ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

時事問題

「環境保護後進国」中国とグレタさん

 中国共産党政権がスウェーデンの16歳の環境活動家、グレタ・トゥンベリさんの動向に強い関心があったとしても不思議ではない。世界の人口の6分の1を占める人口大国・中国の環境問題は深刻だ。中国一国の問題ではなく、地球レベルの問題だからだ。中国の大気汚染を解決できれば、世界の大気汚染問題も大きく改善するだろう。だから、グレタさんが中国の環境問題に関心を持ったとしてもこれまた不思議ではない。双方の関心に共通点がある限り、両者が接触するチャンスは出てくるわけだ。

Greta_Thunberg
▲グレタ・トゥンベリさん(ウィキぺディアから)

無題
▲中国の大気汚染対策を支援するWRI

 中国は土壌汚染、水質汚染、大気汚染に悩み、ここにきて残留性有機汚染物質(POPs)に関するストックホルム条約の重要さに目覚めて、国際機関の支援を受けてPOPs対策にも乗り出してきた。世界2位の経済大国にのし上がった中国の無謀な環境破壊に悩んできた隣国にとっては朗報かもしれない(「環境保護対策で後進国・中国の選択」2019年4月14日参考)。

 その中国が密かに熱い関心を注いでいる人物が、世界に地球温暖化を警鐘するグレタさんだ。海外中国メディアの「大紀元」は先月30日、そのグレタさんと中国共産党政権の間に接点があることを報じている。

 グレタさんが英国から大西洋をヨットで横断し、ニューヨークの国連総会で地球温暖化を警告し、対応に消極的な世界の指導者に怒りをぶっつけた演説はメディアで報じられたが、海外の中国反体制派メディア「大紀元」が伝えたところによると、グレタさんの国連総会での様々なイベントを準備し、調停した環境団体が米国委員会から「中国共産党政権の代理人」の疑いがあると指摘されてきた法律事務所というのだ。

 グレタさんらが参加した気候変動サミットは9月23日、世界12カ国から16人の若者が結集し、そこで気候変動に関する政府の行動が欠如していると明記した非難声明がまとめられ、ユニセフ主催の記者会見で発表されたが、グレタさんらの活動を陰で支援したのは、法律事務所「ハウスフィールドLLP」(Hausfeld LLP)と米国の環境保護法律事務所「アースジャステス」(Earthjustice)の2つの法律事務所だという。両事務所は世界の環境活動家の訴訟を代行している。

 それだけではない。環境団体と外国政府の関係を調査する米下院天然自然委員会は昨年10月、「アースジャステス」が中国政府の意向に沿って活動しているとして、「外国人代理人」カテゴリーに入れる意向を明らかにしているという。外国人代理人となれば、米政府は毎年、財政報告、活動報告の提出を要求できる。

 さらに看過できない事実は、同法律事務所は日本の沖縄県で継続的に米軍の行動に反対する活動を行っている環境活動団体・生物多様性センター(CBD)と協調して反基地活動を支援していることだ。大紀元によると、「米空軍海兵隊の普天間飛行場から名護市辺野古の移設には、絶滅危惧種の哺乳類ジュゴンの生態を侵害するとして、移設反対運動を展開している」という。

 大紀元によれば、「アースジャスティスは、米軍による沖縄の基地移転を阻止するために、2003年、ジュゴンを含む環境問題を訴えるCBDと日本の団体の代理として米国で訴訟を起こした。2018年8月にサンフランシスコ連邦地方裁判所はCBDを敗訴としたが、CBDは控訴した」という。アースジャスティスは裁判の他にも、基地移転を阻止するために米国内外でロビー活動を行っている。

 中国と関係がある環境問題を扱う団体は「アースジャスティス」だけではない。大紀元によれば、ワシントンDCにある環境問題のシンクタンク、世界資源研究所(WRI、World Resources Institute)は北京公安局と中国生態環境省の「指導と監督」の下で機能しているという。「WRIの指導者は、中国政府および共産党の高官と定期的に交流し、官製紙・中国日報や中国政府のプレスリリースおよび論説について肯定的な見方を宣伝するなどして、中国の環境プログラムを擁護する一方、国連で、米国のエネルギー使用に制限を課すよう要求し、中国の主張を庇護している」という。

 話は中国共産党政権とグレタさんの関係に戻る。中国当局はグレタさんが参加する国際シンポジウムなどを親中派の法律事務所を通じて監視する一方、グレタさんの環境保護活動を内外両面から支援している疑いが浮かび上がってくるわけだ。その狙いは、環境問題を中国主導でリードしつつ、トランプ米政権の環境保護政策を批判することだろう。

 グレタさんの環境保護活動が世界的に注目されてきた今日、「中国の代理人」とみられる法律事務所を通じて中国政府がグレタさんの活動を誘導しようとしていると報じた大紀元の記事は注目に値する。大紀元の報道に関心がある読者は以下のサイトで入手可能だ。

   https://www.epochtimes.jp/p/2019/09/47700.html

文在寅、米独の憎悪犯罪から学べ

 米中南部で4日未明にかけ、2都市で銃乱射事件が起き、計29人が死去した。米南部テキサス州エルパソのショッピングモールで21歳の白人、パトリック・クルシウス容疑者が半自動小銃を乱射し、20人が死亡、26人が負傷した。クルシウス容疑者は、犯行直前にヒスパニック系移民への憎悪を記した声明をインターネットに出し、「一人でも多くのヒスパニックを殺したい」と叫んでいたという。エルパソはメキシコ国境に近く、ヒスパニック系移民が多数住んでいる地域だ。

271433
▲憎悪・反日を煽る文在寅大統領(韓国大統領府公式サイト、2019年8月5日)

 その13時間後、米中西部オハイオ州デートンのナイトクラブやバーなどが集まる繁華街で24歳の白人、コナー・ベッツ容疑者は銃を乱射し、9人が死亡、27人が負傷した。容疑者は地元警察に射殺された。死亡した9人の中に容疑者の妹(22)が含まれていたという。ベッツ容疑者の犯行動機は不明だ。エルパソとデートンの2件の銃乱射事件の関係なども調査中だ。

 CNNで現地からの中継を追っていた。番組関係者の1人が「エルパソのヘイトクライムはワシントンがもたらした」と述べ、ヒスパニックなど少数民族の不法難民対策を進めるトランプ大統領こそ憎悪犯罪を煽った張本人だと強調していた。

