ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

ハンガリー

30年前に東西間の国境が開かれた

 1989年8月19日、ハンガリーとオーストリア両国間の国境が一時解放され、約600人の旧東独国民がオーストリアに入国し、そこから旧西独に亡命していった。同出来事は「ベルリンの壁」崩壊をもたらす契機となった歴史的出来事となった。あれから30年目を迎えた19日、ハンガリー北西部のショプロン市でメルケル独首相とハンガリーのオルバン首相が会見し、国境解放30年を祝った。

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▲メルケル独首相とハンガリーのオルバン首相の記者会見(2019年8月19日、ハンガリー・ショプロンで、ドイツ民間放送NTV中継から)

 国境解放の直接の契機は、汎ヨーロピアン・ピクニックが両国国境近くでベルリンの壁崩壊を訴える集会を開催したが、その時、ハンガリー入りしていた多くの旧東独国民はハンガリー・オーストリア間の国境が一時解放されると聞き、国境に殺到していったことだ。それに先立ち、ハンガリーとオーストリア両国は1989年6月27日、両国国境線に張り巡らせられていた鉄条網(鉄のカーテン)を切断している。

 あれから30年が過ぎた。ハンガリーは2015年、中東・北アフリカ諸国からの難民・移民の殺到に直面し、国境を閉鎖し、鉄条網を設置した。オルバン政権の難民政策はその後、“オルバン主義”と呼ばれ、難民対策の大きな流れを形成していった。隣国オーストリアもクルツ政権(当時)は、オルバン政権と同様、国境線を閉鎖していったことは周知の事実だ。

 興味深いことは、旧東欧諸国の民主化を先駆け、旧東独国民のために国境を解放したハンガリーが30年後、欧州諸国の中でいち早く難民に対して国境を閉鎖したことだ。

 1989年の国境開放には明確な理由があった。旧ソ連の衛星国家だったハンガリーは市場経済を導入し、他の東欧共産国からグラーシュ政策と誹謗されたほど自由化が進んでいた。ハンガリー動乱(1956年10月)は旧ソ連によって弾圧され、同動乱で数千人の国民が殺害され、約25万人が国外に政治亡命したが、その33年後、旧東独国民への国境開放を通じて、その夢を成し遂げていったわけだ(『ベルリンの壁』崩壊とハンガリー」2014年11月9日参考)。

 当方は1989年、ハンガリー社会主義労働者党(共産党)政権最後の首相、ミクローシュ・ネーメト首相(当時)とブタペストの首相官邸で単独会見した。その時、ハンガリー共産党は臨時党大会開催を控えていた。共産党内には改革派と保守派が激しく権力争いを展開していた。同首相は会見の中で「党を分裂させても、わが国は共産主義から決別する」と表明したことを鮮明に思い出す。

 国境解放30年後のオルバン現政権に戻る。オルバン首相は、「欧州をイスラム化から守る」と表明し、中東・北アフリカからのイスラム系難民の受け入れを拒否してきた。ちなみに、ハンガリーは約150年間(1541〜1699年)、オスマン帝国の支配下にあった。

 オルバン政権の対難民政策には揺れがない。イスラム系難民は受け入れない。難民歓迎政策を主張していたメルケル独首相とは常に対立を繰り返してきたわけだ。

 オルバン首相は、「1989年は共産政権時代から民主化へ向かう転換期だった。ハンガリーは旧東独国民のためにその国境線を開放しなければならなかった。そして現在、ハンガリーは国境を閉鎖しなければならなくなった。なぜなら、自由を守らなければならないからだ。両者はコインの両面だ」という。簡単にいえば、前者は“自由を得る”ために、後者は“自由を守る”ためだったという。

 そのオルバン首相とメルケル首相が19日、国境解放30年の記念式典で会見した。前者は欧州で難民受け入れ拒否の先頭を走り、後者は人道的観点から難民受け入れを進めてきた。難民政策では対照的な両首相だ。

 なお、メルケル首相は記者会見で、「30年前の国境解放は歴史的だった。欧州の未来に対してインスピレーションを与える出来事だ」と述べる一方、ハンガリー国民に感謝を表明した。

 欧州で国境が解放され、自由な行き来ができたのは、冷戦時代が終わり、欧州の統合が進められた束の間だった。2015年以降、殺到する難民対策のために欧州の国境は再び閉鎖され、シェンゲン協定は一時的だが、失効状況下に置かれた。多くの欧州の国々にとって、国境は依然、主権保護の重要な役割を担っている。自由に行き来できる「国境なき欧州」はまだ実現されていない。

“ハンガリー式”労働者不足対策

 東欧のハンガリーで今月12日、同国国民議会が改正労働法を採決し、雇用者側が労働者に要求できる残業上限を従来の年間250時間から400時間まで許容されるようになった。それ以来、同国各地で野党や労働組合が反対デモを繰り広げ、「改正労働法は労働者を奴隷のように働かせる悪法だ」と糾弾、改正法案を「奴隷法」と呼び、強く反対している。国民議会前で警察隊とデモ参加者の衝突も起きている。

