ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

パレスチナ

パレスチナは“安倍外交”に熱い期待

 パレスチナ解放通信(WAFA)から記事が届いた。それによると、パレスチナ自治政府のアッバス議長の国際関係担当顧問、ナビル・シャート(Nabil Shaath)氏は4日、ラジオ放送局「パレスチナの声」とのインタビューで、「河野太郎外相はパレスチナの国家認知のため(日本の)国会議員の署名を集めている」、「国会議員たちはパレスチナの認知を要求し、日本のパレスチナ事務所をパレスチナ外交代表部に引き上げることを期待している」と答えている。

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▲ウィーン国連で掲揚されたパレスチナ国旗(2015年10月12日、ウィーンの国連広場で撮影)

 同顧問は、「日本はパレスチナを政治的、経済的に支援を続けている。日本政府は、ガザ地区の水供給計画を支援し、米国のパレスチナ人道支援削減決定後、その穴を埋めるためパレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への拠出金を増額している」と新たに述べた。

 河野外相は昨年12月25日、中東5カ国を歴訪し、その最初の訪問国イスラエルのネタニヤフ首相とパレスチナ自治政府のアッバス議長と会談し、そこで「日本が、停滞する中東和平プロセスを推進するため米国・イスラエルとパレスチナ側の仲介役を演じる考えがある」と伝えている

 河野外相は自身の公式サイトの中でも、「日本政府は、トランプ米大統領の『エルサレム首都』発言で険悪な関係となった米国とパレスチナ関係の橋渡しに積極的に取り組む意向だ」と述べている。

 トランプ米大統領は昨年12月6日、ホワイトハウスで、イスラエルの首都をエルサレムと見なし、米大使館をテルアビブからエルサレムに移転すると発表した。同発表はイスラエル国内で歓迎の声がある一方、パレスチナや中東・アラブ諸国だけでなく、欧州諸国からも「中東和平へのこれまでの努力を無にするものだ」といった批判の声が挙がっている。その矢先、河野外相は昨年末、主要国家の最初の外相として現地入りしたわけだ。

 問題は、戦後から米国追従の外交路線を歩んできた日本が中東地域で果たして独自路線、新たな仲介外交ができるだろうかだ。

 そこでトランプ大統領の「エルサレム首都」発言後の動向をまとめてみる。

【米国の立場】
 トランプ大統領は今年に入り、早速ツイッターを通じて、「米国の巨額の経済支援は感謝されていない」として対パレスチナ支援の削減を表明。それに対し、アッバス議長は、「米国はもはや和平プロセスの仲介者の資格がない」と激怒した。米国は国連のパレスチナ難民救済事業機関に毎年約3億ドルを拠出。トランプ大統領は対パレスチナ支援を削除することで、パレスチナ側に圧力をかけてきた。

【日本の立場】
 日本政府は昨年12月18日、国連安保理の「エルサレムの地位変更」を無効とする決議案に対し、米国に事前通達した後、「無効」賛成に回った。日本の基本方針は、.ぅ好薀┘襪肇僖譽好船覆裡温餠β検↓▲┘襯汽譽爐涼楼面簑蠅蓮屬△までも当時国間で協議」して決定、J胴颪力楕晋鮠弔隆慷燭鷲垈跳隋△箸いΓ嚇世澄

 パレスチナに対しては、日本は。妝裡劭廝舛了抉膓眩額、▲僖譽好船覆侶从囘自立を促進させる「平和と繁栄の回廊」構想への支援強化の2本を柱としている。

 先述したWAFAの記事(2月4日)に戻る。同記事の見出しは「Japan in process of recognizing State of Palestine」とかなり衝撃的だ。ただし、日本政府が公式の場でパレスチナの国家承認を表明したことはない。あくまでも「2カ国共存」という和平枠組みでの国家承認の道だ。WAFAのニュースはパレスチナ人の日本への熱い期待が込められているわけだ。

 中東の原油に依存する日本としては、中東の和平実現は日本の国益に合致するものだ。イスラエル寄りを深める米国との関係を配慮しながら、パレスチナ人の権利を保護し、2カ国共存の実現に向けて仲介役を果たすという、かなり込み入った外交が求められる。トランプ氏と個人的親密関係を樹立してきた安倍晋三首相にとってその真価が問われることになる。

