ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

イスラエル

「ビビ王」のイスラエル王国の行方

 イスラエル議会(クネセト)選挙の投開票が9日実施された。現地からの情報によれば、ネタニヤフ首相が率いる与党右派「リクード」とガンツ元軍参謀総長の中道政党連合「青と白」が熾烈なトップ争いを展開し、集計がほぼ終了した段階で両党とも定数120議席中、35議席を獲得した。安定政権を樹立するためには61議席が必要だが、リクードを中心とした右派政党の連立政権発足が有利とみられている。そのため、ネタニヤフ首相は10日未明、テルアビブのリクード集会で勝利宣言をしている。リクードは占領地ヨルダン川西岸の入植者らが結集している極右派の「統一右派」などとの連立を視野に入れている。

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▲ドキュメンタリーフィルム「キング・ビビ」のポスター

 ネタニヤフ首相は1996年から99年、そして2009年から現在まで10年間、通算13年間、政権を維持している。次期政権(任期4年)が発足できれば、文字通りイスラエル最長政権となる。

 ネタニヤフ首相主導の右派政権の継続が濃厚となったので、独週刊誌シュピーゲル(3月9日号)が掲載した同首相の人物像を報告する。タイトルは「国王の頭の中で」(Im Kopf des Koenigs)だ。シュピーゲル記者はネタニヤフ首相を「インターネット時代が生み出した最初の大衆迎合政治家」と呼び、首相は自身の歩みを英雄物語のように演出してきたという。

 イスラエルの映画監督ダン・シャドゥア(Dan Shadur)氏がネタニヤフ首相の歩みを「King Bibi」というタイトルでドキュメンタリー映画を製作した。映画は同国の民間放送で既に放映され、選挙戦中ということもあって大きな反響をもたらした。ネタニヤフ首相は汚職と腐敗の容疑を受け、検察当局から捜査の手が伸びてきているが、国民ばかりか政敵からも「Bibi」という愛称で呼ばれてきた。

 ネタニヤフ首相はイスラエル建国後に生まれて政権を担当した最初の首相だ。そのカリスマ性とポピュリズムは国民を惹きつけてきた。1950、60年代のイスラエルの政界では左翼が支配していたこともあって、急進的な思考の持ち主だった父親ベンシオンのネタニヤフ家は米国に移住し、そこで3人の息子を育てた。米国の大学で教鞭をとっていた父親は次男のベンヤミンを見るたびに、「息子Benのヘブライ語は英語のようには流ちょうでなく、アクセントがある」と不満を吐露していたという。それでも英語を流ちょうに話すネタニヤフ首相は世俗派のユダヤ人だけではなく、伝統的なオーソドックスのユダヤ人社会でも人気があった。兄のヨナタンはイスラエルのエリート部隊に所属し、1976年のエンテべ空港奇襲作戦に参加し、そこで戦死したことはベンヤミンのその後の生き方に大きな影響を与えたといわれている。


 ダン・シャドゥア監督によれば、ネタニヤフ首相は、祖国の未来を含め全ての出来事は自身のドラマの題材と受け取っているという。彼は左翼、テロリスト、ジャーナリストから常に狙われ、批判されている一方、「自分だけがイスラエルを砂漠から導くことができる唯一の指導者だ」という思いが強いという。フィルムの中で「あなたは孤独ではないか」と聞かれた時、ネタニヤフ首相は「20世紀の偉大な指導者の中で孤独でなかった者はいない」と答えている。ひょっとしたら、ネタニヤフ首相は自身を60万人のイスラエル民族をエジプトから神の福地カナンへと導いたモーセのように受け取っているのかもしれない。

 トランプ米大統領が就任して以来、オバマ政権時代に疎遠となっていた米・イスラエル関係は急速に接近してきた。トランプ氏はエルサレムを首都とし、テルアビブから米国大使館を移転する一方、イスラエルの懸念を受け入れ、13年間の外交交渉で締結されたイランの核合意から脱退を表明。それだけではない。イスラエル議会選挙中にネタニヤフ首相を支援する狙いもあって、イスラエルが1967年の第3次中東戦争で占領したゴラン高原のイスラエル主権を認知する宣言に署名したばかりだ。トランプ大統領から全面支援を受けるネタニヤフ首相が敗北した場合、イスラエルの行方に懸念が出てくるといった声すら有権者から聞かれたほどだ。

 ネタニヤフ首相(69)とトランプ大統領(72)は共に3度結婚している。前者はモスクワを訪問してプーチン大統領と会談し、トランプ氏はハノイで北朝鮮の指導者・金正恩氏と会談。帰国すれば、両者は国内のメディアから批判にさらされるなど、両者には酷似している世界が少なくない。

 エルサレムでネタニヤフ首相はトランプ大統領の家族を招いて交流しているが、「まるでネタニヤフ・トランプ両家の集い」(シュピーゲル誌)のような雰囲気があったという。両者は家族ぐるみの付き合いをしている。ちなみに、米国居住のリベラルなユダヤ人はネタニヤフ首相が大好きだが、首相がトランプ大統領と親密な関係であることには不満があるという。

 ネタニヤフ首相はマサチューセッツ工科大学(MIT)でメディアのコンピューター化に関するマスター論文を書いている。彼は早い時期からインターネットを政治に利用してきた。彼はその点でイスラエルの政界の中で最も先見の明があったといわれている。

 シャドゥア監督は、「ネタニヤフには敵が必要だ。明らかなことは彼が首相になって以来、イスラエルが戦争に巻き込まれる回数は他の政権時代より、少なくなったことだ。彼は実際の戦争を避けるために戦闘的なレトリックを駆使する。ネタニヤフ政権のこれまでの実績は、イスラエルを経済的に豊かにし、安全にしたことだ」と評価している。