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▲反オルバン政権デモ、2018年12月15日(ハンガリーの野党「社会党」公式サイトから)

 21日にも首都ブタペストで約5000人が参加した反対デモが行われた。反対デモはブタペストだけではなく、北西部シェール市やデブレツェン市など他の都市にも波及してきた。それに先立ち、同国のアーデル・ヤーノシュ大統領は20日、改正労働法案に署名し、同法は正式に成立したばかりだ。

 AFPの報道によると、「セゲド市とシャルゴータルヤーン市の議会は21日、労働者の反対を考慮して改正労働法を施行しない決議案を可決している」というから、中道右派政権オルバン政府の政策に対しては賛否があるわけだ。ちなみに、同国では19日、約2300人の警察官が過去3年間の約5万時間の残業代未払い分の支払いを要求する公開書簡を発表している。

 オルバン政権は「企業や工場で労働者不足が深刻となってきている」と説明する一方、残業が増えることで労働者の手当てが増えるなどメリットも出てくる、と理解を求めている。労働組合はクリスマス明けの新年早々にも「奴隷法」の撤廃を要求するゼネストも辞さない構えだ。

 ところで、労働者不足はハンガリーだけではない。先進諸国で等しくみられる状況だ。少子化、人口減少に直面し、不足する労働者をどこから補給するかが大きな課題となっている。

 例えば、日本の場合、労働者不足を解決するために外国人労働者の受け入れ枠拡大、それに関連して出入国管理法の改正案が成立したばかりだ。建築業界、介護業、外食業界などにとって外国労働者の受け入れはもはや緊急の課題である。ただし、外国からの人材受け入れ問題は、人材不足の解消だけに制限される問題ではなく、外国人の増加に伴う治安問題、言語の問題から社会慣習の軋轢などさまざまな問題が浮かび上がってくる。外国人労働者の受け入れを促進するためには、社会全体の受け入れ態勢の整備が急務となる。

 一方、オルバン政権の場合、難民・移民の受け入れを拒否、外国人材の受けれには積極的ではないこともあって、労働者不足は国内の既成労働者の就業時間を増やす以外に早急な解決の道はない。

 興味深い点は、オルバン政権と同様、難民・移民の受け入れに厳格なオーストリアのクルツ政権は一日の労働時間を従来の8時間から最大12時間まで延長を認める政策を施行したばかりだ。その結果、ハンガリーと同様、野党の社会民主党(SPO)や労働組合が強く反対している。彼らは労働時間の短縮を要求する一方、労働不足については実行可能な代案を提示できないでいる。

 オーストリアの場合、厳密にはハンガリーと日本の政策の併用というべきかもしれない。ある一定の外国人労働者を受け入れる一方、資格の乏しい移民の受け入れを制限するわけだ。

 まとめると、労働者不足の解決策として、.魯鵐リーのように、超過労働時間の大幅な上限拡大を認める、日本のように外国人材の受け入れ枠を拡大し、不足を解消する。オーストリアのように,鉢△鯤四僂垢襦△覆匹考えられる。

 どの政策がベストかはその国の産業規模や社会・文化の違いもあって一概には言えない。繰り返すが、労働者不足は、単なる産業界の発展に伴う経済的理由だけではなく、「少子化」、「家庭の崩壊」など先進諸国が直面している社会問題と密接に絡んでくる大きなテーマだ。

ホームレスが問う「国家」とは何か

 ハンガリーで今月15日、「宿無し(ホームレス)規制法」が施行された。それによると、ホームレスを見つければ、警察官は路上や公共場所で眠らないようにまず警告する。3度警告を受けたホームレスが移動しない場合、警察は罰金か公的奉仕を義務づけることができる。すなわち、路上のホームレスは犯罪人扱いにされる。 同法案は今年6月、2013年の関連法を改正したもので、賛成多数で採択された。

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▲ブタペストの夜景(ハンガリー政府観光局公式サイトから)

 中道右派のオルバン政府は町からホームレスを追放し、町の治安と清潔さを取り戻す狙いがあるのだろう。しかし、予想されたことだが、人権グループや法律家、弁護士たちは「人権擁護を明記したハンガリーの憲法に反する」として「ホームレス規制法」の撤回の署名運動を開始した。ホームレスを切って捨てる人がいる一方、それを救う人も出てくるわけだ。

 外電によると、ハンガリーに約2万人のホームレスが存在し、そのうち公共の緊急収容施設に厄介になれるホームレスの数は約1万1000人。残りは外で眠らざるを得ない計算になる。

 パリの政治家たちがセーヌ河沿いに住む宿無しや難民を追放するために強制移動させたことがあった。東京で夏季五輪大会が開催されるから、東京の駅周辺のホームレスを追放しようという政治家の話も聞く。

