ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

ウクライナ

政界は「道化師」の活躍の舞台に

 ウクライナで21日、最高会議(定数450)議会選挙が実施され、元人気コメディアンのゼレンスキー大統領が結成した新党「国民の奉仕者」が予想通り、過半数に迫る約44%の得票率を獲得して第一党となった。ウクライナでは議会より大統領の権限は強いが、議会に基盤を持たない場合、政策を実施するうえで障害が多い。ゼレンスキー氏の新党「国民の奉仕者」が議会に基盤を確保したことで、同氏の政治、政策は実施しやすくなる。

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▲投票するゼレンスキー・ウクライナ大統領(ウクライナ大統領府公式サイトから、7月21日)

 議会選の結果を受け、ゼレンスキー大統領は同日夜、今後の優先課題として、東部の親ロシア派勢力との紛争停止、捕虜の帰還、腐敗対策の3点を掲げ、取り組むことを表明している。

 ウクライナ国民が実業家・ポロシェンコ前大統領の反ロシア政策、民族主義的政策に対して次第に心離れし始めた時、人気者のコメディアンが登場し、5月の大統領決戦投票で現職を大差で破り、大統領になり、新党を結成して議会も制覇した。その政変のテンポの速さに驚く。

 既成の政治の世界とは無縁のコメディアンのゼレンスキー氏は、国民が考えていること、願っていることを代弁し、キエフの中央政界を牛耳ってきた指導者にノーを突きつけていったわけだ。

 先月18日、ベルリンを公式訪問したゼレンスキー氏の姿をTVで見ていた時、「国王」と「道化師」の関係を思い出した。中世のヨーロッパでは、一般の国民は国王や君主の前に、その政治への不満や批判は絶対に口に出せなかった。言えば、牢獄入りが待っていた。当時、唯一の例外は国王お抱えの宮廷道化師だ。彼は国王の弱みを突いたり、不満を吐露しても罰せられない唯一の階層に属していた。一方、国王は国民の声を直接聞く代わりに、側近の道化師を通じて国民が抱えている問題や不満を知り、それを政治の世界に反映していく、といったプロセスが見られた。

 ゼレンスキー氏はコメディアンで宮廷道化師ではないが、コメディアンが現職の大統領を大差で破って大統領に就任できた背後には、ゼレンスキー氏が一種の道化師のように、国民の考えや感情を代弁し、指導者の前で国民の願いを代弁する存在だったからだろう。国民はどの時代でも道化師を愛するものだ。

 イタリアでも2009年10月、人気コメディアンのベッペ・グリッロ氏は企業家のジャンロベルト・カザレッジョ氏と一緒になって「五つ星運動」を結成した。大衆の不満や批判を吸収していく人民主義政治を展開させる一方、ローマ主導の中央政界で既成政党を批判して旋風を巻き起こした。すなわち、グリッロ氏やゼレンスキー氏のようなコメディアンがアンチ・エスタブリッシュメントのシンボルの役割を果たしているわけだ。

 道化師が中央政界で政治家の腐敗を追及することで、それを見ている国民は日ごろのうっ憤を晴らし、一種のカタルシスを感じる。俳優、コネメディアン、テレビのタレントが選挙の度に一定の国民の支持を得るのは、その知名度だけではなく、彼らが道化師的役割を演じることへの期待があるからではないか。

 ところで、国民の声を代弁する道化師が大統領に就任することはこれまで考えられなかったが、ここにきてそれが考えられるようになってきたのだ。民主主義国だけであり得る現象だ。道化師から大統領に飛躍するのだ。

 独週刊誌シュピーゲル(6月29日号)のキュルビュヴェト記者は「道化役者と神父」というタイトルの中で「コメディアンは政界で成功してきた。同時に、多くの政治家はコメディアンのように振舞ってきている」と指摘し、そのカテゴリーに入る政治家として、トランプ米大統領、次期英首相候補のボリス・ジョンソン氏、イタリアの元首相で欧州議会議員に政治カムバックしたシルヴィオ・ベルルスコーニ氏の名前を挙げている。

 ユダヤ民族の歴史ではサウル、ダビデ、ソロモンといった国王が統治した時代があった。国王は預言者を通じて、神から油を注がれて指導者の座に就いた。例えば、預言者サムエルはサウルに油を注ぎ、王に就任させた。

 民主主義の世界では、預言者から油を注がれて指導者に就任する国はない。「油を注がれる」代わりに、選挙の洗礼を受けて大統領や議員に選出されるからだ。そして選挙がある限り、道化師が登場し、大統領に選出されるチャンスすら生まれてくるのだ。いい悪いは別として、道化師にとって政治の世界は新たな活躍の舞台となってきたのだ。

ウクライナ・ロシア両大統領の戦い

 ロシアとウクライナ両国間の紛争がエスカレートし、年末年始にかけ軍事衝突する危険が高まってきている。ロシアのラブロフ外相はクレムリン寄りの日刊紙コムソモリスカヤ・プラウダとのインタビューで、「ウクライナはクリミア半島奪回作戦を計画している」と警告を発する一方、「わが国はそれを打ち砕く用意がある」と強調した。