 イスラエル史を振り返ると、サウル、ダビデ、ソロモンの3王の統一王国時代があった。イスラエルが栄えた時代だったが、その後、南北に分かれた王国は消滅し、民族は放浪の民となる。「キング・ビビ」と呼ばれるネタニヤフ首相は次期政権を発足し、さらに繁栄したイスラエルの国家建設を成し遂げるだろうか。それとも、ソロモン王後のイスラエルの歴史のように、苦難の道を行くだろうか。ビビ王(ネタニヤフ首相)の前にはパレスチナ民族との和平共存という未解決の課題が控えている。

「赤の商人」中国がイスラエルに接近

 「われわれは5000年の歴史を誇る。あなたがたイスラエルは3500年の歴史を持っている。それに比べると米国は200年余りの歴史しかない」

 中国のビジネスマンがイスラエルを訪問し、商談する時、必ずと言っていいほど上記のセリフを吐くという。自国を誇り、商売相手のイスラエルを称賛する一方、米国を軽蔑する時の常套セリフという。海外中国反体制派メディア「大紀元」(11月23日)が報じていた。

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▲中国の通貨紙幣「人民元」(深セン・香港の観光旅行生活情報局の公式サイトから)

 大紀元によると、中国はイスラエルにも進出し、その先端科学技術を修得しようと虎視眈々と狙っている。それを読んで「商売上手なユダヤ人が中国のビジネスマンの甘い言葉に騙されるわけがないだろう」と思ったが、中国の上海国際湾務がイスラル最大の港湾ハイファ湾の一部運営権を25年契約で締結したという。そして別の中国企業がイスラエル南部アシュドッドに新たな港の建設契約を計画しているという。

 中国の習近平国家主席が推進する「一帯一路」(One Belt, One Road)構想に積極的に参加するギリシャ政府が2016年4月、同国最大の湾岸都市ピレウスのコンテナ権益を中国の国営海運会社コスコ(中国遠洋運輸公司)に売却したように、イスラエル側も中国側が提供する巨額な商談に屈服したのだろうか。世界の金融界に君臨するユダヤ人商魂が中国企業の不透明な商談攻勢にやられたのだろうか。

 大紀元によると、世界の第2のシリコンバレーといわれるイスラエルに中国が接近し、イスラエル企業が保有している先端技術の企業機密を盗み取っているという。具体的には、医療用レーザー技術で知られるアルマレーザー社、医療技術ルメニス社、画像認識開発コルティカ社を含め、多くの技術企業の株式を取得している。中国側の対イスラエル投資総額は2016年は1615憶米ドルにもなるという。「中国のファーウェイ(華為)、レノボ(聯想)、シャオミ(小米)はイスラエルに研究開発センターを設置し、電子商取引大手アリババも大規模な投資を行っている」(大紀元)という。

 米経済誌フォーブス(電子版)は3月1日、「イスラエルのスタートアップへの中国企業の出資額は年々、上昇を遂げている」と報告し「アリババはイスラエルのデータ分析企業『SQream Technologies』に2000万ドルを出資した。また、中国のヘルスケア企業は1000万ドルの投資ファンドを組成し、イスラエルの医療関連企業への出資を行おうとしている」という。中国企業がイスラエル市場で活発な動きを見せているわけだ。

 米トランプ政権は中国の不公平な貿易取引、強制的な技術移転、知的財産盗用に対し対中経済制裁に乗り出して対抗中だ。そこで中国側は親米国のイスラエルに接近し、先端科学技術関連企業を買収し、その知的所有権を奪おうと画策しているわけだ。

 中国側の札束攻勢にイスラエル側が安易に屈服するとは思えない。2000年の亡命の歴史を経ながらも生き延びてきたユダヤ人の商魂は「赤の商人」の中国実業家にも負けない知恵と体験を持っているはずだ。

 もちろん、「商いの世界」では多くの資金を持っている側が基本的には有利だ。「赤の商人」の攻勢に対し、「ユダヤ商人」はどのように対応するだろうか、とても興味深い。

 米国ばかりか、ドイツなど欧州でも中国企業の買収や知的所有権の乱用に対し厳しい監視の目が注がれ出した。ドイツ政府は欧州連合(EU)域外の企業がドイツ企業に投資する場合、これまでは出資比率が25%に達した場合、政府が介入できる規制を実施してきたが、その出資比率を15%を超える場合に政府が介入できるように、規制を更に強化する方向で乗り出している。ズバリ、中国企業のドイツ企業買収を阻止する対策だ。イスラエル企業でも次第に中国マネーに警戒心が生まれてきている。いずれにしても、中国のイスラエル接近には目を離せられない。

新法「ユダヤ人国家宣言」の波紋

 イスラエル国会(クネセト)は19日、長時間の審議後、「わが国はユダヤ人国家であり、ユダヤ人に唯一の民族自決権がある」と宣言した「国民国家法」を賛成62、反対55の僅差で可決した。同国には一般の憲法はなく、基本法がその役割を果たしている。新法は基本法と見なされる。なお、新法に批判的なレウベン・リブリン大統領は、「新法は世界とイスラエルでユダヤ民族を傷つけることになる」と警告を発している。

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▲イスラエルの「国旗」(ウィキぺディアから)

 同法の採択が伝わると、予想されたことだが、世界各地から批判の声が挙がっている。 アラブ系のアフマド・ティビ議員は、「新法はイスラエルの民主主義の死を意味する」と主張、「新法によってイスラエルに2グループの国民ができる。権利を有するユダヤ人と単に迎えられているゲストの2通りの国民だ」と述べている。

 以下、新法に対する批判点をまとめる。

 .ぅ好薀┘襪錬隠坑苅固の建国時、「宗教、人種、性別に関わらず全ての国民が平等な社会的、政治的権利を有する」という内容の独立宣言を表明したが、今回の法案は明らかにその独立精神と一致しない。イスラエルはもはや「全ての国民の国家」ではなくなった。
 同国人口の約20%(約180万人)を占めるアラブ系のアラブ語は公用語から外され、「特別な地位」という曖昧な立場に降格させられた。アラブ系少数派から「人種差別、アパルトヘイト(人種隔離政策)だ」といった強い批判が出ている。
 E譽┘襯汽譽爐魎泙燹崚一エルサレム」をイスラエルの首都と認定し、イスラエルを「ユダヤ人の歴史的な国土」と明記している。
 ぁ屮罐瀬篆容植の拡大」について、奨励すべき価値ある国家プロジェクトとして支持を表明している。