 政治家とホームレスの関係はどの国でも余り相性がよくない。ハンガリーだけではない。定住していないから、ホームレスにはどこからも選挙カードが届かないケースが多い。一方、そんな浮動票を当てにはできないから、政治家はホームレスには関心がいかなくなる、といった悪循環だ。

 長く路上生活を続けてきたホームレスは政治の刷新や改革といった問題に関心がなくなる。「政治が悪いから俺はホームレスとなった」と政府に不満をぶっつけるのはホームレスになったばかりの新米が多い。 ホームレス生活が長くなると、叫んだとしても状況が改善されることがないばかりか、ひょっとしたら、お世話になっている公共場所から追放されるかもしれない。ジーッと我慢するのが一番、という判断に落ち着く。ホームレスから革命や反政府運動は生まれてこないから、公安関係者はついつい気が緩み、監視も疎かになる、というわけだ。

 ホームレスを大きく分けると、4つに分類できる。(源通り、寝泊まりできるホームがない人、▲曄璽爐ら何らかの理由で追放されたか、自ら出ていった人、生来、放浪の人、世の中の人に関与され、監視されることを嫌う人、い聾醜餡箸鯣歡蠅掘特定のファンタジー帝国(無国籍)に住む人々だ。

 政府が関与するホームレスは,世蹐Α政府に財政的余力があれば、△両豺腓皀ウンセリングといったメンタル療法を提供できる。残念ながら政府は関与できない。し抻ヾ愀玄圓唯一監視しなければならないホームレス(この場合、無国籍)だ。数は少ないが危険なこともある。

 興味深い点は、いドイツで増えてきていることだ。ドイツといえば、欧州の経済大国であり、国民の生活水準も高い。国民は年2回、数週間の長期休暇を取って、世界を旅行する国民だ。ドイツに移住したくて中東や北アフリカから多数の難民・移民が殺到する時だ。そんなドイツの国籍を嫌い、「昔は良かった」として無国籍を選ぶ人々が年々増えているというのだ。「旧ドイツ帝国公民」運動( Reichsburgerbewegung)と呼ばれる人々だ。「旧ドイツ帝国公民」は、ドイツ連邦共和国や現行の「基本法」(「憲法」に相当)を認めない。政治家や国家公務員の権限を認知しない。彼らにとってドイツは過去にしか存在しない(「『ファンタシー帝国』に住む人々」2018年1月31日参考)。

 ところで、シリアで3年半余り拘束されていた日本人ジャーナリスト、安田純平さんがこの度無事解放されたというニュースが流れてきた。解放されたジャーナリストに対し、「自己責任」を追及する声と国の国民保護義務を強調する声が聞かれる。「ホームレス」と「国家」の関係に案外似ている。

 ホームレスとなったのは基本的には「自己責任」だが、だからといってホームレスを放置できないから、国は何らかの収容場所を準備せざる得ない。国が行くなといった危険地を訪問したジャーナリストは当然、一定の覚悟(自己責任)が必要だが、それでもいざとなれば「助けてください」と叫ばざるを得ない。主張と生き方に首尾一貫性がないジャーナリストとしても、国民となれば、国は助けに乗り出さざるを得なくなる。割が悪い立場だ。

 ホームレス(この場合)もジャーナリストも常にその主張と合致した生き方をしているわけではない。彼らに必要なことは、助けてもらった場合、「ありがとうございました」と感謝の言葉を発することだろう。

ハンガリーは欧州の自動車製造工場

 ハンガリーのオルバン首相は欧州連合(EU)では久しく“異端児”“問題児”扱いされてきた。ブリュッセルが主導する難民受け入れ政策を批判し、EUの盟主、ドイツのメルケル首相の難民歓迎政策に対し、「間違いだ」と直言してきたこともある。難民問題がEUの最大の議題になる前もメディア政策、司法改革などでオルバン首相の政治姿勢はブリュッセルから「民族主義的」として批判されてきた経緯がある。

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▲マジャールスズキ社のエステルゴム工場(ウィキぺディアから)

 そのオルバン首相の名誉回復は案外早かった。同首相が主張してきた厳格な難民政策がここにきてEU諸国で受け入れられ、難民が殺到するドイツですら、「オルバンに倣え」という言葉が聞かれるほどまでになった。オルバン首相の難民政策が欧州の主流となってきたわけだ。

 オルバン首相が率いる中道右派連合「フィデス・ハンガリー市民同盟」は今年4月8日に実施された国民議会選で第1党を堅持、オルバン首相は通算4期目の長期政権を発足させたばかりだ。ユダヤ系の世界的な米投資家、ジョージ・ソロス氏が1991年、冷戦終焉直後、ブタペストに創設した中央ヨーロッパ大学(CEU)の問題でも“世界のソロス”を相手に戦い、学校をハンガリーから追放してしまった。同首相は国内外で着実にその政治基盤を強化してきている。