 トランプ氏は先月、議会のヒスパニック系議員やアフリカ系議員に対し「出身国に戻ればいい」と中傷するツイートを発信し、同時に「メキシコ国境に壁を建設し、不法な難民を入国させず、米国内の不法難民を追放する」と表明したばかりだ

 トランプ氏の度重なる民族主義的な発言を想起すれば、「トランプ氏は憎悪犯罪を誘発した張本人だ」という批判に対し、反論は難しい。米大統領の発言となれば、本人の意向とは関係なく、大きな影響を及ぼすことは避けられないからだ。

 米民主党はエルパソの憎悪犯罪がトランプ氏の憎悪発言に大きな影響を受けたと早速批判。一方、トランプ氏は4日、「如何なる憎悪犯罪も許されない」と非難するだけにとどめ、具体的な対策には言及しなかった。トランプ氏はここ当分、自身の発言の弁明で守勢を余儀なくされるだろう。

 ところで、憎悪は非常に感染しやすい感情だ。その感染力は想像を超えている。当方はこのコラム欄でも韓国が慰安婦像、少女像を海外で設置する動きに対し、「憎悪の輸出は危険だ」と警告し、「どのような言動も、憎悪から発したものは決して良き実をもたらさない。サムスンのスマートフォンや現代自動車を輸出するように、韓国は慰安婦像という憎悪を輸出すべきではない」と書いた(「韓国は『憎悪』を輸出すべきではない」2014年1月20日参考)。

 憎悪犯罪は米国や韓国だけではない。ドイツでも与党所属の政治家が暗殺されたばかりだ。独中部ヘッセン州で6月2日、リュブケ県知事(65)が自宅で頭を撃たれ倒れているのを発見され、収容先の病院で死亡した。犯人は極右過激主義者とみられている。

 同知事はドイツ与党「キリスト教民主同盟」(CDU)に所属、難民収容政策では難民擁護の政治家として知られてきた。事件は同知事の難民擁護に関する発言がきっかけとなったと受け取られている(「極右過激派殺人事件に揺れるドイツ」(2019年6月28日参考)。

 人は愛を大切にする。愛は、ドラマの主要テーマであり、愛のために命を捧げる人も出てくるほど、パワーを有している。同じように、憎悪も大きなエネルギーを持っている、その感染力は愛を凌ぐほど強い。最近の憎悪犯罪の増加はそのことを裏付けている。

 当方が今、最も心配しているのは反日を政治道具として憎悪を煽る文在寅政権だ。憎悪に煽られた人間が現れ、蛮行に走る危険性が排除できなくなるからだ。憎悪、反日を政権の支持率を上げる手段に悪用することは余りにも危険だ。

 「憎悪」という悪魔を野に放つと、どのような結果をもたらすか分からないのだ。最悪の場合、文大統領はその責任を負わざるを得なくなるだろう。繰り返すが、憎悪を弄ぶことを直ぐに止めるべきだ。米国とドイツの最近の憎悪犯罪を教訓とすべきだ。

韓国外相が日本を北カードで脅迫?

 日本政府は2日、輸出の優遇処置の対象国「ホワイト国」から韓国を除外する政令改正を閣僚決定した。これを受け、7日には交付され、28日には発効することになった。韓国側は日本政府の決定を「遺憾」として抗議する一方、対応に乗り出している。日本政府の今回の閣議決定は、7月の半導体材料の3品目の輸出規制に次ぐ、対韓政策の第2弾だ。

000503421
▲バンコクで会談す河野外相と康外相(2019年8月1日、日本外務省公式サイトから)

 それに先立ち、河野太郎外相は1日、バンコクで韓国の康京和外相と会談し、日本政府は2日、韓国を輸出優遇国の「ホワイト枠」から除外することを閣議決定する意向を伝達した。それに対し、康外相は、「ホワイト国から韓国を除外しないでほしい」と要請し、両外相は意見の相違を埋めることができなかった。予想されたことだが、両国間の溝の深いことが改めて明らかになったばかりだ。

 ところで、康外相は1日、「日本が安全保障上の友好国として輸出上の手続きを簡素化する『ホワイト国』から韓国を除外すれば、韓国政府も対応を講じざるを得なく、両国の安全保障協力の枠組みを検討することが不可避となる」(韓国聯合ニュース)と述べている。

 同外相の発言を可能な限り好意的に解釈すれば、「日韓は対北で連携しなければならない時だ。日本側の政策はその精神に反する」という韓国側の精一杯の批判だ。康外相の発言を憶測を含めて拡大解釈すれば、「日本が韓国に敵対行為を続けるならば、わが国は日本とは如何なる安保政策も連携できない」、「日本はもはや韓国の同盟国ではなく、敵国となる」という脅迫の意味合いが含まれている、と受け取れるのだ。

 ここで問題となっているのは軍事情報包括保護協定(GSOMIA)だ。日韓が北の核・ミサイル関連情報を共有する目的で締結され、2016年11月に発効した。協定は1年ごとに見直しが行われる。両国の合意があれば自動的に延長される。今回は8月中旬に同協定の破棄、ないしは自動延長を決定する時を迎える。康外相は今回、「日本とは対北軍事情報をもはや共有しないぞ」と警告したわけだ。

 文在寅政権が発足して以来、韓国軍は北朝鮮をもはや「主敵」とはみなさなくなった。文政権は、北に対しては南北融和政策を実行する一方、日本に対しては過去の両国間の国際条約を破棄し、反日攻勢を連日続けてきた。

 過去の経緯から康外相の発言を再検証すると、その内容は過激なものとならざるを得ないのだ。以下は当方の憶測だ。

 「韓国にとって北朝鮮の非核化はもはやテーマではない。日本がわが国の主要敵国となった以上、北の核兵器は韓国を日本の攻撃から守る重要な武器となる」という意味合いが含まれてくる。要するに、北の大量破壊兵器で日本を脅かすことも辞さないぞ、といった脅しが暗示されているのだ。

 上記の憶測はかなり過剰な解釈かもしれないが、日韓両国関係を考えるならば、非現実的なシナリオといって一蹴できない深刻さがある。北朝鮮は日本を敵国と見なしている。歴史的な背景もあって、反日だ。一方、韓国は文政権が発足して以来、連日反日の言動を繰り返してきた。文政権にはそれ以外のテーマがないと思われるほどだ。状況は当方の憶測が全く的外れとはいえなくなるのだ。

 北は短距離弾道ミサイルを発射したが、韓国側の反応がいまいち曖昧であり、明確な批判を表明するまでに時間がかかる。金正恩朝鮮労働党委員長の気分を害してはならない、といった配慮が文政権には強いからだ。

