかをチェックする紙幣鑑定機を会計カウンターに置いている店もある。50ユーロ紙幣でもそうなのだ。


 スイスとは違うのは、欧州中央銀行が2016年5月、2018年末までに500ユーロ紙幣の発行を中止すると決定したことだ。当方が住むオーストリアでは今年4月末を期して500ユーロの発行を中止する。ただし、500ユーロ紙幣は回収が完全に終了するまで当分は市場に流通できる。大量の500ユーロ紙幣を持っている人は中央銀行に行けば、200ユーロ紙幣、ないしは100ユーロ紙幣に換えてくれる。

 巨額の資金を保管する場合は高額紙幣は役に立つが、紙幣として流通させる場合、高額紙幣は役に立たないばかりか、流通の障害ともなるわけだ。わずかな買物で高額紙幣を出されたら、上述したように、その扱いに店側は困る。持ち主も使用できない高額紙幣を財布に入れて歩く意味がない。

 問題は、スイスでは500ユーロより高額の1000フランの発行をなぜ停止しないのかだ。高額紙幣に縁が薄い当方は理解できない。スイスの銀行関係者によると、金融危機もあって銀行システムに対する国民の不信が強く、スイス国内では現金払いが増えてきているという。また、「現金払いがスイス文化の一部だ」と文化論を持ちだして高額紙幣発行の理由を説明する声も聞く。

中国との付き合い方に悩むスイス

 アルプスの小国スイスも中国の外交干渉や企業買収に恐れを感じ出している。スイス・インフォから配信された「外交干渉、相次ぐ買収、中国との付き合い方を模索するスイス」という見出しがついたカトリン・アマン記者(Kathrin Ammann)の記事(10月5日)を読んで、驚いた。「スイスよ、お前も中国に悩まされているのか!」といった印象を受ける。少し紹介が遅れたが、記事の概要を報告する。

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▲中国観光客が殺到するスイスの観光地ルツェルン(スイス・インフォから)

 スイスと中国は1991年以降、人権問題に関する会合を開いているが、その内容が公表されたことがない。連邦外務省のプレスリリーフによれば、「国内外の人権問題についてオープンかつ互いに批判的な議論が行われた」と記載されているだけで、具体的な問題には言及されていない。

 スイスと中国が2013年に締結した自由貿易協定では「人権に関する規定」が盛り込まれていないため、非政府機関(NGO)から批判が上がって久しい。例えば、強制労働の下で製造された商品が、特恵関税措置の適用を受けてスイスの市場に出回る可能性は拭い切れないからだ。

 特にチベット問題はタブーだ。同問題にスイス政府や議員が言及すれば、中国側から激しい抗議が出てくることをスイス側は何度も経験している。中国はダライ・ラマ14世の公式歓迎を容認しておらず、公式歓迎が行われる場合には「遡及的に様々な措置を講ずる」と警告している。そのやり方はやくざの脅迫と同じだ。

 スイス連邦政府は2005年以降、ダライ・ラマ14世を公式歓迎しておらず、チベット人コミュニティーがこの点を繰り返し批判している。連邦政府は中国と対立したくないという思いが強い点と、ダライ・ラマ14世の頻繁な訪問を不必要に政治問題化したくないからといわれる。問題は、スイス政府が基本政策を中国共産党政権に対して一歩でも譲ればもはや取り返しがつかなくなる典型的な例だろう。

 スイス被抑圧民族協会と複数のチベット人団体は最近、スイス連邦政府と連邦議会に対し、スイス在住チベット人の権利保護を強化するよう請願書を提出したという。スイスに住む亡命チベットの人権保護が問題となってきているのだ。

 経済分野でも中国の影響はますます大きくなっている。80社以上のスイス企業が既に中国に買収され、買収費用に460億フラン(約5兆1900億円)が費やされた。バーゼルの農薬・種子大手シンジェンタが16年、中国国有化学大手の中国化工集団(ケムチャイナ)に約440憶フランで買収された時はメディアでも注目された。

 連邦情報機関は2016年版現状報告書で「中国はスイス企業を買収し、企業が持つノウハウを吸収し、スイスのブランドをその名声と共に獲得しようとしている」と指摘している。中国は自国の銀行の活動拠点として中立国のスイスを利用している。
(以上、スイス・インフォの記事の概要)