 インテルファクス通信が17日、ロシア国防省筋として報じたところによると、ロシアは併合したクリミア半島に10機以上の戦闘機を配置する考えだという。モスクワは11月末、地対空ミサイルシステムS−400を同半島に移動する計画を明らかにしている。ラブロフ外相は、「われわれはウクライナと戦っているのではない。ナチ・ドイツ政権のようなウクライナ現政権と戦っているのだ」と主張し、ポロシェンコ大統領の反ロシア政策を厳しく批判した。

 ロシアが2014年、クリミア半島を併合して以来、ウクライナ軍は東部ドンバスでモスクワから軍事支援を受ける親ロシア分離主義勢力と戦いを続けてきたが、ここにきて両国政府の相手国への批判は一段と戦闘トーンを強めてきている。その直接の原因は、.Εライナ正教会のロシア正教会からの分離、▲Εライナ海軍兵士の拘束事件だ。

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▲ウクライナ正教会の新設を発表するポロシェンコ大統領(2018年12月15日、ウクライナ大統領府公式サイトから)

 .Εライナ正教会は今月15日、首都キエフの聖ソフィア大聖堂 で主教会議を開催し、国内のウクライナ正教会を統合した新たなウクライナ正教会を創設し、新正教会の指導者にエピファニ府主教区のセルヒー・デュメンコ主教(39)を選出したばかりだ。東方正教会の最高権威であるコンスタンチノープル総主教庁はウクライナ正教会の創設を容認し、来年1月6日には正式に公認する予定だ。

 ウクライナ紛争後、ウクライナ正教会を取り巻く状況が変化してきた。コンスタンチノーブル総主教側はロシア正教会がバルカンの正教会圏を主管下に置こうと画策してきたことに不快感を感じ、キエフ総主教下のウクライナ正教会の独立を認める方向に傾いてきた。実際、バルトロメオ1世は今年10月、キエフ総主教のウクライナ正教会の独立を年内に認めると約束していた。

 それに対し、ロシア正教会は過去、コンスタンチノーブル総主教庁に政治的圧力をかけてきた。ロシア正教会トップのキリル総主教は、「ウクライナ正教会の独立は破滅的な決定だ」と非難してきた経緯がある。

 ウクライナ正教会のロシア正教会からの完全な独立を阻止できなかった結果、ロシア正教会は332年間管轄してきたウクライナ正教会を失い、世界の正教会で影響力を大きく失う一方、モスクワ正教会を通じて東欧諸国の正教会圏に政治的影響を及ぼそうとしてきたプーチン氏の政治的野心は一歩後退せざるを得なくなってきた(「ウクライナ正教会独立は『善の勝利』か」2018年10月15日参考)。

 ▲Εライナ南部クリミア半島とロシア本土を隔てるケルチ(Kerch)海峡で11月25日、ロシア警備艇がウクライナ海軍の艦船3隻を拿捕し、24人のウクライナ海軍兵士を拘束し、裁判のためにモスクワに連行した件で、ウクライナとロシア両国は相手側を糾弾し、批判合戦を展開。

 ロシア側は先月25日、「ウクライナ海軍の艦艇は明らかに領海侵犯だ」として、ウクライナ海軍兵士を拿捕。それに対し、ウクライナ政府は同月26日、戒厳令を施行。30日には16歳から60歳までのロシア男性のウクライナ入国禁止を施行した。ポロシェンコ大統領は「ロシアの民兵を阻止するため」と説明している。

 黒海とアゾフ海を結ぶケルチ海峡の自由航行はロシアとウクライナ両国間の協定で保障されてきたが、ロシアがクリミア半島併合後、この海域を自らの「領海」と主張し、ウクライナ側と争ってきた(「ウクライナとロシアと『ケルチ海峡』」2018年12月2日参考)。

 ウクライナのポロシェンコ大統領はキエフで開催されたウクライナ正教会の主教会議に参加し、ウクライナ正教会の新設を称え、「ウクライナ正教徒がモスクワの管理を受けることは絶対に容認されない」と指摘し、正教会の独立はモスクワ支配に終止符を打つものだと強調、国民の愛国心に訴えた。

 それに対し、ロシア側は、「来年3月のウクライナ大統領選を念頭に、ポロシェンコ大統領は戒厳令を発令し、祖国を守る大統領として国民の愛国心をくすぐり、支持率を高めようとしている」(ロシアのラブロフ外相)と批判する一方、ウクライナ側は、「ロシアでは年金支給年齢のアップを受け、国民のプーチン批判が高まってきている。そこでプーチン大統領はウクライナとの軍事衝突を煽り、国民の関心を逸らす策に乗り出している」と受け取っている。

 ウクライナとロシア間の対立は、両国の大統領が自身の政治的延命のために演出している面が否定できない。それだけに、ちょっとした衝突が大規模な戦争にエスカレートする危険性は通常より高いわけだ。