 そのオルバン政権のハンガリーに世界の主要自動車メーカーが次々と進出している。以下、オーストリア日刊紙プレッセ(8月14日付)の「自動車産業はハンガリーの経済成長のモーター」を参考に、ハンガリーが今日、「欧州の自動車製造工場」となっている現状を紹介する。

 世界の自動車メーカーはハンガリーに目を向け、そこに巨額の投資を行ってきた。ハンガリーの魅力は、…稍其癲閉其眇綵爐論沼Δ量鵤格の1)、⊆舛旅發だ賁舅働力(生産性は高く、能率的)、脆弱な労働組合(労使間の紛争が回避)、ね∩ルートの完備(地理的にハンガリーは欧州全土と高速道路網で連結され、産業インフラは完備)、ゥ魯鵐リー政府からの補助金と税優遇―の5点だ。自動車関連の輸出はハンガリーの総輸出の3分の1にもなるという。

 ドイツの自動車メーカー、BMWは最近、ハンガリー東部デブレツェン市で10億ユーロを投資し工場を建設することを明らかにしたばかりだ。ドイツ・メーカーとしては既にオペルがセントゴットハールド市で、フォルクスワーゲングループに属するアウディは1993年、北西部のジェール市で自動車用モーターの製造を始め、メルセデス・ベンツは2012年に同国中部ケチケメート市で自動車製造の操業を始めている。日本の自動車メーカーとしてはスズキ(正式・マジャールスズキ)が1992年に北部エステルゴムに工場(従業員5700人)を建設し、小型車スプラッシュなどを製造している、といった具合だ。

 プレッセ紙によると、BMWが進出する地域は失業率が相対的に高いので、労働力の確保には問題ないという。自動車メーカーの進出は地域復興にもつながるから、地元から歓迎される。多くの労働者は「ドイツ自動車メーカーで働くことは名誉だ」という。BMWが工場を建設するデブレツェン市には空港があり、交通の便もいい。工場が操業を始めれば、年間15万台の自動車が製造される予定という。

 同紙の指摘によれば、ハンガリーの国民経済が欧米の自動車産業に依存度を深め過ぎることに一抹の懸念の声も聞かれるという。例えば、トランプ米大統領が欧州の自動車に追加関税をかければ、ドイツの自動車メーカーは大きなダメージを受ける。そうなれば、モーターや部品を製造するハンガリー工場にも影響が出てくることは必至だ。

 そのような不安を吹っ飛ばすほど、オルバン首相には目下“勢い”がある。その運勢に乗ってハンガリーは“欧州の自動車工場”として売り出してきたのだ。

オルバン主義は危険なウイルス?

  欧州の政界で目下、最も多く囁かれている言葉は“オルバン主義”、“オルバン化”だ。何の意味かといえば、ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相(54)が推進する反難民、反・欧州連合(EU)が欧州全土に席巻してきたことを指摘する表現だ。「オルバン主義は感染しやすい危険なウイルスだ」と指摘する声さえ聞かれるのだ。

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▲欧州の政界に旋風をもたらすハンガリーのオルバン首相(「フィデス」の公式サイトから)

 オルバン首相には政治的実績がある。今月8日に実施されたハンガリー総選挙(一院制、定数199)でオルバン首相が率いる与党中道右派連合「フィデス・ハンガリー市民同盟」が得票率48.8%を獲得し、憲法改正が可能な国民議会の3分の2を上回る134議席を獲得した。
 オルバン首相は2010、14年に続いて3期連続、通算4期目の政権を担う。東欧諸国で3期連続政権を担当した政党は「フィデス」以外にない。オルバン首相は選挙戦で新しい魔法の言葉を使ったわけではない。唯一、反難民政策を訴えただけだ。「イスラム系難民の殺到は欧州のキリスト教文化、社会にとって危険だ」といった内容だ。

 オルバン首相が率いるフィデスの圧勝が報じられると、EU加盟国では大歓迎する声と懸念する声が聞かれた。欧州議会の最大会派「欧州国民党」(EPP)を分裂させ、西欧と旧東欧諸国の間に取り返しのつかない亀裂をもたらすオルバン首相の危険性が現実化してきたのだ。

 オルバン首相の総選挙での圧勝を最も喜んだのは旧東欧諸国のヴィシェグラード・グループ(ポーランド、ハンガリー、スロバキア、チェコの4カ国から構成された地域協力機構)だ。それらの国はハンガリーと共にブリュッセルが決定した難民分担の割り当てに強く反対してきた経緯がある。特に、ポーランドの中道右派「法と正義」(PiS)はオルバン政権の勝利を自党の勝利のように喜んだほどだ。

 オルバン首相の反難民政策は決して東欧諸国だけではなく、西欧諸国でもオルバン主義、オルバン化が見られる。オーストリアで昨年末、中道右派「国民党」と極右政党「自由党」連立政権が誕生したばかりだ。ドイツの新党「ドイツのための選択肢」(AfD)は昨年9月の連邦議会選で第3党に飛躍している。それらの政党はいずれも反難民政策を選挙戦で大きく掲げて飛躍した。オルバンに倣えだ。