 スイス中央部の観光地ルツェルンの白鳥広場は毎日、観光客でにぎわう。人口8万1000人の都市に年間約940万人の旅行者が来るが、中国人旅行者が圧倒的に多い。中国人旅行者の殺到に現地住民はただ困惑するだけだが、中国政府、企業の攻勢はスイスの国益、外交に取り返しのつかない影響を与えかねない。大国・中国は小国スイスに、人、企業、大量の物資を送る。それを小国スイスは必死に受け入れ、咀嚼しようと腐心している。このアンバランスの攻防戦の勝利者がどちらに落ち着くかは一目瞭然だろう。

 朝鮮戦争(1950〜53年)で米軍を中心とした国連軍が北朝鮮軍を追い詰めた時、中国の人民軍が参戦。国連軍が激しく砲撃しても中国人民軍からは次から次へと兵士が前に進んでくる。人民軍の人海戦術を目撃した国連軍は恐ろしくなった、というのをどこかで読んだことがある。同じように、スイス国民は、余りにも多い中国旅行者の数に恐れすら覚えているのではないか。

 ジグマール・ガブリエル独外相は2月17日、独南部バイエルン州のミュンヘンで開催された安全保障会議(MSC)で中国の習近平国家主席が推進する「一帯一路」(One Belt, One Road)構想に言及し、「新シルクロードはマルコポーロの感傷的な思いではなく、中国の国益に奉仕する包括的なシステム開発に寄与するものだ。もはや、単なる経済的エリアの問題ではない。欧米の価値体系、社会モデルと対抗する包括的システムを構築してきている。そのシステムは自由、民主主義、人権を土台とはしていない」と断言している。 

 中国共産党政権と直接民主制のスイスでは国体が明らかに違う。同じように、人口850万人に過ぎないアルプスの小国スイスと約14億人の人口を有する大国・中国とでは全ての面で違いが大き過ぎる。スイス国民が中国との付き合い方に悩むのはある意味で不可避なことと言わざるを得ない。

「牧羊犬」と観光は共存できるか

 「犬の話」が続くが、グーグルで「犬」の話を探索しているわけではない。スイス・インフォからスイスの牧羊犬の現状について考えさせられる記事が配信されてきたのだ。牧羊犬に関心のある読者はスイス・インフォのHPをクリックして読んでもらえばいいが、忙しい読者のために少々長い話をコンパクトにまとめて紹介する。犬の好きな読者にとって、アルプスの山岳地域に住む牧羊犬の話は興味深いはずだ。

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▲牧羊犬(スイス・インフォから)

 記事のタイトルは「守るべきは羊か観光客か、牧羊犬めぐり揺れるスイスの農村」だ。牧羊犬はガードドッグと呼ばれる。彼らは草原で草を食べる羊の群れをオオカミ、クマなどから守ることが仕事だが、夏の観光シーズンになると、多くの観光客がアルプスの草原をハイキングしたり、マウンテンバイクで走り回る。彼らが羊の群れに近づくと、牧羊犬はその人間をオオカミやクマと勘違いして敵意丸出しの顔で吠えるケースが出てくる。単に吠えるだけではなく、牧羊犬にかまれたハイカーの被害すら報告されているというのだ。

 ガードドックが観光客を襲撃するケースを懸念し、真っ白な牧羊犬マレンマ・シープドック(Maremmano Abruzzese)を観光地域から追放しようというイニシアチブが飛び出し、ガードドック禁止の運動まで始まったというのだ。

 スイスの山岳地域では夏の観光客を呼ぶために様々なアイデアを考えている。その際、観光客を襲撃するかもしれない牧羊犬の存在は困るわけだ。記事は「伝統と観光の共存がかかった問題」と深刻に受け取っている。

 記事で面白い個所はガードドックの性質に言及したところだ。「羊の群れの中で育った。自分も羊だと思い込むほど、どの犬もすっかり群れに溶け込んでゆく。他の羊より、少し闘志と声量が豊かなだけだ。だからこそ、危険の匂いのするものを全て追い払う役目を任せられる。第一の危険はオオカミ、クマ、そしてヤマネコ。しかし、時にはハイカーが危険と見なされることもある」というのだ。ガードドックは使命に徹底した忠実なプロというわけだ。

 一方、ガードドックにぶつかった観光客はその威圧的な声に驚かされる。犬は基本的には人間を襲撃しないことを知っていても、やはり怖い。そこで観光を優先してガードドックを禁止することに賛成する人も出てくる。ガードドックの代わりに、電流フェンスを設置すればいい、という案も出ている。