 バチカン・ニュースは20日、イスラエルの新法「国民国家法」について「議論を呼んでいる」と述べ、イスラエル国内ばかりか世界でも賛否両論が出ていると報じた。

 また、海外の有力なユダヤ人協会、約17万5000人の会員を有する「米国ユダヤ人協会」(AJC)は新法を批判し、「建国精神からかけ離れ、行き過ぎた内容」と深い失望を表明し、「イスラエルは建国精神を思い出せ」とアピールしている。特に、アラブ語を公用語から外した決定に対し、「イスラエル周辺の政情を考えると、国民の5分の1を占めるアラブ系住民のアラブ語は非常に重要だ」と述べている。

 イスラエルで5月14日、建国70年の記念式典や行事が挙行されたばかりだ。エルサレムでは米国大使館がテルアビブからエルサレムに移転した式典が約800人のゲストを迎え行われた。同時期、イスラエルのパレスチナ自治区で米大使館のエルサレム移転に抗議するパレスチナ人や市民のデモが行われ、それを取り締まる治安部隊と衝突し、ガザ地区だけでも2014年の紛争以来最大の犠牲者数を出している(「イスラエルの70年は成功したか」2018年5月16日参考)。


 イスラエルを取り巻く政治情勢は安定からは程遠い。そのような状況下でクネセトが「ユダヤ人国家の宣言」を可決したわけだ。火に油を注ぐような冒険だ。イスラエル国内で新法に反対する国民のデモ集会が行われ、参加者は「われわれユダヤ人とアラブ人は敵対することを拒否する」と書かれたプラカードを掲げていたという(オーストリア日刊紙プレッセ)。

オスマン・トルコのアルメニア人大虐殺

 イスラエル国会(クネセト)で、オスマン・トルコ帝国軍による大量アルメニア人殺害を民族大虐殺(ジェノサイド)と認知する法案が提出され、審議される予定だ。イスラエルのメディア報道によると、中道左派政党「シオニスト連合」のイッズィク・シュムリ(Itzik Shmuli )議員がアルメニア人虐殺問題について、「明らかにトルコ側の民族虐殺だ。その責任はトルコ側にある」と表明し、「民族虐殺の日」を設定して毎年追悼する内容の法案を提出する意向を明らかにしている。バチカン放送電子版が19日、報じた。

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▲オスマン帝国軍の武装兵により追い立てられるアルメニア人(1915年4月、ウィキぺディアから)

 50万人から150万人と推定される犠牲者が出た「アルメニア人ジェノサイド」と呼ばれる大量殺害事件は、19世紀末から20世紀初頭にかけオスマン帝国の少数民族だったアルメニア人が強制移住させられ、殺害された事件を指す。

 トルコ側はアルメニア人の虐殺はあったが、その数は少なく、ジェノサイドではなかったという立場だ。だから、他の国がアルメニア人問題を提出すれば、激しく反論してきた経緯がある。トルコ側は事件の計画性、組織性についてはこれまで一貫して否定してきた。
 シュムリ議員の提案は政権与党リクードばかりか野党からも賛同の声が聞かれ、少なくとも50人の議員が支持を表明している。シュムリ議員はイスラエルのメディアに対し、「わが国を中傷、誹謗するトルコに対し配慮する必要はない」と強気だ。ユーリ・ヨエール・エーデルシュタイン国会議長は同議員の提案する法案がスムーズに可決されるように努力することを約束している。

 ところで、なぜイスラエルはここにきてオスマン・トルコ帝国軍のアルメニア人虐殺事件を持ち出し、トルコに歴史攻勢を仕掛けてきたのだろうか。少し説明しなければならないだろう。

 イスラエル政府は先日、同国駐在のトルコ大使の国外退去を要請したばかりだ。すなわち、イスラエルとトルコ両国関係は今、険悪な状態にあるのだ。
 トランプ米大統領は昨年12月6日、イスラエルの同国大使館をテルアビブからエルサレムに移転すると表明、今月14日、移転式典がエルサレムで挙行されたばかりだ。エルサレムを自身の「聖地」と宣言してきたパレスチナ人たちが米国大統領の決定に抵抗し、ヨルダン西岸地区やガザ地区で反イスラエル、反米抗議デモ集会を連日、開催。ガザ地区だけでも60人を超えるパレスチナ人が犠牲となり、数千人が負傷した。抗議デモは今も続けられている。

 それに対し、“イスラム教国の指導者”を任じるトルコのエルドアン大統領はイスラエルを「テロ国家」と断言し、米国とイスラエル両国に駐在する同国大使を帰国させる一方、トルコ駐在のイスラエル大使に退去を要請。その上で「イスラエル軍の大虐殺」を糾弾するためにイスラム協力機構(OIC)の緊急会議の招集を要求したばかりだ。エルドアン大統領の反イスラエル路線は、6月実施予定の大統領選、総選挙を見込んだ選挙運動の一環と受け取られている。

 トルコ側のイスラエル批判に対し、ネタニヤフ首相やイスラエル政治家はトルコの歴史の汚点といわれる「アルメニア人ジェノサイド」を歴史書から引き出し、歴史攻撃に出てきたわけだ。