「大使館移転案は2国家案の終焉」

 世界に12億人以上の信者を有する世界最大のキリスト教派、ローマ・カトリック教会の総本山バチカン市国で14日、パレスチナ自治政府の大使館が正式にオープンした。自治政府のアッバス議長は、「バチカンで大使館が開いたということは、ローマ法王がパレスチナ人を愛し、平和を愛している証拠だ」と述べ、ローマ法王フランシスコに感謝の辞を表明している。両者は今回を入れて5回、会合している。

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▲踊りだしたパレスチナの人々(2012年11月29日、ウィーン国連内にて撮影)

 それに先立ち、アッバス議長はフランシスコ法王と約20分間、会談した。パレスチナのTV放送によると、パリで15日開催の中東和平会議の行方やテロ対策で意見の交換が行われたという。
 一方、バチカンの声明文によると、パレスチナとイスラエルの双方は多くの犠牲者が出る武力闘争を停止し、中東の恒常的な和平実現のため持続的な解決を模索すべきだという点で一致。そして国際社会に対しては、「中東の関係国間の信頼を拡大し、平和実現のために貢献すべきだ」とアピールしている。

 アッバス議長に随伴してローマ入りしたパレスチナ自治政府高官は両首脳会談前に、「次期米大統領トランプ氏の駐イスラエル米大使館をテルアビブからエルサレムに移転する案に対し、ローマ法王が明確な見解を表明することを期待している」と述べていることから、同議長はフランシスコ法王にイスラエルの米大使館の移転についてバチカンの支持を要請したものとみられる。

 実際、アッバス議長はイタリアのANSA通信に対し、「トランプ氏の米大使館のエルサレム移転案は中東の和平に貢献しない。2国家共存案の終焉を意味するだけだ。パレスチナは東エルサレムを首都とした独立国家を要求する」と述べている。

 バチカン放送によれば、フランシスコ法王とアッバス議長との会談では、エルサレムがアブラハムから派生したユダヤ教、イスラム教、キリスト教の3宗派にとって重要な聖地であることを確認している。

 バチカンは2016年1月、パレスチナを正式に国家と認知している。バチカンはパレスチナとイスラエルの2国家共存案を支持している。ちなみに、パレスチナを国家と認知している国は目下、130カ国以上になった。国連は2012年、オブザーバー国の立場を与えている。多くの欧米諸国はパレスチナの国家承認は、パレスチナとイスラエル間の和平合意後に、という立場を崩していない。

 なお、フランシスコ法王は2014年6月8日、ユダヤ教代表のイスラエルのシモン・ペレス大統領(昨年9月28日死去)、そしてイスラム教代表のアッバス議長を招き、バチカン内の庭園で中東和平実現のための祈祷会を開催している。「信仰の祖」アブラハムから派生したユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教の3宗派代表が和平の為に共に祈祷を捧げた、ということで大きく報道されたことはまだ記憶に新しい。

 フランシスコ法王は祈祷会の最後に、「憎悪と暴力の悪循環を突破するためには“兄弟”という言葉がある。顔を天に向け、われわれの共通の父親を見つけることができれば、われわれは兄弟だと分かるのではないか」と述べている。この法王の発言はイスラエルとパレスチナが今最も必要としている内容ではないだろうか。

遺跡保存かショッピングモールか

 パレスチナのガザ地区で発見された初期キリスト教会のビザンチン教会跡にショッピングセンターが建設中だ。バチカン放送独語電子版がカトリック系通信社フィデス(Fides)の報道として伝えた。ショッピングセンターの建設中に、少なくとも1500年前の同教会跡が発見されたが、建設続行のためにブルドーザーで破壊されたという。

 そのニュースが伝わると、パレスチナのキリスト信者たちから怒りの声が出ているという。ヨルダン川西岸地区のアングリカン(聖公会)系教会のイブラヒム・ナイロウツ神父はパレスチナ自治政府宛てに抗議の書簡を送っている。
 一方、イスラエルのメディアは「ショッピングセンターが建設中の敷地にイスラム寺院やシナゴーグや古代の遺跡などが見つかっていたとすれば、今回と同じようなことが行われただろうか」と問いかけている。その論調には、ガザ地区の少数宗派キリスト教会関連の敷地跡だったから破壊された、といった批判が含まれていることは明らかだ。