 当方は警察犬、障がい者を世話するアシスタント・ドックや盲導犬には常に頭が下がる。牧羊犬は羊を命がけで守るという任務を担っている。その牧羊犬を観光エリアから追放するという話は、他人事ではない。

 車椅子の人には通常、アシスタント・ドックが伴う。若いアシスタント・ドック(オス)が飼い主と共に歩道を渡ろうとした。近くに盲導犬(メス)が歩いている。若いアシスタント・ドックはその雌犬に気を奪われて壁にぶっつかってしまった。すると、車椅子の飼い主は怖い顔をしてそのアシスタント・ドックを叱っている、という場面を見たことがある。

 仕事中は集中しなければ事故を起こす、ということをアシスタント・ドックに教えなければならない。だから、若い犬は定期的に補修訓練を受ける。繰り返し、繰り返し学びながら、一人前のアシスタント・ドックに成長していくわけだ。

 牧羊犬の話に戻る。スイス・インフォの「牧羊犬と観光客の話」は、「自然と観光の共存」という大きなテーマだ。人は休暇ができると、外国の地、他の観光地を見に行こうとする。一方、観光客を迎える観光地側では様々なイベントが催され、旅行者を歓迎するために腐心する。

 観光地にとって、旅行者は大切だが、その町に住む住民はどうしても落ち着きを失い、町自体も喧噪が大きくなっていく。「牧羊犬」よりも「観光客」を優先するようになり、「住民」の生活より「旅行者」を重視するようになってしまう傾向がある。

 当方は米国を旅行した時、一人の老女から「観光とは、神の創造の光を観ることだ」と教えてもらったことがある。40年前の話だが、欧州の観光地、音楽の都ウィーンに住んでいると、その老女の話を時には懐かしく思い出す。

フェデラーとロナルドの新しい道

 サッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会は15日、フランスとクロアチア両国間で決勝戦が行われ、14日にはイングランドとベルギー間で3位決定戦が行われる。欧州4カ国が今大会で1位から4位までを独占する。欧州サッカー界が世界のサッカー界をリードしていることを実証したわけだ。

 クロアチアが強豪イングランドを延長線の末破ったのはセンセーショナルだった。当方はウィーン市内16区に住んでいるが、同区にはクロアチア・コミュニティがある。W杯中、クロアチア人は勝てば喜び、負ければ暴れるのではないか、と考えていたが、幸い、クロアチアはグループ戦から準決勝まで負け知らずできたので、敗戦後のファンたちの大暴れといった最悪のシナリオはこれまで回避された。

 クロアチがW杯で決勝まで進出するのは今回が初めて。ファンもクロアチア国民も大喜びだろうが、クロアチアのコミュニティ周辺に住む当方のようなクロアチア系ではない住民も平穏が守られて内心喜んでいる。

 W杯の熱気で忘れていたが、同時期に、プロ・テニスの最高峰、ウィンブルドン選手権が14日、女子の決勝戦、15日は男子の決勝戦がそれぞれ行われる。当方はこの期間、昼間はウィンブルドン選手権を中心に、夜はW杯をフォローしてきた。

 女子はドイツのアンジェリック・ケルバーと4大大会優勝回数でマーガレット・コートの24個にあと一つに迫ったセリーナ・ウィリアムズ(米国)の間で決勝戦が行われる。番狂わせは前回の覇者ロジャー・フェデラーが11日の準々決勝で南アフリカ出身ケビン・アンダーソンに2セット先行しながら敗北を喫したことだ。いずれにしても15日には、W杯の覇者もウィンブルドン選手権の王者も決定する。

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▲「ユニクロ」のグローバルブランドアンバサダー、ロジャー・フェデラー(「ユニクロ」公式サイトから Photo by Ella Ling)

 ところで、スイス・インフォから興味深い記事が配信されてきた。スイス出身のフェデラーのスポンサーが「ナイキ」から日本の「ユニクロ」に変わったというのだ。フェデラーは20年以上、ナイキのアスリートとして同社のシューズとウェアを着用。その間、男子シングルスのグランドスラム通算20勝という記録も打ち立てた。3億ドルを超える巨額の契約だという。フェデラーは「ユニクロ」の新たなグローバルブランドアンバサダーとなるわけだ。