 2015年、100万人を超える難民・移民がシリア、イラク、アフガニスタンから殺到した出来事は、欧州の国民に一種のトラウマとなっている。オルバン首相は欧州国民が感じている不安を巧みに煽って、選挙では有権者の支持を得てきた。そのヴィールスがハンガリー、東欧諸国を越えて、欧州全土に広がってきたわけだ(「国民は希望より不安に動かされる」2018年4月10日参考)。

 ドイツのアンゲラ・メルケル首相はオルバン首相の総選挙の勝利を複雑な思いで受け止めた一人だ。一方、メルケル首相の与党「キリスト教民主同盟」(CDU)の姉妹政党、バイエルン州政党「キリスト教社会同盟」(CSU)の前党首、ホルスト・ゼーホーファー内相はオルバン首相の勝利を大歓迎、「オルバン首相のハンガリーと関係強化を期待する」と祝電を送っているほどだ。オルバン主義は欧州の盟主ドイツの連合政権内にも不協和音を生み出しているわけだ。

 同じことがオーストリアでもいえる。与党国民党の党首セバスチャン・クルツ首相はオルバン首相に即祝電を送ったが、国民党出身の欧州議会のオトマール・カラス議員は「オルバン首相の勝利は欧州の分裂をさらに深める危険がある」と警告を発し、オルバン首相の「フィデス」がEPPに所属することに疑問を呈する。具体的には、オルバン首相の反難民、反EU政策は欧州の共通の価値観に反しているというわけだ。

 ちなみに、オルバン首相は反難民、反EU路線をとる一方、対外的にはロシアや中国に傾いてきている。オーストリア日刊紙プレッセは4月6日の社説の中で「ハンガリーとギリシャの2カ国は中国のロビイストとなり、欧州内の反中の意見を葬っている」と指摘している。ハンガリーは中国の習近平国家主席が推進している「一帯一路」に加盟した最初のEU国だ。

 独週刊誌シュピーゲル(4月12日付電子版)によると、欧州議会はこのほどハンガリーに関して「欧州の民主主義、法治国家、基本的価値が危機に瀕している。緊急に対応が望まれる」と助言した報告書をまとめている。

国民は希望より不安で動かされる

 ハンガリーで8日、国民議会(一院制、定数199、任期4年)の選挙の投開票が行われた。中央選挙管理委員会が9日午前5時、公表した結果(集計99・8%段階)によると、ヴィクトル・オルバン首相が率いる中道右派連合「フィデス・ハンガリー市民同盟」が得票率約48・5%を獲得し、第1党を維持した。これを受け、オルバン首相は2010年と14年に続き3期連続、続投することが濃厚となった。同首相は1998年にも政権を担当しているから、通算4期目の長期政権となる。

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▲「勝利宣言」をするオルバン首相(2018年4月8日、フィデスの公式サイトから)

 第2党は民族派政党「ヨッビク」が得票率19・5%、それを追って社会党(MSZP)が12・3%と続いた。投票率は前回2014年の61・2%を大きく超えて、約70%だった。

 フィデスと連立パートナー「キリスト教民主国民党」(KDNP)を加えると議会199議席中、憲法改正が可能となる3分の2の議席を超える134議席を獲得する見通しだ。2014年の時はフィデスは得票率約44%で133議席を得た。
 
 オルバン首相は同日夜、支持者の前に現れ、「母国を守るための可能性を得た」と勝利宣言した。

 オルバン首相は選挙戦では難民対策に絞り、「西欧社会は堕落した。難民・移民の殺到で欧州の伝統的なキリスト教社会に暗雲が漂い、危機に瀕しているが、欧州社会はそれに気が付いていない。欧州の都市では近い将来イスラム系住民が半数を占めていくだろう」と有権者(約800万人)に訴えた。
 同時に、ハンガリー出身の世界的投資家ジョージ・ソロス氏が1991年、故郷のブタペストに創設した中央ヨーロッパ大学(CEU)など外国資本で創設された非政府機関(NGO)、教育機関への監視強化を訴えるなど、選挙戦では一貫として“ハンガリー・ファースト”をアピールした。

 一方、野党は「オルバン首相はわが国の民主主義を破壊する」と主張、フィデス独裁を破るために腐心したが、野党内の路線の対立などがあって結束できず、オルバン首相の独走を今回も許してしまった。 
 なお、ヨッビクのヴォナ・ガーボル党首は8日夜、オルバン政権打倒という選挙前の目標が達成できなかったとして辞任を表明した。