 歴史的遺跡や建物を破壊するといえば、われわれは直ぐにイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」の蛮行を想起する。ISは昨年8月21日、シリアで西暦4世紀ごろ建立された修道院マール・エリアン( Mar Elian )をブルドーザーで破壊した。シリアの砂漠に立つ修道院はこれまで多くの紛争や戦闘を目撃してきたが、生き伸びてきた。しかし、ISは修道院破壊の理由を、「同修道院には3世紀のキリスト教の殉教者聖人エリアンが祭られている。これは神の神性を蹂躙するものだ」と説明している。要するに、「偶像崇拝」というのだ。

 ISはイラク内の占領地でも世界的遺産を次々と破壊している。ISは昨年2月、イラク北部のモスル博物館に収蔵されていた彫像を粉々に破壊し、古代ローマの主要都市ハトラでも破壊を繰り返した。同年4月には、イラク北部にある古代アッシリアのニムルド遺跡を爆発した、といった具合だ。
 
 もちろん、ISの蛮行とガザ地区の教会跡にショッピングセンターを建設することを同列に扱うことはできない。ISは破壊魔であり、何も建設しない。ガザ地区の場合、ショッピングセンター建設中に教会遺跡が発見された結果だ。想定外だった。

 人類の歴史を記した遺跡を保管することは現代に生きている人間の責任だ。だから、歴史的遺跡を可能な限り保管すべきだが、昔の遺跡や建物を破壊し、その敷地に新しい建物や施設を建設することが全て良くないとはいえない。現在、生きている人間の生活を改善するためにどうしても必要なケースが考えられるからだ。また、全ての歴史的遺跡を完全に保管することは物理的にも出来ない。だから、歴史家、遺跡専門家たちを交えて慎重に話しあわなければならないだろう。遺跡を移動させるとか、その一部を保管するといった処置も今日、可能だからだ。

 明確な点は、イスラエルとパレスチナ間で紛争が続いている時、少数宗派の遺跡破壊は紛争を煽る危険性があるということだ。ガザ地区の場合、ブルドーザーで教会跡を破壊する前に、ショッピングセンター建設側はその地域の少数宗派のキリスト信者たちと話し合いを持つべきだった。

バチカン、パレスチナ国の承認へ

 世界に約12億人の信者を抱えるローマ・カトリック教会の総本山があるバチカン市国はパレスチナの国家承認に踏み込むことを決定し、パレスチナ交渉団との最終文書(基本協定)の作成をこのほど完了した。
 バチカンとパレスチナ両国作業グループが13日明らかにしたところによると、「最終的な文書作成で満足いく進展があった。文書は調印を待つだけだ。正式の調印式は近いうちに行われるだろう」という。

 バチカン国務省外務局のアントワン・ カミレリ次官補はバチカン日刊紙オッセルバトーレ・ロマーノの14日付のインタビューの中で、「最終文書は、通常のバチカンの外交文書と同様だ。パレスチナ内のローマ・カトリック教会の地位、信仰の自由の保証などが記述されている。その他、パレスチナとイスラエルの2国家案の枠組みでの和平実現を支持する旨が明記されている」と説明している。

 バチカンは2013年末以来、非公式だがパレスチナを国家と呼んできたが、ここにきて正式に国家承認することになったわけだ。バチカンとパレスチナ解放戦線(PLO)は2000年、基本原則に関する協定を締結し、04年にはその内容を具体化するために委員会設置を決定した。そして、前法王べネディクト16世が2009年、ベツレヘムを訪問し、バチカンとパレスチナ間の関係促進で一致した経緯がある。

 バチカンのパレスチナ国家承認というニュースが流れると、イスラエル外務省は、「バチカンの決定に失望した」と表明。一方、パレスチナ自治政府側は、「平和と公平の実現に貢献する決定だ」と高く評価している。