 興味深い点は、イスラエル国会は3カ月前、中道政党「イェシュ・アティッド」のヤイール・ラピッド(Yair Lapid)元財務相 が同じアルメニア虐殺を認知する内容の法案を提出したが、却下している。ツィピ・ホトベリ外務副大臣は当時、「イスラエルはアルメニア人大虐殺問題には公式の立場を表明しない。なぜならば、複雑な外交上の問題が表面化する危険性があるからだ」と説明していた。
 イスラエルのルーベン・リブリン大統領は2015年4月26日、アルメニア大虐殺100年の追悼会をゲストを招いて開いたことがあった。同大統領は、「アルメニア人は近代史で最初の大虐殺の犠牲者だった」と述べたが、ジェノサイドという言葉は避けている。イスラエルはつい最近までトルコのアルメニア人虐殺問題については自制する姿勢を貫いてきたわけだ。

 それが劇変したのだ。いい悪いは別にして、歴史評価はその時々の政情の影響を受け、どのようにも見直しができるという典型的な例だろう。蛇足だが、政権や政情が変わっても韓国は日本に対し「正しい歴史認識」を要求し続けてきた。日韓の歴史問題は世界史的にみてかなり特殊ケースといえるかもしれない。

 ちなみに、ドイツ連邦議会(下院)は2016年6月2日、1915年のアルメニア人虐殺事件を「ジェノサイド」と認定する非難決議を賛成多数で採択したが、その時もトルコ側から激しい反論が飛び出したことはまだ記憶に新しい。

ああ、パレスチナ、パレスチナよ

 イスラエルは今月、建国70年を迎えたが、パレスチナ自治区のガザ地区に拠点を置くハマス(イスラム根本主義組織)は3月30日以来、70年前のイスラエル建国で追放されたパレスチナ人難民の帰還を要求する抗議デモを呼び掛けてきた。デモ集会を取り締まるイスラエル側との衝突でガザ地区だけでも既に60人以上が死去、数千人が負傷している。犠牲者数では2014年のガザ紛争以来の規模だ。

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▲ウィーン国連で掲揚されたパレスチナ国旗(2015年10月12日、ウィーンの国連広場で撮影)

 ガザ地区でイスラエルの治安部隊に追われるパレスチナ人の姿が放映される。その場面を見ていて不思議に感じたことがあった。怪我した幼児を抱えて父親らしい男性が逃げ惑っている場面が映し出された時だ。抗議デモ集会にどうして幼児がいるのか。治安部隊との衝突で怪我する危険性がある場所に幼児をわざわざ連れ出してデモに参加する親がいるだろうか、という疑問だ。

 オーストリア代表紙「プレッセ」の記事(5月16日付)を読んで分かった。危険な場所に幼児を連れだし、逃げ惑う場面をメディアに流すことが狙いだったからだ。親はハマスから報酬を受け取っているというのだ。

 ハマスはイスラム側の壁を突破するために若者たちを集め、壁に設置された監視カメラを壊すよう、けしかける。もちろん、ここでも報酬を払う。一方、壁に近づいてきたパレスチナ人に対し、イスラエル側は警告を発する共に、必要な場合、襲撃する。壁が壊され、パレスチナのテロリストがイスラエル領内に侵入するのを防ぐための「防衛手段だ」(イスラエル側の主張)というのだ。

 トルコのエルドアン大統領はイスラエルを「テロ国家」と断言し、米国とイスラエル両国に駐在する同国大使を帰国させる一方、トルコ駐在のイスラエル大使に退去を要請。その上で「イスラエル軍の大虐殺」を糾弾するためにイスラム協力機構(OIC)の緊急会議の招集を要求したばかりだ。
 エルドアン大統領自身は国内のクルド人を弾圧するためにトルコ軍を出動させ、多くのクルド人を殺害してきたが、同大統領はそんなことは都合よく忘れて、パレスチナ人の保護者のように振舞う。
 トルコで6月24日、大統領選と国会総選挙が前倒しで実施されるが、エルドアン大統領の最近の言動は全て選挙向けだ。パレスチナ人の権利を擁護し、OIC緊急会議を招集することで、イスラム教諸国の指導者としてのイメージ作りというわけだ。

 アラブ諸国は過去、パレスチナ側に被害が出るとイスラエルを激しく批判してきた。アラブ連盟の大使級会合が16日、エジプトのカイロで開催された。そこでは米国大使館のエルサレム移転への批判と共に、パレスチナへの支援継続で一致したが、加盟国の対イスラエル政策には明らかに温度差がある。

 サウジのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子は米国のトランプ政権から支援を受けるイスラエルへの批判を避け出してきた。イスラエルがシリアのイラン軍基地を攻撃した時には密かに歓迎するなど、スンニ派の盟主サウジの第一の敵はもはやイスラエルではなく、シーア大国イランだからだ。また、エジプトとハマスとの関係もここにきて冷えてきている。

 中東・北アフリカ諸国で“アラブの春”(民主化運動)が勃発して以来、汎アラブ主義は後退し、アラブ諸国ではパレスチナ問題への関心が薄れてきた。外交的にはパレスチナ人の権利を擁護するが、パレスチナ人のために国益を無視しても支援するアラブ諸国は少なくなってきた。全ては“自国ファースト”だ。

 イスラエルとパレスチナは2国家共存で一致していたが、国家建設で不可欠な国境線の設定の見通しはない。エルサレムの地位問題、難民帰還問題、入植地問題、イスラエルの安全保障問題など主要課題は未解決だ。トランプ大統領が今月14日にエルサレムに米国大使館を移転させたことで、「米国は中東問題の中立的調停役の立場から離れた」(アッバス議長)と受け取られている。

 世界最大の収容所と呼ばれるガザ地区に住むパレスチナ人は未来への希望はなく、自由に移動する権利すら奪われている。多くのアラブ諸国はパレスチナ問題をイスラエル批判の武器として利用するだけだ。パレスチナの中でもハマスと自治政府のアッバス議長らファタハとの間で権力争いが絶えない。ああ、パレスチナ、パレスチナよ!