ウクライナ正教会独立は「善の勝利」か

 東方正教会の精神的指導者の立場にあるコンスタンチノーブル総主教庁(トルコのイスタンブール)は11日、ロシア正教会の管轄下にあったウクライナ正教会の独立を承認した。ウクライナのポロシェンコ大統領は「悪に対する善の勝利だ」と称賛したという。

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▲ポロシェンコ大統領、キエフ正教会最高指導者フィラレート総主教を迎え、ウクライナ正教会の独立を祝う(2018年10月11日、ウクライナ大統領府公式サイトから)

 ウクライナ正教会の独立が「悪に対する善の勝利」を意味するのだろうか。この場合、「悪」とは第1にはロシア正教会を意味するが、それよりロシア正教会を政権掌握の手段に利用してきたロシアのプーチン大統領を指すと受け取るのが妥当だろう。

 そうなれば、ポロシェンコ大統領が「悪」といった意味は、ウクライナのクリミア半島を強制的に併合したプーチン大統領を意味し、ウクライナの主要宗教、正教会がロシア正教会から独立を勝ち得たということは、ポロシェンコ大統領がクリミア半島を奪ったプーチン氏にしっぺ返ししたことを意味し、「悪に対して善が勝利した」という表現が飛び出してきたわけだ。

 旧ソ連解体後、ウクライナは独立したが、同時に、ロシア正教会下にあった正教会は3分割された。キエフ総主教所属のウクライナ正教会、従来通りにロシア正教会所属のウクライナ正教会、そして独立正教会だ。

 キエフ総主教庁下の信者数は全体の約50%を占め、最大の規模を誇ってきた。モスクワ総主教庁所属の正教徒約26%だ。信者数ではキエフ総主教庁下に所属するウクライナ正教会が最大の正教会といえるわけだ。

 その結果、ロシア正教会の管轄権から独立を願う声がキエフ総主教に所属する正教会から出てきたのはある意味で自然の流れだ。ただし、コンスタンチノーブル総主教庁はウクライナ正教会の独立にはこれまで反対してきた。

 ウクライナ紛争前にもユシチェンコ大統領時代の2008年、ウクライナ正教会のモスクワからの独立をコンスタンチノーブル総主教側に要求したが、拒否された経緯がある。

 参考までに、ロシア正教会とプーチン大統領の密接な関係を紹介する。

 ロシア正教会はソ連共産党時代の癒着問題があって、ソ連解体後も立ち直りに時間がかかったが、プーチン大統領時代に入り、勢力をほぼ回復してきた。プーチン大統領はロシア正教を積極的に支援し、国民の愛国心教育にも活用してきた。プーチン氏自身も教会の祝日や記念日には必ず顔を出し、敬虔な正教徒として振る舞ってきた。プーチン氏はロシア正教会復興の立役者といってもいいだろう。

 それだけではない。プーチン氏は実際、敬虔なロシア正教徒だという。ソ連国家保安委員会(KGB)出身の同氏がロシア正教会の洗礼を受けていたのだ。

 プーチン氏は、「父親の意思に反し、母親は自分が1カ月半の赤ん坊の時、正教会で洗礼を受けさせた。父親は共産党員で宗教を嫌っていた。正教会の聖職者が母親に『ベビーにミハイルという名前を付ければいい』と助言した。なぜならば、洗礼の日が大天使ミハイルの日だったからだ。しかし、母親は『父親が既に自分の名前と同じウラジーミルという名前を付けた』と説明し、その申し出を断わった」という証をしている(「正教徒『ミハイル・プーチン』の話」2012年1月12日参考)。

 話を戻す。ウクライナ紛争後(2014年2月以降)、ウクライナ正教会を取り巻く状況が変化した。コンスタンチノーブル総主教側はロシア正教会がバルカンの正教会圏を主管下に置こうと画策してきたことに不快感を感じ出す。ロシア正教会がプーチン大統領の願いに基づいて世界の正教会を支配下に置こうとする野心があることに気が付き、キエフ総主教下のウクライナ正教会の独立を認める方向に傾いてきた。実際、ヴァルソロメオス1世はキエフ総主教のウクライナ正教会の独立を年内に認めると約束していた。

 それに気が付いたロシア正教会は、過去さまざまな手段でコンスタンチノーブル総主教庁に政治的圧力をかけてきた。ロシア正教会トップのキリル総主教は、「ウクライナ正教会の独立は破滅的な決定だ」と非難してきた。

 ウクライナ正教会がロシア正教会の管轄下から離脱することでロシア正教会は世界の正教会でその影響力を大きく失うとともに、モスクワ正教会を通じて東欧諸国の正教会圏に政治的影響を及ぼそうとしてきたプーチン氏の政治的野心は一歩後退せざるを得なくなる。東方正教会ではこれまで以上に親ロシア派と反ロシア派に分裂するだろう。例えば、セルビア正教会はウクライナ正教会の独立には反対している、といった具合だ。

「キエフ大公」とコンサート

 キエフ大公国をキリスト教化したウラジーミル大公(956〜1015年7月15日)が亡くなって今月で1000年目を迎え、ロシアやウクライナではさまざまな記念イベントが挙行されているが、当然のことだが、聖公ウラジーミルはロシアとウクライナの歴史では異なった評価を受けてきた。ちなみに、ロシア語では Wladimir(ウラジーミル)と呼ぶが、ウクライナ語では Wolodymyr(ヴォロディームィル)と発音される。