 フランシスコ法王は昨年6月8日、中東和平の実現のために、「信仰の祖」アブラハムから派生したユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教の3宗派代表として、ユダヤ教代表のイスラエルのペレス大統領、そしてイスラム教代表のパレスチナ自治政府アッバス議長をバチカンに招き、祈祷会を行うなど、中東和平に努力している。


 バチカンからの情報によると、パレスチナ自治政府のアッバス議長は16日、ローマ入りしてフランシスコ法王を謁見するという。同議長は17日、サン・ピエトロ広場で挙行されるパレスチナ出身の2人の修道女の列聖式に参加する予定だ。

 なお、国連総会は12年11月29日、パレスチナを「オブザーバー組織」から「オブザーバー国家」に格上げする決議案を採択したが、パレスチナを国家承認している国は既に130カ国を超える。パレスチナは2011年10月末、パリに本部を置くユネスコ(国連教育科学文化機関)に加盟したが、今年4月1日には国際刑事裁判所(ICC)に正式に加盟するなど、国家承認国との関係を強化し、パレスチナの国際社会での地位向上に努力している。

パレスチナの子供たちは優秀だ

 当方は5年前、「国連開発計画(UNDP)の『人間開発報告書』によれば、パレスチナ人の教育水準が一般的に高く、難民キャンプなどに住む子供たちは非常に優秀だ」という内容のコラムを書いた。その内容は今日でも変わらない。

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▲踊りだしたパレスチナの人々(2012年11月29日、ウィーン国連内にて撮影)

 イラク出身の中東問題専門家アミール・ベアティ氏は、「パレスチナの子供たちも非常に優秀だ。アラブの大国エジプトより、就学率は高い。子供たちは幼い時から親から教えられなくても自分でものを考え、早い時期から政治意識にも芽生える。換言すれば、祖国が他国に占領されている場合、自然に『どうして占領されているのか』、『なぜ、母国が戻ってこないのか』等の疑問を抱く。ハマス(イスラム根本主義組織)がガザ地区でパレスチナ人の子供の教育に力を入れる。多くのパレスチン人は故郷を追われ、隣国ヨルダンや他のアラブ諸国に移住する。だから、パレスチナ民族は他国や他文化社会に適応する能力も有している。もちろん、親たちはどこに移住しても子供たちに教育の重要さを教え、高等教育への機会を何とか与えようと努力する」という。
 “世界のディアスボラ”と呼ばれてきたユダヤ人が子弟の教育に熱心であることは良く知られている。異国に住んでいる場合、財物は余り価値がない。いつ無くなったり、奪われたりするか分からないからだ。だから、彼らは生き延びていくために教育に投資する。ノーベル賞受賞者にユダヤ人が多いのは偶然ではないわけだ。

 今年5月、ヨルダンの首都アンマンの国際会議でパレスチナ人医師、現トロント大学准教授のイゼルディン・アブエライシュ氏とインタビューする機会があった。インタビュー内容はこのコラム欄でも紹介した(「憎しみは自らを亡ぼす病だ」2014年5月14日参考)。同氏は2人の娘さんをイスラエルの砲撃で失っているが、その娘さんは生前、将来は医者、もう一人は弁護士になりたいという願いを持っていたという。彼女たちは難民キャンプで両親と共に大きくなった。そして勉強をしろと強制したわけではないが、娘さんは学んでいった。自分から「父親のように医者になって人々を助けたい」と考え、もう一人は弁護士となってパレスチナ人の人権を守りたいと考えていたというのだ。

 その2人の娘さんを失った同氏は学業に励む中東女生たちを支援する奨学金基金「Daughters for life Foundatoin 」を創設し、多くの学生たちを応援してきた。同氏自身、パレスチナ人難民キャンプで成長し、エジプトのカイロ大学医学部を卒業後、ロンドン大学、ハーバード大学で産婦人科を習得。その後、パレスチナ人の医者として初めてイスラエルの病院で勤務した体験を有する。「学ぶ」ことの大切さを誰よりも知っているパレスチナ人だ。