 スイス・インフォはスポンサーの変更がフェデラーにプラスかマイナスかを特集している。ユニクロは欧州では現在、英国やフランス、ドイツなどに店舗があるが、スイスには実店舗もオンライン販売もないことから、ブランドの知名度が高くない「ユニクロ」はフェデラーのイメージにマッチしないという声もある。ちなみに、「ユニクロ」のロゴを着て初登場したフェデラーは残念ながら準々決勝で敗北し、大会から早々に敗退してしまった。

 プロ・スポーツ界ではフェデラー(36)だけではない。クリスティアノ・ロナルド(33)が次季からレアル・マドリードからイタリアのセリエAの王者ユベントスに移籍する(4年契約、推定移籍金1億ユーロ)。ロナルドといえばレアルといったイメージが強い。レアルは3年連続チャンピオンズリーグ(CL)で優勝したが、その立役者はロナルドだった。

 ロナルドは、「レアルにはお世話になった。感謝だけだ。次の章に進むべき時を迎えた」と述べている。スペインとイタリアは共にサッカー王国だが国民性には大きな違いがある。ロナルドがトリノのユベントスでどのようにファンの心を掴むか楽しみだ。ドイツで活躍した選手がイタリアで苦戦するという話はよく聞く。イタリアで成功しても他国のリーグで成功する保証はない。その意味からもロナルドのイタリア挑戦に注目したい。

 「ナイキ」から「ユニクロ」にスポンサーを変えたフェデラー、「レアル」から「ユベントス」に所属クラブを変えたロナルド。誰もが認める実績を積んできた2人のスーパー・スターは今、新しい世界に挑戦する。欧州のスポーツ界は2人の戦いに大きな期待を寄せている。

スイスで来月「新賭博法」の国民投票

 日本政府、与党関係者は、6月20日までの今会期中に通称カジノ法案、正式は特定複合観光施設区域(IR)の整備推進に関する実施法案の成立を目指しているという。
 同時期、カジノの先進国・スイスで6月10日、「新賭博法」(BGS)に関する国民投票が実施される。スイスからの情報では賛成派と反対派が激しい争いを展開している。そこで、スイス・インフォが配信した「新賭博法に関する国民投票」関連記事を報告する。日本のカジノ法案を考える上で参考になる。

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▲スイスの有名なカジノ「グランド・カジノ・ルツェルン」 tripadvisorから

 賭博法の焦点は、‥卩邂預絃匹悗梁从、⊆0詑从、不法資金の洗浄(マネーロンダリング)対策の2点だ。昨年9月、スイス連邦議会で可決された「新賭博法」では、デジタル時代に対応するため政府の許可を得ればオンライン賭博の運営も許可される一方、賭博依存症の対策もこれまで以上に強化された。例えば、新賭博法では、現在カジノだけに課せられている賭博依存症対策の義務が州とそこに所在を置く宝くじ企業にも適用され、依存症防止の専門家が少なくとも1人は監督当局に配属されるようになる。

 スイス・インフォによれば、「新賭博法」は昨年末、連邦議会で過半数を大きく上回り可決された。反対は自由緑の党(GLP)国民党(SVP)の過半数、緑の党、急進民主党(FDP)の少数派だけだった。
 反対派はデジタルネイティブな世代が多く、連邦議会に議席を持つ4大政党(国民党、急進民主党、自由緑の党、緑の党)の青年部は新賭博法に対し国民投票の実施を要求し、必要な署名5万件を集めた。

 賛成派は、/桂,公益を潤す、▲ャンブル依存症の対策強化の2点を主張する。大規模な宝くじやスポーツ賭博の運営権利を持つ賭博協会などは、新賭博法が導入されれば新しいタイプの宝くじやスポーツ賭博を企画できるようになる。例えば場外馬券売り場や、スポーツの試合中にリアルタイムで賭博をすることも可能になる。
 ちなみに、2012年に可決されたギャンブルに関する憲法により、収益は、老齢・遺族年金制度(AHV)、身体障害保険(IV)、文化事業、社会福祉、スポーツ振興、共益施設に使うと決められている。