イスラエルの70年は成功したか

 イスラエルで14日、建国70年の記念式典や行事が挙行された。エルサレムでは米国大使館がテルアビブからエルサレムに移転した式典が約800人のゲストを迎え行われた。同時期、イスラエルのパレスチナ自治区で米大使館のエルサレム移転に抗議するパレスチナ人や市民のデモが行われ、それを取り締まる治安部隊と衝突し、ガザ地区だけで少なくとも58人が死去、2700人を超える負傷者が出た。2014年のガザ紛争以来の最大の犠牲者数だ。

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▲エルサレムに米大使館を移転したトランプ米大統領に感謝するネタニヤフ首相(2018年5月14日、エルサレムで、米CNNの中継から)

 ところで、イスラエルの過去70年間はサクセス・ストーリーだったか。経済協力開発機構(OECD)の経済統計を見る限りでは、イスラエルの国民経済は急成長し、特に、IT部門など先端科学技術で先進国入りしている。
 例えば、イスラエル生まれのハイテク系のスタートアップ(Start-up )企業数は多く、国民1人当たりのベンチャー投資額は高く、「イスラエルはスタートアップ大国(Start-up Nation)」と呼ばれているというのだ。

 民族、宗派間の対立が激しい中東でイスラエルは軍事力で周辺国のそれを大きく凌いでいる。同国は公表していないが、200基を超える核兵器を既に保有している。人口は建国時と比較すると14倍に膨れ上がり、2017年5月現在、約868万人だ。

 世界から移民してきたユダヤ人のアイデンティティ問題など、社会、文化的問題は横たわっているが、イスラエルが過去70年間で達成してきた実績は経済分野ではサクセス・ストーリーといえるだろう。

 問題は、アラブ諸国に取り囲まれているイスラエルが依然、エジプトなど数カ国を除くと敵対する国が多いことだ。アラブ諸国との共存からは程遠い。

 独週刊誌シュピーゲル(電子版、14日付)は興味深い記事を配信していた。イスラエルの「建国の父」、初代の首相ダヴィド・ベン=グリオン(1886〜1973年)が1948年5月14日の独立宣言の中で「目指す国家像」について語っている部分だ。曰く「全ての国民は宗教、民族、性差の区別なく、社会的、政治的な平等が保証される」と述べているのだ。ベン=グリオンはパレスチナ人を含むアラブ諸国との共存を願っていたことが分かる。

 ベン=グリオンは生来の社会主義者であり、彼はイスラエルが地中海の農業立国となることを夢見ていた。実際は、70年後のイスラエルは農業立国ではなく、先端技術を誇る近代国家に成長している。
 シュピーゲル誌は「ベン=グリオンら37人(35人男性、2人女性)が当時、独立宣言に署名したが、彼らは70年後の現在のイスラエルを想像できなかっただろう」と述べている。

 ネタニヤフ首相は14日、エルサレムでの米大使館移転祝賀式典で、「米国が大使館をエルサレムに移転させたことに感謝する。エルサレムは3000年前以上からユダヤ民族に属していた」と強調し、エルサレムをイスラム教の聖地と主張するパレスチナ人と真っ向から対立する発言をしている。すなわち、ネタニヤフ首相はパレスチナ人と共存することよりも、イスラエルが管理する統一エルサレムが重要と考えているわけだ。建国の父ベン=グリオンが願っていた国家像とは異なっている。

 イスラエルでは2019年11月に総選挙が実施されるが、リクード主導の現連立政権(第4次ネタニヤフ政権)から労働党が政権を奪い返すことができるかが焦点だ。シュピーゲル誌は「左派政党の政権奪取のチャンスはある」と見ている。ラビン首相が1995年、暗殺されて以来、低迷してきた労働党が“若きオバマ”と呼ばれるアビ・ガベイ新党首(50)を迎え、飛躍が期待できるからだという。

 70年間の年月はイスラエルを変え、その国民をも変えていった。しかし、イスラエルを取り巻く周辺国家との関係は依然、緊迫している。パレスチナ人との和平交渉はこれまで以上に混沌としてきた。イスラエルが更に飛躍するためにはアラブ諸国との関係正常化が急務だ、という点で中東ウォッチャーの意見は一致している。

イスラエル建国と「アブラハム」

 イスラエルは14日、建国70年目を迎えた。世界のディアスポラ(離散)だったユダヤ人は1948年、パレスチナに結集し、イスラエル国の建国宣言をした。

 その後、追放されたパレスチナ民族の帰還問題が中東情勢を揺り動かす台風の目となってきたが、ここにきてユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教の世界3大唯一神教の発祥の地・中東は再び一触即発の状況に直面している。

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▲米国大使館のエルサレム移転を歓迎するネタニヤフ首相(2018年5月13日、イスラエル首相府公式サイトから)

 中東情勢を再び緊迫させた直接の契機は、.肇薀鵐彿涜臈領が昨年12月6日、イスラエルの米大使館をテルアビブからエルサレムに移転すると発表、イスラエルの首都をエルサレムとする意向を表明、▲肇薀鵐彗臈領は今月8日、ホワイトハウスで演説し、2015年7月に合意したイランとの核合意から離脱し、核合意で解除した対イラン制裁を再実施していく旨の大統領令に署名、イスラエル軍は今月10日、イラン軍が9日夜、イスラエル北部の占領地ゴラン高原(1967年併合)に向けてロケット弾やミサイル約20発を発射したこと受け、報復としてシリア内のイランの軍事拠点50カ所以上をミサイル攻撃したこと、などが挙げられる。

 イスラエル建国70年を前に、米大使館のエルサレム移転でイスラエルとパレスチナ間で再び、緊張が高まる一方、イスラエルとイラン両国関係には軍事衝突の危機が差し迫ってきた。ネタニヤフ首相は2月18日、ミュンヘンで開催された安全保障会議(NSC)で「わが国は必要ならばイランを攻撃することに何も躊躇しない」と強調している。