 日本は長い平和な時代を過ごしてきた。日本人の就学率は現在、ほぼ100%といわれている。単一民族ということもあって相互の意思相通には余り苦労がないが、外国語学習では多民族国家の国民と比べると見劣りする面がある。それ以外の学問分野では日本人の優秀さは国際社会で久しく認められている。
 パレスチナ人と日本人は正反対の環境下にあるが、双方とも教育に熱心な民族だ。前者は厳しい環境で生きる知恵を学んでいく一方、平和で恵まれた環境下の日本人の子供たちの場合、学習の動機が国家、民族のためというより、個人的な願いが優先され、将来、国のために貢献したいといった考えは少なくなった。いずれにしても、パレスチナ人の子供たちが優秀であるというニュースは、パレスチナ人の未来を明るくさせるものだ。

 「世界難民の日」の20日、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は昨年の難民総数を公表した。それによると難民総数は約5120万人で、その内訳は、ジュネーブ難民協定に一致する難民数約1270万人、国内避難民3330万人、難民申請者約110万人だった。難民が最も多かった国はアフガニスタン、そしてシリア、ソマリア、スーダンと続く。そして難民のほぼ2人に1人が18歳以下の子供たちだ。そのニュースを読んだ時、先述した5年前のコラムを思い出した次第だ。難民の子供たちが厳しい環境下にも負けず多くのことを学んでいくならば、難民出身の世界的な指導者が近い将来、生まれてくるかもしれない。

忘れられる「パレスチナ人問題」

 イスラエルとパレスチナの交渉期限の今月末が差し迫ってきた。よほど楽天主義者でない限り、「問題の解決は可能だ」とは言えなくなった。

 いつものように、イスラエルとパレスチナの双方が「交渉が暗礁に乗り上げたのは相手側の責任だ」と弁明する用意をしている。

 パレスチナ側は「イスラエルが約束していたパレスチナ囚人の釈放を実行しなかったからだ」とし、15の国連・国際条約の加盟を申し込んだ。「パレスチナ人国家」へ更に一歩駒を進めた感じだ。
 それに対し、イスラエル側が「パレスチナ側は主権国家の道を一方的に進めている」と強く反発し、パレスチナ自治政府に代わって徴収している関税・税収入の譲渡停止などの経済制裁を施行したばかりだ。

 一方、イスラエルとパレスチナ間の平和交渉に全力を投資し、昨年7月以来、多くの時間を費やしてきたケリー国務長官は「米国がいつまでも時間を有していると考えるべきでない」と、交渉が進まないことにイライラしてきている。

 昨年再開した交渉はどうなったのか。イスラエルとパレスチナ両者は一応、2国家共存で一致しているが、国家建設で不可欠な国境線の設定の見通しはない。そればかりかエルサレムの地位問題、難民帰還問題、入植地問題、イスラエルの安全保障問題など主要改題は未解決のままだ。

 パレスチナ側は「イスラエル側は問題解決の意思がない」という。多分、これは正鵠を射ているだろう。イスラエルはパレスチナ国家の建設をさまざまな理由を付けて防ごうとしていることは周知の事実だ。イスラエル側は、パレスチナ側の統治能力のなさや内部の権力争いに助けられている面も否定できない。

 パレスチナ問題に解決の道が本当にないのか、といえばそうではない。イスラエル人とパレスチナ人が一つの国家の下で共存すればいいのだ。国境線を設定する必要もない。ただし、この共存案の致命的問題は、パレスチナ人が近い将来、国家の過半数を占め、イスラエル人が少数派に落ちてしまう危険性が出てくることだ。だから、イスラエル側はパレスチナ人と一つの国家の旗のもとで共存できないわけだ。選挙をすれば、人口の多いパレスチナ人が多くの行政区を合法的に掌握できるからだ。

 中東・北アフリカ諸国で“アラブの春”(民主化運動)が勃発して以来、汎アラブ主義は後退し、アラブ諸国でパレスチナ問題への関心も薄れてきた。

 一方、欧米諸国はウクライナ危機に直面し、大国ロシアと対抗するために内部の結束が急務となってきた。解決の見通しのないパレスチナ問題に時間を費やすことができなくなりつつある。パレスチナ問題で解決の筋道をつけ、ノーベル平和賞でも、と密かに考えていたケリー米国務長官もここにきて疲れが目立ち始めたのだ。
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