 ハンガリーの国民経済は順調で今年も経済成長率4%が予想され、欧州連合(EU)加盟国の平均値を大きく上回り、失業率も4%と低下。オルバン首相は順調に成長する国民経済の追い風を受け、オルバン政権下の腐敗問題は大きな障害とはならなかった。
 ちなみに、フィデスの勝利に対し、ブリュッセルのEU本部では「今後も、オルバン政権と付き合っていかなければならないのか」といった悲観的な声が聞かれる。EUはフィデス政権下の司法改革、メディア改革を「民主主義の危機」として批判、難民割り当てを拒否するオルバン政権に対しては不満を表明してきた。

 オーストリア日刊紙プレッセ(4月7日付)の社説はハンガリーの総選挙の動向について「国民は希望より不安によって動かされるものだ」と述べていたが、選挙結果はそのことを図らずも実証した。

ハンガリー・ファーストの行方は

 ハンガリーで4月8日、国民議会選挙が実施される。複数の同国世論調査によると、オルバン首相が率いる中道右派政党「フィデス」が約50%の支持を獲得して断トツで、それを追って極右政党「ヨッビク」が約20%で続いている。第3次オルバン政権の発足は現時点ではほぼ確実だ。選挙戦ではオルバン首相は“ハンガリー・ファースト”政策を強調している。

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▲国民に向かって演説するハンガリーのオルバン首相(「フィデス」の公式サイトから)

 オルバン首相は18日、国民向けの演説で「西欧社会は堕落した」と強調し、「難民・移民の殺到で欧州の伝統的なキリスト教社会に暗雲が漂い、危機に瀕しているが、欧州社会はそれに気が付いていない。欧州の都市では近い将来イスラム系住民が半数を占めていくだろう」と警告を発した。

 国内の野党に対しては、「彼らは国境線で鉄条網を設置することを拒否し、欧州連合(EU)が強要する難民受け入れ政策を支持してきた。わが党はハンガリー社会へのイスラム系難民・移民の殺到を阻止するために鉄条網を設置し、イスラムの北上を止めてきた」と、過去の難民政策の実績を鼓舞する。オルバン首相は議会の3分の2の議席を堅持するために難民問題を駆使し、選挙戦を有利に展開させているわけだ。

 欧州で2015年アラブ・中東諸国から100万人を超える難民が殺到した時、オルバン首相は一早く国境線の監視を強化し、鉄条網を設置。ハンガリーの国境警備隊が放水で難民を追っ払っている写真が世界に流れると、欧州各地からハンガリーの難民政策を批判する声が挙がった。
 しかし、ハンガリーの難民政策は大量の難民殺到で苦しむ独南部バイエルン州で歓迎され、隣国オーストリアでは当時外相だったクルツ首相が受け入れ、対バルカン国境線を閉鎖するなど強硬政策を実施して、成果を上げていった。

 難民歓迎政策を主張してきたドイツのメルケル首相ですら、難民受け入れ最上限設置こそ拒否しているが、国境管理の強化に乗り出している。難民政策では、欧州は程度の差こそあれ“オルバン化”してきたといわれるほどだ。

 その一方、ハンガリーを見る目は決して好意的ではない。EUの難民受け入れ分担枠を拒否し続けるからだけではない。オルバン政権が「言論の自由」や「司法の独立性」を無視する改革案を実施し、ここにきて非政府機関(NGO)の監視強化を目指す改正法を議会に提出するなど強権的な統治スタイルに対し、EUは大きな懸念を有しているからだ。外交政策では、オルバン政権はEUから距離を置く一方、ウクライナのクリミア半島の併合で欧州の制裁下にあるロシアに歩み寄りを示してきている。EUのブリュッセルからハンガリーは異端児扱いを受けていることは事実だ。

 最近では、ハンガリーのブタペスト出身のユダヤ系の世界的な米投資家、ジョージ・ソロス氏が1991年、冷戦終焉直後、故郷のブタペストに創設した大学、中央ヨーロッパ大学(CEU)について、オルバン政権は厳しく対応し、閉鎖を要求している。国民議会で昨年4月採決された改正案によれば、外国人が開校した学校はハンガリー国内の学校と共に自身の居住国にも同様の学校を開校していなければならないからだ。
 オルバン首相は欧州に殺到する難民・移民の背後にそれを支援するソロス氏の関与があると指摘し、全土に反ソロス・キャンペーンを展開している。

イスラエルとハンガリーの「相性」

 人間同士、夫婦同士にも相性の良し悪しがある。国との関係でも相性の良し悪しはあるだろうか。同盟国、友邦国、血で繋がった同盟(血盟)といった表現があるから、国同士の関係にも相性があるはずだ。

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▲ハンガリーを訪問するイスラエルのネタニヤフ首相(ウィキぺディアから)

 イスラエルのネタニヤフ首相が18日、ハンガリーの首都ブタペストを訪問し、オルバン首相と首脳会談をする。それを聞いて、「イスラエルの首相がハンガリーを訪問するとはね」という思いが湧いてきた。中東のイスラエルと“欧州連合(EU)の異端児”といわれるハンガリーの組み合わせがピンとこないからだ。