 シーア派の大国イランはシリアのアサド政権を軍事支援し、レバノンではヒズボラを支援、イエメンでは反体制派武装勢力「フーシ派」を支援し、スンニ派の盟主サウジアラビアを激怒させている。イスラエルの周辺で軍事活動を強めるイランの存在はイスラエルにとって最大の軍事的脅威であることは疑いない。

 ところで、両国の歴史を紐解くと、両国は常に対立してきたわけではない。イスラエルとイラン両国の関係は現代史に限定すれば犬猿の仲だが、ペルシャ時代まで遡ると、異なる。現在のイラン人は「地図上からイスラエルを抹殺する」(マフムード・アフマディネジャド前大統領)と強迫するが、同じ民族の王が約2550年前、ユダヤ人を捕虜から解放した。ペルシャ王がユダヤ民族を救済したのだ。

 ヤコブから始まったイスラエル民族はエジプトで約400年間の奴隷生活後、モーセに率いられ出エジプトし、その後カナンに入り、士師たちの時代を経て、サウル、ダビデ、ソロモンの3王時代を迎えたが、神の教えに従わなかったユダヤ民族は南北朝に分裂し、捕虜生活を余儀なくされる。北イスラエルはBC721年、アッシリア帝国の捕虜となり、南ユダ王国はバビロニアの王ネブカデネザルの捕虜となったが、バビロニアがペルシャとの戦いに敗北した結果、ペルシャ帝国下に入った。そしてペルシャ王朝のクロス王はBC538年、ユダヤ民族を解放し、エルサレムに帰還させたのだ。

 イスラエルのユダヤ教の発展は、ペルシャで奴隷の身にあったユダヤ人に対し、クロス王がユダヤ人の祖国帰還を許してから本格的に始まった。繰り返すが、クロス王が帰還を許さなかったならば、今日のユダヤ教は教理的にも発展することがなかった。

 次に、「エルサレム問題」を振り返ってみる。エルサレムは1947年の国連決議に基づき、東西に分割され、西エルサレムはイスラエルが、東エルサレムはヨルダンがそれぞれ管理することになっていた。しかし、イスラエルは6日戦争で勝利し、ヨルダンから西岸ヨルダン、東エルサレム、ガザ地区を、エジプトからシナイ半島、シリアからゴラン高原を奪った。ダヤン国防相(当時)は嘆きの壁の前で、「分断されたエルサレムが再び統合され、われわれの聖地が取り戻された。今後は決して失うことはない」と述べた。

 その後、国連安保理が東エルサレムのイスラエル併合を無効と宣言し、今日に至っている。なお、イスラエル国会は1980年、完全で統合されたエルサレムをイスラルの首都とすることを記述した通称「エルサレム法」を採決している。

 「エルサレム問題」は、政治的観点からだけではなく、その宗教的背景を考慮して3宗派の統合を図るべきだ。預言者洗礼ヨハネは、「自分たちの父にはアブラハムがあるなどと、心の中で思ってもみるな。お前たちに言っておく、神はこれらの石ころからでも、アブラハムの子を起こすことができるのだ」(「マタイによる福音書」第3章9節」と諭している。エルサレムを管理する者は神の前に謙虚でなければならない、という意味だ。その内容を現代に当てはめるとすれば、「イスラエルは自分たちの背後にトランプ米大統領がいるなどと奢ってはならない」ということだ。

 「イスラエルが失った国を再建する時、イエスが再臨する時期を迎える」という預言が久しく囁かれてきた。そのイスラエルが建国されて70年を迎えた。エルサレム問題、パレスチナ人帰還問題、そしてイスラエルとイラン両国関係、スンニ派盟主サウジとシーア大国イランの対立など、中東情勢は今、危機に瀕している。
 砂漠の地で派生したユダヤ教、キリスト教、イスラム教を信奉する国々は今こそ、信仰の祖「アブラハム」に立ち返り、共栄共存の道を模索すべき時だ。

建国70年迎えるイスラエルと「中東」

 独南部バイエルン州のミュンヘンで開催された安全保障会議(MSC)の最終日(18日)、イスラエルのネタニヤフ首相が演説し、イランを激しく批判した。それだけではない。イスラエル軍が今月10日、同国空域に侵入したイランの無人機を破壊したが、その破片を檀上で示し、会場にいるイランのザリフ外相に向かって、「これは君のものだよ。イスラエルを試みる馬鹿げたことはするなと暴君に伝えたまえ」と述べた。その後、壇上に立ったイランのザリフ外相は、「イスラエル空軍こそ連日、シリアを空爆している。シリア空域に侵入したイスラエル戦闘機が先日、撃墜された。イスラエル軍の無敵神話はこれで消滅したよ」とやり返した。

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▲イランの無人機の破片を示すイスラエルのネタニヤフ首相(2018年2月18日、独ミュンヘンの安全保障会議で、独連邦国防省公式サイトから)

 国際会議の場でイスラエル代表とイラン代表が激しくやり合うシーンは珍しいことではないが、両者の舌戦は通常レベルを越えていただけに、会場にいたドイツのウルズラ・ゲルトルート・フォン・デア・ライエン国防相ら欧米諸国の政治家たちは驚いた表情をしていたほどだ。

 イスラエルは、イランがシリアでロシアと連携してアサド政権を支援し、レバノンではヒスボラを軍事支援し、対イスラエル攻撃を後押し、イラクではアバーディー政権(シーア派)と連携していることに強い警戒心を持っている。
 その一方、イスラエルはここに来て、これまで関係が薄かったサウジアラビアに接近中だ。スンニ派の盟主サウジはシーア派の大国イランの中東での影響力拡大に神経質となっていることもあって、イスラエルとの関係強化には問題がないと受け取られている。

 一方、イランはシリア、イエメン、レバノン、イラクなどに軍事支援を行い、イスラエルの包囲網を作る一方、中東で戦略的拠点を構築し、政治的影響力の拡大を狙うロシアのプーチン大統領との連携を深めてきた。