 康外相の発言は深い思慮の末、語ったものではないのかもしれないが、韓国の政治家にとって北は同民族であり、日本は過去、植民地化した国だ。いざとなれば、南北は容易に連携、結束できる、という思いが強い。北の非核化がスムーズに進展しないのは、北側の戦略が奏功していることもあるが、韓国側にも北の核兵器を含む大量破壊兵器は南北再統一の暁には日本に対して利用できる武器、という思いが払しょくできないからだろう。

 韓国は自力で核兵器を製造できない。人工衛星(ミサイル)でもロシアのエンジンがなければ発射できないのが韓国の技術だ。一方、北側は既に核保有国となった。ミサイル発射技術も修得済みだ。その軍事的武器は南北再統一後は大きな武器となる。それをあえて放棄する必要などないと文政権が考えても不思議ではない。

 GSOMIAは朝鮮半島の安全を確保するうえで重要だが、同協定の破棄は日本側より韓国側にダメージが大きいのではないか。北が核実験した場合、それを実証するためには放射性希ガスの検出が欠かせられないが、包括的核実験禁止機関(CTBTO)が設置している国際監視システム(IMS)にはロシアのウラジオストックの観測所と日本の高崎観測所に希ガス監視施設があるが韓国国内にはない。対北ミサイル問題でも、北が発射したミサイルについても韓国軍は過去、政権の政治的な思惑もあるが、迅速な決定が難しかった。すなわち、韓国側の独自の対北軍事情報は多くなく、実際は米国や日本からの軍事情報に依存してきた面が否定できない。日米の人工衛星が寧辺核関連施設などを常時監視している。

 韓国側はその現実を知らないはずがない。それではなぜ康外相は「日韓の安保保障協力に見直し」発言をしたのだろうか。うがった見方をすれば、韓国国内の反日に火をつける一方、米国の干渉を期待したパフォーマンスではないか。北の非核化を推進するうえで日本が大きな障害となってきた、という韓国側のメッセージを米国に伝達するために恣意的に状況をエスカレートさせているだけではないか。

 文大統領は2日、日本政府の決定に深い遺憾を表明するとともに、「現在の状況をこれ以上悪化させないように交渉する時間を持つことを求める米国の提案にも応じなかった」(中央日報)と米国の調停にわざわざ言及している。非常に狡猾な大統領だ。日本は北を真似た“韓国流の瀬戸際政策”に乗らず、冷静に対応すべきだろう。

OPEC事務局長のグレタさん批判

 ウィーンに本部を置く石油輸出国機構(OPEC、加盟国14カ国)は1日、定例総会を開催し、減産合意(協調減産)を来年第1四半期末まで9カ月延長することで同意したばかりだが、OPECのバルキンド事務局長が世界に広がる若者の地球温暖化、気候変動対策に抗議するデモ集会に言及し、「環境保護運動家たちの非科学的な攻撃はオイル産業にとって最も脅威だ」と述べたと報じられると、グレタ・トゥ―ンベリさんは4日、「オイル産業への批判の声が世界的に高まってきている。ありがとうOPEC、われわれの運動が産業界の最大の脅威という批判は私たちの運動へのこれまで最大級の称賛だ」と応戦し、話題を呼んでいる。

HE Barkindo
▲OPECのバルキンド事務局長(2019年7月、OPEC公式サイトから)

Greta_Thunberg
▲グレタ・トゥーンベリさん(ウィキペディアから)

 スウェーデンの女子生徒、グレタ・トゥーンベリさんは昨年8月、スウェーデン議会前で地球温暖化問題、気候変動対策のための学校ストライキを行い、一躍有名となった。その後、グレタさんの活動に刺激を受けた学生や生徒たちが毎週金曜日、世界各地の都市で地球温暖化対策デモ集会(フライデー・フォー・フューチャー)を開催してきた。欧米のメディアではグレタさんの活躍を大きく報道し、グレタさんはノーベル平和賞候補に挙がるほど有名人となった。

グレタさんの環境保護運動に対し、これまで欧米の極右ポピュリストたちが批判してきたが、16歳の少女への個人攻撃に終始してきた。そこに、オイル産業界の中核を担うOPECが「グレタさん批判」に加わってきたのだ。

 OPEC事務局長の批判は地球温暖化、気候変動問題に直接、関与しているだけに、その批判に対し、グレタさんも無視できなかったのだろう。いよいよ、OPECとグレタさんの戦いの幕が切って落とされたわけだ(「極右派の『グレタさん批判』高まる」2019年5月4日参考)

 今年の6月の欧州は暑かった。フランスでは40度を超える灼熱の日々が続いた。「観測史上最も暑い6月」という見出しがオーストリアのメディアでも報じられた。気候の変動は欧州に長く住んでいる当方もやはり肌に感じる。冬、ウィーンに雪が降らなくなって久しい。鈍感な人間でもやはり「地球の気候がおかしくなった」「ひょっとしたら、地球の軸が動いたのではないか」といった思いが湧いてくる。

 そこでグレタさんのような少女が立ち上がってきたのだろう。ドイツの世論調査によると、同国では環境問題を最大の課題としてきた「同盟90/緑の党」が同国の2大政党「キリスト教民主同盟」(CDU)と「社会民主党」(SPD)を凌いで第1党に躍り出る勢いを見せてきた。やはり、多くの人々が環境対策の重要さを急務と考えだしてきたのだろう。

話は飛ぶが、欧州連合(EU)の欧州員会委員長に推薦されたドイツのCDU出身のフォンデアライエン国防相も各会派の公聴会で環境保護問題を最重要課題に挙げ、支持を要請している。欧州では2015年以来、移民・難民対策が最大の関心事だったが、ここにきて環境保護問題に関心がいく国民が増えてきた。グレタさんら次の世代の若者のたちの地球温暖化対策を訴えるデモ集会の動きに対し、OPEC事務局長が神経質となるのは当然かもしれない。

 ちなみに、グレタさんの運動に対しては学校関係者からも批判の声が聞かれる。毎週金曜日のデモ集会に参加する生徒や学生たちは学校や大学の授業を休んで参加するケースが少なくないからだ。参加するなら授業のない学校の休みの日にすべきだとの主張だ。金曜日の同集会に参加するために、親が子供を学校からピックアップし、デモ集会に連れていく、といった情景も見られだした。

 欧州は夏季休暇に入った。学校や大学は長い休みに入った。若者たちは十分、時間があるから、環境保護運動のデモ集会を開催することはできるが、不思議なことに、デモ集会のニュースを聞かない。彼らはバケーションに忙しいのだろうか。学校が始まってからなら、授業を休んでデモ集会をするが、夏季休暇期間はしない、というのだろうか。