 ネタニヤフ首相は16日、パリを訪問し、今売り出し中のエマニュエル・マクロン新大統領と会談したばかりだ。マクロン大統領はネタニヤフ首相にイスラエルとパレスチナ2国家共存論に基づく和平案の受け入れを求めたという。それに対し、ネタニヤフ首相は余り深入りせずに返答をぼかしたという。

 話はイスラエル首相のブタペスト訪問だ。イスラエル首相がブタペストを訪問する以上、両国の共通点があるはずだ。欧州諸国はガザ地区問題や入植地拡大政策でイスラエルに対し批判的で、その自制を促しているが、ハンガリーのオルバン政権は批判していない。難民受け入れ問題ではオルバン首相はイスラム教難民・移民の受け入れを拒否するなど、その政策はイスラエルに評価されている。

 それでは、両国の対立点はどうか。ある。「反ユダヤ主義」だ。ハンガリー国内には反ユダヤ主義傾向が常に強い。歴史を振り返ると、ナチス・ドイツ時代、ヒトラー政権のユダヤ人虐殺を最も手助けした国は欧州ではハンガリーだった。何十万人ものユダヤ人がハンガリーからドイツの強制収容所に送られ、そこで犠牲となっている。

 スウェーデン人外交官ラウル・ワレンバーク(1912〜47年)をご存じだろう。同外交官は駐在先のハンガリーで約10万人のユダヤ人たちにスウェーデンの保護証書を発行して救ったユダヤ人の英雄だ(同外交官はナチス軍の敗北後、ハンガリーに侵入してきたソ連軍によって拉致され、ソ連の刑務所で射殺された)。ナチス・ドイツにとって、ハンガリーは当時、重要なパートナーだったわけだ。

 最近では、ハンガリーのブタペスト出身のユダヤ系の世界的な米投資家、ジョージ・ソロス氏が1991年、冷戦終焉直後、故郷のブタペストに創設した大学、中央ヨーロッパ大学(CEU)について、オルバン政権は厳しく対応し、その閉鎖すら要求する勢いだ。すなわち、ハンガリーには反ユダヤ主義がくすぶり続けているわけだ。世界ユダヤ協会(WJC)の第14回総会がブタペストで開催された時(2013年5月5日)、ハンガリーの反ユダヤ主義に批判の声が出たことがあった(「WJCの批判とハンガリーの反論」2013年5月6日参考)。

 それでは、なぜネタニヤフ首相は反ユダヤ主義が強いハンガリーをわざわざ訪問するのだろうか。オーストリア日刊紙プレッセ(13日付)によると、「オルバン首相自身は国内の反ユダヤ主義の対策に努力していること、ソロス氏の大学の件でもイスラエル側は入植地問題やパレスチナ問題でイスラエル政府に批判的なソロス氏を好ましく考えていないこと」などを指摘し、ハンガリーの反ユダヤ主義はナタニエフ首相のブタペスト訪問の障害とはならないという。

 イスラエルはパレスチナ問題では国際社会から批判を受けることが多い。それだけに、イスラエルの入植地政策に理解を示すEU加盟国ハンガリーは大切な国だ。一方、EUのブリュッセルから異端児と酷評されるハンガリーとしては、中東のイスラエルからゲストを迎えることはハンガリー外交の威信を高めるものだ。両国の利害は案外近い。その上、ネタニヤフ首相とオルバン首相の相性もけっしてかけ離れてはいないだろう。

米投資家ソロス氏対オルバン首相

 ハンガリーの首都ブタペストで4日夜、数千人の市民が著名な米国のエリート大学、中央ヨーロッパ大学(CEU)の前に集まり、オルバン政権が同日、国民議会で高等学校法の改正案を賛成多数(賛成123票、反対38票)で採決したことに抗議した。
 同集会は独立学生団体「講義の自由」が主催した。彼らは「オルバン政権は大学の自治権を侵害している」、「教育の自由への挑戦だ」と批判し、アーデル・ヤーノシュ大統領に拒否権を行使して法案に署名しないように要求している。

 国民議会で採決された改正案によれば、外国人が開校した学校はハンガリー国内の学校と共に出身国にも同様の学校を開校していなければならなくなる。その条件を満たさない外国大学は来年1月1日から新学生を受け入れることはできなくなる。

 CEUは、ハンガリーのブタペスト出身のユダヤ系の世界的な米投資家、ジョージ・ソロス氏が1991年、冷戦終焉直後、故郷のブタペストに創設した大学だ。同法案はソロス氏が創設したCEUの終焉を意味する。なぜならば、CEUはブタペストにあるが、米国には存在しないからだ。CEUは目下、約100カ国から1400人以上の学生が登録している。

 ハンガリーの野党系メディアは「オルバン首相はCEU問題で米国政府と交渉する用意があると表明するなど、CEU問題で調停役を演じる気だが、CEU問題の米国での管轄先は連邦政府ではなくソロス氏のオープン・ソサエティ財団(Open Society Foundation ) 本部があるニューヨーク州だ」と指摘し、オルバン政権の強権政治を糾弾している。