 簡単に説明する。ウラジーミル大公は兄弟間の戦いから逃れるためにスカンジナビアに一旦逃亡した後、980年、キエフに帰還し、大公に就任。988年、キリスト教を国教化し、キエフ大公国を繁栄させていった。キエフのルーシ(Rus)はロシア、ウクライナ、白ロシア(現ベラルーシ)を網羅した当時の地域名だ。

 ウラジーミル大公は西暦1000年から新たな1000年への移行期に登場し、バルト海から黒海まで全ルーシを支配し、欧州、地中海、ユーラシア地域で大きな影響を残した。ウラジーミル大公は洗礼後は社会、文化インフラを確立し、多くの教会を建設していった。モンゴルが1240年、キエフに侵攻するまで、キエフは文字通りキリスト教の中心拠点であった。ウラジーミル大公は東欧のキリスト文化の土台を築いていった中心人物だ。

 カトリック教会と正教会の両教会はウラジーミル大公を共に聖人に処している(正教徒は聖人を亜使徒と呼ぶ)。ウクライナは2008年、ロシアは2010年、ウラジーミル大公がキエフ大公国をキリスト教化した988年7月28日を祭日としている。ただし、ロシアは同日を「ロシア民族の洗礼の日」と評する一方、ウクライナ側は「ウクライナ国の始めの日」と解釈している。

 ところで、クリミア併合がきっかけでウクライナとロシア間で紛争が生じているが、ウラジーミル大公の記念イベントにも影響が出てきている。例えば、世界的な映画監督、音楽家のセルビア人エミール・クストリッツァ(Emir Kusturica)のロック・グループ「ノー・スモーキング」は7月28日、大公死後1000年を追悼する慈善コンサートをキエフのスポーツ宮殿で開催予定していたが、突然、キャンセルとなった。
 キエフの文化省の説明によると、「コンサートの当日、騒動が予想され、混乱が生じる危険性があるため開催をキャンセルせざるを得なくなった」という。ウクライナ通によれば、クストリッツァ氏がウクライナ紛争で常にロシア側を支援し、クリミア半島の併合を支持する発言をしてきたことから、キエフ側が同氏のコンサート開催を拒否した、というのが真相に近いという。

 ギリシャの金融危機がドラマチックな展開をする中、ウクライナ紛争は忘れられた感があるが、ウクライナ東部では親ロシア系勢力とウクライナ政府軍が戦いを続けている。今年2月のミンスク休戦合意は双方から反故にされている状況だ。
 両国がいがみ合う中、死後1000年を迎えたウラジーミル大公の「洗礼の日」を迎えようとしている。28日が両民族のルーツを確認し、和解する契機となれば幸いだが、現実は紛争をエスカレートさせる雲行きだ。

「ウクライナ危機では欧米も共犯者」

 ウクライナ情勢は暫定政権側と親露派勢力の武力衝突でエスカレートする危険性が出てきた。5月25日の大統領選を控え、欧米側とロシアは激しいやり取りを交わしてきた。

 日本のメディアを追っていると、ウクライナの暫定政権が正しく、それにチョッカイを出す親露勢力とそれを背後で支持するロシア側が悪者、といった構図で捉えられている面が強い。仕方がない面もある。日本人が得るウクライナ情勢はAP通信やロイター通信の配信記事に主に頼っているからだ。

 そこで少し変わった視点からウクライナ情勢に関する記事を紹介する。オーストリアの著名なjジャーナリストであり、著作家、ウルリッヒ・ブルナー氏の「ウクライナ危機、EUは共犯者だ」というタイトルの記事だ。

 欧州連合(EU)が犯した最初の過ちはウクライナに自由貿易協定の締結を迫ったことだ。ウクライナの国力と経済力はEU加盟の条件からはほど遠い。ウクライナは現在、欧州ではモルドバに次いで欧州最貧国だ。その上、国家の腐敗体質インデックスでは179カ国中、134番目だ。ナイジェリアやアゼルバイジャンと同レベルだ。そのウクライナのEU準加盟交渉は両者にとって不幸なだけだ。ルクセンブルクのアッセルボルン外相は「ロシアの欧州統合を促進せずにウクライナのEU統合を試みたのは間違いだ」と、ズバリ指摘している。

 ウクライナ第2野党ウダル(一撃)党首で元世界WBCヘビー級チャンピオン、ビタリ・クリチコ党首はキエフの暫定政権の同僚たちについて、「彼らは自分より金持ちだ」と述懐している。クリチコ氏はプロボクサーの元王者であり、ミリオネアだが、そのクリチコ氏が「暫定政権に関与している政治家たちは自分よりはるかに金持ちだ」と呟いたということは何を物語っているのか。
 例えば、職権乱用罪で禁錮7年の判決を受け東部ハリコフの病院に収容されていたが、今年2月22日釈放されたユリヤ・チモシェンコ氏の資産総額は5億ドルと推定されている。すなわち、「マイダン広場の反政府デモ集会はヤヌコビッチ大統領ら既成の腐敗政治家を追放したが、その後釜に新たな腐敗政治家が君臨しようとしている」というわけだ。