 誰の目にも環境保護問題は深刻だ。地球温暖化、気候不順は長い時間を経て現れてきた現象だ。二酸化炭素排出量は年々増加している。それだけにその対策も継続性が欠かせられない。環境問題の対策では短期戦は考えられない。我々の生き方が問われるからだ。環境税の導入も話し合われてきた。環境汚染の原因をじっくりと検証し、腰を据えて取り組まなければならない。

米中貿易戦争はレアアース争奪戦に

 米中の貿易戦争はここにきて“レアアース戦”の様相を深めてきた。中国は米国の中国製品に対する追加関税に対し、米国からの輸入品600億ドル分の追加関税率を引き上げるが、対米輸出製品のひとつ、レアアース(希土類)の輸出制限に乗り出す気配をちらつかせている。

fa3a52d
▲「Made in the USA](ホワイトハウス公式サイドから)

 ただし、中国側はこれまでレアアース輸出制限を正式には表明していない。なぜなら、レアアース輸出制限は単に対米報復というだけではなく、世界経済の発展にも大きな影響が出、中国側も無傷では済まされなくなるからだ。

 レアアースとはIT分野の半導体チップの製造には欠かせない資源であり、自動車、軍需品に至るまで需要が豊富な資源だ。レアアースがなければ、具体的にはスマートフォンやハイブリッド車、通信機器ばかりか、人工衛星、ハイテク戦闘機の製造まで、広範囲の分野で支障が出てくる。

 米国は1980年代まではレアアースの最大輸出国だったが、安価な中国産レアアースの輸入もあって、米国内の製造工場が次々と追い込まれていった。その結果、中国が世界最大のレアアース輸出国となった経緯がある。

 米通商代表は中国製品約3000億ドルに対する最大25%の追加関税を決めたが、レアアースを除外している。すなわち、米国企業が中国産のレアアースを必要としているうえ、中国に代わって、レアアースを輸入できる国が見当たらないからだ。資源大国の米国が中国のレアアース資源に依存しているわけだ。

 中国共産党政権はその米国側の弱点を知っているので、米中貿易戦争で米国の制裁に対する報復カードとしてレアアースの輸出制限という切り札をちらつかせているわけだ。中国新華社通信によれば、米国はレアアースの78%を中国から輸入しているという。

 ちなみに、米国側は中国産レアアース依存を克服するために、々馥發離譽▲◆璽杭侶_饉劼悗侶从囘支援、▲譽▲◆璽考入先の多様化(オーストラリアなど)などを模索している。

 参考までに、レアアース資源に関連する2つの興味深いニュースが過去、報じられた。

 ヽこ庵羚颯瓮妊ア「大紀元」日本語版(2018年4月19日)によると、日本の排他的経済水域(EEZ)に、中国籍船舶が許可なく侵入し、希少資源を採取しているという。日本の最南端島で世界需要の数百年分のレアアース泥が発見されたからだ。

 大紀元によると、「科学誌ネイチャー・サイエンス・ジャーナル4月10日付によると、日本の早稲田大学と東京大学の合同研究チームの調査で、小笠原諸島に属する日本最東端の島・南鳥島の周辺に1600万トン超ものレアアースが発見された。これは世界需要の数百年分に相当する」というのだ。中国産レアアース輸入に依存してきた日本がレアアース国内産化に成功すれば、日本は中国の市場独占を破り、主要なグローバルサプライヤーとして登場できるわけだ。もちろん、深海底にあるレアアース泥を採取し、船上へ安全に運ぶための技術開発が必要となる。

 ∨鳴鮮に約2億1600万トンのレアアース資源が埋蔵されているという。米国海外向け放送「ボイス・オブ・アメリカ」(VOA)が2014年1月18日に報じた。この埋蔵量は世界最大の生産国中国の約6倍に当たる。

 中国は過去、レアアースの輸出制限を行い、世界のレアアース価格を10倍化させ、欧米諸国を困惑させたことがあった。北朝鮮でレアアース開発・事業化が成功すれば、北朝鮮の国内経済ばかりか、日本や韓国への輸出も可能となり、国際社会での外交関係も改善するという声が聞かれる。

 トランプ米大統領は米朝首脳会談で金正恩朝鮮労働党委員長に、「非核化が実現すれば、北朝鮮の国内経済が飛躍的に発展する道が開かれる」と語ってきたが、北朝鮮の地下資源、特にレアアースの開発で米国と連携強化すれば、北側の国民経済は急速に発展するうえ、米国も中国産レアアース依存から脱出できる“ウインウイン”関係が確立できるというオファーだったわけだ。

 “石油外交”といわれた時代が久しく続いたが、ここにきて“レアアース外交”と呼ばれる時代を迎えている。資源貧困国の日本が資源国としてのプレイヤーを演じることができる時が来るかもしれない。

丸山穂高議員とシュトラーヒェ氏

 日本維新の会の丸山穂高衆議院議員(大阪19区)が今月、北方領土の国後島ビザなし訪問時に、「北方領土を戦争で取り返すことに賛成か反対か」という問いを発し、戦争を煽る発言だということで批判が沸き上がり、同議員は維新の会から除名処分を受けたというニュースを知った。その後も様々な批判と意見が飛び出しているが、本人は議員を止める考えはないという。

maruyama00
▲丸山穂高議員(2017年1月27日、衆院予算委員会)

20190518_121634
▲シュトラーヒェ自由党前党首(副首相と自由党党首のポストの辞任を表明するシュトラーヒェ氏=オーストリア国営放送から、2019年5月18日)

 ところで、オーストリアでは極右政党「自由党」のシュトラーヒェ党首が、イビザ島での暴言ビデオが流れ、クルツ政権下の副首相と自由党党首のポストを失ったばかりだが、「そういえば日本の丸山穂高議員とシュトラーヒェ氏は似ているな」と気が付いた。そこで、丸山氏の不祥事について報じたブログをもう一度読み直したら、両議員は確かに似ている。国民によって選出された国会議員という立場だけではない。両議員は酒で躓いた、ということに気が付いた。

 当方は酒を飲まないので、飲まない人間が飲む人間の不祥事についてあれこれ言っても意味がないし、観念的な話となるのが落ちだが、なぜ人は酒を飲みすぎると暴言を吐くのか、当方には非常に関心があるテーマだ。