 中東和平の調停役を演じてきた米国はトランプ政権が発足して以来、イスラエル寄りを鮮明にしてきた。 トランプ米大統領は昨年12月6日、イスラエルの米大使館をテルアビブからエルサレムに移転すると発表、イスラエルの首都をエルサレムとする意向を表明したが、中東アラブ・イスラム諸国から強い反発の声が挙がっている。トランプ大統領はイランとの核合意協定の破棄を示唆し、イランの弾道ミサイル開発に強い危機感を感じ出している。

 ちなみに、イランの核問題は2015年7月14日、国連安保常任理事国(米英仏露中)にドイツを加えた6カ国とイランとの間で続けられてきたイラン核協議が「包括的共同行動計画」(JCPOA)で合意し、2002年以来13年間に及ぶ核協議に一応の終止符を打った。

 ところで、イスラエルは今年5月14日、建国70年目を迎える。世界のディアスポラ(離散)だったユダヤ人が1948年、パレスチナでイスラエル国の独立宣言をした(イスラエルが失った国を再建する時、イエスが再臨する時期に入るという予言が聖書関係者で囁かれてきた)。

 世界の情勢は混沌とし、ユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教の世界3大唯一神教の発祥の地・中東は再び一触即発の状況となってきた。ネタニヤフ首相はミュンヘンのMSCで、「わが国は必要ならばイランを攻撃することに何も躊躇しない」と言明しているほどだ。

ああ、エルサレム、エルサレム

 トランプ米大統領は6日、ホワイトハウスで、イスラエルの首都をエルサレムと見なし、米大使館をテルアビブからエルサレムに移転すると発表した。大使館移転には数年かかる予定だという。トランプ氏は大統領選で米大使館のエルサレム移転を公約として言明したが、同発表はイスラエル国内で歓迎の声がある一方、パレスチナや中東・アラブ諸国だけでなく、欧州諸国からも「中東和平へのこれまでの努力を無にするものだ」といった批判の声が挙がっている。


400-300x266 イスラエルのナフタリ・ベネット教育相 は、「エルサレムは過去も現在も永遠にユダヤ民族の首都であり続ける」とトランプ大統領の発表を大歓迎し、「他国もアメリカに見習い、エルサレムをイスラエルの首都と認知すべきだ。それが最終的には中東に和平をもたらすだろう」と述べている。


 一方、パレスチナのハマス関係者は、「エルサレムのパレスチナ人、アラブ人、そしてイスラム教徒への恥じるべき攻撃だ」と批判している。トルコはイスラム協力機構(OIC)加盟国をイスタンブールに招き、緊急対策の協議を呼び掛け、ヨルダンとパレスチナ人はアラブ連盟の緊急会議の招集を求めているといった具合だ。



 バチカン放送によると、世界最大のキリスト教会、ローマ・カトリック教会のローマ法王フランシスコは6日、一般謁見の場で、「米大使館のエルサレム移転計画はよくない考えだ。宗派間の紛争を引き起こす危険性がある」と警告を発している。

 ところで、エルサレムはユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教の聖地と呼ばれている、すなわち、唯一神教の3宗派の聖地だということで、聖地を巡って宗派間のいがみ合いを回避する方向で努力が払われてきた経緯がある。それを米大統領が突然、エルサレムはイスラエルの首都と表明したことで、その歴史的妥協を土台から揺るがすことになったわけだ。オーストリアの代表紙プレッセは1面トップで「トランプ氏はエルサレムのタブーを破った」という見出しで大きく報じている。

 イエスが2000年前、エルサレムに現れた時、ユダヤ人は彼を受け入れなかったばかりか、十字架にかけて処刑した。その結果、ユダヤ民族は世界のディイアスポラ(追放・離散)となった。新約聖書「マタイによる福音書」第23章37節を思い出してみよう。ユダヤ民族が久しく願ってきた救い主メシア、イエスが到来したが、彼らはイエスを殺害したとはっきりと指摘している。

 イエスは「ああ、エルサレム、エルサレム、預言者たちを殺し、おまえにつかわされた人たちを石で打ち殺す者よ。ちょうど、めんどりが翼の下にそのひなを集めるように、わたしはおまえの子らを幾たび集めようとしたことであろう。それだのに、おまえたちは応じようとしなかった」と嘆いている。

 その後、ユダヤ教に代わりキリスト教が主要宗派としてイエスの福音を世界に宣教していった。しかし、時間の経過とともに、キリスト教会は300以上の分派に分かれ、キリスト教の再統一は“夢のまた夢”となった。ペテロの後継を名乗るローマ・カトリック教会も今日、聖職者の未成年者への性的虐待事件が多発し、その対応に四苦八苦だ。イスラム教でもスンニ派とシーア派の宗派間の対立が激化するとともに、過激派が台頭し、世界にテロを広げている有様だ。すなわち、信仰の祖アブラハムから派生し、エルサレムを聖地とする唯一神教の3宗派は今日、いずれもその使命を果たすことができず、その初期原始教会の霊的生命力を失っている。その3宗派が今日、エルサレムを自身の聖地として他宗派といがみ合っているわけだ。

 イスラエルは今年、1967年6月5日から10日の6日戦争(第3次中東戦争)勝利50周年を祝ったが、6日戦争前、エルサレムは1947年の国連決議に基づき、東西に分割され、西エルサレムはイスラエルが、東エルサレムはヨルダンがそれぞれ管理することになっていた。しかし、イスラエルは6日戦争で勝利し、ヨルダンから西岸ヨルダン、東エルサレム、ガザ地区を、エジプトからシナイ半島、シリアからゴラン高原を奪い、その領土は現在の3倍にも膨れ上がった。ダヤン国防相(当時)は嘆きの壁の前で、「分断されたエルサレムが再び統合され、われわれの聖地が取り戻された。今後は決して失うことはない」と述べている。