 一方、反対派は、/桂,インターネットの検閲行為を助長し、スイス・カジノの孤立を招く、外国のギャンブル企業を締め出す、信頼できる企業サイトにアクセスできない場合、インターネットでギャンブルする人々は闇市場に流れる危険性が出る、ぅ汽ぅ肇屮蹈奪ングは自由経済と情報の自由に反する、等を主張している。
 なお、ソマルーガ法相は、「サイトブロッキングはスイスに限られたことではない。既に他国でも広く行われ、欧州だけでも既に17カ国で実施されている」と説明している。

 現時点では賛成派が政府、連邦議会の過半数、州政府の支持を得て有利だ。また、スポーツ、文化、社会機構の各種協会からの支持は大きいという。スイスの政治に関わるほぼ全ての政党を網羅した政治家から成る大規模な推進委員会の協力も得ているという。

 賛成派と反対派のやり取りはここにきて激しさを増してきた。賛成派は「反対派はネット上でギャンブルサイトを運営する外国企業から融資を受けた」と非難すれば、反対派は「賛成派は宝くじやスポーツ賭博を提供するカジノや賭博協会に操られ、国民投票に向けたキャンペーン活動に必要な資金を受け取った」と非難する、といった具合だ。

 スイス・インフォによれば、スイスではカジノの総所得(支払った賞金を差し引いた収入)の4〜8割を税金として納めている。Aライセンスのカジノ(グラン・カジノ)は税金の全額を老齢・遺族年金制度(AHV)と身体障害保険(IV)に、Bライセンスのカジノは税金の6割をAHVとIVに4割をカジノが所在する州に納める。2016年にカジノ21軒が支払った税金は合計3憶2330万フラン(約352億円)。うち2億7590万フランをAHV/IVに4730万フランを州に納めている。

 日本では2016年12月、IR推進法案が成立し、今回、IR実施法案の成立に向けて審議に入るわけだ。法整備からカジノ候補地の決定など、まだまだ越えなければならないハードルは控えている。日本第1号のカジノのオープンは2025年前後になると予想されている。

海外駐在外交官の「光」と「影」

 スイスは欧州連合(EU)には加盟せず、直接民主制を国是とし、外交面では中立主義を貫いてきた。同時に、スイスのジュネーブには国連の欧州本部があり、人権理事会など重要な国連機関の本部がある。そのため、ジュネーブや首都ベルンには多くの外交官が駐在している。

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▲ウィーン市の日本大使館・文化センター(2013年4月、撮影)

 スイスではシリア内戦の紛争解決に関する国際会議が開催されたり、世界から政治家、経済界、実業家のトップが結集して「世界経済フォーラム」が毎年ダボスで開かれる、といった具合だ。
 
 ところで、ジュネーブやベルンで駐在する外交官が違法駐車など交通違反で罰金を受けたとしてもそれを支払わない外交官が多く、その総額は数百万フランにもなるというのだ。

 スイス・インフォが同国日曜紙ゾンタークス・ツァイトゥングの記事(4月22日)として報じたところによると、2014年〜17年の間に、ベルン州にある90カ所の大使館に勤める外交官に科された反則金は、74万5000フラン(約8200万円)にのぼった。うち支払われたのは14万1300フランだけだった。国連の欧州本部や33カ国の代表部が置かれるジュネーブ州では、状況はさらに深刻だという。

 罰金未払いの外交官にも言い分はあるだろう。1961年に締結された外交関係に関するウィーン条約に基づき、外交官ナンバーを付けた外交官車両は現地の法律が適用されないからだ。だから、違反金を支払わなくても問題視されない、と考える外交官が多い。外交官の治外法権だ。

 交通マナーの悪さや罰金の未払いはある意味で囁かな不祥事かもしれないが、セクハラ、公金横領から腐敗になると事態は深刻だ。どの社会でも起きている犯罪だが、海外駐在外交官は、々颪梁緝修任△襪海函↓特権を享受できる立場だということで、一般社会のそれより深刻に受け取るべきかもしれない。

 日本では財務省事務次官のセクハラ問題がメディアから糾弾され、関係者が辞任に追い込まれるといったニュースが報じられていたが、海外駐在の日本人外交官の世界でもセクハラ事件は起きている。当方が記憶している限りでは、クロアチア駐在の日本人外交官が現地女性へのセクハラで左遷させられたことがあった。