 ソロス氏自身は、「オルバン政権の政策は欧州連合(EU)の価値観に反する」と批判。「CEUを救え」ということで署名集めも行われ、3万人以上の署名が3日、ハンガリー議会議長宛てに送付されたばかりだ。

 なお、CEUは4日、公式サイトで議会の法案採決を批判する声明を発表している。

 Central EUropean University (CEU) condemns the Hungarian Parliament’s passage of amendments to the Hungarian national law on higher education today. The new law puts at risk the academic freedom not only of CEU but of other Hungarian research and academic institutions

 オルバン政権の政策について、ドイツのフランク= ヴァルター・シュタインマイアー大統領、米国務省、駐ハンガリー米大使館などから激しい抗議の声が挙がっている。
 隣国オーストリアは「オルバン政権がCEUを追放したいのなら、CEUはウィーンで開校すればいい」(ウィ―ン市のMaria Vassilakou副市長 )とCEUの移転先の候補に手を挙げている。また、オーストリア大学会議(UNIKO)もブタペスト議会の決定に抗議を表明するなど、批判の声は欧州全土に広がってきている(以上、オーストリア通信=APAから)。

 ちなみに、オルバン首相自身、その政治活動の初期、ソロス氏から経済支援を受けてきたことは周知の事実だ。その首相が今日、外国団体の財政支援を受ける非政府機関(NGO)の活動に厳しい監視の目を注ぎ、ソロス氏創設のCEUを閉鎖に追い込もうとしているわけだ。難民受け入れ問題でEU本部ブリュッセルと戦ってきたオルバン首相も世界的な投資家ソロス氏との戦いでは無傷でいられないだろう。

ハンガリーが歓迎する「真の難民」は

 ハンガリーのオルバン首相は北アフリカ・中東からの難民受け入れ問題では欧州連合(EU)の指導者の中でも最も厳格な政策を実施してきたことで有名だ。「西側の難民問題はドイツの問題だ」と強調し、メルケル独首相の難民ウエルカム政策を最初から厳しく批判してきた政治家だ。難民が殺到するドイツの入り口に位置するバイエルン州のゼーホーファー州知事は昨年10月、「ハンガリー動乱」60周年にオルバン首相を州議会に招くなど意気投合しているほどだ。

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▲ハンガリーのオルバン首相(ハンガリー政府公式サイトから)

 そのオルバン首相は10日、ブタペストの国民議会の慣例の演説の中で、「わが国は難民申請者を迎え入れる用意がある。ただし、西側の国民であり、リベラリズム、ポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)の犠牲者であり、母国で神なき社会を強いられている人々だ。彼らはわが国に亡命できる」というのだ。
 オルバン首相が歓迎する難民の定義は政治的、宗教的、民族的に母国で迫害されてきた人々という国連のジュネーブの難民定義とは重なる部分もあるが、かなり異なっている。

 先ず、西側の国民という点だ。決して北アフリカ・中東諸国のイスラム系国民を対象としていない。そして皮肉たっぷりに“西側のリベラリズムやポリコレの犠牲者”であることを条件に挙げている。
 右派政治家のオルバン首相は欧米社会のリベラリズムにこそ今日の諸問題の主因があるとみている。その上で、「神なき社会」に生きている敬虔なキリスト信者たちにハンガリーへの亡命の道を開くというのだ。

 オルバン首相は上記の条件を満たした難民を「真の難民」と呼んでいる。「母国で恐れを感じるドイツ、オランダ、フランス、イタリアの政治家、ジャーナリストたち、母国を追われるキリスト信者たちはわが国に故郷を見出すことができる」という。その一方、「リベラルなメディア、国際人権組織を批判する。彼らは世界を緊迫させ、数十万人の難民を欧州に引き渡す。それによって欧州の伝統的な民族国家を破壊している」というのだ。

 オルバン首相は9日、難民申請者を国境沿いの収容施設に拘留する強化策を発表したばかりだ。難民申請者の移動の自由を制限し、新たな難民の流入を防ぐ狙いがあるわけだ。国際人権擁護グループから批判の声が早速挙がっている。

 ちなみに、オルバン首相は「欧州の自由を守る」と主張する。それは具体的に何を意味するのか。欧州が築いてきた文化的、経済的な生活環境を、招いてもいない難民・移民に奪われないために守ることを意味するのだろうか。多分、オルバン首相の真意は欧州のキリスト教文化、社会をイスラム教徒の北上から守りたいというのが本音ではないか。とすれば、オルバン首相はイスラム北上に立ち向かう孤高なキリスト教騎士ということになるわけだ。


 いずれにしても、オルバン首相は欧州ではトランプ新米大統領の政治信条に最も近い指導者と受け取られている。
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