 シュトラーヒェ氏が暴言を吐いた現場のビデオがメディアに流れ、引責で副首相と党首のポストから辞任したが、その時、「格好よく見せたいというティーンエイジャー気取りもあり、ウォッカの影響も手伝って暴言を吐いてしまった」と述べている。すなわち、ウォッカを飲みすぎて普段なら言わないような内容を語ってしまった、「バカであり、無責任だった」と謝罪している。

 丸山氏の知人の1人、作家の宇佐美典也氏のブログ(5月16日)を読んで、丸山氏はアルコール依存症だと知った。それでは、戦争で奪われた北方領土を奪い返すという考えはアルコール飲酒がなした仕業だろうか。聡明な知性の持ち主がなぜ酒を飲みすぎ、時には不祥事や暴言を吐くのか。それとも暴言が先で、酒はその言い訳に過ぎないのだろうか。

 神脳神経学者の説明によると、「酒による不祥事、暴言は知性水準にはあまり関係なく、酒を飲むと脳神経の防御メカニズムがマヒし、検閲メカニズムが停止するため、普段抑えられてきた内容や考えが飛び出しやすくなる」という。社会は共同体だから、人は自分の本姓を知性でコントロールし、検閲し、制御しながら生きていかざるを得ない、という説明は一理ある。その社会の規則を破った丸山氏とシュトラーヒェ氏は当然制裁を受けなければならなかったわけだ。

 シュトラーヒェ氏も丸山氏も国会議員を務める聡明な人間だと思うが、「酒が知性を眠らせ、本来の自分の世界が目覚め、暴言を吐いたり、不祥事が起きるのだ。検閲メカニズムをスルーした、その人間の偽りのない姿、考えが出ただけだ」といわれれば、多分そうかもしれない。しかし、それでは“偽りのない自分”を発揮するのを`助ける酒を批判できなくなる。

 オーストリアはローマ・カトリック教国だ。そのオーストリアでイビザ島事件が起き、暴言を吐いたシュトラーヒェ氏らは政権から追放されたが、バチカン・ニュースはシュトラーヒェ氏の言動を厳しく批判している。「政治家になる以上、そのパーソナリテイが成熟していなければならない」と説教するドイツの司教のコメントが掲載されていた。それではパーソナリテイが成熟している聖職者がなぜ未成年者への性的虐待を犯すのか、なぜ教会はそれを防止せず、隠ぺいしてきたのか。聖職者は通常、アルコール類を飲まないが、性犯罪を犯し、時には失言するとすれば、シュトラーヒェ氏や丸山議員以上に“質が悪い”といわざるを得なくなる。

 オーストリアの野党議員ピルツ氏は女性に対するハラスメント問題で一時議員を辞職した。その時、「会合で酒を飲みすぎたからだ」と弁明していた。酒を飲みすぎて女性に性的ハラスメントを犯したというのだから、ある意味で一貫性がある。全て酒がなした業だからだ。例外は酒を飲まなくても性犯罪に走る聖職者だ。だから、フランシスコ法王が声を大にして聖職者の性犯罪対策を叫んだとしても難しいわけだ。酒が原因ならば、酒を飲まなければいいだけだ。聖職者の場合、問題は酒ではないからだ。

 シュトラーヒェ氏と丸山氏の問題に戻る。酒を飲みすぎると、聡明な知性も働かなくなり、本音が飛び出したり、暴言が出てくる。ここで少し考えたいことは、丸山議員の発言内容だ。ロシアのクリミア半島の併合を目撃したきた我々は国際世界がパワーによって動かされている現実を見てきた。丸山氏はその国際社会の現実を表現したわけだ。丸山議員の発言内容はフェイク情報や虚言ではない。だから、丸山議員の発言内容を問題視することは間違っている。正しい内容を発言したゆえに、制裁を受けるという状況に陥ってしまうからだ。問題はその発言内容をしらふの状況で誰にも誤解されないように語らなかった点だろう。多数の人々の前で演説する国会議員ならばその場の空気を読む訓練が不可欠だ。

 シュトラーヒェ氏の場合、党献金と公共事業の受注優先やメディア操作といった話はかなりきわどい内容だが、忘れてならない点はシュトラーヒェ氏は当時、野党指導者に過ぎず、言いたい放題の発言をして人気のあった政治家だ。本人も言っていたが、自分の傍に美人のロシア人女性が座っていたこともあって、その口は一層滑らかになっただけだ。すなわち、政治権限もない野党指導者がウォッカの助けもあって、日ごろ見聞きしてきた内容をロシア人女性の前で披露しただけだ。それがビデオに撮影されたことは、シュトラーヒェ氏にとって不幸だったが、政治生命を失うほどの蛮行だったか否かは判断が難しい。

 明確な点は、オーストリアの政界では過去、社民党政権が党献金と引き換えに公共事業の受注を優先してきたことはあったことだ。また、メディアを買収して情報操作をしている政治家は隣国ハンガリーのオルバン政権を思い出すだけで十分だろう。すなわち、シュトラーヒェ氏は現実の政治の政界で繰り広げられている状況を説明しただけだ。ただし、その現実の政治を描写したことで、多くの若い世代に政治不信を一層駆り立てたことは間違いないだろう。シュトラーヒェ氏が受けるべき批判はその点にある。まだもらってもない党献金話や、権限もない野党指導者の公共事業の受注話は単なる寝言に過ぎない。

 丸山議員もシュトラーヒェ党首もその発言内容が問題というより、むしろ現実の政治情勢を語った発言で制裁を受けているわけだ。その発言内容を吟味し、ファクトチェックをすれば、批判する側が守勢に回されるかもしれない。そして批判する側とは脳神経の検閲メカニズムが機能している人々、社会を意味する。検閲をスルーして飛び出す考え、アイデアをできるだけ抑制しようとする側だ。

 それでは、酒を飲んでその制御メカニズムを壊し、本来の自分の世界を取り戻すことは問題ではない、という理屈にもなる。そうではない。酒の手助けで飛び出す、偽りのない自分、本音はやはり本当の自分ではないことが多いのだ。“偽りのない自分”というのが曲者だ。酒で飛び出す“偽りのない自分”はまた別の妄想であり、本当の自分はその妄想に押しつぶされているケースが多いのではないか。不幸なことだが、われわれの天性の自分は2重、3重のバリアで取り囲まれているからだ。