 その後、国連安保理が東エルサレムのイスラエル併合を無効と宣言し、今日に至っている。なお、イスラエル国会は1980年、完全で統合されたエルサレムをイスラルの首都とすることを記述した通称「エルサレム法」を採決している。

 エルサレム問題は、政治的観点からだけではなく、その宗教的背景を考慮して3宗派の統合を図る方向で解決すべきだだろう。預言者洗礼ヨハネは、「自分たちの父にはアブラハムがあるなどと、心の中で思ってもみるな。お前たちに言っておく、神はこれらの石ころからでも、アブラハムの子を起こすことができるのだ」(「マタイによる福音書」第3章9節」と諭している。
 エルサレムを管理できる者は神の前に謙虚にその御心をなす者のものだ、という意味になるわけだ。3宗派はもう1度、原点に返るべきだろう。トランプ米大統領のエルサレム発言はその契機を提供するためのショック療法と受け取るべきかもしれない。

ユダヤ教を発展させたペルシャ王

 イランとイラクの国境周辺で12日夜(現地時間)、大地震が発生し、国営イラン通信によれば、死者数が500人を超えるとの見方を伝えている。同地震に対し、イスラエルのネタニヤフ首相は14日、米国で開催されたユダヤ連盟の会合のビデオ挨拶で、「わが国は国際赤十字を通じてイランの被災者へ支援する用意がある」と述べた。その直後、テヘランからイスラエル側の支援申し出を拒否するというニュースが流れた。
 イスラエル側は支援申し出について、「イランの政権は容認できないが、イラン国民は別だ」と述べ、政権と国民を区別して見ていると説明した。

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▲ペルシャ王クロスの話が記述された旧約聖書の「エズラ記」

 イランがイスラエルからの支援を受け入れれば、両国の関係は少しは改善方向に向かう契機となったかもしれない。日本が中国で発生した大地震で支援を申し出、中国側がそれを受け入れたことを受け、中国と日本の、少なくとも国民レベルでの関係は改善したことがあった。

 イスラエルとイランは政治的、軍事的に敵対関係があることは周知の事実だ。イスラエルはイランのシリア支援やレバノンのヒズボラ支援を強く批判してきた。イランの核問題でも、核合意後も強い懸念をを表明している。一方、イラン側は、「イスラエルは核兵器を保有している」と指摘し、パレスチナ人への弾圧を批判してきた。イランのマフムード・アフマディネジャド前大統領は、「イスラエルを地上の地図から抹殺してしまえ」と暴言を発し国際社会の反感を買ったことがあるほどだ。

 しかし、イスラエルのユダヤ教の発展は、ペルシャで奴隷の身にあったユダヤ人に対し、ペルシャの当時のクロス王がユダヤ人の祖国帰還を許してから本格的に始まる。クロス王が帰還を許さなかったならば、今日のユダヤ教は教理的にも発展することがなかったといわれる。

 イスラエル史を少し振り返る。ヤコブから始まったイスラエル民族はエジプトで約400年間の奴隷生活後、モーセに率いられ出エジプトし、その後カナンに入り、士師たちの時代を経て、サウル、ダビデ、ソロモンの3王時代を迎えたが、神の教えに従わなかったユダヤ民族は南北朝に分裂し、捕虜生活を余儀なくされる。北イスラエルはBC721年、アッシリア帝国の捕虜となり、南ユダ王国はバビロニアの王ネブカデネザルの捕虜となったが、バビロニアがペルシャとの戦いに敗北した結果、ペルシャ帝国下に入った。そしてペルシャ王朝のクロス王はBC538年、ユダヤ民族を解放し、エルサレムに帰還させたのだ。

 ちなみに、なぜ、ペルシャ王は当時捕虜だったユダヤ人を解放したかについて、旧約聖書の「エズラ記」によると、「ユダヤの神はペルシャ王クロスの心を感動させ、ユダヤ人を解放させ、エルサレムに帰還させた」と説明している。

 イスラエルとイラン両国の関係は、現代史に限定すれば犬猿の仲だが、ペルシャ時代まで遡ると、異なってくるわけだ。現在のイラン人は、「地図上からイスラエルを抹殺する」と強迫するが、同じ民族の王が約2550年前、ユダヤ人を捕虜から解放して故郷に帰還させたのだ。繰り返すが、もし、ペルシャ王クロスがユダヤ民族を解放せず、捕虜として使っていたならば、現在のイスラエルは存在しなかったかもしれないのだ。

 その観点からみれば、イスラエル首相のイラン被災者への支援申し出はイランへの歴史的感謝の表現ともいえる。それだけに、テヘラン側が政治的な判断からイスラエルの支援を拒否したことは残念だ。

 少し飛躍するが、当方は宮沢賢治の詩「氷訣の朝」が好きだ。学校の教科書に掲載されていたこの詩を読んで、与えることより、時には相手の善意を受け入れることがより崇高な場合があることを学んだ。

 死に瀕していた妹トシは看病する兄に一杯の水を願う。「あめゆじゅ とてちて けんじゃ」(雨雪を取ってきて下さい)と看病する兄に頼む。トシは兄が自分のために何かしたいという思いがあるのを感じ、その願いを満たしてあげることがまだ生きている自分の最後の行為と分かったのだろう、兄に水を頼む。

 誇り高い民族ペルシャの末裔、イラン人は敵国イスラエルからの如何なる支援をも良しとしないのは理解できる。一方、イスラエルはイラン民族への借りを時が来たら返したいと考え続けてきたはずだ。与える側にも受け入れる側にもそれぞれ事情があるわけだ。

 国際政治は愛や善意で動かないが、それとまったくかけ離れた原理で機能しているわけでもない。やはり、被災した他国民への善意や愛は人の心ばかりか国家をも動かす力を持っている、と信じたい。イスラエルの歴史的負債を少しでも軽くすために、イラン側がエルサレムからの善意(支援)を受け入れるならば、両国関係は飛躍的に改善することは間違いないだろう。
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