 一方、クリミア併合について、筆者は「クリミア問題でロシア民族はクリミア戦争(1853〜56年)で50万人の犠牲を払い、第2次世界大戦でもクリミアを奪い返すために50万人の犠牲を払った。ロシア民族は過去2度、クリミアの併合のため100万人以上の犠牲者を出したわけだ。クリミアへのロシア民族の感情は特別なものがある」と説明する(筆者はクリミア併合問題ではロシアの主張を完全に支持)。

 興味深い点は、筆者はプーチン大統領の対ウクライナ戦略を領土拡大を狙った“攻撃的”なものではなく、“防衛的”な性格が強いと分析していることだ。

 ウクライナ東部はソ連時代から軍需産業の拠点であり、今なお戦闘機や潜水艦の部品などを製造し、モスクワに供給している。宇宙関連産業も同様だ。そのウクライナがEUに加盟したり、北大西洋条約機構(NATO)に加盟でもすれば、ロシアの防衛体制は崩れてしまう危険性が出てくる。そのため、プーチン大統領はウクライナを欧州側に奪われないために必死に防衛しているというのだ、

 プーチン大統領をヒトラーやスターリンの再来と呼ぶ欧米のメディアがあるが、筆者は「プーチン氏はスターリンやヒトラーではない。もちろん民主主義者でもない。彼は独裁者、専制君主だ」という。

 最後に、「プーチン大統領も嘘をつくが、欧米諸国もその点は同じだ。ブッシュ米政権は偽情報に基づきイラクに軍事侵入し、10万人以上のイラク人を殺害した。欧米、特に米国は『わが国の主張が正しい』と断言する資格はない」と述べている。

 筆者のウクライナ情勢分析は明らかにロシア寄りだが、看過できない情報も含まれている。

スマート制裁から戦略的制裁?

  ウクライナ情勢がいよいよ正念場を迎えてきた。同国南部のクリミア自治共和国が独立宣言を表明し、ロシアに編入される方向に突っ走ているからだ。

 欧州連合(EU)は今月6日、ウクライナ情勢の険悪化に責任があるヤヌコビッチ前大統領やアザロフ前首相のほか、前検事総長、前内相、前法相ら18人のリストを作成し、その資産の凍結を決定し、即施行済みだ。
 クリミア自治共和国がロシアに一方的に併合された場合、EUは更なる強い制裁を実施せざるを得ないと主張してきた。独メデイア情報によれば、、EUの対ウクライナ・ロシア制裁は3段階あって、最後の3段階ではロシア戦略的企業への関連機材禁輸、露国営銀行との取引中止などが含まれるという。

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▲WIIWの定期記者会見の風景(2014年3月13日、ウィーンのWIIWで)

 ウィーンの国際経済比較研究所(WIIW)で13日、記者会見が行われたが、ウクライナ情勢と対ロシア制裁問題が話題となった。ウクライナ経済専門家のアストロフ氏は「ウクライナへのガスがストップされても欧州諸国への供給は継続されるだろうが、ウクライナがロシアの対欧州向けガス輸出を妨害し、モスクワの外貨源を止めるといった対応も考えられる」という。

 一方、WIIWのロシア経済担当ハブリック氏は「欧州側の経済制裁はロシア経済に大きな影響はないが、欧米の対ロシア制裁はロシアへの投資環境を悪化させるから、ロシアの経済成長率にも影響が出てくることは避けられない。欧州とロシアにとってウクライナ情勢がエスカレートしないことがベストだが、状況は不透明だから正確な予測は難しい」という。

 外交の世界では、欧米が実施した資産凍結、入国禁止などの制裁は「スマート・サンクション」(Smart Sanction)と呼ばれ、一般国民に制裁の悪影響が及ばないようにその制裁範囲を限定する。実質的な制裁というより、象徴的な意味合いが強い。ウクライナ情勢の悪化はそのシンボリックな制裁から実質的な制裁へ引き上げを余儀なくするが、どのような制裁が実際可能かでは欧米諸国の間で意見が分かれているのが現状だろう。
 
 スマート制裁には効果はあまり期待できない。戦略的制裁へ格上げをした場合、制裁される側だけではなく、する側にも一定の痛みが伴う。WIIWはEUの対ロシア貿易・金融制裁の実施は「非現実的なシナリオ」と受け取っている。

なお、WIIWはロシア経済の現状を‘Stuck in Transition’と表現している。国民経済の多様性、近代化の発展に欠け、社会の無気力と腐敗が拡大する一方、欧州経済の回復が遅れていることもあって欧州向けの原油・ガス輸出も伸び悩んでいる。WIIWはロシアの14年経済成長率予想を1・6%と下方修正している。

ウクライナ経済専門家に聞く

 旧ソ連・東欧諸国の経済統計・分析で有名なウィーン国際経済比較研究所(WIIW)のウクライナ経済専門家のロシア人エコノミスト、ヴァシ―リー・アストロフ氏は3日、当方との会見に応じ、ウクライナ経済の実情について答えた。以下、同氏との一問一答だ。