極右派の「グレタさん批判」高まる

 スウェーデンの女子生徒、グレタ・トゥ―ンベリさんは昨年8月、スウェーデン議会前で地球温暖化問題、気候変動対策のための学校ストライキを行ったことで一躍有名となった後、同年12月の第24回気候変動枠組み条約締結国会議に出席。欧米ではグレタさんの活動に刺激を受けた学生や生徒たちが毎週金曜日、世界270カ所の都市で地球温暖化対策デモ集会を開催してきた。欧米のメディアではグレタさんの活躍は大きく報道され、ノーベル平和賞候補者に上がるほど有名人となったが、ここにきて欧米の極右ポピュリストたちからグレタさんへの批判の声が出てきた。オーストリア通信(APA)が3日、報じた(「『ノーベル平和賞』の未来を考えた」2019年4月8日参考)。

Greta_Thunberg
▲環境保護活動家グレタ・トゥ―ンベリさん(ウィキぺディアから)

 オバマ前米大統領は4月6日、ベルリンで若者たちに向かって、「君たちは祖父母からどのような音楽を聴くべきか、何が重要であるかを決定されたくはないだろう。どのような世界に生きるかでも同じだ」と述べ、「環境問題は人類の生存をかけた挑戦だ。我々が生きている地球は危機に瀕している。環境保護のため、誰かがするまで待っているのでは成果は期待できない」と強調し、欧米社会で若者たちが毎金曜日午後に地球温暖化対策のためデモ集会(フライデー・フォー・フィーチャー)を開催していることを評価したばかりだ。

 それに対し、欧米の極右ポピュリストは16歳の少女に対して個人攻撃を始めた。例えば、ドイツのザクセン州の「ドイツのための選択肢」(AfD)のマキシミリアン・クラ―副代表は、「哀れな子供だ。精神治療を必要としている」と中傷。極右派雑誌「Alles Loger」のローランド・ホーフバウアー編集長は「醜い娘だ」といった類の誹謗を繰り返す。彼らは「グレタさんは環境保護運動のアイコンに利用されているだけだ」というのだ。グレタさんの母国、スウェーデンでも右翼ポピュリストの「スウェーデン民主党」(SD)のジミー・オケーソン党首は、「グレタさんは環境問題運動をする団体の広告塔だ」と単刀直入に批判している一人だ。

 それに対し、グレタさんの活動を擁護する側は、「極右派のグレタさん批判の背後には極右派の典型的な女性観が現れている。彼らはグレタさんが訴えている環境保護問題にはなにも言及せず。もっぱら個人攻撃に終始している」と指摘する。

 本人も明らかにしているように、グレタさんはアスぺルガー症候群に罹っている。両親の影響もあって環境問題に強い関心を有し、2018年8月、スウェーデン議会前で気候変動問題のための学校ストライキを行ったことを皮切りに、これまで世界各地で地球温暖化対策の重要性を訴えてきた。

 極右派のグレタさん批判には気候変動問題に対する専門的な観点からの批判はほとんど聞かれない。この問題を正面から批判することは極右派にとっても難しい。そこで極右派は地球温暖化対策運動そのものを直接批判せず、グレタさんと彼女の家族への攻撃に出てきているわけだ。

 ある社会学者は、「極右派は敵を見つけ出し、そこに個人攻撃を強めていく。極右派の典型的な戦略だ。解決策や妥協点を探すための批判、議論ではない」と受け取っている。

 グレタさんの運動に対しては学校関係者からも批判の声があることは事実だ。毎週金曜日の若者のデモ集会をオバマ氏は評価したが、デモ集会に参加する生徒や学生たちは学校や大学の授業を休んで参加するケースが少なくないからだ。参加するなら授業のない学校の休みの日にすべきだとの主張だ。金曜日の同集会に参加するために、親が子供を学校からピックアップし、デモ集会に連れていく、といった情景も見られだした。オーストリア代表紙プレッセ紙は「学生の本分は勉強だ」としてデモに参加する前に勉強すべきだ、と主張している。

 グレタさんを擁護する側は、「グレタが両親に利用されている、学校をさぼる生徒に悪用されている、といった批判はグレタさんが何を言っているかとは関係がないことだ。彼女は気候変動対策を訴えているのだ。彼女の運動は民族主義といったイデオロギーとは関係がない。極右派の批判は気候変動問題を指摘するグレタさんの口塞ぎで、言論の自由の蹂躙だ」と強く反論している。

 グレタさんは今年2月、ツイッターで「最近、私に対して多くのうわさや憎悪が発信されていることを知っている。何も驚きに値しない」と冷静に対応する姿勢を示している。

 地球温暖化問題は一国だけの問題や大企業の責任だけではない。地球レベルの問題だ。極右派のグレタさん批判は専門的な議論を回避した個人攻撃に終始しているのは残念だ。一方、グレタさんの運動だけに注目するのではなく、地道に環境保護のために実践している会社、機関、団体に対しても目を向けるべきだろう。いずれにしても、極右ポピュリストのグレタさん批判には地球温暖化問題への深刻さが決定的に欠けている。

宗教色深める「国際テロ」のトレンド

 スリランカの最大都市コロンボなどのキリスト教会や高級ホテルで今月21日、テロとみられる計8回の爆発が起き、24日現在、日本人1人を含む359人が死亡したというニュースは世界を震撼させている。同国国防次官は、「今回のテロ事件は3月15日に発生したニュージランド(NZ)銃乱射事件に対するイスラム過激派の報復テロの可能性が考えられる」と述べている。NZ中部のクライストチャーチの銃乱射事件は、白人主義者で反イスラム教の犯人が2カ所のイスラム寺院(モスク)で銃乱射し、50人が死亡した事件だ。

ed.1000.563
▲スリランカの爆弾テロ事件で犠牲となった人々(バチカン・ニュースのHPから、2019年4月23日)

 現地からの情報によれば、スリランカ内のイスラム過激派「ナショナル・タウヒード・ジャマア(NTJ)」による犯行と見られている一方、イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)は「スリランカで有志連合の国民とキリスト教徒を狙ったのはISの戦闘員だ」と犯行声明を出している。

 スリランカのテロ事件の詳細な情報はコロンボからの現地情報に委ねるとして、「国際テロ」事件の過去の動向を振り返ると、明らかに一つのトレンドが浮かび上がってくる。

 1)「小規模なテロ事件」から「大胆な計画的、組織的テロ」に移行

 2)世界の耳目を奪うために「無差別テロ」や「トラック車両突入テロ事件」
  .侫薀鵐抗很慎念日(2016年7月14日)、同国南部ニースのプロムナード・デ・ザングレの遊歩道付近でトラック突入、84人が犠牲、
  同年12月19日、ドイツのベルリンのクリスマス市場で大型トラックが突入、12人死亡、
  スペインのバルセロナで2017年8月17日、ワゴン車が市中心部の観光客で賑わっているランブラス通りを暴走、13人が死亡。