 また、ウィ―ン駐在日本外交官の中にはバブル経済時代の習慣を忘れることができない外交官がいた。昼間から高級酒を飲み放題、食事も寿司から肉料理までフルコースを注文する。名目はゲストへの接待だった。
 一人の日本外交官が匿名条件で当方に明らかにしたところによると、「その外交官が招くゲストはVIP級ではなく、安いレストランで接待できる相手がほとんどだった。高級レストランへの接待は自身が食べたいからだった」という。もちろん、支払いは大使館持ちだ(「日韓外交官の現代『接待事情』」2010年8月21日参考)。

 外交官の世界は一見華やかだが、一歩近づいて観察すると、罰金未払いからセクハラ、腐敗といった一般社会で起きている不祥事が同じように起きている。ただ、外部に漏れることが少ないだけだ。外交官の世界は例外ではない。外交官よ、驕るべからず だ。

“スイス・ファースト”問う国民発議

 スイスは直接民主制の国家で欧州連合(EU)にも加盟せず、独自の政治、社会体制を構築してきたが、ここにきて国際法と国内法(連邦法)のどちらを優先すべきかで、議論を呼んでいる。
 以下、スイス・インフォが特集した「国際法より国内法を優先?」のタイトルの記事(独語翻訳・編集 宇田薫氏)の概要を紹介する。

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▲ジュネーブの国連欧州本部(2012年11月1日、撮影)

 国際法より国内法を優先すべきだというイニシアチブ(国民発議)は右派政党「国民党」(SVP)が提示、「スイスの直接民主主義を取り戻す」ことを目標としている。換言すれば、アルプスの小国で中立国のスイスもグローバル化の現代、多くの国際法に縛られて、自国の独自の直接民主制の実施に障害が出てきたことから、スイス・ファーストを標榜する運動と受け取っていいわけだ。

 スイス・インフォによると、イニシアチブの正式名称は「よその裁判官ではなくスイスの法律を(国内法優先イニシアチブ)」と命名され、スイスの国内法と国際法にどう優先順位をつけるべきかを示した内容だ。3月の全州議会(上院)では同イニシアチブと急進民主党の対案(国際法を国内法より優先)の両方が審議され、否決されたが、来年にも国民投票でこのイニシアチブの是非が問われる予定だ。

 多くのケースで国際法の内容はスイスの国内法と整合性がある。たとえば、国際法上の強硬規範(拷問、奴隷制度、侵略の禁止など)はスイス国内でも適応される。問題は、国際法の内容と国内法が競合、ないしは不一致の場合、どちらを優先するかだ。
 連邦内閣は2010年3月5日、「連邦と州(カントン)は国際法を考慮する」と規定された連邦憲法から、「国際法が(国内法より)常に優先されるとまではいえない」との見解を出した。国際法と矛盾する内容と知っていて作られた法律でも、人権が守られているものであれば、その法律を優先する、との連邦最高裁判所の判例もあるという。 

 今回のイニシアチブの発起人、国民党は「連邦最高裁判所、連邦内閣、行政、法曹界では近年、国際法が国内法に優先する風潮にある」と批判。その実例が、2012年10月12日、最高裁が「外国人犯罪者を国外に追放するイニシアチブ」に関連して出した判決だという。国民党は最高裁がこの判決で「強行規範でない国際法も、連邦憲法と連邦法に優先する」との見解を出したとして、強く批判してきた。そこで国民党は「いかなる場合においても連邦憲法は国際法に優先する(強行規範は例外)」という条項を、連邦憲法に盛り込むことを狙っているわけだ(「難民避難地のスイスが危ない」2010年12月4日参考)。

 スイス・インフォはもう一つの実例を挙げている。スイス連邦憲法はイスラム教のミナレット建設を禁止しているが、欧州人権裁判所が「スイスの国内法は欧州人権条約(EMRK)で明記している信教の自由に反する」と決定した場合だ。国内法を国際法より優先する発議が可決された場合、スイスは1974年に批准した欧州人権条約を破棄する以外の選択肢がなくなる。反対派が主張している懸念は、国民党の主張が可決された場合、スイスの国際的イメージ・ダウンにつながる恐れが出てくるというものだ(「ミナレット建設禁止可決の影響」2009年12月1日参考)。 

 
 最後に、スイス以外の欧州諸国の立場を紹介する。

 
 A:国際法>国内法
    フランス、オランダ、ドイツなど
 B:国内法>国際法
    英国、ロシアなど 
 C:国際法=国内法
    フィンランド、デンマークなど

 以上、更に詳細な内容を知りたい読者はスイス・インフォのサイト(swissinfo.ch)を訪れてほしい。
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