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▲ウクライナ経済専門家アストロフ氏(WIIWのHPから)

 ――まず、ウクライナの国民経済の実情について聞きたい。

 「ウクライナ国民経済は停滞している。さまざま理由が考えられる。一つは構造的な理由だ。ウクライナ経済は基本的には輸出依存だ。鉄鋼、鉱物原料、窒素肥料など化学工業品、農業製品などが主要輸出品だ。しかし、それらの世界市場の購買価格は低い一方、生産コストは高い。例えば、鉄鋼業はエネルギー浪費産業だ。生産技術が1950年代のものが少なくなく、旧式だからだ。エネルギー消費非効率の一方、エネルギー輸入価格は高騰してきた」

 ――ロシアとのエネルギー取引について説明してほしい。

 「ロシアはこれまでウクライナに高い天然ガス価格を要求してきた。そこでヤヌコビッチ前政権は昨年、ロシアのガスプロム社と価格の値引き交渉をし、今年1月からガス価格は昨年比で約30%値引きされた。具体的には、ロシア産の天然ガスはこれまで1000立法メートル当たり400ドルだったが、今年1月から270ドルで取引されてきた。ウクライナ前政権とロシア間ではガスの価格を四半期に一度、見直すことになっているが、今回のウクライナ政変の影響でロシアが4月以降も引き続き価格値引きを認めるとは考えられなくなってきた」

 ――トゥルチノフ大統領代行はデフォルトを回避するためには今後2年間で350億ドルが必要と語った。現実的なシナリオか。

 「少し過大な見方だが、大きくは間違っていない。ウクライナは今後2年間で200億ドルは必要だろう。いずれにしても緊急財政支援が不可欠だ。なぜならば、ヤヌコビッチ政権とロシアが昨年12月に合意した財政支援はもはや期待できなくなったからだ。同時に、国際収支も危機レベルにある。対外債務はGDPの約80%に相当する。ウクライナ経済、特に輸出産業が過去、厳しかった理由の一つは間違った為替政策にあった。通貨フリブナは対ドル・レートを安定させる狙いから中央銀行管理の為替政策が続けられてきた。その結果、通貨は過大評価されてきた。輸出産業はダメージを受けた。一方、国内需要は限られている。国民は貧しく購買力がない。ウクライナは現在、欧州でモルドバについで最貧国になってしまった」

 ――中央銀行は変動相場制に移行を発表した。通貨フリブナは急落してきている。

 「フリブナの下落率は3日時点で約25%だ。ウクライナでは過去、インフレ率はゼロだった。農業の収穫高は昨年良好だったこともあって、食料価格は抑えられた。しかし、通貨の動向は今後、国際社会と財政支援でいつ合意できるかに依存している。下落率が25%、30%はまだいいが、40%以上となれば深刻な結果をもたらす。インフレ率が高騰し、消費者の購買力はさらに弱くなる。銀行システムの安定で影響が出てくるだろう。クレジットの約35%は外貨建てだ。通貨の下落が続けば、債務者の返済は一層苦しくなる」

 ――ウクライナの政変はヤヌコビッチ大統領が欧州連合(EU)との自由貿易協定の署名を拒否し、ロシアとの経済関係重視を決定したことから誘発されたものだ。ウクライナ国民にどの選択が理想か。

 「ウクライナは地理的にEUとロシアの中間に位置する。同時に、ウクライナはロシア語を話す東部の国民とウクライナ語を話す西部とに分かれている。同時に、歴史的発展でも東西は異なる。宗教もそうだ。理想的な選択肢は欧州とロシア両者と友好関係を維持することだ。自由貿易協定を双方と締結することだ。原則的に、国土を分割せず双方と共存することがベストだ。もちろん、その前提条件は欧州とロシアの関係が深化しなければならない。欧州とロシアの双方と自由貿易協定を締結できれば、ウクライナは現在のようなジレンマに苦しむことはない。ウクライナ製品の輸出先はロシア市場25%、欧州市場30%でほぼ同じだ。欧州には鉄鋼、鋼鉄、農業製品、窒素肥料を、ロシア向けには機械だ。ウクライナ製機械が輸出できるのはロシア市場だけだ」

 ――ウクライナが欧州とロシア双方と自由貿易協定を締結するという選択は非現実的ではないか。

 「残念ながら、ウクライナの分断がより現実的だ。少なくとも、クリミアはもはやウクライナの支配下に置くことは難しい。プーチン大統領がクリミアに軍を派遣したのはかなり危険な試みだが、ロシアの視点からみれば、ウクライナの新政権は合法性に欠け、一種のクーデターだ。少なくとも合法的な政権交代ではない。実際、ウクライナ東部では新政権は認知されていない。クリミアが新政権を認知しないとすれば、キエフ政府から保護を受けられない。だから、ロシアに接近するわけだ。クリミアで3月30日、住民投票が実施される予定だ。その結果は自治権の強化、さらにウクライナからの離脱となることはほぼ間違いないだろう。クリミアだけではない。ウクライナ東部の国民は新政権を認めていない。プーチン大統領はウクライナのこのような状況を巧に利用しているのだ」