 3)襲撃対象を「宗教関連施設」に集中。
  .侫薀鵐綱棉瑤離汽鵐謄謄エンヌ・デュルブレのカトリック教会で2016年7月、2人のイスラム過激派テロリストが神父を殺害。
  ∈鯒10月27日、米ペンシルバニア州ピッツバークのシナゴーク(ユダヤ教礼拝所)の襲撃事件(11人が死亡)、
  NZの2カ所のイスラム教モスク襲撃。
  ぅ好螢薀鵐の3か所のキリスト教会爆発テロ事件。


 もう少し詳細にみると、テロリストは、モスクやキリスト教会が宗教的行事を行っている時を選んで襲撃している。

 。裡擇両豺隋◆峩睛卜蘿辧彁だ。イスラム教徒にとって一週間で金曜日の祈祷集会は最も重要な宗教行事だ。
 ▲轡淵粥璽襲撃事件ではユダヤ教の「安息日の礼拝」中。
 フランスのカトリック教会襲撃事件では教会の「朝拝の礼拝」時。
 ず2鵑離好螢薀鵐ではキリスト教会最大のイベント、「復活祭」の記念礼拝中。

 この一連の流れから判断できることは、テロリストは襲撃対象を宗教関連施設に絞る一方、襲撃時期も宗教的イベントの開催中を選んで実行していることだ。もちろん、スリランカの場合、3カ所の高級ホテルが同時に襲撃されているから、イスラム過激テロ組織の伝統的な襲撃対象、欧米社会のシンボルを攻撃するという目標は依然、失われていない。

 次は、なぜ、テロリストは宗教関連施設を襲撃するのだろうか。イスラム過激派テロ組織にとって異教徒のキリスト教会は最大の憎悪対象だ。同時に、テロを実行する側にとって宗教的に表現すれば「聖戦」だ。聖戦意識はテロリストたちの憎悪、敵愾心、戦闘意識を否応なく高揚させる。

 テロの場合、襲撃対象を「ハードターゲット」と「ソフトターゲット」に分けられるが、政府機関や公共機関は前者でテロ対策も厳重だ。一方、劇場やスポーツ競技場などはソフト・ターゲットで、テロ対策は難しい。2015年11月13日、パリのバタクラン劇場で起きたテロ事件はその典型だ。


 国際テロで宗教関連施設を狙うテロ事件が多発してきたのは、「襲撃しやすい」という物理的、外的な条件が考えられる。治安関係者が全ての宗教関連施設を警備することは実質的に不可能だ。どうしても警備体制に隙間が出てくる。そのうえ、一度の襲撃で「無防備な多くの信者を殺害できる」からだ。

 ちなみに、5月5日から6月4日の1カ月間、ラマダン(断食月)だ。この期間、イスラム教徒はモスクに集まり、断食明けをする機会が増える。NZのモスク銃乱射事件のように、イスラム教徒を狙ったテロ事件が発生する危険性は高まる一方、イスラム過激派の宗教熱が高揚し、テロなど戦闘的な言動に走りやすい。国際テロ対策からいえば、「ラマダン」は危険な時期だ。

 国際社会は宗教戦争の様相を一層深めてきた「国際テロ」に対し、これまで以上に警戒が欠かせられない。特に、2020年東京夏季五輪大会を開催する日本は「国際テロ」の新しい動きには十分注意を払う必要がある。

北朝鮮は極右主義者の模範の国?

 ニュージランド(NZ)のクライストチャーチで29日、2カ所のイスラム寺院(モスク)で50人が死亡、ほぼ同数の重軽傷者を出した銃乱射テロ事件の犠牲者を追悼する式典が行われた。同国ではNZ最大の都市オークランド、首都ウェリントン、そして南島の都市ダトニーデンでも厳重な警備のもと同様の追悼集会が挙行された。追悼集会には、白人主義者でイスラム系移民を憎悪する極右思想信奉の犯人、ブレントン・タラント容疑者(28)の出身国オーストラリアのスコット・モリソン首相も同席した。

christchurch
▲銃乱射事件の犠牲者を追悼する国民(NZ政府公式サイトから)

 タラント容疑者は現在、未決拘留中だ。裁判では終身刑が求刑される予定だ。同容疑者は今月15日、半自動小銃などでモスクを襲撃し、金曜礼拝中のイスラム教徒に向かって乱射した。

 世界に大きな衝撃を与えた事件発生から2週間が過ぎた。タラント容疑者が犯行前にネットに流したマニフェストなどの解明、犯行の動機についてNZ警察は調査を進めているが、同容疑者が2014年、北朝鮮を訪問していた事実が浮かび上がった。

 オーストリアのキックル内相は28日、タラント容疑者から昨年上半期に1500ユーロがオーストリアの極右グループ「イデンティテーレ運動」の指導者マーチン・セルナー氏の口座に送られていたことを報告。また、同容疑者が2014年、グループ旅行で北朝鮮を訪問したが、そのグループの中に3人のオーストリア人がいたことを新たに明らかにした。ただし、3人の身元は未公開(「NZ銃乱射容疑者、欧州極右に寄付」2019年3月28日参考)。

 NZの極右テロリストとオーストリアの極右団体との結び付き、タラント容疑者が訪朝した時に同行した3人のオーストリア人との関係などについて、オーストリアのメディアは様々な憶測を流している。

 オーストリアのクルツ首相はタラント容疑者から寄付を受けたグラーツ(オーストリア2番目の都市)に拠点を置く極右団体「イデンティテーレ運動」の強制解体を視野に入れているが、司法省関係者の話では、「団体を解散させるだけの容疑が実証されない限り、強制解散は難しい」という。

 ところで、クルツ政権は中道保守政党の「国民党」と極右政党「自由党」の連立政権だ。その「自由党」のシュトラーヒェ党首(副首相)やキックル内相は過去、「イデンティテーレ運動」のマーチン・セルナー氏と何度か接触している。

 シュトラーヒェ党首はタラント容疑者の犯行を厳しく批判し、NZの極右テロ事件と距離を置き、タラント容疑者や「イデンティテーレ運動」との関係を打ち消すために腐心している。