 ――欧米社会はロシアに警告を発し、制裁を実施する意向だ。ロシア経済にとっても苦しいはずだ。

 「ロシアは欧米諸国から制裁されたとしても生存できる。むしと欧州自身がロシアのエネルギーに依存しているのだ。すなわち、ロシアも欧州も相互依存関係なのだ。だから欧州が一方的にロシアに制裁はできない。プーチン大統領もクリミア問題でその強さを発揮できれば、ロシア国内での支持が高まるという計算も働いているだろう。ちなみに、ウクライナがクリミアを失ったとしてもウクライナ経済全体にとって大きな影響はない。クリミアは美しい自然を有する地域で観光業には向いているが、相対的に貧しい地域だ」

 ――最後に、国際社会の対ウクライナ支援問題について。

 「ウクライナ経済にとって財政支援が急務だ。大規模な財政支援が可能なのは国際通貨基金(IMF)だけだろう。今後2年間で150億から200億ドルの財政支援が必要となる。政治的には、全面戦争を回避するために関係国の譲歩が必要だ」



【ヴァシーリー・アストロフ氏の略歴】(Vasily Astrov)
 1974年6月、ロシアのサンクト・ペテルブルク生まれ。英国ウォ―リック大学、オスロ大学、サンクト・ぺテルブルク国立大学などで経済学、地理学を学ぶ。ウィーンのWIIWではウクライナ、ロシア経済の専門家。



元世界ヘビー級王者と「ガスの王女」

 ヤヌコビッチ大統領が解任され、今年5月の大統領選に向けウクライナ情勢は動き出した。ロシアが今後、ガス供給とその価格交渉で野党勢力主導のキエフに圧力を行使してくるのは間違いないだろう。特に、ウクライナの野党勢力はさまざまな政治勢力が結集した寄せ集め所帯だから、ヤヌコビッチ大統領解任の目標が実現した今日、野党勢力内で政治権力争いが生じる危険性が考えられる。

Vitali_Klitschko Yulia_Tymoshenko












▲元世界ボクサー王者クリチコ氏(左)とチモシェンコ元首相(右)=ウィキぺディアから 

 ここでは5月の大統領選に出馬を既に表明した2人の野党政治家のプロフィールを紹介したい。一人はウクライナ第2野党ウダル(一撃)の党首で元ボクサー、世界WBCヘビー級チャンピオンだったビタリ・クリチコ党首(42)だ。
 厳寒の中、キエフの独立広場に留まり、ヤヌコビッチ大統領の辞任を要求してきた。その間、欧州(特にドイツ)との強い繋がりを活用してヤヌコビッチ大統領の不正を追及してきたことは周知の通りだ。

 「クリチコ氏は元ボクサーであり、職業政治家ではない。演説も朴訥であり、その言動はカリスマ性に欠ける」と指摘されてきた。武装警備隊とデモ隊が衝突して多数の犠牲者が出た時、デモ参加者に必死に「冷静」を呼びかけていた同氏の姿が印象的だった。
 ただし、多くの犠牲者が出た直後、ヤヌコビッチ大統領と野党リーダーの会合でクリチコ氏が大統領と握手したことが伝わると、独立広場に待機していたデモ参加者から「裏切り者」といった罵声を受けている。クリチコ氏は野党政治家として誰と握手でき、誰とは握手してはならないか、といった政治的感覚はまだ乏しい。世界チャンピオンとして欧州のスポーツ・メディアの世界では抜群の知名度があるが、母国での支持はまだ限られている。

 もう一人の大統領候補者はユリヤ・チモシェンコ元首相(53)だ。職権乱用罪で禁錮7年の判決を受け東部ハリコフの病院に収容されていたが、22日釈放されると直ぐにキエフに飛び、独立広場でデモ参加者の前で演説をし、「私は戻ってきた」と涙声で話しかけている。そして大統領選に出馬する意思を表明した。2004年のウクライナのオレンジ革命の中心的人物だ。
 
1990年代、エネルギー企業の責任者であり、短期間で巨額の富を得た。“ガスの王女”とも呼ばれ、カリスマ性がある人物だ。同元首相はサッチャー元英首相、オルブライト元米国務長官など女性政治家を尊重し、その肖像画をキエフの事務所に掲げている(ザルツブルガー・ナハリヒテン紙)。

 1997年に初めて国会議員。ユシチェンコ首相(当時)時代に活躍。2004年の大統領選で不正があったとして、ヤヌコビッチ氏の大統領当選の無効を要求する国民の反政府運動が発生(通称オレンジ革命)し、その中心的リーダーの一人となった。
 革命で政権交代が実現した後、ユシチェンコ大統領のもとで首相を務めたが、政策の対立などで同大統領とは袂をたち、首相のポストから辞任。07年、政権に復帰。同年の大統領選ではヤヌコビッチ氏に敗北。その直後、ロシアとの09年のガス供給協定の職権乱用罪で7年の禁固刑の判決を受けてこれまで服役してきた。

 プーチン大統領は「ユーラシア連合」を掲げ、旧ソ連共和国へさまざまな圧力を行使してきた。キリギスタン、アゼルバイジャン、アルメニア、グリジアではロシアの影響力の拡大に懸念する国民の声が高まっている。それだけに、ウクライナを失えば、その影響は他の共和国にも波及し、ドミノ現象を誘発する、という恐れがプーチン大統領にはある。

 5月の大統領選で誰が大統領に当選するとしてもロシアからの圧力に屈せず、親欧路線を堅持していくことは難行だ。クリチコ氏はドイツのメディアの質問に答え、「自分のリングはここだ(独立広場)。ここでの戦いはリング上よりハードだ」と語っている。

ウクライナ情勢の宗教的側面

 ウクライナ情勢はヤヌコビッチ政権の事実上崩壊、早期大統領選の実施決定など急展開してきた。一方、ウクライナを将来のユーラシア連合の一員と考えるロシアのプーチン大統領は、ソチ冬季五輪大会の閉幕を受け、本格的にウクライナ情勢に干渉してくることが予想される。

 そこでウクライナ情勢の背後で同国の政情に少なからず影響を与えている同国の宗教界の動きをまとめておく。

 ウクライナ全土で23日、警察官とデモ隊の衝突で犠牲となった80人の慰霊ミサが行われた。ウクライナ正教会のフィラレット総主教は「われわれは兄弟姉妹として愛すべきだ」と呼びかける一方、「多くの犠牲を出した紛争の責任者は処罰を受けなければならない」と主張した。
 同総主教の発言で注目すべき点は、分裂して20年以上になるウクライナ正教会(キエフ総主教庁系)とモスクワ総主教庁系のウクライナ正教会の再統合を提案し、「教会の再統合はウクライナ国民の一体化をもたらすはずだ」と述べていることだ。
 
 ウクライナの主要宗派、正教会は3つに分裂している。神学的な違いは少なく、地域的、歴史的、政治的思惑から分裂してきた経緯がある。
 ウクライナがソ連から独立した直後、モスクワ総主教庁から独立したキエフ総主教庁系ウクライナ正教会が最も多くの信者を有し、それについでモスクワ総主教庁系のウクライナ正教会、そして独立正教会だ。
 正教会以外では、ポーランド国境線の西部を中心にウクライナ東方カトリック教会が強く、プロテスタント系教会、ユダヤ教も存在する。

 ウクライナ情勢がプーチン大統領の出方に影響を受けるように、ウクライナの宗教界もロシア正教会のキリル総主教の意向を無視できない。
 そのキリル総主教は23日、書簡を公表し、そこでウクライナの内戦の終焉を要求、「隣国で多くの犠牲者が出ていることに耐えられない痛みを感じる。全ての正教会はウクライナの平和と兄弟紛争の解決のために祈ろう」と述べている。

 ロシア正教会の本音は、ウクライナ正教会(キエフ総主教庁系)が今回の紛争でその国民の支持を拡大し、影響力を強めることへの恐れだ。ロシア正教会はウクライナ正教会を依然、自身の管轄内と受け取っている。だから、ウクライナ紛争でキエフの正教会の影響力が拡大することは好ましくないのだ。
 ちなみに、モスクワ総主教管轄のフセボロド・チャプリン大司祭は1月末、「ウクライナを部外者の手に渡さないためロシアはモスクワに干渉すべきだ」と要求したほどだ。

 以下、その他のウクライナ宗教界の動きをまとめる。

 .Εライナの正教会評議会と宗教同盟は22日、大統領の解任後、ウクライナの分割を警告し、「領土の分割を主張する分離主義は神と民族の将来の世代への罪だ」と批判する声明文を公表した。宗教同盟はウクライナの宗教団体、18のキリスト教会、イスラム教、ユダヤ教が所属、ウクライナの宗教団体の約75%が所属している。

 ▲エフのユダヤ教ラビは22日、ウクライナの紛争で反ユダヤ主義的襲撃が増加しているとして、「ユダヤ人は外出せず、家に留まるように」とアピールしている。ウクライナでは2012年の時点で約25万人のユダヤ人が住んでいる。

 ローマ法王フランシスコは19日、一般謁見でウクライナの政治家と国民に向かって「暴力を行使してはならない。国の平和のために努力すべきだ」と呼びかけた。
 バチカン放送独語電子版が22日報じたところによると、キエフの独立広場でカトリック信者たちが、2004年、故ヨハネ・パウロ2世によって奉献された十字架を掲げ、和解を呼びかけた。キエフのカトリック教会の司教補佐は「この十字架はウクライナに希望をもたらす」と述べ、パウロ2世とヨハネ23世が列聖を受ける4月27日まで独立広場で掲げられると表明している。

 ヤヌコビッチ政権の崩壊を受け、ウクライナが東部のロシア寄り地域と親欧州派の西部に分裂するのではないか、という懸念の声が出ている。それだけに、ウクライナの宗教界の責任も大きい。
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