 興味深い点は、タラント容疑者と一緒に北朝鮮を訪問した3人のオーストリア人の身元だ。単なる偶然で一緒になったのか、両者の間に何らかの関係があったのか。西側旅行者が北朝鮮を訪問する場合は基本的にはグループ旅行だ。欧州の場合、ベルリンやウィーンの北旅行専門旅行会社を通じて旅券を得るケースが多いが、今回はスウェーデンの旅行会社の斡旋だ。

 オーストリアから過去、北朝鮮を訪問した旅行者は、 屮ーストリア・北朝鮮友好協会」関係者、▲ーストリアの左派労組関係者、メディア関係者の3通りが主だ。看過できない点は、北朝鮮はオーストリアの左派政党「社会民主党」(前身・社会党)関係者と深い繋がりがあることだ。友好協会は社民党関係者が多い。だから、タラント容疑者の訪朝時に、社民党関係者が偶然にかち合った、というシナリオが最も現実的だろう。なお、訪朝した3人のうち、1人が内務省に通報し、訪朝でタラント容疑者と知り合ったと報告したという(オーストリア日刊紙プレッセ3月29日)。

 米国に拠点を置く右翼の白人ナショナリスト・グループ、「伝統主義青年ネットワーク」の指導者マヒュー・ハイムバッハ氏(Matthew Heimbach)は、「北朝鮮が民族の純潔を維持し、民族のアイデンティティを守る限り、北朝鮮は極右主義者にとって模範の国となる」と主張し、ビデオの中でアドルフ・ヒトラーと金正恩朝鮮労働党委員長の写真を飾っている。タラント容疑者はハイムバッハ氏の思想に大きく影響を受けていたという。容疑者の訪朝動機もそこらへんにあったのかもしれない。

 いずれにしても、タラント容疑者の出身国オーストラリアは欧州のアルプスの小国オーストリアとは地理的にかけ離れているが、国名が似ていることもあってよく間違われる。不幸にも、NZの銃乱射事件は両国国民を繋げてしまったわけだ。

NZ銃乱射容疑者が欧州極右に寄付

 ニュージランド(NZ)中部のクライストチャーチにある2つのイスラム寺院(モスク)で15日、銃乱射事件が発生し、50人が死亡、子供を含む多数が重軽傷を負ったが、犯人の白人主義者でイスラム系移民を憎む極右思想を信奉する28歳のブレントン・タラント容疑者(Brenton Tarrant)が昨年12月、オーストリアを訪問しており、同国内の極右グループに1500ユーロを支援していた事実が明らかになり、オーストリア当局は国内の極右グループとNZ銃乱射事件の容疑者との関係などの捜査に乗り出している。オーストリア代表紙プレッセが27日付け1面トップで「テロリストのウィーン献金」(Die Wien Spende des Terroristen)という見出しで報じた。

BBVhhl5
▲欧州のイスラム化ストップを要求する「イデンティテーレ運動」( Styria Digital One GmbH提供)

 プレッセ紙によると、タラント容疑者は一匹狼ではなく、同じ信条を持つ民族主義的なグループ、組織とコンタクトし、関係を深めていたという。そのネットはウィーンにも連結されていたという。タラント容疑者は昨年上半期、1500ユーロをオーストリアの極右グループ「イデンティテーレ運動」(Identitaeren Bewegung、本部グラーツ市)の指導者マーチン・セルナー(Martin Sellner)氏宛に送金している。セルナー氏(30)はタラント容疑者から寄付を受けたことを認めたが、タラント容疑者と会ったことはないという。

 セルナー氏は、「クライスチャーチの蛮行は許されない」と述べ、タラント容疑者の銃乱射事件を批判したが、治安関係者はセルナー氏とNZ銃乱射事件の容疑者の関係を捜査するため、25日夜、セルナー氏のウィーンの住居などを家宅捜査したばかりだ。

 タラント容疑者がマニフェストで「The Great Replacement」と呼び、移民の殺到で固有の国民、民族が追放される危険を警告しているが、同運動も同じように移民の殺到に警告を発し、それに対抗するように呼び掛けるビデオが見つかっている。

 クルツ首相はタラント容疑者が国内の極右グループに献金していたという情報を深刻に受け止め、「徹底的に調査して全容を解明する」と述べている。一方、同国の野党はキックル内相(自由党出身)に「国内の極右グループの全容を報告すべきだ」と要求している。

 同国日刊紙エステライヒ紙は27日の社説で「クルツ連合政権はイスラム系過激テロ問題で示したように、極右組織に対しても毅然とした態度で臨むべきだ」と主張している。同紙によると、クルツ連立政権の政権パートナー、極右政党「自由党」のシュトラーヒェ党首(副首相)やキックル内相は「イデンティテーレ運動」主催の会合などに顔を出したことがあるという。

 欧州の治安関係者は、「タラント容疑者はその74頁の長文のマニフェストの中で欧州の極右グループの結束を呼び掛けているから、オーストリア以外の他の極右グループにも資金を送っていた可能性が排除できない」とみて、タラント容疑者から資金援助を受けていたグループを探している。

 タラント容疑者はクライスチャーチの2つのモスクを襲撃する前に欧州などを旅している。フランスでは特に十字軍の騎士団の歴史に強い関心を示している。2016年にスペイン、ポルトガル、トルコ、ルーマニア、ブルガリア、ポーランド、チェコ、スロバキア、バルト三国(エストニア、リトアニア、ラトビア)、そして昨年12月、オーストリアを訪ねている。ウィーンでは、軍歴史博物館や国立図書館を訪ねている。ウィーンの他にはザルツブルク、インスブルック、クラーゲンフルトなどを見て回っている。

 同容疑者は旅先では、オスマン・トルコの北上に抵抗したキリスト教圏の英雄たちに強い関心をもち、2、3の騎士たちの名前をクライスチャーチの銃乱射事件で使用した半自動小銃に書き込んでいるほどだ。ちなみに、タラント容疑者の活動資金はフィットネスセンターのトレーナー時代の資金、ビットコイン取引の収益、そして2010年にがんで亡くなった父親の遺産などだ。

 クライスチャーチの銃乱射事件から間もなく2週間が経過する。NZのアーダーン首相は、「自分はクライスチャーチの容疑者の名前を言いたくないし、思い出したくもない」とタラント容疑者の犯罪に強い嫌悪感を吐露している。同首相の気持ちは理解できるが、タラント容疑者がなぜ銃乱射事件を犯したのか、その白人主義、極右主義がどこからくるのか等を解明していくことは、我々が生きている時代をより知るためにも必要だろう。同時代に生きている人間の責任ともいえる。
訪問者数
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

Recent Comments
「最新トラックバック」は提供を終了しました。
Archives
記事検索
QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